禅宗文化の精髄を体感する。
【東京国立博物館】特別展「東福寺」(~5/7)内覧会レポート

東京国立博物館

京都を代表する禅寺の一つである東福寺。

新緑や紅葉の名所として知られ、戦火に見舞われながらも古文書や書跡、典籍、肖像画など数多の宝物を守り継いできた名刹である。

東福寺の至宝をまとめて紹介する初の機会となる本展では、絵仏師・明兆による「五百羅漢図」など禅宗文化の優品が集う。

本記事では開催前日に行われた報道内覧会の様子をレポートする。

 

東福寺 三門

新緑や紅葉の名所としても知られる、京都を代表する禅寺の一つ「東福寺」。東福寺の名は奈良の東大寺と興福寺になぞらえて、その一字ずつを取ったことに由来します。

開山となったのは中国で禅を学んだ円爾(えんに)。東福寺は幾度も焼失の危機に遭いながらも、中世の面影を色濃く留める建造物の数々を現代に伝え、その巨大な伽藍は「東福寺の伽藍面(がらんづら)」の通称で知られています。

特別展「東福寺」は草創以来の東福寺の歴史を辿りつつ、大陸との交流を通した禅宗文化の全容を紹介。その意義と魅力を幅広く伝える展覧会です。

禅の神髄が宿る、東福寺の寺宝の数々。

展示会場入口
円爾の師である無準の姿を描いた国宝《無準師範像》(自賛 中国 南宋時代・嘉熙2年(1238) 京都・東福寺蔵 展示期間:3月7日(火)~4月2日(日))
2章展示風景。手前は《蔵山順空坐像》(鎌倉時代 十四世紀 京都・永明院蔵 通期展示)
4章展示風景より。中国仏教界との交流によりもたらされた書画の数々
《虎 一大字》(虎関師錬筆 鎌倉~南北朝時代・14世紀 京都・霊源院蔵 通期展示)

本展の展示会場は第1会場・第2会場に分かれており、

  • 第1章 東福寺の創建と円爾
  • 第2章 聖一派の形成と展開
  • 第3章 伝説の絵仏師・明兆
  • 第4章 禅宗文化と海外交流
  • 第5章 巨大伽藍と仏教彫刻

の全5章構成となっています。

東福寺は南北朝時代には京都五山の第四に列し、本山東福寺とその塔頭(たっちゅう)には中国伝来の文物をはじめ、建造物や彫刻・絵画・書跡など禅宗文化を物語る多くの特色ある文化財が伝えられています。国指定を受けている文化財の数は、本山東福寺・塔頭合わせて国宝7件、重要文化財98件、合計105件。
特に1章・2章では「南宋肖像画の極致」と称される《無準師範像》(国宝)など、円爾とその後継者・聖一派(しょういちは)ゆかりの禅宗美術の優品が並びます。

個人的に印象に残ったのは円爾の孫弟子で、東福寺第15代住職・虎関師錬(1278~1346)の書と伝えられる《虎 大一字》。「虎」の文字をあらわした書か、はたまた座した虎の絵か。まるでこれを見ている人間に「お前は何だと思う?」と問いかけているかのようです。

伝説の絵仏師・明兆の画力

明兆による五百羅漢図の展示風景
本展の注目作《五百羅漢図》(吉山明兆筆 南北朝時代・至徳3年(1386) 京都・東福寺蔵)。こちらは第1号(展示期間:3月7日(火)~3月27日(月))。隣にはユニークな漫画が添えられている
《円爾像》(吉山明兆筆 室町時代・15世紀 京都・東福寺蔵 展示期間:3月7日(火)~4月2日(日))
重要文化財《達磨・蝦蟇鉄拐図》(吉山明兆筆 室町時代・15世紀 京都・東福寺蔵 展示期間:3月7日(火)~4月9日(日))

本展の白眉となるのが、「画聖」とも崇あがめられた絵仏師・明兆による記念碑的大作《五百羅漢図》。現存全幅が修理後初公開となる本作は、水墨と極彩色が見事に調和した若き明兆の代表作で、1幅に10人の羅漢を表わし50幅本として描かれ、東福寺に45幅、東京・根津美術館に2幅が現存しています。本展はその全貌がはじめて明かされる貴重な機会となります(幅によって展示期間が異なります)。
隣には内容をユニークに解説した漫画が添えられており、トーハクならではの遊び心が発揮されているのもポイント。

また、明兆の円熟期の傑作として知られる《達磨・蝦蟇鉄拐図》も展示。シンメトリックな構成美と緻密な陰影描写、江戸絵画を先取りしたような明るく伸びやかな筆さばき・・・。中国絵画の名品を模写したものとされますが、明兆の類まれな画力と独創性を堪能することができる名品です。

巨大伽藍の圧倒的パワーに包まれる

5章へと続く通路には東福寺を代表する観光スポット・通天橋を実物大で再現
巨大伽藍にふさわしい特大の仏像が並ぶ第5章
四天王立像(通期展示)がそろい踏み。右手前の《多聞天立像》は鎌倉前期作で運慶風が強い
《仏手》(鎌倉~南北朝時代・14世紀 京都・東福寺蔵 通期展示)

「東福寺の伽藍面」を実物で体感できるのが第5章。巨大伽藍に相応しい特大サイズの仏像彫刻が立ち並び、そのスケールと荘厳さに圧倒されます。

修復後初公開となる四天王立像の《多聞天立像》や重要文化財の《迦葉(かしょう)・阿難(あなん)立像》をはじめ、手だけで2メートルという巨大さを誇る《仏手》にも注目。消失したという旧本尊の巨大さをしのべる貴重な遺例です。

 

本展の開催期間は5月7日(日)まで。禅宗文化の生彩、そして巨大伽藍の圧倒的パワーをぜひ会場で体感してみてください。

 

開催概要

会期 2023年3月7日(火)~5月7日(日)※会期中展示替えあり
会場 東京国立博物館 平成館(上野公園)
開館時間 9時30分~17時00分(入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日
※ただし、3月27日(月)と5月1日(月)は開館
観覧料 一般  2,100円
大学生 1,300円
高校生  900円※本展は事前予約不要です。混雑時は⼊場をお待ちいただく可能性があります。
※混雑時は入場をお待ちいただく可能性があります。
※中学生以下、障がい者とその介護者1名は無料。入館の際に学生証、障がい者手帳等をご提示ください。
※本展観覧券で、ご観覧当日に限り総合文化展もご覧いただけます。
(注)詳細は展覧会公式サイトチケット情報のページでご確認ください
展覧会公式サイト https://tofukuji2023.jp/

※記事の内容は取材時のものです。最新の情報と異なる場合がありますので、詳細は展覧会公式サイト等でご確認ください。また、本記事で取り上げた作品がすでに展示終了している可能性もあります。


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2023年4月からリニューアル工事に入る下町風俗資料館、その魅力をあらためて振り返る。
最後の特別展「明治・大正・昭和の子供たち」も紹介

下町風俗資料館

東京・上野の不忍池のほとりに立つ台東区立下町風俗資料館

古き良き東京の下町文化を後世に伝えるべく昭和55年(1980)に開館して以来、多くの来館者を楽しませてきましたが、令和5年4月1月から、施設の大規模リニューアル工事のため令和6年度末(時期未定)までの休館が決定していることをご存じでしょうか。

リニューアル後は現在の展示の一部が見られなくなってしまうということで、期待と同時に寂しさを覚えます。

そこで今回は、約42年にわたり愛された下町風俗資料館の姿をあらためて紹介しようと、館内を取材させていただきました。

最後の特別展「明治・大正・昭和の子供たち ~資料でつづる下町の子供の世界~」についても記事の後半で触れていますので、残り約1か月の営業期間、ぜひ足を運んでみてください。

台東区立下町風俗資料館
館内の様子
特別展「明治・大正・昭和の子供たち ~資料でつづる下町の子供の世界~」展示風景

区民の声から生まれた下町風俗資料館

大正12年(1923)の関東大震災や昭和20年(1945)の第二次世界大戦での焼失、昭和39年(1964)の東京オリンピック開催を契機にした再開発などにより、江戸の風情を残していた古き良き下町の街並みや文化は急速に姿を消し、庶民の暮らしは様変わりしていきました。

昭和40年頃になると、そんな状況を憂いた下町文化を愛する人々から声が上がり始め、下町の記憶を次の世代へ伝えるための資料館設立の構想が生まれます。そして昭和55年10月1日、ついに下町風俗資料館が開館しました。

1階展示室では、関東大震災前(約100年前)の大正時代の下町風景として、商家や長屋、井戸端などをほぼ実物大で再現。2階展示室では、台東区を中心とした下町地域の歴史に関する資料や玩具などを紹介しています。

展示の魅力は、鑑賞するだけでなく実際に再現された座敷に上がれたり、展示物に触れられたり(※)と体験型のコンテンツになっている点。同館研究員の本田さんによれば、いわゆるハンズ・オン展示と呼ばれるこの手法は今でこそさまざまなミュージアムで使われていますが、実は下町風俗資料館がパイオニアなのだといいます。

(※コロナ禍のため、一部を除いた展示物は接触禁止となっています)

民間からの要望に応じて開館したという経緯から、収蔵品の多くが台東区内外から集まった寄贈品であることも大きな特徴といえるでしょう。実際に家庭にあった家具や日用品によって、よりリアルな下町の雰囲気を味わえるというわけです。

これまで300万人以上が訪れ、最近ではレトロな雰囲気を求める若者や、観光で訪れた外国人からも密かな人気を集めるスポットになっているそうですよ。

100年前の大正時代にタイムスリップ

自働電話ボックス

1階でまず目に入るのは、六角形の真っ赤な自働電話(のちに公衆電話と改名)ボックス
日本初の自働電話が東京の上野駅と新橋駅に登場したのは明治33年(1900)のこと。同館では、明治43年(1910)から用いられたボックス型の自働電話を復元展示しています。

自働電話ボックスの鮮やかな赤は、下町の街並みのなかで美しく映えていたに違いありません。

自働電話。木製のつくりがかわいいです。

中の電話機本体は実際に使われていた物。送受話器が分割されていて、ダイヤル式ではなく、まず交換手を呼び出して相手の電話につなげてもらうタイプです。

今やダイヤル式どころかプッシュ式の公衆電話すら目にする機会が減っていますが、そのさらに前の時代の骨董品ということで歴史を感じました。喋り口の位置がとても低く、背が高い人は腰をかがめて話さなくてはならないのが大変そう。当時の日本人の平均身長がこれくらいだったのかな、なんてことを想像させる展示です。

商家の店構え

こちらは大通りに面した大店(おおだな)の商家・花緒(※)の製造卸問屋の店先、という設定の再現展示。江戸時代から伝わる伝統的な「出桁造り(だしげたづくり)」や「揚戸(あげど)」といった商家建築が見られます。

(※下町風俗資料館の展示解説の表記にのっとり、鼻緒ではなく花緒としています)

入って左が花緒づくりの作業場、右が帳場兼商談スペース。

作業場の奥には色とりどりの花緒が下がっています。当時は履物といえば下駄や草履が一般的で、花緒は生活の必需品でした。季節や着物に合わせて、そのときどきの材質や形・柄の流行によって挿げ替えてオシャレを楽しんでいたのだとか。

珍しい展示品でいうと、作業場の上部に吊るされた「用心籠」があります。今でいう非常持ち出し袋のような存在なのだとか。

用心籠

「昔の江戸界隈は水害が多かったため、濡れてしまうのを避けようと、用心籠を設置して大切なものを全部投げ入れたり、いざというときは紐を外して外に持ち出したりしたようです」(本田さん)

一通りの展示品については解説シートが配布されていますが、用心籠のように、現代を生きる私たちにとって見慣れないモノも多いはず。まずは「あれは何に使う道具だろう」と予想しながら館内を回ってみるのも面白いかもしれません。

帳場兼商談スペース

こちらは帳場兼商談スペース。商家には必ず帳場(出納の書付けや勘定をする場所)があったそうで、帳場格子を結界として、その中には主人や番頭などの選ばれた人しか入ることが許されなかったとか。もちろん再現展示では自由に入ってOK 。そろばんや当時の金庫である「銭箱」、印鑑を入れる「印箱」などが置かれていました。

気軽に番頭気分を味わえます。

「こうした再現展示について、開館にあたり当時の館長や職員が泊まり込んで、どこにどんなモノがあれば便利か、実際に体験して配置を決めていったという資料が残っています。また、当時の人たちは右利き(左利きの人は矯正されることが当たり前の時代でした)ですから、右手でモノがつかめるような配置になっているなど、細かいこだわりがあります」(本田さん)

本田さんのお話からは、資料館の役割として、展示の見栄えよりも、あくまで当時のリアルの暮らしを伝えることに心を砕いていたことが伝わってきます。

商家の前には、浅草で発明され、自動車の普及以前に送迎手段の代表格だった人力車や、配達を行う商いには欠かせなかった箱車(はこぐるま)も置かれ、活気ある下町の雰囲気を演出していました。

人力車。提灯飾りには「赤岩」という屋号が見えます。

下町人情の温かさを育んだ長屋の暮らし

商家の向かい側には、狭い路地に囲まれた、時代劇でおなじみの集合住宅である長屋の再現展示があります。

長屋の路地の風景を再現。

取材したのは「初午(はつうま)」(2月最初の午の日)の時期でした。毎年初午には全国の稲荷社で五穀豊穣を祈る「初午祭」が催されています。同館にも小さな稲荷社が存在するため、江戸時代から初午祭に合わせて街で掲げられていた「地口行灯(じぐちあんどん)」が長屋に飾られていました。

地口行灯は今でも職人が作っています。

地口は、江戸時代に流行ったことわざや格言などをもじった駄洒落の言葉遊びのこと。地口に戯画をつけて行灯に仕立てたものが地口行灯で、初午祭に集まった人々を楽しませていたようです。

このように、同館は正月飾りや七夕飾りといった、季節の移ろいに合わせたこまやかな演出で来館者を迎えてきました。飾りは特別な日の楽しみでもあり、ゲンを担ぎ、神仏に祈りを捧げる手段の場合もあります。当時の人々の精神性や下町の四季の情景を体感できる粋な工夫ですね。

ちなみに、コロナ禍で展示物が接触禁止になる前は、密かにタンスの中の衣替えなど、気づいた人だけが楽しめる小ネタも仕込んでいたそう。

年老いた母と子が営む駄菓子屋。奥には居間が見えます。

関東大震災前まで数多く見られた平屋造りの長屋には、駄菓子屋銅壺屋(どうこや)が再現されています。

ベーゴマやおはじきなどのおもちゃなども取り扱っていた駄菓子屋は、子供たちの社交場でした。住居の一画で営業しているという設定で、台所や座敷も作り込まれています。

駄菓子売り場の向かい側にある台所。

なお、当時の下町のインフラですが、電気は通っているものの電化製品は普及しておらず、また水道やガスも一般的でなかったそう。そういった事情は、住人共有の井戸からくんだ水をためる水瓶が台所にあったことからも伝わってきます。

水瓶の下には木製の流しが見えますが、このように床の近くに流しを作り、しゃがんで炊事をする作業場を「座り流し」と呼びます。これも震災前の大正時代頃には一般的なものだったというから驚きました。今では考えられない配置ですね。

長屋の天井付近には、煙出しや明かり取りのための引き窓があります。
銅壺屋。左が居住スペース、右が作業場。

銅壺屋は湯沸かし器(銅壺)をはじめ、鍋ややかんなどの銅製品を作ったり、修理したりするお店のこと。下町にはさまざまな職人が暮らしていましたが、銅壺屋の職人はモノを修理しながら大切に使っていた時代の暮らしには欠かせない存在でした。

作業場の壁には神棚の一種で、火の神様を祀った「荒神棚(こうじんだな)」が作られています。

「銅壺屋は火を使う職業ですが、当時は電話一本で消防車を呼べるわけではないので、今よりずっと火事への恐れは強かったんだと思います。火事が起こらないようにお守りくださいと。信心深い方が非常に多かった時代だということがお伝えできればと考えています」(本田さん)

