台東区立一葉記念館 特別展「下谷龍泉寺町(ものがたりのまち)の樋口一葉」取材レポート

台東区立一葉記念館


 
下谷龍泉寺町にある台東区立一葉記念館は、明治時代の女流作家・樋口一葉がかつて荒物・駄菓子屋を開いたゆかりの地にあります。
 
一葉はこの地で過ごした約10カ月の間に名作『たけくらべ』の構想を得たとされています。
 
今年は一葉が下谷龍泉寺町に転居して125年。
 
これを記念して、一葉記念館では2018年11月10日(土)~2019年1月27日(日)の期間、下谷龍泉寺町転居125年記念特別展「下谷龍泉寺町(ものがたりのまち)の樋口一葉」が開催されています。
 
特別展を取材してきましたので、その様子をお伝えします。


展示室は2つに分かれており、第一展示室では「巻きの一」で下谷龍泉寺町に来る前の一葉の生活を、「巻きの弐」でこの地での一葉の生活を紹介しています。
 

第一展示室

 
巻きの一 下谷龍泉寺町へ
 
17歳で父を亡くした一葉は、一家の大黒柱として母と妹の生活を担っていました。
 
小説を発表して稿料を得ていたものの、生活が立ち行かなくなり、新たに商売を始めるべく下谷龍泉寺町に越してきます。
 
展示品の借用書や書簡が一葉の当時の生活が厳しかったことを物語っています。また、当時の下谷龍泉寺町の写真はほとんど残されていないため、絵画でその様子を伺い知ることができます。
 

 
 
樋口家の女3人で営む荒物・駄菓子屋には近隣に住むこどもや吉原遊郭で働く人々が訪れますが、一葉はそうした交流を通して人々を観察し、「社会の片隅で生きる人々の声なき声をすくいあげる」というその後の小説のテーマが形成されていくことになります。
 
荒物・駄菓子屋の模型。店頭には草鞋や石鹸、蝋燭が並ぶ

 
一葉の名作『たけくらべ』は下町の少年少女の淡い恋を取り上げたもので、下谷龍泉寺町近辺が舞台となっており、作品に千束稲荷神社や鷲神社が登場します。 
 
 
巻きの弐 現実と志のはざまで
 
当地での一葉の生活を紹介しています。
 
母と妹と。一葉18歳のころの写真。

 
一葉は、野々宮起久子という女性と下谷龍泉寺町在住時に深く交流をしていました。一葉から野々宮さんに宛てた直筆の手紙が展示されています。達筆です。
 
野々宮起久子宛書簡 明治26年(1893)9月28日付 樋口夏子(一葉)

 
一葉は当地に越してくる以前、「萩の舎」という歌塾にて和歌や古典文学を学んでおり、そこで書の素養も身につけました。
 
一葉が亡くなるまで使用していた文机のレプリカも展示されています。象牙がはめ込んである豪華なもので、父親から買い与えられたものだそう。
 

幼少期の裕福な暮らしがしのばれます。文机の実物は目黒区の日本近代文学館に保管されています。


第二展示室では、下谷龍泉寺町での生活が『たけくらべ』にどのように影響したのか、7つのファクターに焦点を当て解き明かしています。
 

第二展示室

 
 
一葉は当初、小説家ではなく和歌の先生を志望していました。
 
「萩の舎」発会写真 明治24年(1891)2月

一葉が和歌を学んだ「萩の舎」には名家の令嬢が多く通っていました。その中で爵位を持たない一葉には時に苦労もあったと考えられています。ある時など一葉はつぎはぎだらけの着物を着用して「萩の舎」を訪れました。
 
その着物のレプリカが展示されています。上から羽織を着ればつぎはぎが見えないよう、一葉の妹・くにさんが苦心して縫い上げたものだそう。
 

 
一葉は下谷龍泉寺町での約10カ月の生活ののち、店をたたみ本郷丸山福山町に転居します。
 
そして、そこで死去するまでの14カ月の間に『たけくらべ』を含む多くの作品を書き上げます。この期間は「奇跡の14カ月」と呼ばれています。
 
生活のために下谷龍泉寺町へとやってきた一葉ですが、当地で出会った人々との交流からその後の執筆生活の糧となるインスピレーションを得ました。
 
今回の特別展示によって一葉の創作熱がどのように刺激されたのかが明らかとなることでしょう。
 
 


