【東京都美術館】「BENTO おべんとう展-食べる・集う・つながるデザイン」内覧会レポート

東京都美術館

2018年7月21日(土)から10月8日(月・祝)まで、東京都美術館で「BENTO おべんとう展-食べる・集う・つながるデザイン」が開催されています。7月20日に報道内覧会に参加しましたので、今回はその内容についてレポートいたします!

私たちが普段口にしている「おべんとう」。あなたは、いつもどんな気持ちで食べていますか。
いつも一緒におべんとうを食べる仲間と談笑しながら?それとも、作ってくれた人のことを想像しながら?

行楽弁当から毎日の昼ごはんまで、「おべんとう」は私たちの生活に深く根付いています。誰かが作ってくれたお弁当は人から人へと手渡された「贈り物」であり、人と人とのつながりを深めるソーシャル・ツールとして、古来から重要な役割を果たしてきました。
 

《あゆみ食堂のお弁当》2017年
料理:大塩あゆ美、写真:平野太呂

「おべんとうを作る人」は栄養バランスと全体の色彩、配置を考えてお弁当箱に食材を詰めていきます。これって、本当に食べてくれる人のことを考えなければできないことですよね。そこには、食べる人と作る人の間の物語がある。つまり、おべんとうは「食べること」をめぐるコミュニケーション・ツールでもあるのです。
 
本展覧会は、日本独自の文化である「おべんとう」をコミュニケーション・デザインの側面から捉え直すという試みです。会場には遊び心のあるユニークなお弁当や、現代アーティストの参加型の作品が展示され、おべんとうの魅力を全身で体験し、その新たな視点を得られる空間となっています。

歌って踊れる「おべんとう」?!

展覧会は、「発酵デザイナー」の小倉ヒラクさん制作の楽しい新作アニメーション作品<おべんとうDAYS>から始まります。「ゆる系」のほんわかした絵柄に口ずさみやすいメロディと歌詞、振り付けで、歌って踊ると自然におべんとうのことがわかるという作品。
 

気さくに来場者に接する小倉氏。地下のギャラリーにも小倉氏の作品が展示されている

「言えないきもちが、かくし味だよ。こだわろう、思いのまま」

<おべんとうDAYS>はゆかいなキャラクターたちはもちろん、豊かな四季の情景と、シンプルなようで深く読み解ける歌詞が印象的です。踊る、歌う。身体を使ったムーブメントが開く新しい「おべんとう体験」。ぜひ、会場で一緒に口ずさんでみてください!

「おべんとう」が生み出す、楽しいコミュニケーション

広々とした地下ギャラリー。「コミュンケーション」を核に制作された作品が展示されている

 
お弁当を食べる人々の姿を写した阿部了氏の作品《ひるけ》

 
大塩あゆ美氏によるプロジェクト《あゆみ食堂のお弁当》の展示

地下ギャラリーでは、おべんとうが生み出すコミュニケーションに注目したアーティストたちの作品が多数展示されています。

読者からの「誰々に、こんなお弁当を作ってあげたい」というお便りに応えて大塩あゆ美氏がお弁当を作り、読者にレシピとお弁当を届けるという《あゆみ食堂のお弁当》では、実際に制作されたお弁当を平野太呂氏が撮影した写真を展示。
 
また、阿部了氏の作品《ひるけ》は、色々な人がお弁当を黙々と食べている姿を写したもの。「どんな人が作ったのだろう?」「今、どんな気持ちなのだろう?」写真を見ているだけで、想像力を掻き立てられます。
 

森内康博氏によって撮影されたワークショップのドキュメンタリー映像

 
お弁当箱を開けると参加した中学生たちの映像が流れる

 
小山田徹氏(とお嬢ちゃん)によるユニークな《お父ちゃん弁当》

 
「おべんとうルーレット」。誰に、何をテーマにしてお弁当を作るか決めてくれる。テーマが決まったら、お弁当のアイディアを書き出してみよう

お弁当を起点に自分と自分の身の周りの世界との関係についてじっくり考えることのできる展示も紹介。

小山田徹氏の作品は、長女がお弁当を考案して描き、父である小山田氏がその絵を元にお弁当を作るという日々の営みを紹介する《お父ちゃん弁当》。中には大人ではとても作ろうとは思えないようなアイディアのお弁当もあり、小山田氏は一体どんな気持ちでこの「無茶ぶり」に向き合ったのだろうと考えると、とても楽しいです(笑)。会場の一角にはルーレットでテーマと贈る相手を決めてお弁当作りにトライしてみるというコーナーもあります。

