【東京藝術大学大学美術館】円山応挙から近代京都画壇へ~報道内覧会レポート~

東京藝術大学大学美術館

2019年8月3日(土)から東京上野の東京藝術大学大学美術館で、
「円山応挙から近代京都画壇へ」が開催されています。
(~9月29日(日)まで)

先日、本展の報道内覧会が開催されましたので、今回は、そのレポートをお届けします。

 


円山応挙について

 

円山応挙は、1733年(享保十八年)に現在の京都亀岡付近(丹波桑名郡穴太村)で農民の子として生まれました。
しかし、貧しい家庭環境のため生活は苦しく、幼いころから奉公に出されていたといいます。

その奉公先の一つ、尾張屋勘兵衛の店は浮絵、望遠鏡、のぞき眼鏡、人形などを扱う玩具商でした。
応挙はそこで眼鏡絵を描く機会を得たのを皮切りに、狩野派の流れをくむ石田幽汀(ゆうてい)に師事し、眼鏡絵を通して西洋画の技法である透視図法を習得することで、絵画の技術を磨いていきました。

名前も1766年(明和3年)から「応挙」と名乗るようになります。
そして、三井寺円満院門主の祐常と出会い、様々な注文を受ける中で、数々の名品を生み出し、画家として大成していきます。

この時期に生まれた様式が実物そのままの生を写す、写生画(スケッチ)。
当時の絵画の基本が、やまと絵か中国画だけであった時代に、応挙の写生画は簡単でわかりやすく、庶民に身近なものとして絵画を広めることになります。

そんな親しみやすく、古い伝統にとらわれない自由奔放な応挙の画風に魅せられ、全国から入門する門弟は数多く、1780年代には、円山派という一流派が形作られて工房を組織できる規模の流派になっていきます。

 

円山・四条派とは?

 

円山派と共に、与謝蕪村に学び、のちに応挙に師事した呉春を中心とした流派に”四条派”があります。

四条派は、呉春やその弟子たちが京都の四条通り周辺に住んでいたことから名づけられた画派。
呉春の写生的な画風が応挙の影響を受けていることから、円山派と四条派の二派は、関連する二大流派として、「円山・四条派」と呼ばれ、近世以降の京都の主流となり、近代京都画壇にも大きな影響を及ぼし、現代まで脈々と受け継がれています。

 

展覧会の見どころ

 

本展覧会は、応挙、呉春から近代へ至る系譜を追うことで、円山・四条派の全貌に迫り、日本美術史の中で重要な位置付けの京都画壇の様相の一端を明らかにするもので、大まかに4章構成となっています。
その展示数は、重要文化財8点、重要美術品2点を含む約100点で、これまでには無かった最大規模の展覧会となっています。

一番の注目は、丸山応挙最晩年の最高傑作と呼ばれる「大乗寺襖絵」の立体展示。

「大乗寺襖絵」は、そのスケール感は、息をのむほど。光により作品の墨の濃度に変化がみられます。様々な角度からご覧ください。

 

 

円山応挙『松に孔雀図』寛政7年作 重要文化財 兵庫・大乗寺所蔵 東京展のみ通期展示。

 

その他、応挙に関連する呉春を始め山本守礼、亀岡規礼と続く、「円山・四条派」の系統を踏む画家の襖絵、32面も紹介します。

 

呉春 『四季耕作図』 寛政7年(1795年)作 重要文化財 兵庫・大乗寺所蔵

 

(手前) 亀岡規礼『採蓮図』 江戸時代後期作 重要文化財  兵庫・大乗寺所蔵  
(奥) 山本守礼 『少年行図』江戸時代後期作 重要文化財 兵庫・大乗寺所蔵

 

また、東京展前期のみ、重要美術品「江口君図」が出品されるのも見どころの一つ。

円山応挙『江口君図』は、応挙の数少ない美人画の中でも優れた作品の一つ。
応挙の人物画は、しっかりした人体構図で描かれているのが特徴。
髪の上部から髪の毛が、ハラハラと落ちていく様子が自然に再現されています。

写真(左) 円山応挙『江口君図』寛政6年(1794年)作 重要美術品 静嘉堂文庫美術館所蔵※東京展の前期のみ展示。 写真(右)は、幸野 楳嶺 『洞房粧雨図』明治8年(1875年)作

 

新発見された作品「魚介尽くし」も東京展のみ展示されています。

写真左の『魚介尽くし』は、 円山・四条派の大半を占める、総勢28名の画家たちが1つの画面に魚介類を描いた合作。28人で描いているのに、一見すると一人の画家が描いているように調和がとれているところが面白い。
写真中央の『松虎図』は、 円山派の系統を踏む岸派の代表的な虎を描いた作品

(右)森寛斎他『魚介尽くし』 明治5~6年(1872-73年)作 個人蔵 ※東京展のみ通期展示 (中)岸駒 『松虎図』 江戸時代後期作公益財団法人角屋保存会所蔵 (右)幸野楳嶺 『敗荷鴛鴦図』 明治18年(1885年)頃作 敦賀市立博物館蔵

