企画展「藝大アートプラザ・アートアワード受賞者招待展〜藝大の星〜」開催

2024年8月17日(土) ~ 10月20日(日) 上野・藝大アートプラザにて開催(入場無料)

小学館と東京藝術大学の協働事業である、東京藝術大学美術学部構内(台東区・上野)のギャラリー「藝大アートプラザ(https://artplaza.geidai.ac.jp/ )」にて、2024年8月17日(土)より企画展「藝大アートプラザ・アートアワード受賞者招待展〜藝大の星〜」を開催。本展では約30名の藝大関連アーティストによる作品を展示販売します。入場は無料、原則撮影OK。お子様連れも歓迎です。

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企画展開催告知ページ
https://artplaza.geidai.ac.jp/column/24936/
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2024年8月17日(土)開催 企画展「藝大アートプラザ・アートアワード受賞者招待展」

藝大アートプラザ大賞は約20年続く、藝大の学生を対象とした年に1回のアートコンペです。本年からは藝大アートプラザ・アートアワードと名称を変え、「小学館賞」「JR東日本賞」を新設するとともに、デジタルアート部門を創設するなど新たな展開を迎えました。

これまでの美術部門受賞者の新作が一堂に会する「アートアワード受賞者招待展」を今年も開催いたします。これからの活躍が楽しみな現役の藝大生のものから、アーティストとして注目を浴びる卒業生の作品まで、幅広い年代・ジャンルがそろいます。それぞれのアーティストの「現在(いま)」を感じられる展覧会をぜひお楽しみください。

■ 企画展概要
企画展名:「藝大アートプラザ・アートアワード受賞者招待展〜藝大の星〜」
会場:藝大アートプラザ(東京都台東区上野公園12-8 東京藝術大学美術学部構内)
会期:2024年8月17日(土)〜10月20日(日)
前期:2024年8月17日(土)〜9月15日(日)
後期:2024年9月21日(土)〜10月20日(日)
※9月16日(月)〜9月20日(金)は展示替えのため休業
入場料:無料
営業時間:10:00-18:00
定休日:月曜

※営業日時が変更になる場合がございます。最新情報は公式Webサイト・SNSをご確認ください

■ 出展予定作家一覧

前期
石田 菜々子/大野 直志/河崎 海斗/小林 真理子/鹿間 麻衣/鈴木 初音/先﨑 了輔/東條 明子/中村 弘峰/前田 恭兵/間瀨 春日/本村 綾

後期
大島 利佳/小倉 慎太郎/加藤 萌/齋藤 愛未/杉本 ひなた/地村 洋平/野村 絵梨/堀口 晴名/水代 達史/満田 晴穂/安河内 裕也/RO KIKO

 


藝大アートプラザとは

トップアーティストを数多く輩出する、東京藝術大学(以下、藝大)の教職員、学生、卒業生の作品を展示販売するギャラリー「藝大アートプラザ」。藝大上野キャンパス構内において、一般の方々が、年間を通して自由に入場・見学することができる、貴重な場所のひとつです。小学館と藝大の協働事業として、2018年から運営をスタートしました。

現在は、1,2カ月ごとに異なるテーマの展示を開催。企画展には毎回10〜50名のアーティストが参加し、油画、日本画、彫刻、工芸、デザイン等、藝大ならではの多様な技法とアプローチで表現された作品が、一堂に会します。

▼2024年6-7月開催の企画展「The Art of Tea」展示風景
https://artplaza.geidai.ac.jp/column/24666/

店舗内には、器やアクセサリーなど生活に寄り添うアートを中心とした常設作品コーナー「LIFE WITH ART」、企画展と連動した書棚も設置。店舗の営業時間中は、屋外のキッチンカー「NoM cafe」のカフェドリンクで、一息つくこともできます。

藝大アートプラザは、入場無料。写真撮影やSNSでのシェアも原則大歓迎です。アートファンのみならず、どなたさまでも、気軽にアートに触れられる場所を目指しています。

常設コーナー「LIFE WITH ART」展示風景

 

藝大アートプラザ基本情報

■ アクセス
最寄駅:JR上野駅(公園口)、鶯谷駅 下車徒歩約10分
東京メトロ千代田線・根津駅 下車徒歩約10分
東京メトロ日比谷線・上野駅 下車徒歩約15分
京成電鉄 京成上野駅 下車徒歩約15分
都営バス上26系統(亀戸〜上野公園)谷中バス停 下車徒歩約3分
※駐車場はございませんので、お車でのご来場はご遠慮ください

■ 公式SNSアカウント
Instagram:https://www.instagram.com/geidai_art_plaza
X:https://twitter.com/artplaza_geidai
Podcast(Spotify):https://open.spotify.com/show/2FlkumYv9ScWy69UlBtqWy
Threads:https://www.threads.net/@geidai_art_plaza

■ 2024年の展示
2024年1-3月「藝大アートプラザ・アートアワード受賞者展」
https://artplaza.geidai.ac.jp/column/22308/
2024年3-5月「藝大動物園 Welcome to the art zoo!」
https://artplaza.geidai.ac.jp/column/22560/
2024年6-7月「The Art of Tea」
https://artplaza.geidai.ac.jp/column/23855/

■ お問合せ
 よくあるご質問はこちら
https://artplaza.geidai.ac.jp/qa/

 

【株式会社小学館】プレスリリースより

記事提供:ココシル上野


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東京都美術館「大地に耳をすます 気配と手ざわり」開幕レポート

東京都美術館
東京都美術館「大地に耳をすます 気配と手ざわり」報道内覧会

東京都美術館より、2024年7月20日(土)に開幕した企画展「大地に耳をすます 気配と手ざわり」のレポートが届きましたのでご紹介します。


東京都美術館の企画展、「大地に耳をすます 気配と手ざわり」が7月20日(土)に開幕した。自然と深く関わり、制作をつづける5人の現代作家が、人間中心の生活のなかでは聞こえにくくなっている大地の息づかいを伝えてくれる展覧会だ。7月19日(金)にはプレス内覧会が行われ、報道陣に公開された。本展を担当した大橋菜都子学芸員と参加作家による展示解説をレポートする。

■大地に耳をすます気配と手ざわり
■2024年7月20日(土)~10月9日(水)

「大地に耳をすます 気配と手ざわり」会場
本展を担当した大橋菜都子学芸員

本展を担当した大橋菜都子学芸員は、企画の背景として、「東日本大震災や新型コロナの感染症拡大など、大都市で暮らす便利さとともにその脆弱性を感じることがここ十数年の間に多くあった」という。「都市のもろさを実感したことにくわえ、自然がやや遠く感じ、季節の移ろいだけでなく、自然のあり様や変化を感じ取る力が少しずつ弱まっていっている感覚に気づいたことが大きなきっかけとなり、そのような個人的な思いから、調査を進め」、大都会から離れて自然の中で感覚を研ぎ澄ませ作品を制作している作家らが参加する展覧会となった。

参加作家は、自然と深く関わり制作をづつける川村喜一、ふるさかはるか、ミロコマチコ、倉科光子、榎本裕一の5人。

本展出品作家 川村喜一
展示会場(ギャラリーC)

入り口のエスカレーターを降りてすぐの展示会場(ギャラリーC)に入ると、天井が高く、開放感のある空間に川村喜一の写真作品が並ぶインスタレーションがある。東京で生まれ育った川村(1990年生まれ)は、2017年、北海道知床半島に移住して作家活動を続けている。

「世界自然遺産としても知られる場所。ヒグマやシャチ、ときには鯨もやってくるという、自然が豊かであると同時にとても厳しい環境で生活しています。いわゆるネイチャーフォトというようなかぎかっこのついた『自然』というよりは、そこに生きている生活者として、肌感覚で風土というものを感じながら表現をしていきたいという思いをもって制作しています」と語る。移り住んで、2年目の秋に狩猟の免許をとり、山に入って狩猟も行う。自然のこと、動物のことをより深く知りたいという思いから始めたものの、最初は自分が森に受け入れられていないような感覚があったり、動物に出会うことも難しかったそう。地形やその土地に暮らす生物の生態をわかっていなければ、その場を歩くことも獲物にたどり着くこともできない。

「都会の暮らしでは感じられない、わからないことに問題意識があって知床で暮らしていますけれど、狩猟をとおして生態系を外側からみるというより、その中に入って、いきものの一員として、精神性、行為としてのプロセスと写真の表現を結び付けられたらいいなと思って制作をしています」(川村)

布地に印刷された写真には、家族の一員であるアイヌ犬のウパシとの暮らし、知床の風景など川村の日常がとらえられている。北海道産の木製のフレームに額装されたそれら写真は、アウトドアキャンプ用のロープで吊り下げられ展示空間を構成している。環境に配慮し、美術館の建築に敬意を払い、作品展示のために新たに壁を立てることはしていなかった。作品同士が空間に心地よく配置されている様子は鑑賞者の目にも新鮮だろう。この木製の額縁は折り畳み可能。すべて作家自身が車に詰め込んで会場まで運び、展示されている。展覧会終了後は、また折り畳み、知床まで戻るそうだ。これも生活と制作、展示の連続性を大事にする川村のいう行為としてのプロセスなのだろう。

本展出品作家 ふるさかはるか
展示会場(ギャラリーC)

木版画家のふるさかはるかは、大阪府生まれ。フィンランド、ノルウェーなど北欧での滞在制作を経て、2017年からは青森で自然とともに生きる人々に取材を重ねながら制作している。本展では3つのテーマで作品を展示している。北欧の遊牧民サーミの手仕事にひかれて作られた版画のシリーズ〈トナカイ山のドゥオッジ〉、青森、南津軽の山間地域に取材を重ねて作られた〈ソマの舟〉、〈ことづての声〉だ。

ふるさかは、木版画の木を自身が自然とかかわる手段ととらえている。そう考えるようになったのは、2003年、初めてサーミの村で滞在制作をしたことが大きく影響しているという。それ以降、彼らとメール等でコミュニケーションをとりながら、厳しい自然とともにある暮らしがどういうものかを徐々に知ることになった。

