【国立西洋美術館】「ルーベンス展-バロックの誕生」内覧会レポート

国立西洋美術館


2018年10月16日(火)~2019年1月20日(日)の期間、国立西洋美術館で 「ルーベンス展-バロックの誕生」が開催されます。10月15日に内覧会が開催されましたので、その様子をお伝えいたします。

 

17世紀バロック美術を代表する画家、ペーテル・パウル・ルーベンス(1577ー1640)。
動きの多い劇的な構図、華麗な色彩、豊満にして魅惑的な裸体表現。その作風に魅せられた人々によって「王の画家にして画家の王」と最高の賛辞を送られたルーベンスは、諸外国にまでその名を轟かせました。

ルーベンスが工房を構えて活動の拠点としたのは現在のベルギーの町アントウェルペンですが、画家として独立した直後の8年間、イタリアで過ごしていたことは日本ではあまり知られていません。ルーベンスはヴェネツィアやマントヴァ、特にローマでさまざまな表現を吸収して画風を確立させ、帰郷後にそれを発展させていったのです。

本展は、ルーベンスとイタリアの関わりに注目し、その創造の秘密を解き明かそうとする試みです。ルーベンスと古代美術、イタリアの芸術家たちの作品計71点を展示し、ルーベンスがイタリアの作品からいかに着想を得、そして与えたのかについて探ります。

 

第一章 ルーベンスの世界

 

本展覧会は7部構成。時系列ではなくテーマ別に作品を展示し、ルーベンスとイタリア、双方向の交流からその着想の源を探ります。序章となる本章では、彼の代表的な肖像画作品が展示され、イタリアの画風を貪欲に吸収したその技法の特徴や、家族への愛情あふれる眼差しを垣間見ることができます。

 

こちらは《クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像》という作品。最初の妻イザベラ・ブラントとの間に生まれた長女クララ・セレーナを描いたものです。背景や襟の部分などは大まかに捉えていますが、その表情は非常に丹念に描きこまれており、モデルの顔を真正面にとった構図も印象的です。
クララはこの時およそ5歳でしたが、その後12歳の若さで亡くなりました。ルーベンスはクララを愛し、彼女が亡くなった後も彼女の肖像画を何度も描いていたようです。

 

第二章 過去の伝統

第二章では「過去の伝統」と題して、ルーベンスの作品のみならず、古代彫刻やルーベンスによるヴェネツィア派の模写などを紹介しています。

 

《セネカの死》はその題の通り、皇帝ネロへの陰謀の疑いをかけられて自殺を命じられた哲学者セネカの最後を描いた作品です。画中のセネカはルーブル美術館にある有名な古代彫刻を元にしており、ローマでこの彫刻を目にしたルーベンスは6点もの素描を残しています。ルーベンスによる古典学習の成果を示す好例といえるでしょう。

 

第三章 英雄としての聖人たち-宗教画とバロック

ルーベンスはイタリア滞在中、マントヴァやジェノヴァ、ローマのために宗教画を描きました。古代彫刻のような理想的な身体像を示したルーベンスの宗教画は若い世代を魅了し、カラヴァッジョ以降のローマにおける最大の革新を示したのです。

第三章では、彼が参考にした作品、影響を与えた作品とともにルーベンスの宗教画が展示されています。

 

ルーベンス晩年の大作《聖アンデレの殉教》が初来日。この作品はマドリードのサンタンドレス・デ・ロス・フラメンコス王立病院の礼拝堂に寄贈されたもので、鑑賞することも滅多に叶わない、大変貴重なものだそうです。

《聖アンデレの殉教》が描くのは、ヤコボス・デ・ウォラギネの『黄金伝説』に記述された聖アンデレの殉教場面。ローマ総督によって磔にされた聖アンデレは、彼を取り巻く2万人の群衆に教えを説きました。群衆は怒って総督に十字架から下ろすように脅しましたが、アンデレは生きたまま十字架から下りることを拒否し、そのまま祈りを唱えて昇天したということです。