その他の作品

国井応文・望月玉泉 『花卉鳥獣図巻』

円山派の五代目・応文と望月派の四代目・玉泉によって描かれた画巻。光沢ある塗料で描かれた、孔雀の羽の薄青、濃い青、 緑がかった色は鮮やか。立体感を感じさせます。

国井応文・望月玉泉 『花卉鳥獣図巻』 江戸時代後期~明治時代作 京都国立博物館所蔵 

 

竹内栖鳳 『春暖』
長沢芦雪 『薔薇蝶狗子図』
応挙に影響を受けた2人の画家、栖鳳と芦雪。どちらの犬も、個性的で可愛らしいです。

(左)竹内栖鳳 『春暖』 昭和5年(1930年)作 愛知県美術館(木村定三コレクション)所蔵 (右)長沢芦雪 『薔薇蝶狗子図』寛政後期頃(1794‐99年)作 愛知県美術館(木村定三コレクション)所蔵

まとめ

円山・四条派は、どれが円山派か?どれが四条派か?という定義が曖昧で、専門家でも判断しきれないとのこと。
円山応挙の写生画に奇をてらったり個性を発揮する表現がないように、円山・四条派の変化も大きく目に見えるものはなく、なだらかです。
そのため、作品を鑑賞する際には、難しいことを考えずに、そのなだらかな変化やそれぞれの作風の違いを自然に楽しむことが、大切。

 

急速な変化と共に進化した江戸の文化に対して、京都独自の文化を育んできた円山・四条派。
東京藝術大学大学美術館で、円山・四条派の作品たちに触れてみては、いかがでしょうか?

 

開催概要

 

展覧会名 円山応挙から近代京都画壇へ
会期 前期:2019年8月3日(土) – 9月1日(日) 後期:2019年9月3日(火) – 9月29日(日) 前期後期で大展示替え!
※ただし、大乗寺襖絵は通期展示
午前10時 – 午後5時(入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日
※ ただし、月曜日が祝日または振替休日の場合は開館、翌日休館
会場 東京藝術大学大学美術館(上野公園) 本館 展示室1、2、3、4
観覧料 一般1,500円(1,200円)高校・大学生1,000円(700円)
※中学生以下無料
※( )は、20名以上の団体料金  ※ 団体観覧者20名につき1名の引率者は無料
※障がい者とその介護者1名は無料。入館の際に障がい者手帳などを要提示。お得なチケット情報
※詳細は公式サイトでご確認ください。
公式サイト https://okyokindai2019.exhibit.jp/

 

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【7.20(土)より東京都美術館にて開催】伊庭靖子展 まなざしのあわい 報道内覧会レポート

東京都美術館


2019年7月20日(土)から上野の東京都美術館で、「伊庭靖子展 まなざしのあわい」が開催されています。【10月9日(水)まで】
先日、本展の報道内覧会が開催されましたので、今回は、そのレポートをお届けします。


伊庭靖子展について

伊庭靖子さん

 

伊庭靖子は、画家としての自身の眼とモチーフのあわい(間)にある世界に魅せられ、触れたくなるような質感のモチーフやそれがまとう光を描くことで、そのものの景色を表現し続けてきました。
その創作スタイルは、自ら撮影した写真を元に制作するもので、2000
年代は、主に寝具や器をモチーフとしていました。
近年も、制作スタイルは変わっていませんが、接近していたモチーフとの距離が少しずつ広がっています。
風景への関心が徐々に高まり、周りの空間への視点が広がることにより、新たな展開を見せる伊庭作品。
今回の展覧会では、東京都美術館にて撮影した写真から描いた絵画をはじめ、版画、新たな試みとして映像作品が発表されています。

2009年の個展、「伊庭靖子――まばゆさの在処――」(神奈川県立近代美術館)以来、10年ぶりの美術館での開催となる「伊庭靖子展 まなざしのあわい」。
本展覧会は、近作・新作を中心に、新たな展開に至る前の作品も併せて展示することにより、伊庭靖子の10年の変化とともに、変わらない関心の核に迫ります。

 

展覧会のみどころ

展覧会の見どころは、3つです。

①10年ぶりとなる個展で、東京の美術館では、はじめての開催

国内外の主要な美術館に多く収蔵されている伊庭作品。
その人気は、美術館だけでなく、多くのコレクターにも愛されています。
今回の展覧会は、個人の邸宅で大切に保管されている、たくさんの所蔵者にご協力いただき、近作・新作につながる2004年からの作品を展示します。
普段は、中々見ることができないコレクターお気に入りの作品が目白押しです。

②新作中心の展覧会

今回の展覧会は、開催が決定した、2016年春から、3年余りの時間を掛け準備を行い、絵画、版画、映像といった新作を中心に展示しています。
東京都美術館で撮影した写真から描いた絵画は、伊庭のレンズと手を通して生まれ変わり、美術館を設計した前川國男の建築に新たな命を吹き込みました。

③映像作品に初挑戦

絵画に軸を置き、制作活動を広げてきた伊庭は、今回初めての映像作品に挑戦しています。
光に満ちた静謐(せいひつ)な空間を描く絵画から発展し、大気、光、雰囲気などの人間の目と見る物の対象との間にある様々なものを意識させる映像作品となっています。

 