荒神棚

思い返せば、先ほどの駄菓子屋でも神棚を発見しました。昔はどの家庭、どの商家にも神棚が祀ってあったそうで、神仏への祈りは生活に密着した切実なものだったのでしょう。

信心深さを表す展示としては、長屋の奥に建てられた稲荷社も挙げられます。

長屋の奥に祀られた、小さな稲荷社。

稲荷は、江戸時代には土地や屋敷の守り神として盛んに祀られていて、長屋にはそれぞれ必ず建てられたとのこと。そのため、下町地域には現在も多くの稲荷社が名残として存在しています。

薄壁一枚で仕切られた住居。長屋は、現代を生きる私たちからすると、マンションやアパートなどとは比較にならないほどプライバシーの観念が薄い生活空間です。住人同士は必然的に気安い付き合いになるでしょうし、他人へ迷惑をかけないようにする心配りも今以上に必要だったのではないでしょうか。
下町の人々の人情の厚さは、こういう暮らしから形成されたのかもしれません。

長屋の脇には井戸も再現。井戸端は長屋の主婦たちの社交場でした。下町の井戸は湧水ではなく、「木樋(もくひ)」という水道管から水を引いていたそうです。

1階展示室の商家と長屋は、昭和55年の開館に合わせて建てられているため、築40年以上が経過しています。開館当初は真新しかっただろう床も柱も、長年毎日のように人が出入りした結果、本当に人が住んでいたかのように傷がつき、味わい深い風合いになっていたのが印象的でした。

みんなの憧れ?銭湯の番台に座って記念撮影も

昭和30年代の人々の暮らし

2階には常設展示として、昭和30年代の人々の暮らしが再現されています。下町のアパートの台所兼居間とのこと。真空管を使用した東芝製の白黒テレビをはじめ、日本初の自動式電気釜など当時の高級家電がいくつも揃っているため、裕福なお宅のイメージでしょうか。

戦前から引き継がれたであろうちゃぶ台やタンスなどの調度品と、最新家電が同居する光景から察せられるのは、使えるモノは長く使い続けようとする慎ましさと、便利さや快適さを求めたい気持ち。こうした生活も昭和40年代以降に少しずつ失われ、大量消費の時代になっていきました。懐かしさの裏で、同館設立のきっかけになった、下町文化の保存を考えた人々の危機感も理解できるのではないでしょうか。

かつては下町の風景に欠かせない存在だった銭湯。

その隣には、台東区で昭和25年(1950)~昭和61年(1986)まで営業していた銭湯「金魚湯」で実際に使用されていた番台がほぼそのままの形で置かれていました。同館最大の寄贈品であり、実際に番台に座れるということで、同館で最も人気のあるフォトスポットなのだといいます。

「特に大正~昭和世代の男性は昔からの憧れがあるのか、本当に楽しそうに番台を体験されていて、よっぽど座りたかったんだなあと。今の銭湯は番台ではなく受付が主流なので、お子さんたちの多くは番台と聞いてもわからないようですが、展示を見て『番台ってこういうのなんだ』『いいね』と言ってくれて。親御さんやおじいさんおばあさんが説明してあげるといった光景もよく見かけますし……。この番台に限らず、展示は来館者の皆さんの会話が生まれるきっかけになっているようです」(本田さん)

解説文ではなく、学芸員でもなく、一般人が展示物についてスラスラと説明する。そんな光景と出会えるのも同館の魅力といえそうです。

特別展「明治・大正・昭和の子供たち」が開催中(~令和5年3月31日まで)

特別展「明治・大正・昭和の子供たち」展示風景

2階展示室では、ご紹介した昭和アパートの再現展示や銭湯の番台のほか、通常は台東区を中心とした下町地域ゆかりの品々や、年中行事に関連する資料の展示などを行っていますが、この日はリニューアル前の最後の特別展「明治・大正・昭和の子供たち ~資料でつづる下町の子供の世界~」が開催中でした。(観覧料は入館料に含まれます)

同展は、明治~昭和時代に生きた下町の子供たちの日常に焦点をあて、当時の遊びや子供が成長する過程で通過していった儀式などについて、同館所蔵の資料を中心に紹介するもの。

街頭紙芝居の自転車。舞台の下の引き出しにお菓子を用意し、紙芝居を見に来た子供たちに売って商売していたそうです。
コロナ禍で休止を余儀なくされていた、大人気の昔の玩具体験コーナーも規模を縮小して復活。

特に子供の遊びにまつわる資料が非常に充実していて、おおまかにベーゴマやメンコなどの「外の遊び」と、おはじきやごっこ遊びなど「家の遊び」に分けて展示されていました。

子供たちが東西に分かれて相撲をとっている様子を描いた明治時代の錦絵。
左上の巨大なおはじきのような玩具は、ガラスのけり石(昭和時代)。文字通り石けりに使われたそうですが、その耐久性が気になるところです。
戦争期のベーゴマは物資不足から焼き物になっているなど、玩具から時代背景もうかがえます。
昭和20~30年頃のメンコ。絵柄は当時の有名なスポーツ選手や映画スターなどがモデルに。

本田さんのイチオシは、明治から大正時代にかけて発売されていたミニチュア勝手道具。木、竹、ブリキ、陶器など、本物と全く同じ素材で作られているという本格仕様がポイントです。その精巧さに大人でもワクワクしてしまいました。

ミニチュア勝手道具。子供たちはこういった玩具で家事を学んでいきました。
大人のマネをしたい女の子心をくすぐっただろう、昭和30年代の玩具の時計やアクセサリー。いま見ても非常にかわいいです。
昭和初期頃の雑誌の付録。保存状態がいい展示物が多く、持主にとってどれだけ大切なモノだったのか、寄贈されるまでの背景に思いを馳せました。

七五三やお食い初めなど、子供の成長の儀式にまつわる資料の展示の中で、本田さんが特に注目してほしいと話すのは「背紋帖(せもんちょう)」です。

子供の成長に関する儀式の展示
背紋帖の展示

背紋帖は、0歳から2歳くらいまでの子供が着る一つ身の産着の背中に色糸で縫い付けた、「背守り」の見本帖のことです。

一般的な着物には背中の中央に縫い目があり、その縫い目を「目」と捉え、背中からくる災いから身を守る効果があると考えられてきました。しかし、一つ身の産着には背中に縫い目がないため、背守りと呼ばれた「目」を色糸で刺繍して厄除けにしたそうです。展示されているのは昭和時代の背紋帖で、背守りの図柄の一つひとつに意味が込められていたとか。

「このように、子供の成長に関わる儀式の展示から、さまざまな手を尽くして子供たちを守ろうとしてきた親心が伝わればうれしいです」(本田さん)

下町風俗資料館の歴史を振り返る資料がズラリ

なお、特別展の同時開催企画として、同館42年間の歴史を振り返るため、これまで開催された企画展や特別展のポスターやチラシ、今では手に入らないミュージアムグッズなども紹介されていました。

リニューアル後の下町風俗資料館はどうなる?

気になるリニューアル後の下町風俗資料館について、本田さんに伺ってみました。

「まだ詳細を詰めているところですが、現在の展示の補修や改修などではなく、新しい時代に向けてガラリと印象を変える予定ではあります。リニューアル後は3階の一部も展示室として開放する予定(現在は2階までの展示)なので、まったく違った景色をお見せできるかなと。ただ、これまで通り“下町文化を後世に残す”という使命をもった施設であることに変わりはありませんので、その点はご安心ください」(本田さん)


下町風俗資料館がある上野駅周辺には、学術的価値が高い近現代の美術品を鑑賞できる施設が多くあります。そのなかで、かつて下町に暮らしていた人々の気配を身近に感じられる展示を42年間にわたり実直に続けてきた同館の存在は、地域の住人だけでなく、現代に生きる人々にとって、より特別な地位を占めていくように感じます。

下町文化を後世に伝えるだけではなく、その文化をリアルで体験した世代と知らない世代をつなぐ架け橋となっている下町風俗資料館が、新生のための準備に入るのは令和5年4月1日から。同館に行ったことがある方もない方も、リニューアル工事前にぜひ一度、その姿を記憶に留めるべく足を運んでみてください。

下町風俗資料館 概要

所在地 台東区上野公園2-1
JR上野駅 不忍口から徒歩5分
開館時間 午前9時30分~午後4時30分 (入館は午後4時まで)
休館日 月曜日(祝休日と重なる場合は翌平日)、12月29日~1月3日、特別整理期間等
入館料 一般 300円(200円)、小・中・高校生 100円(50円)

※( )内は、20人以上の団体料金
※障害者手帳、療育手帳、精神障害者福祉手帳、特定疾患医療受給者証をお持ちの方とその介護者の方は無料。
※毎週土曜日は台東区在住・在学の小、中学生とその引率者の入館料無料。

電話番号 03-3823-7451
公式サイト https://www.taitocity.net/zaidan/shitamachi/

※記事の内容は取材日(2023/2/3)時点のものです。最新の情報は公式サイト等でご確認ください。


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【書道博物館】書聖・王羲之の最高傑作「蘭亭序」を見比べて味わう企画展が開催中(~2023年4月23日まで)

台東区立書道博物館

約1700年前の中国で活躍し、のちに「書聖」とまで崇められた伝説的な書家・王羲之おうぎし(303~361、異説あり)と、彼のもっとも有名な作品である蘭亭序らんていじょに焦点を当てた展覧会『王羲之と蘭亭序』が、台東区立書道博物館で開催中です。

会期:2023年1月31日(火)~4月23日(日)
 ※期間中、下記の日程で展示替えが行われます。
前期:1月31日(火)~3月12日(日)、後期:3月14日(火)~4月23日(日)
※出展作品リストはこちら

※同展は東京国立博物館との連携企画です。
※掲載している画像は特別な許可を得て撮影したものです。

 

書道博物館入口
展示風景
《神龍本蘭亭序―山本竟山旧蔵―》王羲之/原跡:東晋時代・永和9年(353)/台東区立書道博物館/前期展示

もっとも有名な書家なのに真跡が一つもない?書聖・王羲之とは

中国の歴史上、書がもっとも盛行したのは、風雅な貴族社会が形成された4世紀の東晋時代。日常のあらゆる場面で瀟洒を極めようとした貴族たちが、実用一色だった書にもこぞって芸術性や批評性をもたせるようになったころに登場したのが王羲之です。

王羲之は当時過渡期の書体だった草書・行書・楷書を洗練させ、自らの感情を書の表現に落とし込みながら芸術性を飛躍させました。彼が獲得した普遍的な美しさを備えた先進的な新様式の書法は、奈良時代に王羲之の書が伝わった日本においても書法規範の源泉となり、今日に至るまで能書の代名詞的存在となっています。

「蘭亭序」(353)は、そんな王羲之の代表作であり、歴史に燦然と輝く名作。永和9年(353)3月、風光明媚な会稽(浙江省紹興市)山麗の蘭亭という土地で、王羲之が名士41名を招いて催した雅宴で詠まれた、詩集の序文の草稿です。

《蘭亭図巻―万暦本―》王羲之 他/明時代・万暦20年(1592)/五島美術館(宇野雪村コレクション)/前期展示 の拡大写真。蘭亭の宴の様子を描いています。

宴の楽しさや生命の儚さについて心のままにつづった情緒豊かな名文が、秀麗な行書で記された「蘭亭序」は王羲之が酒に酔ったまま即興で仕上げた草稿。何度清書しようとも結局、草稿以上の出来にはならなかったという逸話が残る、本人も認めた最高傑作です。現在でも行書を学ぼうとしている人々の必修作品として扱われているとか。

そんな「蘭亭序」をはじめとする王羲之の書は生前から高く評価され、貴族たちの間で収集の対象になっていましたが、実は真跡が一つも現存していないそう。

戦乱や天災などで徐々に失われていったほか、王羲之の死後から300年経って、彼の書をこよなく愛した唐の太宗たいそう皇帝(598-649)が徹底的に手元に集め、崩御の際に「蘭亭序」も一緒に埋葬してしまったのが大きな理由です。しかし、太宗皇帝は優れた書家たちに「蘭亭序」などの作品の模本や拓本などの「写し」を作らせて臣下に下賜しており、王羲之の先進的な書法は後世に受け継が継がれることになりました。

企画展『王羲之と蘭亭序』は、東京国立博物館・書道博物館の連携企画20周年を記念して企画されたもので、「蘭亭序」をはじめとする王羲之の書や、王羲之書法の後世への影響などを示す書画を両館で展示しています。

「蘭亭序」が次々登場。王羲之の神髄に迫るのはどれ?

展示の大きな特徴は、前後期あわせて10種類以上の「蘭亭序」の見比べができること。

「蘭亭序」は複製にさらに複製が重ねられてきました。そのため文字の強弱や緩急などがどれも微妙に異なる、複製に関わった人の技量や、王羲之へ抱いたイメージが反映されたさまざまな来歴の「蘭亭序」が伝わっているのでした。

前期展示で鑑賞できたのは《定武本蘭亭序―韓珠船本かんじゅせんぼん―》《神龍本蘭亭序―山本竟山やまもときょうざん旧蔵―》《潁井えいしょう本蘭亭序―王文治おうぶんち旧蔵―》《宣和内府せんなないふ旧蔵蘭亭序》など。ちなみに作品名の「〇〇本」などの語句は、拓本の元となる石が見つかった土地や作品ならではの特徴など、他の「蘭亭序」との区別のためにつけてあるものです。

《定武本蘭亭序―韓珠船本―》王羲之/原跡:東晋時代・永和9年(353)/台東区立書道博物館/前期展示
《定武本蘭亭序―韓珠船本―》王羲之/原跡:東晋時代・永和9年(353)/台東区立書道博物館/前期展示

《定武本蘭亭序―韓珠船本―》は、沈み込むような字粒で全体的にクールな趣き。太宗皇帝の命令で臣下たちが「蘭亭序」を臨書した際、もっとも優れていたのが「初唐の三大家」に数えられる欧陽詢おうようじゅん(557-641)という人物のもので、それを石に刻ませたのが「定武本」の元となったと伝わっています。同作は、数多い「定武本」系統の中でも特に古い宋時代の拓本とのこと。

次に目に留まったのは《神龍本蘭亭序―山本竟山旧蔵―》。「神龍本」とは、冒頭と末尾に唐時代の元号である「神龍」の半印が押してあることにちなんだものです。「神龍本」は他と比べて生き生きした華やかな字姿が楽しめるのが特徴で、その見やすさと学びやすさから、よく教科書などに取り上げられています。

《神龍本蘭亭序―山本竟山旧蔵―》王羲之/原跡:東晋時代・永和9年(353)/台東区立書道博物館/前期展示

しかし、同館の主任研究員である中村さんによれば、「神龍本」の字姿には唐時代の洗練された美意識が少なからず反映されているそうで、「王羲之(東晋時代)の書であればもう少し素朴さがあるはず」とのこと。たしかに同作を他と比べて見ると、ハネやハライが少し大げさに感じられました。

同じ系統でもかなり字姿が異なっていて見ごたえがあります。複製した人が無意識に自分の色を出してしまったのか、その時代の人にウケるように意図的に変えたのか、さまざまな背景がありそう。これも、「蘭亭序」の真跡が残っていない、答え合わせができないからこそ生まれた個性なのでしょう。

同展には「蘭亭序」以外にも王羲之の書(複製ですが)がいくつか出展されているので、書に詳しくない方でも「どの蘭亭序が王羲之の面影を残しているんだろう」と検討をつけながら楽しめます。

また、当たり前ですが「蘭亭序」は単体で鑑賞しても学びがあります。たとえば「蘭亭序」には「之」という漢字が頻出しているのですが、それぞれ独特な形と用筆で書かれていることに驚きました。

筆者はあまり書について詳しくないので、書が上手な人というのは、自分の中に文字の最良の字形というものが完成していて、いつでもその字形をブレなく出力している、となんとなく想像していました。しかし、「蘭亭序」で「之」は文脈に応じて異なる形で書き分けられています。展示室にあった「蘭亭序」の日本語訳文を読みながら鑑賞すると、情景のみならず作者の感情も伝えるような豊かな表現力が本作の魅力であることに気づきます。書道芸術の基本をつくった王羲之の偉大さの一端が理解できるような気がしました。

