【会場レポ】「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」レイバーンにグラント、珍しい英国絵画も来日(東京都美術館で7月3日まで)

東京都美術館

ルネサンス期から19世紀後半にかけての西洋絵画史を彩る巨匠たちの作品を紹介する「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」が、東京都美術館で4月22日(金)から開催されています。会期は7月3日(日)まで。

開幕に先立って行われた報道内覧会に参加しましたので、会場の様子や展示作品についてレポートします。

スコットランド国立美術館が誇る美の至宝が一挙来日。

展示風景
展示風景
エル・グレコ《祝福するキリスト(「世界の救い主」)》1600年頃
デイヴィッド・ウィルキー《結婚式の日に身支度をする花嫁》1838年

スコットランドのエディンバラで1859年に開館したスコットランド国立美術館。ラファエロ、エル・グレコ、ルーベンス、ベラスケス、レンブラント、ブーシェ、コロー、ルノワールなど、西洋絵画史において重要な画家の作品を多くコレクションにもつ、世界屈指の美術館として知られています。

「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」では、そんな巨匠たち(THE GREATS)の作品を時代順に紹介。

さらに、同館のコレクションを特徴づけている、ゲインズバラ、レノルズ、ミレイといったイングランド出身の画家や、日本ではなかなか見ることのできないレイバーン、ラムジー、グラント、ウィルキーなどスコットランド出身の卓越した画家たちの魅力あふれる名品も多数出品しています。

約90点の油彩画・水彩画・素描を通じて、ルネサンス期から19世紀後半にかけての西洋絵画の流れのなかで、英国絵画の流行や変遷の歴史も知ることができる展覧会です。

プロローグ

会場入り口

本展は、「ルネサンス」「バロック」「グランド・ツアーの時代」「19世紀の開拓者たち」と時代ごとに分けられた4章と、プロローグ+エピローグという展示構成になっています。

まずプロローグでは、スコットランド国立美術館について紹介。

アーサー・エルウェル・モファット《スコットランド国立美術館の内部》1885年

作品を貸し出している美術館を写真やムービーで紹介する展覧会は数多いですが、本展のプロローグでは、同館のコレクションが現在も展示されている館内の様子や、その新古典主義様式の素晴らしい建築、美術館を取り巻くエディンバラの印象的な街並みを絵画で見ていけるのが面白いです。

ジェームズ・バレル・スミス《エディンバラ、プリンシズ・ストリート・ガーデンズとスコットランド国立美術館の眺め》1885年

「神殿かな?」と思ったらこれが美術館とは……。奥に見えるエディンバラ城とあわせてまるでファンタジーの世界のような非日常感に満ちた、精緻でロマンティックな水彩画。普段は「ふーん」で流してしまう美術館情報がばっちり記憶に焼き付きました。

チャプター1. ルネサンス

次に「チャプター1. ルネサンス」の展示エリアへ。フィレンツェ、ヴェネツィア、ローマを中心に花開いたルネサンス時代の、創造性に富んだ絵画や素描を展示しています。

アンドレア・デル・ヴェロッキオ(帰属)《幼児キリストを礼拝する聖母(「ラスキンの聖母」)》1470年頃

レオナルド・ダ・ヴィンチの師であるヴェロッキオは《幼児キリストを礼拝する聖母(「ラスキンの聖母」)》で廃墟の神殿を描いていますが、それはこの時代の聖母子像の背景としては異例のこと。「古代世界の再発見と分析」というルネサンスの特徴を宗教画のなかで示した重要な作例といえるそう。

パリス・ボルドーネ《化粧をするヴェネツィア女性たち》1550年頃

一方で、肌を見せる高級娼婦という官能的な主題を神話的、寓意的な暗喩によって上質なものにしたボルドーネの《化粧をするヴェネツィア女性たち》のように、それまでなかった世俗的な作品も描かれるようになったことを取り上げて、この時代の芸術家の活動機会の広がりや、依頼主の興味や嗜好の多様性を紹介しています。

ラファエロ・サンツィオ《「魚の聖母」のための習作》1512-14年頃
コレッジョ(アントニオ・アッレーグリ)(帰属)《美徳の寓意(未完)》1550-1560年頃

ラファエロやティツィアーノの美しい素描や、コレッジョによるとされる、ある意味で完成品より貴重な(?)見事に中心部だけ抜けた未完成作品《美徳の寓意(未完)》の展示も。画面右側にいる女性のCGのような立体感を見るにつけ、「ここで止めるなんてなんともったいない……」と惜しく思うと同時に、完成した「もしも」を想像させてくれる魅力的な作品です。12点と作品数は少ないながらも見ごたえがありました。

