東京国立博物館
戦乱の時代に生き、芸に秀で、革新的な作品を生み出した本阿弥光悦。
東京国立博物館 平成館で開催される特別展「本阿弥光悦の大宇宙」はその題目通り、作品の数々を通じて彼の信仰や内面世界に光を照射する。
本記事では開催前日に行われた報道内覧会の様子をレポートする。
本阿弥光悦とは?
江戸時代初期に活躍した「本阿弥光悦」(ほんあみこうえつ)は、日本刀鑑定の名門家系に生まれ、後世の日本文化に大きな影響を与えた芸術家です。
家職である刀剣の分野で優れた目利きの技量を発揮し、徳川将軍家や大名たちに一目置かれていたのみならず、能書(書の名人)としても知られ、さらに陶芸や漆芸、出版などさまざまな造形に関わり、優れた作品を後世に残しました。
「一生涯へつらい候事至てきらひの人」で「異風者」(『本阿弥行状記』)
と評された光悦が、その篤い信仰と煌めく精神によって作り上げた優品の多くが国宝や重要文化財に指定されるなど、今なお高い評価を受けています。
異風者、本阿弥光悦の美意識に迫る
本展覧会は、
第1章 本阿弥家の家職と法華信仰―光悦芸術の源泉
第2章 謡本と光悦蒔絵―炸裂する言葉とかたち
第3章 光悦の筆線と字姿―二次元空間の妙技
第4章 光悦茶碗―土の刀剣
という章立てにより、優品の数々を通じて本阿弥光悦の美意識に迫ります。
光悦自身の手による書や作陶のみならず、同じ信仰のもとに参集した工匠たちがかかわった蒔絵や同時代の社会状況に応答して生み出された作品を展示。さらに本阿弥家の信仰とともに当時の法華町衆の社会にも注目しており、総合的に光悦の有り様を見通すことができる展示構成となっています。
特に、最終章となる第4章「光悦茶碗—土の刀剣」には本阿弥光悦作の《黒楽茶碗 銘 時雨》(重要文化財)など、息を呑むほどの優美な名椀が多数展示され、まさに本展の白眉といった趣を湛えています。
こちらでは、それぞれの章に展示された作品の中からジャンルごとにピックアップした作品をご覧いただきます。
漆
文学世界と書が織りなすイメージの連環
本展の会場入口に鎮座し、その輝きと造形で来場者を驚かせる国宝《舟橋蒔絵硯箱》。
本阿弥光悦(1558-1637)の代表作として有名な硯箱で、蓋を高く山形に盛り上げているのが特徴的。全体は角を丸くした方形で、蓋を身より大きく造った被蓋(かぶせぶた)に造っています。
箱の全面に金粉を密にまいて波の地文に小舟を並べ、その間を細かい波紋で埋めており、さらに銀製の歌文字を高く嵌め込んでいます。
刀
本阿弥家の審美眼によって選び抜かれた名刀
光悦の指料(さしりょう)として伝えられている唯一の刀剣が、約40年ぶりに公開されています。
作者の兼氏は、美濃国(現岐阜県)志津で鎌倉時代末期から南北朝時代前半に活躍した刀工。指裏には光悦の筆と伝わる「花形見」の金象嵌があり、付属する刀装には金蒔絵による忍ぶ草が鞘全体を包み込むように細やかにあらわされ、非常に華やかです。
花形見の金象嵌と忍ぶ草の金蒔絵、その言葉や意匠の意味を読み解くと、光悦の秘めた想いが見えてくるのでしょうか。
書
光悦充実期の代表作
飛び渡る鶴の群れを金銀泥で描いた料紙に、平安時代までの三十六歌仙の和歌を散らし書きした一巻。鶴の上昇と下降、群れの密度に合わせて、字形と字配りを巧みに変化させており、その躍動感に驚かされます。
俵屋宗達筆とされる下絵と協調し、あるいは競い合うように展開するその書は、光悦が最も充実した作風を示した時期の代表作と評されています。
本展覧会では全巻が一挙に公開されるため、大変貴重な機会となります。
陶
いまなお圧倒的な存在感を放つ名碗
楽茶碗は手づくねで成形し、箆で削り込んでつくりあげていきますが、光悦が手がけたとされる茶碗には、それぞれ各所に光悦自身の手の動きを感じさせるような作為が認められます。
しかし本作品ではそれが抑えられ、全体に静謐な印象を与えているのが特徴。名古屋の数寄者・森川如春庵が16歳の若さで手にしたことでも知られています。
開催概要
会期 | 2024年1月16日(火)~3月10日(日) ※会期中一部作品の展示替えあり |
会場 | 東京国立博物館 平成館(上野公園) |
開館時間 | 9時30分~17時 ※最終入館は閉館の30分前まで |
休館日 | 月曜日、2月13日(火) ※ただし2月12日(月・祝)は開館 |
観覧料 | 一般 2,100円 大学生 1,300円 高校生 900円 ※混雑時は入場をお待ちいただく可能性があります。 |
展覧会公式サイト | https://koetsu2024.jp/ |
※記事の内容は取材時のものです。最新の情報と異なる場合がありますので、詳細は展覧会公式サイト等でご確認ください。また、本記事で取り上げた作品がすでに展示終了している可能性もあります。