森内康博氏は、中学生が親の手を借りずに自分でお弁当を作る様子を子供たち自身がドキュメンタリー映像にするワークショップを開催。そのプロジェクトを映像作品として展示しています。テーブルの上のお弁当箱を開けると、箱の中に参加した中学生たちの映像が流れるというユニークな演出も。

「おべんとう」を再発見。参加体験型《intangible bento》

地下に広がるマライエ・フォーゲルサング氏による参加型展示。小屋のような10のセクションがある

 
会場の各所で「精霊フォン」をかざすと精霊たちの声が聞こえてくる。大人用と子供用に分かれているので家族連れで楽しめる

 
精霊さんになるフォーゲンルサング氏。作者が一番楽しんでいるような気が・・・

 
未来の食肉産業に貢献することが期待されている「骨植物」

食べることをデザインする「イーティング・デザイナー」であるマライエ・フォーゲルサング氏。彼女の展示はおべんとうの「触ることや見ることができない」側面を《intangible bento》の展示で生き生きとした物語として表現し、私たちをその中に誘います。

私たちの慣れ親しんだおべんとうを、普段とは違う視点で捉える作品を通じて、来場者自身がよくみて考え、おべんとうを再発見することができるような空間です。

本展示を監修したイーティング・デザイナーのマライエ・フォーゲルサング氏。もともとはオランダのプロダクト・デザイナー

会場では、「精霊フォン」を使って精霊たちの声を聞くことができます。彼らが語りかけてくるのは、目に見えない思い出や生産者との物語、そしてバイオプラスティックのお弁当箱や昆虫食など、おべんとうの「未来の可能性」です。

お弁当は作る人から食べる人であるだけではなく、今を生きている私たちから「未来のあなた」への贈り物なのかもしれません。

FRAGMENTS PASSAGE – おすそわけ横丁

おすそわけ横丁の入り口。まるで東南アジアのバーザールのような雰囲気が漂う

 
横丁にはたくさんの人に頂いた「おすそわけ」が並ぶ。これは・・・兜?

 
バザールに集まる「おすそわけ」を使ったワークショップ

誰かとおべんとうを食べる時の楽しみは、「おかず交換」。そういう人も多いでしょう。北澤潤氏はこの「おすそわけ」の要素に着目し、美術館の中にその気持ちや文化を考える《おすそわけ横丁》を作り上げました。

まるで東南アジアの伝統市場の風景を彷彿とさせるこの通りには、持ち寄ったものを自由におすそわけし合う空間が広がっています。家からものを持ち寄ったり、広場で敷物を広げたり。会場の一角では、横丁に集まった「おすそわけ」を使ったワークショップも行われていました。そこには、誰かに何かを「教える」といった空気はありません。あくまでこれも「おすそわけ」なので、みなさんとても自由でくつろいだ雰囲気で取り組まれていました。

この《おすそわけ横丁》は、日々おこなわれる「おすそわけ」によって変化する展示だと言えるでしょう。あなただったら、何をおすそわけしますか?してもらいますか?
 

会場には、世界のさまざまなお弁当箱を紹介するコーナーも

他にも会場では江戸時代に宴の場で使われた美しくユニークな形のお弁当箱や、世界のさまざまなお弁当箱を紹介。私たちの文化の中の「食べること」への工夫やデザインに注目し、「お弁当を食べる」という行為を通して起こる人と人とのコミュニケーションについて考えます。
 
また、8月20日には休館日の月曜日に「キッズ・デー」を開催。楽しい参加型プログラムで親子でゆったり楽しめるほか、会期中は東京都交響楽団とのコラボレーション企画の音楽会や作家によるワークショップもおこなわれます。

見て、聞いて、触れて楽しい「BENTO おべんとう展-食べる・集う・つながるデザイン」。
会場には素敵な「おもてなし」と遊び心があふれています。
みんなが大好きなおべんとうを通じて、あなたの大切な人とのつながりを感じてみてはいかがでしょうか?
 