常設展では、主に一葉亡き後の作品を紹介しています。
 
一葉の生前、作品は雑誌に掲載されており、小説等の単行本は販売されていませんでした。
 
一葉の最後の著作であり、生前に発表された唯一の単行本がこちらの『日用百科全書第12編 通俗書簡文』。一葉の筆による手紙の例文集です。
 

左・『日用百科全書第12編 通俗書簡文』明治29年(1896)5月25日 博文館
右・『日用百科全書第4編 家政案内』明治28年(1895)8月20日 博文館

 
一葉の妹・くにさんは一葉の死後も作品の保存に熱心でした。戦時下でも一葉の作品の原稿や短冊を持って疎開されたそうです。
 
現在わたしたちがこうして一葉の原稿等を目にすることができるのは、くにさんに負うところが大きいのです。
 
そのくにさんが雑誌「婦人世界」に「賃仕事までした我が姉一葉の面影」というエッセイを寄稿しています。
 
「婦人世界」第6巻第8号 明治44年(1911)7月1日 東京實業之日本社

近親者から見た等身大の一葉の姿をいまに伝える、大変貴重な資料となっています。
 
 
1984年に蜷川幸雄氏の演出によって舞台化された一葉原作の「にごり江」。舞台美術を担当された朝倉摂さん自らが手掛けた舞台模型が展示されています。
 
「にごり江」舞台模型 1984年(昭和59年)制作:朝倉摂

 


特別展では一葉の『たけくらべ』創作の土台となった下谷龍泉寺町での生活が包括的に紹介されているので、観覧後はより一層興味深く作品に接することができるように思いました。
 
 

記念館向かいの一葉記念公園に建つ「一葉女史たけくらべ記念碑」

 
下谷龍泉寺町転居125年記念特別展「下谷龍泉寺町(ものがたりのまち)の樋口一葉」は2019年1月27日まで開催されています。記念館にお越しの際は、周辺を散策して『たけくらべ』の世界に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
 

展覧会概要

 

展覧会名 下谷龍泉寺町転居125年記念特別展「下谷龍泉寺町(ものがたりのまち)の樋口一葉」

会期 2018年11月10日(土)~2019年1月27日(日)

会場 台東区立一葉記念館(台東区竜泉3-18-4)
第1・2展示室

開館時間 9:00~16:30(入館は16:00まで)

休館日 毎週月曜日(祝休日と重なる場合は、翌平日)、年末年始 12/29~1/3

入館料 個人/大人 300円、小・中・高校生 100円
団体/大人 200円、小・中・高校生  50円 
※団体は20名以上
※障がい者手帳および特定疾患医療受給者証をお持ちの方とその介助の方は無料です。
※毎週土曜日は、台東区内在住・在学の小・中学生とその引率者の入館料が無料です。

TEL 03-3873-0004

公式HP http://www.taitocity.net/zaidan/ichiyo/


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旧博物館動物園駅 一般公開記念インスタレーション『アナウサギを追いかけて』プレスツアー取材レポート

上野公園の向かい、東京国立博物館のわきにぽつんと佇むこちらの建物。
 

 
かつては東京帝室博物館(現・東京国立博物館)や恩賜上野動物園の最寄り駅として利用されてきた京成電鉄 旧博物館動物園駅です。
 
利用者の減少に伴い、1997年には営業を休止していましたが、2018年4月には景観上重要な歴史的価値を持つ建造物として、鉄道施設としては初めて「東京都選定歴史建造物」に選定されました。
 
これを機に改修工事が実施され、さらに東京藝術大学美術学部長であり、UENOYES※総合プロデューサーの日比野克彦氏がデザインした出入り口が新設されました。

※社会包摂をテーマにしたアートプロジェクト。文化を起点に人々の新たな社会参画を目的として、障害などの有無にかかわらず、子どもから大人まで、人種や国を超えたさまざまな人々とともに、年間を通して多彩なプログラムを展開し、上野から世界に向けて発信しています。