《トナカイの毛皮》は、マイナス40℃にもなる地域で古くからトナカイの毛皮を身にまとうことで生き延びてきたサーミの人たちに想を得て描いたもの。彼らはトナカイを捕えると、毛皮のほか、骨も腱も、そのすべてを自分たちが生きることに使う。ふるさかにとって木版画は、サーミにとってのトナカイのようだ。木版画をつくることで、彼らとトナカイのような生き方をしたいと思うようになり、無垢の木の姿や木目を生かし、拾ってきた土を絵具にして制作するようになった。そこから始まったのが〈トナカイ山のドゥオッジ〉シリーズだ。

《織り》は、森の中の木に縦糸をくくりつけ、張りを調整しながら、自然の中で手仕事をしてしまう身軽さ、またその中にいることの心地よさも感じている人たち。「自然の中でどうふるまうか、彼らの言葉を記録して作品を制作してきました」と話す。

2017年からは日本に目を向け、厳しい冬とともに生きてきた人たちに取材しようと、青森に足を運ぶようになった。本展では、会場の天井高に合わせた大型の木版画を制作した。漆林で版木となる木材の伐採から立ち合い、青森の漆の樹液と自ら育てた藍で刷った新作である。会場には、木版画だけでなくこの版木も展示されており、青森の木立のような展示空間がつくられている。また、絵具としてふるさかが用いる、漆の樹液、藍、土など自然の素材も展示されている。《線を作る器》では、青森のヒバに、青森で採集された泥が薄く入っている。乾くと、少しずつヒビが入ることで線が作られるインスタレーションで、会期が進むにつれ変化する様子も観察できるだろう。

また、ふるさかの自然と呼応しながら制作する様子を記録した映像を上映している。夏の藍の刈り取り、冬の木材の伐採、土の採集、彫りと刷りの場面まで、木版画ができるまでに、ふるさかがいかに自然と関わっているのかということとともに、その素材を育てることから始める制作に途方もない手間と時間がかかっていることを知ることができる。この映像の撮影は、本展の参加作家である川村喜一が行っている。

本展出品作家 ミロコマチコ
展示会場(ギャラリーA)

ひとつ下の階(ギャラリーA)の吹き抜け展示室にはミロコマチコの勢いのある作品世界が広がる。大阪府生まれのミロコマチコは、11年にわたる東京での活動を経て、2019年奄美大島に移住した。展示空間の中央には《島》がつくられ、その周りには奄美大島で制作された作品が多く展示されている。

奄美大島の人たちは自然に合わせて暮らしているため、自然を感じ取る力が強いと話すミロコマチコ。

「自然を感じ取る力が、私には全然ないのだと気づきました。それを身に着けていく上で、とても大切なのではないかと思って、日々、どういった動きがあるのか、変化があるのかをながめているのですけれど、島の自然はとってもざわめきが激しくて。その動きはいきもののようで、それを目に見えないいきものとしてとらえて、制作しています」(ミロコ)。

《島》をかたちづくる壁の内側の絵は、この場で4日間かけて描かれた。外側は2023年に刊行された絵本『みえないりゅう』の原画が取り囲む。

「ぜひ、この『みえないりゅう』の物語を感じてから、中にはいってほしいです。すべてのことは影響しあっていて、風が吹けば波がたって、小さな波が、しぶきとなって打ち寄せるように、そのつながりみたいなものを意識しながら、初めからこうしようというのがあったわけではなく、即興的に制作していきました。わたしが島で見ている世界をここに表現したので、たくさんの自然がざわめいている気配を感じてくれたらうれしいなと思っています」(ミロコ)

《島》の床は泥染めがなされている。奄美大島に移住して約5年、大地のエネルギーをもらえるような島の自然の素材は、ミロコが表現したいことに合うことがわかってきたそうだ。
奄美大島の森で《光のざわめき》を描いたライブペインティングの映像《うみまとう》も会場の一角に設けられた小屋の中で見ることができる。

「屋外で描いていたら、風の動きや光の移り変わり、たくさんのエネルギーなどを受け取って瞬発的に出していきます。そして、それらで形作られていくものがいきもののように、見えてくる。それがいきものとして形作られていくっていうことなんですけれど、周りの環境から受け取るものを自分のからだに刻むように描く、それがわたしにとってだいじなんだなあと感じています」(ミロコ)。

奄美大島の人たちにとって、山や森は神様がいる神聖な場所。むやみに入るのではなく、「入り口におじゃまさせていただきました。森は根っこや石がゴロゴロしていて、身動きが取りづらく、描きたいものが溢れてくるけど、描けない葛藤のような絵が現れたんじゃないかなと。制作時に着ていた服は解体して、カンヴァスにしたり、ほかの作品に使ったりしてつながっています」(ミロコ)

映像の小屋の外側の壁面も奄美に多く自生するヒカゲヘゴという植物の染料が塗られている。

本展出品作家 倉科光子
展示会場 (ギャラリーB)

ギャラリーBで作品を展示している倉科光子は、青森県生まれで現在は東京都在住。2001年から植物画を始めた。

東日本大震災(2011年)の津波により変化があった植物の生育環境を観察し、2013年から定期的に現地に足を運び、植生を水彩画で描き続けている。本展では、被災地に行けなかった時期に描いた関東圏の植物画2点と、岩手県、福島県、宮城県で取材して描いた15点が展示されている。

作品のタイトルとなっている数字は、いずれも描いた植物があった緯度と経度。「その場所が実際にあるということを示唆すると同時に、その時だけ見えた光景を描き出したい」(倉科)という思いによるもので、とても重要なことなのだという。「tsunami plants(ツナミプランツ)」と名付けたそれら植物のひとつひとつを丁寧に観察し詳細に描くことで、「その植物の種子は津波によって運ばれたのか、土の攪拌により芽吹いたのか、あるいは復興工事のなかで重機によって運ばれたのか、その場所に起きたこと、植物がそこに根付いた理由を探る」と倉科。

制作中の作品も展示されている。本展での展示にあたり、倉科が制作に力をいれた白藤だ。一般的に知られている藤は、ツルが上に向かって伸び、藤棚に絡みつき、花は垂れ下がる。ところがこれはツルが地面を這い、葉をつけ白い花を咲かせている。2016年にこの地を這う白藤の写真を見る機会を得た倉科は、どうしてもこれを描きたいと思い、現地を取材し、昨年から描き始めた。地面で白い花を咲かせることはまれだという。咲かせたいというよほどのエネルギーがあるのだろうと倉科。作品の途中経過を見ることができるのも貴重な機会である。

榎本裕一 展示会場 (ギャラリーB)
榎本裕一 展示会場 (ギャラリーB)

榎本裕一(1974年生まれ)は東京で生まれ育ち、2018年から北海道根室、今年から新潟県糸魚川にもアトリエを構え、3拠点で制作を行っている。
本展では根室の風景をモチーフにした油彩とアルミニウムパネルを氷に見立てた新作の《結氷》を展示している。

《沼と木立》は、遠くからみると、白黒の抽象画のようだが、近くで目を凝らしてみると、黒い画面の中に木立が見えてくる。

「誰もいない、誰も来ない深い森の中で突然現れた風景に驚き、喜びと、恐怖も感じたことを覚えています」という榎本の言葉を大橋学芸員が伝え、積もった白い雪––榎本が出会った自然をみずみずしい感性でとらえた作品であると紹介した。白黒にシンプルに削られた作品だからこと、見る人が自分の記憶と結び付け自由に想像を広げる余白をもっている。

一方、アルミニウムパネルに表現している10点の新作、《結氷》には、海からの強い風によって雪が生み出す表情がとらえられている。

「氷の上を歩くような経験は(一般的には)ないにしても、この作品がたくさん並ぶことで、氷に囲まれるような空間になっている」と大橋学芸員。10点が並ぶことで、冬の根室でこうした自然の織りなす美しい造形が無数に生み出されていることを想像させてくれる。ちなみに、最後に展示されている小さな作品には、雪上に動物の足跡が見える。一見すると、静かでモノクロームの世界だが、榎本が根室で感じたいきものの気配や生命の煌めきが表されている。

 

会場の最後には、春を表す作品が展示されている。北海道に分布する多年草で、4月から5月に花をつけるエゾエンゴサクをモチーフにした器型の作品だ。展示の最後にと榎本が制作した新作である。

その隣では榎本が作品制作の資料として撮影した写真のスライドショーが流れ、根室の春から四季の移ろいを見ることができる。榎本が、東京とまったく異なる景色を見せる根室に魅了された瑞々しい感覚を存分に伝えるだけでなく、氷った湖上の風景やエゾエンゴサクの花など、展示されている作品と関連が強い写真も含まれているのも興味深い。

5人の現代作家による写真、木版画、油彩画、水彩画、インスタレーションなど、多様な作品が展示される空間を行ったり来たりしながら、日ごろ忘れがちな本来人間が持っている自然とかかわる感覚を呼び起こすきっかけになるだろう。

なお、本展の図録には奄美大島で染められた泥染めの布がついている。
参加作家のひとり、ミロコマチコが作品制作に使っている泥染めと同じ工房によるものだ。

東京都美術館「大地に耳をすます 気配と手ざわり」報道内覧会

撮影・鈴木渉


展覧会開催概要
●展覧会名 大地に耳をすます 気配と手ざわり
The Whispering Land: Artists in Correspondence with Nature
●会期 2024年7月20日(土)~10月9日(水)
●会場 東京都美術館 ギャラリーA・B・C
●休室日 月曜日、9月17日(火)、9月24日(火)※8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・休)は開室
●開室時間 9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00 *入室は閉室の30分前まで
●観覧料 一般 1,100円、大学生・専門学校生 700円、 65歳以上 800円、高校生以下無料
※[サマーナイトミュージアム割引]など割引に関するの詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。
●主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館
●特別協力 株式会社ツガワ
●協力 合同会社 北暦、株式会社ミシマ社、Gallery Camellia、青森公立大学 国際芸術センター青森
●問合せ先 東京都美術館 03-3823-6921
イベントなどの最新情報は展覧会公式サイトをご覧ください
https://www.tobikan.jp/daichinimimi

