開園150年の上野公園で、誰でも楽しめる新しい音楽のパブリックアートを!!【 東京・春・音楽祭2023 】

【東京・春・音楽祭実行委員会】

2023年に開園150年を迎える上野公園を舞台に、日本初の音楽のパブリックアート「Ellen Reid SOUNDWALK featuring Kronos Quartet and 50 for the Future(エレン・リード サウンドウォーク featuring クロノス・クァルテット & 50 for the Future)」を実施するため、クラウドファンディングに挑戦することと致しました。

Ellen Reid SOUNDWALKは、GPS(現在位置情報)を利用し、自然の中で音楽を楽しむパブリックアート作品として、アメリカ出身、ピューリッツァー賞受賞歴もある若き作曲家、サウンドアーティストのエレン・リードによってコロナ禍に立案・製作され、欧米を中心に数々の著名な公園(ニューヨーク・セントラルパーク、ロンドン・リージェンツ・パーク&プリムローズ・ヒル等)で実施されています。ヘッドフォンやイヤフォンから聴こえてくる音楽が、それぞれが歩く場所や経路によって自然に移り変わります。五感をフルに使った新しい音楽との出会いが待っています。

 

<クラウドファンディング詳細>
【タイトル】上野公園でSOUNDWALKを実現したい!
【URL】https://readyfor.jp/projects/SOUNDWALK
【目標金額】150万円
【募集期間】2022年12月6日[火]11時~2023年1月31日[火]23時 56日間
【資金使途】SOUNDWALKで実働するアーティストの創作活動費、渡航滞在費、広告宣伝費、またクラウドファンディング手数料等雑費に使わせていただきます。
【形式】All or Nothing形式 ※All or Nothing形式は、期間内に集まった支援総額が目標金額に到達した場合にのみ、実行者が支援金を受け取れる仕組みです。
【リターン】5,000円~1,000,000円まで計12コース。
「WEBサイトにお名前掲載」、「クロノス・クァルテットサイン付CD」、「参加アーティストによる限定曲目解説動画」、「クロノス・クァルテット未公開演奏映像」など

 

「Ellen Reid SOUNDWALK featuring Kronos Quartet and 50 for the Future」
クラウドファンディングが成立した際には、日本初上陸のSOUNDWALKとして、東京・春・音楽祭が開催される上野公園を舞台に、エレン・リードの監修のもと、国内外で絶大な人気を誇り2023年には結成50周年を迎えるクロノス・クァルテットが手がける「50 for the Future」の作品を中心に製作。スマートフォン用の無料の専用アプリ内に日本語の上野公園用ページも用意され、多くの方に上野公園で新たな音楽散歩をお楽しみいただけるようになります。

 

<実施予定概要>

【期間】2023年3月~約1年間 ※調整中
【会場】上野恩賜公園
【アーティスト】エレン・リード、クロノス・クァルテット /他
【プログラム】SOUNDWALKアンサンブルによる作品、クロノス・クァルテット「50 for the Future」より

▼東京・春・音楽祭2023 WEBサイト
「Ellen Reid SOUNDWALK featuring Kronos Quartet and 50 for the Future」ページ
https://www.tokyo-harusai.com/sound-walk/

 

アーティスト紹介
●エレン・リード(作曲家・サウンドアーティスト)

同世代で最も革新的なアーティストの一人であり、オペラ、サウンドデザイン、映画音楽、アンサンブル、合唱等、幅広い作品を手がける作曲家、サウンドアーティストである。オペラ《プリズム》は、2019年のピューリッツァー賞・音楽部門を受賞した。
作曲家のミッシー・マッツォーリとともに、ルーナ・コンポジション・ラボを共同設立。これは若い女性やノンバイナリー、ジェンダー規範に抗する作曲家のための指導プログラムである。19年からは、ロサンゼルス室内管弦楽団のクリエイティブ・アドバイザー及びコンポーザー・イン・レジデンスを務めている。
コロンビア大学で学士(美術)、カリフォルニア芸術大学で修士を取得。世界各地の音楽からインスピレーションを受けており、お気に入りの2都市、ロサンゼルスとニューヨークで暮らす。作品はデッカ・ゴールドからリリースされている。ロサンゼルス・タイムズ紙いわく、「一言でいえば、リード到来」。
https://www.tokyo-harusai.com/artist_profile/ellen-reid/

●クロノス・クァルテット(弦楽四重奏)

サンフランシスコのクロノス・クァルテット――デイヴィッド・ハリントン(ヴァイオリン)、ジョン・シャーバ(ヴァイオリン)、ハンク・ダット(ヴィオラ)、サニー・ヤン(チェロ)――は、50年近くにわたり、弦楽四重奏で何が体験できるかを考え続けてきた。現代において最も知名度と影響力を持つアンサンブルの一つとして、世界中で数千回に及ぶコンサートを行い、70以上の録音をリリースし、世界で最も洗練された多くの作曲家や演奏家と様々なジャンルを跨いだコラボレーションをしている。また、非営利団体「クロノス・パーフォーミング・アーツ・アソシエーション」(KPAA)を通じて、弦楽四重奏のために1000以上の作品や編曲を委嘱しており、ポーラー音楽賞、エイヴリー・フィッシャー賞、エディソン・クラシック作品賞等、40以上の賞を受賞している。
https://www.tokyo-harusai.com/artist_profile/kronos-quartet/

●50 for the Future 

サンフランシスコを拠点とするクロノス・クァルテットの非営利公共会社クロノス・パーフォーミング・アーツ・アソシエイション(KPAA)が立ち上げた「50 for the Future」は、弦楽四重奏の委嘱、演奏、教育、及びレガシー・プロジェクトで、前例のない規模と潜在的な影響力を持つものです。
クロノス・クァルテットは、45年以上にわたる世界中の著名な作曲家や若手作曲家とのコラボレーションをもとに、アマチュアやプロの弦楽四重奏団が21世紀のレパートリーを演奏するために必要なスキルを身につけられるよう、50の作品からなるライブラリーを委嘱しています。
全ての作品はそれぞれ芸術的に完成されたもので、クロノス・クァルテットによって6回の公演シーズン(2015/2016から2020/2021)にわたって初演され、「50 for the Future」全体がクロノス自身のレパートリーの中核となる予定です。 各作品のスコアとパート譜のデジタル版、録音、その他の教育的資料は、ウェブサイトから無料でアクセスできます。
https://50ftf.kronosquartet.org/
 

「東京・春・音楽祭2023」 開催概要
期間:2023年3月18日[土]~4月16日[日]
主催:東京・春・音楽祭実行委員会
共催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京文化会館
会場:東京文化会館、東京藝術大学奏楽堂(大学構内)、旧東京音楽学校奏楽堂、国立科学博物館、東京国立博物館、東京都美術館、国立西洋美術館、上野の森美術館 /他
後援:文化庁(※申請中)、東京都(※申請予定)、台東区
協力:一般社団法人 上野観光連盟、上野の山文化ゾーン連絡協議会
助成:公益社団法人企業メセナ協議会 2021 芸術・文化による社会創造ファンド
URL: https://www.tokyo-harusai.com

