1カ月限定で名品ずらり!書道博物館の特別企画展を取材しました

台東区立書道博物館

企画展「みんなが見たい優品展パート14中村不折コレクションから 休館前の1ヶ月限り!書道博物館の名品ずらり」

かつて正岡子規が居住した「子規庵」の隣に佇む書道博物館。洋画家であり書家でもあった中村不折(1866-1943)が蒐集した、中国や日本の書道史における貴重なコレクションが所蔵されています。

書道博物館は設備工事のため、2018年4月16日(月)~9月25日(火)までの約5カ月間、全館休館となります。この休館を前に特別企画として、2018年3月16日(金)~4月15日(日)の期間、所蔵する名品の数々が公開されています。本企画展を取材いたしましたので、ご紹介いたします。

祭祀に用いられた漢字、王からの褒美に用いられた漢字

甲骨文
小克鼎

本企画展では、現存最古の漢字資料となる「甲骨文(こうこつぶん)」が展示されています。殷時代(前13世紀頃)に、亀のおなかの甲羅や牛の肩の骨に刻まれた甲骨文。神の意志を占うために使用されました。甲骨文の時点で既に偏とつくりが見られます。

西周時代(前9世紀)に作られた「小克鼎(しょうこくてい)」は、王の近侍職に務める克という人物が任務を果たし、それを記念して造られた青銅器です。内側には功績に関する文が鋳込まれています。正面から眺めると、器が曲線を描いているにも関わらず、文が真っ直ぐに並んでいるように見えます。文字の長さを微妙に調節しているのです。当時の技術の高さを伺うことができます。

「篆書体」から「隷書体」へ。次第に書きやすい漢字に

神様に関わる場所で使われていた「篆書(てんしょ)」と呼ばれる漢字は、象形文字のような書体をしており、非常に書きづらい文字でした。漢の時代に入ると、曲線が減って書きやすくなった「隷書(れいしょ)」と呼ばれる書体へと推移していきました。

乙瑛碑
後漢・永興元年(153)
張遷碑
後漢・中平3年(186)

「張遷碑(ちょうせんひ)」は、中村不折が非常に好んだ作品でした。本作品を臨書し、その趣を学んでいます。実は、「新宿中村屋」の看板文字や清酒「真澄」のラベルには不折の書が使われています。それらの作品からは、「張遷碑」に似た風格を感じ取ることができます。

西嶽華山廟碑-長垣本-
後漢・延熹8年(165)

数多くのコレクションのうち、不折の自慢の一品は「西嶽華山廟碑-長垣本-(せいがくかざんびょうひ ちょうえんぼん)」でした。形の良さと力強さ、そして古意の味わいを持つ本作は、約1000年前に石碑から取られた拓本です。碑石はすでに失われ、拓本も4本しか現存していません。非常に価値の高い名品です。

砂漠が守った文書

荘子知北遊篇 第二十二
重要文化財
唐・8世紀頃

紙は非常に保存が難しい素材です。古いものほど肉筆は少なく、唐以前のものは絶無に近いと考えられていました。しかし1900年、中央アジアのタクラマカン砂漠から中国へ入る際の玄関口に位置する敦煌莫高窟(とんこうばっこうくつ)内で壁が崩れ、中から4~6万の肉筆文書が発見されました。湿度が一定で虫の少ない砂漠の気候が、文書を守ったのです。本企画展では、この地域で出土し重要文化財に指定された肉筆文書が展示されています。

書の神様、王羲之

蘭亭序-張金界奴本-
秋碧堂帖所収
王羲之 筆 東晋・永和9年(353)

書の神様と称される王羲之(おうぎし 303~361)。肉筆は現存していませんが、その趣は複製で伝えられています。本企画展では、中国の書の歴史上で最高傑作とされる「蘭亭序-張金界奴本-(らんていじょ ちょうきんかいどほん)」を始め、王羲之の書の複製が展示されています。

ユネスコ「世界の記憶」の日本の古代碑

昨年、群馬県の「上野三碑(こうずけさんぴ)」がユネスコ「世界の記憶」に登録されました。本企画展では三碑の拓本が公開されています。書を堪能するだけではなく、拓本技術に注目して「どの拓本が一番上手だろう?」という視点でご覧になっても面白いかもしれません。