《十七帖―欠十七行本―》王羲之/原跡:東晋時代・4世紀/台東区立書道博物館/前期展示

「蘭亭序」のほか、王羲之が草書で書いた書簡や手紙29帖を集めた「十七帖」も前後期で複数展示されています。

「一見では地味な作品です。書かれている内容は体調不良を伝えるものなのですが、体調不良と言いつつ美しい字である点はさすが王羲之という感じですね。一文字一文字を切り取って鑑賞してもいいですが、字と字の間合いや大きさも見どころです。ドラマに主役と脇役がいるように、書にも映える文字そうでない文字があって、左右にハライをもつなど、華やかに見せられる字が強調されています。そうして完成した書全体の調和にもぜひ注目してください」(中村さん)

王羲之フォントで作品制作?王羲之人気は日本へも…

同展では王羲之が登場する以前・同時代・以後の時代の書の姿も展示。以後の作品では、王羲之の影響がどれほど大きいものであったのかを見ていけます。

《薦季直表(真賞斎帖―火後本―)》鍾繇/原跡:後漢~魏時代・2~3世紀/台東区立書道博物館/全期間展示

王羲之が尊敬していたという、後漢末期から三国志の魏にかけて活躍した楷書の名手・鍾繇しょうよう(151-230)の薦季直表せんきちょくひょう真賞斎帖しんしょうさいじょう―火後本―)》は、「長い年月をかけて隷書から楷書へと発達を始める第一歩の書」だと話す中村さん。隷書の名残があり、やや背が低く横に広い原始的な字姿が見られます。

《黄庭経》王羲之/原跡:東晋時代・永和12年(356)/台東区立書道博物館/全期間展示

同展には王羲之の黄庭経こうていきょうや《孝女曹娥碑こうじょそうがひ(原跡:東晋時代・升平2年(358)/全期間展示)といった楷書の作品も展示されています。鍾繇の書と見比べると歴然と洗練されていて、背は伸び、人間が筆で文字を書くという動作に寄り添った自然な字姿や用筆をしているように感じました。こちらもぜひ実際に見比べてみてほしいです。

《道行般若経巻第六・第七》西晋時代・永嘉2年(308)/台東区立書道博物館/前期展示
《道行般若経巻第六・第七》西晋時代・永嘉2年(308)/台東区立書道博物館/前期展示

王羲之とほぼ同時代の作品としては《道行般若経巻第六・第七》があり、なんとこちらは肉筆! 唐時代以前の肉筆は大変貴重なのだとか。王羲之が生きた時代の、本当の書の姿を確認できます。

《晋祠銘》唐太宗/唐時代・貞観20年(646)/台東区立書道博物館/前期展示

王羲之神話の立役者である唐の太宗皇帝の行書晋祠銘しんしめいもありました。いかにも皇帝といった、どっしりと堂々たる書きぶりが心地いいです。

「行書や草書は、スピード感を出すために線をつなげて書けば、それっぽくなると素人は思いがちですが、太宗皇帝の書はわざと切っています。そうすることで字の中に空気を取り込み、余裕を出しているんですね。余裕を出しすぎると、だらんとした字になりますが、たとえば『月』という字だったら1画目と2画目の向かい合う線をグッと引き締めています。そのバランス感覚を味わっていただければと思います」(中村さん)

《集王聖教序》王羲之/唐時代・咸亨3年(672)/台東区立書道博物館/前期展示

唐時代以降の王羲之人気を示すものとしては、集王聖教序しゅうおうしょうぎょうじょ《興福寺断碑》(王羲之/唐時代・開元9年(721))が面白いです。あたかも王羲之が書いたかのように、王羲之の書から一文字一文字集めて文章に仕立てた石碑から作った拓本とのこと。《集王聖教序》は線の太さがまちまちでいかにもコラージュした雰囲気ですが、《興福寺断碑》はかなり巧みに全体の調和をとっていました。

《淳化閣帖―夾雪本―》王著編/北宋時代・淳化3年(992)/台東区立書道博物館/前期展示

宋時代に作られて流行した歴代中国の書道全集である淳化閣帖じゅんかかくじょう夾雪きょうせつ本―》にも、当然のように王羲之の書が入っていました。話を聞くと、全10巻あるうち、王羲之が6~8巻、息子の王献之が9~10巻で紹介されているそうで、中国の書の歴史の半分は王親子が担っていたことがわかります。ここまで来ると影響力のあまりの大きさに笑ってしまいました。

展示の最後は、王羲之が日本でどのように受け止められたのかを紹介していました。平安時代では遣唐使らが持ち帰った王羲之の写しで学んだ空海や小野道風たちが台頭し、彼らの活躍の後に国風文化や和様と呼ばれる日本風の書が成立。江戸時代には唐様書の流行から王羲之尊重の風潮が強まったり、幕末には王羲之書法の法帖(拓本を書の形に仕立てたもの)も多く日本に届くようになったり……。中国だけでなく、日本の書の歴史でも常に圧倒的な存在感を示していたようです。

《蘭亭序額》中林梧竹/明治25年(1892)/台東区立書道博物館/全期間展示

日本の作品のなかでは、明治時代の大家・中林梧竹(1827~1913)の《蘭亭序額》が目を引きました。「蘭亭序」の文章を自分なりの書きぶりで仕上げた作品で、字線の変化の豊かさはそうそうお目にかかれるものではありません。


これまでは書聖・王羲之の書を見て「確かにきれいだけど、なんだか普通だなぁ」と注目すべき点がわからずにいました。しかし同展を巡ってみて、その「普通だな」と感じること自体、1700年経っても変わらず人々が王羲之のフォロワーであり続けている証明なのかもしれないな、とその偉大さを感じるようになりました。

書道博物館創設者・中村不折が描いた「蘭亭序」の新聞挿絵。《書聖王羲之 蘭亭記ヲ書ス(十二支帖)》大正元年(1912)/台東区立書道博物館/全期間展示

なお、同展には「世説新書」という、中国でもっとも美しい楷書が書かれた唐時代に作られた、王羲之が生きた時代の噂話を集めた書物に関連した作品3点が期間限定で登場します。いずれも肉筆で書かれた国宝です。

1月31日~3月12日には《世説新書巻第六残巻―規箴―》(唐時代・7世紀)
2月28日~3月26日には《世説新書巻第六残巻―規箴・ 捷悟―》(唐時代・7世紀)
3月28日~4月23日には《世説新書巻第六残巻―豪爽―》(唐時代・7世紀)
貴重な機会となりますのでお見逃しなく。

連携展示をしている東京国立博物館は徒歩圏内ですので、ぜひ両館合わせて足を運んでみてください。

 

■企画展『王羲之と蘭亭序』概要

会期 2023年1月31日(火)~4月23日(日)
※期間中、下記の日程で展示替えが行われます。
前期:1月31日(火)~3月12日(日)、後期:3月14日(火)~4月23日(日)
会場 台東区立書道博物館
開館時間 午前9時30分~午後4時30分(入館は午後4時まで)
休館日 月曜日(祝休日と重なる場合は翌平日)、特別整理期間等
入館料 一般500円 小、中、高校生250円

※障害者手帳、療育手帳、精神障害者福祉手帳、特定疾患医療受給者証をお持ちの方とその介護者の方は無料です。
※毎週土曜日は、台東区内在住・在学の小・中学生とその引率者の方は無料です。
その他、詳しくは公式サイトをご確認ください。

台東区立書道博物館公式サイト https://www.taitocity.net/zaidan/shodou/
出展作品リスト https://www.taitocity.net/zaidan/shodou/wp-content/uploads/sites/7/2023/02/kikakuten_20230131.pdf

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【会場レポ】「エゴン・シーレ展」が開幕。人間の内面を鮮烈に描いた夭折の天才、約30年ぶりの回顧展

東京都美術館

 

世紀末ウィーンを代表する最も重要な画家の一人、エゴン・シーレ(1890-1918)の大規模展「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」が2023年1月26日、東京・上野の東京都美術館で開幕しました。

展示風景、会場入口
展示風景
エゴン・シーレ《悲しみの女》1912年、油彩、レオポルド美術館蔵
エゴン・シーレ《吹き荒れる風の中の秋の木(冬の木)》1912年、油彩、レオポルド美術館蔵
エゴン・シーレ《闘士》1913年、水彩、個人蔵
展示風景
展示風景

東京では約30年ぶりとなる、夭折の天才エゴン・シーレの回顧展

19世紀末から20世紀初頭、歴史上まれにみる芸術の爛熟期を迎えたウィーンにおいて華々しく活躍し、10年余りの短い画業にもかかわらず美術史にその名が燦然と輝く画家、エゴン・シーレ

幼少期から絵のセンスの片鱗をみせていたシーレは1906年、難関のウィーン美術アカデミーに学年最年少である16歳で特別入学。翌年に、同じく世紀末ウィーン美術を代表する画家であるグスタフ・クリムト(1862-1918)に見出され、大きな影響を受けます。

1909年にはアカデミーの保守的な体制に反発して自主退学し、友人らと「新芸術家集団」を結成。革新的な作品を世に送り続け、1918年には第49回ウィーン分離派展で成功を収めますが、同年、28歳でスペイン風邪に侵され病死しました。

当時の常識にとらわれないスキャンダラスな創作活動が批判を浴び逮捕、猥雑だと判断された作品が焼却処分されるなど、その生涯には失望や苦悩がつきまとったものの、圧倒的な表現力で人間の精神性、生と死、性を生々しく描き出したシーレの作品は、今も人々を惹きつけて止みません。

展示風景、自身のアトリエでポーズをとる20歳のエゴン・シーレ

「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」は、シーレ作品の世界有数のコレクションをもち、「エゴン・シーレの殿堂」として知られるウィーンのレオポルド美術館の所蔵作品を中心に、シーレの油彩画、ドローイングなど合わせて50点を通して、シーレの生涯と作品を振り返る回顧展。

クリムト、モーザー、ココシュカなど、同時代の画家たちの作品65点もあわせて紹介されています。

コレクションは年代順、全14章のテーマごとに展示されていました。

人間の内面の探求を続けたシーレの代表作《ほおずきの実のある自画像》が来日!

出展作品をいくつかご紹介します。

本展の目玉は、シーレが22歳のときに制作した《ほおずきの実のある自画像》(1912)。シーレの自画像で最もよく知られた代名詞的作品です。

エゴン・シーレ《ほおずきの実のある自画像》1912年、油彩、レオポルド美術館蔵

ほおずきの蔓と人物の斜めの姿勢が織りなす構図が生み出す、引き絞るような緊張感。背景の白、服、髪、目の黒、ほおずきの赤の対比が凛とした美しさを構成する一方で、青ざめた顔には赤や緑といった色彩も大胆に配され、それが奇妙にいきいきと映ります。

鑑賞者へ向ける眼差しは挑発か拒絶か。つぐんだ口元は気取っているようにも、言葉を飲み込んでいるようにも感じられ、明確なナルシシズムと不安定な感情のゆらぎをナイーブな感受性で見事に表現しています。

1910年頃、シーレは師であるクリムトの影響から脱却し、不安定なフォルムや表情豊かな線描、鮮烈な色彩などを特徴とする表現主義的な無二の画風を確立していました。本作はその画風が円熟期を迎えた頃の名品です。

よく見ると、本作の画面の切り取り方とポーズは、現代の“自撮り” 文化でよく目にするものだと気づきます。

レオポルト美術館の館長によると、レオポルト美術館へシーレ作品を鑑賞しに来る若者が増えているとのこと。自撮りで自己表現を行う彼らにとって、人間のアイデンティティやセクシュアリティ、精神性といった「自我」に関する思索を、肉体と精神をさらけ出しながら視覚的に実践していったシーレによる自画像から受けるインスピレーションは鮮烈なものなのかもしれません。そういった意味で、シーレは極めて現代性をもつ画家と言えそうです。

なお、《ほおずきの実のある自画像》と、本展には出展されていませんが、シーレの当時の恋人でありミューズであった女性をモデルにした《ヴァリーの肖像》(1912)が対となるよう制作されているため、ご存じない方はぜひ調べてみてください。

エゴン・シーレ《自分を見つめる人II(死と男)》、1911年、油彩、レオポルド美術館蔵

きょうだいの死産や早世が度重なり、14歳のときに敬愛する父が亡くなるなど、シーレにとって死は幼い頃から身近なものだった影響もあるのか、シーレは「全ては生きながらに死んでいる」という死生観をもっていました。「死」はシーレの画業において重要なテーマであり、不穏な死の気配が取り入れられた作品も多いです。

《自分を見つめる人II(死と男)》(1911)は、そんなシーレがまさに「死」を正面から表現した作品。シーレの自画像はしばしば2人の人物として描かれている場合があり、本作も瞑想にふけるように目を閉じた画家本人を、死神や幽霊のような風貌の存在が囲い込むように立っています。近づく死の運命に焦っているようにも、運命をすでに受け入れているかのようにも感じますが、下から伸びる第三者の手が不気味な印象を強めています。

展示解説によると、本作は分裂のイメージを用いた自己内省を試みているとのこと。《ほおずきの実のある自画像》からもわかるように、シーレの自画像はほとんど背景が描かれていません。クリムト的な装飾的画風の逆をいく、ひたすら内へ内へ、徹底した自己探求や自己内省にシーレの関心が向かっていることをうかがわせます。

エゴン・シーレ《母と子》1912年、油彩、レオポルド美術館蔵
エゴン・シーレ《母と二人の子ども Ⅱ》1915年、油彩、レオポルド美術館蔵

また、シーレは「母と子」というモチーフも繰り返し用いています。一般的には愛や平和をイメージする母子像ですが、シーレの《母と子》(1912)、《母と二人の子ども Ⅱ》(1915)はいずれも愛や平和というより、こちらも死や恐怖、悲しみ、失意といった不穏さを強調。表情づけの巧みさだけでなく、激しい筆致と陰鬱な色彩に、一歩引いてしまうようなヒリつく凄みを感じました。伝統的な母子像のイメージを打ち破るシーレらしい展開といえるでしょう。

エゴン・シーレ《赤い靴下留めをして横たわる女》1913年、鉛筆、グワッシュ、レオポルド美術館蔵

そのほか、見逃せないのがシーレの類まれなデッサン力と線の表現力を堪能できる裸婦像のドローイングです。

エゴン・シーレ《しゃがむ裸の少女》1914年、黒チョーク、グワッシュ、レオポルド美術館蔵

「あらゆる肉体から発せられる光」を描こうとし、また美的に昇華しない過激な「性」を描写していたシーレにとって、裸婦像も極めて重要なモチーフでした。伝統的な裸婦像といえば、立つか横たわるかのポーズで描かれますが、シーレ作品の裸婦の多くは膝を抱えたり、うずくまったり、極端にねじったりと、バラエティに富んでいるのが特徴。

彼女たちの肉体はときに苦悶が伝わってくるほど追い詰められた態勢になりますが、それがいかにも美しく、生々しく映るのが不思議です。シーレの描く線の確信性は、自らの肉体を限界まで屈曲させるなど、シーレ自身が行った容赦ない身体性の探求が支えていることは疑いようもありません。

床や背景を排除し、人物の周りの余白を残すことで空間性を否定している画面構成も面白いところです。

エゴン・シーレ《リボンをつけた横たわる少女》1918年、黒チョーク、レオポルド美術館蔵

特に目を引きつけられたのは後年のドローイング。黒チョークによる表現力豊かな輪郭線とわずかなグラデーションによってモデルを探求していますが、その迷いのない線とシルエットの実に美しいこと。《リボンをつけた横たわる少女》(1918)のように複雑な姿勢も最低限と言えるレベルの筆致でスケッチしているのもかかわらず、これだけで一つの芸術作品といえるような完成度の高さです。

シーレが学年最年少でアカデミーに特別入学できたという、その才能の説得力がありますので、ぜひチェックしてみてください。

エゴン・シーレ《装飾的な背景の前に置かれた様式化された花》1908年、油彩、金と銀の顔料、レオポルド美術館蔵

正方形のカンヴァスや背景に金や銀を用いる手法といった、クリムトの影響が如実に表れている《装飾的な背景の前に置かれた様式化された花》(1908)や、それより以前のアカデミー時代など、シーレが独自の画風を確立する前の初期の作品もいくつか紹介されていました。画家が羽化する道程と、画風を確立した後も強迫観念的な探求心で絶え間なく様式を変化させていった様子をじっくり追っていけます。

