【報道発表会レポ】特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」 所蔵する国宝89件をすべて公開するメモリアルな展覧会!

東京国立博物館
報道発表会 解説スライドより

東京・上野にある東京国立博物館(東博)が今年で創立150周年を迎えたのを記念して、2022年10月18日~12月11日、同館が所蔵する国宝89件をすべて公開する東京国立博物館開館150年記念 特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」が開催されます。

5月20日に報道発表会が行われ、東京国立博物館 列品管理課登録室長の佐藤寛介さんが特別展の見どころを解説してくれましたので、詳しくご紹介します!

特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」の見どころ

1.史上初!所蔵する国宝89件をすべて公開!
2.国宝刀剣19件が集結!「国宝刀剣の間」出現!
3.明治から令和まで、東博150年の歩みを追体験!

報道発表会

史上初! 所蔵する国宝89件をすべて公開!

明治5年(1872年)の発足以来、日本で一番長い歴史をもつ博物館として、日本の文化を未来や世界へ伝えていく役割を果たしてきた東京国立博物館。特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」は、そんな東博の全貌を紹介するべく、約12万件という膨大な所蔵品の中から国宝89件すべてを含む名品と、明治から令和にいたる150年の歩みを物語る関連資料を展示するものです。

「第1部 東京国立博物館の国宝」、「第2部 東京国立博物館の150年の歩み」の2部構成となっている本展。

「第1部 東京国立博物館の国宝」はその名前のとおり、日本最大の国宝コレクションを誇っている東博が史上初、89件の国宝を一つの展覧会で一挙公開(※)するというもの。メモリアルイヤーにふさわしい気合の入りぶりです!

(※)会期中、一部作品は展示替えが行われます。1度訪れるだけでは全件を鑑賞できないのでご注意ください。

配布されたプレスリリース資料より。大判の用紙に展示される89件の国宝がズラリと並び壮観! 本来なら1件1件が展覧会の目玉になるような作品です。
配布された国宝一覧(1)右側の丸印が展示期間。絵画系と書跡系は前期(10月18日〜30日、11月1日〜13日)と後期(11月15日〜27日、11月29日〜12月11日)でガラッと入れ替わるようです。
配布された国宝一覧(2)錚々たる顔ぶれに震えが走ります。

国宝一覧は公式サイトでも確認できます⇒https://tohaku150th.jp/

ちなみに、89件は現在国宝に指定されている美術工芸品902件のうちの約1割に当たる数。本展に足を運ぶだけで国宝の10分の1と出会えてしまうなんてすごすぎます……!

佐藤さんたち東博の研究員の方々も、国宝89件すべてを勢ぞろいさせた光景は今まで見たことがないそう。その理由について次のように話します。

「私たちは通常、文化財の保存と公開の両立を図るために展示期間を制限して、1年~数年間のサイクルで、分野ごとに数点ずつ計画的に公開しています。一度にまとめて公開するためには、数年前から数年後までを見越して展示計画を調整する必要がありました。これが一番大変なことでしたが、各分野の研究員の理解と協力を得まして実現できることになりました。

本当に奇跡的な、創立150年だからできたこと。もしかしたら次は創立200年、50年後になるかもしれません」

ふむふむ……。つまり本展は東博の歴史を動かす一大イベントというわけですね。佐藤さんの言うとおり、一生に一度のチャンスとなるかもしれません。今から期待が高まります!

報道発表会 解説スライドより

国宝89件の内訳は、絵画21件、書跡14件、東洋絵画4件、東洋書跡10件、法隆寺献納宝物11件、考古6件、漆工4件、刀剣19件

佐藤さんは「それぞれの作品に最適な展示デザインや照明を追求し、理想的な展示空間と最高の環境体験を提供したいと考えています」と開催への意気込みを語りました。

報道発表会 解説スライドより
報道発表会 解説スライドより
報道発表会 解説スライドより
報道発表会 解説スライドより

各分野の国宝の紹介の中で、特に目を引いたのは21件と一番数の多い絵画の分野です。

報道発表会 解説スライドより

《孔雀明王像》のような平安仏画から、雪舟等楊《秋冬山水図》のような室町水墨画もあれば、狩野永徳《檜図屛風》のような桃山絵画、渡辺崋山《鷹見泉石像》のような江戸肖像画まで……。誰しも見覚えがあるだろう、まさに日本美術の教科書のような豪華なラインナップになっています。