チャプター2. バロック

「チャプター2. バロック」では、ベラスケスやレンブラントといった、従来の世界観を覆そうとした17世紀ヨーロッパの革新的な画家たちの作品が並びます。

ディエゴ・ベラスケス《卵を料理する老婆》1618年

日常のささやかな題材を偉大な芸術の域にまで高め、かつてないリアリズム絵画を制作したスペインの画家・ベラスケスの初期の傑作《卵を料理する老婆》は本展で初来日。

少年と老婆の肌や衣服はもちろん、前景の食器や食材の質感が巧みに描き分けられ、ドラマティックな明暗描写によって庶民の平凡なモチーフが厳かな雰囲気をまとっています。これが18歳か19歳のときに描いた作品というから驚くばかり……。

レンブラント・ファン・レイン《ベッドの中の女性》1647年

聖書や神話の登場人物に深い人間性を与えて見る者の共感を誘った、17世紀オランダの最も偉大な芸術家・レンブラントの《ベッドの中の女性》という謎めいた作品も注目です。

主題を特定する要素は避けられていますが、旧約聖書に登場する、結婚初夜に新郎を7度悪魔に殺されたサラが新たな夫トビアと悪魔の戦いを見守る場面を描いたのではないかといわれているそう。顔に影を落として浮かべる、期待と不安、なにより切実さが伝わる複雑な表情に感情表現が巧みなレンブラントらしさを感じます。

アンソニー・ヴァン・ダイク《アンブロージョ・スピノーラ侯爵(1569-1630)の肖像》1627年

肖像画の分野で後の英国美術に大きな影響を与えたヴァン・ダイクの《アンブロージョ・スピノーラ侯爵(1569-1630)の肖像》なども印象的でしたが、この「バロック」エリアで特に興味深かったのはイタリアの画家・レーニの《モーセとファラオの冠》でした。

グイド・レーニ《モーセとファラオの冠》1640年頃

優美な人体、明快な輪郭、均衡ある構図が持ち味でアカデミズムでは「ラファエロに次ぐ画家」、ゲーテからは「神のごとき天才」とも評されたレーニの作品。妙な仕上がりというか、「いくらなんでも女性の肌が緑色すぎるのでは? 男性と比べて女性は全体的にぼやけているし……」と違和感が。きっと何か意図があるはずだと公式図録を開いてみました。

すると「晩年のレーニは、大ざっぱで一見未完成に見える技法で作品を制作していたが、本作は本当に未完成の可能性がある」といった内容のことが書いてあり、少しずっこけました。紛らわしさが研究家泣かせですね。レーニの伝記を書いた人物は「慌てて描いたようなぞんざいなテクニック」と辛らつに評していたそうで……。晩節を汚したタイプだったとは知りませんでした。ですが、これはこれで神秘的な雰囲気があってすてきです。

チャプター3. グランド・ツアーの時代

18世紀はパリやロンドン、ヴェネツィアなどの都市で、芸術的才能が爆発的に開花した時代。そして、英国のコレクターたちが美術品の購入や文化的教養を深める目的で、「グランド・ツアー」と呼ばれる大規模なヨーロッパ旅行をした時代でもありました。「チャプター3. グランド・ツアーの時代」では、この二つの視点から作品を紹介しています。

ジャン=アントワーヌ・ヴァトー《ツバメの巣泥棒》1712年頃
フランソワ・ブーシェ《田園の情景》 左から「愛すべきパストラル」1762年 / 「田舎風の贈物」1761年 / 「眠る女庭師」1762年

展示エリアに入ってすぐ、「雅宴画」というジャンルを確立し、幻想的な理想郷を想像した革新者・ヴァトーの魅力がつまった《ツバメの巣泥棒》や、彼の流れを受け継いだブーシェによる牧歌的でロマンティックな三つの大作などを展示。18世紀パリを象徴する華やかなロココの世界に引き込まれます。

一方、この頃の英国では肖像画の表現が発展していったため、本展でも英国の三大肖像画家と称されるラムジー、レノルズ、ゲインズバラが紹介されています。

アラン・ラムジー《貴婦人の肖像(旧称「フローラ・マクドナルドの肖像」)》1752年
ジョシュア・レノルズ《ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち》1780-81年

特に注目してほしいのは、ロイヤル・アカデミーの初代会長をつとめたイングランド出身のレノルズ。

代表作《ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち》は、通常の肖像画のように正面を向いていないため、一見肖像画とわかりづらい作品です。三人の女性が手仕事をしていますが、まるでサロンのように優雅。三人の女性が並ぶ構図は古典美術の「三美神」という伝統的な主題になぞらえているもので、そのおかげか時代を超越した美しさがあります。これは、「グランド・マナー(歴史画の様式)」を取り入れて肖像画の地位を高めようとしたレノルズを象徴する作品なのだとか。