クリムトやモーザ―など、世紀末ウィーンの美術を彩った画家たち

グスタフ・クリムト《赤い背景の前のケープと帽子をかぶった婦人》1897/98年、油彩、クリムト財団蔵

先述のように、本展はシーレ作品をメインに据えつつ、シーレの師であるクリムトはもちろん、クリムトとともにウィーン分離派を創設し、風景画やグラフィックアートを得意としたコロマン・モーザー(1868-1918)、オーストリア表現主義の最初の画家に位置付けられ、近年再評価が進んでいるリヒャルト・ゲルストル(1883-1908)、シーレと同じくウィーンの表現主義を代表する巨匠オスカー・ココシュカ(1886-1980)といった、シーレと関連性のあるウィーンの画家たちの作品が集結。ウィーン美術の黄金時代の流れのなか、いかにしてシーレが傑出したのか、その背景が見えてくるでしょう。

アルビン・エッガー=リンツ《祈る少女 聖なる墓、断片Ⅱ》1900/01年、油彩、レオポルド美術館蔵
カール・モル《ハイリゲンシュタットの聖ミヒャエル教会》1902年、多色木版、レオポルド美術館蔵
リヒャルド・ゲルストル《田舎の二人》1908年、油彩、レオポルド美術館蔵
コロマン・モーザ―《キンセンカ》1909年、油彩、レオポルド美術館蔵
グスタフ・クリムト《シェーンブルン庭園風景》1916年、油彩、レオポルト美術館寄託(個人蔵)

シーレ作品がもつ現代性は、100年経った今も損なわれていません。

あらためて、本展は夭折の天才画家エゴン・シーレの作品が50点集結した大変貴重な機会です。ぜひ足を運んで、シーレの震えるように挑発的で繊細な感性に触れるとともに、世紀末ウィーンに満ちていた創造のエネルギーを体感してみてください。

「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」概要

会期 2023年1月26日 (木) ~ 4月9日 (日) ※会期は変更になる場合があります。
会場 東京都美術館(東京・上野公園)
開室時間 9:30~17:30、金曜日は20:00まで (入室は閉室の30分前まで)
休室日 月曜日
観覧料 【日時指定予約制】
一般 2,200円、大学生・専門学校生 1,300円、65歳以上 1,500円、平日限定ペア割 3,600円

※詳細は公式サイトのチケットページでご確認ください
https://www.egonschiele2023.jp/ticket.html

主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、朝日新聞社、フジテレビジョン
後援 オーストリア大使館、オーストリア文化フォーラム東京
お問い合わせ ハローダイヤル 050-5541-8600 (全日/9:00~20:00)
展覧会公式サイト https://www.egonschiele2023.jp

※記事の内容は取材日(2023/1/25)時点のものです。最新の情報は展覧会公式サイト等でご確認ください。

 

記事提供:ココシル上野


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人気漫画を原作としたマーダーミステリーを舞台化 舞台「LIAR GAME murder mystery」公演決定!

全日、全て異なるキャストで公演 3月7日(火)~12日(日) 飛行船シアターにて現地公演/リアルタイム配信

株式会社バンダイナムコアミューズメント 、株式会社ABCアニメーションは、舞台「LIAR GAME murder mystery(ライアーゲーム マーダーミステリー)」を2023年3月7日(火)~12日(日)に東京・上野の飛行船シアターにて公演します。

【公式サイト】https://bandainamco-am.co.jp/event/others/liargame_murdermystery/
チケットは2月4日(土)10時より「カンフェティ」にて、現地公演チケットと配信チケットを販売します。
配信チケットの詳細は後日公式サイトにて発表します。

【チケット販売サイト】http://confetti-web.com/murdermystery/

 

株式会社ABCアニメーションがシナリオ・設定などの制作、株式会社バンダイナムコアミューズメントがコンテンツの舞台版製作やパブリッシングを担当し、IPやメディアとのコラボレーションによってリアルエンターテインメントの可能性を広げます。

「マーダーミステリー」とは、複数の参加者が事前に与えられた設定や配役にのっとり、メンバー全員での議論や少人数の密談を繰り広げながら架空の殺人事件の真犯人を探すゲームです。プレイヤーとして楽しむこともさることながら、第三者目線で「マーダーミステリー」を楽しみ、本公演後の感想戦で出演者の感想を聞くことができる舞台コンテンツとしても人気を集めています。2021年12月3日(金)~5日(日)には舞台版『マーダー☆ミステリー〜探偵・斑目瑞男の事件簿〜』を、浅草花劇場(東京都台東区)にて上演。現地公演とあわせてリアルタイム配信も行いました。今回の公演では人気漫画「ライアーゲーム」を原作として更にパワーアップした舞台版マーダーミステリーを上演します。

舞台「LIAR GAME murder mystery」は、ライアーゲームトーナメント事務局、通称、LGT事務局を名乗る謎の組織からの招待状を受けた者たちが集結するところから話が始まります。原作でお馴染みの騙し合いのゲームを行う中、殺人事件が発覚。「マーダーミステリー」へと進行していきます。台本なしセリフなし、キャストにあらかじめ用意されているのは配役の設定のみ・・・という演出のなか、議論を重ね推理をし、時間内に真犯人を見つけ出すべくゲームを進行していきます。「マーダーミステリー」のプレイヤー同士の心理戦や騙し合いといった本来の面白さに加え、キャストの表情や演技力、アドリブをリアルタイムで感じることができ、プレイヤー視点とは異なる広い視野で「マーダーミステリー」を楽しむことができるのが魅力の一つです。「マーダーミステリー」の前に行われる「ライアーゲーム」でも、プレイヤー同士の騙し合いや勝つための作戦、騙しだまされた際のリアクションにも注目です。

 

一度真犯人を知ってしまうと再びプレイすることはできない「マーダーミステリー」の特性上、前回公演と同じく全日すべて異なるキャストで上演します。また、昼と夜の公演ではそれぞれシナリオも異なるため、キャストはそのままに異なる舞台をお楽しみいただけます。

設定は同じでもキャストの演技やアドリブ、進行内容によって、毎回異なる舞台を楽しむことができ、真犯人を解き明かすことができるかどうかもさることながら、時には想定を超えた意外なエンディングを迎えることも??内容やセリフ、結末も、すべて当日のキャストによって作り上げられる舞台をぜひお楽しみください。

©️甲斐谷忍/集英社・舞台「LIAR GAME murder mystery」製作委員会

 

■公演概要
公演名 舞台「LIAR GAME murder mystery」
期間  2023年3月7(火) ~ 12日(日) 全12公演(昼・夜)
会場  飛行船シアター(東京都台東区東上野)※オンライン同時配信あり
公式サイトURL https://bandainamco-am.co.jp/event/others/liargame_murdermystery/

 

【公演スケジュール】
3月 7日(火)13時開演/18時半開演
3月 8日(水)13時開演/18時半開演
3月 9日(木)13時開演/18時半開演
3月10日(金)13時開演/18時半開演
3月11日(土)13時開演/18時半開演
3月12日(日)12時開演/17時開演
※全公演生配信(アーカイブあり)を予定しています。配信に関する詳細は後日公式サイトよりお知らせします。

 

【公演チケット】(本公演+感想戦)
SS席(前方1列目~3列目) 13,500
S席  11,000円
A席  8,800円
受付期間:2月4日(土) 10時~
※先着順での販売です。あらかじめご了承ください。
※お一人さま2枚まで申込み可能です。

【配信チケット 】
配信チケット(本公演+感想戦)3,500円 
受付期間:3月4日(土) 10時~

【チケットのお申し込み先】
http://confetti-web.com/murdermystery/

 

【グッズラインアップ】
●公演パンフレット:3,500円(フルカラー48P予定)
●2L判ブロマイドセット:1,200円(3枚入り)
●L判ブロマイドセット:2,500円(10枚セット)
※一部のキャストを除きブロマイドを販売します。
●Blu-ray:12,000円
昼公演・夜公演を1セットにした2枚組のBlu-rayです。
火曜日〜日曜日まで各曜日で1セットずつ販売、計6種類のBlu-rayを販売します。

 

■ストーリー(昼公演)
<廃遊園地の人形館殺人事件>
ライアーゲームトーナメント事務局、
通称、LGT事務局を名乗る謎の組織からの招待状を受けた者たちが、潰れた遊園地の『人形館』へと集まった。
夢や希望といった、光に満ちた遊園地の面影は、もはやない。
ここで、これから行われるのは、悪意とぎまんに満ちた騙し合いなのだ……。
そして今、ライアーゲームトーナメント事務局の指図によって、再び一同が集結したのだった。

 

■キャラクター(昼公演)
・園長    社長の実子。若くして園長を任されたが放漫経営で遊園地を潰した張本人。
・経理    遊園地の経理を担当。中間管理職として気苦労が絶えなかったマジメなタイプ。
・設備    遊園地の安全点検から蛍光灯の交換まで細かいところまで几帳面な気遣いの人。
・受付    遊園地のアトラクション受付のまとめ役。弾ける笑顔で好奇心旺盛な行動派。
・着ぐるみ  着ぐるみの”中の人“を担当するが、”中の人”などいないが信条。ユニークでムードメーカー。
・ダンサー  パレードダンサーを担当。奔放で夢見がちミステリアスで、夢みたいなことばかり言っている。
・人形師   遊園地からの依頼で、多くの人形や着ぐるみを制作してきた下請け業者。一途でひたむき。

・社長(被害者)  グループ会社の帝王。冷酷でいくつもの事業を見捨てて、多くの人に恨まれた。

 

■ストーリー(夜公演)
<ある孤島の洋館殺人事件>
目隠しされ、船に乗せられた先にあったのは、リゾート開発に失敗した絶海の孤島だった。
孤島に集められた者たちは皆この島に縁故のある者たちだ。
かつて、一族の家長が亡くなった時、一族の財産であったこの島を売り払ったのだ。
リゾート開発という華々しい未来図にのぼせて。のしかかる莫大な相続税にせまられて。一族の未来を想って。
皆が皆、それぞれの思いで、この島と決別したのだ。
そして今、ライアーゲームトーナメント事務局の指図によって、再び一族が集結したのだった。

 

■キャラクター(夜公演)
・長男/長女  若くして先代からリゾート開発を引き継いだが経営の才能がなく大失敗。すべてを失った。
・養子  控えめで世渡り上手。一族の誰にも恨まれずにやってきたつもり。もめ事は仲裁するタイプ。
・従弟/従妹 一族の財力で学業を積むも、一族の権力からは距離を置いてきた自由人。
・金庫番 一族の土地・財産などを管理してきた。失敗したリゾート計画には反対の立場だった。
・執事/メイド  洋館の雑務をこなし、一族から可愛がられていた。幸も不幸も、あるがままに受け入れてきた。
・弁護人  一族の顧問弁護士で、管財人として一族の資産の整理してきた。法がすべて、法こそ秩序。
・庭師 庭や館内の雑務をこなしてきた。役目を果たせばきっと報われると信じている。気は優しくて力持ち。

・先代当主(死去) リゾート開発事業で財を築き、皆から尊敬されていた。
長男/長女に事業を引き継ぐと持病で死んでしまった。
・次男(音信不通) 幼少期から家族に甘やかされてきた。お調子者無責任で能天気だが、行動力はある。

 

■出演キャスト(五十音順)

【3月7日(火)出演者(五十音順)】
礒部花凜/小泉萌香/西葉瑞希/佐藤日向/船戸ゆり絵/星守紗凪/吉宮瑠織

【3月8日(水)出演者(五十音順)】
天木じゅん/大和田南那/空野青空(でんぱ組.inc/ARCANA PROJECT)/中川美音/水野絵梨奈 /Leola/他

【3月9日(木)出演者(五十音順)】
石井陽菜/石飛恵里花/河内美里/白石まゆみ/他

【3月10日(金)出演者(五十音順)】
蒼井翔太/神尾晋一郎/少年T/髙木俊/他

【3月11日(土)出演者(五十音順)】
SKE48 チームKⅡ:青木莉樺/岡本彩夏/日高優月
SKE48 チームE:鎌田菜月/谷真理佳/林美澪
SKE48 11期研究生:原優寧

【3月12日(日)出演者(五十音順)】
明坂聡美/谷口賢志/富田翔/松崎史也/吉本実憂/他

【進行役】
青木たつや(全ステージ出演)

 

■スタッフ
原作:甲斐谷忍「LIAR GAME」(集英社 ヤングジャンプコミックス刊)
ゲーム企画・監修:眞形隆之
脚本:眞形隆之/しゃみずい
演出:扇田賢(ボブジャックシアター)
舞台監督:伊藤清一(イトウ企画)
演出部:尾花宏行
美術:石倉研史郎(TEN WORKS)
照明:樋口かほる(六工房)
照明オペレーター:秋谷優(六工房)
音響:長柄篤弘(ステージオフィス)/早川迪(ステージオフィス)/出口史歩(RESON)
映像製作:坂内友樹(ビッグバンバン)/Ume(ビッグバンバン)/吉田絢音(ビッグバンバン)
衣裳:沼崎和真(Revelten)
衣裳進行:田所莉奈/伊藤優理(GOSHIKI)
ヘアメイク:工藤聡美/黒田はるな
配信:murasaki(AgGraph)/鹿島有乃
映像収録:渡邉和弘 /安田慎 /田中亮平
スチール:小池博
宣伝美術:藤尾勘太郎
票券:カンフェティ
楽屋スタッフ:小野智美
当日運営:田中翔太/足立裕里/庭山美保/上城友幸/川崎歩(歩夢企画)/吉田爽香
制作進行・物販進行:秋山良介(De-LIGHT)
制作統括:林修司(ピウス)
キャスティング:北村かずや(ビーオネスト)/林修司(ピウス)/
夏樹弘(De-LIGHT)/篠原功(演劇集団SINK)
アソシエイトプロデューサー:西元魁(バンダイナムコアミューズメント)/龍川拓美(ABCアニメーション)
プロデューサー:大野聡(バンダイナムコアミューズメント)/安井一成(ABCアニメーション)
製作:ピウス
製作協力:De-LIGHT
企画・主催:バンダイナムコアミューズメント/ABCアニメーション

©甲斐谷忍/集英社・舞台「LIAR GAME murder mystery」製作委員会

 

【ライアーゲームとは?】
甲斐谷忍原作、週刊ヤングジャンプ誌上で2005年~2015年まで連載。
「ライアーゲーム」という名のギャンブルの賞金をめぐって登場人物たちの緊張感溢れる心理戦が描かれる。
テレビドラマは2007年にフジテレビで放映。その後映画化。リメイク版が韓国でも2014年に放映された。
現在まで続く「デスゲーム」ブームを作った作品のひとつ。
2011年にコミックス発行部数500万部突破 劇場版第一弾興行収入23億円 劇場版第二弾興行収入21億円

 

【マーダーミステリーとは?】
殺人などの事件が起きたシナリオが用意され、参加者は物語の登場人物となって犯人を探し出す(犯人役の人は逃げ切る)ことを目的として会話をしながらゲームを進めます。
それぞれの役柄のバックボーンや事件当日の行動などがシナリオとして用意されており、まさに自分自身が推理小説の世界に入ったような体験ができます。各シナリオは一度体験するとすべての謎が解けてしまうので一生に一度しかプレイできないことも特徴です。

 

※本記事の情報は、発表日現在のものです。発表後予告なしに内容が変更されることがあります。あらかじめご了承ください。
※画像はイメージです。
©Bandai Namco Amusement Inc.