展示作品紹介

 

Untitled 2018-02 油彩、カンヴァス  作家蔵(協力:MA2 Gallery)

この作品は、東京都美術館で撮影した写真から描かれています。
アクリルボックスにモチーフを入れて制作。
透明なアクリルボックスに反射して映り込む周りの景色と対象物の光が何重にも重なり合って、独特の世界を生み出しています。

 

 

Untitled 2006-07 油彩 カンヴァス 個人蔵

クッションを両手でギュッと抱きしめた後に出来る皺(しわ)の質感。
そこに暮らす人の生活の温もりも感じ取れるように思えます。
作品の前に佇むと、光を帯びて、作品が浮かび上がってくるような錯覚を覚えるから不思議です。

 

 

Untitled 2015‐01 油彩 カンヴァス 作家蔵(協力:MA2 Gallery)

ガラスの透明感、つや、器から伸びた影が、繊細に表現されています。
背景の淡い桜色が、対象物を際立たせています。

 

 

depth #2019 映像インスタレーション ランダム・ドット・ステレオグラム(交差視)/Random dot stereogram(Cross-eyed viewing)

伊庭の新作映像作品の内の一つ。
左右の目の視差を利用し、立体的に物を見る方法を使いスクリーンを見ると、ある画像が現れます。
人によって、日によっても見え方が変わってくるというから面白いです。
実際に目で見て感じ取ってください。

 


まとめ

 

「それぞれの作品を目で見て、体でも感じながら、ご自身の過去の思い出を呼び覚ましてもらいたい」と話す伊庭靖子さん。

目に見える対象物から目に見えないものの存在感を感じ取る。
それが伊庭作品の鑑賞の仕方です。

対象物とそれがまとう光を描くスタイルを取りながらも、絵画だけではなく、映像などの新しい視覚表現に挑戦し続け、変化する伊庭靖子。
本展覧会に、是非足を運んでみてはいかがでしょうか?

 

 

開催概要

展覧会名 「伊庭康子展 まなざしのあわい」
会期  2019年7月20日(土)~10月9日(水)
会場 東京都美術館 ギャラリーA・B・C
休室日  月曜日、8月13日(火)、9月17日(火)、9月24日(火)
※ただし、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開室
開室時間
9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(いずれも入室は閉室の30分前まで)
※ただし、7月26日(金)、8月2日(金)、9日(金)、16日(金)、23日(金)、30日(金)は9:30~21:00
観覧料 当日券 | 一般 800円 / 大学生・専門学校生 400円 / 65歳以上 500
団体券 | 一般 600
※団体割引の対象は20名以上
※高校生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※8月21日(水)、9月18日(水)は「シルバーデー」により、9月16日(月・祝)は「敬老の日」により、65歳以上の方は無料
※8月17日(土)、18日(日)、9月21日(土)、22日(日)は「家族ふれあいの日」により、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住、2名まで)は、一般料金の半額
※いずれも証明できるものをご持参ください
※10月1日(火)は「都民の日」により、どなたでも無料[サマーナイトミュージアム割引]
7月26日(金)、8月2日(金)、9日(金)、16日(金)、23日(金)、30日(金)の17:00~21:00は、一般600円、大学生・専門学校生無料(証明できるものをお持ちください)

[相互割引]本展会場入口で下記展覧会の観覧券(半券可)をご提示の方は、一般当日料金が割引になります(いずれも1枚につき1名1回限り、他の割引との併用はできません)

・特別展「コートールド美術館展 魅惑の印象派
一般当日料金から300円引き。本展の観覧券(半券可)を当館内のチケットカウンターでご提示の方は、「コートールド美術館展 魅惑の印象派」の当日券が100円引き
・東京都庭園美術館「1933年の室内装飾 朝香宮邸をめぐる建築素材と人びと
一般当日料金から200円引き。本展の観覧券(半券可)を、東京都庭園美術館の正門横の券売所でご提示の方は、「1933年の室内装飾 朝香宮邸をめぐる建築素材と人びと」の一般料金が180円引き・東京都現代美術館「あそびのじかん」展
一般当日料金から200円引き。本展の観覧券(半券可)を、東京都現代美術館のチケットカウンターでご提示の方は、「あそびのじかん」展の一般料金が120円引き

家族ふれあいの日
(https://www.tobikan.jp/guide/hospitality.html#anchor1)

シルバーデー
( https://www.tobikan.jp/guide/hospitality.html#anchor2)

都内教育機関 観覧料免除申請
(https://www.tobikan.jp/learn/exemption.html)

パパママデー
(https://www.tobikan.jp/guide/nurseryservice.html)

特設WEBサイト https://www.tobikan.jp/yasukoiba

※その他イベント情報は、特設WEBサイトにてご確認頂けます。

 

記事提供:ココシル上野


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【台東区立書道博物館企画展】漢字かんじのなりたちー古代文字こだいもじ世界せかい取材しゅざいレポート

台東区立書道博物館

現在、東京台東区の書道博物館しょどうはくぶつかんにて、漢字かんじのなりたちー古代文字こだいもじ世界展せかいてんが開かれています。(~9月23日〔月・祝]まで)
今回、書道博物館しょどうはくぶつかんにお邪魔じゃまして、お話をうかがってきましたので、展示会てんじかいの様子と共にお送りします。

漢字かんじなりてんとは?

