【東京国立博物館】「日本のたてもの展」会場レポート―伝統建築の巨大模型が大集合!(~2021/2/21まで開催)

東京国立博物館

 

日本の伝統建築の造形的特徴や工匠の技を、模型や図案などの資料を通じて紹介する展覧会「日本のたてもの ―自然素材を活かす伝統の技と知恵」が、東京国立博物館、国立科学博物館、国立近現代建築資料館の3館合同で開催中です。

会場ごとに展示テーマと会期が異なる本展。
今回は、東京国立博物館で12月24日にスタートした「古代から近世、日本建築の成り立ち」をテーマとする展示を見てきましたので、会場の様子や展示作品についてレポートします。

 

*東京国立博物館「古代から近世、日本建築の成り立ち」
  会期:2020年12月24日~2021年2月21日
*国立科学博物館「近代の日本、様式と技術の多様化」
  会期:2020年12月8日~2021年1月11日
*国立近現代建築資料館「工匠と近代化―大工技術の継承と展開―」
  会期:2020年12月10日~2021年2月21日
 

《東大寺鐘楼 1/10模型》1966年・尾田組製作/東京国立博物館蔵/原建物1207-1211年・国宝
《如庵 1/5模型》1971年・京都科学標本製作/国立歴史民俗博物館蔵/原建物1618年頃・国宝
《東福寺三門 1/10模型》1979年・大栄土建工業、祖田康三ほか製作/国立歴史民俗博物館蔵/原建物1405年・国宝

《仁科神明宮本殿 1/10模型》1973年・伊藤平左ェ門建築事務所製作/国立歴史民俗博物館蔵/原建物17-18世紀・国宝

 

仏堂、城郭、茶室――バラエティに富んだ古代~近世の伝統建築模型19件を展示。

政治・宗教といった社会的条件の中で、気候や地域に適応し、時代ごとの美的感覚を吹き込みながら、変化と多様化を繰り返してきた日本の伝統建築。

建築模型は、そんな伝統建築に見られる工匠たちの優れた技術や美意識を凝縮して表現したもの。木・土・石……多様な自然素材を生かした造形的特徴、さらには日本建築史そのものを俯瞰するのに便利な存在といえるでしょう。

「古代から近世、日本建築の成り立ち」で展示されているのは、法隆寺五重塔、松本城天守、東福寺三門、如庵など、原建物が国宝・重要文化財である模型がメイン。細部まで精巧に再現した模型19件で、近世までの伝統建築の様式や意匠を鑑賞していきます。

これだけの模型が一堂に会すことは稀ですし、中にはこれまでほとんど披露される機会のなかった建築模型も含まれているなど、貴重な展覧会となっています。
 

会場内には伝統建築を受け継ぐ職人や技術についての丁寧な紹介パネルも。

大迫力! 縮尺1/10模型の存在感

展示風景 左から《一乗寺三重塔 1/10模型》《法隆寺五重塔 1/10模型》《石山寺多宝塔 1/10模型》

 
本展の会場は、東京国立博物館の中にある表慶館。1~2階の各部屋で、「中世の仏堂」「神社」「民家」といった幅広いカテゴリで作品が分類されていました。

出展されている建築模型の多くは、縮尺サイズが原建物の1/10とかなり大きめ。非常に迫力があり、全体の構造はもちろん装飾品の一つひとつまでじっくりと確認できます。

また、周囲360度どこからでも鑑賞できるように配置されている模型もあれば、東福寺三門や唐招提寺金堂など、内部構造を確認できるように分割製作された模型も複数ありました。

前から後ろから、斜めから下からと、いろいろな角度から作品を鑑賞するのがおすすめです。

 

《唐招提寺金堂 1/10模型》1963年・伊藤平左ェ門建築事務所製作/東京国立博物館蔵/原建物8世紀・国宝

 
というのも、たとえばこちら。唐招提寺金堂の1/10模型(分割)は、実は天井裏に原建物を再現した美しい極彩色の模様が描かれているそう。しかし筆者はうっかり見逃して後悔しているところなので、これから行かれる方は隅々まで鑑賞してみてください。