開催概要

展覧会名 「BENTO おべんとう展-食べる・集う・つながるデザイン」
会 期 2018年7月21日(土)- 10月8日(月・祝)
9:30から17:30まで(入室は閉室の30分前まで)
※ただし7月27日(金)、8月3日(金)、10日(金)、17日(金)、24日(金)、31日(金)はサマーナイトミュージアムにより21:00まで
休室日 月曜日、9月18日(火)、25日(火) ※ただし、8月13日(月)、9月17日(月・祝)、24日(月・休)、10月1日(月)、8日(月・祝)は開室
会場 東京都美術館 ギャラリーA・B・C
観覧料 一般 800円 / 大学生・専門学校生 400円 / 65歳以上 500
団体(20名以上) 600円 / 高校生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※いずれも証明できるものをご持参ください
※10月1日(月)は「都民の日」により、どなたでも無料
公式サイト http://bento.tobikan.jp/

 

情報提供:ココシル上野
https://home.ueno.kokosil.net/ja/
 
その他のレポートを見る:https://www.culture.city.taito.lg.jp/ja/reports

【国立科学博物館】特別展「昆虫」内覧会レポート

国立科学博物館

2018年7月13日(金)から10月8日(月・祝)にかけて国立科学博物館で特別展「昆虫」が開催されています。メディア向け内覧会に参加してきましたので、さっそく展示の様子をお伝えします!

夏といえば、青い空、麦わら帽子、そして昆虫採集!
ということで、今回のカハク(科博)の特別展のテーマはストレートに「昆虫」です。

本展覧会は、国立科学博物館が意外にも(?)「昆虫」をテーマに開催する初めての大型特別展。その起源は4億8000万年前と言われ、私たち人類よりもはるかに長い歴史を持つ昆虫は、さまざまな環境に適応しながら、他の生物に比べて著しい多様化を遂げてきました。その種は、現在名付けられているだけでもなんと約100万種。

その仕組みや能力、生態について、標本やCG、体験型展示などを通して国立科学博物館ならではの知見を紹介する「昆虫」展は、家族で見て回るもよし、カップルで「キモい」と言って盛り上がるもよし。

一足先にその見どころをご紹介いたします!


ド迫力の巨大昆虫模型

大人気のクワガタ。黒光りする胴体とシャープなフォルムがカッコイイ

 

夏にプンプン飛び回る蚊もこの通り、巨大模型に。その姿は長年、過酷な環境の中で生き抜いてきた証でもある

 

こちらはニホンミツバチ。緻密な体毛の再現に驚かされる

会場に足を踏み入れると、まず度肝を抜かれるのが全長2メートルの巨大模型。クワガタ、オオムラサキ、ニホンミツバチ・・・。監修者が「触覚の節の数や足の長さまで完全に再現した」と語る入魂の作です。
普段特に注目することもない昆虫の身体ですが、あらためて巨大なスケールの模型で見ると、その複雑さ、多様性に驚かされ、その不思議さを実感させられます。

数万点の昆虫と「標本回廊」

色彩、形態ともにバリエーション豊かな昆虫標本の数々

 

樹脂に貼り着き、琥珀の中に閉じ込められた昆虫

 

世界最大の蝶、アレクサンドラトリバネアゲハと他種の比較

 

約5万点のコレクションが並ぶ壮大な「標本回廊」

また、今回の展覧会で非常に充実しているのが昆虫の標本です。古くから、多種多様な形と色彩で多くの人を魅了してきた昆虫たち。会場にはとても見尽くせないほどの標本が展示されているため、きっと誰もが「初めて見る」昆虫と出会えるはず。