令和元年の今年は、現存げんぞんする最古さいこ漢字かんじといわれる、「甲骨文字」こうこつもじが発見されてから、120年目に当たる年です。
本展覧会は、その最古の漢字「甲骨文字」こうこつもじや、書家しょかであり、洋画家ようがかである中村不折なかむらふせつのコレクションの中から、しん始皇帝しこうていにより定められた文字、青銅器せいどうきに記された文字、「三国志」さんごくし登場とうじょうする人物の書などを、お子様向けに分かりやすく解説かいせつしたものです。

展示てんじ内容ないよう

書道博物館の1Fの第一展示フロアには、大きく2つのコーナーがあります。
1つ目は、「漢字のご先祖ごせんぞさま」というコーナー。
このコーナーでは、中国の殷時代いんじだいの漢字のご先祖様がいろいろな動物で形作った漢字のはじまりとなったものから、わかりやすく漢字の歴史を学ぶことができます。
もう1つは、古代中国こだいちゅうごく世界せかいというコーナーがあります。

(左)ひつじ (甲骨文字第一期こうこつもじだいいっき/亀腹甲)きふくこう (右)とら (甲骨文字第一期こうこつもじだいいっき/ 牛肩甲骨)ぎゅうけんこうこつ
とり(甲骨文字第一期こうこつもじだいいっき)/亀腹甲)きふくこう
武氏祠石闕画像銘ぶししせっけつがぞうめい

2Fの展示てんじフロアには、漢字が発明はつめいされた伝説やでんせついろいろな占いうらな青銅器せいどうき春秋戦国時代しゅんじゅうせんごくじだいしんの時代に書かれた文字のコーナーがあります。

蒼頡書そうけつしょ 蒼頡そうけつ(古代) (~むかしばなし漢字はつめい伝説より~) 
タタリはないでしょうか?殷時代いんじだい・前13世紀 (~いろいろな占いコーナーより)

また、2Fには、中国しんの時代の文字を展示した特別展示室とくべつてんじしつ中村不折記念室なかむらふせつきねんしつも併設しています。中村不折記念室なかむらふせつきねんしつには、中国かんの時代の文字やリトル三国志さんごくしコーナーとして、現存する中で一番古い「三国志」さんごくし写本しゃほん三国時代さんごくじだいの文字が展示てんじされています。
(※写本しゃほんとは、手書きで書き写した文書のことです。)

この記念室には、もう1つ、中村不折なかむらふせつ親交しんこうのあった俳人はいじん正岡子規まさおかしきにまつわる展示もあります。

あの諸葛 亮 孔明しょかつりょうこうめい唯一ゆいいつの書といわれている 玄莫帖げんばくじょう 諸葛亮 しょかつりょう(181~234)筆/三国時代さんごくじだい(しょく)・3世紀
重要文化財じゅうようぶんかざい三国志さんごくし呉志ごし第二十残巻だいにじゅうざんかん 8/4までしか見られない貴重なきちょう展示品てんじひんです。
正岡子規像まさおかきしぞう中村不折なかむらふせつ筆/明治~昭和時代・20世紀

それぞれのコーナーで漢字かんじ歴史れきしたのしくまなぶことができます。

■見どころについてお聞きしました。

展示会の見どころについて、書道博物館主任研究員しょどうはくぶつかんしゅにんけんきゅういん中村信宏なかむらのぶひろさんにお話をうかがいました。

お子さんにどういうところを楽しんでもらいたいですか?

漢字の成り立ちを示すなま資料しりょうを見ていただきたいですね。
3500年もいきながらえた生命力せいめいりょくのありそうな資料しりょうの中の漢字の線を、写真なんかじゃなく、実際じっさいに目でみることに大きな価値かちがあると思います。

その中でも一番に見ていただきたいのは、動物の文字です。
かたどったのは、「その姿なのか?」、「顔なのか?」「どうやって、かたどったのか?」それだけで文字のとらえ方が全然違ってきます!

また、こんな小さな小さな博物館はくぶつかんで、漢字の成り立ちの歴史れきし一望いちぼうできるというのは、非常ひじょうに強みですね。
お子さんを連れて来られるご両親りょうしんも楽しめる展示となっていますので、夏休みに親子でいらしてください。

中村さんが一番お気に入りの展示物はなんですか?

史頌?ししょうきですね。こんなにきれいな状態で、文字が見られる青銅器せいどうきは珍しいです。
この青銅器せいどうきは今回のみの展示なので、貴重きちょう機会きかいです。

■さいごに

「小学生の方の目線で展示物を紹介したので、展示物の説明にそうルビをる作業は、大変でした。」と楽しそうに話す、書道博物館主任研究員しょどうはくぶつかんしゅにんけんきゅういんの中村さん。
その面白おもしろくて、ためになる説明は、漢字をもっとみじかに、楽しくお子さんに伝えたいというおもいであふれていました。
そのような中村さんのお話を聞きに、ご家族かぞくで書道博物館に来てみませんか?