 

記事提供:ココシル上野


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開園150年の上野公園で、誰でも楽しめる新しい音楽のパブリックアートを!!【 東京・春・音楽祭2023 】

【東京・春・音楽祭実行委員会】

2023年に開園150年を迎える上野公園を舞台に、日本初の音楽のパブリックアート「Ellen Reid SOUNDWALK featuring Kronos Quartet and 50 for the Future(エレン・リード サウンドウォーク featuring クロノス・クァルテット & 50 for the Future)」を実施するため、クラウドファンディングに挑戦することと致しました。

Ellen Reid SOUNDWALKは、GPS(現在位置情報)を利用し、自然の中で音楽を楽しむパブリックアート作品として、アメリカ出身、ピューリッツァー賞受賞歴もある若き作曲家、サウンドアーティストのエレン・リードによってコロナ禍に立案・製作され、欧米を中心に数々の著名な公園(ニューヨーク・セントラルパーク、ロンドン・リージェンツ・パーク&プリムローズ・ヒル等)で実施されています。ヘッドフォンやイヤフォンから聴こえてくる音楽が、それぞれが歩く場所や経路によって自然に移り変わります。五感をフルに使った新しい音楽との出会いが待っています。

 

<クラウドファンディング詳細>
【タイトル】上野公園でSOUNDWALKを実現したい!
【URL】https://readyfor.jp/projects/SOUNDWALK
【目標金額】150万円
【募集期間】2022年12月6日[火]11時~2023年1月31日[火]23時 56日間
【資金使途】SOUNDWALKで実働するアーティストの創作活動費、渡航滞在費、広告宣伝費、またクラウドファンディング手数料等雑費に使わせていただきます。
【形式】All or Nothing形式 ※All or Nothing形式は、期間内に集まった支援総額が目標金額に到達した場合にのみ、実行者が支援金を受け取れる仕組みです。
【リターン】5,000円~1,000,000円まで計12コース。
「WEBサイトにお名前掲載」、「クロノス・クァルテットサイン付CD」、「参加アーティストによる限定曲目解説動画」、「クロノス・クァルテット未公開演奏映像」など

 

「Ellen Reid SOUNDWALK featuring Kronos Quartet and 50 for the Future」
クラウドファンディングが成立した際には、日本初上陸のSOUNDWALKとして、東京・春・音楽祭が開催される上野公園を舞台に、エレン・リードの監修のもと、国内外で絶大な人気を誇り2023年には結成50周年を迎えるクロノス・クァルテットが手がける「50 for the Future」の作品を中心に製作。スマートフォン用の無料の専用アプリ内に日本語の上野公園用ページも用意され、多くの方に上野公園で新たな音楽散歩をお楽しみいただけるようになります。

 

<実施予定概要>

【期間】2023年3月~約1年間 ※調整中
【会場】上野恩賜公園
【アーティスト】エレン・リード、クロノス・クァルテット /他
【プログラム】SOUNDWALKアンサンブルによる作品、クロノス・クァルテット「50 for the Future」より

▼東京・春・音楽祭2023 WEBサイト
「Ellen Reid SOUNDWALK featuring Kronos Quartet and 50 for the Future」ページ
https://www.tokyo-harusai.com/sound-walk/

 

アーティスト紹介
●エレン・リード(作曲家・サウンドアーティスト)

同世代で最も革新的なアーティストの一人であり、オペラ、サウンドデザイン、映画音楽、アンサンブル、合唱等、幅広い作品を手がける作曲家、サウンドアーティストである。オペラ《プリズム》は、2019年のピューリッツァー賞・音楽部門を受賞した。
作曲家のミッシー・マッツォーリとともに、ルーナ・コンポジション・ラボを共同設立。これは若い女性やノンバイナリー、ジェンダー規範に抗する作曲家のための指導プログラムである。19年からは、ロサンゼルス室内管弦楽団のクリエイティブ・アドバイザー及びコンポーザー・イン・レジデンスを務めている。
コロンビア大学で学士(美術)、カリフォルニア芸術大学で修士を取得。世界各地の音楽からインスピレーションを受けており、お気に入りの2都市、ロサンゼルスとニューヨークで暮らす。作品はデッカ・ゴールドからリリースされている。ロサンゼルス・タイムズ紙いわく、「一言でいえば、リード到来」。
https://www.tokyo-harusai.com/artist_profile/ellen-reid/

●クロノス・クァルテット(弦楽四重奏)

サンフランシスコのクロノス・クァルテット――デイヴィッド・ハリントン(ヴァイオリン)、ジョン・シャーバ(ヴァイオリン)、ハンク・ダット(ヴィオラ)、サニー・ヤン(チェロ)――は、50年近くにわたり、弦楽四重奏で何が体験できるかを考え続けてきた。現代において最も知名度と影響力を持つアンサンブルの一つとして、世界中で数千回に及ぶコンサートを行い、70以上の録音をリリースし、世界で最も洗練された多くの作曲家や演奏家と様々なジャンルを跨いだコラボレーションをしている。また、非営利団体「クロノス・パーフォーミング・アーツ・アソシエーション」(KPAA)を通じて、弦楽四重奏のために1000以上の作品や編曲を委嘱しており、ポーラー音楽賞、エイヴリー・フィッシャー賞、エディソン・クラシック作品賞等、40以上の賞を受賞している。
https://www.tokyo-harusai.com/artist_profile/kronos-quartet/

●50 for the Future 

サンフランシスコを拠点とするクロノス・クァルテットの非営利公共会社クロノス・パーフォーミング・アーツ・アソシエイション(KPAA)が立ち上げた「50 for the Future」は、弦楽四重奏の委嘱、演奏、教育、及びレガシー・プロジェクトで、前例のない規模と潜在的な影響力を持つものです。
クロノス・クァルテットは、45年以上にわたる世界中の著名な作曲家や若手作曲家とのコラボレーションをもとに、アマチュアやプロの弦楽四重奏団が21世紀のレパートリーを演奏するために必要なスキルを身につけられるよう、50の作品からなるライブラリーを委嘱しています。
全ての作品はそれぞれ芸術的に完成されたもので、クロノス・クァルテットによって6回の公演シーズン(2015/2016から2020/2021)にわたって初演され、「50 for the Future」全体がクロノス自身のレパートリーの中核となる予定です。 各作品のスコアとパート譜のデジタル版、録音、その他の教育的資料は、ウェブサイトから無料でアクセスできます。
https://50ftf.kronosquartet.org/
 

「東京・春・音楽祭2023」 開催概要
期間:2023年3月18日[土]~4月16日[日]
主催:東京・春・音楽祭実行委員会
共催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京文化会館
会場:東京文化会館、東京藝術大学奏楽堂(大学構内)、旧東京音楽学校奏楽堂、国立科学博物館、東京国立博物館、東京都美術館、国立西洋美術館、上野の森美術館 /他
後援:文化庁(※申請中)、東京都(※申請予定)、台東区
協力:一般社団法人 上野観光連盟、上野の山文化ゾーン連絡協議会
助成:公益社団法人企業メセナ協議会 2021 芸術・文化による社会創造ファンド
URL: https://www.tokyo-harusai.com

 

 

記事提供:ココシル上野


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【取材レポ】日本初上陸の将軍俑も!「兵馬俑と古代中国展」が上野の森美術館で開幕

上野の森美術館
展示風景

日中国交正常化50周年を記念した展覧会「兵馬俑(へいばよう)と古代中国〜秦漢文明の遺産〜」が2022年11月22日より、上野の森美術館で開幕しました。(会期は2023年2月5日まで)

36体の兵馬俑を軸に、約200点の貴重な文物で古代中国文明の遺産を紹介する本展。開幕前日に行われた報道内覧会を取材してきましたので、展示の様子をレポートします。

展示入口
展示風景
展示風景
展示風景
展示風景 《彩色一角双耳獣》漢、陶、永寿県博物館

2000年の時を超えた、壮大な歴史との対峙

俑(よう)とは、古代中国において権力者の遺体とともに埋葬された、木や土で作られた人形(ひとがた)です。

1974年、始皇帝陵から約1.5km離れた場所で農民が井戸を掘っていたところ、一体一体顔も服装も異なる、ほぼ等身大の兵士や馬を模した俑が大量に出土。調査により、それらの兵馬俑は死後の始皇帝を守るために地下に配置されたものだとわかり、20世紀の考古学における最大の発見の一つと話題になりました。現在も発掘作業は続いていますが、その数は推計約8000体にも及ぶそうです。

紀元前221年、7国が争った春秋戦国時代を終わらせ、中国史上初めて統一王朝を打ち立てた始皇帝の秦王朝はわずか十数年で滅びましたが、兵馬俑はその絶大な国力を現代に伝えています。

本展はそんな秦王朝と、紀元前202年、秦が滅んだ後に劉邦が創始した、中国古代における黄金時代とされる漢王朝の中心地域である関中(現在の陝西省)の出土品を中心に、日本初公開の一級文物(最高級の貴重文物を指す中国独自の区分)など約200点を紹介するものです。

谷原章介さん

オープニングイベントには、展覧会のナビゲーターであり音声ガイドのナレーションも務めた俳優の谷原章介さんが駆けつけました。

会場にずらりと並んだ兵馬俑を見て「圧巻。モノとしての存在感の大きさに驚かされました」とコメント。「古くから作られているもののうち、残りやすいのは焼き物や金属製の品。織物や紙に書かれた書などのない展示を見て、それだけ古い時代の貴重なものが集まったんだなというのをすごく感じました」と、ひと足早く会場を巡った感想を述べます。

さらに、本展には春秋戦国時代を描いた人気漫画『キングダム』とコラボしたコーナーがあり、本人も作品の大ファンであることに触れ、「『キングダム』ファンの皆さんは作品の大好きな世界観を実感するためにも、ぜひこの展覧会にお越しいただけたら」と呼びかけました。

日本初公開となる貴重な将軍俑が来日!

会場では、紀元前770年の周王朝の遷都から220年の漢王朝の崩壊まで、およそ1000年に渡る時代の歴史資料を「第1章 統一前夜の秦~西戎から中華へ」「第2章 統一王朝の誕生~始皇帝の時代」「第3章 漢王朝の繁栄~劉邦から武帝まで」という3章構成で紹介しています。

立ち並ぶ兵馬俑

見どころは36体の兵馬俑ですが、特に「第2章 統一王朝の誕生~始皇帝の時代」にある始皇帝時代の兵馬俑の数々は、像高が平均で180cm前後ということで非常に迫力がありました。

日本では過去にも何度か兵馬俑をテーマにした展覧会が開催されてきましたが、本展の一番の特徴は、約8000体あるとされる始皇帝の兵馬俑のうち、11体しか出土していない貴重な「将軍俑」の、日本初公開の1体が来日していること。

一級文物《戦服将軍俑》統一秦、陶、秦始皇帝陵博物院

こちらがその《戦服将軍俑》です。「将軍」と名前がついていますが、正しくは軍吏や、戦車に乗り、歩兵や騎兵の小部隊を統率した高級武官の姿を模したものを指しています。像高は196cmと長身。

いくつもの兵馬俑が並ぶなかでも、頭に「鶡冠(かつかん)」という独特の形をした冠を被っているので、ひと目でそれとわかりました。鶡はキジ科の山鳥のことで、攻撃されると激しく反撃に出ることから、その尾羽を武人の冠に用いられるようになったとか。

兵馬俑はもともと鮮やかに彩色されていたことがわかっていて、右の頰や耳のあたりをよく見ると、白地に肌色を重ね塗りした跡があり、在りし日の名残を感じられます。右手が不自然に丸められていますが、これは剣を持つ様子を表しているそうですよ。

一級文物《立射武士俑》、統一秦、陶、秦始皇帝陵博物院
一級文物《跪射武士俑》、統一秦、陶、秦始皇帝陵博物院

立射する者、弩(いしゆみ)を持って待機する者など、顔や服装だけでなくポーズも多様なのが面白いところ。

一級文物《跪座俑》、統一秦、陶、秦始皇帝陵博物院

静かな佇まいが目を引く、像高64cmと等身大というにはやや小さい《跪座俑(きざよう)》は、馬や動物を飼育する役人を忠実に模したもの。兵士と馬の陶俑という組み合わせで埋葬されることもありますが、本作のような跪座俑は本物の馬や動物を埋葬する馬厩坑(ばきゅうこう)や珍禽異獣坑(ちんきんいじゅうこう)という場所に配置されていたようです。

周王朝のために馬を繁殖させて秦という土地を与えられたという経緯から、秦にとって馬は勢力の発展に欠かせない存在でした。死後の世界にも世話役を、という、秦の人々の馬や動物への心情の深さが感じられます。

同フロアには戦車馬の陶俑の姿もありました。

一級文物《戦車馬》、統一秦、陶、秦始皇帝陵博物院

兵馬俑は、当時すでに廃止された人間の殉葬(墓主の死に合わせて殺され、埋葬されること)の代わりに生まれたもので、始皇帝の兵馬俑は生前、彼に仕えた実在の軍隊・人物をモデルに作られたといいます。

武器を携えたポーズをとる兵馬俑もいますが、見渡してみると、戦いに赴く厳めしい表情は発見できず、逆に穏やかで生き生きした表情が多いことに気づきます。始皇帝は生前から自身の陵墓を造営し始めていたと知り、これらの表情は、死後の世界の安息を願った始皇帝本人の指示だったのかもしれないと想像がふくらみました。

兵馬俑の興味深いところは、これほどリアルで等身大サイズのものは、始皇帝時代にしか見られないという点。

会場では、秦王朝における兵馬俑の最古の作例の一つである《騎馬俑》や、前漢の頃に作られた《彩色歩兵俑》なども鑑賞できますが、いずれも像高は1mもなく、前漢のものはデザインが簡略化・画一化されています。つまり、ほぼ等身大で、しかも一体一体モデルがいるという始皇帝時代の兵馬俑はかなり特殊なのです。

一級文物《騎馬俑》戦国秦、陶、咸陽市文物考古研究所
《彩色歩兵俑》前漢、陶、咸陽博物院

始皇帝の兵馬俑が作られた理由について、本展の監修者である学習院大学名誉教授・鶴間和幸さんは、

■(先述したように)本物の馬や動物を丁寧に埋葬する際、世話役として跪座俑をわざわざ配置する、後に等身大の陶馬と陶俑を組み合わせるなど、馬や動物を尊んだ秦人の精神の賜物なのではないか。

■戦国時代の秦の墓からギリシャ神話の葡萄酒の神・ディオニソスを描いた装飾板が発見されたことなどから、古代ギリシャの彫刻と芸術の影響を受けていたのではないか。

といった推測をしているそうです。

かつて孔子は、人間をかたどった姿である俑を批判しましたが、焚書坑儒で知られる始皇帝ですから、それを知っていてあえて孔子の教えに反するものを作ったのかもしれません。

寝殿や祭祀施設などが備わっていた始皇帝陵の周辺では、展示にはありませんが、兵士だけではなく、文官や音楽家、曲芸師の俑も発見されているとか。
いずれにせよ、徹底した写実性をもたせたこれらの兵馬俑は、当時の秦の姿をそのまま再現するかのようで、当時の秦という国の絶大な国力だけでなく、始皇帝の並々ならぬ死後の世界への期待、支配者としての矜持が感じられました。

『キングダム』の世界の理解が深まる展示品も

春秋戦国時代を舞台に、秦の中華統一に至る道のりを描く人気漫画『キングダム』と本展がコラボしていることは先述しましたが、コラボの様子がこちら。

一級文物《2号銅車馬》の複製品が置かれた『キングダム』コラボコーナー

《2号銅車馬》(複製品)が置かれた部屋をぐるりと囲むパネル展示により、同作に登場する歴史上の人物・場所や武具・装飾品と、本展の出品物を照らし合わせ、古代中国への理解を深められるようになっています。

パネル展示

この《2号戦車馬》は始皇帝陵から発掘されたもので、実物の2分の1サイズ。始皇帝の生前の巡行の威容を残しています。精巧な部品を組み合わせていることから、古代中国の青銅技術の最高峰と称えられているとか。

左のパネルに銅車馬が描かれています。

実はこの銅車馬、『キングダム』第1話で昌文君が載っていた馬車と(2頭立て、4頭立てという違いはありますが)よく似ています。このような細かな描写から作品の世界にリアリティが生まれるのだなと、あらためて魅力に気づかされます。

一級文物《青銅戟》秦、青銅、秦始皇帝陵博物院

また、作中指折りの人気キャラクターであり、嬴政(のちの始皇帝)に立ちはだかる秦国の丞相・呂不韋にゆかりがある《青銅戟(せいどうげき)》も発見。「戟」とは、戈(か)という武器に矛を付けた武器のことです。本品は兵馬俑坑で発見されたもので、「三年相邦呂不韋造」との文字が刻まれていて、呂不韋がこの武器の製造責任者であったことがわかります。