 

記事提供:ココシル上野


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新進気鋭作家によるアート作品 2024年8月特別展示アーティスト関根 洋子氏の作品5点を期間限定で展示

「ランデヴー・Ⅰ」「ランデヴー・Ⅱ」(2022年)

ツーリストホテル『ホテルリソル上野』リビングロビー内アートギャラリー「Resol Gallery Ueno」(会期:2024年8月1日(木)~8月31日(土) 入場無料)

リソル株式会社が運営する「リソルホテルズ」ブランドのツーリストホテル『ホテルリソル上野』では、リビングロビー内アートギャラリー「Resol Gallery Ueno」にて、アーティスト 関根 洋子氏による作品5点の特設展示を2024年8月1日(木)~8月31日(土)の期間実施します。

『ホテルリソル上野』では、アートと下町が調和する「上野」という地域に根ざしたホテルづくりの一環として、リビングロビー内アートギャラリー「Resol Gallery Ueno」を、未来の文化を発信する新進気鋭のアーティストと、旅するお客さまとの出会いを創出する場として活用する取り組みを、本年2月よりスタートいたしました。以来、新進気鋭のアーティストの方々の感性・作品に触れる場として、宿泊者のみならず一般の方にもお楽しみいただいています。

第四弾のアーティストとなる関根洋子(せきね ひろこ)氏は、東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了後、1988年東京都美術館の国展出品や、2007年国画会 準会員推挙、2012年国画会 会員推挙などの経験を重ね、現在は銀座ギャラリーあづまなどを中心に個展を開催されています。また、昨年2023年は夫・小川浩司氏と「FU-FU展」を開催しており、現在は横浜清風高等学校にて講師として精力的に活躍されております。

今回展示する作品は、2枚で1枚の絵になる「ランデヴー・Ⅰ」「ランデヴー・Ⅱ」(2022)や、「夏・花束」(2023)、「花・椿」(2023)、「朱・紫陽花」(2023)など、色鮮やかなお花が印象的な作品となっております。

「リソルホテルズ」では、今後もすべての旅人(ツーリスト)たちのニーズに徹底的に応えるホテル運営を通じて、かけがえのない旅の「物語」を紡いでまいります。

 

開催概要|
会 期:2024年8月1日(木)~8月31日(土)
アーティスト:関根洋子氏
入場料:無料  ※宿泊者以外の方も気軽に立ち寄っていただけます。
開館時間:【ご宿泊者様】24時間見学いただけます。 / 【ご宿泊者以外の方】:10時~20時

 

展示作品:

「ランデヴー・Ⅰ」(左)
「ランデヴー・Ⅱ」(右)
(2022 油彩・パネル綿布 変形1260×297)
連作。顔を合わせても何処となく目線が合わないの
でもね、気持ちはわかっているの

「夏・花束」
(2023 油彩・パネル綿布F4)
夏の花束を持つ少女

「花・椿」
(2023 油彩・パネル綿布 F3)
和のモチーフの中に白椿を生ける

朱・紫陽花」
(2023 油彩・パネル綿布 F3)
朱の背景に対照的な青の紫陽花

プロフィール:関根洋子(せきね ひろこ)- Hiroko Sekine  –
1986  東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
1988  東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了
1988  国展出品(東京都美術館 東京上野)
2007  国画会 準会員推挙
2012  国画会 会員推挙

個展
1988  個展(ギャラリー檜 東京銀座)
1990  個展(銀座スルガ台画廊 東京銀座)
1992  個展(銀座スルガ台画廊 東京銀座)
2010  個展(ACギャラリー)
2018  個展(銀座ギャラリーあづま 東京銀座)
2021  個展(銀座ギャラリーあづま 東京銀座)

グループ展
2011  美珠彩の会(一畑百貨店 松江)
    国画女流展(銀座スルガ台画廊 東京銀座)  以後2023まで出品
2013  国画会新会員展(銀座井上画廊 東京銀座)
2019  小川浩司 関根洋子 二人展(ギャラリーピクトル 神奈川鎌倉)
2020  HOPE展 (ギャラリーピクトル 神奈川鎌倉)
2021    アミューザン展  以後2025まで出品予定 (銀座ギャラリー向日葵 東京銀座)
2023    FUーFU展 小川浩司×関根洋子 (銀座ギャラリーあづま 東京銀座)
現在  国画会会員    横浜清風高等学校 講師

 

「Resol Gallery Ueno」について|
『ホテルリソル上野』のリビングロビー内にあるアートギャラリー「Resol Gallery Ueno」では、新進気鋭のアーティストたちが、その想いや技術を具現化したアートの数々を展示しています。
アカデミズムの街上野ならではの芸術体験は、単なるホテルステイとはひと味違ったスパイスを、旅人たちに提供します。
ギャラリーでは特設展示と常設展示を隔月で交互に実施。訪れるたびに新たな発見と成長の機会を与えてくれます。

【特設展示について】
「Resol Gallery Ueno」では、新進気鋭のアーティストの作品発表の場として、無償でギャラリーを提供しています。
「旅、旅人、または旅先をイメージさせる作品」「下町文化、風土、歴史をイメージさせる作品」「アカデミズムを感じさせる作品」「観る者の心を癒し、新たな発見やインスピレーションを与える作品」など、様々な作品とお客さまとの出会いを創出していきます。

<出展希望者からの問い合わせ先>
Tel:  03-5325-9269(担当:伊藤)
Mail: ka.ito@resol.jp

 

【常設展示について】

(画像左から)
太陽と月(2020 清水慶太 木製パネルにアクリル絵の具 2枚1組)
パンダ(2020 石川マサル・清水慶太 樹脂製フィギュアにアクリル絵の具)
EDO, rotated 90°(2020 清水慶太 キャンバスにプリント)
うえの(2020 清水慶太 木製パネルにアクリル絵の具)

プロフィール:清水 慶太(しみず けいた)
デザイナー、デザインコンサルタント
1974年、東京都生まれ。
東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了後、ミラノを拠点にデザイナーとして活動を開始。
アメリカで過ごした幼少期、およびイタリアでのデザイナー生活によって培われたグローバルな価値観から作られる包含性のあるデザインは、国内外で高い評価をうける。昨今は、プロダクトのデザインのみでなく、ホテルのコンセプト開発や企業のコーポレートデザインも手掛けている。

『ホテルリソル上野』概要
◇所在地:  東京都台東区上野7丁目2-9
◇交通:      JR上野駅、浅草口・入谷口から徒歩1分
◇構造:     鉄骨造[地上10階]
◇客室数:   115室[モダレット(セミダブル)107 室 /ツイン8室]
◇公式サイト: https://www.resol-hotel.jp/ueno/

 

【リソル株式会社】プレスリリースより

記事提供:ココシル上野


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「大ゴッホ展」 開催決定!《夜のカフェテラス》など来日 東京で2026年から

上野の森美術館

画家、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853~90)の名品を集めた巡回展「大ゴッホ展」(産経新聞社など主催)が東京都台東区の上野の森美術館を東京会場として開催されることが決定しました。世界屈指のファン・ゴッホコレクションを誇るオランダのクレラー=ミュラー美術館所蔵の名品を2期に分けて公開します。
【公式ホームページ】https://grand-van-gogh.com/

 

本展は神戸を皮切りに福島、東京を2期に分けて巡回。神戸では阪神・淡路大震災から30年、福島では東日本大震災から15年の節目の年に取り組む事業として企画されました。

第1期の目玉は、約20年ぶりに日本で公開となる《夜のカフェテラス》。他にも《自画像》をはじめとする初期のオランダ時代から数多の傑作を生みだしたアルル時代までのファン・ゴッホ作品約60点や、同館が所蔵するクロード・モネ、オーギュスト・ルノワールら同時代の印象派巨匠の名作を展示します。
アルル時代から晩年までを紹介する第2期の注目作品はオランダの至宝と称される《アルルの跳ね橋》で、2027年に東京に巡回します。

《夜のカフェテラス》
南フランスの都市アルルにある広場のカフェテラスを描いた名品。夕闇とカフェの明かりの鮮やかなコントラストに、平坦(へいたん)な色塗りと勢いのある筆遣いが見事です。

《アルルの跳ね橋》
《夜のカフェテラス》とならんでファン・ゴッホ最高傑作のひとつ。オランダの国宝とされ国外に貸し出されることは極めてまれで、日本での公開は約70年ぶりです。空と水の青が印象的で、ファン・ゴッホの熟練した技術を示しています。

■クレラー=ミュラー美術館
オランダ・ヘルダーラント州のデ・ホーヘ・フェルウェ国立公園内にある美術館。約90点の油彩画と約180点の素描などからなる世界屈指のファン・ゴッホ作品を収蔵・展示しています。

■「大ゴッホ展」東京会場 開催概要
会場:上野の森美術館(東京都台東区上野公園1-2)
会期:第1期/2026年5月29日(金)~8月12日(水)
第2期/2027年10月~2028年1月頃(期間確定後に公表)
主催:産経新聞社、TBS、TBSグロウディア、博報堂DYメディアパートナーズ、上野の森美術館

■巡回情報
第1期
神戸会場:神戸市立博物館 2025年9月20日(土)~2026年2月1日(日)
福島会場:福島県立美術館 2026年2月21日(土)~5月10日(日)

第2期
神戸会場:神戸市立博物館 2027年2月~5月頃(開催確定後に公表)
福島会場:福島県立美術館 2027年6月19日(土)~9月26日(日)

 

【産経新聞社】プレスリリースより

記事提供:ココシル上野


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【国立科学博物館】企画展「高山植物~高嶺の花たちの多様性と生命のつながり~」開催のお知らせ

