【上野の森美術館】令和5年度 台東区障害者作品展「森の中の展覧会」会場レポート。応募数254点、芸術に携わる喜びの輪が広がる

上野の森美術館
「森の中の展覧会」会場風景

2024年3月6日~3月10日の期間、上野の森美術館では令和5年度 台東区障害者作品展「森の中の展覧会」が開催されました。

※作品に使用されている素材の表記については作家(送付者)の申請に準拠しています。

「森の中の展覧会」会場風景

障害のある方のなかには、心理的なハードルがあり作品をなかなか世に出せない方や、そもそもこれまで創作活動に触れてこなかったという方が少なくありません。「森の中の展覧会」は、そうした方々に美術館に作品を展示する機会を通して、主体的に芸術に携わる楽しさ、誰かに自分の作品を認めてもらう喜びを知ってもらおうと、台東区と上野の森美術館が共催して企画した展覧会です。開催は今年で3回目、入場無料です。

出品者は台東区に在住・在学・在勤または区内の障害者施設・団体等を利用している障害のある方で、昨年の214点を上回る254点もの作品が集まりました。

台東区立金竜小学校《真夜中のピエロ》画用紙

会場に入って最初に来場者を出迎えたのは、金竜小学校の児童が制作した「真夜中のピエロ」というカラフルな作品群。マーブル模様のように色を付けた画用紙を思い思いの形に切り取ってピエロを象っています。こちらを笑わせようとしているような優しい風貌のピエロがいるかと思えば、刃物を持ったおどろおどろしいピエロの姿も。基本の型が同じでも、それぞれが表現するピエロのイメージが非常に個性的で、一つひとつが目を惹きつけるパワーに溢れ、この先の展示に対してもワクワクと期待を抱かせてくれました。

会場風景
台東区立浅草中学校 F・M《愛犬「ハル」》マスキングテープ
M《エトピリカ》クレパス

壁面での展示が可能な平面作品という規定はあるものの、題材や素材は自由なので、水彩・アクリル・色鉛筆等を用いた絵画、ちぎり絵、折り紙、粘土、書など、バリエーション豊かな表現を味わえるのも本展の魅力です。

会場風景
山上 ガセイ《美容室》アクリル、油性ペン
伊藤:: 大∴作∴《生命の存在》アクリル絵の具、石粉粘土、板パネル(ミクストメディア)

また、本展では特に優秀だと判断された作品に対して賞が授与されます。今年は武蔵野美術大学学長の樺山祐和さんや画家の遊馬賢一さん、書道家の蕗野雅宣さんが審査をつとめました。

今年は優れた作品が多かったこともあり、昨年までの台東区長賞、上野の森美術館賞、優秀賞、佳作に加え、審査員特別賞を新設。また、惜しくも入賞を逃した作品についても入選作品として紹介されることになりました。

台東区長賞、森村真衣子《盛》アクリル絵の具・色鉛筆・エポキシ樹脂 等

台東区長賞には森村真衣子さんの《盛(さかり)》が選ばれました。

作家コメント:「森」という漢字には”木々が集まる様”が表されていますが、この作品「盛」をとおして、普段は疎遠になってしまっていた人達の思いが集まり楽しい気持ちをもって新たな人生の歩みへ続く物になってもらえたら幸いです。

審査委員から「見ていて飽きない」「玉手箱を開けたような感じ」と評された本作は、タイトル通りまさに「盛」りだくさんに、さまざまな要素が混然一体となって、絶妙な感覚で細部まで詰め込まれた力作です。

台東区長賞、森村真衣子《盛》アクリル絵の具、色鉛筆、エポキシ樹脂 等

いつの時代、どこの国とも判断できない、鳥や卵が象徴的に登場する不思議な世界が、エポキシ樹脂で層を作ることで立体感とともに広がっています。多様なマテリアルが用いられており、右上にある緑の木のような部分は、よく見ればパンの袋を閉じるプラスチックの留め具(バッグ・クロージャー)の形に切った厚紙で作られているなど、出展作品のなかでも頭一つ抜けた独創性を披露していました。

上野の森美術館賞、嶋田勝弘《未来》水彩ペン、マジックペン
優秀賞、放課後デイサービス獏のたまご《春が来た》絵の具、クレヨン、毛糸
佳作、ともだち《雲雀》墨汁
審査員特別賞、Candy 純子《3人の十字架》ぺんてるクレヨン

会場を巡っているうちに、前回の開催時に記憶に残る作品を制作されていた方のお名前が、今回も多く見受けられたことに気づきました。調べてみると、じつは台東区長賞の森村真衣子さんも、第1回で上野の森美術館賞を受賞されていたとのこと。

本展の担当者にお話を伺うと、「開催3回目にしてすでに“おなじみ”の作家さんがでてきています。ご自身の作風を貫きつつも技術を高めてきた方もいれば、ガラリと異なるアプローチの作品を送ってくださった方もいて、本展が創作のモチベーションになっているのかなと思うとうれしいですね」と笑顔をみせます。

佳作、哘 博考《ワン☆ショット》アクリル絵の具、画用紙/ 昨年は色鉛筆の作品で台東区長賞を受賞した哘 博考さんは、今年は切り絵で佳作に選ばれるという多才ぶり。

台東区では「障害者アーツ事業」の一環で、区内の障害者施設に美術講師を派遣して美術ワークショップを開催しています。最近では本展の評判を知った施設側から「ぜひうちでもワークショップをやってほしい」と声が上がることも増えているそうで、着実に本展が周知されつつあるのを実感しているといいます。

「そうやってワークショップに参加してくださった施設の皆さんが、団体で本展に足を運び、喜びを共有していらっしゃる様子は、私たちにとっても大きなモチベーションになっています」と担当者。

卓上カレンダー

なお、今年から受賞作品を絵柄に採用した卓上カレンダーを制作したとのこと。(今年のカレンダーは前回・前々回の受賞作品を掲載)

来年のカレンダーには今回の受賞作品が掲載されるそうで、このように作品を見てもらう機会を増やすことは、作家たちのさらなる意欲向上につながっていくことでしょう。技術を高めて新作を発表する常連作家のなかには、いずれ美術界で躍進を遂げる方もいるかもしれませんので、今後も注目していきたいです。

なお、2024年3月21日(木)~4月19日(金)まで台東区役所1階 アートギャラリーにて受賞作品の一部が展示されますので、ご興味のある方はぜひ足を運んでみてください。

令和5年度 台東区障害者作品展「森の中の展覧会」概要

会期 2024年3月6日 (水) 〜 3月10日 (日)
会場 上野の森美術館
入場料 無料
WEB https://www.city.taito.lg.jp/bunka_kanko/culturekankyo/events/shougaiarts/r5morinonakanotenran.html

※記事の内容は取材日(2024/3/6)時点のものです。

 


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