その中でも佐藤さんが注目してほしいというのが《平治物語絵巻 六波羅行幸巻》。

報道発表会 解説スライドより

「鎌倉時代に描かれた現存する最古の合戦絵巻で、武士たちが身につけた甲冑や刀剣のリアルな描写が見どころです。本展では展示期間が2週間と限られていますが、そのぶん全長9m50cmにおよぶすべての場面を広げてご覧いただくようにします」とのこと。

普段の展示ではスペースの都合で一部しか見られない作品も、メモリアルイヤーだからこその大サービスで展示してくれるようですね。

国宝刀剣19件が集結!「国宝刀剣の間」出現!

報道発表会 解説スライドより
報道発表会 解説スライドより

東博所蔵の国宝の刀剣は19件と絵画に次いで数が多く、一つの博物館の所蔵数としては日本最多とのこと。今回はその19件を「国宝刀剣の間」と名付けた展示室に集め、全期間(うれしい!)を通じて展示するそうです。

「ちなみに、国宝刀剣19件のうち、刀剣をテーマにした某ゲームで男性キャラクターになっています6振の国宝刀剣も勢ぞろいして、ファンの皆様をお待ちしています」と佐藤さん。

某ゲームとはもちろん人気ゲーム『刀剣乱舞』のことですね。三日月宗近、大包平、厚藤四郎、亀甲貞宗、大般若長光、小龍景光……ファンの方々垂涎の空間になりそうです。

報道発表会 解説スライドより

佐藤さんは刀剣や甲冑を中心とする武器・武具を専門に研究されているということで、刀剣については特に熱を込めて魅力を語ってくれました。

「《太刀 銘 三条(名物 三日月宗近)》と《太刀 銘 安綱(名物 童子切安綱)》、この2つは日本刀成立初期の名刀として有名なのですが、実は刀身の刃の部分の寸法がまったく同じなんです」

報道発表会 解説スライドより

「刃の長さが80cm、反りが2.7cmあります。しかしながら刀身のシルエットはずいぶん違うことにお気づきになられたでしょうか。

三日月宗近は刀身が細身で手元の部分が強く沿って先が細くなっています。全体的に優美な印象を与えるわけですね。一方で童子切安綱は刀身が全体的にカーブを描いていて、がっしりとした力強さがある。これは京の都を拠点とした宗近に対し、伯耆の国(現在の鳥取県)を拠点とした安綱という作者の居住地の地域文化が刀の姿に反映されているのではないかと思います」

なかなか写真や言葉では伝えきれない違いも、「国宝刀剣の間」で実物を見比べることで感覚的に理解できるといいます。

「この19件の展示にあたり、刀剣の見どころである刃紋や地金をより美しくご覧いただくためにケースの形状や照明にもこだわっています。時代や地域のによる違いを見比べたり、一振りずつじっくり鑑賞したり、それぞれの刀剣がもつ物語に思いを馳せたり。この国宝刀剣の間で日本刀の魅力にどっぷり没入していただければ」

明治から令和まで、東博150年の歩みを追体験!

「第2部 東京国立博物館の150年」では、日本の博物館の歴史ともいえる東博の150年を、三つの時代に分けて各時代の収蔵品や関連資料を紹介。明治〜令和までの歩みを「追体験」できるような展示構成になる予定とのこと。

報道発表会 解説スライドより

東博は明治5年(1872年)に旧湯島聖堂大成殿で開催された博覧会をきっかけに誕生した「文部省博物館」をルーツとし、10年後の明治15年(1882年)に上野に拠点を移して活動を本格化させたという歴史があります。

「第1章 博物館の誕生」では、初期の東博のコレクションとともに、東博の始まりである湯島聖堂博覧会で展示された実際の作品の一部を紹介。博覧会で最も人気を集めた名古屋城の金のシャチホコの実物大のレプリカも展示して、当時の雰囲気を再現するそうです。

報道発表会 解説スライドより

明治19年(1886年)に博物館は旧宮内省の所管になり、3年後に「帝国博物館」、さらに11年後に「東京帝室博物館」と名前を変えます。

もともと博物館に植物園、動物園、図書館などの機能を備えた総合博物館を目指していた同館ですが、次第に国家の文化的象徴、皇室の美の伝統と位置付けられ、歴史・美術の博物館としての性格を強めていったそうです。