トマス・ゲインズバラ《ノーマン・コートのセリーナ・シスルスウェイトの肖像》1778年頃

また、レノルズのライバルで、互いに尊敬しあう関係だったゲインズバラの《ノーマン・コートのセリーナ・シスルスウェイトの肖像》は、スカートのあたりの非常に大胆で素早い筆致をぜひ間近で鑑賞してください。少し雑な仕上がりにすら思えるのに、離れて見るとつややかな素材感が見事に表現されていて、まるで魔法のように感じられるはず。

ゲインズバラは肖像画で成功しましたが、実は風景画家になりたかったそう。風景に対する高い関心が画面に独特の空気感を生まれさせるのでしょうか。人物と風景を融合させる彼の作品はどこか叙情的です。

フランチェスコ・グアルディ《ヴェネツィア、サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂》1770年頃
フランチェスコ・グアルディ《ヴェネツィア、サン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂》1770年頃

イタリアは「グランド・ツアー」で英国のコレクターたちが熱心に訪れた場所であり、18世紀ヴェネツィアで最も有名な画家の一人だったグアルディによる、都市の景観を精密に描いた「景観図(ヴェドゥータ)」も大変人気だったとか。

現代のように楽しい旅の思い出を写真に残せないですから、みんなお土産で買っていったのだろうと思うと親近感がわきますね。それまでの正確に輪郭をとった地誌的な景観画と一線を画し、印象派を思わせる素早い筆致や、光と空気感を意識的に取り込んだ作風が魅力です。

ジョン・ロバート・カズンズ《カマルドリへの道》1783-1790年頃

イングランド出身の画家・カズンズがイタリア旅行のスケッチから制作した《カマルドリへの道》も、目立たないですが美しい作品でした。ナポリのポッツオーリ湾を描いた水彩画で、スケッチと完成品では景色が変わっているそう。

柔らかな緑と青みがかった灰色の抑制された色調によって哀愁漂う雰囲気を醸し出していますが、遠い海と空はうっすらバラ色の光が降り注いでいて幻想的です。この風景は単なる記録ではなく、画家のなかで詩的に再構築されたものなのでしょう。芸術家たちにとっても、この時代のイタリアという土地がどれほど特別なものだったのかが伝わってくるようでした。

チャプター4. 19世紀の開拓者たち

19世紀の英国やフランスは肖像画や風景画などが引き続き好まれた一方で、世紀半ばに活躍したバルビゾン派や、その後の印象派、ポスト印象派など、革命的な画家たちが大きな変革をもたらした時代だったことを紹介する「チャプター4. 19世紀の開拓者たち」。

左から、フランシス・グラント《アン・エミリー・ソフィア・グラント(“デイジー”・グラント)、ウィリアム・マーカム夫人(1836-1880)》1857年 / ヘンリー・レイバーン《ウィリアム・クルーンズ少佐(1830年没)》1809-1811年頃

華麗で伝統的な「グランド・マナー」の肖像画の例として、日本で見る機会の少ないスコットランド出身の画家、レイバーンとグラントの大作をハイライト的に展示しています。

ジョン・エヴァレット・ミレイ《「古来比類なき甘美な瞳」》1881年

先ほど紹介したレノルズやゲインズバラの影響を受けた、イングランド出身の画家・ミレイの《「古来比類なき甘美な瞳」》は、物憂げながらこれから訪れる厳しい現実をしっかり見据えるような澄んだ瞳が印象的。バッチリおめかしした人物画が多い中で、服装も髪型も飾り気がなく素朴で逆に新鮮に映りました。

鋭い観察力に基づきつつ、とても感傷的な雰囲気の作品で、タイトルは女性詩人エリザベス・バレット・ブラウニングの詩から引用したもの。摘み取られたスミレの花とともに、成長していく少女の純真さと儚さの輝きを表現しているといいます。このように、この時代の主要な画家には、文学や物語のテーマを個人的に解釈する傾向があったのだとか。

ジョン・コンスタブル《デダムの谷》1828年

19世紀英国の風景画の巨匠・コンスタブルの《デダムの谷》も見逃せません。彼が愛した生まれ故郷の田園風景を描いた作品で、雲が落とす影や、触れたときの感触や冷たさが伝わってきそうな植物が、いかに細心の注意を払って描かれているか。彼ならではの見事な自然主義を感じる、自身が「おそらく私の最高傑作」と評したといわれる名画です。

