藝大コレクション展2022 ー春の名品探訪 天平の誘惑ーが、4月2日(土)から開催。

東京藝術大学大学美術館
《浄瑠璃寺吉祥天厨子絵》「弁財天及び四眷属像」 建暦2年(1212) 頃 重要文化財 東京藝術大学蔵

 

藝大ならではのさまざまな分野が混在したコレクションを鑑賞できる、年に一度の貴重な機会。

東京藝術大学は、前身である東京美術学校の設立から135年の長きにわたって作品や資料の収集につとめてきました。その内容は古美術から現在の学生制作品まで多岐に及びます。当館では、この多彩なコレクションを広く公開する機会として、毎年藝大コレクション展を開催しています。
2022年の藝コレは、「春の名品探訪」と題して約3万件の所蔵品の中から選りすぐった名品を中心に展示します。さらに今回は、天平の美術に思いを馳せた特集展示も見どころとなっています。
著しい損傷を被りながらも威風を伝えている《月光菩薩坐像》は、天平彫刻を代表する仏像のひとつです。また今回の展示では所蔵する乾漆仏像の断片や東大寺法華堂天蓋残欠に新たな光を当てています。最新の研究成果により南都仏師たちの技法が解き明かされます。

《月光菩薩坐像》 奈良時代 東京藝術大学蔵

そして特集の白眉は、《浄瑠璃寺吉祥天厨子絵》(重要文化財)です。今回の展示では、厨子とその内側四方に描かれた合計7面全て、さらに吉祥天像(模刻)によって立体的な展示を試みます。鎌倉時代に制作されたこの名品にも、天平の面影を見ることができます。

《浄瑠璃寺吉祥天厨子絵》「弁財天及び四眷属像」 建暦2年(1212) 頃 重要文化財 東京藝術大学蔵

 

◆みどころ◆

1. 浄瑠璃寺吉祥天厨子を大展開

《浄瑠璃寺吉祥天厨子絵》(重要文化財)は、もとは京都・浄瑠璃寺の木造吉祥天立像を収めた厨子の扉および背面板で、明治22 年(1889)に東京美術学校の所蔵となりました。今回の展示では当初はめられていた厨子(模造)および吉祥天像(模刻)とあわせ、全7面を一挙公開します。目前に開かれた厨子のなかに足を踏み入れていくようなイメージをご覧いただける立体的な展示を試みます。

 

2. ぐるっと名品、一巡り

本学が所蔵する約3万件の作品や資料のなかから、古美術から現代美術に至る名品を展示空間をぐるりと取り囲むように陳列します。《小野雪見御幸絵巻》(重要文化財)や狩野常信《鳳凰図屏風》などの古美術からはじまり、藝コレでは約 10 年ぶりの出品となる長原孝太郎《入道雲》、初公開の白川一郎《不空羂索観音》といった近代洋画の逸品、そして狩野芳崖《悲母観音》(重要文化財)や橋本雅邦《白雲紅樹》(重要文化財)などの近代日本画の名品までご覧いただけます。

長原孝太郎 《入道雲》 明治42 年(1909) 東京藝術大学蔵

3. 近代の天平探求

フェノロサや岡倉天心らの奈良古社寺調査に同行した狩野芳崖は、31 社寺で調査した所蔵品や建築物などをスケッチに描き留めました。本展に出品する《奈良官遊地取》はこのスケッチを後世、12 巻の巻子装にしたものです。そこには当時の調査で再発見された天平美術が写し取られています。また芳崖の弟子たちの証言によれば、この時の古美術研究が芳崖の絶筆《悲母観音》の面貌表現につながったといいます。《奈良官遊地取》との同時展示により《悲母観音》の淵源に思いを馳せる旅へとご案内します。

狩野芳崖 《悲母観音》 明治21 年(1888) 重要文化財 東京藝術大学蔵

 

◆開催情報◆

会期:2022 年4月2日(土)~5月8日(日)
休館日:月曜日(ただし、5 月2 日は開館)
開館時間:午前10 時~午後5時(入館は午後4時30 分まで)
※本展は事前予約制ではありませんが、今後の状況により変更及び入場制限を実施する可能性がございます。
会場:東京藝術大学大学美術館 本館 展示室1
(〒110-8714 東京都台東区上野公園12-8)
交通案内:JR上野駅(公園口)、東京メトロ千代田線根津駅(1 番出口)より徒歩 10 分
京成上野駅(正面口)、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅(7 番出口)より徒歩 15 分
当館に駐車場はございません 。
観覧料:一般440(330)円、大学生:110(60)円
※高校生以下及び18 歳未満は無料
※( )は20 名以上の団体料金
※団体鑑賞者20 名につき1 名の引率者は無料
※障がい者手帳をお持ちの方(介護者1 名を含む)は無料