「第2章 皇室と博物館」では、皇室とのゆかりを物語る作品や、「帝国博物館」「帝室博物館」時代の東博コレクションを紹介します。特にユニークなのが、「帝室博物館」時代に天産(自然史)資料として展示されていたキリンの剥製標本。

報道発表会 解説スライドより

このキリンは、明治40年(1907年)に日本に生きたままやって来た初めてのキリンで、上野動物園の人気者だったとか。大正12年(1923年)の関東大震災のあとお隣にある国立科学博物館の所蔵品になりました。本展で約100年ぶりに同館に里帰りする形です。

報道発表会 解説スライドより

約100年前の展示ケースなども活用し、当時のレトロな展示空間を再現するということで、作品以外にも注目すべき点がたくさんありそうですね。

「第3章 新たな博物館へ」では、終戦後、国民のための開かれた博物館として新たな一歩を踏み出た東博が、時代の変化や社会の要請に応じて取り組んできたさまざまな博物館活動を代表的な戦後のコレクションとともに紹介。

報道発表会 解説スライドより
報道発表会 解説スライドより

展示の最後には「令和の東博コレクション」として、昨年あらたに東博の所蔵品となった《金剛力士立像》が初公開されます。数少ない平安時代末期、12世紀の金剛力士立像で、かつて滋賀県の寺院に安置されていたもの。2体とも高さは2m80cm近くあり、東博の所蔵する仏像の中では最大のものだとか。たくましい肉体と怒りの表情が見どころです。

最後に、佐藤さんは次のようにメッセージを寄せました。

「このように本展は、89件の国宝と150年の歴史を通して東博のすべてを紹介する、創立150周年だからこそ実現したメモリアルイヤーにふさわしい展覧会です。東博の国宝と歴史をまとめて見ることができるので、東博が初めての方にはデビューするのにもってこいですし、これまで何度もお越しいただいているリピーター方にとっても新発見や再発見がきっとあると思います。

展覧会の具体的な準備はこれからが本番。より充実した内容になるよう、そして展覧会ポスターのように祝祭間の溢れた展覧会になるよう努めてまいります。どうぞご期待ください!」

展覧会ポスター

国宝89件だけでなく、重要文化財24件を含む計150件と、150周年にちなんだ盛りだくさんの内容で来場者を迎える特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」は2022年10月18日から開幕予定。楽しみに待ちましょう!

東京国立博物館創立150年記念 特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」開催概要

会期 2022年10月18日(火)~12月11日(日)
会場 東京国立博物館 平成館2階 特別展示室
主催 東京国立博物館、毎日新聞社、NHK、NHKプロモーション、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁
お問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイト https://tohaku150th.jp/
注意事項 ※会期中、一部作品の展示替えが行われます。
※開館時間、休館日、入館方法、観覧料金、その他最新情報は公式サイトでご確認ください。
※展示作品、会期、展示期間等については今後の諸事情により変更となる場合があります。

※記事の内容は取材日(2022/5/20)時点のものです。最新の情報は公式サイト等でご確認ください。

 

記事提供:ココシル上野

 


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【鑑賞レポ】上野にアートの動物園が登場!企画展「Art Jungle〜藝大動物園〜」が藝大アートプラザで開催中 (~6月26日まで)

東條 明子《春を待つ》樟に彩色

東京藝術大学 上野キャンパスにあるギャラリーショップ「藝大アートプラザ」では、50名を超える藝大関連アーティストによる企画展「Art Jungle〜藝大動物園〜」が開催されています。入場無料、会期は2022年4月23日(土)~6月26日(日)まで。

愛らしかったりちょっと不気味だったりと、さまざまな魅力をもった生き物たちに出会える本展。実際に鑑賞してきましたので、出展作品の一部をご紹介しますね。

長久保 華子 (前)《ふくら文鳥》ヒノキ、漆、乾漆粉、金粉、顔料/木彫、彩色、蒔絵  (奥)《碧色の瞳》ヒノキ、漆、乾漆粉、顔料/木彫、彩色
大崎 風実《Sink》乾漆/漆、麻布
中莖 あかり (左)《frog》、(右)《frog》セラミック
岩崎 拓也 (左)《秘密の花園》、(右)《秘密の花園》キャンパスに油彩

上野にアートの動物園が出現!「Art Jungle〜藝大動物園〜」

JR上野駅から徒歩10分ほどの場所にある藝大アートプラザ。ここでは、東京藝術大学の学生、卒業生、教員など、藝大に関わるアーティストたちによるさまざまなジャンルの作品を展示・販売しています。