ベルト・モリゾ《庭にいる女性と子ども》1883-84年頃

フランスでは、対象を直接写生し、色や光を賛美する画家たちが登場しました。物議をかもしながらも時代をつくり、広く愛好されていった革命的な画家たちの表現の変遷を、本展ではコロー、シスレー、ルノワール、マネ、ゴーガンなどの巨匠たちを中心とした作品で追っていけます。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《子どもに乳を飲ませる女性》1893-94年
クロード・モネ《エプト川沿いのポプラ並木》1891年

エピローグ

エピローグには1作だけ、アメリカの画家チャーチの大作《アメリカ側から見たナイアガラの滝》がドンっと置かれています。

フレデリック・エドウィン・チャーチ《アメリカ側から見たナイアガラの滝》1867年

よく見ないと気づかないですが、画面左の崖に展望台があり、そこには滝をのぞき込む小さな人影が。この人影と対比して、ナイアガラの滝の驚異、崇高で劇的なスケールが見事に表現されている本展で一番大きな作品です。(257.5×227.3cm)

ラストを飾るにふさわしい圧巻の迫力ですが、ここまでイングランドやスコットランドの画家を意識的に取り上げてきたにもかかわらず、なぜ急にアメリカの自然を描いたアメリカの画家の作品が登場するのかと疑問も。その理由を、東京都美術館の髙城靖之学芸員は次のように解説してくれました。

「スコットランドの貧しい家庭に生まれ、アメリカに渡って成功し、財を成した実業家が、故郷のためにスコットランド国立美術館へ寄贈した作品です。スコットランド国立美術館は開館当初、絵画購入の予算を与えられませんでした。では、なぜ現在、これだけの質の高いすばらしいコレクションを形成できたのかというと、地元の名士たちや市民から寄贈を受け、また寄付金などで作品を購入してきた歴史があります。本作は、そういったスコットランド国立美術館のコレクション形成の歴史を象徴するような作品であり、記念碑的な作品として本展の最後を飾っています」


ルネサンス期から19世紀後半までの西洋絵画の巨匠たちの作品を紹介しつつ、スコットランドやイングランド出身画家たちの名画にスポットを当てた「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」。開催は2022年7月3日(日)までとなっています。

「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」開催概要

会期 2022年4月22日(金)~7月3日(日)
会場 東京都美術館 企画展示室
開館時間 9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
※夜間開室については展覧会公式サイトでご確認ください。
休館日 月曜日(ただし5月2日は開室)
観覧料 一般 1900円 / 大学生・専門学校生 1300円 / 65歳以上 1400円
※日時指定予約制です。その他、詳細は展覧会公式サイトをご確認ください。
主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、毎日新聞社、NHK、NHKプロモーション
お問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト https://greats2022.jp

記事提供:ココシル上野


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【東京都美術館】オープン・レクチャー募集開始 上野の文化施設発!「こどもと大人のためのミュージアム思考」のススメ

東京都美術館

 

5月5日(木・祝)午後2時~ オンライン開催

東京都美術館と東京藝術大学、そして上野公園に集まる9つの文化機関が連携し、すべてのこどもたちが、文化やアートを介して「社会に参加しつながりを持つこと」を推進するラーニング・デザイン・プロジェクト「Museum Startあいうえの」。約10年間の取組みをまとめた『こどもと大人のためのミュージアム思考』(左右社刊、2022年)の出版を記念し、『上野の文化施設発!「こどもと大人のためのミュージアム思考」のススメ』をテーマに、5月5日(木・祝)にオンラインにて、オープン・レクチャーを開催します。

 

「Museum Startあいうえの」の理念や実践例を紹介しつつ、社会におけるアート・コミュニケータの役割とともに、これからのミュージアムのあり方を考えていきます。登壇は、著者の稲庭彩和子氏、伊藤達矢氏、鈴木智香子氏ほか。多様な文化や人々が関わり合い、豊かなコミュニケーションが生まれるミュージアムを舞台に、どんな学びが育まれてきたのでしょうか。市民とともにつくりだす新しい学びの姿について思考を深めていきたいと思います。オンライン開催ですので、みなさまぜひお気軽にご参加ください。

 