このように、本展のあちこちに『キングダム』の世界とリンクする出品物が登場しますので、ファンの方はぜひ会場の隅々までチェックしてみてください。

古代中国の人々の息遣いを感じる

《玉人》戦国秦、玉、宝鶏市陳倉区博物館
一級文物《鎏金青銅馬》漢、金、茂陵博物館

そのほか、青銅器や玉なども選り抜きの名品が揃っています。なかでも、日本初公開となる前漢の武帝が作らせたという秘宝《鎏金青銅馬(りゅうきんせいどうば)》は存在感がありました。金メッキの馬の像で、そのモデルは「一日千里を走る」と謳われた西の大宛の名馬”汗血馬”とされ、武帝がまだ見ぬ汗血馬への憧れを託して作らせたと考えられています。

《里耶秦簡》統一秦、木、里耶秦簡博物館
《鳳鳥青銅盉》春秋秦、青銅、宝鶏市陳倉区博物館
一級文物《鳳鳥銜環青銅薫形器》戦国秦、青銅、宝鶏市鳳翔区博物館

《里耶秦簡》という古代の行政文書や金印など最高級の貴重文物もあれば、貨幣や壺、甕、香炉、盤(ばん/手洗いの道具)、盉(か/酒や水をそそぐ器)、鼎(てい/肉や魚を煮るための道具)など、古代中国に生きた人々の生活が浮かび上がる品々も幅広く紹介され、古代中国の入門編としてもピッタリの内容となっていました。

ちらほらと素朴な動物モチーフの文物もあり、癒されました。《彩色陶羊尊》漢、陶、楡林市公共文化服務中心

古代中国のロマンが感じられる展覧会「兵馬俑と古代中国〜秦漢文明の遺産〜」の開催は2023年2月5日までとなっています。

 

「兵馬俑と古代中国〜秦漢文明の遺産〜」概要

会期 2022年11月22日(火)~2023年2月5日(日)
開館時間 9:30〜18:00入館は閉館30分前まで
休館日 2022年12月31日(土)〜2023年1月1日(日)
会場 上野の森美術館
主催 東京新聞、フジテレビジョン、上野の森美術館、陝西省文物局、陝西歴史博物館(陝西省文物交流中心)、秦始皇帝陵博物院
お問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル/9:00~20:00)
展覧会公式サイト https://heibayou2022-23.jp

※記事の内容は取材日(2022/11/21)時点のものです。最新の情報は展覧会公式サイト等でご確認ください。

 


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【会場レポ】総展示“毒”数 250超え! 特別展「毒」が国立科学博物館で開幕(~2023年2月19日まで)

国立科学博物館

東京・上野の国立科学博物館では2022年11月1日(火)~2023年2月19日(日)の期間、特別展「毒」が開催されています。

地球上に存在するさまざまな「毒」を、動物学、植物学、地学、人類学、理工学のスペシャリストたちが徹底的に掘り下げて紹介する本展。

開幕に先駆けて行われた報道内覧会に参加してきましたので、展示内容や会場の様子など、感想を交えつつレポートします。

会場入口
会場風景
会場風景
会場風景
会場風景

毒・毒・毒…あらゆる毒を横断的に解説する特別展

動物、植物、菌類、鉱物、さらには人工毒など、自然界や人間社会に存在するさまざまな「毒」は、大まかにまとめると「ヒトを含む生物に害を与える物質」として理解されています。

特別展「毒」は、そんな毒をもった生物や毒性ある物質を集め、毒の多様性を紹介するにとどまらず、毒とともに進化してきた生物の歴史や、古代より毒を、時には武器、時には薬として使用してきた人間と毒との関係など、「毒とはいったい何か?」を多角的に解説するもの。

毒をテーマにした特別展は、国立科学博物館では初の試みとなります。

登場する毒の総数はなんと250超え!
動物学、植物学、地学、人類学、理工学と、各研究部門のスペシャリスト9名による国立科学博物館ならではの網羅的な解説や、貴重な標本資料などが楽しめる内容になっています。

会場入口で手に入る毒クイズ。忘れずにゲットしましょう。

会場内では、クイズ王・伊沢拓司さん率いるQuizKnockが出題する「毒クイズ」を解きながら毒の知識を深められるほか、アニメ「秘密結社鷹の爪」シリーズでおなじみの「鷹の爪団」が世界征服に使えそうな毒を探索するついでに、会場内のあちこちに登場して毒の世界に対して面白いコメントを残してくれています。

「鷹の爪団」のコメントにより、さらに楽しく会場を回れます。

また、今回が初の博物館音声ガイドとなる声優の中村悠一さんによる音声ガイド毒がテーマの大人気小説『薬屋のひとりごと』のイラストを手掛ける、しのとうこ先生による描き下ろしイラストが楽しめるなど、さまざまなクリエイターが本展を盛り上げています。

報道内覧会前に行われたオープニングトークでは、本展の監修統括をつとめた国立科学博物館 植物研究部長の細矢剛さんと、本展のオフィシャルサポーターに就任した伊沢拓司さんからメッセージをいただきました。

前列、一番右が細矢さん、右から二番目が伊沢さん。周りは本展の監修者のみなさま。

細矢さんは、「この展覧会は、毒の多様性・多面性を理解してもらいたいと考えて企画されました。毒というのは物質ではありますが、自然の働き・営みというものを理解するために生み出されたアイデア・概念と考えることもできると思います。毒と向き合う姿勢は科学そのものです」と本展の企画意図を語ります。

科博の各研究部門を横断する企画ということで見せたいネタが多すぎ、情報の厳選や展示にストーリー性をもたせることに苦労したとのこと。

ベニテングタケのぬいぐるみを抱える伊沢さん

伊沢さんは、毒に対して「子どもの頃から恐怖を感じつつも、同時に魅力的で惹かれてしまう存在」というイメージをもっていたそう。本展を鑑賞してみて、「展示が重厚です! 子どもから大人まで楽しめるギミックが用意されている。見ごたえがあるので2時間は(鑑賞の)時間をとっていただきたい。僕は展示を一周するのに3、4時間はかかるかな」と内容の充実ぶりをアピールします。

「毒というと怖い印象があるので、もしかすると親御さんが子供に見せたくないと思ってしまうかもしれませんが、大事なのは正しく知って正しく恐れること。なんとなく恐れるのではなく、正しく知って、日常の中にある毒から我々は逃れられないからこそ、うまく付き合っていくこと(の大切さを)を、知識を得ながら感じていただければ嬉しい」と締めくくりました。

ハブやスズメバチの大迫力の拡大模型が来場者をお出迎え!

本展は第1章~第4章、終章の全5章構成となっています。

「生活の中の毒」パネル

毒とはどんなものか、その概念をつかむための動画やパネルが用意された「第1章 毒の世界へようこそ」では、室内や身近な野外で私たちが出会いそうな毒を紹介する「生活の中の毒」のパネルが人気を集めていました。

パネルを見て、「かびたパン」「一酸化炭素」などはフムフムといった感じですが、「ブドウ」や「ピーナッツ」など普段なにげなく食べている食材も例として挙がっていてギョッとします。(これがどんな毒になるのかは展示の最後で明かされています)

毒に対して、サスペンスで事件に用いられる毒薬や毒ヘビ、毒グモなど、なんとなく非日常のイメージをもっていましたが、「言いすぎかもしれませんが、私たちは毒に囲まれて生活しています」と解説にあるとおり、全くそんなことはないというのが早速分からされる導入部です。

「第2章 毒の博物館」展示風景

続いて本展のメインともいえる、私たちの周りのさまざまな毒や毒をもった生物を紹介する「第2章 毒の博物館」エリアに突入します。

ここでは、獲物の捕獲や無力化に用いられる「攻めるための毒」と、外敵から身を守るために用いられる「守るための毒」の解説のために制作された圧巻の拡大模型が登場!

実物比の約30倍のハブ、約40倍のオオスズメバチ、約70倍のセイヨウイラクサ、約100倍のイラガの幼虫の4体がありました。

ハブとオオスズメバチの拡大模型

キバや針をむき出しに襲い掛かろうとしているハブとオオスズメバチの模型のディティールには目を奪われます。躍動感がすごい……!

「日本の三大有毒植物」であるドクウツギ、トリカブト、ドクセリの展示
ズグロモリモズの展示

「日本の三大有毒植物」や、その毒性を遥かにしのぐ世界の有毒植物、毒をもつ世にも珍しい鳥類「ズグロモリモズ」、食用キノコと間違われやすい毒キノコ、かつて不老不死の薬だと信じられた猛毒の水銀など、バラエティに富んだ毒が次々に登場して知識欲が大いに刺激されます。

トビズムカデやツシマハリアリなど、毒虫の展示
ガンガゼやスベスベマンジュウガニなど、海岸で見られる有毒生物の展示

面白かったのは、「毒のカクテル」と表現される多様な化学物質がブレンドされた毒をもつハチにまつわる展示の一画にあった、「シュミット指数」についてのコラム。

シュミット指数のコラム

シュミット指数とは、アメリカのジャスティン・シュミット博士(1947-)が「どのハチに刺されるのが一番痛いのか」という疑問に対し、実際にハチに刺されてみる(!)ことで痛みを相対的に数値化したもの。(この研究で博士はイグノーベル賞を受賞したそうです)

「カッと熱くなるような鋭い痛み。まろやかなハヴァティチーズだと思って食べたら、極辛のハラペーニョ入りチーズだったような」など、シュミット指数に添えられた比喩表現が妙に巧みなのが笑いを誘います。

人間は毒によって進化した生物? 人間の歴史は毒とともにあった

「第3章 毒の進化」展示風景

たっぷりの毒知識を入手できる大満足間違いなしの第2章を抜けても、まだまだ展示は続きます。

ここまで生物や鉱物の世界を探検しているような空間演出でしたが、「第3章 毒の進化」からは一転、清潔感のあるラボのような雰囲気に。

ここでは毒のある生物への擬態や、有毒生物からの毒の盗用、毒に耐える性質の獲得、毒を利用した種子の散布戦略など、毒がきっかけとなった進化の例を紹介しています。

酸素の展示

たとえば、多くの生物に必要不可欠な酸素にも実は毒性があります。私たちヒトも、毒に適応して進化した生物だったのです。

また、自身が有毒動物であることを周囲に伝え、無用な争いを避ける効果がある「警告色」をもつように進化したのは、キオビヤドクガエルやアカハライモリ。

キオビヤドクガエルの展示
アカハライモリの展示

キオビヤドクガエルの「黄色×黒」の警告色は、オオスズメバチなど他の生物にもよく見られますが、アカハライモリは「赤×黒」。この違いには何か理由があるのかと思っていましたが、要は「明るい色と暗い色のコントラスト」が重要なのだとか。

「ユーカリVSコアラ」の展示

毒に耐える性質の獲得の例としては、「ユーカリVSコアラ」の展示がありました。

ユーカリは葉が硬く、繊維質が多く栄養素も少なく、さらには毒性をもつ化学物質が多く含まれるなど、草食動物から身を守る防御戦略が徹底しています。そのユーカリ林で繁殖したに成功したコアラは、ユーカリの葉の毒に耐えるさまざまな特徴を発達させた対ユーカリのスペシャリスト。かわいい顔でも体の中は強靭なんですね……!

「第4章 毒と人間」展示風景

「第4章 毒と人間」は、狩猟や戦に利用したり、「毒」を研究することにより薬を生み出したりと、私たち人間にとって毒とはどんな存在だったのかを振り返りながら、科学の進歩による毒の解明、その利用など、「毒」の研究についても紹介するエリアです。

南アフリカのボーダー洞窟で発見された約2万4000年前の「切れ目のある木の棒」のレプリカが、人が毒を使用した最古の証拠として展示されていて、人間と毒との長い歴史を感じます。

「おしろい文化」の展示

鉛や水銀など毒性がある成分が含まれる白粉が使われていた江戸時代の「おしろい文化」や、1890年に日本で発明された、植物が捕食者から身を守るために合成している毒を使った蚊取り線香など、日本文化と毒との関係も興味深いものでした。

「毒生物料理」の展示

毒の除去、無毒化によって本来なら食べられない生物を食材として生かしている「毒生物料理」の技の紹介も。

フグやウナギは知っていましたが、少し前に日本で大ムーブを巻き起こしたタピオカの原料であるキャッサバも無毒化が必要な作物だったとは……。人間の食に対する飽くなき探求心が、毒性を乗り越える原動力になっていたことが分かります。

「終章 毒とはうまくつきあおう」展示風景

ここまでの展示で、私たちのまわりは毒だらけだということがはっきりと理解できます。今でも新しい毒が生まれたり、発見されたり……ヒトは生きていく限り、毒と付き合っていかざるを得ないことが身に染みたところで、展示はラストの「終章 毒とはうまくつきあおう」へ。

会場全体を振り返り、毒というのはどういう存在か、毒から逃れられない私たちが毒とどう向き合っていくべきかをあらためて考えるための象徴的な毒の展示が、本展を締めくくります。

第2会場 展示風景

展覧会特設ショップへ向かう途中にある第2会場では、本展を監修した9名の研究員と「鷹の爪団」にとっての「毒」とは何かを聞いたインタビューを読む(見る)ことができました。

特に「毒にあたらないように注意していることはありますか?」という質問への回答は、研究者ならではの体験を交えたアドバイスになっているのでぜひ一読を。

展覧会特設ショップの様子

展覧会特設ショップではTシャツや図鑑風下敷き、ポップなデザインのポーチなど本展オリジナルグッズが多数販売中。ベニテングタケやツキヨタケの大きなぬいぐるみもかわいいですが、なかでも『特別展「毒」焼印入まんじゅう』はドッキリアイテムとしておすすめ。中身の餡もむらさき芋使用で毒々しさマシマシです。

特別展「毒」焼印入まんじゅう(6個入/税込972円)

毒の神秘と驚きに触れながら、ヒトと毒との関係の「これまで」と「これから」を考える特別展「毒」。一部、ムカデや毒虫など人を選ぶ展示もあるので苦手な方は注意が必要ですが、ぜひ皆さんも、奥深い毒の世界に足を踏み入れてみてください。

特別展「毒」概要

会期 2022年11月1日(火)~2023年2月19日(日)
※会期等は変更になる場合があります。
会場 国立科学博物館(東京・上野公園)
開館時間 9時~17時(入場は16時30分まで)
休館日 月曜日、12月28日(水)~1月1日(日・祝)、1月10日(火)
※ただし1月2日(月・休)、 9日(月・祝)、2月13日(月)は開館。
入場料(税込) 【一般・大学生】2,000円 【小・中・高校生】600円

※入場にはオンラインによる日時指定予約が必要です。
※未就学児や、障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料です。日時指定予約は必要となりますのでご注意ください。

お問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト https://www.dokuten.jp/
主催 国立科学博物館/読売新聞社/フジテレビジョン
監修 ・細矢 剛(国立科学博物館 植物研究部長)
・中江 雅典(国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹)
・吉川 夏彦(国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究員)
・井手 竜也(国立科学博物館 動物研究部 陸生無脊椎動物研究グループ 研究員)
・田中 伸幸(国立科学博物館 植物研究部 陸上植物研究グループ長)
・保坂 健太郎(国立科学博物館 植物研究部 菌類・藻類研究グループ 研究主幹)
・堤 之恭(国立科学博物館 地学研究部 鉱物科学研究グループ 研究主幹)
・坂上 和弘(国立科学博物館 人類研究部 人類史研究グループ長)
・林 峻(国立科学博物館 理工学研究部 理化学グループ 研究員)

※記事の内容は取材日(2022/10/31)時点のものです。最新の情報は展覧会公式サイト等でご確認ください。

 

記事提供:ココシル上野


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【会場レポ】特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」がついに開幕!国宝89件が全公開、三日月宗近など19の刀剣が揃う「国宝刀剣の間」も

東京国立博物館

※本記事は2022年10月22日に作成されたものです。紹介した展示作品の中にはすでに展示期間を終了しているものもありますのでご注意ください。(2022年12月1日)

 

2022年10月18日〜12月11日の期間、東京国立博物館(以下、東博)では特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」が開催されています。