国立科学博物館

国立科学博物館は、2024(令和6)年7月30日(火)から11月4日(月・休)までの期間、下記のとおり、企画展「高山植物~高嶺の花たちの多様性と生命のつながり~」を開催いたします。
【詳細URL:https://www.kahaku.go.jp/event/2024/07alpineplants/

企画展「高山植物~高嶺の花たちの多様性と生命のつながり~」ポスター①
企画展「高山植物~高嶺の花たちの多様性と生命のつながり~」ポスター

夏山を彩る高山植物たちの多様な形態や生態、そのほかの生き物との繋がりなどを、科学的な知見とともに、数多くの標本資料などで紹介します。また、高山植物の危機的な現状や保全の取り組みなどについても解説します。迫力の映像や臨場感のある展示会場で、高山植物の多様性を知り、その魅力を体感してください。

・開催概要

企画展「高山植物~高嶺の花たちの多様性と生命のつながり~」

【開催場所】国立科学博物館(東京・上野公園)
日本館1階 企画展示室および中央ホール(~9月1日)

【開催期間】2024(令和6)年7月30日(火)~11月4日(月・休)

【開館時間】9時~17時
※8月10日(土)~8月15日(木)は18時まで ※入館は各閉館時刻の30分前まで

【休館日】月曜日(月曜日が祝日の場合は火曜日)
※ただし8月5日(月)・13日(火)・19日(月)・26日(月)、10月7日(月)は開館

【入館料】一般・大学生:630円(団体510円)、高校生以下および65歳以上:無料
※本展は常設展示入館料のみでご覧いただけます ※団体は20名以上
※入館方法の詳細等については、当館ホームページをご覧ください
https://www.kahaku.go.jp/

【主催】国立科学博物館
【協賛】モンベル
【協力】 岩手大学農学部附属農業教育資料館、環境省、市立大町山岳博物館、須川長之助顕彰会、長野県環境保全研究所、日本植物園協会、白馬館、白馬五竜高山植物園、北海道大学植物園・博物館、北海道大学大学文書館、郵政博物館

 

・展示紹介

第1章 高山植物とは
はじめに、高山植物の特徴について、形態や生態などを紹介します。きびしい高山環境で生きる植物たちは、さまざまな生存戦略を発達させながら環境に適応しています。さらに高山植物は、高山生態系において重要な位置にあり、ほかの生物と密接に関わりながら生きており、その例についても紹介します。

コマクサ(写真:国立科学博物館)

第2章 日本の高山植物の多様性
日本列島は南北に長く、さらに起伏に富みます。亜熱帯から亜寒帯までの気候が存在し、実に多種多様な植物が分布しています。そのなかでも、本州中部から北海道にかけては、高山植物の生育する地域が、まるで島のように点在しています。また、特殊な地質の地域には、そこにしか生育しない固有種も多く見られ、日本の高山植物の多様性をより豊かなものにしています。

ハヤチネウスユキソウ(写真:国立科学博物館)
キタダケソウ(写真:国立科学博物館)

第3章 高山植物の研究
高山植物に関する研究について、日本での初期の研究に関わった人物や代表的な山岳地域などを中心に紹介します。貴重な標本や資料、写真などをご覧ください。さらに近年、高山植物の多様性を知るための研究は、大きく進展してきているため、その研究成果や新たな取り組みなどについても紹介します。

ツクモグサ(写真:国立科学博物館)

第4章 高山植物の現状と多様性を守る取り組み
高山植物の素晴らしい多様性は、大変な危機に瀕しています。気候変動の影響により高山植生にはすでに変化が起こっています。シカの食害によりお花畑が消失した場所も多くあります。このような状況に対して自生地では、植生の保護や回復のための試みが行われています。また、筑波実験植物園などでは、絶滅危惧種を中心に、自生地外での保全が進められています。

第5章 高山植物の楽しみ方
本展で高山植物を知っていただいたら、ぜひ観察をしに出かけてみましょう。国内で高山植物が観察できるおすすめスポットをいくつか紹介します。また、海外にまで足をのばすと、日本では見ることのできない奇想天外な高山植物も楽しめます。さらに、植物観察の際に注意したい点なども紹介します。高山植物をさまざまな角度からお楽しみください。

ボンボリトウヒレン(写真:国立科学博物館)
ウルップソウ(写真:国立科学博物館)

 

・本展監修者

植物研究部 多様性解析・保全グループ 研究主幹
村井 良徳(むらい よしのり) 

専門分野は植物科学、化学生態学、環境適応学。主に高山植物について、化学成分の多様性や機能、環境適応機構などについて研究を行っています。また、標本資料センターのコレクションマネージャーも兼務し、筑波実験植物園では収集した100 種以上の高山植物を栽培しながら、絶滅危惧種の栽培・増殖方法の開発など生育域外保全にも取り組んでいます。

 

【文化庁】プレスリリースより

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【国立科学博物館】科博NEWS展示「我が家にまりも!?~一般家庭の水槽で見つかったまりもの調査~」のご案内

国立科学博物館

独立行政法人国立科学博物館において、来る2024年7月17日(水)から9月1日(日)まで、科博NEWS展示「我が家にまりも!?~一般家庭の水槽で見つかったまりもの調査~」を開催いたします。

当館が本年3月27日に行ったプレスリリース「ふたたび見つかった民家の水槽だけで発生するモトスマリモ」は多くのメディアに幅広く取り上げられました。新聞やテレビ報道を通じて、当館研究者が同様の事例に関する情報提供の呼びかけを行ったことにも大きな反響があり、当館へ日本各地から続々と情報が寄せられ、「まりも」と思われる実物試料も送られてきました。 解析の結果、これらの試料にはモトスマリモだけでなく、日本で知られている全てのまりもの仲間(5分類群)が含まれていることが分かり、様々な新しい知見を得ることができました。これらのまりもについて、水槽の展示と共に、まりもの仲間の紹介、全国各地のまりもが見つかった水槽写真の一覧展示、そして当館研究者等が富士五湖で行ってきたまりもの研究について紹介します。

【開催期間】 令和6年7月17日(水)~9月1日(日)
【開催場所】 国立科学博物館(東京都台東区上野公園7-20)地球館1階オープンスペース
【主  催】  国立科学博物館

 

・展示概要

展示は下記の3つのゾーンから成り立ちます。

①まりものなかまたち
今回の調査では今まで日本で知られていた全てのまりもの仲間(5分類群)が、見つかりました。それらについて、イラストも交えてその特徴を紹介します。

②まりものいる風景
今年2例目のモトスマリモが見つかり、各メディアで当館が水槽のまりもの情報提供を呼びかけたところ、46件もの情報が寄せられました。そのうち、26件の方に試料を送っていただき当館で検討を行った結果、まりもの5つのなかまの全てが家庭の水槽から見つかりました。今年初めまでは日本で2例しか情報がありませんでしたが、3ヶ月足らずのあいだに20例を超える出現例が集まりました。東京の湧水地帯に由来すると考えられるタテヤママリモが見つかるなど、新しい知見も多く含んでいます。

全国各地から送られてきたまりもの仲間
千葉県市原市の家庭用水槽

③当館のまりも調査
当館のまりもの調査は、山中湖村から1956年(昭和31年)に当時小学3年生だった亀田良成氏が採集し、栽培したものを50年後に当館に持ち込まれたのが始まりです。この経緯について絵本「富士山のまりも」(福音館書店)として出版されました。この事がきっかけとなり、2013年から当館と山中湖村教育委員会との間で山中湖の共同でのまりもの学術調査が始まりました。2022年の甲府、2024年の川崎、そして今回の水槽からのモトスマリモの発見に伴い、今では富士五湖全体の調査や、関東周辺での河川調査も始めています。

【関連情報】

プレスリリース 
ふたたび見つかった民家の水槽だけで発生するモトスマリモ(2024年3月27日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000746.000047048.html

プレスリリース 
日本では3種目のマリモ類の発見!モトスマリモと命名(2022年11月10日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000523.000047048.html

プレスリリース
「山中湖のまりも(山中湖村フジマリモ生息調査報告書)」の出版 ~ふたたび退潮傾向が明らかになった山中湖のマリモ 地球温暖化が影響か?~(2021年3月31日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000232.000047048.html

ホームページ:小さな「も」の世界
https://www.kahaku.go.jp/research/db/botany/microalgae/microalgal_kids/

 

【文化庁】プレスリリースより

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【東京国立博物館】特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」取材レポート。日本彫刻史上の最高傑作とされる本尊《薬師如来立像》が寺外初公開

東京国立博物館
展示風景

弘法大師空海と真言密教のはじまりの地、京都・神護寺に伝わる寺宝の数々を紹介する創建1200年記念 特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」が、東京国立博物館で開幕しました。会期は2024年9月8日(日)まで。

※会期中に一部作品の展示替えがあります。
前期展示:7月17日(水)~8月12日(月・休)
後期展示:8月14日(水)~9月8日(日)

入口にある大きな「神護寺」の看板は、神護寺の谷内弘照(たにうちこうしょう)貫主が揮毫したもの。

真言密教の聖地、1200年の至宝が一堂に

京都の高雄に所在する神護寺(神護国祚真言寺)は、天長元年(824)に高雄山寺と神願寺という二つの寺院が合併して誕生した寺院です。高雄山寺は平安遷都を提案した和気清麻呂の氏寺であり、唐の都・長安で体系的に密教を学んだ空海(774-835)が帰国後に住まいとし、真言密教の礎を築きました。

空海入定後は火災などで荒廃しましたが、後白河法皇や源頼朝の支援を受けた真言僧・文覚上人の尽力により復興。その後も応仁の乱や明治維新での廃仏毀釈、寺領解体など、さまざまな危機に見舞われながらも現在まで法灯を護持してきました。