一条の光が射す天上を仰ぐ聖アンデレ、暗い空からアンデレの元に飛んできた天使、口々に何か叫び、懇願する人物たち。非常に劇的で、躍動感のある迫真の描写が胸に迫ります。

 

第四章 神話の力1-ヘラクレスと男性ヌード

著名な彫刻である《ファルネーゼのヘラクレス》に魅了され、その造形を深く学び取ったルーベンス。そんな彼の想像力は、特に神話の世界を描く時、最も生き生きと発揮されました。この章では、ルーベンスとルーベンス以降のイタリア画家たちによる男性ヌードを多く展示しています。

 

第五章 神話の力2-ヴィーナスと女性ヌード

一方こちらの章では、ヴィーナスに象徴される理想の女性美を描いたヌードを特集。ヴィーナスを描く際にも古代彫刻に範をとったルーベンスでしたが、晩年はより現実的かつ豊穣さを象徴するような、ふくよかな女性を描くようになっていきました。

 

第六章 絵筆の熱狂

鮮やかな色彩と、それを画面に与える素早い筆使い。17世紀の美術理論家ベッローリは「絵筆の熱狂」という言葉でルーベンスの絵画を説明しました。第六章では、こうしたルーベンス芸術の性格が最もわかりやすい形で表現された戦いの場面などの絵画を取り上げ、その特徴に注目しています。

 

イタリア滞在中の1605年頃に描かれた《パエトンの墜落》。太陽神アポロの息子、パエトンが乗る太陽の戦車が最高神ユピテルの放った雷を受け、まさに墜落しそうになるその瞬間を捉えた絵画です。翻るマントや逆立つ馬のたてがみ、空に走る稲妻が画面全体の暴力的な躍動感を高めています。

 

第七章 寓意と寓意的説話

高い教養を持つ外交官として活躍し、成功を収めたルーベンス。ルーベンスはその教養と知識を生かし、しばしば象徴の組み合わせを駆使した寓意画を描きました。最終章では、寓意的な仕掛けが施されたルーベンスの神話主題を、古代彫刻とともに展示しています。

 

軍神マルスがウェスタ神殿の火を守る巫女レア・シルウィアを見初める場面を描いた《マルスとレア・シルウィア》。レア・シルウィアとマルスの間に生まれた双子が成長し、ローマの建設者ロムルスとレムスとなったことは有名ですね。

通常は水汲みに行ったレア・シルウィアが森の中でマルスに犯されるのに対し、本作の舞台は神殿となっているため、ルーベンスは伝統的な解釈に大胆な変更を施しています。しかし同時にルーベンスは、マントの裾を握るキューピッドやマルスの武具や足元の雲など、この神話に関する古代文献の記述を非常に几帳面に取り入れていることもうかがえます。


本展監修者アンナ・ロ・ビアンコ氏

「ルーベンスの作品には、彼の人となりが非常に良く反映されていると思います。寛大で、愛情にあふれていて、偉大である。そんな彼の姿が絵からもにじみ出てきていると感じます。ある伝記作家は彼のことを『マエストーゾ・ウマーノ(威厳がある人)であると同時に、人間味にあふれている』と表現しましたが、実際ルーベンスは家族や友人などに非常に深い愛情を注ぐ人でした」

そう語ってくださったのは、美術史家にして本展監修者のアンナ・ロ・ビアンコ氏。

「また、ルーベンスは『どちらの出身ですか?』と聞かれた時、『私は世界市民だ』と答えていたそうです。今でこそそうした言葉は使われるようになりましたが、17世紀の時点でルーベンスがそう考えていたということ。いかに彼が進んだ考えの持ち主で、友愛の素晴らしさを理解していかたが、この発言からもわかりますね。この展覧会では、そんな彼の人間性にもフォーカスして楽しんでいただけたらと思っています」

 

「画家の王」と呼ばれ、一時代を築いた巨匠の画業と人間性を、イタリアとの関わりの中で解き明かす。
「ルーベンス展-バロックの誕生」は、2019年1月20日(日)までの開催です。
この機会にぜひ、足を運んでみてはいかがでしょうか?