特に、壁面がさまざまな研究機関・研究者・愛好者たちのコレクションで埋め尽くされた第5章は圧巻の一言。こうしたコレクションは昆虫研究の基盤となりますが、研究者によって収集の方針が異なり、ひとりで数万体、あるいは数十万体という巨大なコレクションを作り上げた人もいるそうです。

どうしてこうなった?美しい昆虫たち、ざんねんな昆虫たち

腹面から見ると巨大な「目」を持つアキレスモルフォ。蛾ではなく蝶だが、そもそも両者の境界はあいまいだという

 

捕食者に食べられないように有毒の蝶の擬態をしたツマグロヒョウモン

 

どうしてこうなった?どこかユニークな姿をした世界最大級の昆虫「メガスティック」。最長のものは624mm

 

「美しい昆虫」コーナー。その色彩の輝きはまるで宝石のよう

本展では、昆虫の生態の多様性を、食べる、住む、たたかう、といったキーワードに沿って紹介し、昆虫が生き抜くために獲得したさまざまな生態を見ることができます。そのユニークな形態の数々は見ていて興味が尽きず、「どうしてこうなった?」と好奇心を刺激されます。

ぜひ、あなただけの「お気に入り」の昆虫を探してみてください!

恐怖!「Gの部屋」

会場の片隅に何やら怪しげな一角が・・・

 

「生きた」マダカスカルゴキブリの展示

会場の中で特に異彩を放つのが「G」のコーナー。嫌悪する人があまりに多いばかりに「G」というコードネームを与えられてしまったこの昆虫ですが、本来はカマキリの系統に近く、決して人間に害をなす存在ではありません。

というわけでガラス越しにじっくりと見物。一心不乱に「もぐもぐもぐ・・・」とエサを食べているその姿に、不覚にも「かわいい」と感じてしまいました。ではなぜ、私たちはこんなにもGが嫌いなのか?それはやはり、私たちの発達した衛生観念や、幼い頃からの「刷り込み」が大きいのでしょう。Gが嫌いで仕方がない人にこそ、このコーナーはお勧めです!

とにかく圧巻の昆虫ワールド

広々とした展示空間。会場は5つのチャプターに分かれている

 

やっぱり男の子の一番人気はカブトムシ

 

アリと他の昆虫の共生を、4コマ漫画で楽しく紹介

 

直感的に昆虫ワールドを体感できるインスタレーションも

 

1984年に日本で発見されたヤンバルテナガコガネの紹介

その他にも、いずもり・よう氏作による4コマ漫画、360度画像を回転させて小さな昆虫を観察できる3D昆虫、世界に一点だけのヤンバルテナガコガネの「ホロタイプ標本」を展示するコーナーなど、会場の随所には魅力あふれる展示がいっぱいです。
さらに会場には「正しい昆虫採取」を学べるコーナーもあるので、お子さんの夏休みの宿題にもうってつけですね。

 

昆虫が大好きな人も、ちょっと苦手な人も。
この夏、未知とロマンにあふれた「昆虫ワールド」を体験してみてはいかがでしょうか?

開催概要

展覧会名 特別展「昆虫」
会 期 2018年7月13日(金)- 10月8日(月・祝)
午前9時 – 午後5時(入館は各閉館時刻の30分前まで)
※金曜・土曜日は午後8時まで、8月12日(日)〜16日(木)、19日(日)は午後6時まで
※会館時間や休館日については変更する可能性があります
休館日 7月17日(火)、9月3日(月)、9月10日(月)、9月18日(月)、9月25日(月)
会場 国立科学博物館
観覧料 一般・大学生  1600円
小・中・高校生 600円※ 金曜・土曜限定ペア得ナイト券は2名1組2,000円(午後5時以降2名同時入場限定、男女問わず、当日会場販売のみ)
※ 未就学時は無料
※ 障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名様は無料
公式サイト http://www.konchuten.jp/