重要文化財《弘法大師像》鎌倉時代・14世紀、京都・神護寺蔵、通期展示

本展は、2024年が神護寺創建1200年と空海生誕1250年にあたることを記念して開催されるものです。

展示の核となるのは、日本彫刻史上の最高傑作のひとつとして知られる本尊の国宝《薬師如来立像》や、6年にわたる修復を終えた空海ゆかりの国宝《両界曼荼羅(高雄曼荼羅)》といった、神護寺が1200年の荒波のなかで守り伝えてきた至宝の数々。国宝17件、重要文化財44件を含む、仏教美術にとどまらない日本美術の名品など約100件を紹介する、質・量ともに類い稀な規模の展覧会となっています。

国宝《観楓図屛風》狩野秀頼筆、室町~安土桃山時代・16世紀、東京国立博物館蔵、前期展示

展示は神護寺の歴史をたどる形で構成されています。
冒頭には、聖場である神護寺を雲間に臨みつつ、高雄を流れる清流・清滝川に沿って並ぶ楓を肴に宴をする人々を描いた《観楓図屛風》を象徴的に配置。紅葉の名勝として古くから親しまれ、現代もなおその美しい景観で人々を魅了する神護寺の雰囲気を伝えています。

国宝《金銅密教法具(金剛盤・五鈷鈴・五鈷杵)》中国・唐時代・8~9世紀、京都・教王護国寺(東寺)蔵、通期展示/ 空海が師の恵果より拝領したとされる法具。
国宝《灌頂暦名》空海筆、平安時代・弘仁3年(812)、京都・神護寺蔵、展示期間:7月17日~8月25日/ 灌頂という儀式を受けた者の名簿。当時の三筆に数えられる空海の、日常で用いられた自由闊達な書風が見られます。
右は国宝《伝源頼朝像》鎌倉時代・13世紀、京都・神護寺蔵、前期展示/ 神護寺を支援した頼朝公の等身大肖像。生え際やまつ毛に至るまで一本一本を丁寧に描き出した、日本肖像画の傑作。

国宝「高雄曼荼羅」にまつわる寺宝が目白押し!

展示前半の目玉は、日本に現存する最古の両界曼荼羅である国宝《両界曼荼羅(高雄曼荼羅)》です。2幅あるうち前期に「胎蔵界」、後期に「金剛界」が入れ替えで展示されます。

国宝《両界曼荼羅(高雄曼荼羅)》平安時代・9世紀、京都・神護寺蔵、画像は「胎蔵界」で前期展示

両界曼荼羅とは、真言密教が説く大日如来を中心とした宇宙、すなわち悟りへの道筋を示す金剛界と、慈悲の広がりを表す胎蔵界という二つの世界観を2幅一対で視覚化したもの。高雄山神護寺に伝わったため「高雄曼荼羅」とも呼ばれる本作は、天長年間(824-834)に淳和天皇の願いにより、空海が唐から持ち帰った曼荼羅を手本に直接プロデュースしたという点でも極めて高い価値をもちます。

約4メートル四方の巨大な画面を見ると、当時希少だった「紫根」と呼ばれる紫の染料を使い、花と鳳凰の文様を織り出した綾絹に、金銀泥ののびやかな線描で多くの仏や菩薩の姿が端正に描かれています。その数は「金剛界」で1461尊、「胎蔵界」で409尊にもなるというから圧倒されるばかり。それぞれの顔や持ち物すべてに細かな決まりがあり、間違いが許されなかったということで、制作にどれほど時間と気力を費やしたのか思いを馳せずにはいられませんでした。

《両界曼荼羅》右は「胎蔵界」江戸時代・寛政7年(1795)、左は「金剛界」江戸時代・寛政6年(1794)、京都・神護寺蔵、通期展示

同フロアでは、江戸時代に制作された高雄曼荼羅の原寸大摸本も紹介。こちらは2幅とも通期展示です。傷みが目立つ原本と比べて、描線も絹地の色の鮮やかさもはっきりしているうえ、原本の格調高い雰囲気まで見事に表されているため、あわせて見比べたいところ。

諸尊の姿をより詳細に知りたい場合は、それらの図像を墨の輪郭線のみで写した《高尾曼荼羅図像》や、別室で上映される解説映像を参照することもできます。

重要文化財《高雄曼荼羅図像》平安時代・12世紀、奈良・長谷寺蔵、画像は「胎蔵界 巻第三」で前期展示

なお、高尾曼荼羅については過去2度にわたる修理の記録が残っており、1度目は鎌倉時代・延慶2年(1309)に後宇田法皇によって、2度目は江戸時代・寛政5年(1793)に光格天皇と後桜町上皇によって行われたとのこと。そして今回は3度目、2016年から2022年にかけて実に約230年ぶりに大規模な修理が施されてからの公開となりました。

国宝《高雄曼荼羅御修覆記》後宇多法皇宸翰、鎌倉時代・延慶2年(1309)、京都・大覚寺蔵、前期展示

2度の修理の記録がメモされた高雄曼荼羅の旧収納箱や、後宇田法皇自らが経緯を記した修復記といった展示は、空海直筆の曼荼羅の根本・規範とされた高尾曼荼羅を次代に伝えたいと願った先人たちの想いと信仰心の一端を伝えています。

重要文化財《大般若経》巻第一(紺紙金字一切経のうち)平安時代・12世紀、京都・神護寺蔵、通期展示/ 鳥羽上皇が発願し、後白河法皇によって神護寺に施入された、紺地に金泥が映える美しい経典。
《高雄山神護寺伽藍図》室町時代・15世紀、京都・神護寺蔵、通期展示/ 水墨主体の表現で神護寺の伽藍を克明に描いた中世のガイドマップ。

迫力ある立像をそろえた特別展示室も出現!本尊《薬師如来立像》の厳しい眼差しに射抜かれる

展示後半では、神護寺に伝わる彫刻群が怒涛のように登場します。

国宝《五大虚空蔵菩薩坐像》平安時代・9世紀、京都・神護寺蔵、通期展示

神護寺に伝わる最古の密教尊像《五大虚空蔵菩薩坐像》は、空海の弟子真済が仁明天皇の発願を受け、多宝塔の安置仏として建立したもの。神護寺では年2回ご開帳される秘仏で、5躯が勢ぞろいして寺外で公開されるのは本展が初となります。

五大虚空蔵菩薩は、無限の知恵や福徳をそなえ、それを人々に授けるという虚空蔵菩薩の徳を五分にわけた存在、あるいは金剛界の五智如来の変化身ともいわれています。本作は高尾曼荼羅のような初期密教図像を祖型にしたものと考えられており、切れ長の目、ふっくらした唇をもつ品の良い顔立ちや肉感の表現が見どころです。

それ自体が空海にとって一種の曼荼羅であったといい、会場では法界虚空蔵を中心に4躯を円形に配置し、立体曼荼羅らしい様相を演出。目の前で立ち止まると、ほぼ同形の坐像が醸し出す不思議な空気感に包まれるような心地がしました。

《二天王立像》平安時代・12世紀、京都・神護寺蔵、通期展示/ 神護寺の長い階段の先にある楼門で人々を出迎える一対の二天王像。この展示のみフォトスポットになっています。
左から重要文化財《月光菩薩立像》平安時代・9世紀、国宝《薬師如来立像》平安時代・8~9世紀、重要文化財《日光菩薩立像》平安時代・9世紀 いずれも京都・神護寺蔵、通期展示

最後の展示室には立像の名品のみがズラリと並び、荘厳な雰囲気が漂います。中央には本尊の《薬師如来立像》があり、こちらも寺外初公開。密教尊像ではなく、前身寺院のどちらかでまつられていたものを空海が神護寺に迎えたと考えられています。

8世紀末から9世紀初めには個性的な仏像が多くつくられましたが、その中でもさらに異彩を放つ存在です。最大の特徴は、思わず姿勢を正してしまうほど厳しい眼差し。引き締まった口元も相まって威厳に満ちています。

国宝《薬師如来立像》 平安時代・8~9世紀、京都・神護寺蔵、通期展示
国宝《薬師如来立像》 平安時代・8~9世紀、京都・神護寺蔵、通期展示

ふだん神護寺では厨子に入っているため正面からしか拝観できない造形美を、さまざまな角度から堪能できるというのも、本展の大きな魅力でしょう。

両腕をのぞき一本の木から彫り出された一木造りで、正面から見た姿からは想像がつかないほど大きく張り出している大腿部がその厚みを強調。また、左袖には丸い大波と鎬立った小波を交互に表す翻波式(ほんぱしき)衣文という表現が施されており、その彫り込みの深さがさらなる重厚感をつくり出しています。翻波式衣文は平安初期彫刻の特徴ですが、これほど美しくはっきりと見える像は滅多にないとのこと。

密教の仏ではないこの像を空海はなぜ本尊に迎えたのか。理由は定かではありませんが、東京国立博物館の担当研究員、丸山士郎さんは次のように話します。

「密教が造形を大事にした以上に、おそらく空海自身がもともと造形に深い関心をもっていたのではないかと思います。空海はこの像を迎えて、どのように感じたのか。この展覧会で考えてただければ」

《十二神将立像》吉野右京・大橋作衛門等作、「酉神、亥神」室町時代・15~16世紀、「子神~申神、戌神」江戸時代・17世紀、京都・神護寺蔵、通期展示

本尊の周りをぐるりと囲んでいるのは《四天王立像》《十二神将立像》です。神護寺では密集して安置されているものを、一体ずつスペースを空けて設置。さらにライティングによって、個性豊かなポーズをとる像のシルエットを背後に浮かび上がらせることで、その躍動的な表現を見事に際立たせています。あまりの壮観な光景にしばし見入ってしまいました。

空海の思想と息吹を感じられる特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」の開催は2024年9月8日(日)まで。

創建1200年記念 特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」概要

会期 2024年7月17日(水)~9月8日(日)

※会期中、一部作品の展示替えがあります。
前期展示:7月17日(水)~8月12日(月・休)
後期展示:8月14日(水)~9月8日(日)

会場 東京国立博物館 平成館
開館時間 9:30~17:00

※金曜・土曜日は19:00まで(ただし8月30日・31日は除く)
※入館は閉館の30分前まで

休館日 月曜日、8月13日(火)

※ただし、8月12日(月・休)は開館
※総合文化展は、8月13日(火)開館

観覧料 一般 2,100円、大学生 1,300円、高校生 900円

※中学生以下、障がい者とその介護者1名は無料。
※事前予約(日時指定)は不要です。
※本展チケットで、当日に限り、総合文化展もご覧いただけます。
そのほか、詳細は展覧会公式サイトでご確認ください。

主催 東京国立博物館、高雄山神護寺、読売新聞社、NHK、NHKプロモーション
問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト https://tsumugu.yomiuri.co.jp/jingoji/

※記事の内容は取材時点のものです。最新情報は展覧会公式サイト等でご確認ください。


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【国立科学博物館】特別展「昆虫 MANIAC」取材レポート。ムシの圧倒的な多様性の世界をマニア目線で深堀り!