主催:東京藝術大学

お問合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
ホームページ:https://museum.geidai.ac.jp/

 

記事提供:ココシル上野


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【国立科学博物館】第9回 ヒットネット(HITNET) ミニ企画展「音の誘惑-日本の産業技術-」開催について

国立科学博物館


国立科学博物館では、2022(令和4)年3月23日(水)~5月8日(日)までの期間、第9回 ヒットネット(HITNET) ミニ企画展「音の誘惑-日本の産業技術-」を開催します。
【詳細URL:https://www.kahaku.go.jp/event/2022/03hitnet/ 】

国立科学博物館では、日本の産業系博物館等の資料を検索できる共通データベース(ヒットネット=HITNET)を構築し、公開してきています。産業技術に関する資料を所蔵・展示している多くの産業系博物館が日本各地に存在することを紹介するために、このたび、ヒットネットに登録している161館から、「音楽」に関連する4館を紹介するミニ企画展を開催します。各館に展示されている音に関するエピソードなどをお楽しみください。パネルや展示を見ながら、日々の生活を支え、豊かな文化を育んできた産業技術の面白さや、技術の歴史を見る楽しさを感じていただければ幸いです。

第8回 HITNET ミニ企画展「香りの魅力-日本の産業技術-」開催時の様子(2020年)

 

第9回ヒットネット(HITNET)ミニ企画展 「音の誘惑-日本の産業技術-」 開催概要

【会場】国立科学博物館 地球館2階(東京都台東区上野公園7-20)
【開催期間】2022(令和4)年3月23日(水)~5月8日(日) 47日間
【料金】常設展示入館料のみでご覧いただけます。
【休館日】毎週月曜日(月曜日が休日の場合は火曜日) ※ただし3月28日(月)、5月2日(月)は臨時開館
【開館時間】9:00~17:00 ※現在、入館時間は予約制
【主催】国立科学博物館
【共催】新冠町聴体験文化交流館 レ・コード館(北海道新冠町)、津軽三味線会館(青森県五所川原市)
浜松市楽器博物館(静岡県浜松市)、ブラザーミュージアム(愛知県名古屋市)

【詳細URL:https://www.kahaku.go.jp/event/2022/03hitnet/ 】
※入館にはオンラインによる事前予約が必要です。ご来館前に必ず公式ホームページをご確認ください。

 

・ヒットネット(HITNET)とは…

【ヒットネット=HITNET】では、日本全国の登録した産業系博物館等が収蔵・展示する資料を横断的に検索・閲覧することができます。ホームページ( http://sts.kahaku.go.jp/hitnet/ )から、関心のあるキーワードを入力すると、データベース内の該当する情報が表示されます。私たちの生活を豊かにしてきた産業技術のルーツや、技術者・職人たちの創意工夫の跡を見ることができます。

 

・国立科学博物館

※入館にはオンラインによる事前予約が必要です。ご来館前に必ず公式ホームページをご確認ください。

【所在地】〒110-8718 東京都台東区上野公園 7-20
【開館時間】9:00 ~17:00
【休館日】毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は火曜日)※ただし、本展開催期間のうち3月28日(月)、5月2日(月)は臨時開館
【入館料】一般・大学生 630円、高校生(高等専門学校生含む)以下および65歳以上 無料
【問い合わせ】ハローダイヤル:03-5777-8600

< 国立科学博物館 >
ホームページ:https://www.kahaku.go.jp/
産業技術史資料情報センター: http://sts.kahaku.go.jp/
第9 回ヒットネット(HITNET)ミニ企画展 「音の誘惑-日本の産業技術-」:https://www.kahaku.go.jp/event/2022/03hitnet/ 

YouTube:https://www.youtube.com/user/NMNSTOKYO/
Twitter:https://twitter.com/museum_kahaku
Facebook:https://www.facebook.com/NationalMuseumofNatureandScience/
Instagram:https://www.instagram.com/kahaku_nmns/

 

