国立西洋美術館
2019年10月19日(土)~、東京上野の国立西洋美術館にて、
日本・オーストリア友好150周年記念「ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」が開催されています。(2020年1月26日まで)
先日、開催に先立ち、プレス向けの内覧会が実施されましたので、その様子をレポート致します。
ハプスブルク家について
ハプスブルク家は、ライン川上流域の豪族として台頭し、13世紀末にオーストリアに進出、勢力を拡大。
オーストリアとその周辺の多様な民族や領土を統治し、第一次世界大戦後(1918年)に終焉を迎えるまで、数百年に渡り広大な帝国を築き続けた、ヨーロッパ随一の名門一族です。
具体的には、神聖ローマ帝国の位を15世紀以降に独占、16-17世紀にハプスブルク家がオーストリア系とスペイン系に分裂した際、スペイン系が南アメリカ、アフリカ、アジアに領土を拡大すると、”日の沈まない帝国”となりました。
ナポレオン戦争をきっかけに起こった、神聖ローマ帝国の解体後には、のちのオーストリア帝国を統治。
この長きに渡る統治の間、豊かな財力と人脈を生かして、世界有数の美術品や装飾品、工芸品、武具、歴史的記念品などの宝物を所有していきました。
「ハプスブルク展」は、一族によって建造され、1891年に開館した、ウィーン美術史美術館の協力により、絵画を中心として、武具、工芸品、タペストリー、版画など約100点を紹介する展覧会です。
ハプスブルク展の構成
ハプスブルク展の構成は下記のようになっております。
第1章
ハプスブルク家のコレクションの始まり
第1章では、15世後半から16世紀にかけてのハプスブルク家の美術品などの本格的な収集が行われ始めた時代の絵画、甲冑、工芸品など12点のコレクションを紹介します。
この時代のハプスブルク家の注目は、マクシミリアン1世(1459-1519年)。
巧みな政略結婚を行い、領土を拡大したことで有名ですが、マクシミリアン自身も美術の中心地フランドル ブルゴーニュ公国の後継者マリーと結婚し、ハプスブルク家のコレクションを豊かにするきっかけを作りました。
第2章
ルドルフ2世とプラハの宮殿
第2章では、稀代のコレクターとして有名な神聖ローマ帝国ルドルフ2世(1853‐1612年)に注目し、そのコレクションを含む、タペストリー、甲冑、絵画、彫刻など30点を紹介します。
ルドルフは、統治のセンスはありませんでしたが、芸術、学問の造詣の深さは、人並外れており、ウィ-ンからプラハに1583年に宮廷を移すと、絵画、武具、小型彫刻や工芸品、自然物の標本、時計などの多彩なコレクションを所有しました。
第3章
第3章は、3つのセクションに分かれています。
第3章の1 スペイン・ハプスブルク家とレオポルト1世
第3章の1では、ハプスブルク家が、オーストリア系とスペイン系の2系統に分裂し、つかず離れずの関係を保っていた時代のツールとなった肖像画など7点のコレクションを紹介します。
この時代の中心は、スペイン国王のフェリペ4世(1602-1644年)です。
彼は、若くして即位し、芸術や文化に情熱的で、若きベラスケスを宮廷画家に採用し、厚遇しました。
第3章の2
フェルディナント・カールとティロルのコレクション
3章の2では、オーストリア大公の一人で、重要なコレクターだった、ハプスブルク家系に属したフェルディナント・カールのコレクションを含む絵画6点を紹介します。
第3章の3
第3章の3では、ハプスブルク家の最重要コレクターの一人、レオポルト・ヴィルヘルム(1614-1662年)のコレクションを含む絵画24点を紹介します。
第4章 18世紀におけるハプスブルク家と帝室ギャラリー
第4章では、激動の18世紀を生き抜いた、ハプスブルク家の人々を、肖像画を中心に15点のコレクションで紹介します。
この時代の注目は、マリア・テレジア(1717-1780年)。
彼女は天性の聡明さ、政治手腕を発揮し、国難を乗り切って民を導いた「女帝」です。
もう一人の注目は、マリアテレジアの末娘のマリー・アントワネット(1755-1793年)。のちのフランス国王ルイ16世と政略結婚しますが、フランス革命でギロチンの露と消えた悲劇の王妃です。
第4章は、これらの人々を中心に展開します。
第5章 フランツ・ヨーゼフ1世の長き治世とオーストリア=ハンガリー二重帝国の終焉
新聖ローマ帝国は、ナポレオン戦争をきっかけに解体し、1804年にはオーストリア帝国が誕生します。(1867年以降、オーストリア=ハンガリー二重帝国)
しかし、第一次世界大戦の敗戦により、オーストリア帝国が崩壊。それとともに、ハプスブルク家も終わりを迎えます。
第5章では、ハプスブルク家の実質的な最後の皇帝として、有終の美を飾ったフランツ・ヨーゼフ1世(1830-1916年)ゆかりの作品、6点を紹介します。
編集部注目の作品
青いドレスの王女マルガリータ・テレサ
マルガリータ・テレサ8歳の頃を描いた、ベラスケス最晩年の作品。