 

 

記事提供:ココシル上野


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【取材レポ】日本初上陸の将軍俑も!「兵馬俑と古代中国展」が上野の森美術館で開幕

上野の森美術館
展示風景

日中国交正常化50周年を記念した展覧会「兵馬俑(へいばよう)と古代中国〜秦漢文明の遺産〜」が2022年11月22日より、上野の森美術館で開幕しました。(会期は2023年2月5日まで)

36体の兵馬俑を軸に、約200点の貴重な文物で古代中国文明の遺産を紹介する本展。開幕前日に行われた報道内覧会を取材してきましたので、展示の様子をレポートします。

展示入口
展示風景
展示風景
展示風景
展示風景 《彩色一角双耳獣》漢、陶、永寿県博物館

2000年の時を超えた、壮大な歴史との対峙

俑(よう)とは、古代中国において権力者の遺体とともに埋葬された、木や土で作られた人形(ひとがた)です。

1974年、始皇帝陵から約1.5km離れた場所で農民が井戸を掘っていたところ、一体一体顔も服装も異なる、ほぼ等身大の兵士や馬を模した俑が大量に出土。調査により、それらの兵馬俑は死後の始皇帝を守るために地下に配置されたものだとわかり、20世紀の考古学における最大の発見の一つと話題になりました。現在も発掘作業は続いていますが、その数は推計約8000体にも及ぶそうです。

紀元前221年、7国が争った春秋戦国時代を終わらせ、中国史上初めて統一王朝を打ち立てた始皇帝の秦王朝はわずか十数年で滅びましたが、兵馬俑はその絶大な国力を現代に伝えています。

本展はそんな秦王朝と、紀元前202年、秦が滅んだ後に劉邦が創始した、中国古代における黄金時代とされる漢王朝の中心地域である関中(現在の陝西省)の出土品を中心に、日本初公開の一級文物(最高級の貴重文物を指す中国独自の区分)など約200点を紹介するものです。

谷原章介さん

オープニングイベントには、展覧会のナビゲーターであり音声ガイドのナレーションも務めた俳優の谷原章介さんが駆けつけました。

会場にずらりと並んだ兵馬俑を見て「圧巻。モノとしての存在感の大きさに驚かされました」とコメント。「古くから作られているもののうち、残りやすいのは焼き物や金属製の品。織物や紙に書かれた書などのない展示を見て、それだけ古い時代の貴重なものが集まったんだなというのをすごく感じました」と、ひと足早く会場を巡った感想を述べます。

さらに、本展には春秋戦国時代を描いた人気漫画『キングダム』とコラボしたコーナーがあり、本人も作品の大ファンであることに触れ、「『キングダム』ファンの皆さんは作品の大好きな世界観を実感するためにも、ぜひこの展覧会にお越しいただけたら」と呼びかけました。

日本初公開となる貴重な将軍俑が来日!

会場では、紀元前770年の周王朝の遷都から220年の漢王朝の崩壊まで、およそ1000年に渡る時代の歴史資料を「第1章 統一前夜の秦~西戎から中華へ」「第2章 統一王朝の誕生~始皇帝の時代」「第3章 漢王朝の繁栄~劉邦から武帝まで」という3章構成で紹介しています。

立ち並ぶ兵馬俑

見どころは36体の兵馬俑ですが、特に「第2章 統一王朝の誕生~始皇帝の時代」にある始皇帝時代の兵馬俑の数々は、像高が平均で180cm前後ということで非常に迫力がありました。

日本では過去にも何度か兵馬俑をテーマにした展覧会が開催されてきましたが、本展の一番の特徴は、約8000体あるとされる始皇帝の兵馬俑のうち、11体しか出土していない貴重な「将軍俑」の、日本初公開の1体が来日していること。

一級文物《戦服将軍俑》統一秦、陶、秦始皇帝陵博物院

こちらがその《戦服将軍俑》です。「将軍」と名前がついていますが、正しくは軍吏や、戦車に乗り、歩兵や騎兵の小部隊を統率した高級武官の姿を模したものを指しています。像高は196cmと長身。

いくつもの兵馬俑が並ぶなかでも、頭に「鶡冠(かつかん)」という独特の形をした冠を被っているので、ひと目でそれとわかりました。鶡はキジ科の山鳥のことで、攻撃されると激しく反撃に出ることから、その尾羽を武人の冠に用いられるようになったとか。

兵馬俑はもともと鮮やかに彩色されていたことがわかっていて、右の頰や耳のあたりをよく見ると、白地に肌色を重ね塗りした跡があり、在りし日の名残を感じられます。右手が不自然に丸められていますが、これは剣を持つ様子を表しているそうですよ。

一級文物《立射武士俑》、統一秦、陶、秦始皇帝陵博物院
一級文物《跪射武士俑》、統一秦、陶、秦始皇帝陵博物院

立射する者、弩(いしゆみ)を持って待機する者など、顔や服装だけでなくポーズも多様なのが面白いところ。

一級文物《跪座俑》、統一秦、陶、秦始皇帝陵博物院

静かな佇まいが目を引く、像高64cmと等身大というにはやや小さい《跪座俑(きざよう)》は、馬や動物を飼育する役人を忠実に模したもの。兵士と馬の陶俑という組み合わせで埋葬されることもありますが、本作のような跪座俑は本物の馬や動物を埋葬する馬厩坑(ばきゅうこう)や珍禽異獣坑(ちんきんいじゅうこう)という場所に配置されていたようです。

周王朝のために馬を繁殖させて秦という土地を与えられたという経緯から、秦にとって馬は勢力の発展に欠かせない存在でした。死後の世界にも世話役を、という、秦の人々の馬や動物への心情の深さが感じられます。

同フロアには戦車馬の陶俑の姿もありました。

一級文物《戦車馬》、統一秦、陶、秦始皇帝陵博物院

兵馬俑は、当時すでに廃止された人間の殉葬(墓主の死に合わせて殺され、埋葬されること)の代わりに生まれたもので、始皇帝の兵馬俑は生前、彼に仕えた実在の軍隊・人物をモデルに作られたといいます。

武器を携えたポーズをとる兵馬俑もいますが、見渡してみると、戦いに赴く厳めしい表情は発見できず、逆に穏やかで生き生きした表情が多いことに気づきます。始皇帝は生前から自身の陵墓を造営し始めていたと知り、これらの表情は、死後の世界の安息を願った始皇帝本人の指示だったのかもしれないと想像がふくらみました。

兵馬俑の興味深いところは、これほどリアルで等身大サイズのものは、始皇帝時代にしか見られないという点。

会場では、秦王朝における兵馬俑の最古の作例の一つである《騎馬俑》や、前漢の頃に作られた《彩色歩兵俑》なども鑑賞できますが、いずれも像高は1mもなく、前漢のものはデザインが簡略化・画一化されています。つまり、ほぼ等身大で、しかも一体一体モデルがいるという始皇帝時代の兵馬俑はかなり特殊なのです。