 

ミュージアムショップでは、『フランダースの犬』とコラボしたオリジナルグッズも販売

 

開催概要

展覧会名 ルーベンス展-バロックの誕生
会 期 2018年10月16日(火)~2019年1月20日(日)

9:30~17:30
毎週金・土曜日:9:30~20:00
(ただし11月17日は9:30~17:30)
※入館は閉館の30分前まで

休館日 月曜日(ただし12月24日、1月14日は開館)、2018年12月28日(金)~2019年1月1日(火)、1月15日(火)
会場 国立西洋美術館
観覧料 当日:一般1,600円、大学生1,200円、高校生800円
団体:一般1,400円、大学生1,000円、高校生600円
※団体料金は20名以上。
※中学生以下は無料。
※心身に障害のある方および付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)。
公式サイト http://www.tbs.co.jp/rubens2018/

 
記事提供:ココシル上野


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【上野の森美術館】「フェルメール展」内覧会レポート


 
オランダ絵画黄金時代の巨匠ヨハネス・フェルメール(1632-1675)。技巧を凝らした作風や、現存作がわずか35点ともいわれる希少性もあり、国内外で不動の人気を誇っています。
 
上野の森美術館にて2018年10月5日(金)~2019年2月3日(日)の期間開催されている「フェルメール展」は、彼の作品が9点来日するという、日本美術展史上最大のフェルメール展として大きな話題を呼んでいます(一部展示替えあり)。
 
開催に先立ち行われたプレス内覧会に参加してきましたので、その様子をお伝えいたします。
 


 

音声ガイド&小冊子無料提供

 
本展では入場者全員に無料で音声ガイドが提供されます。ガイドを務めるのは、本展のナビゲーターでもある女優の石原さとみさん。柔らかい声で、わたしたちを17世紀オランダ絵画の世界へと誘います。
 
また、こちらの小冊子も無料配布されますが、本展の展示作品全49点の解説が収録されています。


じっくりと絵画の背景を理解しながらの鑑賞が叶います。
 

17世紀オランダ絵画の傑作がずらり

 
本展は6章で構成されており、1章~5章はフェルメールと同時代のオランダの画家による絵画がテーマごとに展示されています。
 
静粛な宗教画から当時のオランダの市井の人々の日常を捕らえた風俗画まで、幅広いジャンルの作品が揃います。テーマはそれぞれですが、どの作品も対象物を細密に描き出しており、見入ってしまいます。
 
こちらに描かれているのは実在する建造物ではないそうですが、絵の前に立つと奥へ奥へと引き込まれていきそうです。

エマニュエル・デ・ウィッテ《ゴシック様式のプロテスタントの教会》1680-1685年頃 油彩・カンヴァス アムステルダム国立美術館

 
写真左の《本を読む老女》は老女の開いている本のページにも細かく文字が書き込まれており、内容を読み取ることさえできます。
左 ヘラルト・ダウ《本を読む老女》1631-1632頃 油彩・板 アムステルダム国立美術館、右 ユーディト・レイステル《陽気な酒飲み》1629年 油彩・カンヴァス アムステルダム国立美術館

 
これら2作品は対となっています。一方の作品で男性が書いた手紙を、もう一方の作品で女性が読んでいます。
左 ハブリエル・メツー《手紙を書く男》、右《手紙を読む女》 ともに1664-1666年頃 油彩・板 アイルランド・ナショナル・ギャラリー

 
ぱっと見は幸せな恋人たちのように思われますが、人物の仕草や作中画に込められた意味を知ると、2人の関係が浮かび上がってきます。音声ガイドや小冊子をたよりに読み解いてみてください。
 
また、本作はフェルメールの影響を顕著に表していることでも知られています。本作の背景となっている部屋や女性の黄色いジャケットなど、フェルメール作品との共通点を多々見出すことができます。
 