記事提供:ココシル上野


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【国立科学博物館】特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」会場レポート。宝石のすべてがわかる⁉ 豪華絢爛なジュエリーも集結

国立科学博物館
取材会に登場したカズレーザーさん(アメシストドームの前にて)

多種多様な宝石と、それらを使用した豪華絢爛なジュエリーを一堂に集めた特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」が国立科学博物館(東京・上野)で開催中です。会期は2月19日(土)から6月19日(日)まで。

開催に先駆けて行われた取材会と報道内覧会に参加してきましたので、会場の様子をレポートします。

会場入口
展示風景
展示風景
展示風景 「ナポレオンの名将モルティエ元帥よりリュミニー侯爵夫人へ送られたピンク・トパーズとアクアマリンのパリュール」1820年頃 フランス 個人蔵、協力:アルビオン アート・ジュエリー・インスティテュート

カズレーザーさんも興味津々!宝石のすべてがわかる展覧会

宝石のほとんどは、地球内部で形成された鉱物です。さまざまな地質作用の重なりを通して、美しさ、耐久性、適度な大きさといった宝石の要件をすべて満たす鉱物が生じることはまれであり、その稀少性ゆえに長く尊ばれてきました。

古くは魔よけやお守り、地位や権力を示すシンボルとして。現在では宝飾品として。美しく輝き、朽ちることのない姿に神秘性と力強さを秘めた宝石は、時代を超えて世界中の人々を魅了しています。

特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」は、約200種類もの多種多様な宝石のラフ(原石)・ルース(磨いた石)や、アルビオン アートをはじめとする世界的な宝飾コレクションのジュエリーを展示。原石誕生のしくみ、歴史、性質、多様性、加工技術など、実物を見せながら科学的・文化的な切り口で総合的に「宝石」を紹介する内容になっています。

取材会には展覧会公式アンバサダーであり、音声ガイドナビゲーターも担当したタレントのカズレーザーさんが登場しました。

カズレーザーさん

本展について「学ぶことがめちゃめちゃ多い」と話すカズレーザーさん。「すべての宝石に特徴があって、光があたったときの色の変わり方とか、固さとか割れ方とか、ひとつ調べると派生でいろんなことに詳しくなれる。まずは自分の推しの宝石を見つけるのがいいのでは」と楽しみ方を提案します。

インタビューの最後に「宝石や鉱物というものは何もものを言わないんですけど、それに対する人間の捉え方が歴史とともに変わるのが面白かったです。皆さんもぜひ足を運んでみてください」と呼びかけました。

また、本展の監修者である国立科学博物館 地学研究部部長 宮脇律郎さんは、本展にかける思いを次のように語ります。

写真右端が宮脇律郎さん

「宝石は古い時代から人々の生活を豊かにし、高め、実生活の実用品という側面だけでなくむしろ気持ちを豊かにする存在として私たちの生活に寄り添ってきました。そういった宝石をあらためて科学の目で見つめ直しながら、その美しさの秘密を十分に味わえるような知識と、その背景に対する皆さんの見方をより深くするために本展を役立てていただけたら嬉しいです」

第1章 原石の誕生

具体的な展示内容をいくつか取り上げていきます。

「第1章 原石の誕生」では、地球内部のどういった環境下で原石が形成されるのか、原石を含むさまざまな岩石の大型標本を4つの産状タイプ(火成岩、熱水脈、ペグマタイト、変成岩)にわけて紹介しています。

たとえば、マグマが冷えて固まってできた「火成岩」で見つかる原石はダイヤモンドやペリドットなど。地下深くに存在する高温の熱水が岩盤の割れ目などを通って上昇した跡「熱水脈」で見つかる原石はアメシストやロッククリスタル(水晶)などがあるそう。

「熱水脈」で見つかる代表的な原石

何かしらのエネルギーを秘めた人工物にしか見えないトルマリンや、丸く菌糸類のように結晶化したマラカイトなど、原石のビジュアルは独特なものもあって面白いです。また、地球外産の原石としてペリドットを含むパラサイト隕石も展示されていました。

トルマリン 神奈川県立生命の星・地球博物館蔵
パラサイト(エスクエル隕石) ミュージアムパーク茨城県自然博物館蔵

第1章では、先ほどからちらちらと写真に写り込んでいた、ブラジルの溶岩台地で掘り出されたという高さ約2.5mの巨大なアメシストドームも鑑賞できます。大量のアメシストがキラキラキラ……と音が聞こえてきそうなくらい煌めいている姿は壮観! 本展の目玉展示です。