国立科学博物館
「昆虫 MANIAC」会場風景

地球上で報告されている生物種の半数以上を占める、最大の生物群「昆虫」。その知られざる世界を多様な切り口とユニークな視点で深堀りする特別展「昆虫 MANIAC」が、国立科学博物館で開幕しました。会期は 2024年10月14日(月・祝)まで。

エントランス
展示風景
展示風景

昆虫は、人がこれまで名付けたものだけでも約100万種に及びます。人の暮らしのもっとも身近に生息する野生動物でありながら、一般的に認知されている種はほんの一握り。さらに、誰もが名前を知っている昆虫であっても、じつは生態が謎だらけであったり、研究者しか知らないような面白い秘密が隠されていたりするケースも少なくありません。

本展には、10cmを超える巨大なカブトムシから、1mmにも満たない微小なハチ、さらにクモやムカデなど、昆虫と同じく“ムシ”とよばれる陸生の節足動物まで幅広く登場。国立科学博物館の5人の研究者が貴重な標本や最新の昆虫研究を織り交ぜながら、本や図鑑で得られる知識の一歩先にある、ムシたちの圧倒的な多様性の世界をマニアックに掘り下げています。

「ゾーン1:昆虫とムシ」展示風景

マニアックとはいっても、会場では導入部として「ゾーン1:昆虫とムシ」というセクションを設け、昆虫とムシの違いやその特徴など基本情報をおさらいしているので、昆虫に詳しくない方も心配いりません。

続く「ゾーン2:多様なムシ」が本展のメインセクションです。研究者の専門ジャンルごとに5つの扉に分け、「トンボの扉」ではトンボ・バッタ・セミなどの不完全変態昆虫を、「ハチの扉」では膜状の翅をもつハチとハエの仲間を、「チョウの扉」ではチョウとガの仲間を、「カブトムシの扉」ではカブトムシ・クワガタムシなどの甲虫を、そして「クモの扉」ではクモ・ムカデ・サソリなど昆虫以外の節足動物の世界を紹介。それぞれ「多様化のカギ」「昆虫新常識」「ムシたちの衣食住」という3つのキーワードに絡めた内容を扱っています。

「ゾーン2:多様なムシ」展示風景。扉ごとに制作されたムシの集合標本も見どころです。

各エリアで目印代わりに来場者を待ち構えているのは、研究者が細部までこだわって監修したという5体の巨大模型です。

一般的な昆虫展とはひと味違い、たとえばエゾオナガバチの模型は、かっこよく飛んでいる様子ではなく、体を変形させて産卵する様子というなんともいえない姿を再現したもの。「そこに注目するんだ!?」という意外性も、本展の醍醐味といえるでしょう。

エゾオナガバチの巨大模型

ムシに詳しくない筆者にとって、本展は驚きの連続です。

たとえば、ムシが形成する社会について。スズメバチやミツバチでおなじみの、働きバチと女王バチが集団生活をして労働と産卵を分業する生態は、約15万種にのぼるハチ目全体からすればむしろ珍しく、単独で暮らすハチのほうが圧倒的に多いのだといいます。マニアック度でいえば低めの知識ですが、「ハチは群れで生きる昆虫」という固定観念があったので衝撃を受けました。

ムシの社会に関する展示

ハチは集団生活をする「真社会性」とよばれる生態のほか、産卵後に母バチが離れた後は基本的に1匹で暮らす「単独性」、産卵後も母バチがふ化した幼虫に食物を与える「亜社会性」、巣づくりや食物集めをほかのハチに依存する「労働寄生性」など、さまざま生態が見られます。そのため、昆虫における社会性の進化について考えるための研究材料として、ハチは高い関心が寄せられているとか。

性別の多様性に関する展示はなかなかマニアックなものが充実していて、中でもオスとメスの特徴が同居した特異な個体「ギナンドロモルフ(雌雄型)」が目を引きました。

ギナンドロモルフのチョウの標本。右下のベニトガリシロチョウは雌雄の特徴が対角に現れています。

同じ種のたくさんの個体の中には、まれにギナンドロモルフが生じることがあり、特にチョウの場合は中心線から左右にはっきりと分かれている例が多く見つかっているといいます。展示ではさらに珍しく、左前翅と右後翅がオス、右前翅と左後翅がメスの特徴をもったギナンドロモルフの標本も登場。いずれのチョウも対称性が美しく、生命の神秘を感じずにはいられません。

枯れ枝や落葉に擬態するカマキリの標本。上段右端のバイオリンカマキリは特にユニークな形態で、一見では生き物には思えません。
南米に生息するパンダアリの標本。その正体はパンダでもアリでもなく、じつはハチだというややこしさ。

会場ではムシの複雑な・奇妙な・きれいなビジュアルをそのまま、ときには顕微鏡を使って観察できるのはもちろん、単調に並べるばかりではない趣向を凝らした標本も楽しめます。

さまざまな大きさのカブトムシとクワガタムシの標本

たとえば、サイズ違いのカブトムシとクワガタムシでグラデーションになるように円を描き、スタイリッシュなアートのようにしたり、同じチョウが並ぶ中に1匹だけ別の種を紛れこませて間違い探しのようにしたり。来場者を楽しませるため、アレンジにもメリハリがきいています。

1匹だけまじった別の種を当てるクイズ。なかなか難易度が高いです。

ヤマトタマムシの「玉虫色」に代表される、色素ではなく微細な構造に太陽光が干渉することで発色する「構造色」をそなえた昆虫の標本は、さながら風変わりなジュエリーボックスといった様相。ニューギニア周辺に生息し、フォロニック結晶と呼ばれる構造色を体表にもつホウセキゾウムシは角度によって緑、青、紫と艶やかに輝き、たいへん美しいものでした。

ホウセキゾウムシの標本

本展は「見る」だけでなく、「聴く」「触る」「嗅ぐ」などムシの世界をさまざまな切り口から体験できる点も魅力のひとつ。

北米には17年周期で羽化するジュウシチネンゼミと、13年周期で羽化するジュウサンネンゼミと呼ばれるグループのセミ、いわゆる「素数ゼミ」が生息しています。両グループは17年と13年の公倍数である221年に一度のタイミングで同時に大発生しますが、日本でもニュースで話題になったように、ちょうど2024年がその当たり年となりました。

素数ゼミの展示

会場は多様なムシたちが発する音であふれていますが、「聴く」体験展示として特に注目してほしいのが、その素数ゼミたちの大合唱を体験できるスポットです。研究チームが本展のためにイリノイ州シカゴを取材。現地で録音した、最大で85〜86デシベル(パチンコ店の店内と同程度の音の大きさ)に達したという騒がしさを旅行記とあわせて紹介しています。

素数ゼミの大合唱を体験するスポット

「嗅ぐ」体験展示としては、シタバチが好むユーカリの精油に含まれるユーカリトールや、糞などに含まれているスカトールの香りを噴出するスポットを設置。シタバチは中南米にのみ生息し、メスへのアプローチのためにオスが花の香り成分を集めるという世界的にも珍しい習性をもっているハチで、その光沢感のある美しさも見どころです。

シタバチの展示

「触る」体験展示では、植物に寄生したアブラムシの幼虫が、外敵から身を守るために植物を異常発達させてつくる巣「虫こぶ」の実物に触れられるなど、いずれも派手さはないものの知的好奇心をくすぐる内容となっていました。

虫こぶに触れるスポット
さまざまな虫こぶの標本。シャーレに入っているのは世界唯一の“跳ねる虫こぶ”として知られているジャンピング・コールワスプの虫こぶで、跳ねている様子も動画で紹介されています。

残る「ゾーン3:ムシと人」はエピローグとして、人の暮らしと共にある身の回りのムシの世界を覗き、ムシと人の未来について考えていきます。

「ゾーン3:ムシと人」の展示風景

人の視点によって、ムシは害虫とも益虫とも見なされます。展示では代表的な害虫の例としてクロスズメバチ類を挙げ、人を刺す危険性がある一方で、農地におけるムシによる食害を抑制する働きをもつ点も紹介。視点を変えれば、人の暮らしが多様な生物たちで構成される生態系によって支えられていることに気づけるのだと伝えています。

都会に息づくムシのマップ

ムシは一見すると、自然環境があまり残されていないような都市でも、さらには家の中でもたくましく暮らしていて、ムシが苦手な人にとっては一大事でしょう。興味深い話として、人は同じムシを見るにしても、家の中と外とでは、家の中で見たときのほうが心理的な嫌悪感が増すという仮説が提唱されているとか。さらに、都市化によって日常的にムシを見る機会が減少していることが、ムシを「得体のしれないもの」として嫌悪する原因になっている可能性もあるそうです。

そのため、エピローグのキャプションには「一つ一つのムシのことやなぜムシが苦手なのかを知ることで、すべてのムシに対する嫌悪感は少しだけ和らげることができるのかもしれない」とアドバイスめいた文言も添えられていました。