記事提供:ココシル上野
https://home.ueno.kokosil.net/
 
その他のレポートを見る:https://www.culture.city.taito.lg.jp/ja/reports

台東区下町風俗資料館 企画展「江戸の面影を今に伝える 下町の夏 衣食住+遊」を取材しました

台東区立下町風俗資料館

不忍池のほとりに位置する台東区立下町風俗資料館。

昭和55年(1980)10月1日、失われつつある古き良き下町の文化を後世に伝えようと開館されました。館内の展示物の9割は台東区内外からの寄贈品によるもので、実際に使用されていた日用品等から江戸時代の趣を残す明治、大正、昭和の人々の暮らしを身近に感じることができます。

そんな資料館が2018年7月3日(火)~9月2日(日)の期間、「下町の夏の暮らし」をテーマに企画展「江戸の面影を今に伝える 下町の夏 衣食住+遊」を開催するということで取材させていただきました。


館内に足を踏み入れた瞬間、そこには別世界が広がります。

一階の常設会場には大正時代の東京・下町の街並みが精巧に再現されており、タイムスリップしたかのような錯覚にとらわれます。

特にこだわりをもって関東大震災の前に時代設定が置かれているのは、当地震によりそれまでの風景が大きく損なわれてしまったからだそう。

地震以前の、江戸の風情を感じられる街並みを後世に伝えたいという想いによって造られました。

花緒の製造卸問屋。右が帳場、左が作業場です。

 

作業場

当資料館の最大の特徴は、こういった再現家屋に実際にあがることができるだけではなく、その調度品にも触れることができる点にあります。ぜひ手に取って当時の生活を感じてみて下さい。

井戸・洗濯板

“井戸端会議”は当時の主婦にとって大切なコミュニケーションの場でした。

駄菓子屋

一方、子どもたちの社交場である駄菓子屋。
すぐ奥には座敷が繋がっていますが、自宅で店を営みながら生活している様子が見て取れます。

驚いたのは住人の人物設定もされていること。
座敷にあがって箪笥の引き出しを覗くことができるので、衣服からどのような人物であるかを知ることができます。

店先は季節に合わせて展示品が変わります。
今の時期はかき氷。昔はかんなを逆さにして氷を削っていたのですね。

銅壷(どうこ)職人の作業場を兼ねた家屋。4人暮らしの設定です

そして2階にて開催されている企画展「江戸の面影を今に伝える 下町の夏 衣食住+遊」。

今回解説してくださった当資料館研究員の本田さん

「下町の夏の暮らし」をテーマに衣食住など日常生活の中で使われる道具や、夏を楽しむ「遊」に関連した資料が展示されています。

江戸の名残をとどめる明治から大正、昭和、そして平成の下町に暮らす人々の生活を覗いてみましょう。

木製の氷冷蔵庫[昭和30年代]氷屋さんで購入した氷を上部に入れ、その冷気で下部の食品を冷やしました。
 

すだれ屏風の前にはうちわや扇風機、クーラーの前身「冷風換気扇」が並びます

特に目を引かれたのは展示場中央に吊られていた蚊帳。
昭和30年代の終わりごろまで一般的に使用されていました。蚊帳を織る際に使用される麻や木綿は中にこもった熱を逃がす作用があるため、内側はひんやりと涼しく感じられます。

さらにクーラーのなかった時代、人々は工夫を凝らし目から、耳から涼しさを取り入れようとしました。風鈴は現代にも伝わる夏の風物詩ですが、その他にも電球を白熱灯から青色に換えて涼しさを演出したそう。

白熱灯を青色の電球に換えて涼しさを演出

 

外に吊るされているのは蛍籠。蚊帳の中に蛍を放って灯りを楽しみました

 

夏の装い、食文化

 

昭和戦前に流行した漫画。当時の生活の知恵を知ることができる貴重な資料

 

定斎(じょさい)箱。文字部分は螺鈿(らでん。貝殻による細工)で装飾がなされています

また、江戸に盛んであった「物売り」も取り上げられています。物売りとは商品を背負って、あるいは担いで売り歩く商売人です。売られていた商品は食品・衣料品・雑貨・薬品等の生活必需品で時間や季節によって売られる商品が変わりました。
物売りは商品を売るために呼び声に工夫を凝らしたといいます。そしてこの声により住民は季節の移り変わりを知ったのです。