藝大アートプラザ

家に飾りやすいサイズ感の絵画や立体作品が多く、価格帯は数万~数十万が中心ですが、なかには日常使いできる数千円のアクセサリーやうつわなども。誰でも気軽に「アートを買う」という体験ができるスポットです。

企画展「Art Jungle〜藝大動物園〜」展示風景

4月23日から始まった企画展「Art Jungle〜藝大動物園〜」は、「藝大アートプラザをアートのジャングルに!」を合言葉に、57名のアーティストが日本画、油画、彫刻、工芸などで思い思いに創造した動植物を展示。上野動物園のすぐそばで、「アートでできたもうひとつの動物園=藝大動物園」を出現させています。

お持ち帰りしたくなる!かわいい生き物たち

本展ではたくさんのかわいい生き物たちと出会えます。

東條 明子《春を待つ》樟に彩色

あらあらあら……! と愛らしさに思わずにっこりしてしまった東條 明子さんの《春を待つ》という作品。筆者のイチオシです。

遠目には布か粘土かと予想していましたが木彫りで驚きました。毛並みのふわふわ感が彫り跡で見事に表現されていますね。木彫りならではの温もりを感じます。下腹部のたゆんとしたフォルムからちょこっとのぞく爪先がたまりません。

東條 明子《春を待つ》樟に彩色

360度どの角度から見てもかわいいのですが、実は左手に毛布と人形(?)を持っているのに気づいて最高にハッピーな気分に。あまりにキュートすぎる……。

そっと吹く春の風のように身体を包み込んでいる。孤独はいつもそこにあるもの。待ち続ける子供は凛として愛おしい。(東條 明子)

本展の作品には上記のようなアーティストコメントがついているものが多く、制作意図や作品に込めた想いを知ることができます。このペンギンちゃんは親を待っているのでしょうか? 意図したものなのか、会場でこの子がわりとポツンとしたところに展示されていたこともあり、思わずギュッと抱きしめてあげたくなりました。

小林 佐和子《はねうさぎ》陶芸、磁器、練込

小林 佐和子さんの《はねうさぎ》のように、架空の生き物も多く登場しています。キリッと上を向いた眉毛、ツンとした口元が小生意気な感じでこちらも本当にかわいい。足元にいくにつれてほっそりしていく体型バランスが、胸毛のモフモフ感を強調していていいですね。

「はねうさぎ」と「はねひつじ」は一緒に暮らしたいと思う架空動物です。哺乳類ですが羽毛を纏い、飛べませんが跳躍します。胸に赤いハートの羽毛を蓄え、人に懐き甘い匂いがします。体温は人より高く寒い日に重宝します。冬は羽毛を広げて温まるので丸く、夏はスリムになります(小林佐和子)

アーティストの愛がたっぷり感じられるコメントを読むと、途端にリアリティーが増して思わずだっこしてみたくなりました。この子が実在したら家族に迎える人が大勢いそう。

内田 亘《眠る鳥》張り子、和紙、アクリル
内田 亘《食うぞ》張り子、和紙、アクリル

内田 亘さんの《眠る鳥》と《食うぞ》はゆるっとしたフォルムと脱力した表情が魅力的。眺めているこちらもホッと肩の力が抜けていく、ぜひ枕元に飾りたい動物たちです。筆者は特に《眠る鳥》の形の“サツマイモ感”が気に入りました。

杉山 佳 (右)《ツキノワグマ》麻紙、岩絵具、膠、クレヨン など

杉山 佳さんはツキノワグマやフクロウの特徴をクレヨンで大胆に抜き出して、シンプルにデフォルメしています。塗り部分には岩絵具が使われているそう。かなり厚塗りしているのか、ふっくらと存在感のあるザラザラマットな質感がシンプルなデザインに個性をつけています。洋室にも和室にもマッチしそうなすてきな作風でした。

森 聖華《ダラダラ自然釉フグ貯金箱》陶土、石膏型張り込み、穴窯焼成

森 聖華さんの《ダラダラ自然釉フグ貯金箱》はこの見た目で貯金箱という意外性がグッド。ぷっくりつやつやしたお腹に癒されます。自然釉ならではの不規則な模様が味わい深く、ふとした瞬間に手に取って眺めたくなる風情がありました。