絶滅危惧種のイシガキニイニイなど、地球環境の変化に伴い個体数が減少しているムシの展示

小さなムシの世界はほとんどが人に認識されませんが、それでもムシは私たちの暮らしとは切り離すことができない、最も身近な隣人であることに自然と考えが巡る展示内容でした。

モトナリヒメコバネナガハネカクシの展示

なお、本展ではお笑いコンビ「アンガールズ」の山根良顕さんが2023年、広島の山中で『元就。』という番組を収録していた際に発見した新種の昆虫、モトナリヒメコバネナガハネカクシの標本も鑑賞できます。

アンガールズの山根良顕さん(左)と田中卓志さん(右)

この発見がきっかけで、アンガールズは本展の公式サポーターに就任。開幕に先立って行われたオープニングトークに登壇した山根さんは、新種の発見当時、同行していた比和自然科学博物館の千田良博研究員に「これは珍しいですよ」と指摘されても、テレビ的なお世辞だと思って真に受けていなかったと振り返ります。

続けて相方の田中卓志さんが「山根は早めにロケを終わらせようと思って、山の奥へ入らずに入口あたりの適当な土をパッとすくったら新種が見つかった。そこは逆に先生が探さないような場所だったんですよ」とコメント。新種発見の理由が山根さんの「だらしなさ」にあったと笑いながら分析しました。

私たちが気づかないだけで、意外と身近に昆虫の新種はいるそうです。展示の締めくくりに、研究者たちがムシを探す際の目線や技、道具なども紹介しているので、学生の皆さんは夏休みの自由研究として、ムシの新種発見にチャレンジしてみるのも面白いかもしれません。

特別展「昆虫 MANIAC」の開催は10月14日(月・祝)まで。

特別展「昆虫 MANIAC」概要

会期 2024年7月13日(土)~10月14日(月・祝)
会場 国立科学博物館(東京・上野公園)
開館時間 9時~17時 (入場は16時30分まで)
※ただし毎週土曜日及び8月11日(日)~15日(木)は19時まで開館延長(入場は18時30分まで)
休館日 9月2日(月)、9日(月)、17日(火)、24日(火)、30日(月)
入場料(税込) 一般・大学生 2,100円、小・中・高校生 600円

※未就学児は無料。
※障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料。
※そのほか、詳細は公式サイトでご確認ください。

主催 国立科学博物館、読売新聞社、フジテレビジョン
お問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト https://www.konchuten.jp/
監修者 井手竜也[総合監修、ハチ類]/国立科学博物館 動物研究部 陸生無脊椎動物研究グループ 研究員
野村周平[コウチュウ類]/国立科学博物館 動物研究部 陸生無脊椎動物研究グループ グループ長
神保宇嗣[チョウ・ガ類]/国立科学博物館 動物研究部 陸生無脊椎動物研究グループ 研究主幹
清拓哉[トンボ類]/国立科学博物館 動物研究部 陸生無脊椎動物研究グループ 研究主幹
奥村賢一[クモ類]/国立科学博物館 動物研究部 陸生無脊椎動物研究グループ 研究員

※記事の内容は取材日(2024/7/12)時点のものです。最新の情報は展覧会公式サイト等でご確認ください。


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今秋、恐竜たちが東京国立博物館でナイトパレード!?「恐竜大夜行」記者発表会レポート

東京国立博物館

 

国宝89件を含む約12万件の膨大なコレクションを誇り、その建築自体も重要文化財に指定されている、まさに日本の美の殿堂である東京国立博物館(以下、東博)。ふだんは厳かな雰囲気が漂う東博ですが、その本館前中庭にティラノサウルスやギガノトサウルスなどの巨大恐竜たち約20頭が出現! 原始の咆哮を上げながらナイトパレードを行うという意外過ぎるイベント「恐竜大夜行」が、2024年9月27日(金)・28日(土)の2日間にわたり開催されます。

本イベントに先立って実施された記者発表会に参加してきました。


「恐竜大夜行」は、株式会社ON-ARTが開発した恐竜型メカニカルスーツ「DINO-TECHNE」による体験型恐竜ライブショープロジェクト「DINO-A-LIVE(ディノアライブ)」の企画で開催されるナイトイベントです。

■「DINO-A-LIVE」の紹介動画

「恐竜が生きていたら、現代に蘇ったら、私たちはそれをどんな風に感じるのだろう?」――そんな素朴な疑問から誕生したという「DINO-A-LIVE」。言葉や情報、知識ではなく「生きている存在」を目の当たりにし、体感することでしか生まれないセンス・オブ・ワンダー(言葉にならない驚き)の感動を届ける、2011年から始動したプロジェクトです。

主役となる自立歩行恐竜型メカニカルスーツ「DINO-TECHNE」は、世界に類のないリアルな恐竜ライブショーを実現するため、ON-ART社が特殊美術品やリアルバルーンの制作などで培った技術を活かして独自に開発を進めたもの。(現在、世界14か国で特許を取得)

ON-ART社の代表者取締役社長・金丸賀也氏

「私たちの恐竜というのは、まるで生きているかのように蘇る。魂を込めるように作り上げてきました」と語るのは、ON-ART社の代表者取締役・金丸賀也氏です。

ライブショーで目指すのは、自然環境や生き物の世界を学びながら楽しむエデュテイメント(エデュケーションとエンターテイメントを合わせた造語)であること。誰も本物を見たことがない恐竜ですが、最新の学説や専門家の意見を取り入れて造形の改良を重ね、骨格や皮膚、関節の動きなどあらゆる部分の再現性に徹底してこだわっているといいます。また、現生動物の鳴き声などのサンプリング音を使って1種につき数十通りの生体音を合成。恐竜の動きとリアルタイムでシンクロさせて”恐竜の音”を表現しているとか。

「DINO-A-LIVE」ライブショーの様子

人間が操演しているとは思えない生き生きとした恐竜が目の前を闊歩し、しっぽを振り回しながら叫び、ときに観客に牙をむく。ダイナミックで躍動感にあふれた「DINO-A-LIVE」は、近年では国内5大都市アリーナツアーを成功させるほどに人気を集めているほか、クウェート王立博物館のロイヤルオープニングセレモニーやイタリアの人気テレビ番組に招待されるなど、海外でも脚光を浴びています。

「DINO-A-LIVE」ライブショーの様子
「DINO-A-LIVE」ライブショーの様子

「恐竜のイベントなら、お隣の国立科学博物館で開催するほうがお似合いでは?」と不思議に思う方もいるでしょう。

じつは、東博では2022~23年に創立150年を記念して「150年後の国宝展」を開催しており、その企業部門で“150年後の国宝候補”として参加したのが「DINO-A-LIVE」の恐竜たちでした。その縁から金丸氏らが「東博アンバサダー」に就任。日本のものづくり精神の素晴らしさを発信するため、そしてものづくり文化の粋が集積した東博への関心を高めるために企画されたのが、今回のアンバサダー企画「恐竜大夜行」というわけです。

「恐竜大夜行」の開催場所

「恐竜大夜行」は、古来より日本の絵巻物や書簡に描かれてきた、人々が寝静まった夜中に妖怪や鬼たちが繰り広げる大行列「百鬼夜行」から着想を得たもの。プロジェクト初の野外イベントになります。

金丸氏は「本館前の中庭で夜な夜な恐竜たちに大パレードさせようという、それに尽きます」としつつ、コンセプトについては次のように説明しました。

「中庭には巨大なユリの木があります。あれは恐竜時代から形をそこまで変えずに今まで生き残った種なんですね。その木が夜な夜な語り出し、恐竜たちを招聘します。そこで恐竜とともに、参加されているお客さんたちみんなで未来へ向かって野生の雄叫びを上げよう! という企画になります。人間の作った芸術や文化という価値のあるものと、原始的な感覚を融合したような演出ができればと考えています」

ティラノサウルス
ステゴサウルス

2日間の公演で、公演時間はそれぞれ約1時間。前半30分でさまざまな民族楽器を使った演奏、後半30分で恐竜のパレードを予定しているとのこと。全長8メートルのティラノサウルスやギガノトサウルスをはじめ、トリケラトプス、ステゴサウルス、アロサウロスなど、各時代を代表する人気者の恐竜たち約20頭が集結するそうです。

記者発表会後半では、一足早くティラノサウルスとギガノトサウルスの2頭が乱入し、会場は大盛り上がり! 長いしっぽを振り回しながら会場内を練り歩き、ときには取材陣にかみつく仕草も。

恐竜たちが記者発表会に乱入!
フラッシュがたかれる中、雄叫びを上げながら我が物顔で会場を闊歩。
じろじろ値踏みされたと思ったら一気に距離を詰められました。

造形ももちろんですが、動きがあまりに生々しく、目の前で口を大きく開けられたときには本物ではないとわかっていても「食べられる!」とゾッとした気分になりました。頭ではなく感覚から原始的な「生きる力」を意識するこの心の動きこそが、まさに「DINO-A-LIVE」の醍醐味なのかもしれません。

フォトセッションでは東京国立博物館の浅見副館長にちょっかいをかけるなど、最後まで制御が利かない恐竜たちでした。

受け継がれてきたものづくりの歴史と最先端技術との融合の形を体験する、東京国立博物館アンバサダー企画「恐竜大夜行」の開催は2024年9月27日(金)・28日(土)の2日間。天候によっては恐竜の頭数の制限やイベント内容の変更、または中止の可能性もあるそうなので、当日が天候に恵まれることを祈るばかりです。

なお、座席やチケット料金などは追って発表されますので、詳細は特設ページでご確認ください。

 

記事提供:ココシル上野


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【国立西洋美術館】「内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙」取材レポート

国立西洋美術館
会場風景

中世ヨーロッパで普及した彩飾写本の魅力に触れる展覧会「内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙」が国立西洋美術館で開催中です。会期は2024年8月25日(日)まで。