江戸から明治に時代が移るとともに扱われる商品も次第に変化していきますが、江戸からそのまま引き継がれた物売りのひとつが「定斎(じょさい)屋」です。定斎屋とは夏負けの薬を売り歩いた物売りで、担いだ箱を定斎箱といいました。

箱に付属する金具が歩くたびにカチャカチャと音を立てるので、この音が定斎屋が来た合図となりました。また定斎屋は炎天下に笠をかぶらずに歩き、自らの身をもってその薬の効能をアピールしたそうです。



2階にて常設展示されている「戦時下の生活」。少女画で知られる中原淳一氏の手掛けた慰問はがきや当時の回覧物等から当時の市井の人々の暮らしを垣間見ることができます。


昭和30年代頃の部屋を再現したもの。部屋に上がって雰囲気を味わうことができます。


台東区の銭湯で使用されていた番台をそのまま移設してあります。番台からの風景を楽しめます。


展示されている品々は歴史を伝える貴重な資料でありながらも、実際に触れることができるため、当時の人々の息吹を感じられる貴重な機会となりました。

期間中は1階の銅壷屋に蚊帳が吊られ、実際に入ることのできるイベントもありますので今では失われてしまった夏の風景をぜひ目にし、体感してください。
※当イベントは期間中の土日祝日とうえの夏まつり期間中(7月14日~8月12日)午後4時頃から

開催概要

会期 2018年7月3日(火)~9月2日(日)
所在地 台東区立下町風俗資料館 台東区上野公園2番1号
開館時間 午前9時30分~午後5時30分(入館は5時まで)
休館日 月曜日
(月曜祝休日の場合は翌平日)
入館料 一般300円(200円)
小・中・高校生100円(50円)
※( )内は、20人以上の団体料金
※障害者手帳または特定疾患医療受給者証をお持ちの方とその介助者は無料(入館時要証明)
※毎週土曜日は台東区在住・在学の小・中学生と、その引率者は無料
問合せ 03-3823-7451
URL http://www.taitocity.net/zaidan/shitamachi/

ギャラリートーク

担当学芸員の方による本企画展の見どころの解説があります。
日時 7月7日(土)・21日(土) 8月4日(土)・11日(土)・18日(土) 9月1日(土) 午後2時
から 20~30分程度
会場 2階企画展示場
※予約不要。入館した方ならどなたでも参加できます。
※詳しくは下町資料館公式サイトhttp://www.taitocity.net/zaidan/shitamachi/・フェイスブック【Shitamachi Museum】・ツイッター【下町風俗資料館】で確認頂くか電話にて問合せを。
 
その他のレポートを見る:https://www.culture.city.taito.lg.jp/ja/reports

特別展「縄文―1万年の美の鼓動」内覧会レポート

東京国立博物館

2018年7月3日(火)から9月2日(日)まで、東京国立博物館 平成館にて特別展「縄文ー1万年の美の鼓動」が開催されています。7月2日に報道内覧会がおこなわれましたので、その様子をお伝えいたします。

うねり、弾け、逆巻くような、複雑で摩訶不思議な文様。
その立体的な装飾が表現する躍動感とエネルギーは、観る者の心を捉えて離しません。
燃え上がる炎のような形状から 『火焔型土器』と名付けられたその土器は、特に近世以降、その独創性と神秘性で多くの人々を魅了してきました。

また、近年「縄文」は、自然保護やデザイン、ファッション、地域活性化などさまざまな側面から世間の注目を集めています。
かっこいい、かわいい、おもしろい。
土器や土偶がSNSを通じて若い層の支持を集め、より一層私たちにとって身近な存在となりつつあるのです。

特別展「縄文ー1万年の美の鼓動」では、こうした「縄文の美」をテーマに、縄文時代草期から晩期まで、日本列島各地で育まれた優品、約200点を展観。1万年以上にわたる壮大な「美のうねり」を紹介し、その形に込められた人々の思いや技にせまります。