フェルメール・ルーム

 
第6章はフェルメールの作品のみが揃う「フェルメール・ルーム」で展開されています。
 
通常、欧米の主要美術館にそれぞれ所蔵されているフェルメールの作品を一度に観覧できるという贅沢な空間です。

 
 
なかでも注目作は、フェルメールの代表作のひとつとして知られる《牛乳を注ぐ女》。本展では至近距離でまじまじと鑑賞することができます。

《牛乳を注ぐ女》1658-1660年頃 油彩・カンヴァス アムステルダム国立美術館 ・解説をする千足伸行氏(本展日本側監修、成城大学名誉教授・広島県立美術館館長)

 
中央に立つ人物に注目しがちですが、細部に目を向けてみると、点描によって光の粒子を表していたり、壁の汚れやシミをひとつひとつ描いていたりと、フェルメールが子細に対象を観察し、いかにそれをカンヴァスの上で表すかに心を砕いていたかを見て取ることができます。
 
 
こちらの《ワイングラス》は日本初公開。
ヨハネス・フェルメール《ワイングラス》1661-1662年頃 油彩・カンヴァス ベルリン国立美術館

 
作中の壁にかかる絵やステンドグラスに描かれる女性像によって、男性による女性の誘惑を示唆し、女性に注意を促しているそう。
 
このように、この時代のオランダ絵画では、絵の中に道徳的な意味や訓戒を表したものが多々見られたそうです。
 

期間限定展示に注意

 
フェルメールの作品中、《赤い帽子の娘》は2018年10月5日~12月20日、《取り持ち女》は2019年1月9日~2月3日までの期間限定で展示されます。予めお目当ての作品をチェックして、お見逃しのないようご注意ください。
 
作中の暗い部屋のなかに差す光がまぶしいほどに感じられます。本作は他の作品と比較するとだいぶサイズが小さいのですが、赤とフェルメール・ブルーと呼ばれる青の色彩に目を引かれます。日本初公開。

ヨハネス・フェルメール《赤い帽子の娘》1665-1666年頃 油彩・板 ワシントン・ナショナル・ギャラリー National Gallery of Art, Washington, Andrew W. Mellon Collection, 1937.1.53 ※12月20日(木)まで展示

 
 
本展開催1カ月前に追加出展が決まった本作は、フェルメールの初期作のひとつであり、初めて手掛けた風俗画です。日本初公開。
ヨハネス・フェルメール《取り持ち女》 1656年 油彩・カンヴァス ドレスデン国立古典絵画館 bpk / Staatliche Kunstsammlungen Dresden / Herbert Boswank / distributed by AMF

 

おみやげにも注目

 
ドイツ生まれの玩具・プレイモービルが「牛乳をそそぐ女」を再現!

プレイモービル 1,800円(税込)

 
ミュージアムショップには、他にも本展ならではのアイテムが多数揃っていますので、隅々までチェックしてみてください。
 


多数の観覧客の来館が予想されていますが、本展では待ち時間緩和のため日時指定入場制を導入しています。日本美術展史上最大のフェルメール展、ぜひ足を運んでみてください。
 

展覧会概要

 

展覧会名 フェルメール展

会 期 2018年10月5日(金)~2019年2月3日(日)
※12月13日(木)は休館。

会場 上野の森美術館(東京都台東区上野公園1-2)

開館時間 9:30~20:30(入館は閉館30分前まで、開館・閉館時間が異なる日もあり)

日時指定入場制 待ち時間緩和を目的とし、入場時間を6つの時間帯に分けた前売日時指定券(当日日時指定券料金は+200円)での入場を原則としており、当日日時指定券は前売販売に余裕があった時間枠のみ販売。
一般2500円、大学・高校生1800円、中学・小学生1000円、未就学児は無料。

公式HP https://www.vermeer.jp/

インフォメーションダイアル 0570-008-035(9:00~20:00)

 
記事提供:ココシル上野
 
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【東京国立博物館】特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」内覧会レポート