ここまでご紹介した作品は全て「中村不折記念館」に展示されているものですが、本館にも貴重なコレクションが展示されています。

今回の取材では、書道博物館 研究員の中村 信宏(なかむら のぶひろ)さんに作品の解説をおこなっていただきました。同博物館の様々な場所には、くすっと笑ってしまう注意書きが貼られてあるのですが、それらは中村さんが書いたもの。訪れた際には、ぜひ探してみてください。

私たちの生活に欠かせない漢字。書道博物館では、その歴史を味わうことができます。皆様も足を運んで、書の魅力に触れてみてはいかがでしょうか。

中村 信宏さん。素敵な注意書きとツーショット
こちらは本館に置かれたもの。その心は…ぜひ本博物館で確かめてください。

開催概要

会期 2018年3月16日(金)~4月15日(日)
所在地 書道博物館 中村不折記念館
東京都台東区根岸2丁目10番4号
開館時間 午前9時30分~午後4時30分(入館は4時まで)
休館日 月曜日
ただし3月26日(月)、4月2日(月)はサクラ特別開館
入館料 一般500円(300円)
小、中、高校生250円(150円)
※( )内は、20人以上の団体料金
※障害者手帳をご提示の方及びその介護者は無料
※毎週土曜日は台東区在住・在学の小、中学生とその引率者の入館料が無料
※特定疾患医療受給者証提示者及びその介護者は無料
問合せ 03-3872-2645
URL https://www.culture.city.taito.lg.jp/eventdetails/show/00001c000000000000020000005400ab

 
その他のレポートを見る:https://www.culture.city.taito.lg.jp/ja/reports

特別展「人体 -神秘への挑戦-」内覧会レポート

国立科学博物館

国立科学博物館では、2018年3月13日(火)~6月17日(日)までの期間、特別展「人体 -神秘への挑戦-」が開催されます。3月12日に内覧会が開催されましたので、その様子をレポートいたします。

私たちの体は神秘に満ちています。私たちはなぜ生きることができ、動くことができるのか。人類はルネサンスの時代からこの謎に挑んできました。本展覧会では、レオナルド・ダ・ヴィンチを始めとする先人の功績を振り返りながら、人体の構造と機能を解説。さらに最新技術で明らかになった事実が紹介されます。

人類はどのように「人体」に挑んできたか

絵画のために解剖を行ったレオナルド・ダ・ヴィンチ

画家として名をなしたレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)は、「アンギアリの戦い」に登場する極限の戦士の姿をよりよく描き出すために、病院で承諾を得て人体解剖を行いました。いざ解剖を始めると、関節の機能や、心臓の動きを解剖学者以上に考察し、人体の構造を自らの方法で把握したといいます。

レオナルドは解剖で得た所見と、先人の文献から得た知識を合わせ、多数の紙片に記述。それらは後代になってまとめられ、「解剖手稿」と名付けられました。

レオナルド・ダ・ヴィンチが考えた脳の構造

レオナルド・ダ・ヴィンチ「解剖手稿」より頭部断面、脳と眼の結びつき部分 1490-92年頃
ウィンザー城王室コレクション所蔵
Royal Collection Trust/© Her Majesty Queen Elizabeth II 2018

頭の内部の中央に3つの丸い脳室が描かれています。当時は脳室こそが生命精気に満たされた脳機能の中枢と考えられていました。この図においてもそこに視神経が走行する様子が描かれています。また左側には頭の層構造の比喩としてタマネギが描かれています。

解剖学の普及に貢献した人体模型

蝋による人体模型、ワックスモデル

古来より彫刻の材料とされてきたワックス(蝋)。それを解剖学的に用いたワックスモデルは、17世紀末のボローニャの職人、ガエタノ・ジュリオ・ズンボ(1656-1701)によって作成が始まりました。しかし17世紀には死体を保存する方法が無かったため、継続的に観察を行うためには常時鮮度の良い死体を解剖する必要がありました。1体のワックスモデルを作成するにあたり、およそ200体以上の死体が用いられたといいます。