それでは、会場風景と展示作品の中から一部をご紹介いたします。

 

会場風景

本展では、「縄文の美」を紹介するために6つのテーマが設けられています。
縄文時代の人々が生きていく上で作り出したさまざまな道具に宿る「暮らしの美」。
約1万年という長きにわたって作り出された縄文土器の造形美の変遷をたどる「美のうねり」。
縄文土器と世界各地の土器を見比べる「美の競演」。
国宝に指定された火援型土器や土偶が集う「縄文美の最たるもの」。
縄文時代の願いや祈りを体現した造形を集めた「祈りの美、祈りの形」。
そして、岡本太郎ら芸術家や作家が愛した縄文の美を紹介する「新たにつむがれる美」。

特に第4章では国宝の『火焔型土器』『土偶 縄文のビーナス』など、「縄文の造形の極み」ともいえる作品群が展示され、まさに本展覧会の「白眉」というべき章となっています。

 

祝祭の「赤」を基調に彩られた第4章の展示会場

 

円形のオブジェが重なり合うように構成された第5章の展示空間

また、本展覧会で筆者が注目したのはその空間構成です。『火焔型土器』の名の通り、炎と祝祭を象徴する赤を基調に染め上げられた第4章の展示会場や、家を円形に配置して中央に広場を作る「環状集落」など、縄文時代の遺跡に多く見られる「円」で構成された第5章の展示空間。空間一つ一つを取り上げても、トーハクならではの演出に満ちています。

会場には縄文時代を思わせる自然音が聞こえ、さらに夜間開館では独自のライトアップが予定されているとのこと。縄文時代に迷い込んだ気分で、ぜひ会場の隅々まで散策してみてください。

展示作品紹介

土偶 縄文の女神

縄文時代中期 山形県立博物館

 

「側面から見たほうがカッコいい」と語る人も多い本作。鋭角的な「クビレ」が見る人を魅了する

国宝に指定された土偶のうち、45cmを誇る最長の土偶。八頭身美人と称される優美な姿形が特徴的です。ほかの土偶は母性的な豊満さを表現していることが多いですが、この『縄文の女神』はどちらかといえば鋭角的な印象を与え、現代美術にも通じる斬新さと洗練さが魅力的です。

「こちらの土偶には顔はありません。しかし、縄文人には慈愛に満ちた女性の顔がきっと見えていたことでしょう。あえて表現しない、そういったかたちで示すという技を、縄文人は持っていたのです」

そう語ってくださったのは、東京国立博物館の考古室長である品川欣也氏。

「動物を象った造形などもあり、縄文人はそのままに形を作ることはたやすくできます。ただし、彼らはそのままの形で仕上げることはしなかった。その出し入れ、捨象の仕方に縄文の造形の妙があるのです」

遮光器土偶

縄文時代晩期 東京国立博物館

「日本でもっとも有名な土偶」である遮光器土偶。土偶といえば、まずこの遮光器土偶を思い浮かべる人が多いでしょう。その特徴的なアーモンド形の目の表現についてはさまざまな解釈があり、雪中遮光器説(エスキモーが雪中行動の際に着用する)や、目を閉じて眠る幼児や死者の顔だとする説もありました。

全身を飾る華やかな文様も見どころのひとつ。また、左足が欠損していますが、品川氏は「ミロのヴィーナス(両手が欠損)と一緒で、これが本来のあるべき姿なのではないか」と述べ、ここにこの土偶の魅力があると語ります。欠損なのか。それとも、これが本来の姿なのか。ぜひ、会場で直接見て確かめてみてください!