アメシストドーム
アメシストドーム(部分)

第2章 原石から宝石へ

「第2章 原石から宝石へ」では、原石の採掘からカット(成形や研磨の工程)の加工技術までを紹介。たとえば、ダイヤモンドの魅力を最大限引き出すカットとしてデザインされたラウンドブリリアントカット(58面カット)の工程見本などを展示し、原石がどのような過程で美しい宝石になるのかを分かりやすく解説しています。

展示風景
ブリリアントカットの工程見本 山梨県立宝石美術専門学校蔵
10種類の代表的な宝石のシェイプ(輪郭) 諏訪貿易蔵

注目は、古美術収集家の橋本貫志氏(1924~2018)が15年かけて世界中のオークションで集めた「橋本コレクション」のジュエリーのうち、宝石がセットされた指輪約200点を製作年代順に並べた展示。およそ4000年におよぶ宝石のカットの歴史をたどることができます。

橋本コレクション
橋本コレクション/ 紀元前2000年頃に製作された指輪
橋本コレクション/ 18世紀頃に製作された指輪

アンティークジュエリー愛好家なら、ここだけで何時間でも鑑賞していられそうなほど変化とバラエティに富んだラインナップです。「16世紀までは半球状のツルっとしたカット(カボションカット)が主流だったんだ」など、時代の流れに沿って鑑賞することでさまざまな気づきがあるはず。

第3章 宝石の特性と多様性

「第3章 宝石の特性と多様性」では、「輝き」「煌めき」「彩り」「強さ」といった宝石の価値基準となる特性を科学的に解説しながら、ラフ(原石)、ルース(磨いた石)をメインに200種を超える宝石を一挙に紹介。

ダイヤモンド、サファイア、ルビー、エメラルドの4大宝石から、フォスフォフィライトなどのレアストーン、真珠やコーラル(宝石珊瑚)といった生物由来のものまで、それぞれの宝石の特徴や多様性を学ぶことができます。

宝石の美しさの秘密である、光の透過、反射、屈折、散乱といった光学特性の解説
硬さの指標である「モース硬度」の基準となる鉱物一覧
エメラルドやその仲間の展示

展示では、赤いイメージのあるガーネットの意外なカラーバリエーションの豊富さに驚きましたが、実はガーネットは単一の鉱物種ではなくグループ名なのだそう。色の違いは鉱物種の違いも関係しているとか。

さまざまな色のガーネットの展示

同じくグループ名であるトルマリンは、一粒の結晶の部位で色が異なるバイカラー(2色)やトリカラー(3色)のものが多いだけでなく、見る向きで色が異なる多色性、光源により色が変わる変色性をもつこともある、見ていて楽しい宝石。

グラデーションの結晶が美しいトルマリンの展示

サイケデリックでクールなビジュアルをしたオパールの原石も発見。ルースは上品な印象だったのでギャップに引きつけられます。オパールだけでなく、ラフとルースの印象の違いを自分の目で確認できるのも本展の醍醐味ですね。

(写真右上)ひび割れのような模様で7色に輝くオパールの原石/ ボルダー・オパール 協力:翡翠原石館

第3章で要チェックなのは「紫外線で光る宝石(蛍光)」のコーナー。暗い小部屋で、蛍光性をもつものとして代表的なフローライト(蛍石)をはじめ、いろいろな石が発する幻想的な光の共演が楽しめます。暗褐色のアンバー(琥珀)がライトブルーに光る一方で、ルビーは赤の発色がより強くなるなど、光り方にも個性があってワクワクしました。

「紫外線で光る宝石(蛍光)」の展示

また、「日本産の宝石」のコーナーも見ごたえあり。日本産の宝石というとパール(真珠)やひすいがとれることは知っていましたが、トパーズやガーネット、ルビー、サファイア、アメシスト、ロードクロサイトなども見つかるそう。種類の豊富さに意外だと驚く来場者の声も多く聞こえてきました。

「日本産の宝石」の展示

インパクトがあったのは「巨大宝石」のコーナー。20種ある宝石種の最大クラスのものを集めた展示で、一番大きいロッククリスタルは「21290.00ct」という見たことも聞いたこともないカラット数で思わず笑ってしまいました。両手でも持ち上げられなさそうです……。これだけ大きいと、細かいカットの美しさもしっかり認識できるのでありがたいところ。