一級文物《騎馬俑》戦国秦、陶、咸陽市文物考古研究所
《彩色歩兵俑》前漢、陶、咸陽博物院

始皇帝の兵馬俑が作られた理由について、本展の監修者である学習院大学名誉教授・鶴間和幸さんは、

■(先述したように)本物の馬や動物を丁寧に埋葬する際、世話役として跪座俑をわざわざ配置する、後に等身大の陶馬と陶俑を組み合わせるなど、馬や動物を尊んだ秦人の精神の賜物なのではないか。

■戦国時代の秦の墓からギリシャ神話の葡萄酒の神・ディオニソスを描いた装飾板が発見されたことなどから、古代ギリシャの彫刻と芸術の影響を受けていたのではないか。

といった推測をしているそうです。

かつて孔子は、人間をかたどった姿である俑を批判しましたが、焚書坑儒で知られる始皇帝ですから、それを知っていてあえて孔子の教えに反するものを作ったのかもしれません。

寝殿や祭祀施設などが備わっていた始皇帝陵の周辺では、展示にはありませんが、兵士だけではなく、文官や音楽家、曲芸師の俑も発見されているとか。
いずれにせよ、徹底した写実性をもたせたこれらの兵馬俑は、当時の秦の姿をそのまま再現するかのようで、当時の秦という国の絶大な国力だけでなく、始皇帝の並々ならぬ死後の世界への期待、支配者としての矜持が感じられました。

『キングダム』の世界の理解が深まる展示品も

春秋戦国時代を舞台に、秦の中華統一に至る道のりを描く人気漫画『キングダム』と本展がコラボしていることは先述しましたが、コラボの様子がこちら。

一級文物《2号銅車馬》の複製品が置かれた『キングダム』コラボコーナー

《2号銅車馬》(複製品)が置かれた部屋をぐるりと囲むパネル展示により、同作に登場する歴史上の人物・場所や武具・装飾品と、本展の出品物を照らし合わせ、古代中国への理解を深められるようになっています。

パネル展示

この《2号戦車馬》は始皇帝陵から発掘されたもので、実物の2分の1サイズ。始皇帝の生前の巡行の威容を残しています。精巧な部品を組み合わせていることから、古代中国の青銅技術の最高峰と称えられているとか。

左のパネルに銅車馬が描かれています。

実はこの銅車馬、『キングダム』第1話で昌文君が載っていた馬車と(2頭立て、4頭立てという違いはありますが)よく似ています。このような細かな描写から作品の世界にリアリティが生まれるのだなと、あらためて魅力に気づかされます。

一級文物《青銅戟》秦、青銅、秦始皇帝陵博物院

また、作中指折りの人気キャラクターであり、嬴政(のちの始皇帝)に立ちはだかる秦国の丞相・呂不韋にゆかりがある《青銅戟(せいどうげき)》も発見。「戟」とは、戈(か)という武器に矛を付けた武器のことです。本品は兵馬俑坑で発見されたもので、「三年相邦呂不韋造」との文字が刻まれていて、呂不韋がこの武器の製造責任者であったことがわかります。

このように、本展のあちこちに『キングダム』の世界とリンクする出品物が登場しますので、ファンの方はぜひ会場の隅々までチェックしてみてください。

古代中国の人々の息遣いを感じる

《玉人》戦国秦、玉、宝鶏市陳倉区博物館
一級文物《鎏金青銅馬》漢、金、茂陵博物館

そのほか、青銅器や玉なども選り抜きの名品が揃っています。なかでも、日本初公開となる前漢の武帝が作らせたという秘宝《鎏金青銅馬(りゅうきんせいどうば)》は存在感がありました。金メッキの馬の像で、そのモデルは「一日千里を走る」と謳われた西の大宛の名馬”汗血馬”とされ、武帝がまだ見ぬ汗血馬への憧れを託して作らせたと考えられています。

《里耶秦簡》統一秦、木、里耶秦簡博物館
《鳳鳥青銅盉》春秋秦、青銅、宝鶏市陳倉区博物館
一級文物《鳳鳥銜環青銅薫形器》戦国秦、青銅、宝鶏市鳳翔区博物館

《里耶秦簡》という古代の行政文書や金印など最高級の貴重文物もあれば、貨幣や壺、甕、香炉、盤(ばん/手洗いの道具)、盉(か/酒や水をそそぐ器)、鼎(てい/肉や魚を煮るための道具)など、古代中国に生きた人々の生活が浮かび上がる品々も幅広く紹介され、古代中国の入門編としてもピッタリの内容となっていました。

ちらほらと素朴な動物モチーフの文物もあり、癒されました。《彩色陶羊尊》漢、陶、楡林市公共文化服務中心

古代中国のロマンが感じられる展覧会「兵馬俑と古代中国〜秦漢文明の遺産〜」の開催は2023年2月5日までとなっています。

 

「兵馬俑と古代中国〜秦漢文明の遺産〜」概要

会期 2022年11月22日(火)~2023年2月5日(日)
開館時間 9:30〜18:00入館は閉館30分前まで
休館日 2022年12月31日(土)〜2023年1月1日(日)
会場 上野の森美術館
主催 東京新聞、フジテレビジョン、上野の森美術館、陝西省文物局、陝西歴史博物館(陝西省文物交流中心)、秦始皇帝陵博物院
お問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル/9:00~20:00)
展覧会公式サイト https://heibayou2022-23.jp

※記事の内容は取材日(2022/11/21)時点のものです。最新の情報は展覧会公式サイト等でご確認ください。

 


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【会場レポ】総展示“毒”数 250超え! 特別展「毒」が国立科学博物館で開幕(~2023年2月19日まで)

国立科学博物館

東京・上野の国立科学博物館では2022年11月1日(火)~2023年2月19日(日)の期間、特別展「毒」が開催されています。

地球上に存在するさまざまな「毒」を、動物学、植物学、地学、人類学、理工学のスペシャリストたちが徹底的に掘り下げて紹介する本展。

開幕に先駆けて行われた報道内覧会に参加してきましたので、展示内容や会場の様子など、感想を交えつつレポートします。

会場入口
会場風景
会場風景
会場風景
会場風景

毒・毒・毒…あらゆる毒を横断的に解説する特別展

動物、植物、菌類、鉱物、さらには人工毒など、自然界や人間社会に存在するさまざまな「毒」は、大まかにまとめると「ヒトを含む生物に害を与える物質」として理解されています。

特別展「毒」は、そんな毒をもった生物や毒性ある物質を集め、毒の多様性を紹介するにとどまらず、毒とともに進化してきた生物の歴史や、古代より毒を、時には武器、時には薬として使用してきた人間と毒との関係など、「毒とはいったい何か?」を多角的に解説するもの。