・オープン・レクチャー開催概要

日時|2022年5月5日(木・祝)14:00~16:30
会場|オンライン(Zoomウェビナー使用)
定員|300名(事前申込制、先着順、※定員になり次第締め切ります。)
参加費|無料
登壇者|稲庭彩和子(独立行政法人国立美術館 主任研究員)
伊藤達矢(東京藝術大学社会連携センター特任教授)
鈴木智香子(独立行政法人国立美術館 特任研究員)ほか
その他|手話通訳、UD トークによる文字表示支援あり
申込方法|下記フォームよりお申込みください。申込みアドレス宛に招待URLをお送りします。
申込みフォーム|https://tobikan.jp/form/294
オープン・レクチャーの詳細|https://tobira-project.info/openlecture12
問い合わせ先|「とびらプロジェクト」運営チーム p-tobira@tobira-project.info

 

・書籍紹介

 

編著:稲庭彩和子
著:伊藤達矢、河野佑美、鈴木智香子、渡邊祐子
装幀:松田行正+杉本聖士
定価:本体1800円+税
四六判並製/296ページ
2022年3月31日 第一刷発行
978-4-86528-079-1 C0070
オンライン販売:http://sayusha.com/catalog/books/paiueno

 

・「Museum Start あいうえの」とは…

東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、東京藝術大学が主催し、国立科学博物館、国立国会図書館国際子ども図書館、上野の森美術館、国立西洋美術館、東京国立博物館、恩賜上野動物園、東京文化会館が共催する、ラーニング・デザイン・プロジェクトです。

上野公園に集まる9つの文化機関が連携し、すべてのこどもたちが、文化やアートを介して「社会に参加しつながりを持つこと」を推進するプロジェクトです。文化を介して人々のコミュニケーションの機会を作り、人々の平等性、多様性を肯定し、人々の関わり合いを育み、人々のウェル・ビーイング(well-being : 心身ともに健康で幸福感がある状態)を高めることを目的としています。
「Museum Start あいうえの」ウェブサイト:https://museum-start.jp/

 

 

記事提供:ココシル上野


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【取材レポ】国立西洋美術館がリニューアルオープン!コルビュジエが設計した前庭や無料開放される19世紀ホールなど見どころを紹介

国立西洋美術館


施設整備のため約1年半の間休館していた国立西洋美術館(東京・上野)が、2022年4月9日にリニューアルオープンしました!

本記事では「近代建築の父」と称されるフランスの建築家ル・コルビュジエ(1887-1965)が設計した、1959年の開館当時に近い姿に戻された前庭や、無料開放される「19世紀ホール」など、リニューアル後の変化を詳しくレポート。

あわせて、新たに開幕した小企画展「調和にむかって:ル・コルビュジエ芸術の第二次マシン・エイジ ― 大成建設コレクションより」、「新収蔵版画コレクション展」についてもご紹介します。

開館当時の姿に近づいた国立西洋美術館

リニューアルオープン前日に行われた記者発表会・リニューアル内覧会で、ひと足はやく工事後の国立西洋美術館を拝見してきました。

国立西洋美術館 南側の入り口からの光景

2020年10月から行われた工事では企画展示館の空調や防水設備の更新なども実施されましたが、リニューアルを目に見えて実感できるのは前庭の外観です。

同館の前庭は1959年の開館以来、さまざまな改変が加えられてきました。これは美術館としての機能や利便性を向上させるためでしたが、2016年に本館と前庭を含む敷地全体がユネスコ世界文化遺産に登録された際には、当初の前庭の設計意図が一部失われていると指摘を受けてしまったそうです。

そこで同館では、ル・コルビュジエが設計した意図が正しく伝わるよう、また建物としての価値を高めるよう、施設整備にあわせて前庭を開館当時の姿にできる限り戻すことを決定しました。

園路から敷地内がよく見えるように。

リニューアル後の同館に足を運んでまず気づくのは、南西側にあった植栽がほぼ撤去されていることと、上野公園の園路から同館の敷地がよく見えるようになったことです。

敷地南西の端からの光景。ほとんど植栽が消えています。

リニューアル前の姿をご覧になったことがある方は、ぜひそのときの光景を思い出してみてください。

上の写真は、リニューアル前は小道つきの植栽エリアがあった場所です。ずいぶんスッキリしましたよね!

植栽や敷地を囲う柵によりやや閉鎖的な雰囲気があった前庭ですが、このたび開館当時の開放的なオープンスペースらしい姿を復原。上野公園との連続性をもたせるために、開館当時のように透過性のある柵にしたことで、園路側からも美術館側からも視線が通るようになりました。

向かい側の東京文化会館もよく見えるように。

ル・コルビュジエが考えた本館へのアプローチと彫刻作品の配置も、開館当初の姿にできる限り近づけられました。

まず、かつて正門として扱われていた西側(噴水広場側)の入り口が当初の状態に近い形に。あわせて、この西側の入り口から来館者を誘導するように引かれた床のラインも復活しました。