「巨大宝石」の展示

第4章 ジュエリーの技巧

美しく輝くルースは、自ら輝きながらルースを引き立てる役割も果たすゴールドやプラチナといった貴金属のベゼル(台座)に収められることで、はじめてジュエリーになります。

「第4章 ジュエリーの技巧」では、宝石のセッティング(仕立て)の技術に着目。優れたセッティングがジュエリーにさらなる付加価値を与えることを示すため、パリに本店を構えるハイジュエリー メゾン「ヴァン クリーフ&アーペル」や、兵庫県芦屋市発のジュエリーブランド「ギメル」の芸術的デザインの逸品の数々を紹介しています。

「パンカ セット」ヴァン クリーフ&アーペル蔵
「アメンタ ネックレス」ヴァン クリーフ&アーペル蔵
日本の四季をイメージした「Four Seasons」 の夏の作品 ギメルトレーディング蔵
日本の四季をイメージした「Four Seasons」 の秋の作品 ギメルトレーディング蔵

セッティングの面で特に目を引くのは、ヴァン クリーフ&アーペルの「葡萄の葉のクリップ」というルビーとダイヤモンドが使われた作品。モザイク風に配置された細かなルビーを固定する貴金属が見えないことがおわかりでしょうか。

「葡萄の葉のクリップ」ヴァン クリーフ&アーペル蔵

これには「ミステリーセット」という、ルースを支える爪や突起が外から見えないように固定する同ブランドの特許技術が使われているそうです。きわめて高い専門性を要求する技術だけあり、いくら見回してもどのように石がセットされているのかまったくわかりませんでした……。ルビーの純粋な色彩の調和が楽しめるすばらしいデザインです。

第5章 宝石の極み

古代では魔除けや御守りとして指輪やペンダントなどに加工され、中世から近世に移行するルネッサンスの時代には、王侯貴族の「誇り」や権力の象徴として、人々の目にとまりやすいブローチやネックレスに仕立てられてきたという宝石。

時代によって役割を変えながら、限られた人々のためだけに存在した宝石は、いつしか装飾品の域を超えた歴史的な美術品、文化財として伝承されるようになったといいます。

「第5章 宝石の極み」では、世界的な宝飾コレクションであるアルビオン アート・コレクションから、古代のメソポタミアやエジプトで作られた作品から20世紀のジュエリーまで、選りすぐりの芸術品約60点を展示。自然と文化が融合した至高の美の歴史を鑑賞できます。

「ヘレニズム アルテミスのアメシスト・インタリオを伴うディアデム」紀元前4世紀後期-3世紀 ギリシャ アルビオン アート・コレクション
「ルネサンス 空翔るキューピッドのペンダント」1590-1620年頃 ドイツまたはオランダ 個人蔵、協力:アルビオン アート・ジュエリー・インスティテュート
「ウェリントン公爵のシャトレーヌ・ウォッチ」1809年頃 イギリス 個人蔵、協力:アルビオン アート・ジュエリー・インスティテュート
(写真左)「ロシア大帝エカテリーナ2世よりアレクセイ・オルロフへ贈られたエカテリーナ大帝の肖像 エメラルド・インタリオ」18世紀 ロシア 個人蔵、協力:アルビオン アート・ジュエリー・インスティテュート
(写真右)「ロシア大帝エカテリーナ2世より第2代バッキンガムシャー伯爵へ贈られたエメラルド」1830年頃 イギリス 個人蔵、協力:アルビオン アート・ジュエリー・インスティテュート
「ベル・エポック ブシュロン蔵 ダイヤモンドのドッグカラー・ネックレス」1910年頃 フランス 個人蔵、協力:アルビオン アート・ジュエリー・インスティテュート
(写真上下セットで)ヴュルテンベルク王室旧蔵 ピンク・トパーズとダイヤモンドのグランパリュール:1810-1830年頃 ロシア(推定)個人蔵、協力:アルビオン アート・ジュエリー・インスティテュート

「おっ!」と目を引かれたのは、日本人に大人気の画家、アルフォンス・ミュシャが宝飾の革命を志したジョルジュ・ブーケと共同制作した胸飾り。アール・ヌーヴォー絶頂期の記念碑的作品だという本作ですが、ミューズを思わせる乙女の像を囲っている花模様や、キューピッドをイメージする矢、チェーンでつながれたパールなどロマンティック感満載のデザインが大変愛らしいです。