重要文化財 如意輪観音菩薩坐像(六観音菩薩像のうち) 肥後定慶作 鎌倉時代・貞応3年(1224) 大報恩寺蔵

 
2018年10月2日(火)から12月9日(日)まで、東京国立博物館では、特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」が開催されています。10月1日に内覧会が開かれましたので、その様子をお伝えいたします。
 
鎌倉時代、1220年に義空(ぎくう)上人によって発願された真言宗智山派の古刹、大報恩寺。近くに京都を南北に縦断する千本通りがあることから「千本釈迦堂」の名で親しまれ、釈迦信仰の中心地として、貴族から庶民まで幅広い信仰を集めてきました。
応仁の乱をはじめとする幾多の戦火を免れたその本堂は国宝に指定されており、また、「おかめ」発祥の地として、縁結び、夫婦円満などの福徳があることでも知られています。
 
その本尊は、快慶の一番弟子である行快が制作した釈迦如来坐像。そして、その釈迦如来坐像に侍り立つのは、快慶最晩年の作である十大弟子立像です。
本展覧会では、これら大報恩寺に伝わる「慶派」の名品の数々がそろい踏み。運慶同世代の快慶、そして運慶次世代の名匠による鎌倉彫刻の豪華共演が実現します!

 

展示風景


 
本展の開催場所は東京国立博物館 平成館 特別第3・4室。同館の第1・2室では特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」(10/2〜12/9)が開催されており、ふたつの展覧会が同時に、隣接しておこなわれているということになります。現代的なアート作品が並ぶデュシャンの展示会場と異なり、こちらの会場は仏像が放つ静謐な雰囲気で満ちており、そのコントラストも興味深く思えます。
 

重要文化財 傅大士坐像および二童士立像 院隆作 室町時代・応永25年(1418) 大報恩寺蔵

 
北野経王堂図扇面 室町時代・16世紀

 
特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」は三部構成となっており、冒頭の「大報恩寺の歴史と寺宝-大報恩寺と北野経王堂」では大報恩寺に伝わる北野経王堂ゆかりの文化財、そして洛中(京都市内)最古の木造建築物として国宝に指定された本堂とその歴史が紹介されています。
 
北野経王堂とは、大報恩寺のほど近くに足利義満によって建てられた仏堂で、当時は洛中・洛外を含む京都市中最大の巨大建造物でした。経王堂では歴代の室町将軍が主導する「北野万部経会」がおこなわれるなど大変賑わいましたが、神仏分離の影響で解体され、収蔵されていた文化財や経などはあらためて大報恩寺へと移されました。
 
第一章では、平安時代の仏像を含む北野経王堂ゆかりの品々が展示され、在りし日の姿を今にそのまま伝えています。
 

 
(中央)重要文化財 舎利弗立像(十大弟子立像のうち) 快慶作 鎌倉時代・13世紀 大報恩寺蔵

 
続く「聖地の創出-釈迦信仰の隆盛」では、寺内で現在では別々に安置されている本尊「釈迦如来坐像」と「十大弟子立像」を同じ空間で展示。年に数回しか公開されない秘仏である釈迦如来坐像、そして十大弟子立像が10体そろって寺外で公開されるのは初めてです。
 
大報恩寺が建立された13世紀前半は、度重なる戦乱により「末法」(悟りを得られなくなる時代)の世相が強く感じられていました。義空上人は、この世に常住して説法する釈迦を造ることによって、末法の世を生きる人を救う場を生み出そうとしたのです。
 

 
重要文化財 十一面観音菩薩立像(六観音菩薩像のうち) 肥後定慶作 鎌倉時代・貞応3年(1224) 大報恩寺蔵

 
最後を飾る第三章「六観音菩薩像と肥後定慶」の中心となるのは、運慶一門の慶派仏師、肥後定慶作の「六観音菩薩像」。暗く、燃えるような真紅を背景に立ち並ぶ六観音の姿は、壮観のひとこと。六観音とは、地獄道や餓鬼道などの六道から人々を救い出してくれる仏さまです。
 