会場風景
会場風景
会場風景

写本とは、15世紀に印刷技術が発明される以前のヨーロッパで普及した、動物の皮を薄く加工して作った紙(獣皮紙)に人の手でテキストを筆写し、膨大な時間と労力をかけて制作した本のことです。

華やかな装飾や挿絵が施されるケースも多く、ときに非常な贅沢品になった写本ですが、当時の人々にとって情報伝達の主要な媒体であったと同時に、キリスト教の信仰を支える重要な役割も担っていました。

本展タイトルにある「内藤コレクション」とは、筑波大学・茨城県立医療大学名誉教授の内藤裕史氏が収集した写本零葉(リーフ/本から切り離された一枚一枚の紙葉)を中心とするコレクションを指します。国内美術館の写本コレクションとしては最大級のもので、2015年度に同館に一括寄贈され、2020年にかけてさらに26点の写本零葉が追加されました。

本展は内藤コレクションの大多数に国内の大学図書館収蔵品などを加えた約150点を通じて、それぞれの写本の役割とともに、文字と絵が一体となった中世彩飾(※)芸術の世界を紹介する大規模展です。

(※写本の装飾は、金を多用した光り輝く特徴から「彩飾」と呼ばれます)

展示は、零葉が本来属していた親写本の用途を基準に章分けし、「1章:聖書」「2章:詩編集」「3章:聖務日課のための写本」「4章:ミサのための写本」「5章:聖職者たちが用いたその他の写本」「6章:時祷書」、「7章:暦」、「8章:教会法令集および宣誓の書」「9章:世俗写本」の全9章構成となっています。

写本装飾の代表的な例として挙げられるのがイニシャルです。

会場風景、右はカマルドリ会士シモーネ《典礼用詩編集零葉》イタリア、フィレンツェ 1380年頃 内藤コレクション(⾧沼基金) 国立西洋美術館蔵

イニシャルは文頭のアルファベットを華美に飾ったもの。目を喜ばせるだけではなく、テキストの重要なセクションの始まりを示す目印や、節の区切りの役割を果たしました。面白いのは、装飾の種類がイニシャルの、ひいてはテキストのヒエラルキーを表しているという点。

たとえば、《典礼用詩編集零葉》の紙面左中央には大型の「B」の文字があり、「B」の内部上段には神が祝福する姿、下段には伝承上の「詩編」の作者ダヴィデが楽器を奏でる姿が描かれています。このように、文字の内部スペースに物語の場面や人物などを描いたものを「物語イニシャル」と呼びます。

ほかにも、彩色した地に金の文字を置いた「シャンピ・イニシャル」や、文字の周囲を線描で装飾した「線条装飾イニシャル」などがありますが、ヒエラルキーでいえば物語イニシャルが最上位。核となるテキストを最も目立つ物語イニシャルで示すことで、読む人の理解を視覚的に補助していたのです。

なお、「典礼用詩編集」は修道院や教会で1日8回、定刻に行われる礼拝である聖務日課のために、旧約聖書の「詩編」のテキストや聖歌、祈祷文などを編纂したものです。

《聖書零葉》イングランド 1225-35年頃 彩色、インク、金/獣皮紙 内藤コレクション 国立西洋美術館蔵

内藤コレクションには13世紀のイングランドやフランスで制作された聖書写本の零葉が多く存在し、「創世記」の冒頭を示した《聖書零葉》はその代表的な一葉です。

膨大な文字が細かくぎっしりとレイアウトされた中で、紙面を縦に貫く金縁の装飾が目を引きますが、じつは物語イニシャルの巨大な「I」だとわかり驚きました。まさに壮大な物語の始まりを伝えるのにふさわしいスケールといっていいでしょう。2cmほどの小さな円形の中で、神による万物の創造からカインによるアベルの殺害までのストーリーを緻密に表現しています。

会場風景、ヤコビュス・ファン・エンクハイセン写字/ズヴォレ聖書の画家彩飾《『ズヴォレ聖書』零葉》北ネーデルラント、ズヴォレ、共同生活兄弟会グレゴリウスの家(写字)/おそらくズヴォレ(彩飾) 1474年(写字)/1475-76年(彩飾) 内藤コレクション(⾧沼基金) 国立西洋美術館蔵

15世紀後半の北ネーデルラント(現在のオランダ付近)の街ズヴォレで制作された《『ズヴォレ聖書』零葉》は、物語イニシャルを含めて「D」を強調した一葉。その整然とした美しさに見入りました。

写本は当初、修道士や修道女が筆写や装飾を担っていましたが、次第に在俗の職人たちが参入していきました。本作に見られる到底手書きとは思えない洗練された書体は、ヤコビュス・ファン・エンクハイセンという能書家として名高い人物が手掛けたもので、全巻分を書き写すために14年もの歳月をかけたとか。

この調和のとれたレイアウトは、3バージョンの「詩編」を併記したことで生まれたもの。物語イニシャルには、契約の箱をエルサレムへ運ぶダヴィデなど、それぞれダヴィデの生涯の場面が描かれています。

ジョヴァンニ・ディ・アントニオ・ダ・ボローニャ彩飾《典礼用詩編集零葉》イタリア、ボローニャ 1425-50年 彩色、インク、金/獣皮紙 内藤コレクション  国立西洋美術館蔵

写本が誰のために制作されたのか、どんな場面で使われていたのかをイニシャルで表すケースもあり、たとえば《典礼用詩編集零葉》のイニシャル「C」に描かれているのは、書見台の前で歌うフランシスコ会修道士の姿。つまり、親写本がフランシスコ会のために制作されたものだとわかります。

なお、本作のように植物をモティーフにしてページの余白を埋める枠装飾は、写本の中ではポピュラーですが、よく見ると本作は極彩色の優美な草花にまじって、修道士らしい奇妙な老人の頭部を浮かべている点がかなり独特。

会場にはほかにも、画家の遊び心なのか、余白部分にイタズラ描きのような装飾を施した零葉があり、ページをくまなくチェックする面白さがありました。

フランチェスコ・ダ・コディゴーロ写字、ジョルジョ・ダレマーニャ彩飾《『レオネッロ・デステの聖務日課書』零葉》イタリア、フェラーラ 1441-48年 内藤コレクション 国立西洋美術館蔵

聖務日課の際に朗読する全テキストを収録した「聖務日課書」は、礼拝を進行する司祭が所持するものでしたが、次第に一般信徒の間にも普及していきました。

なかでも、イタリアの街フェラーラを15世紀に統治していたエステ家の依頼で制作された《『レオネッロ・デステの聖務日課書』零葉》は、世俗の信徒のために贅を尽くした華やかな作例。金を散りばめつつ糸のごとく微細な線を引いた枠装飾は豪奢なジュエリーの瞬きを思わせ、見事というほかありません。

装飾はフェラーラを代表する写本彩飾画家であったジョルジョ・ダレマーニャによるもの。全体的には後期ゴシック様式でありながら、当時のフェラーラではすでにルネサンスが幕を開けていた影響もあってか、イニシャル内部の人物の描き方はルネサンス様式の影響が見てとれます。

写本装飾は本の中で守られ、壁画やタペストリーに比べて散逸や破損を免れてきたことから、中世の美術に関する貴重な証言者ともいえます。本作も、流行の過渡期にあった二つの美意識のエッセンスが封じ込められた、時代を伝える好例といえるでしょう。

リュソンの画家彩飾《時祷書零葉》フランス、パリ 1405-10年頃 彩色、インク、金/獣皮紙 内藤コレクション 国立西洋美術館蔵
会場風景、代祷の画家彩飾《祈祷書零葉》北ネーデルラント、おそらくレイデン 1500-30年頃 内藤コレクション 国立西洋美術館蔵

もちろん、イニシャルの装飾ではなく、ページ上で独立したスペースを割り当てられたミニアチュール(挿絵)が載った零葉も多数紹介されています。

《祈祷書零葉》はキリストを描いた挿絵を、金地に草花や虫をトロンプ・ルイユ(だまし絵/1500年頃のヘントやブリュッヘで流行した装飾)風に散りばめた余白装飾で囲っています。本来、既存の写本に挿入して美的価値を高めるために制作された紙葉ですが、所有者はそこに刺繍の縁取りを施し、小型絵画の形で礼拝に使用していたようです。

会場風景、《ガブリエル・デ・ケーロの貴族身分証明書》スペイン、グラナダ 1540年 内藤コレクション 国立西洋美術館蔵

そのほか、会場では百科全書的内容を持つものや身分証明書など、キリスト教関連以外の「世俗写本」も展示。また、作品調査の成果として、筆写されたテキストの内容や書体、装飾の様式などから特定した零葉の親写本や、親写本から切り離された姉妹葉についても取り上げていました。

ときに所有者のステータス・シンボルとして、あるいは美的趣味を満たすために贅を凝らされた彩飾写本。装飾部分のみ切り取るコレクターも生まれ、書物の域を超えた一流の美術品として愛好されました。サイズこそ小型のものが多いですが、私たちが普段、美術館で目にする西洋絵画と同様の美意識が込められており、見ごたえは全く劣りません。ぜひ本展で、現代の私たちとは異なる感覚で本を読んでいただろう中世の人々の美意識について、思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。

「内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙」概要

会期 2024年6月11日(火)〜8月25日(日)
会場 国立西洋美術館 企画展示室
開館時間 9:30~17:30(金・土曜日は9:30~20:00)
※入館は閉館の30分前まで
休館日 月曜日、7月16日(火)
ただし、7月15日(月・祝)、8月12日(月・休)、8月13日(火) は開館
観覧料 一般1,700円、大学生1,300円、高校生1,000円

※中学生以下は無料。
※心身に障害のある方及び付添者1名は無料。
※その他、詳細は展覧会公式ページでご確認ください。

主催 国立西洋美術館、朝日新聞社
問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式ページ https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2024manuscript.html

※記事の内容は取材時点のものです。最新情報は展覧会公式ページ等でご確認ください。


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