松田 剣《シリグロカエル》陶土、手びねり

松田 剣さんの《シリグロカエル》は手のひらサイズの作品で、だ円形の平べったい体からちんまりと伸びる足と、獲物を観察しているのかただほんやりしているだけなのか、なんともいえない瞳がかわいいです。よく見ると背中の模様が細かい! 光沢を感じるグレーの色使いが両生類っぽさを演出していますね。ぬるりぬるりと移動しそう。

ねがみ くみこさんの独特すぎる世界観から目が離せない

ねがみ くみこ《スーパーカー》石粉粘土

本展でひときわ異彩を放っていたのは、ねがみ くみこさんの作品。特に《スーパーカー》はインパクトがすごかったです。動物園のかわいい動物たちにキャッキャしていたところに突然変質者が現れました。「ど、どういうこと!?」と困惑しながらアーティストコメントを読むと、

おまるごと移動ができたら無敵なのではというコンセプトの元に制作をしました。 一生のうちでトイレで過ごす時間は3年という話もあります。人生の大問題がこれで解決。おまるの定番はアヒルさんですが、ちょっとだらしのない顔をしたバクのおまるに私は乗りたい。(ねがみ くみこ)

とのことでした。なるほど……(なるほど?)

おまるでスッキリしている人間の上半身も脱がせていることで、より一層の開放感を感じさせてくれます。

おまるのバクはだらしないというかキマッてる感じですね。人間のほうも形こそ微笑んでいるようですが、ちょっと喜怒哀楽、どの感情なのかわからない謎めいた表情を浮かべていて……。ねがみさんのその他の作品と合わせて鑑賞すると、見る人によっていかようにも受け取れる、絶妙な表情づくりが上手な方なのだなとわかりました。

ねがみ くみこ《革張り風ワンコ》テラコッタ
ねがみ くみこ (左)《クーズーぶらん》、(右)《シカぶらん》陶

《革張り風ワンコ》は今にもしゃべりだしそうなくらい生き生きとしています。間抜けな表情にも見えますが、油断するとパクリといかれそうな信用ならなさも感じました。

壁に展示してあった《クーズーぶらん》と《シカぶらん》は、お金持ちの家にありがち(?)なシカの頭部の剥製を、前足を出す形にアレンジして作ったのかしらと想像していました。しかし、アーティストコメントを読むと、どうやら元から2本足の動物のよう。知ると途端に未知との遭遇感、不気味さを笑顔のなかに見出してしまいます。センスの塊だ……。すっかりねがみさんのファンになってしまいました。

時間を忘れて引き込まれる美麗な作品も

須澤 芽生 (左)《Brilliance》、(右)《Glimmer》絹、膠、墨、岩絵具、箔、泥

パステル調の淡い色で描かれた須澤 芽生さんの《Brilliance》と《Glimmer》は本展でひときわ美麗で華やか。

江戸時代の絵師・円山応挙の孔雀図の制作技法を研究したきたという須澤 芽生さん。自然界の装飾美を極めたような孔雀の美しさを、日本画の伝統的な素材を使用してなんとか表現しようとした応挙の姿勢を追体験しながら、自由に孔雀や鳥の優美な姿を表現したそう。非現実的な色彩が孔雀のもつ幻想性をさらに高めています。

須澤 芽生《Glimmer》絹、膠、墨、岩絵具、箔、泥

一般的な日本画は格調高いというか、親しみづらさを感じることが多いのですが、こちらはふんわりと見る者を慰めるような温もりがあり、日本画のイメージを覆された作品。自分の羽毛にくちばしを埋める姿が愛らしく、インコへの愛情に満ちた眼差しを感じます。

岩崎 広大《かつて風景の一部だったものに、風景をプリントする。-Idea blanchardii-(1°20’38.4″N 124°51’14.4″E)WGS84-》昆虫標本、UVプリント

岩崎 広大さんの、昆虫の身体に昆虫のいた土地の風景写真をプリントするという斬新でおしゃれな作品も目を引きます。昆虫標本にもプリントできるという事実にまず驚き!