 
京成電鉄 旧博物館動物園駅駅舎の一部が一般公開されます。それにあわせ、駅舎内ではUENOYESのプロジェクトの一環である「歴史的文化資源活用プログラム」として期間限定のインスタレーション作品『アナウサギを追いかけて』が展示されます。
 
それに先立ち行われたプレスツアーに参加しましたので、その様子をお伝えします。


新設された扉を開けて、いざ中へ。

扉のデザインは日比野克彦氏によるもの

扉を開けると、そこには巨大なアナウサギが!

旧博物館動物園駅の改札が地下にあることから、本作では土を掘って巣穴をつくる習性を持つアナウサギをモチーフとしているそうです。

駅舎天井
多くの人に愛された当駅。駅舎の壁には現役当時の落書きが残されています。
旧博物館動物園駅公開記念入場券
アナウサギのお面をつけた案内人がわたしたちを地下へと誘います。
切符を切ってもらい、地下に降りていきます。
地下には「失われたものの再生」について書かれた本。観覧者も椅子に座ってページを繰ることができます。
3Dプリンタで再現された動物の頭蓋骨のユニークなディスプレイ。こちらにも触れることができます。
中央には駅舎が営業を停止した1997年に亡くなったジャイアントパンダのホァンホァンの頭蓋骨の実物が。そばに佇むのは国立科学博物館・動物研究部 支援研究員理学博士で、本作の技術協力の森健人さん。
ホァンホァンの頭蓋骨はレプリカも用意されているので、ぜひ触れてみてください。
トイレ表示の前に展示されているヒトの頭蓋骨のレプリカ。なんだかシュールです。
駅舎内に残る多くの落書きへのオマージュとして、地下につながるガラス戸にペンで落書きをすることができます。落書きがいっぱいになったらアーカイブ化する予定とのこと。
地下の改札、そしてホームへと続く階段。ここから先へは進むことができませんが、ガラス戸越しに当時の姿をしのぶことができます。

演出の羊屋白玉さんが上野についてのリサーチを基に書き下ろした物語を美術のサカタアキコさんが形にし、そして国立科学博物館・動物研究部 支援研究員理学博士森健人さんの技術協力によって実現した今回の展示。
 

左から演出の羊屋白玉さん、技術協力の森健人さん、美術のサカタアキコさん。

 
羊屋さんもサカタさんも、この駅舎は「アーティストにとってインスパイアされる空間」であると言います。
 
森さんは普段骨格標本を3Dスキャン・プリンタしたものを作成していますが、それを人の目に触れることができたらと考えていたときに羊屋さんから声がかかったそうです。旧博物館動物園駅が営業を休止したのは1997年のことでしたが、森さんの発案により、同年に亡くなったジャイアントパンダのホァンホァンの頭蓋骨の実物展示が叶いました。
 
こうして出来上がったインスタレーション作品『アナウサギを追いかけて』。扉を開けた瞬間から見るものを引き込んでしまう、独特の世界観が漂います。
 
入口のアナウサギや本、頭蓋骨のレプリカには実際に触れることができますし、ガラスには落書きをすることもできます。
 
旧博物館動物園駅を利用したことのある方でもない方でも、駅舎の歴史に思いをはせつつ作品を楽しめることでしょう。
 
2019年2月24日までの期間限定の展示となるので、この機会に旧博物館動物園駅に足を運んでみてはいかがでしょうか。
 

旧博物館動物園駅の公開と展示
「アナウサギを追いかけて」開催概要

 

会期 2018年11月23日(金・祝)~2019年2月24日(日)までの毎週金・土・日曜日
※12月28日~30日を除く計39日間

時間 11:00~16:00
※最終入場は15:30まで(定員制・混雑時は入れ替え制)

場所 旧博物館動物園駅 駅舎

入場料 無料

 
関連イベントも開催されます。詳しくは公式サイトでご確認ください。
 
記事提供:ココシル上野


 
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