展示物に書かれている、こんな楽しい文章も魅力みりょくです。 ~むかしばなし漢字かんじはつめい伝説のコーナーより~

 

会期 開催中(~9月23日(月曜日・祝日)まで)
開館時間 午前9時30分~午後4時30分(入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日(月曜が祝日・休日の場合は翌平日)
ただし、8月12日(月・祝休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開館。
8月13日(火)、9月17日(火)は休館。
入館料

一般・大学生:500円(300円)、高・中・小学生:250円(150円)※( )内は20名以上の団体料金。

※毎週土曜日は台東区在住・在学の小、中学生とその引率者の観覧料が無料です。
※障害者手帳または特定疾患医療受給者証をお持ちの方、及びその介護者は無料です。

公式HP http://www.taitocity.net/zaidan/shodou/

 

※8月4日(日)には、キッズセミナー「かんじのひみつ」というガイドツアーとワークショップも予定しています。

■キッズセミナー「かんじのひみつ」
お子さまのためのガイドツアーとワークショップ

(事前申込制)

日時 2019年8月4日(日)
11:00~
定員 会場が手狭なため、事前申込制で各回20名程度となります。
応募人数により、開始時間を調整させて頂く場合があります。ご了承下さい。
申込方法 往復はがきの「往信用裏面」に、郵便番号・住所・氏名(ふりがな)・電話番号・年齢・希望日時を、「返信用表面」に郵便番号・住所・氏名を明記して下記までお申込下さい。1通のはがきで1名・1回の申込となります。聴講無料。ただし当日の観覧料が必要です。
申込先 〒110-0003 台東区根岸2-10-4
台東区立書道博物館 キッズセミナー係
締切 2019年7月26日(金)必着

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【東京国立博物館】特別展「三国志」内覧会レポート

東京国立博物館

関羽像 明時代・15〜16世紀 新郷市博物館

 

2019年7月9日(火)から9月16日(月・祝)まで、東京国立博物館では
特別展「三国志」が開催されています。
メディア向け内覧会が開かれましたので、今回はその様子をお伝えいたします。

漫画、人形劇、ゲーム・・・幅広い分野で取り上げられ、多彩な展開を見せる「三国志」。その出発点は中国の正史『三国志』や『三国志演義』で、長い歴史の中で民衆に愛され続け、日本における人気にはいまだ陰りが見えません。関羽、趙雲、呂布・・・スケールの大きな武将たちの生き様に胸を熱くした人たちも多いのではないでしょうか。

本展の合言葉は「リアル三国志」。資料が少なく、その実態の多くが謎に包まれた三国時代について、選りすぐりの文物と最新の研究成果をまじえてその実像に迫り、これまでの三国志を超えた考古学ならではの新たな三国志の構築を目指すものです。

 

三国志とは?

『関羽・張飛像』張玉亭作 清時代・19世紀 天津博物館

前後400年あまり続いた漢王朝。しかし外戚や宦官が実験を握ることによって腐敗し、黄巾の乱(184年)が勃発するなど社会秩序は混乱をきたすようになっていきました。動乱の収拾をはかるべく漢王朝は有力諸侯の力を頼みとし、この求めに応じて曹操、劉備、孫堅らが挙兵。やがて彼らは魏・蜀・呉を打ち立て、ここに天下三分の形勢が定まることになります。

「三国志」は彼らが活躍した三国時代をもとにした物語。現在、世間に流布している三国志の物語は、その骨子の多くを後世に書かれた読み物『三国志演義』をもとにしています。

 

あの名場面が甦る!伝説の中の英傑たち

展示冒頭ではおなじみの名場面を描いた絵画・壁画などを紹介

 

『三国志演義』の一場面(『三国故事図』 天津博物館蔵)。何の場面かわかる人は相当な三国志通

 

『趙雲像』清時代・17〜18世紀 毫州市博物館

展示会場の冒頭では、私たちになじみ深い「三国志」の物語を題材にした作品を展示。幼い頃から脳裏に焼き付けてきた英傑たちの姿が蘇ります。この特別展「三国志」は三国志初心者の方にもぜひ見て欲しい展覧会なのですが、やはりこういう楽しみ方はマニアの特権ですね。

上の『趙雲像』は戦場に取り残された主君の息子を助けようと、単騎で敵陣の中を駆けた趙雲のエピソードを題材にしたもの。「三国志」必至の名場面です。本作は建物の装飾の一部と考えられており、彫刻も簡素ですが、赤子を抱えながら馬に鞭打つ姿が生き生きと表現されています。

 

横山三輝『三国志』の原画を展示

 

人形劇『三国志』で使用された、川本喜八郎氏の人形

 

ゲーム内で登場した張飛の武器「蛇矛(じゃぼう)」。蛇矛自体は実在したが、三国時代に存在したのかは不明

会場では、「リアル」な出土品と並び、横山光輝による漫画『三国志』の原画や、川本喜八郎のNHK『人形劇 三国志』で実際に使用された人形を展示。さらに大人気ゲームシリーズ『三国無双』のキャラクターたちも参戦し、本展を彩ります。ディープな三国志ファンはもちろん、さまざまなメディアを入り口に興味を持った三国志初心者の方でもわかりやすく楽しめます。