毒をテーマにした特別展は、国立科学博物館では初の試みとなります。

登場する毒の総数はなんと250超え!
動物学、植物学、地学、人類学、理工学と、各研究部門のスペシャリスト9名による国立科学博物館ならではの網羅的な解説や、貴重な標本資料などが楽しめる内容になっています。

会場入口で手に入る毒クイズ。忘れずにゲットしましょう。

会場内では、クイズ王・伊沢拓司さん率いるQuizKnockが出題する「毒クイズ」を解きながら毒の知識を深められるほか、アニメ「秘密結社鷹の爪」シリーズでおなじみの「鷹の爪団」が世界征服に使えそうな毒を探索するついでに、会場内のあちこちに登場して毒の世界に対して面白いコメントを残してくれています。

「鷹の爪団」のコメントにより、さらに楽しく会場を回れます。

また、今回が初の博物館音声ガイドとなる声優の中村悠一さんによる音声ガイド毒がテーマの大人気小説『薬屋のひとりごと』のイラストを手掛ける、しのとうこ先生による描き下ろしイラストが楽しめるなど、さまざまなクリエイターが本展を盛り上げています。

報道内覧会前に行われたオープニングトークでは、本展の監修統括をつとめた国立科学博物館 植物研究部長の細矢剛さんと、本展のオフィシャルサポーターに就任した伊沢拓司さんからメッセージをいただきました。

前列、一番右が細矢さん、右から二番目が伊沢さん。周りは本展の監修者のみなさま。

細矢さんは、「この展覧会は、毒の多様性・多面性を理解してもらいたいと考えて企画されました。毒というのは物質ではありますが、自然の働き・営みというものを理解するために生み出されたアイデア・概念と考えることもできると思います。毒と向き合う姿勢は科学そのものです」と本展の企画意図を語ります。

科博の各研究部門を横断する企画ということで見せたいネタが多すぎ、情報の厳選や展示にストーリー性をもたせることに苦労したとのこと。

ベニテングタケのぬいぐるみを抱える伊沢さん

伊沢さんは、毒に対して「子どもの頃から恐怖を感じつつも、同時に魅力的で惹かれてしまう存在」というイメージをもっていたそう。本展を鑑賞してみて、「展示が重厚です! 子どもから大人まで楽しめるギミックが用意されている。見ごたえがあるので2時間は(鑑賞の)時間をとっていただきたい。僕は展示を一周するのに3、4時間はかかるかな」と内容の充実ぶりをアピールします。

「毒というと怖い印象があるので、もしかすると親御さんが子供に見せたくないと思ってしまうかもしれませんが、大事なのは正しく知って正しく恐れること。なんとなく恐れるのではなく、正しく知って、日常の中にある毒から我々は逃れられないからこそ、うまく付き合っていくこと(の大切さを)を、知識を得ながら感じていただければ嬉しい」と締めくくりました。

ハブやスズメバチの大迫力の拡大模型が来場者をお出迎え!

本展は第1章~第4章、終章の全5章構成となっています。

「生活の中の毒」パネル

毒とはどんなものか、その概念をつかむための動画やパネルが用意された「第1章 毒の世界へようこそ」では、室内や身近な野外で私たちが出会いそうな毒を紹介する「生活の中の毒」のパネルが人気を集めていました。

パネルを見て、「かびたパン」「一酸化炭素」などはフムフムといった感じですが、「ブドウ」や「ピーナッツ」など普段なにげなく食べている食材も例として挙がっていてギョッとします。(これがどんな毒になるのかは展示の最後で明かされています)

毒に対して、サスペンスで事件に用いられる毒薬や毒ヘビ、毒グモなど、なんとなく非日常のイメージをもっていましたが、「言いすぎかもしれませんが、私たちは毒に囲まれて生活しています」と解説にあるとおり、全くそんなことはないというのが早速分からされる導入部です。

「第2章 毒の博物館」展示風景

続いて本展のメインともいえる、私たちの周りのさまざまな毒や毒をもった生物を紹介する「第2章 毒の博物館」エリアに突入します。

ここでは、獲物の捕獲や無力化に用いられる「攻めるための毒」と、外敵から身を守るために用いられる「守るための毒」の解説のために制作された圧巻の拡大模型が登場!

実物比の約30倍のハブ、約40倍のオオスズメバチ、約70倍のセイヨウイラクサ、約100倍のイラガの幼虫の4体がありました。

ハブとオオスズメバチの拡大模型

キバや針をむき出しに襲い掛かろうとしているハブとオオスズメバチの模型のディティールには目を奪われます。躍動感がすごい……!

「日本の三大有毒植物」であるドクウツギ、トリカブト、ドクセリの展示
ズグロモリモズの展示

「日本の三大有毒植物」や、その毒性を遥かにしのぐ世界の有毒植物、毒をもつ世にも珍しい鳥類「ズグロモリモズ」、食用キノコと間違われやすい毒キノコ、かつて不老不死の薬だと信じられた猛毒の水銀など、バラエティに富んだ毒が次々に登場して知識欲が大いに刺激されます。

トビズムカデやツシマハリアリなど、毒虫の展示
ガンガゼやスベスベマンジュウガニなど、海岸で見られる有毒生物の展示

面白かったのは、「毒のカクテル」と表現される多様な化学物質がブレンドされた毒をもつハチにまつわる展示の一画にあった、「シュミット指数」についてのコラム。

シュミット指数のコラム

シュミット指数とは、アメリカのジャスティン・シュミット博士(1947-)が「どのハチに刺されるのが一番痛いのか」という疑問に対し、実際にハチに刺されてみる(!)ことで痛みを相対的に数値化したもの。(この研究で博士はイグノーベル賞を受賞したそうです)

「カッと熱くなるような鋭い痛み。まろやかなハヴァティチーズだと思って食べたら、極辛のハラペーニョ入りチーズだったような」など、シュミット指数に添えられた比喩表現が妙に巧みなのが笑いを誘います。

人間は毒によって進化した生物? 人間の歴史は毒とともにあった

「第3章 毒の進化」展示風景

たっぷりの毒知識を入手できる大満足間違いなしの第2章を抜けても、まだまだ展示は続きます。

ここまで生物や鉱物の世界を探検しているような空間演出でしたが、「第3章 毒の進化」からは一転、清潔感のあるラボのような雰囲気に。

ここでは毒のある生物への擬態や、有毒生物からの毒の盗用、毒に耐える性質の獲得、毒を利用した種子の散布戦略など、毒がきっかけとなった進化の例を紹介しています。

酸素の展示

たとえば、多くの生物に必要不可欠な酸素にも実は毒性があります。私たちヒトも、毒に適応して進化した生物だったのです。

また、自身が有毒動物であることを周囲に伝え、無用な争いを避ける効果がある「警告色」をもつように進化したのは、キオビヤドクガエルやアカハライモリ。

キオビヤドクガエルの展示
アカハライモリの展示

キオビヤドクガエルの「黄色×黒」の警告色は、オオスズメバチなど他の生物にもよく見られますが、アカハライモリは「赤×黒」。この違いには何か理由があるのかと思っていましたが、要は「明るい色と暗い色のコントラスト」が重要なのだとか。

「ユーカリVSコアラ」の展示

毒に耐える性質の獲得の例としては、「ユーカリVSコアラ」の展示がありました。

ユーカリは葉が硬く、繊維質が多く栄養素も少なく、さらには毒性をもつ化学物質が多く含まれるなど、草食動物から身を守る防御戦略が徹底しています。そのユーカリ林で繁殖したに成功したコアラは、ユーカリの葉の毒に耐えるさまざまな特徴を発達させた対ユーカリのスペシャリスト。かわいい顔でも体の中は強靭なんですね……!

