【上野の森美術館】台東区障害者作品展「森の中の展覧会」会場レポート。水彩画や切り絵など個性豊かな214作品がそろう

上野の森美術館

 

2023年3月8日~3月12日の期間、上野の森美術館では台東区障害者作品展「森の中の展覧会」が開催されました。

 

「森の中の展覧会」
会場風景
会場風景
会場風景
会場風景、吾妻 瑠華《黒猫ラム》(アクリル絵の具)
会場風景、濵田 理恵《蓮 池のつぼみ》(鉛筆、水彩絵の具)

台東区では、あらゆる人が文化・芸術を楽しめる機会をつくるとともに、文化・芸術活動への参画を支援し、障害への理解促進を図る「障害者アーツ」の取り組みを進めています。

「障害者アーツ」の一環で台東区と上野の森美術館が主催する「森の中の展覧会」は、今回で2回目の開催となりました。

同展開催のきっかけの一つは、台東区が障害者施設にヒアリングを行った際、「普段の施設での活動とは異なることをやりたい」「難しいことに挑戦する機会にしたい」という意見が寄せられたことだったとか。

また、障害のある方のなかには、心理的なハードルがあるために自らの作品をなかなか世に出せない方や、そもそもこれまで創作活動に触れてこなかった方も多くいます。そういった方々が美術館に作品を展示する機会を通して、主体的に芸術に携わる楽しさ、誰かに自分の作品を認めてもらう喜びを知ってもらおうと企画したとのこと。

出展者は台東区に在住、在勤、在学している障害のある方や、区内の障害者施設・団体等を利用している方などで、最終的に214点もの作品が集まりました。障害者施設に美術講師を派遣して開催した美術ワークショップで制作された作品や、区内小中学校の特別支援学級の授業で制作された作品も多く展示されました。

松葉小学校の生徒による、自分の好きな生き物を表現した版画作品。ビーズを貼り付けるなど、額にもこだわりが光っていました。

題材は自由。会場には水彩画や色鉛筆、版画といった絵画を中心に、自由な色使いと発想で生み出された個性的な作品が並んでいました。

みつはし じゅん《折り切り文字「東京」》(折紙・ダンボール)/ 折紙を折る過程も作品に昇華したユニークな作品。白と赤のコントラストが黒の背景に映えて、会場で特に目を引きました。
結ふるキッズ《ムーンウルフ》(折紙・ビニール・ラメ・アルミホイル)/多様な素材で立体感を出しています。月に千代紙が使用されていて、どことなく和の雰囲気も漂っているなど見どころが多い力作。
潤滑《軽作業》(墨)/「仲間と軽作業を楽しくやりたいからこの作品を作った」との作者コメント通り、飾らない字体が爽やかな気持ちにさせてくれます。「潤滑」というペンネームも洒落ていて作品とマッチしている気がします。

作品に添えられたキャプションには、タイトルと作者名(ペンネームも可)、そして短い作者コメントのみ。年齢も、これまでの創作経験も、もちろん障害の程度や種類もわかりません。障害者アートと聞くと「体が不自由なのに上手だ」「目が見えないのにすごい」というふうに、属性に引っ張られたモノの見方をしてしまう方もいるかと思いますが、同展ではアートそのものの魅力と向き合えるような構成になっていました。

 

また、同展は作品をただ展示する場ではありません。出展作品は美術の専門家の目に触れ、特に優秀な作品は台東区長賞、上野の森美術館賞、優秀賞、佳作のいずれかに選ばれ表彰されます。本年度は武蔵野美術大学油絵学科教授・造形学部長の樺山祐和さん、画家の西村冨彌さん、遊馬賢一さん、書道家の蕗野雅宣さんが審査委員となり、10点の作品が選出されました。

【台東区長賞】哘 博考《今日のご飯は何かな?》(色鉛筆)
【上野の森美術館賞】大橋 直樹《象(ゾウ)》(アクリル絵の具)

いくつか講評をお聞きすることができました。

台東区長賞を受賞した哘 博考(さそう ひろたか)さんの《今日のご飯は何かな?》は、「鳥を見た時の感覚の強さが絵に出ている。頭部だけの描写だが、鳥をこう見たこう感じたという思いがストレートに伝わる。緻密に書いていて充実感のある強い絵である」「構図が堂々としている。画面の広さ以上の構図が感動につながっている」とのコメント。

上野の森美術館賞を受賞した大橋 直樹さんの《象》は、「象らしくないようにも見えるが、一見して象とわかる。形や色が明快でストレートな感じがすごく良い」「象の黒色と背景の黄色との明暗が見事」「牙などを上から何回も手をかけているのが分かる。思い切りが良くいさぎよい絵が心を打つ」といったご意見があったようです。

こうしたプロが注目するポイントを知ることで、自分や他人の創作物への見方が変わり、より面白みや新しいアイデアが出てくる気がします。

作品を作ったのなら、誰でも人に見てもらいたい、そして認めてもらいたいという欲求が出てくるもの。同展への出展や受賞をきっかけに創作の楽しさを知った方の中から、もしかすると未来の大物アーティストが誕生するかもしれませんね!

物販のがま口やサコッシュ

最後に、ミュージアムグッズといえばたいてい展覧会会場の外で展開されているものですが、同展では会場内に物販があったことに驚きました。販売されていたのは台東区内の福祉作業所が製作した菓子や布製品、革製品など。

台東区の担当者にお話を聞くと、せっかく良い商品を作っても販路が限られているために知る人ぞ知る商品になっているのが現状であるため、この機会に場を提供し、認知度アップを目指しているとのことでした。


入場無料ということもあり、取材を行った会期初日は大変な賑わいで、校外学習で訪れた学生の団体客もチラホラと見かけました。多くの展覧会では私語が憚られるようなピリッとした空気が漂っているものですが、同展では作品について来場者が思い思いに意見を交わし、写真を撮る方も多くいるなど、とてもほのぼのとした雰囲気。中にはおそらく出展者だと思しき方もいて、自作品について生き生きと解説している姿が非常に印象的でした。

前回の展示作品は141点でしたが、今回は214点に増えるなど、規模が徐々に大きくなっている「森の中の展覧会」。良い意味で統一感のない展示作品を見ていけば、それぞれの心に残る作品が見つかるはずです。第3回は2024年に開催予定ですので、今後もぜひご注目ください。

 

「森の中の展覧会」概要

会期 2023年3月8日 (水) 〜 3月12日 (日)
会場 上野の森美術館
入場料 無料
WEBサイト https://www.city.taito.lg.jp/bunka_kanko/culturekankyo/events/shougaiarts/morinonaka.html

※記事の内容は取材日(2023/3/8)時点のものです。

 


その他のレポートを見る