創立150周年というメモリアルイヤーを記念した本展では、東博が所蔵する国宝89件すべてに加え、重要文化財も多数出品! 美術ファンでなくても見逃せない内容になっています。

開催に先立って行われた報道内覧会に参加してきましたので、その豪華すぎる会場の様子を詳細レポートします。

 

*本展は事前予約制(日時指定)です。
*会期中展示替えがあります。
*特別な記載のない作品はすべて東京国立博物館所蔵です。

展示風景「国宝刀剣の間」
展示風景
展示風景、狩野長信筆《花下遊楽図屛風》江戸時代 17世紀 展示期間 : 10/18~11/13
展示風景、写真手前は《扁平鈕式銅鐸》伝香川県出土、弥生時代、前2~前1世紀、展示期間 : 10/18~12/11

この先50年は実現困難!?驚異の展覧会の幕開け

特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」は、150年という日本で最も長い歴史をもつ博物館・東博の全貌を紹介するべく、約12万件という膨大な所蔵品の頂点ともいえる国宝89件すべてを含む名品と、明治時代から続く150年の歩みを物語る関連資料を展示する展覧会です。

東博の国宝コレクションは日本最大で、89件というのは現在国宝に指定されている美術工芸品の約1割に当たります。その数だけ見ても、本展がどれだけスペシャル仕様なのかがお分かりいただけるはず。

もちろんこのような展覧会は前代未聞、史上初!
今年5月に行われた報道発表会では、東博の研究員の方々ですら、国宝89件すべてを勢ぞろいさせた光景は今まで見たことがないと語っていました。

数年前からの細かな展示計画の調整が非常に大変だったそうで、「次の開催は200周年のとき、50年後かもしれません」とのお話でした。一生に一度のチャンスの可能性もあるので、気になっている方は意地でもスケジュールを調整してほしいところ。

長谷川等伯、雪舟、本阿弥光悦…美の神髄は今、東博で出会える

本展は「第1部 東京国立博物館の国宝」「第2部 東京国立博物館の150年の歩み」の2部構成となっています。

「第1部 東京国立博物館の国宝」は、見渡す限り国宝のみがシンプルに展示されているエリア。国宝89件の内訳は、絵画21件、書跡14件、東洋絵画4件、東洋書跡10件、法隆寺献納宝物11件、考古6件、漆工4件、刀剣19件です。

 

*展示替えを含めての「すべて公開」ですので、一度訪れるだけでは国宝全件を鑑賞できない点はご注意ください。(どのタイミングでも、1回の観覧で鑑賞できる国宝は60件前後になるようです)
また、展覧会公式サイトでは全件の展示スケジュールが公開されています。

長谷川等伯筆《松林図屛風》安土桃山時代、16世紀 展示期間 : 10/18~30

会場に入ると、まずは挨拶代わりに安土桃山時代に活躍した絵師・長谷川等伯の代表作《松林図屛風》が登場。

「東博といえばこれ」と感じる国宝のひとつですが、その高潔な佇まいに、見るたび息を飲みます。松林を取り巻く清涼な大気の湿度すら感じられる画面、墨一色でここまで描けてしまうものなのかと。松は幻のように幽玄な雰囲気をまとっているのに、近づいて見れば筆致が驚くほど激しいことに圧倒されます。

日本水墨画の最高峰と言われていますが、「実は下絵だったのでは疑惑」があるのが面白いポイント。

展示風景、渡辺崋山筆《鷹見泉石像》江戸時代 天保8年(1837)展示期間 : 10/18~11/13
雪舟等楊筆《秋冬山水図》室町時代、15〜16世紀、展示期間 : 10/18~11/13
《孔雀明王像》平安時代、12世紀、展示期間 : 10/18~11/13

平安時代を代表する仏画《孔雀明王像》はシンメトリーな構図が美しく、赤、金、緑、藍など彩色も華麗で目を引きました。

肌は淡く赤がにじみ、輪郭線も桃色でふっくらと柔らかい印象を受けます。明王は怒った顔がデフォルトですが、孔雀明王は例外で、こちらの孔雀明王も菩薩のように柔和で慈愛溢れる表情を浮かべています。向かい合うとどんどん心が穏やかに……。

さらによく目を凝らすと、衣服やアクセサリー、孔雀の羽などに見られる金箔や金泥を用いた截金文様のすばらしいこと! 経年で褪せているので気づきにくいですが、特に下半身の衣服の職人芸は必見。当時はどれだけ煌びやかに輝いていたのでしょうか。

人々の災いを取り除くとされる孔雀明王ですが、手に持つ吉祥果が子孫繁栄の象徴とも見なされる柘榴であることから、高位の貴族が安産祈願のために描かせたものでは、と考えられているとか。

《平治物語絵巻 六波羅行幸巻》鎌倉時代、13世紀、松平直亮氏寄贈、展示期間 : 10/18~30
《平治物語絵巻 六波羅行幸巻》(部分)

鎌倉時代に描かれた合戦絵巻の傑作《平治物語絵巻 六波羅行幸巻》も要注目。

平治の乱を題材に、幽閉された二条天皇が女房姿で脱出を図り、平清盛の六波羅邸に逃れる前後の様子が描かれています。武士たちの甲冑や刀剣のリアルな描写を楽しめる作品ですが、全長が約9m50cmもあるため、スペースの関係で普段の展覧会ではなかなかすべてを広げることは少ないそう。

しかし、そこはさすが国宝展! 全場面を漏れなく鑑賞できるように展示してくださっていました。ただし、公開は10月30日まで。2週間限定展示なので注意です。

小野道風筆《円珍贈法印大和尚位並智証大師諡号勅書》(部分)、平安時代、延長5年(927)展示期間 : 10/18~11/13
《古今和歌集(元永本)》上帖、平安時代、12世紀、展示期間 : 10/18~12/11、会期中、頁替えあり

書跡では、聖武天皇が書いたと伝わる、墨をたっぷり含んだ堂々たる大字が魅力であり、かつては手鑑の冒頭を飾る名筆として珍重されたという《賢愚経残巻(大聖武)》(奈良時代、8世紀、展示期間 : 10/18~11/13)や、三蹟の一人であり、紫式部が『源氏物語』の中で「今めかしうをかしげに目もかがやくまでみゆ(=今風で美しい書はまばゆいほどに見える)」と絶賛した能書家・小野道風による《円珍贈法印大和尚位並智証大師諡号勅書》などが鑑賞できます。

原装幀のまま『古今和歌集』を完存する現存最古の遺品である《古今和歌集(元永本)》は、文字だけでなく菱唐草文や孔雀唐草文などが雲母摺りされた、平安貴族たちの美意識を感じる豪華な料紙も見どころ。

ほとんど仮名で構成された書であり、料紙に合わせた軽快な筆づかいからは、口に出して読んだときの和歌のリズムも伝わってくるようでした。

李迪筆《紅白芙蓉図》、中国・南宋時代、慶元3年(1197)、展示期間 : 10/18~11/13
《竜首水瓶》飛鳥時代、7世紀、展示期間 : 10/18~12/11
本阿弥光悦作《舟橋蒔絵硯箱》江戸時代、17世紀、展示期間 : 10/18~11/13
《埴輪 挂甲の武人》古墳時代、6世紀、展示期間 : 10/18~12/11
《江田船山古墳出土品》3点。写真左は《金銅製沓》朝鮮・三国時代、5~6世紀、展示期間 : 10/18~12/11

便宜上、数の多い絵画と書跡の作品のいくつかをご紹介してみましたが、正直いって見どころしかありません!

《江田船山古墳出土品》など、一部作品については「こんな国宝もあったんだ」と知る機会になりましたが、基本的に古いものでは紀元前から19世紀の江戸時代まで、教科書でおなじみの作品が息つく間もなく登場します。作品のキャプションに「現存最古の~」や「最高峰の~」といったただならぬ形容詞が当たり前のように並んでいるのが恐ろしいところ。

国宝群のオーラに脳を焼かれますので、鑑賞の際にはぜひ体調をしっかり整えて、滞在時間を十分に確保して休み休み臨まれるのをおすすめします。

会場風景

ちなみに、写真のようにかなり広めに展示スペースが取られていて、椅子も多く設置されていたので、自分のペースで回ることができそうです。

会期が進むと、狩野永徳筆《檜図屛風》(展示期間:11/1〜11/27)、岩佐又兵衛筆《洛中洛外図屛風(舟木本)》(展示期間:11/15~12/11)、尾形光琳作《八橋蒔絵螺鈿硯箱》(展示期間 : 11/15~12/11)などが登場予定。

三日月宗近の“三日月”も堪能できる!「国宝刀剣の間」

「国宝刀剣の間」
《梨地螺鈿金装飾剣》平安時代、12世紀、展示期間 : 通期

開幕前からSNSなどで話題になっていましたが、第1部の後半には19件の国宝刀剣のみを集めた「国宝刀剣の間」が出現。

相州正宗《刀 金象嵌銘 城和泉守所持 正宗磨上 本阿(花押)》鎌倉時代、14世紀、展示期間 : 通期

刃文や地金をより美しく鑑賞してほしいと、展示ケースや照明には非常にこだわったというお話。たしかに、空間全体が暗いため、作品のライティングが非常に映えます。

厳かな雰囲気の中でぼうっと浮かび上がる刀剣。きらめく切っ先の艶やかな美しさには、思わず感嘆の吐息がこぼれました。

長船長光《太刀 銘 長光(大般若長光)》鎌倉時代、13世紀、展示期間 : 通期
古備前包平《太刀 銘 備前国包平作(名物 大包平)》平安時代、12世紀、展示期間 : 通期

人気ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』でキャラクターのモチーフになった三日月宗近、大包平、大般若長光、小龍景光、厚藤四郎、亀甲貞宗の姿も発見!
ファンにはたまらない空間ではないでしょうか。

三条宗近《太刀 銘 三条(名物 三日月宗近)》平安時代、10~12世紀、展示期間 : 通期

注目を集めていたのは「国宝刀剣の間」の中央に展示されていた、優美な太刀姿の三日月宗近。京都・三条で平安時代後期に活躍した、日本刀成立初期の名工と名高い宗近の代表作であり、数ある日本刀の中でも名刀中の名刀とされる「天下五剣」の一つに数えられています。

三条宗近《太刀 銘 三条(名物 三日月宗近)》(部分)

刃文に「打ちのけ」と呼ばれる、小さなキズのようなものが連なっているのが見えました。これが三日月のようだ、美しい、珍しいということで「三日月」の号がついたとか。

筆者はこれが三日月宗近との初対面。名前の由来は知っていたものの、誰が見ても三日月とわかる大きな模様がひとつ刻まれているのだと勝手に思い込んでいたので、実際は小さく点々と打ちのけが入っていたことに驚きました。

正直、「三日月に見え……見えるか……?」という第一印象でしたが、当時の人々がこれを見て三日月を連想した、その風流で豊かな感性が胸に響きます。

耆安綱《太刀 銘 安綱(名物 童子切安綱)》平安時代、10~12世紀、展示期間 : 通期

事前の報道発表会で、「三日月宗近と同じく日本刀成立初期の名刀として有名な童子切安綱は、実は刃の寸法がまったく同じ。どちらも刃の長さが80cm、反りが2.7cm」というお話を聞いていたので、「そんな偶然があるんだ!」と実際に見比べてみることに。

外見の印象はかなり異なっていて、三日月宗近は切っ先に向けて細くなっていく、優美という言葉がぴったりの細身の刀。一方で童子切安綱は、全体的にどっしりと、どことなく野性味のある力強い太刀姿です。また、三日月宗近は持ち手の茎(なかご)の部分と刃の境でグッと角度がついているというか、強く沿っていますが、童子切安綱は茎と刃でなめらかにカーブを描いているように見えました。

この違いは、京の都を拠点とした宗近に対し、伯耆の国(現在の鳥取県)を拠点とした安綱という作者の居住地の地域文化が、刀の姿に反映されているのではないか、ということでした。同じ国宝、同じ時代、同じ寸法の刀剣の、まったく異なる美しさを堪能する。この贅沢な楽しみ方ができるのも本展ならではでしょう。

出展作品の中でも刀剣は特に、光を刀身に滑らせることで初めて見えるものがあるというか、写真では伝わらない美しさの比率が大きいと感じます。こだわりが詰まった最高の展示空間でその魅力を堪能できますので、刀剣ファン以外の方にも心からおすすめ!

なお、刀剣に関しては19件すべてが通期で公開されています。

キリンの剥製も約100年ぶりに里帰り!東博150年の歩みを振り返る

「第2部 東京国立博物館の150年」

東博は明治5年(1872)に旧湯島聖堂の大成殿で開催された「湯島聖堂博覧会」をきっかけに誕生した「文部省博物館」がルーツ。日本の近代化を図るとともに、日本文化の国内外への発信、文化財の保護を目的に、当初は博物館のほか、植物園、動物園、図書館の機能を併せもつ総合博物館を目指していたそうです。

明治15年(1882年)、上野に拠点を移して活動を本格化。明治19年(1886)に博物館は宮内省所管となり、明治22年(1889)に「帝国博物館」、明治33年(1900)に「東京帝室博物館」と改称されます。この頃は国家の文化的象徴、さらには皇室の宝物を守る美の殿堂と位置付けられ、だんだんと歴史・美術の博物館としての性格を強めていきました。

昭和13年(1938)に現在の本館が開館し、終戦後に所管は宮内省から再び文部省へ。昭和27年(1952)に名称が現在の「東京国立博物館」となり、東洋館、資料館、法隆寺宝物館などを新しい施設を充実させながら今日に至ります。

国宝展、続く「第2部 東京国立博物館の150年」では、そんな東博の150年の歴史を物語る収蔵品や関連資料を3期に分けて展示。明治からの歩みを追体験できます。

名古屋城金鯱の実物大レプリカ

「第1章 博物館の誕生(1872-1885)」では、初期の東博コレクションを中心に、東博誕生のきっかけとなった湯島聖堂博覧会で展示された作品なども紹介。博覧会の雰囲気を再現するため、当時最も人気を集めたという名古屋城の金鯱の実物大レプリカが置かれています。

一部の展示ケースも、100年以上前に実際に使用されていたものを修理して活用したとのことなので、ぜひ注目してみてください。レトロな雰囲気がたまりません。

湯島聖堂博覧会で評判になった品々を描いた《古今珎物集覧》/一曜斎国輝筆《古今珎物集覧》明治5年(1872)、展示期間:通期

明治期の日本の工芸技術の高さを世界に知らしめた《褐釉蟹貼付台付鉢》《鷲置物》には、令和に生きる筆者も目を見張りました。

重要文化財、初代宮川香山作《褐釉蟹貼付台付鉢》明治14年(1881)、展示期間:通期
重要文化財、鈴木長吉作《鷲置物》明治25年(1892)、展示期間:通期

輸出陶磁器の先駆者だった初代宮川香山による《褐釉蟹貼付台付鉢》は、明治14年(1881)に上野公園で開催され、約4ヶ月で80万人以上を動員したという第二回内国勧業博覧会の出品作。今にも動き出さんばかりのリアリティがある蟹が器の縁に爪をひっかけているというダイナミックな構図の作品です。

一方の《鷲置物》は、明治時代を代表する蠟型鋳造の達人・鈴木長吉の代表作。明治26年(1893)に米国で開催されたシカゴ万国博覧会に出品された後に東博に収蔵されました。遠目には剥製と見紛うばかりに生き生きとしていて、今にも獲物を狙って飛びだしそうな躍動感がお見事。

《砲弾(四斤山砲)》東京都台東区上野公園採取、明治時代、19世紀 展示期間:通期

また、東博誕生の関連資料として《砲弾(四斤山砲)》の展示も。

明治元年(1868)に起こった上野戦争の際、寛永寺に立てこもった彰義隊ら旧幕府軍に対して明治新政府軍が撃ち込んだとされる砲弾の実物です。現在は東博の北側に隣接する寛永寺ですが、実は江戸時代には上野公園の土地は寛永寺の境内でした。

彰義隊をかくまったと見なされた寛永寺は、一度すべての境内地を没収されます。その後紆余曲折あり、土地の大部分が上野公園へと姿を変え、近代化をアピールするため博物館を立てたり、博覧会を開催したりするようになりました。上野戦争で焼け野原になり、街づくりをするのにちょうどいい土地だったからこそ、今日の上野公園、引いては東博があるのだと思うと……。悲しい出来事ではありますが、上野戦争も東博誕生のきっかけのひとつと言えるのかもしれません。

《鳳輦》江戸時代、19世紀、展示期間:通期

「第2章 皇室と博物館(1886-1946)」では、宮内省所管時代の東博にフィーチャー。皇室とのゆかりを示す作品も紹介しています。

皇室関係では、巨大な《鳳輦》(ほうれん)と呼ばれる乗り物がひときわ高貴なオーラを出していました。鳳輦は天皇が行幸の際に使用されるもので、こちらの鳳輦は実際に孝明天皇や明治天皇がお乗りになったとか。

黒田精輝筆《瓶花》大正元年(1912年)、展示期間:通期

明治23年(1890)に、優れた美術家の保護奨励制度として皇室により創設された「帝室技能員制度」というものがあり、帝室技能員たちの優品は宮内省所管時代の東博に多く収蔵されたといいます。

《瓶花》は、洋画家とした初めて帝室技能員に任命された明治洋画壇の重鎮・黒田清輝の作品です。画面右下には「黒田清輝謹写」と署名があり、これは黒田の作品には珍しいことなのだとか。帝室への献品という特別な来歴をうかがわせるものです。

《キリン剥製標本》明治14年(1908)、国立科学博物館蔵、展示期間:通期

また、総合博物館を目指していたころの東博の名残を感じるキリンの剥製標本も登場!