「第4章 毒と人間」展示風景

「第4章 毒と人間」は、狩猟や戦に利用したり、「毒」を研究することにより薬を生み出したりと、私たち人間にとって毒とはどんな存在だったのかを振り返りながら、科学の進歩による毒の解明、その利用など、「毒」の研究についても紹介するエリアです。

南アフリカのボーダー洞窟で発見された約2万4000年前の「切れ目のある木の棒」のレプリカが、人が毒を使用した最古の証拠として展示されていて、人間と毒との長い歴史を感じます。

「おしろい文化」の展示

鉛や水銀など毒性がある成分が含まれる白粉が使われていた江戸時代の「おしろい文化」や、1890年に日本で発明された、植物が捕食者から身を守るために合成している毒を使った蚊取り線香など、日本文化と毒との関係も興味深いものでした。

「毒生物料理」の展示

毒の除去、無毒化によって本来なら食べられない生物を食材として生かしている「毒生物料理」の技の紹介も。

フグやウナギは知っていましたが、少し前に日本で大ムーブを巻き起こしたタピオカの原料であるキャッサバも無毒化が必要な作物だったとは……。人間の食に対する飽くなき探求心が、毒性を乗り越える原動力になっていたことが分かります。

「終章 毒とはうまくつきあおう」展示風景

ここまでの展示で、私たちのまわりは毒だらけだということがはっきりと理解できます。今でも新しい毒が生まれたり、発見されたり……ヒトは生きていく限り、毒と付き合っていかざるを得ないことが身に染みたところで、展示はラストの「終章 毒とはうまくつきあおう」へ。

会場全体を振り返り、毒というのはどういう存在か、毒から逃れられない私たちが毒とどう向き合っていくべきかをあらためて考えるための象徴的な毒の展示が、本展を締めくくります。

第2会場 展示風景

展覧会特設ショップへ向かう途中にある第2会場では、本展を監修した9名の研究員と「鷹の爪団」にとっての「毒」とは何かを聞いたインタビューを読む(見る)ことができました。

特に「毒にあたらないように注意していることはありますか?」という質問への回答は、研究者ならではの体験を交えたアドバイスになっているのでぜひ一読を。

展覧会特設ショップの様子

展覧会特設ショップではTシャツや図鑑風下敷き、ポップなデザインのポーチなど本展オリジナルグッズが多数販売中。ベニテングタケやツキヨタケの大きなぬいぐるみもかわいいですが、なかでも『特別展「毒」焼印入まんじゅう』はドッキリアイテムとしておすすめ。中身の餡もむらさき芋使用で毒々しさマシマシです。

特別展「毒」焼印入まんじゅう(6個入/税込972円)

毒の神秘と驚きに触れながら、ヒトと毒との関係の「これまで」と「これから」を考える特別展「毒」。一部、ムカデや毒虫など人を選ぶ展示もあるので苦手な方は注意が必要ですが、ぜひ皆さんも、奥深い毒の世界に足を踏み入れてみてください。

特別展「毒」概要

会期 2022年11月1日(火)~2023年2月19日(日)
※会期等は変更になる場合があります。
会場 国立科学博物館(東京・上野公園)
開館時間 9時~17時(入場は16時30分まで)
休館日 月曜日、12月28日(水)~1月1日(日・祝)、1月10日(火)
※ただし1月2日(月・休)、 9日(月・祝)、2月13日(月)は開館。
入場料(税込) 【一般・大学生】2,000円 【小・中・高校生】600円

※入場にはオンラインによる日時指定予約が必要です。
※未就学児や、障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料です。日時指定予約は必要となりますのでご注意ください。

お問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト https://www.dokuten.jp/
主催 国立科学博物館/読売新聞社/フジテレビジョン
監修 ・細矢 剛(国立科学博物館 植物研究部長)
・中江 雅典(国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹)
・吉川 夏彦(国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究員)
・井手 竜也(国立科学博物館 動物研究部 陸生無脊椎動物研究グループ 研究員)
・田中 伸幸(国立科学博物館 植物研究部 陸上植物研究グループ長)
・保坂 健太郎(国立科学博物館 植物研究部 菌類・藻類研究グループ 研究主幹)
・堤 之恭(国立科学博物館 地学研究部 鉱物科学研究グループ 研究主幹)
・坂上 和弘(国立科学博物館 人類研究部 人類史研究グループ長)
・林 峻(国立科学博物館 理工学研究部 理化学グループ 研究員)

※記事の内容は取材日(2022/10/31)時点のものです。最新の情報は展覧会公式サイト等でご確認ください。

 

記事提供:ココシル上野


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【会場レポ】特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」がついに開幕!国宝89件が全公開、三日月宗近など19の刀剣が揃う「国宝刀剣の間」も

東京国立博物館

※本記事は2022年10月22日に作成されたものです。紹介した展示作品の中にはすでに展示期間を終了しているものもありますのでご注意ください。(2022年12月1日)

 

2022年10月18日〜12月11日の期間、東京国立博物館(以下、東博)では特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」が開催されています。

創立150周年というメモリアルイヤーを記念した本展では、東博が所蔵する国宝89件すべてに加え、重要文化財も多数出品! 美術ファンでなくても見逃せない内容になっています。

開催に先立って行われた報道内覧会に参加してきましたので、その豪華すぎる会場の様子を詳細レポートします。

 

*本展は事前予約制(日時指定)です。
*会期中展示替えがあります。
*特別な記載のない作品はすべて東京国立博物館所蔵です。

展示風景「国宝刀剣の間」
展示風景
展示風景、狩野長信筆《花下遊楽図屛風》江戸時代 17世紀 展示期間 : 10/18~11/13
展示風景、写真手前は《扁平鈕式銅鐸》伝香川県出土、弥生時代、前2~前1世紀、展示期間 : 10/18~12/11

この先50年は実現困難!?驚異の展覧会の幕開け

特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」は、150年という日本で最も長い歴史をもつ博物館・東博の全貌を紹介するべく、約12万件という膨大な所蔵品の頂点ともいえる国宝89件すべてを含む名品と、明治時代から続く150年の歩みを物語る関連資料を展示する展覧会です。