 

いざ、「リアル三国志」へ

矢が飛び交う戦場を再現した第3章の展示室

 

使用された矢は実に千本以上

 

矢を打ち出す「弩(ど)」。いわゆるクロスボウ

「三国志」といえば、やはり合戦の魅力を抜きにしては語れません。ということで第三章では漢から三国の武器を展示し、「戦場のリアル」を私たちに伝えてくれます。

会場に足を踏み入れると、まるで戦場を矢が飛び交っているような装飾が施されており、まるで気分は赤壁の戦い?!
使用された矢の総数はなんと千本以上。船体に突き刺さっているさまがリアルです。当時の主要な武器は剣、刀、槍(矛)、弓矢ですが、中でも柄に弓を取り付け引き金を引いて発射する弩(ど)は殺傷力が強く、重要な役割を果たしました。

 

 

原寸大で再現された「曹操高陵」

本展の特徴のひとつは、迫力ある展示空間。第五章では魏の曹操が葬られた「曹操高陵(そうそうこうりょう)」を会場内に原寸大で再現。神秘的な墓内の空間を体感できます。

曹操高陵は2008年から2009年にかけて河南省安陽市で発掘されたもので、当初は西高穴二号墓と名付けられていましたが、場所が古記録における曹操高陵の所在地と一致していること、さらに副葬品に曹操を指す「魏武王」と記した石碑があったことから曹操高陵であることが確実になりました。

 

儀仗俑 後漢時代・2〜3世紀 甘粛省博物館

 

『金製獣文帯金具』後漢時代・2世紀 寿県博物館

 

『五層穀倉楼』1973年 焦作市博物館

 

蜀の大墓で使用された『虎型棺座』(三国時代・三世紀 南京市博物総館)。

このほか、本展では中国から来日する最新の考古発掘成果約160点を展示。最新の学術成果とともに、いまだ知られざる「三国志」の実像に迫ります。


三国志の舞台となったのは、184年の黄巾の乱から280年の西晋王朝による統一までの時期。そのわずか百年ほどの物語が、こうして時代を超え、国を超え、語り継がれているのは不思議です。

 

本展の開催期間は2019年7月9日(火)から9月16日(月・祝)まで。
誰もが知っているようで、誰もが知らない三国志の「リアル」。
初心者のあなたも、三国志ファンのあなたも、ぜひ会場に足を運んでみてください!

 

個人的にぜひ覗いて欲しいのが物販コーナー。横山光輝「三国志」からゲーム「三国無双」など、おなじみのキャラクターたちが勢ぞろい

 

開催概要

展覧会名 日中文化交流協定締結40周年記念 特別展「三国志」
会 期 2019年7月9日(火)~9月16日(月・祝)
午前9時30分~午後5時 ※金・土曜は午後9時まで (入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜、7月16日(火) ※ただし7月15日、8月12日、9月16日は開館
会場 東京国立博物館平成館(上野公園)
観覧料 一般1,600円(1,300円)、大学生1,200円(900円)、高校生900円(600円)
中学生以下無料
※ ( )内は20名以上の団体料金
※ 障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名様は無料
公式サイト https://sangokushi2019.exhibit.jp/

 

記事提供:ココシル上野


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【国立西洋美術館】モダン・ウーマン 報道内覧会レポート

国立西洋美術館


2019年6月18日(火)から9月23日(月・祝)まで、東京上野の国立西洋美術館で、「日本・フィンランド外交関係樹立100周年記念 モダン・ウーマンーフィンランド美術を彩った女性芸術家たち」が開催されています。

本展の報道内覧会が開催されましたので、今回は、そのレポートをお届けします。

 

モダンウーマン展とは?

モダン・ウーマン展は、日本とフィンランドの外交関係樹立100周年を記念して開催される、独立前後のフィンランドを生き、同国の近代美術に大きな革新をもたらした7人の女性芸術家に焦点を当てた、日本初の展覧会です。

展示作品は、絵画、彫刻、素描、版画など約90点。
近年世界的に注目されるヘレン・シャルフベック他、19世紀末から20世紀初頭に活躍した5人の画家の作品や、パリでオーギュスト・ロダンに師事した2人の彫刻家の作品が展示されています。

 

フィンランドにおける女性芸術家の歴史


(写真)ヘレン・シャルフベック

19世紀後半から20世紀初頭のフィンランド。
この時期のフィンランドは、ロシアからの独立運動や1917年に誕生する新しい国家の形成と歩調を合わせるように、社会における女性の立場や役割に大変革が起こりました。

19世紀半ばに設立されたフィンランドで最初の美術学校でも、創立当初から男女平等の美術教育を推奨するという、当時のヨーロッパでは珍しい教育方針が取られていました。そのため、この時代の女性たちは、留学のチャンスや奨学金の支援を受け、国際的な環境で研鑽(けんさん)を積みながら芸術家としてのキャリアを切り開くことができたのです。

 

展示作品紹介

マリア・ヴィーク<教会にて>
1884年 油彩、カンヴァス 56.0×46.5㎝


真っ直ぐとした視線で、祈る少女。
その迷いのない純粋な瞳に、思わず目を背けてしまいそうになります。

 