「アール・ヌーヴォー フーケ&ミュシャ作 コルサージュ・オーナメント」1900年頃 フランス 個人蔵、協力:アルビオン アート・ジュエリー・インスティテュート

本展のラストを飾る第2会場では、日本のジュエリーの発展とクリエイター、クラフトマンの才能発信を目的としたコンペ「JJAジュエリーデザインアワード」の上位3作品が展示されているのですが、その斬新なデザインに視線がくぎづけ。

「Twinkle~星影の記憶~」デザイン・製作 上久保泰志

なかでもグランプリを受賞した上久保泰志氏の「Twinkle~星影の記憶~」は、筆者個人としては出展作品で一番心惹かれたジュエリー。製作者が子どものころに見た流星群をモチーフにした作品で、ダイヤモンドとプラチナ、ホワイトゴールド、イエローゴールドを用いて夜空で輝く星影の瞬きや、流星が残した輝きの軌跡と余韻を表現しているそう。非常に個性的ながら洗練された気品の漂うネックレスです。

美の歴史に残る逸品だらけのアンティークジュエリーで大満足していたところに、「現代デザイナーも負けてないぞ!」といわんばかりの鮮烈な傑作をお出しされ……最後まで気を抜けない、見どころしかない展覧会でした。

なお、本展では漫画家の二ノ宮知子先生が「Kiss」(講談社)で連載中の『七つ屋 志のぶの宝石匣』の登場キャラクターたちが会場を案内するほか、第2会場で描き下ろしイラストも展示。また、色鉛筆作家・長靴をはいた描(ねこ)氏の描き下ろし作品3点も展示されていますので、ファンの方はお見逃しなく。

二ノ宮知子先生の描き下ろしイラスト
長靴をはいた描(ねこ)氏の描き下ろし作品

国立科学博物館の宮脇律郎さんは、本展のPRで次のように話していました。
「博物館の展示で一番見ていただきたいのは “実物” です。本物を目にする機会はなかなかありませんが、この会場はそれらを集めて濃縮しています。会場に来て実物を見て、ぜひお気に入りの石を見つけてください」

さまざまな展覧会に足を運ぶ筆者も、いつになく心から「写真や映像ではなく実物を見てほしい!」と感じた、まばゆい輝きに満ちた本展。宝石の美しさの理由を学びながら、人類が積み上げてきた美の歴史をぜひその目で確かめてみてください。

特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」開催概要

会期 2022年2月19日(土)~ 6月19日(日)
※会期等は変更になる場合があります。
会場 国立科学博物館 地球館地下1階 特別展示室
開館時間 9時~17時(入場は16時30分まで)
休館日 月曜日(祝日の場合は翌火曜日休館)
※ただし3月28日、5月2日、6月13日は開館
入場料(税込) 一般・大学生2,000円、小・中・高校生600円
※日時指定予約制
※詳細は展覧会公式サイトでご確認ください。
主催 国立科学博物館、TBS、読売新聞社
お問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト https://hoseki-ten.jp

 

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【東京国立博物館】全方位型の展示空間で、空也上人が蘇る。特別展「空也上人と六波羅蜜寺」(~5/8)報道内覧会レポート

東京国立博物館
《空也上人立像》 康勝作 鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵

平安時代中期、民衆に阿弥陀信仰をいち早く広めた空也上人。

空也上人が創建した六波羅蜜寺に伝えられる上人像や、彼のもとで造られた四天王立像など、鎌倉彫刻の名宝が集う特別展「空他上人と六波羅蜜寺」が東京国立博物館で幕を開けた。

会場入口

東京国立博物館にて、空也上人と六波羅蜜寺の名宝に焦点を当てた特別展「空也上人と六波羅蜜寺」が開催されている。
ご存じの通り、空也上人とは南無阿弥陀仏を唱えれば極楽浄土が叶うとする阿弥陀信仰を民衆に広げた僧侶である。

この空也上人が生きた時代は平安時代中期。この時代は律令制度自体のゆるみ、それに起因する承平・天慶の乱など社会が大きな混乱に見舞われた時期でもあった。

そして、天暦五年(951)に京都の都に蔓延したパンデミックによって多くの民衆が病に侵されたわけだが、空也上人は井戸を掘り、火葬をすすめ、自らの命を省みることなく人々に救いの道を示したのである。