西側の入り口から《地獄の門》方向にのびるグレーのライン。

床のラインはまっすぐ東側にある《地獄の門》の方向にのびています。ラインに沿って右手にロダンの《考える人(拡大作)》、左手に《カレーの市民》を鑑賞しながら進むと、ラインは左に分岐して人々を本館の中へ誘います。

ラインの先にある《地獄の門》/ オーギュスト・ロダン《地獄の門》松方コレクション
オーギュスト・ロダン《考える人(拡大作)》松方コレクション / 西側の入り口から入った来館者のほうを向いて設置されています。
オーギュスト・ロダン《カレーの市民》
ラインは途中で本館のほうへ分岐。

設計の際、ル・コルビュジエはまず中心に核となる部屋をつくり、コレクションの増加とともにぐるぐる外側に螺旋を描く形で展示スペースを増築していくという「無限成長美術館」を構想していました。

同館の福田京専門員は、「前庭から無限成長美術館のコンセプトであるピロティ(柱だけで構成された吹き抜けの空間)へ、そして中央のホールへと流れるように動線が続いていく。歩きながら視線を移すと次々に光景が変わっていき、矢印などのサインなどを使わなくても自然に進む方向へ誘うという手法を、ル・コルビュジエは本館の中でも多く用いています」と話します。

また、前庭の床には動線のラインのほかにも、細い目地があみだくじのように広がっていることに気づきます。

前庭一面に広がる目地。

こちらは、ル・コルビュジエが人体の寸法と黄金比をもとに考案した尺度である「モデュロール」で割り付けられたもの。リニューアル前にもありましたが、もともとのデザインとしての目地と、コンクリートのパネルを分割する目地が混在して、デザインが分かりづらい状態でした。また、デザインとしての目地の一部も開館当時とは位置が変わっていたそうです。

今回のリニューアルでコンクリートのパネルの目地も美観を損ねないようモデュロールで割り付け、細部にわたって復原されました。

ちなみにこの前庭の床の目地ですが、向かいにある東京文化会館の窓のサッシの割り付けと幅も位置も完全に呼応しているそうですよ!

東京文化会館の設計は、ル・コルビュジエの弟子であり、国立西洋美術館の設計にも関わった前川國男が手掛けていますから、師匠へのオマージュということでしょうか? 足を運んだ際は見比べてみてください。

本館の吹き抜け空間「19世紀ホール」が無料開放!

19世紀ホール

リニューアルオープンにあたり、これまで有料エリアだった本館の中央にある吹き抜け空間「19世紀ホール」が当面の間、無料で開放されます!(2階展示室へ続くスロープから先は観覧券が必要)

三角形の天窓からやわらかな自然光が入っている様子が印象的な「19世紀ホール」は、空間自体がひとつの彫刻作品のような場所。常設展の起点であり、スロープを上って2階に進むと、ホールをぐるりと取り囲むように回廊型に配置された展示室をめぐることができます。

19世紀ホール スロープからの光景

こうした「19世紀ホール」を起点とした螺旋状の動線は、まさにル・コルビュジエの「無限成長美術館」のアイデアが反映されたもの。傾斜のゆるいスロープを上れば柱の奥に2階の絵画がチラリ……ここでも移動する間に移り変わる光景を楽しむことができます。リニューアルした前庭とあわせて「19世紀ホール」でル・コルビュジエの世界を体験しましょう。

常設展にも新しい仕掛けが!

常設展 展示風景

実業家・松方幸次郎が築いた「松方コレクション」を核とした、中世から20世紀にかけての西洋絵画やフランス近代彫刻が鑑賞できる常設展についても変化があります。

常設展は、《睡蓮》のモネをはじめ、ドラクロワ、ルーベンス、セザンヌ、ルノワール、ゴッホ、ピカソなど、時代を代表する巨匠たちの作品が目白押し。500円で入れるのが信じられないほど見どころ満載の展示となっています。

常設展 展示風景

田中正之館長によれば、リニューアルにあわせて常設展の展示方法を考え直し、いままでとは少し違った作品の並べ方をしているそう。

「古い時代の絵画の中に近代の作品が混じっているなど、隠し味的な展示になっている。なぜそこに近代の作品が混ざっているのか、何を見せようとしているのかを考えながらご覧いただければ」とのことでした。新たに「Collection in FOCUS」という作品のピックアップ紹介のコーナーも設けられていましたので、ぜひチェックしてみてください。