東博の国宝コレクションは日本最大で、89件というのは現在国宝に指定されている美術工芸品の約1割に当たります。その数だけ見ても、本展がどれだけスペシャル仕様なのかがお分かりいただけるはず。

もちろんこのような展覧会は前代未聞、史上初!
今年5月に行われた報道発表会では、東博の研究員の方々ですら、国宝89件すべてを勢ぞろいさせた光景は今まで見たことがないと語っていました。

数年前からの細かな展示計画の調整が非常に大変だったそうで、「次の開催は200周年のとき、50年後かもしれません」とのお話でした。一生に一度のチャンスの可能性もあるので、気になっている方は意地でもスケジュールを調整してほしいところ。

長谷川等伯、雪舟、本阿弥光悦…美の神髄は今、東博で出会える

本展は「第1部 東京国立博物館の国宝」「第2部 東京国立博物館の150年の歩み」の2部構成となっています。

「第1部 東京国立博物館の国宝」は、見渡す限り国宝のみがシンプルに展示されているエリア。国宝89件の内訳は、絵画21件、書跡14件、東洋絵画4件、東洋書跡10件、法隆寺献納宝物11件、考古6件、漆工4件、刀剣19件です。

 

*展示替えを含めての「すべて公開」ですので、一度訪れるだけでは国宝全件を鑑賞できない点はご注意ください。(どのタイミングでも、1回の観覧で鑑賞できる国宝は60件前後になるようです)
また、展覧会公式サイトでは全件の展示スケジュールが公開されています。

長谷川等伯筆《松林図屛風》安土桃山時代、16世紀 展示期間 : 10/18~30

会場に入ると、まずは挨拶代わりに安土桃山時代に活躍した絵師・長谷川等伯の代表作《松林図屛風》が登場。

「東博といえばこれ」と感じる国宝のひとつですが、その高潔な佇まいに、見るたび息を飲みます。松林を取り巻く清涼な大気の湿度すら感じられる画面、墨一色でここまで描けてしまうものなのかと。松は幻のように幽玄な雰囲気をまとっているのに、近づいて見れば筆致が驚くほど激しいことに圧倒されます。

日本水墨画の最高峰と言われていますが、「実は下絵だったのでは疑惑」があるのが面白いポイント。

展示風景、渡辺崋山筆《鷹見泉石像》江戸時代 天保8年(1837)展示期間 : 10/18~11/13
雪舟等楊筆《秋冬山水図》室町時代、15〜16世紀、展示期間 : 10/18~11/13
《孔雀明王像》平安時代、12世紀、展示期間 : 10/18~11/13

平安時代を代表する仏画《孔雀明王像》はシンメトリーな構図が美しく、赤、金、緑、藍など彩色も華麗で目を引きました。

肌は淡く赤がにじみ、輪郭線も桃色でふっくらと柔らかい印象を受けます。明王は怒った顔がデフォルトですが、孔雀明王は例外で、こちらの孔雀明王も菩薩のように柔和で慈愛溢れる表情を浮かべています。向かい合うとどんどん心が穏やかに……。

さらによく目を凝らすと、衣服やアクセサリー、孔雀の羽などに見られる金箔や金泥を用いた截金文様のすばらしいこと! 経年で褪せているので気づきにくいですが、特に下半身の衣服の職人芸は必見。当時はどれだけ煌びやかに輝いていたのでしょうか。

人々の災いを取り除くとされる孔雀明王ですが、手に持つ吉祥果が子孫繁栄の象徴とも見なされる柘榴であることから、高位の貴族が安産祈願のために描かせたものでは、と考えられているとか。

《平治物語絵巻 六波羅行幸巻》鎌倉時代、13世紀、松平直亮氏寄贈、展示期間 : 10/18~30
《平治物語絵巻 六波羅行幸巻》(部分)

鎌倉時代に描かれた合戦絵巻の傑作《平治物語絵巻 六波羅行幸巻》も要注目。

平治の乱を題材に、幽閉された二条天皇が女房姿で脱出を図り、平清盛の六波羅邸に逃れる前後の様子が描かれています。武士たちの甲冑や刀剣のリアルな描写を楽しめる作品ですが、全長が約9m50cmもあるため、スペースの関係で普段の展覧会ではなかなかすべてを広げることは少ないそう。

しかし、そこはさすが国宝展! 全場面を漏れなく鑑賞できるように展示してくださっていました。ただし、公開は10月30日まで。2週間限定展示なので注意です。

小野道風筆《円珍贈法印大和尚位並智証大師諡号勅書》(部分)、平安時代、延長5年(927)展示期間 : 10/18~11/13
《古今和歌集(元永本)》上帖、平安時代、12世紀、展示期間 : 10/18~12/11、会期中、頁替えあり

書跡では、聖武天皇が書いたと伝わる、墨をたっぷり含んだ堂々たる大字が魅力であり、かつては手鑑の冒頭を飾る名筆として珍重されたという《賢愚経残巻(大聖武)》(奈良時代、8世紀、展示期間 : 10/18~11/13)や、三蹟の一人であり、紫式部が『源氏物語』の中で「今めかしうをかしげに目もかがやくまでみゆ(=今風で美しい書はまばゆいほどに見える)」と絶賛した能書家・小野道風による《円珍贈法印大和尚位並智証大師諡号勅書》などが鑑賞できます。

原装幀のまま『古今和歌集』を完存する現存最古の遺品である《古今和歌集(元永本)》は、文字だけでなく菱唐草文や孔雀唐草文などが雲母摺りされた、平安貴族たちの美意識を感じる豪華な料紙も見どころ。

ほとんど仮名で構成された書であり、料紙に合わせた軽快な筆づかいからは、口に出して読んだときの和歌のリズムも伝わってくるようでした。

李迪筆《紅白芙蓉図》、中国・南宋時代、慶元3年(1197)、展示期間 : 10/18~11/13
《竜首水瓶》飛鳥時代、7世紀、展示期間 : 10/18~12/11
本阿弥光悦作《舟橋蒔絵硯箱》江戸時代、17世紀、展示期間 : 10/18~11/13
《埴輪 挂甲の武人》古墳時代、6世紀、展示期間 : 10/18~12/11
《江田船山古墳出土品》3点。写真左は《金銅製沓》朝鮮・三国時代、5~6世紀、展示期間 : 10/18~12/11

便宜上、数の多い絵画と書跡の作品のいくつかをご紹介してみましたが、正直いって見どころしかありません!