個体はインドネシアで採られたものだとか。風景がうっすらとぼやけているのが、この蝶が見ている風景を羽根ごしに見ているような感覚になる効果を生んでいます。旅先でこんなにすてきな作品を見かけたら反射的に買ってしまいそう。時間を忘れて見入りました。


ご紹介したのはほんの一部。会場では、他にも魅力的な生き物たちがまだまだたくさんいます! 撮影可能、入場無料ですので、上野動物園を訪れた際は、ぜひ藝大アートプラザのもう一つの動物園にも足を運んでみてはいかがでしょうか。

企画展「Art Jungle〜藝大動物園〜」概要

会期 2022年4月23日(土)~ 2022年6月26日(日)
会場 藝大アートプラザ
東京都台東区上野公園12ー8 東京藝術大学美術学部構内
開館時間 11:00-18:00
休館日 月曜日(祝日は営業、翌火曜休業)
観覧料 無料
URL 公式Webサイト:https://artplaza.geidai.ac.jp
公式Twitter:https://twitter.com/artplaza_geidai
お問い合わせ https://form.id.shogakukan.co.jp/forms/artplaza-geidai
注意事項 ※新型コロナウイルスの状況により、営業日時が変更になる場合がございます。最新情報は公式Webサイト・SNSをご確認ください。

※記事の内容は2022/5/15時点のものです。最新の情報は公式サイト等でご確認ください。

記事提供:ココシル上野


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【東京国立博物館】特別展「琉球」内覧会レポート。島人の想いを、未来に紡ぐ(~6/26)

東京国立博物館
黒漆首里那覇港図堆錦螺鈿衝立 (1928年・鹿児島県歴史・美術センター黎明館蔵)

令和4年(2022)、沖縄県は復帰50年を迎える。

かつて沖縄が琉球王国であったころ、アジアの海を舞台に諸国との貿易や外交を繰り広げ、世界の架け橋となることを目指していた。

有名な「万国津梁」という言葉にはそうした琉球の崇高な理想が込められている。

琉球王国がその後歩んだ道のりは平坦なものではなかったが、その土壌で育まれた独自の文化の煌めきは、今なお私たちの心を捉えて離さない。

琉球文化の形成や継承の意義、その美意識に着目する特別展「琉球」が東京国立博物館で幕を開けた。

※(2022/5/19)作品の展示期間について画像下部に追記。

今ここに蘇る、琉球王国の技と美。

展示会場(第一会場入口)

会場構成は「万国津梁(ばんこくしんりょう) アジアの架け橋」「王権の誇り 外交と文化」「琉球列島の先史文化」「しまの人びとと祈り」「未来へ」の全5章。会場は第一会場・第二会場に分かれており、それぞれでひとつの展覧会を構成できるほどのボリュームだ。

本展では王国時代の歴史資料・工芸作品、国王尚家に伝わる宝物に加え、考古遺物や民族作品などさまざまな文化財が一堂に会する。また、展覧会の終盤では平成27年より取り組まれてきた琉球王国文化遺産集積・再興事業を紹介し、事業によって復元された文化財を展示する。

過去から未来へと、貴重な琉球文化を次の世代へと手渡していきたいという主催者側の思いが感じられる。

展示会場風景
手前《戌秋走小唐船方陣賦〔東恩納寛惇文庫〕》(1874年・沖縄県立図書館蔵)展示期間:5/3- 5/29
《琉球使節江戸登城行列図》(19世紀・九州国立博物館蔵)展示期間:5/3-5/29
重要文化財《銅鐘 旧首里城正殿鐘》(万国津梁の鐘)藤原国善  (1458年・沖縄県立博物館・美術館蔵)

第一会場に鎮座する《銅鐘 旧首里城正殿鐘》(万国津梁の鐘)は琉球王国が世界の架け橋ならんとした気概を示した「万国津梁」の言葉が刻まれた梵鐘だ。

15~16世紀、琉球王国は自らアジアの海に雄飛し、各地を結ぶ中継貿易の拠点となって大いに繁栄した。その存在は16世紀にアジアに進出したヨーロッパの国々にも重視され、「琉球」の名は世界に知られるようになる。
現代のグローバリゼーションにも通じる思想だが、人間そのもののスケール、野心の大きさは現代の日本人とは隔絶しているといってもいいだろう。

第一会場ではこうした琉球王国の歩みを辿る貴重な歴史資料の数々が展示されている。

朱漆が鮮やかな足付盆が会場に映える
沖縄県指定文化財《聞得大君御殿雲龍黄金簪》(15~16世紀・沖縄県立博物館・美術館蔵)
(左)国宝・黒漆脇差拵(号 治金丸)(沖縄・那覇市歴史博物館蔵)(右)国宝・青貝螺鈿鞘腰刀拵(号 北谷菜切)(沖縄・那覇市歴史博物館)展示期間:5/3-5/29