新収蔵作品や初展示作品など、常設展の新顔であろう作品を内覧会でいくつか見つけましたのご紹介しておきます。

(写真左)【新収蔵作品】ベルナルド・ストロッツィ《聖家族と幼児洗礼者聖ヨハネ》 1640年代前半、油彩、カンヴァス
(写真右)【新収蔵作品】ジョン・エヴァレット・ミレイ《狼の巣穴》  1863年、油彩、カンヴァス
(写真左)【初展示作品】フランク・ブラングィン《木陰》 油彩、カンヴァス
(写真左)【初展示作品】ヨゼフ・イスラエルス《煙草を吸う老人》 油彩、カンヴァス

せっかくなので常設展をゆっくり巡ってみました。個人的にこの常設展の展示室は、出口のない森に迷い込んだように「あれ、いま自分はどこにいるんだろう」とソワソワした気持ちになる瞬間があるのが楽しい場所です。ところどころに目隠しのように壁が設置されていることが、予想がつかない感じと迷路感を出しているのでしょうか。こんなところでも「無限成長美術館」のエッセンスを感じました。

常設展 展示風景

2種類の小企画展が同時に開幕!

リニューアルオープンにあわせ、4月9日からル・コルビュジエが晩年に制作した絵画と素描を紹介する小企画展「調和にむかって:ル・コルビュジエ芸術の第二次マシン・エイジ ― 大成建設コレクションより」が開催されています。

ル・コルビュジエ《奇妙な鳥と牡牛》 1957年、タピスリー 大成建設株式会社所蔵(国立西洋美術館寄託)

世界有数のル・コルビュジエのコレクションを所蔵する大成建設の寄託作品を中心とした約20点(展示替え含め約30点)を展示。

初期のピュリスム様式から大きく方向性を変え、自然界の形象と厳格な幾何学的構図の融合、そして人間と機械、感情と合理性、芸術と科学の調和を目指したとされる作品が並び……ということらしいのですが、筆者のレベルでは、そのあたりのことはちょっとよくわかりませんでした……。(動物の絵が愛嬌があってかわいいなーと思いながら鑑賞していました)

建物と絵画とであまりイメージも重ならないなと。ただ、国立西洋美術館をぐるりと一周してきた後にこの小企画展を鑑賞したところ、わからないなりに「ああ、たしかにこの建物と作品の作者は同じなんだろうな」と不思議と納得できました。

(写真左から)ル・コルビュジエ《静物》1953年、油彩、カンヴァス 《牡牛XVIII》1959年、グアッシュ、カンヴァス いずれも大成建設株式会社所蔵(国立西洋美術館寄託)

聞けば、前庭だけでなく本館の各所にも先ほど話題に出した「モデュロール」の寸法が使われているとか。そのために空間には独特のリズムと調和が生まれている気がします。規則性と意外性が同居する建築と、秩序がないようで全体として調和がとれている絵画は重なる部分があるのかな? などと考える展示でした。

「新収蔵版画コレクション展」展示風景

同時に開幕した「新収蔵版画コレクション展」では、4,500点以上にもなる同館の版画コレクションの中から、2015年度以降に新規収蔵された作品を紹介。時代順、地域ごとに作品をまとめ、15世紀末から20世紀初頭まで、デューラーやレンブラントといった巨匠の作品をはじめ、多様な版画表現が楽しめます。

ポスタービジュアルにはアルブレヒト・デューラーの『黙示録』より《書物をむさぼり喰う聖ヨハネ》が使われています。
(写真右)エドヴァルド・ムンク《魅惑II》 1895年、エッチング、ドライポイント、バーニッシャー/紙

6月4日からは「国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」が開催予定

記者発表会の様子

記者発表会では2022年6月4日より開催予定の、ドイツ・フォルクヴァング美術館との共同プロジェクトから生まれた企画展「国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」の紹介も。

両館のコレクションから、印象派とポスト印象派を軸にドイツ・ロマン主義から20世紀絵画までの100点を超える絵画や素描、版画、写真を展示。自然と人の対話(ダイアローグ)から生まれた近代における自然に対する感性と芸術表現の展開を紹介するものです。

ファン・ゴッホが晩年に取り組んだ風景画の代表作《刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑)》が初来日するほか、世界的に注目を集めているフィンランドの画家ガッレン=カッレラの作品も本邦初公開。マネ、シニャック、ムンク、ホドラー、エルンストといった巨匠たちの共演による多彩な自然表現が楽しめるとのこと。


新たなスタートを切った国立西洋美術館。観覧の前には、ル・コルビュジエの思想をじっくり感じられる前庭もぜひゆっくり楽しんでみてください。

 

■国立西洋美術館 インフォメーション

所在地:東京都台東区上野公園7-7
開館時間:9:30〜17:30(金・土曜日は20:00まで) ※入場は閉室の30分前まで
公式サイト:https://www.nmwa.go.jp/jp/

