台東区下町風俗資料館 企画展「江戸の面影を今に伝える 下町の夏 衣食住+遊」を取材しました

台東区立下町風俗資料館

不忍池のほとりに位置する台東区立下町風俗資料館。

昭和55年(1980)10月1日、失われつつある古き良き下町の文化を後世に伝えようと開館されました。館内の展示物の9割は台東区内外からの寄贈品によるもので、実際に使用されていた日用品等から江戸時代の趣を残す明治、大正、昭和の人々の暮らしを身近に感じることができます。

そんな資料館が2018年7月3日(火)~9月2日(日)の期間、「下町の夏の暮らし」をテーマに企画展「江戸の面影を今に伝える 下町の夏 衣食住+遊」を開催するということで取材させていただきました。


館内に足を踏み入れた瞬間、そこには別世界が広がります。

一階の常設会場には大正時代の東京・下町の街並みが精巧に再現されており、タイムスリップしたかのような錯覚にとらわれます。

特にこだわりをもって関東大震災の前に時代設定が置かれているのは、当地震によりそれまでの風景が大きく損なわれてしまったからだそう。

地震以前の、江戸の風情を感じられる街並みを後世に伝えたいという想いによって造られました。

花緒の製造卸問屋。右が帳場、左が作業場です。

 

作業場

当資料館の最大の特徴は、こういった再現家屋に実際にあがることができるだけではなく、その調度品にも触れることができる点にあります。ぜひ手に取って当時の生活を感じてみて下さい。

井戸・洗濯板

“井戸端会議”は当時の主婦にとって大切なコミュニケーションの場でした。

駄菓子屋

一方、子どもたちの社交場である駄菓子屋。
すぐ奥には座敷が繋がっていますが、自宅で店を営みながら生活している様子が見て取れます。

驚いたのは住人の人物設定もされていること。
座敷にあがって箪笥の引き出しを覗くことができるので、衣服からどのような人物であるかを知ることができます。

店先は季節に合わせて展示品が変わります。
今の時期はかき氷。昔はかんなを逆さにして氷を削っていたのですね。

銅壷(どうこ)職人の作業場を兼ねた家屋。4人暮らしの設定です

そして2階にて開催されている企画展「江戸の面影を今に伝える 下町の夏 衣食住+遊」。

今回解説してくださった当資料館研究員の本田さん

「下町の夏の暮らし」をテーマに衣食住など日常生活の中で使われる道具や、夏を楽しむ「遊」に関連した資料が展示されています。

江戸の名残をとどめる明治から大正、昭和、そして平成の下町に暮らす人々の生活を覗いてみましょう。

木製の氷冷蔵庫[昭和30年代]氷屋さんで購入した氷を上部に入れ、その冷気で下部の食品を冷やしました。
 

すだれ屏風の前にはうちわや扇風機、クーラーの前身「冷風換気扇」が並びます

特に目を引かれたのは展示場中央に吊られていた蚊帳。
昭和30年代の終わりごろまで一般的に使用されていました。蚊帳を織る際に使用される麻や木綿は中にこもった熱を逃がす作用があるため、内側はひんやりと涼しく感じられます。

さらにクーラーのなかった時代、人々は工夫を凝らし目から、耳から涼しさを取り入れようとしました。風鈴は現代にも伝わる夏の風物詩ですが、その他にも電球を白熱灯から青色に換えて涼しさを演出したそう。

白熱灯を青色の電球に換えて涼しさを演出

 

外に吊るされているのは蛍籠。蚊帳の中に蛍を放って灯りを楽しみました

 

夏の装い、食文化

 

昭和戦前に流行した漫画。当時の生活の知恵を知ることができる貴重な資料

 

定斎(じょさい)箱。文字部分は螺鈿(らでん。貝殻による細工)で装飾がなされています

また、江戸に盛んであった「物売り」も取り上げられています。物売りとは商品を背負って、あるいは担いで売り歩く商売人です。売られていた商品は食品・衣料品・雑貨・薬品等の生活必需品で時間や季節によって売られる商品が変わりました。
物売りは商品を売るために呼び声に工夫を凝らしたといいます。そしてこの声により住民は季節の移り変わりを知ったのです。

江戸から明治に時代が移るとともに扱われる商品も次第に変化していきますが、江戸からそのまま引き継がれた物売りのひとつが「定斎(じょさい)屋」です。定斎屋とは夏負けの薬を売り歩いた物売りで、担いだ箱を定斎箱といいました。

箱に付属する金具が歩くたびにカチャカチャと音を立てるので、この音が定斎屋が来た合図となりました。また定斎屋は炎天下に笠をかぶらずに歩き、自らの身をもってその薬の効能をアピールしたそうです。



2階にて常設展示されている「戦時下の生活」。少女画で知られる中原淳一氏の手掛けた慰問はがきや当時の回覧物等から当時の市井の人々の暮らしを垣間見ることができます。


昭和30年代頃の部屋を再現したもの。部屋に上がって雰囲気を味わうことができます。


台東区の銭湯で使用されていた番台をそのまま移設してあります。番台からの風景を楽しめます。


展示されている品々は歴史を伝える貴重な資料でありながらも、実際に触れることができるため、当時の人々の息吹を感じられる貴重な機会となりました。

期間中は1階の銅壷屋に蚊帳が吊られ、実際に入ることのできるイベントもありますので今では失われてしまった夏の風景をぜひ目にし、体感してください。
※当イベントは期間中の土日祝日とうえの夏まつり期間中(7月14日~8月12日)午後4時頃から

開催概要

会期 2018年7月3日(火)~9月2日(日)
所在地 台東区立下町風俗資料館 台東区上野公園2番1号
開館時間 午前9時30分~午後5時30分(入館は5時まで)
休館日 月曜日
(月曜祝休日の場合は翌平日)
入館料 一般300円(200円)
小・中・高校生100円(50円)
※( )内は、20人以上の団体料金
※障害者手帳または特定疾患医療受給者証をお持ちの方とその介助者は無料(入館時要証明)
※毎週土曜日は台東区在住・在学の小・中学生と、その引率者は無料
問合せ 03-3823-7451
URL http://www.taitocity.net/zaidan/shitamachi/

ギャラリートーク

担当学芸員の方による本企画展の見どころの解説があります。
日時 7月7日(土)・21日(土) 8月4日(土)・11日(土)・18日(土) 9月1日(土) 午後2時
から 20~30分程度
会場 2階企画展示場
※予約不要。入館した方ならどなたでも参加できます。
※詳しくは下町資料館公式サイトhttp://www.taitocity.net/zaidan/shitamachi/・フェイスブック【Shitamachi Museum】・ツイッター【下町風俗資料館】で確認頂くか電話にて問合せを。
 
その他のレポートを見る:https://www.culture.city.taito.lg.jp/ja/reports