どの模型も探せば探すほど見どころだらけです。宝探しのような気持ちで楽しめるかもしれません。
 

模型作品をピックアップ紹介

《大仙院本堂 1/10模型》1969年・伊藤平左ェ門建築事務所製作/国立歴史民俗博物館蔵/原建物1513年・国宝

同上

 
日本最古の「床の間」をもつとされる大徳寺大仙院の本堂は、禅院方丈建築を代表する建物で国宝にも指定されています。

この1/10模型(分割)でぜひ注目してほしいのは障屏画。狩野元信の代表作の一つ《四季花鳥図》まで細かく再現されているのには目を見張りました。

現在は掛幅に改装されていますが、もともと八面の襖絵だったもの。このように襖絵が入っていた当時の大仙院を鑑賞できるのも、模型ならではの面白さといえるのかもしれません。

 

《松本城天守 1/20模型》1963年・伊藤平左ェ門建築事務所製作/東京国立博物館蔵/原建物16世紀・国宝

同上

 
松本城は、姫路城とともに五重天守の代表遺構で、現存する五重天守としては日本最古ともいわれています。日本の代表的な城郭建築の例として模型が製作されたそう。

この1/20模型(分割)も見ごたえ十分。外からは内部がどうなっているのかまるで想像がつきませんが、こうして断面から全体の構造を見ると「階段の配置が面白い」「空間自体はかなりシンプルなんだ」などさまざまな気づきもあり、新鮮でワクワクとした気分に。

 

《明治度大嘗宮 模型》明治時代・式部職製作/宮内庁蔵/原建物1871年

 
2019年11月、新天皇即位を受けて、国家や国民のために安寧と五穀豊穣などを祈る宮中祭祀「大嘗祭」が開かれ、一般公開もされました。

そのためだけに建設された祭場「大嘗宮」はすでに解体されていますが、本展では1871年の明治天皇即位の大嘗祭で使われた「明治度大嘗宮」の模型が展示されています。

令和の「大嘗宮」は板葺の屋根でしたが、こちらは伝統的な茅葺屋根の建築群が並んでいました。

宮内庁の式部職が製作したもので、大正時代までは東京国立博物館で展示されていたそうですが、その後は倉庫へしまい込まれた状態だったとか。これほどの大作が長年埋もれていたとはもったいない……!
 

◆2019年に焼失した首里城正殿の模型も。

《首里城正殿 1/10模型》1953年・知念朝栄製作/沖縄県立博物館・美術館蔵/原建物18世紀前半(1945年焼失)

 
18世紀前半頃に建ったとされ、かつては琉球王国の文化や外交の中心地であり、沖縄の歴史を象徴するシンボルとも呼べる首里城。

沖縄戦で戦災に遭い、1992年に主な施設が復元されましたが、2019年10月の大規模火災により正殿を含む6棟が全焼。激しく炎が燃え上がる様子は連日ニュースで取り上げられましたので、記憶に新しいという方も多いのではないでしょうか。

本展にはそんな首里城正殿の1/10模型も出展。戦前の解体修理に参加した知念朝栄という大工が1953年に製作した作品で、沖縄県外の展覧会に出されるのは今回が初めてとなるそう。

日本と中国の建築様式が混じった独特な意匠が見られ、たとえば二層三階建ての建物や正面末広がりの階段などは、琉球独自のものなのだとか。

原建物の特徴的な朱色こそ見られませんが、同フロアに配置された在りし日の正殿の写真と見比べながら、2026年の再建へ思いが募りました。

 

 

 

12月17日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が、日本の宮大工や左官が継承してきた17分野の技術をまとめた「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」のユネスコ無形文化遺産登録を決めたばかり。

今だからこそ、ぜひ「日本のたてもの ―自然素材を活かす伝統の技と知恵」展で、あらためて日本人がこれまで培ってきた技術と美意識に触れてみていかがでしょうか。

 

オリジナルデザインのグッズが非常にかわいかったです!

 

開催概要

「日本のたてもの ―自然素材を活かす伝統の技と知恵」
会場テーマ「古代から近世、日本建築の成り立ち」

会期 2020年12月24日(木)~2021年2月21日(日)
会場 東京国立博物館 表慶館
開館時間 午前9時30分~午後5時
*金曜・土曜日は午後9時まで開館
*1月2日(土)、8日(金)、9日(土)は午後5時に閉館
休館日 月曜日、2020年12月26日(土)~2021年1月1日(金・祝)、1月12日(火)
*ただし、1月11日(月・祝)は開館
観覧料 一般1,500円、大学生1,000円、高校生600円
*中学生以下および障がい者とその介護者1名は無料。
注意事項 *入館はオンラインによる事前予約(日時指定券)制です。
*定員に達していない場合は当日受付が可能です。
チケットはこちらから↓
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/tatemono/ticket.html
公式ページ https://tsumugu.yomiuri.co.jp/tatemono/

 

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