本像が持つ生々しい実在感は、末法の世に人々が仏さまに求めた切実な念や願いを感じさせてくれます。
 

展示作品紹介

 

重要文化財 千手観音菩薩立像 平安時代・10世紀 大報恩寺蔵


 
京都の中心地にありながら戦火をまぬがれた大報恩寺。そのために大報恩寺には周辺の古刹に収められていた文化財が多く集められました。その中でも、こちらは平安時代の名品「千手観音菩薩立像」。膝下の翻波式衣文と呼ばれる衣の表現は、平安時代前期に流行したもので、このことからも本作が大報恩寺建立以前のものであることがわかります。
 

重要文化財 釈迦如来坐像 行快作 鎌倉時代・13世紀 大報恩寺蔵


 
大報恩寺の秘仏本尊である釈迦如来坐像。像高は89.3センチ(約三尺)で、背面の下には「法眼行快」と朱書銘があり、行快が「法眼」という僧位にあった時に制作されたことを伝えています。
 
横にふっくらと張り出した頬、きりりと上がった目尻などに行快らしさがあらわれており、その力強い表情には、師である快慶の死後、自分の作風を模索し始めたことを感じさせます。
 

重要文化財 准胝観音菩薩立像(六観音菩薩像のうち) 肥後定慶作 鎌倉時代・貞応3年(1224) 大報恩寺蔵


 
六観音菩薩像の中では比較的作例が少ない准胝(じゅんでい)観音。慈悲の心を体現している女性像です。像内から発見された墨書銘に「肥後別当定慶」の署名があり、運慶次世代の実力派仏師、定慶作であることが明らかになりました。また、六観音にはいずれも針葉樹のカヤが用いられていますが、これは本来白檀で作られる「壇像」を意識しているためです。
 
結いあげた髪の毛の柔らかな質感や、空気をはらむ衣の描写など、非常に緻密な細部の表現には驚かされます。ぜひ会場に足を運んで、間近で定慶の彫技をご堪能ください!
 

 
光背や台座などが造像当初のまま残されているのも大きな特徴。特に光背(仏さまが発する光を具象化したもの)は脆いため破損しやすく、造像当初のものがここまで完全に残っているのは大変希少だということです。
 
また、六観音菩薩像は10月28日(日)までは光背付きの姿で、後期の10月30日(火)からは光背を取り外し、その後ろ姿を間近に鑑賞できます。なだらかな背中の曲線や、優美な背中の衣の文様など、普段とは違った角度から観音様の魅力を堪能できる機会ですね。


 

 
新しい時代の表現を切り開いた巨匠、運慶と快慶。大報恩寺が建立された1220年代は、その二人が相次いで表舞台を去り、行快、定慶ら次世代の仏師たちが活躍しはじめた時代でした。大報恩寺に残る珠玉の名作からは、そうした次世代の仏師たちの創作上の悩みや試行錯誤、さらに当時の人々の真剣な「祈りのかたち」を感じ取ることができます。
 
本展の会期は2018年10月2日(火)から12月9日(日)まで。
慶派の“スーパースター”たちが集う会場で、鎌倉時代の京都に思いをはせてみてはいかがでしょうか?
 

展覧会概要

展覧会名 特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」
会 期 2018年10月2日(火)~12月9日(日)
会場 東京国立博物館(台東区上野公園13-9) 平成館 特別第3・4室
開館時間 9:30~17:00
※金曜・土曜日、10月31日(水)、11月1日(木)は21:00まで
※入館は閉館の30分前まで
休館日 月曜日
※ただし10月8日(月・祝)は開館、10月9日(火)は休館
観覧料 一般  当日1400円 団体1200円
大学生 当日1000円 団体 800円
高校生 当日 800円 団体 600円
※中学生以下無料
※団体は20名以上
※障がい者とその介護者1名は無料(入館の際に障がい者手帳などを要提示)

TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)

展覧会公式サイト https://artexhibition.jp/kaikei-jokei2018/

記事提供:ココシル上野
 
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