会場には名匠・名工の手がけた琉球漆芸、茶器、絵画といった琉球文化の至宝が集う。国宝60件、重要文化財17件、県市指定重要文化財24件と約3分の1が指定文化財であり、琉球・沖縄をテーマにした展覧会では質・量ともに最大規模といえるだろう。

中でも《青貝螺鈿鞘腰刀拵》を含む尚家に伝わる三宝刀の公開は注目を集めている。刀身や装飾の美しさはもちろんだが、大ヒットオンラインゲーム『刀剣乱舞』において三宝刀が取り上げられたこともあり、特に若い世代への訴求力が高まっている。展覧会グッズコーナーでは『刀剣乱舞-ONLINE-』とのコラボ商品も販売されているので、興味のある方はぜひ立ち寄ってみてほしい。

琉球染織の豪華競演 ※こちらの作品はすでに展示を終了しています
国宝《玉冠(付簪)》(18~19世紀・沖縄・那覇市歴史博物館蔵)展示期間:5/3-5/15 ※こちらの作品はすでに展示を終了しています
《緋色地波濤桜樹文様紅型木綿衣裳》(19世紀・神奈川・女子美術大学美術館蔵)展示期間:5/3-5/29

会場を見回すと、琉球国王の正装をはじめ、中国産の更紗地を用いた衣装や琉球で織られた浮織物など、素材や技法も多種多様な琉球染織が目を引く。ここまで琉球染織が幅広く展示された展覧会は筆者の記憶する限りはなく、非常に貴重な機会だといえるだろう。

《緋色地波濤桜樹文様紅型木綿衣裳》は背中全体に大きく波濤が上がる風景画のようなデザインが特徴的。日本の遠山桜文様と中国の波濤山水文を合わせた意匠の妙は、国際色豊かな琉球文化の特徴を色濃く映し出している。

第4章では「しまの人々の祈り」として、土地に根差した宗教観に注目する
神女が村落祭祀で身につける装身具。中央が《玉ハベル》、右が《玉ダスキ》、左が《玉ガーラ》(ともに東京国立博物館蔵)

沖縄と聞いて多くの人が連想するのが「ノロ」に代表されるような祭祀のイメージではないだろうか。女性が祭祀を司るという特徴は姉妹が兄弟を霊的に守護するという「おなり神信仰」に通じるもので、琉球ではこうした美意識と宗教観を豊かな自然の中で育んできた。

展覧会終盤ではこうした琉球文化の「信仰」という側面に焦点を当て、私たちの胸中に沖縄の人々の祈りの姿を喚起する。そう、今も昔も沖縄は祈りの島なのだ。

模造復元《朱漆巴紋沈金御供飯》 (原資料17~18世紀・沖縄県立博物館・美術館蔵) 展示期間:5/3-5/29

朱漆塗が鮮やかな模造復元《朱漆巴紋沈金御供飯》は琉球の王家・王族家の祭祀道具として王府内で使用されていたものを復元した作品。木工、沈金などの漆工技術が結集された琉球漆工史上でも重要な祭器で、琉球王国文化を考えるうえでも貴重な作品とされている。

開催概要

《大龍柱》(旧首里城正殿前)(1711年・沖縄県立博物館・美術館蔵)
会期 2022年5月3日(火・祝)~6月26日(日)
会場 東京国立博物館 平成館(上野公園)
開館時間 9時30分~17時00分(入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日
観覧料 一般  2,100円
大学生 1,300円
高校生  900円
(注)本展は事前予約不要です。オンラインもしくはご来館時に東京国立博物館正門チケット売り場でチケットをご購入ください。
(注)混雑時は入場をお待ちいただく可能性があります。
(注)中学生以下、障がい者とその介護者1名は無料。入館の際に学生証、障がい者手帳等をご提示ください。
(注)本展観覧券で、ご観覧当日に限り総合文化展もご覧いただけます。ただし、総合文化展の混雑状況によっては、入場をお待ちいただく場合があります。
(注)会期中、一部作品の展示替えを行います。
(注)詳細は、展覧会公式サイトチケット情報のページでご確認ください
展覧会公式サイト https://tsumugu.yomiuri.co.jp/ryukyu2022/

 

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