頭頸部のワックスモデル 19世紀
日本歯科大学 医の博物館所蔵

教材として生まれた人体模型、キンストレーキ

19世紀に入って解剖学教育が重視され、教育用の人体模型の需要が高まりました。それまで模型といえばワックスモデルでしたが、高価かつ脆いため教材としては不適切でした。そこで、フランスの解剖学者ルイ・トマ・ジェローム・オヅー(1797-1880)は張り子製の人体模型を考案。耐久性に富み、解体および組み立てが可能だったので、大いに流行しました。日本には江戸後期にオランダを経由して輸入されています。

「キンストレーキ」(男性)19世紀
金沢大学医学部記念館所蔵
「キンストレーキ」(女性)19世紀
福井市立郷土歴史博物館所蔵
(※3月13日(火)~5月17日(木)までの期間限定展示)

人を人たらしめるもの、脳

進みゆく脳の理解

網状説…脳の神経はつながっている?

イタリア人医師カミッロ・ゴルジ(1843-1926)は1873年、硝酸銀を用いたゴルジ染色法を開発し、脳の神経細胞を観察することに成功。この観察からゴルジは、脳の神経は連続的につながり網状の構造を呈しているとする「網状説」を主張しました。

「脳の神経線維模型」 スイス、ブシ社製 1893-1910年
ブールハーフェ博物館所蔵
©Rijksmuseum Boerhaave, Leiden V25313

ニューロン説…脳の神経はつながっておらず、何らかの情報伝達が行われる

スペインの医師であり神経解剖学者のサンチャゴ・ラモン・イ・カハール(1852-1934)は、光学顕微鏡を用いた詳細な観察から、「脳の神経は非連続的に配置され、隣接した細胞間で何らかの情報伝達が行われる」とするニューロン説を主張しました。

1906年、ゴルジとカハールはノーベル賞を同時に受賞したものの、その席での講演内容は両者相反するものでした。両名の死後、電子顕微鏡を用いてシナプス間隙が確認されたことで、ニューロン説に軍配が上がりました。

網状説とニューロン説の対比 サンチャゴ・ラモン・イ・カハール 1923年
カハール研究所所蔵
Cajal Institute, “Cajal Legacy”, Spanish National Research Council (CSIC), Spain.
※ゴルジの網状説(図中左)とニューロン説(右)の差を説明するためにカハールが描いた模式図

21世紀の人体研究

”脳が司令塔”という概念を覆す、新たな人体観

技術の進歩によって、体内で起こる現象が分子や原子のレベルで理解される現在。最新研究では、脳が全身の司令塔であるという既成概念が覆されつつあり、あらゆる臓器同士が脳を介さず直接情報をやりとりしながら助け合っていることが明らかになってきています。

本展覧会では4Kスーパーハイビジョンによる体内の映像が紹介されているほか、臓器たちの”メッセージ”が飛び交っている体内を色や音で表現した空間が用意されています。

腎臓の糸球体
©甲賀大輔・旭川医科大学/日立ハイテクノロジーズ/NHK
※画像はラットで撮影。白黒画像にイメージで色を付けています。
精巣の精細管
©甲賀大輔・旭川医科大学/NHK
※画像はラットで撮影。白黒画像にイメージで色を付けています。

最も身近であり、同時に壮大なテーマである「人体」。皆さまも本展覧会に足を運び、私たちの体が持つ神秘について思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。

開催概要

展覧会名 特別展「人体 ー神秘への挑戦ー」
会場 国立科学博物館
会期 2018年3月13日(火)~6月17日(日)
休館日 ※3月26日(月)、4月2日(月)、4月30日(月・振替休日)、6月11日(月)は開館
時間 午前9時~午後5時(金・土曜は午後8時まで)
※入場は各閉館時刻の30分前まで
夜間延長 ゴールデンウィーク中の夜間延長について
【午後8時まで】4月29日(日)、30日(月・振替休日)、 5月3日(木・祝)
【午後6時まで】5月1日(火)、2日(水)、6日(日)
料金 一般・大学生:1,600円
小・中・高校生:600円
URL http://jintai2018.jp

記事提供:ココシル上野
https://home.ueno.kokosil.net/
 
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