・小企画展「調和にむかって:ル・コルビュジエ芸術の第二次マシン・エイジ ― 大成建設コレクションより」
会期:2022年4月9日(土)~9月19日(月・祝)
会場:国立西洋美術館 新館1階第1展示室

・小企画展「新収蔵版画コレクション展」
会期:2022年4月9日(土)~5月22日(日)
会場:国立西洋美術館 新館2階版画素描展示室

・企画展「国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」
会期:2022年6月4日(土)~9月11日(日)
会場:国立西洋美術館

※休館日、観覧料等については公式サイトでご確認ください。

 

記事提供:ココシル上野


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第四十三回 上野東照宮 春のぼたん祭

上野東照宮

“ジパング”“赤胴の輝”など希少品種を始め、開苑当時からの大株や珍しい緑色のボタンなど110種500株以上が春を彩ります。

1980年に日中友好を記念に開苑し、江戸の風情を今に残す上野東照宮のぼたん苑では、2022年4月9日(土)~5月8日(日)の間、110種500株以上が彩る春のぼたん祭を開催します。

※当苑では新型コロナウイルス感染拡大防止の取り組みとして、苑内の定期消毒や現金授受の撤廃、従業員の健康管理などの対策を行っています。ご来苑いただく皆様に安心して庭園を鑑賞していただくため、ご来苑者様には手指の消毒とマスク着用のご協力をお願いしています。

 

開苑当時からの大株や、緑色に咲く『まりも』など110種500株以上

期間中、日本、中国、アメリカ、フランスなど110種500株以上のボタンが咲き誇ります。中には開苑当時から咲き続ける大株や、中国品種と日本品種の自然交配による緑色の花が珍しい『まりも』などもお楽しみいただけます。

[苑内風景※昨年のイメージ]

[まりも]

今回ご覧いただける希少品種
[ジパング]

黄色の千重咲きのボタンで上向きに咲く唯一のボタン。とても上品な香りと共にお楽しみいただけます。

[赤銅の輝]
黄色に桃色がかった橙色の花弁でとても珍しい品種のボタンです。花弁一枚一枚が際立ち、上向きに咲くのも特徴です。

 

■『ボタン』とは
ボタンの花は「富貴」の象徴とされ、「富貴花」「百花の王」などと呼ばれています。
日本には奈良時代に中国から薬用植物として伝えられたとされ、江戸時代以降、栽培が盛んになり数多くの品種が作り出されました。中国文学では盛唐(8世紀初頭)以後、詩歌に盛んに詠われるようになり、日本文学でも季語として多くの俳句に詠まれ、絵画や文様、家紋としても親しまれてきた花です。

[紫紅殿(しこうでん)]
[黄冠(おうかん)]

 

『旧寛永寺 五重塔』をはじめとする本格的な江戸建築とボタンを楽しむ
苑内からは旧寛永寺五重塔や東照宮の参道に並ぶ石灯籠を見る事ができ、枯山水の日本庭園とあわせて他では味わえない江戸風情の中でボタンを見る事ができます。

■他にも写真撮影スポットが充実!
ボタンの撮影を楽しまれるお客さまが多く訪れる当苑では、季節感のある撮影をお楽しみいただける色鮮やかな鯉のぼりや、苑内の随所に寄せ植えや盆栽などをご用意しています。
500株以上が咲くボタンとの撮影をお楽しみください。

 

■ボタンと共に咲くお花達
苑内にはボタンの他にシャクナゲや約20品種のシャクヤクなどが随時開花しボタンとの艶やかな共演をお楽しみいただけます。

[シャクナゲ(4月初旬~下旬)]
[シャクヤク(4月下旬~5月中旬)]
[シャクヤク(4月下旬~5月中旬)]

 

[上野東照宮 春のぼたん祭]概要
名称:第四十三回 上野東照宮 春のぼたん祭
期間:2022年4月9日(土)~5月8日(日)※期間中無休
開苑時間:9:00~17:00(入苑締切)
入苑料:大人(中学生以上)700円、団体(20名以上)600円、会期入苑券2,000円、小学生以下無料
主催:一般社団法人 上野観光連盟 後援:台東区
住所:〒110-0007 東京都台東区上野公園9-88 TEL:03-3822-3575(ぼたん苑)
アクセス:JR上野駅 公園口より徒歩5分
京成電鉄京成上野駅 池之端口より徒歩5分
東京メトロ根津駅 2番出口より徒歩10分
URL:https://uenobotanen.com/
公式Instagram:https://www.instagram.com/utbotanen_official/

 

記事提供:ココシル上野


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