動植物や鉱物の標本などの天産(自然史)資料は関東大震災後、東京博物館(現在の国立科学博物館)に譲渡されましたが、こちらの剥製は本展のために、約100年ぶりに里帰りする形になりました。

彼は明治40年(1907)にドイツから生きたまま日本へやってきた初めてのキリン2頭のうちの1頭で、名前は「ファンジ」。当時東博の一部だった上野動物園で飼育され、多くの人々から人気を集めたそうです。

重要文化財、尾形光琳筆《風神雷神図屛風》江戸時代、18世紀、展示期間:10/18~11/13

「第3章 新たな博物館へ(1947-2022)」では、終戦後、国民のための開かれた博物館としての東博が、時代の変化や社会の変化に応じて今日まで取り組んできた活動とこれからの展望を、代表的な戦後コレクションとともに紹介しています。

重要文化財である尾形光琳の《風神雷神図屏風》や「土偶といえばこれ」な方も多いだろう《遮光器土偶》など、国宝エリアに負けず劣らず、こちらにも有名作品が多数展示されていました。

重要文化財、《遮光器土偶》縄文時代、前1000~前400年、展示期間:通期
重要文化財、《伝源頼朝坐像》鎌倉時代、13~14世紀、展示期間:通期
重要文化財、《縫箔 紅白段草花短冊八橋模様》安土桃山時代、16世紀、展示期間:通期

令和の最新コレクションとして、今年2月に東京国立博物館の所蔵品となった《金剛力士立像》の姿も。

《金剛力士立像》平安時代、12世紀、展示期間:通期

この2体はかつて滋賀県・蓮台寺の仁王門に安置されていましたが、昭和9年(1934)の室戸台風で大破してしまったのだとか。長らく壊れたままでしたが、約2年間かけて修理されかつての姿を取り戻し、本展で初お披露目となりました。

数少ない平安時代末期の金剛力士立像で、大きさは2m80cmほどあり、東博の所蔵する仏像の中でも最大のもの。たくましい肉体や怒りの表情を360度からじっくり観賞できます。

また、本作は文化財の収集・保管と保存・修復といった東博の基本的な活動を紹介するものでもあり、会場では修理の様子が映像で紹介されていました。

菱川師宣筆《見返り美人図》江戸時代、17世紀、展示期間:10/18~11/13(11/15~12/11には複製画を展示)

出口では菱川師宣の《見返り美人図》が来場者を見送ってくれます。それとも、名残惜しさに思わず会場を振り返る来場者の気持ちを表しているのでしょうか。

ちなみに、《金剛力士立像》と後述の《見返り美人図》のみ写真撮影OKとなっていました。


 

「ツタンカーメン展」(1965年)、「モナ・リザ展」(1974年)など、東博では150年の歴史の中で人々に語り継がれる展覧会がいくつか開催されてきましたが、本展「国宝 東京国立博物館のすべて」も、きっとその中の一つとなることでしょう。

東京国立博物館創立150年記念 特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」開催概要

※本展は事前予約制(日時指定)です。詳しくは展覧会公式サイトでご確認ください。
※会期中、一部作品の展示替えが行われます。

会期 2022年10月18日(火)~12月11日(日)
会場 東京国立博物館 平成館
開館時間 午前9時30分~午後5時
※金曜・土曜日は午後8時まで開館(総合文化展は午後5時閉館)
休館日 月曜日
観覧料(税込) 一般 2,000円、大学生 1,200円、高校生 900円

※本展は事前予約制(日時指定)です。
※中学生以下は無料。ただし事前予約が必要です。入館の際に学生証をご提示ください。
※障がい者とその介護者1名は無料。事前予約は不要です。入館の際に障がい者手帳等をご提示ください。入館は閉館の30分前までとなります。
※東京国立博物館正門チケット売り場での販売はございません。

主催 東京国立博物館、毎日新聞社、NHK、NHKプロモーション、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁
お問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト https://tohaku150th.jp/

※記事の内容は取材時点のものです。最新の情報は公式サイト等でご確認ください。

 

記事提供:ココシル上野


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今ふたたびめぐり合う、源氏物語の世界。【東京都美術館】上野アーティストプロジェクト2022 「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」(~1/6)内覧会レポート

東京都美術館
上野アーティストプロジェクト2022「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」会場風景より

1000年の歳月を超えて読み継がれる平安文学の最高傑作『源氏物語』。

多彩なジャンルの表現者が参加する「上野アーティストプロジェクト」の第六弾として「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」が開催されました。

今回は、開催に先立って行われた報道内覧会の模様をレポートします。

 

守屋多々志 《夕霧「落葉」》1991年 個人蔵

「上野アーティストプロジェクト」は「公募展のふるさと」とも称される東京都美術館の歴史の継承と未来への発展を図るために、2017年より発足されたシリーズです。その第六弾となる本企画は「源氏物語」がテーマ。

源氏物語といえば、平安時代に紫式部によって執筆され、約1000年の間変わらずに読み継がれてきた文学大作です。主人公の光源氏を中心に紡がれる人間模様はもちろん、四季折々の美しい情景が描写され、時代や文化を超えて人びとを魅了してきました。

東京都美術館では、11月19日より絵画・書・染色・ガラス工芸という多彩なジャンルの作家が源氏物語を表現した「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」を開催。源氏物語に刺激を受けた現代作家たちの作品を通じて、物語が紡いできた美意識や魅力を探ろうという試みです。

七人の作家たちが表現する「源氏物語」の世界

鷹野理芳《生々流転Ⅱ~響~54帖・贈答歌「桐壺の巻から夢浮橋の巻」まで》2022年 作家蔵
石踊達哉氏が「花鳥風月」をテーマに手がけた作品群
カラーボールペンによって制作された渡邊裕公氏の人物画。独特の透明感と柔らかさが印象的
ガラス工芸作家である玉田恭子氏の作品。ガラス内部には源氏物語の和歌などが封じ込められ、幻想的な空間を作り出している

「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」の会場はギャラリーA・C。
展示作品のジャンルはガラス工芸、染色、書、絵画と幅広いが、「和歌をよむ」「王朝のみやび」「歴史へのまなざし」といったセクションによって区分けされ、あらためてこれが源氏物語という壮大な「縦糸」によって紡がれた作品であることに気付かされます。
しかし、個々の作家が完全に源氏物語に寄り添っているかといえば、必ずしもそうではありません。むしろ源氏物語というモチーフを題材に、自由に想像の羽根を広げているような印象さえ覚えました。

本展の出品作家は、青木寿恵、石踊達哉、高木厚人、鷹野理芳、玉田恭子、守屋多々志、渡邊裕公(50音順)。
タイトルの「めぐり逢ひける えには深しな」という言葉に示されているように、本展のテーマのひとつは「縁(えに)」です。それは鑑賞者と作品の出会いでもあり、また作家と空間、そして作家同士の出会いでもあるのでしょう。

出展作家紹介

鷹野理芳
Riho Takano

鷹野理芳 《光源氏誕生「桐壺の巻」より》(部分) 2022年  作家蔵

6歳で飯島春敬主宰の春敬書道院に入門。その後、飯島敬芳に師事し、かな書道を学びます。
源氏物語に時を超えても変わらない人の心を見出し、物語の和歌を書き続けているほか、色彩豊かな料紙とともに物語に登場する姫君のイメージを組み合わせるなど、装飾的な作品にも取り組んでいます。

 

高木厚人
Atsuhito Takagi

高木厚人 《光源氏と藤壺中宮との贈答歌》 (部分) 2022年 作家蔵

千葉県生まれ。京都大学在学中から杉岡華邨に師事し、源氏物語に描かれた美意識こそがかな書道の基本であることを学びます。
現代語訳本や大和和紀の漫画「あさきゆめみし」を通して源氏物語に魅せられ、光源氏とさまざまな女性の間で交わされる贈答歌を手がけています。

 

玉田恭子
Kyoko Tamada

玉田恭子《ふみのくら 八雲  ” Yugiri ” 》 2021年 作家蔵

武蔵野美術大学工芸工業デザイン科卒業。Pilchuk Glass School(米国)他、各地のガラスの教育機関や工房を訪ねて研修、ガラスアートを学びます。
宙吹きによって制作された色ガラスや墨流し模様などを電気炉で板状にし、それを何層にも重ねて形作る独自の技法を使用。ガラス内部に源氏物語の和歌などを封じ込めた幻想的な作風で、平安時代の美的理念をあらわす「もののあわれ」を具現化しています。

 

青木寿恵
Sue Aoki

青木寿恵《源氏物語》 1976年頃 寿恵更紗ミュージアム蔵

1926年(大正15)大阪府枚方市生まれ。ローケツ染めを生業とする傍ら、1965年より手描き更紗の研究をはじめ、東京銀座和光ホールをはじめ全国で個展開催。
自然の生命力から得た感動に基づき自由な感性で作品を制作しており、更紗に代表されるエキゾチックな文様だけでなく、源氏物語を題材にした独創的な王朝の世界も描いています。

 

石踊達哉
Tatsuya Ishiodori

石踊達哉《「橋姫」の帖より 有明月》1997年 講談社蔵

日本画家。金箔やプラチナ箔をベースにした緻密で装飾的な絵肌を特徴としており、日本画の技法を自在に操りながらも、それを超越した美を追求しています。
1996~97年には瀬戸内寂聴が現代語訳した「源氏物語」(講談社)全54帖の装幀画を手がけ、日本画の装飾性を活かした色彩と大胆な画面構成が大きな評判を呼びました。

 

守屋多々志
Tadashi Moriya

左より守屋多々志《空蝉「軒端の萩」》 1991年、《紅葉賀「青海波」》 1991年、ともに個人蔵

日本画家。岐阜県大垣市生まれ。昭和5年同郷の前田青邨に師事し、日本美術院で歴史画や風俗画を数多く制作。
高松塚古墳壁画などの模写にも多く従事したほか、挿絵や舞台美術の仕事を通じて源氏物語に関心を抱き、その思いから1991年に約3年余りの歳月をかけて源氏物語の扇面画を完成させました。

 

渡邊裕公
Hiroaki Watanabe

渡邊裕公《平成回想~繁栄と受難~》 2019年 作家蔵

愛媛県出身。大きさが異なるボールペンを使い分け、ハッチング(線の重ね描き)した後に徐々に点描で密度を深め、色鮮やかな世界を表現。

筆からカラーボールペンという現代の書記具に置き換えつつ、当時の文化や人の営み、原画を描いた絵師の視覚を制作を通して追体験するとともに、歴史の一場面を現代に再現しようと試みています。

同時開催の「源氏物語と江戸文化」にも注目!

コレクション展「源氏物語と江戸文化」会場入口

また、「美をつむぐ源氏物語」と同時開催されるのが、ギャラリーBを会場とした「源氏物語と江戸文化」です。こちらは一室のみの展示で、入場料は無料。江戸文化の中で勃興した源氏物語の人気やその展開について、貴重な資料とともに紹介しています。

柳亭種彦/著、歌川国貞(初代)/画《偐紫田舎源氏》文政12年~天保13年(1829~1842) 通期展示 東京都江戸東京博物館蔵
歌川豊国(三代)・歌川広重(初代)/画、伊勢屋兼吉/版 《風流源氏雪の眺》 嘉永6年(1853)12月  前期展示 東京都江戸東京博物館蔵
《長板中形型紙 源氏車》 大正~昭和時代 20世紀  通期展示 東京都江戸東京博物館蔵

源氏物語は、もともと公家や武家を中心とした限定的な階層の間で読まれていた文学でした。しかし17世紀後半、大量印刷技術の普及により大衆に親しまれるようになり、同時に源氏物語を翻案した「偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)」が人気を博し源氏物語の内容を絵画化した「源氏絵」によってその情景や人物たちは庶民の間に浸透していきました。
会場に展示された数々の源氏絵では「海老茶筅髷(えびちゃせんまげ)」というユニークな髪形をした光源氏(「偐紫田舎源氏」においては足利光氏の姿や、抒情に満ちた四季の風景を見ることができます。

また、源氏物語の影響は文学や絵画にとどまらず、源氏物語を意匠化したデザインは幅広い層で受け入れられていきます。例えば着物においても、源氏物語の一場面やモチーフを意匠化した「源氏文様」はとりわけ江戸時代の人々に好まれ、身近なファッションとしても楽しまれるようになりました。本展では重要無形文化財保持者の清水幸太郎氏と先代の吉五郎氏旧蔵の着物の染型に使用する型紙から源氏物語から生まれた文様の数々を紹介しています。

なお、「源氏物語と江戸文化」は前期と後期で一部展示品が異なります。

※「源氏物語と江戸文化」前期展示 2022/11/19-12/18      後期展示 2022/12/20-2023/1/6

 

報道機関向け内覧会の展示解説を担当した東京都美術館学芸員の杉山哲司氏は本展のテーマである「縁(えに)」について、
「源氏物語が単なる文学作品にとどまらないということを感じていただける展覧会。慌ただしい世の中だが、こういう時こそ一旦立ち止まって過去を振り返り、未来に生かしていく。そういう時間をこの会場で提供できればと思う」
と語り、鑑賞者が源氏物語との「えに(縁)」により、日々の生活に新たな視点を見出すことに期待を込めました。

「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」会場風景

両展の会期は2023年1月6日までと比較的短め。ぜひ、作家たちのイマジネーションによって新たな生命を吹き込まれた源氏物語の世界を体験してみてください。

開催概要

会期 2022年11月19日(土)~2023年1月6日(金)
会場 東京都美術館
ギャラリーA・C(上野アーティストプロジェクト2022「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」)
ギャラリーB(「源氏物語と江戸文化」)
開室時間 9:30-17:30、金曜日(1月6日を除く)は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
休室日 2022年11月21日(月)、12月5日(月)、19日(月)、29日(木)~2023年1月3日(火)
観覧料 一般 500円 / 65歳以上 300円
※「源氏物語と江戸文化」は無料
※学生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※学生の方、65歳以上の方、各種お手帳をお持ちの方は、証明できるものをご提示ください
※特別展「展覧会 岡本太郎」(会期:2022年10月18日(火)~12月28日(水))のチケット提示にて、入場無料
※事前予約なしでご覧いただけます。ただし、混雑時に入場制限を行う場合がございますのでご了承ください
主催 東京都(「源氏物語と江戸文化」のみ)、公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館
問い合わせ先 東京都美術館 交流係 TEL:03-3823-6921(代表)
展覧会HP https://www.tobikan.jp/exhibition/2022_uenoartistproject.html
(上野アーティストプロジェクト2022
「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」)
https://www.tobikan.jp/exhibition/2022_collection.html
(コレクション展「源氏物語と江戸文化」)

 

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