《江田船山古墳出土品》など、一部作品については「こんな国宝もあったんだ」と知る機会になりましたが、基本的に古いものでは紀元前から19世紀の江戸時代まで、教科書でおなじみの作品が息つく間もなく登場します。作品のキャプションに「現存最古の~」や「最高峰の~」といったただならぬ形容詞が当たり前のように並んでいるのが恐ろしいところ。

国宝群のオーラに脳を焼かれますので、鑑賞の際にはぜひ体調をしっかり整えて、滞在時間を十分に確保して休み休み臨まれるのをおすすめします。

会場風景

ちなみに、写真のようにかなり広めに展示スペースが取られていて、椅子も多く設置されていたので、自分のペースで回ることができそうです。

会期が進むと、狩野永徳筆《檜図屛風》(展示期間:11/1〜11/27)、岩佐又兵衛筆《洛中洛外図屛風(舟木本)》(展示期間:11/15~12/11)、尾形光琳作《八橋蒔絵螺鈿硯箱》(展示期間 : 11/15~12/11)などが登場予定。

三日月宗近の“三日月”も堪能できる!「国宝刀剣の間」

「国宝刀剣の間」
《梨地螺鈿金装飾剣》平安時代、12世紀、展示期間 : 通期

開幕前からSNSなどで話題になっていましたが、第1部の後半には19件の国宝刀剣のみを集めた「国宝刀剣の間」が出現。

相州正宗《刀 金象嵌銘 城和泉守所持 正宗磨上 本阿(花押)》鎌倉時代、14世紀、展示期間 : 通期

刃文や地金をより美しく鑑賞してほしいと、展示ケースや照明には非常にこだわったというお話。たしかに、空間全体が暗いため、作品のライティングが非常に映えます。

厳かな雰囲気の中でぼうっと浮かび上がる刀剣。きらめく切っ先の艶やかな美しさには、思わず感嘆の吐息がこぼれました。

長船長光《太刀 銘 長光(大般若長光)》鎌倉時代、13世紀、展示期間 : 通期
古備前包平《太刀 銘 備前国包平作(名物 大包平)》平安時代、12世紀、展示期間 : 通期

人気ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』でキャラクターのモチーフになった三日月宗近、大包平、大般若長光、小龍景光、厚藤四郎、亀甲貞宗の姿も発見!
ファンにはたまらない空間ではないでしょうか。

三条宗近《太刀 銘 三条(名物 三日月宗近)》平安時代、10~12世紀、展示期間 : 通期

注目を集めていたのは「国宝刀剣の間」の中央に展示されていた、優美な太刀姿の三日月宗近。京都・三条で平安時代後期に活躍した、日本刀成立初期の名工と名高い宗近の代表作であり、数ある日本刀の中でも名刀中の名刀とされる「天下五剣」の一つに数えられています。

三条宗近《太刀 銘 三条(名物 三日月宗近)》(部分)

刃文に「打ちのけ」と呼ばれる、小さなキズのようなものが連なっているのが見えました。これが三日月のようだ、美しい、珍しいということで「三日月」の号がついたとか。

筆者はこれが三日月宗近との初対面。名前の由来は知っていたものの、誰が見ても三日月とわかる大きな模様がひとつ刻まれているのだと勝手に思い込んでいたので、実際は小さく点々と打ちのけが入っていたことに驚きました。

正直、「三日月に見え……見えるか……?」という第一印象でしたが、当時の人々がこれを見て三日月を連想した、その風流で豊かな感性が胸に響きます。

耆安綱《太刀 銘 安綱(名物 童子切安綱)》平安時代、10~12世紀、展示期間 : 通期

事前の報道発表会で、「三日月宗近と同じく日本刀成立初期の名刀として有名な童子切安綱は、実は刃の寸法がまったく同じ。どちらも刃の長さが80cm、反りが2.7cm」というお話を聞いていたので、「そんな偶然があるんだ!」と実際に見比べてみることに。

外見の印象はかなり異なっていて、三日月宗近は切っ先に向けて細くなっていく、優美という言葉がぴったりの細身の刀。一方で童子切安綱は、全体的にどっしりと、どことなく野性味のある力強い太刀姿です。また、三日月宗近は持ち手の茎(なかご)の部分と刃の境でグッと角度がついているというか、強く沿っていますが、童子切安綱は茎と刃でなめらかにカーブを描いているように見えました。

この違いは、京の都を拠点とした宗近に対し、伯耆の国(現在の鳥取県)を拠点とした安綱という作者の居住地の地域文化が、刀の姿に反映されているのではないか、ということでした。同じ国宝、同じ時代、同じ寸法の刀剣の、まったく異なる美しさを堪能する。この贅沢な楽しみ方ができるのも本展ならではでしょう。

出展作品の中でも刀剣は特に、光を刀身に滑らせることで初めて見えるものがあるというか、写真では伝わらない美しさの比率が大きいと感じます。こだわりが詰まった最高の展示空間でその魅力を堪能できますので、刀剣ファン以外の方にも心からおすすめ!

なお、刀剣に関しては19件すべてが通期で公開されています。

キリンの剥製も約100年ぶりに里帰り!東博150年の歩みを振り返る

「第2部 東京国立博物館の150年」

東博は明治5年(1872)に旧湯島聖堂の大成殿で開催された「湯島聖堂博覧会」をきっかけに誕生した「文部省博物館」がルーツ。日本の近代化を図るとともに、日本文化の国内外への発信、文化財の保護を目的に、当初は博物館のほか、植物園、動物園、図書館の機能を併せもつ総合博物館を目指していたそうです。

明治15年(1882年)、上野に拠点を移して活動を本格化。明治19年(1886)に博物館は宮内省所管となり、明治22年(1889)に「帝国博物館」、明治33年(1900)に「東京帝室博物館」と改称されます。この頃は国家の文化的象徴、さらには皇室の宝物を守る美の殿堂と位置付けられ、だんだんと歴史・美術の博物館としての性格を強めていきました。

昭和13年(1938)に現在の本館が開館し、終戦後に所管は宮内省から再び文部省へ。昭和27年(1952)に名称が現在の「東京国立博物館」となり、東洋館、資料館、法隆寺宝物館などを新しい施設を充実させながら今日に至ります。

国宝展、続く「第2部 東京国立博物館の150年」では、そんな東博の150年の歴史を物語る収蔵品や関連資料を3期に分けて展示。明治からの歩みを追体験できます。

名古屋城金鯱の実物大レプリカ

「第1章 博物館の誕生(1872-1885)」では、初期の東博コレクションを中心に、東博誕生のきっかけとなった湯島聖堂博覧会で展示された作品なども紹介。博覧会の雰囲気を再現するため、当時最も人気を集めたという名古屋城の金鯱の実物大レプリカが置かれています。

一部の展示ケースも、100年以上前に実際に使用されていたものを修理して活用したとのことなので、ぜひ注目してみてください。レトロな雰囲気がたまりません。

湯島聖堂博覧会で評判になった品々を描いた《古今珎物集覧》/一曜斎国輝筆《古今珎物集覧》明治5年(1872)、展示期間:通期

明治期の日本の工芸技術の高さを世界に知らしめた《褐釉蟹貼付台付鉢》《鷲置物》には、令和に生きる筆者も目を見張りました。

重要文化財、初代宮川香山作《褐釉蟹貼付台付鉢》明治14年(1881)、展示期間:通期
重要文化財、鈴木長吉作《鷲置物》明治25年(1892)、展示期間:通期

輸出陶磁器の先駆者だった初代宮川香山による《褐釉蟹貼付台付鉢》は、明治14年(1881)に上野公園で開催され、約4ヶ月で80万人以上を動員したという第二回内国勧業博覧会の出品作。今にも動き出さんばかりのリアリティがある蟹が器の縁に爪をひっかけているというダイナミックな構図の作品です。