ヘレン・シャルフベック<占い師(黄色いドレスの女性)>
1926年 油彩、カンヴァス 65.5×51.0㎝

全体的に淡い色彩が特徴的な作品です。
黄色いドレスの占い師は凛(りん)としています。

 

エレン・テスレフ<フィンランドの春>
1942年 油彩、カンヴァス 70.0×54.5㎝

春の訪れに気分が高揚した少女の姿が、色彩豊かに描かれています。

 

(作品右)
シーグリッド・ショーマン<自画像>
年記無し 油彩、カンヴァス 41.0×32.5㎝

(作品左)
シーグリッド・ショーマン<エリサベツ・ヴォルッフ>
1940年 油彩、カンヴァス 42.0×33.5㎝

これらの作品は、はっきりとした人物の特徴が把握できない肖像画に思えますが、
よく鑑賞するにつれて、豊かな表情が浮かびあがってくるように感じられるから不思議です。

 

(作品右)
エルガ・セーセマン<通り>
1945年 油彩、カンヴァス 73.5×54.0㎝

(作品左)
エルガ・セーセマン<カフェにて>
1945年 油彩、厚紙 73.0×49.5㎝

右側の作品には、荒廃した通りの風景が描かれています。
少し寂し気ですが、右側を歩く人の哀愁を帯びた後ろ姿と共に、映画のワンシーンを連想させます。

対して、左側の作品。
新しいファッションに身を包んだ女性には、フィンランドの新しい時代を生き抜いていく決意が感じられます。

 

シーグリッド・アフ・フォルセルス<青春>
1880年代 ブロンズ 42.0×43.0×26.0㎝

端正な顔立ちの女性。
その希望に満ちた表情には、未来の不安など微塵も感じさせません。

 

 まとめ

社会における女性の立場や役割を切り開きながらキャリアを積んでいったフィンランドの女性芸術家たち。彼女たちの作品から、フィンランドの文化だけでなく、男女平等や女性の社会進出という礎(いしずえ)を感じ取ることもできます。会場は、そんな芸術家たちの作品を食い入るように見つめる人たちの熱気で、あふれていました。

あなたも本展覧会に足を運んで、その熱気を是非、体感してみてはいかがでしょうか?

 

開催概要

展覧会名 日本・フィンランド外交関係樹立100周年記念 モダン・ウーマン-フィンランド美術を彩った女性芸術家たち
会 期 2019年6月18日(火)〜9月23日(月・祝)
9:30~17:30(入館は閉館の30分前まで)
(ただし、会期中の金曜・土曜は21:00まで開館)
休館日 毎週月曜日、および7月16日(火)は休館。
※7月15日(月・祝)、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開館。
会場 国立西洋美術館(上野公園)
観覧料 一般500円(400円)、大学生250円(200円)
※高校生以下及び18歳未満、65歳以状上は無料(入館の際に学生証または年齢の確認できるものをご提示ください)。
※( )は、20名以上の団体料金
※障がい者とその介護者1名は無料。入館の際に障がい者手帳などを要提示。毎週金・土曜日の夜間開館時(17:00-21:00)、および毎月第2・第4土曜日は、本展および常設展は観覧無料。*「国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展」(6月11日ー9月23日)観覧当日に限り、同展観覧券で本展をご覧いただけます。
公式サイト https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2019modernwoman.html

 

記事提供:ココシル上野


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【国立西洋美術館開館60周年記念】松方コレクション展 報道内覧会レポート

国立西洋美術館


2019年6月11日(火)から9月23日(月・祝)まで、東京上野の国立西洋美術館で、
「国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展」
が開催されています。

本展の報道内覧会が開催されましたので、今回は、そのレポートをお届けします。

 

松方コレクションとは?

フランク・ブラングィン <松方幸次郎の肖像> 1916年 国立西洋美術館蔵(松方幸次郎氏御遺族より寄贈)

国立西洋美術館のコレクションの礎(いしずえ)を築いた実業家、松方幸次郎(1866-1950)。
神戸の川崎造船所(現・川崎重工業株式会社)を率いた松方は、第一次世界大戦による船舶需要を背景に事業を拡大しながら、1916-1927年頃のロンドンやパリで大量の美術品を買い求めていました。当時の収集品はモネやゴーガン、ゴッホの絵画、ロダンの彫刻などの近代作品、中世の板絵やタペストリーまで約3000点。

「日本人のために美術館を作りたい」

そんな思いから収集された作品群が、松方コレクションです。

本展覧会は、松方コレクションの形成と散逸、国立西洋美術館が設立されるにいたる過程を、貴重な美術作品約160点や歴史資料でたどります。プロローグ~エピローグまでの全10章からなる道のりは、コレクションの収集に人生を賭けた松方の思いを私たちに伝えてくれることでしょう。

 