華やかなシルクの青いドレスを身に纏い、真っ直ぐな瞳でこちらを見るその姿は、8歳とは思えないほど、落ち着いています。
ベラスケスは、このほか、3歳と5歳のマルガリータ・テレサを描いています。
皇妃マリア・テレジアの肖像
マリア・テレジアの治世初期に重用されたマルティン・ファン・メイテンス(子)によって描かれた、テレジアの肖像画。
作品からは、民を導いた「女帝」マリア・テレジアの自信にあふれた表情と、16人もの子供を設けたおおらかさが、感じられます。
フランス王妃マリー・アントワネットの肖像
マリー・アントワネットにその腕を見込まれて、宮廷画家として重用された、マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブランの作品。
作品は、政略結婚でフランスに嫁いだ若きマリー・アントワネットを描いたものです。
華やかなサテン地のドレスを纏い、一輪のピンクのバラの花を持つ、マリー・アントワネットの姿は輝いていて、この作品からは、フランス革命で悲劇的な死を迎えることなど、想像すらできません。
薄い青のドレスの皇妃エリザベト
ハプスブルク家の最後の実質的皇帝フランツ・ヨーゼフ1世に見染められ、オーストリア帝国皇妃として嫁いだエリザト(=愛称シシィ)をヨーゼフ・ホラチェクが描いた、肖像画。その奔放な性格や美しい容姿、非業の死を遂げたことから、のちに神格化された彼女のオーラに吸い込まれそうです。
エリザベトが体系維持のために、日常的にコルセットを着用したり、食事制限を課していたという話は有名です。
井戸端のレべカとエリエゼル
旧約聖書のイサクとリベカの結婚にまつわる一場面を描いた、オッターヴィオ・ヴァンニーニの代表作です。絵画の中央で、レべカが従者エリエゼルの椀に水を注いでいる姿の他、その背後のラクダや井戸端会議をする女性たちの姿も生き生きと描かれています。
聖母子
聖母マリアの膝の上で立ち上がる、幼児キリストを描いた作品。
バランスを取って立ち上がるキリストの手足の指の表情まで、繊細に描かれています。そして、キリストを支える聖母マリアの表情は、穏やかながら、今にも笑みがこぼれそうです。
神聖ローマ皇帝レオポルト1世(1640-1705)と皇妃マルガリータ・テレサ(1651-1673)の宮中晩餐会
神聖ローマ皇帝レオポルト1世(1640-1705)と皇妃マルガリータ・テレサ(1651-1673)の宮中晩餐会の祝賀期間中、重用された画家の一人、ヤン・トマスによって描かれた作品です。
晩餐会には、仮装パーティの衣装に身を包んだ人々が、左奥に座る皇帝夫妻との宴を思い思いに楽しんでいます。
耳を澄ますと、晩餐会の歓声が聞こえてきて、自分もその宴に参加しているような気分になります。
まとめ
「日本・オーストリア友好150周年記念 ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」のプレス向け内覧会についてレポートしてきました。
会場には、ハプスブルク家の約100点にも及ぶ収集作品を1つも見逃すまいと、たくさんの方々が来場されていました。中には、1つの作品に数10分も費やして、その場から離れられずに熱心に鑑賞する方、マリーアントワネットを思わせるような衣装を着て来場される女性も見受けられました。
会場の作品は王家のコレクションだけに、全て華やか。
紹介した作品以外にも、絵画はもちろんのこと、武具、工芸品、タペストリー、版画など、数えきれないほどの展示物があります。
現在開催中の「日本・オーストリア友好150周年記念 ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」。
ぜひ、国立西洋美術館でその華やかな品々を確かめに来てください。
開催概要
展覧会名 | 日本・オーストリア友好150周年記念 ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史 |
会期 | 2019年10月19日(土)-2020年1月26日(日) |
会場 | 国立西洋美術館(東京・上野公園) |
開館時間 | 9:30〜17:30(金・土曜日は20:00まで。11月30日[土]は17:30まで)※入館は閉館の30分前まで |
休館日 | 毎週月曜日(ただし11月4日(月・休)、1月13日(月・祝)は開館)、11月5日(火)、12月28日(土)~1月1日(水・祝)、1月14日(火) |
観覧料 | (当日) 一般 1,700円 大学生 1,100円 高校生 700円(前売・団体) 一般 1,400円 大学生 1,000円 高校生 600円 ※団体料金は20名以上。 ※中学生以下は無料。 ※心身に障害のある方と付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)。 |
公式HP | https://habsburg2019.jp/#/ |