一方の《鷲置物》は、明治時代を代表する蠟型鋳造の達人・鈴木長吉の代表作。明治26年(1893)に米国で開催されたシカゴ万国博覧会に出品された後に東博に収蔵されました。遠目には剥製と見紛うばかりに生き生きとしていて、今にも獲物を狙って飛びだしそうな躍動感がお見事。

《砲弾(四斤山砲)》東京都台東区上野公園採取、明治時代、19世紀 展示期間:通期

また、東博誕生の関連資料として《砲弾(四斤山砲)》の展示も。

明治元年(1868)に起こった上野戦争の際、寛永寺に立てこもった彰義隊ら旧幕府軍に対して明治新政府軍が撃ち込んだとされる砲弾の実物です。現在は東博の北側に隣接する寛永寺ですが、実は江戸時代には上野公園の土地は寛永寺の境内でした。

彰義隊をかくまったと見なされた寛永寺は、一度すべての境内地を没収されます。その後紆余曲折あり、土地の大部分が上野公園へと姿を変え、近代化をアピールするため博物館を立てたり、博覧会を開催したりするようになりました。上野戦争で焼け野原になり、街づくりをするのにちょうどいい土地だったからこそ、今日の上野公園、引いては東博があるのだと思うと……。悲しい出来事ではありますが、上野戦争も東博誕生のきっかけのひとつと言えるのかもしれません。

《鳳輦》江戸時代、19世紀、展示期間:通期

「第2章 皇室と博物館(1886-1946)」では、宮内省所管時代の東博にフィーチャー。皇室とのゆかりを示す作品も紹介しています。

皇室関係では、巨大な《鳳輦》(ほうれん)と呼ばれる乗り物がひときわ高貴なオーラを出していました。鳳輦は天皇が行幸の際に使用されるもので、こちらの鳳輦は実際に孝明天皇や明治天皇がお乗りになったとか。

黒田精輝筆《瓶花》大正元年(1912年)、展示期間:通期

明治23年(1890)に、優れた美術家の保護奨励制度として皇室により創設された「帝室技能員制度」というものがあり、帝室技能員たちの優品は宮内省所管時代の東博に多く収蔵されたといいます。

《瓶花》は、洋画家とした初めて帝室技能員に任命された明治洋画壇の重鎮・黒田清輝の作品です。画面右下には「黒田清輝謹写」と署名があり、これは黒田の作品には珍しいことなのだとか。帝室への献品という特別な来歴をうかがわせるものです。

《キリン剥製標本》明治14年(1908)、国立科学博物館蔵、展示期間:通期

また、総合博物館を目指していたころの東博の名残を感じるキリンの剥製標本も登場!

動植物や鉱物の標本などの天産(自然史)資料は関東大震災後、東京博物館(現在の国立科学博物館)に譲渡されましたが、こちらの剥製は本展のために、約100年ぶりに里帰りする形になりました。

彼は明治40年(1907)にドイツから生きたまま日本へやってきた初めてのキリン2頭のうちの1頭で、名前は「ファンジ」。当時東博の一部だった上野動物園で飼育され、多くの人々から人気を集めたそうです。

重要文化財、尾形光琳筆《風神雷神図屛風》江戸時代、18世紀、展示期間:10/18~11/13

「第3章 新たな博物館へ(1947-2022)」では、終戦後、国民のための開かれた博物館としての東博が、時代の変化や社会の変化に応じて今日まで取り組んできた活動とこれからの展望を、代表的な戦後コレクションとともに紹介しています。

重要文化財である尾形光琳の《風神雷神図屏風》や「土偶といえばこれ」な方も多いだろう《遮光器土偶》など、国宝エリアに負けず劣らず、こちらにも有名作品が多数展示されていました。

重要文化財、《遮光器土偶》縄文時代、前1000~前400年、展示期間:通期
重要文化財、《伝源頼朝坐像》鎌倉時代、13~14世紀、展示期間:通期
重要文化財、《縫箔 紅白段草花短冊八橋模様》安土桃山時代、16世紀、展示期間:通期

令和の最新コレクションとして、今年2月に東京国立博物館の所蔵品となった《金剛力士立像》の姿も。

《金剛力士立像》平安時代、12世紀、展示期間:通期

この2体はかつて滋賀県・蓮台寺の仁王門に安置されていましたが、昭和9年(1934)の室戸台風で大破してしまったのだとか。長らく壊れたままでしたが、約2年間かけて修理されかつての姿を取り戻し、本展で初お披露目となりました。

数少ない平安時代末期の金剛力士立像で、大きさは2m80cmほどあり、東博の所蔵する仏像の中でも最大のもの。たくましい肉体や怒りの表情を360度からじっくり観賞できます。

また、本作は文化財の収集・保管と保存・修復といった東博の基本的な活動を紹介するものでもあり、会場では修理の様子が映像で紹介されていました。

菱川師宣筆《見返り美人図》江戸時代、17世紀、展示期間:10/18~11/13(11/15~12/11には複製画を展示)

出口では菱川師宣の《見返り美人図》が来場者を見送ってくれます。それとも、名残惜しさに思わず会場を振り返る来場者の気持ちを表しているのでしょうか。

ちなみに、《金剛力士立像》と後述の《見返り美人図》のみ写真撮影OKとなっていました。


 

「ツタンカーメン展」(1965年)、「モナ・リザ展」(1974年)など、東博では150年の歴史の中で人々に語り継がれる展覧会がいくつか開催されてきましたが、本展「国宝 東京国立博物館のすべて」も、きっとその中の一つとなることでしょう。

東京国立博物館創立150年記念 特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」開催概要

※本展は事前予約制(日時指定)です。詳しくは展覧会公式サイトでご確認ください。
※会期中、一部作品の展示替えが行われます。

会期 2022年10月18日(火)~12月11日(日)
会場 東京国立博物館 平成館
開館時間 午前9時30分~午後5時
※金曜・土曜日は午後8時まで開館(総合文化展は午後5時閉館)
休館日 月曜日
観覧料(税込) 一般 2,000円、大学生 1,200円、高校生 900円

※本展は事前予約制(日時指定)です。
※中学生以下は無料。ただし事前予約が必要です。入館の際に学生証をご提示ください。
※障がい者とその介護者1名は無料。事前予約は不要です。入館の際に障がい者手帳等をご提示ください。入館は閉館の30分前までとなります。
※東京国立博物館正門チケット売り場での販売はございません。

主催 東京国立博物館、毎日新聞社、NHK、NHKプロモーション、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁
お問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト https://tohaku150th.jp/

※記事の内容は取材時点のものです。最新の情報は公式サイト等でご確認ください。

 

記事提供:ココシル上野


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