ハート形土偶

縄文時代後期 群馬県東吾妻町郷原出土

“インスタ映え”必至のハート形土偶。縄文時代後期前葉に東北北部から北関東地方に分布する土偶で、顔のかたちがユニークなハート形をなすことからその名がつけられました。極端にデフォルメされた顔や体の表現と、繊細な文様との対比が特徴的で、その個性的な姿から多くの人に愛されてきました。その人気から昭和56年には切手のデザインにも採用されたハート形土偶。これからはSNSを通じて、特に若い世代の女性たちに愛されることになりそうです。

木製編籠 縄文ポシェット

縄文時代中期 青森県教育委員会(縄文時遊館保管)

縄文時代の手仕事のぬくもりと繊細さが感じられるようで、筆者お気に入りの展示。側に置かれているのは原寸大のクルミです。縄文時代といえば土器のイメージが強いですが、他にも木器、樹皮や植物の繊維を編んで作られた籠や袋などの編物製品が用いられていました。

本作は「縄文ポシェット」と呼ばれる有名な作品で、教科書でもおなじみの「三内丸山遺跡」から出土しました。この作品から感じられるのは、自然の恵みを生かし、素材の特性を考えて作られた手仕事の美しさ。縦横に規則正しく作られた網目は、土偶の緻密な文様とどこか似通っていて、あの時代に生きていた人たちはどんな繊細な感性を持っていたのだろうと興味が湧いてきます。


「人が集まるところには、『輪』があります」

個人的に印象に残ったのは、第5章の空間構成に関する品川氏の解説です。

「縄文時代の人々が過ごしたこの『円』の中で、さまざまな祈りの形と出会うことで、みなさんが普段忘れていたような願い、祈り。そういったものを思い出していただければと思っています」

円は「縁」。輪は「和」。考えてみれば、円や輪というのは全て、人と人との出会いや親密さをあらわす言葉へとつながっています。
縄文時代の自然という円環の中で、そして人と人とが紡ぎ出す関係の中で、縄文人は何を感じ、どのように生きていたのか。

特別展「縄文ー1万年の美の鼓動」で展示されている作品群は、その形に込められた当時の人々の思いを私たちに伝えてくれます。
ぜひ会場に足を運んで、その一端に触れてみてはいかがでしょうか?


開催概要

展覧会名 特別展「縄文ー1万年の美の鼓動」
会 期 2018年7月3日(火)- 9月2日(日)
午前9時 30分- 午後5時(入館は閉館の30分前まで)
※金曜・土曜日は午後9時まで、日曜日および7月16日(月・祝)は午後6時まで
休館日 月曜日、7月17日(火)※ただし7月16日(月・祝)、8月13日(月)は開館
会場 東京国立博物館 平成館
観覧料 一般  1600円 (1300円)
大学生 1200円 (900円)
高校生  900円 (600円)
※ ()は20名以上の団体料金
※ 中学生以下無料
※ 障害者とその介護者1名は無料(入館の際に障害者手帳などをご提示ください)
公式サイト http://jomon-kodo.jp/

記事提供:ココシル上野
https://home.ueno.kokosil.net/
 
その他のレポートを見る:https://www.culture.city.taito.lg.jp/ja/reports

「縄文ー1万年の美の鼓動」

東京国立博物館


2018年7月3日(火)から9月2日(日)まで、東京国立博物館 平成館にて特別展「縄文ー1万年の美の鼓動」が開催されています。

特別展「縄文ー1万年の美の鼓動」では「縄文の美」をテーマに、縄文時代草期から晩期まで日本列島各地で育まれた優品約200点を展観。

1万年以上にわたる壮大な「美のうねり」を紹介し、その形に込められた人々の思いや技にせまります。

開催概要

展覧会名 特別展「縄文ー1万年の美の鼓動」
会 期 2018年7月3日(火)- 9月2日(日)
午前9時 30分- 午後5時(入館は閉館の30分前まで)
※金曜・土曜日は午後9時まで、日曜日および7月16日(月・祝)は午後6時まで
休館日 月曜日、7月17日(火)※ただし7月16日(月・祝)、8月13日(月)は開館
会場 東京国立博物館 平成館
観覧料 一般  1600円 (1300円)
大学生 1200円 (900円)
高校生  900円 (600円)
※ ()は20名以上の団体料金
※ 中学生以下無料
※ 障害者とその介護者1名は無料(入館の際に障害者手帳などをご提示ください)
公式サイト http://jomon-kodo.jp/

情報提供:ココシル上野
https://home.ueno.kokosil.net/