そして時は流れ、本年は空他上人没後150年を迎える。奇しくも、世界はコロナ禍という未曽有のパンデミックの最中にある。

ここに不思議な時代の符合と、本展の開催されるタイミングについて機縁を感じるのは筆者だけではないだろう。

本展では実に半世紀ぶりに空也上人立像が東京で公開され、さらに空也上人立のもとで制作された四天王立像や定朝(じょうちょう)作の地蔵菩薩像、さらに運慶作の地蔵菩薩坐像など、平安から鎌倉の彫刻の名品が一堂に集う。

会場風景
展示風景より。手前が《閻魔王坐像》(鎌倉時代・13世紀)
《地蔵菩薩立像》(平安時代・11世紀)

展示会場は東京国立博物館本館の特別5室。一室のみの展示空間なので敷地面積はさほどでもないが、鎌倉期の傑作彫刻が集う空間はまさに圧巻の一言。さらに空也上人をはじめ、展示作品によっては像を全方位360°から鑑賞することができるため、見どころは多い。

特に日頃拝観する機会の少ない光背(こうはい)部分(神仏から発せられる光明を視覚的に表現したもの)をじっくり鑑賞することができるので、ぜひあなただけの「推し角度」を見つけてみてほしい。

会場に足を踏み入れると正面に鎮座している地蔵菩薩立像は華やかな彩色が優美な平安彫刻の傑作で、均整の取れた身体のバランス、なだらかな曲面による立体構成の妙が光る。着衣は可憐な菊花紋で彩られており、大仏師定朝の技の冴えを感じさせる。

重要文化財・薬師如来坐像を中央に据え、四天王立像が揃い踏み
度重なる苦難を乗り越え、伝えられる六波羅蜜寺の至宝
《伝平清盛坐像》(鎌倉時代・13世紀)

六波羅蜜寺は当時平安京の外側に位置しており、京都の葬送の地鳥辺野(とりべの)の入口にあたる。そのことから「あの世」と「この世」の境界と見なされてきた特別な地であるが、六波羅蜜寺は建立以来幾多の災害や戦火に見舞われてきた。

本展で展示されているのはそれらの災禍を乗り越えて現代まで伝えられてきた奇跡の品々である。その美術的価値はもちろん、作品を通じて当時の信仰心の厚みにも思いを馳せてみるといいかもしれない。

伝平清盛坐像は慶派仏師の手によるものと考えられており、明証はないが平清盛の像として伝えられている。謎の多い像だ。
清盛は髪を剃った僧侶の姿で両手に巻物を持ち、それに視線を注ぐようにして足を組んで座している。一説には清盛の怨霊を防ぐために作られたとされているが、書物を眺めながらもどこか瞑想的な表情が印象的だ。かつて世を謳歌した清盛は、この時何を考えていたのだろう。

《空也上人立像》 康勝作 鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵

13世紀はじめに作られた六波羅蜜寺所蔵・空也上人立像は、日本の肖像彫刻の中で屈指の知名度を誇る。
口から仏さまがあらわれるという独特の造形が目を引くため、空也上人の業績や本像の正式名称を知らない若い世代にもよく知られている作品だ。

作者は鎌倉時代を代表する仏師運慶の四男、康勝(こうしょう)と考えられている。本像は空也上人の没後250年ほどの時を経て造像されたものだというが、まるで本人を目の当たりにして造られたかのような写実性が特徴的だ。鉦鼓を打ち鳴らして念仏を唱え、鹿杖を突きながら歩みを進める痩身の僧侶の姿。形なき音声を造形化した創造性には、脱帽というほかない。

本展では全方位360°から鑑賞可能。街を闊歩して鍛えられた脛やふくらはぎ、助けを求める声に耳を澄ますかのような表情・・・ぜひ空也上人の在りし日の姿を想起しながら、作品を鑑賞してみてほしい。

特別展「空也上人と六波羅蜜寺」開催概要

会期 2022年3月1日(火)~5月8日(日)
会場 東京国立博物館 本館特別5室
開館時間 9:30~17:00
休館日 月曜日、3/22(火)  ※ただし3/21, 3/28, 5/2は開館
主催 東京国立博物館、六波羅蜜寺、朝日新聞社、テレビ朝日、BS朝日
展覧会公式サイト https://kuya-rokuhara.exhibit.jp/

※記事の内容は掲載時点のものです。最新の情報と異なる場合がありますのでご注意ください。

 

記事提供:ココシル上野


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