松方コレクションの見どころ

今回の展覧会の見どころは、大きく分けて3つあります。

1つ目は、フィンセント・ファン・ゴッホ『アルルの寝室』(1889年)をはじめ、世界各地に散逸した松方旧蔵の名作が集結して展示されていること。

2つ目は、松方がモネのアトリエで直接購入し、長い間行方知らずとなっていた大作、『睡蓮、柳の反映』(1916年)が修復後、初公開されること。

3つ目は、松方コレクションがロダン美術館の旧礼拝堂に保管されていた時代に、フランス人カメラマン、ピエール・シュモフにより撮影された365枚のガラス乾板の内の16点が歴史資料として初公開されることです。

 

展示会場

 

フィンセント・ファン・ゴッホ <<アルルの寝室>> 1889年 油彩、カンヴァス 57.5×74㎝ オルセー美術館、パリ

 

 

ロダン美術館保管時代に松方コレクションを写したガラス乾版(ピエール・シュモフ撮影) フランス文部省・建築文化財メディアテーク

 

 

『睡蓮、柳の反映』作品修復の苦労と今後の展望

クロード・モネ <睡蓮、柳の反映> 1916年 油彩、カンヴァス 199.3×424.4㎝(上部欠失) 国立西洋美術館、東京(松方幸次郎氏御遺族より寄贈)

3つの見どころの中で特に目を惹く作品は、クロード・モネの『睡蓮、柳の反映』
睡蓮の池の水面に柳の木が逆さまに映り込んでいる様子を、日本の屏風絵を連想させる装飾的な手法を使い表現した大変スケールの大きな作品です。修復前の状態が、これほど破損していた作品は珍しいとのこと。

国立西洋美術館研究員の邊牟木尚美氏は、「第二次世界大戦中、ナチスの捜索を逃れて、作品を農家に避難させていた際、上下逆さまに置いて保存していたのが原因では?」と推測されていました。

本作の場合、本来は3年から4年掛けて修復するところ、修復期間が1年と短いため、最低限の復元をするに留めたとのこと。大変大きな作品のため重量があり、作品を裏返すだけでも7人ほどの大人数が必要で一苦労だったそうです。

また、邊牟木氏は結びに「今後は、他のモネの睡蓮シリーズの比較検討をしながら、長期的にモネ作品の修復に努めていきたい」ともおっしゃっていました。

 

展示作品紹介

 

フィンセント・ファン・ゴッホ <ばら>

1889 年 油彩、カンヴァス 33×41.3㎝ 国立西洋美術館、東京

精神を病んだゴッホが、サン=レミ精神療養院で入院中に、近くに咲くばらを描いた作品。生命力ある活き活きとしたばらが、激しい筆使いで描かれています。

ばらの質感だけでなく、香りまでもが感じられるようです。

 

カミーユ・ピサロ <収穫>

1882年 膠テンペラ、カンヴァス 70.3×126㎝ 国立西洋美術館、東京(松方幸次郎氏御遺族より寄贈)

この作品は、膠(にかわ)テンペラという材料に挑戦し、従来の風景画家から人物画家へと移行した、ピサロの節目となった作品。今まで添景としてしか描かれていなかった人間が、前面に描かれるようになります。向こうの家まで見える、広々とした田園風景に心が奪われます。

風によって流れる麦の質感と作業をする人々の息遣いが聞こえてきそうです。

 

エドヴァルド・ムンク <雪の中の労働者たち>

1910年 油彩、カンヴァス 223.5×162㎝ 個人蔵、東京(国立西洋美術館に寄託)

晩年のムンクが描いた人物画です。雪深い過酷な状況で作業している労働者たち。前面には、スコップを肩に担いだり、雪に突き刺したりして、誇り高い表情でこちらを向く3人の男。その後ろには、黙々と作業する人々が生き生きと描かれています。

それぞれの姿に暗さはなく、むしろ、明るさすら感じられます。

 

シャルル=フランソワ・ドービニー <ヴィレールヴィルの海岸、日没>

1870年 油彩、カンヴァス 100×197㎝ 株式会社三井住友銀行、東京

バルビゾン派の風景画家ドービニーの晩年の作品。

大きな海に静かに流れる波の音と夕焼けの空。その風景と浜辺を歩く人々の姿が、印象的です。人々は小さくしか見えませんが、どんな表情をしているんだろう?仕事を終えて明るい顔をしているんだろうか?

想像力を掻き立てられます。


関東大震災や昭和金融恐慌によって散逸し、数奇な運命をたどってきた松方コレクション。
本展の展示作品のキャプションには、その作品がいつ、どこで購入されたのかが綿密に記されており、その流転の歴史を知ることができるように工夫されています。

数十年の歳月を経て結実した、「日本のための美術館を作りたい」という松方幸次郎の夢。
ぜひ会場に足を運んで、その想いの一端に触れてみてはいかがでしょうか?

 

 

開催概要

展覧会名 国立西洋美術館開館60周年記念「松方コレクション展」
会 期 2019年6月11日(火)〜9月23日(月・祝)
9:30~17:30(入館は閉館の30分前まで)
(ただし、会期中の金曜・土曜は21:00まで開館)
休館日 毎週月曜日、および7月16日(火)は休館。
※7月15日(月・祝)、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開館。
会場 国立西洋美術館(上野公園)
観覧料 一般1600円(1400円)、大学生1200円(1000円)、高校生800円(600円)
※中学生以下無料
※( )は、20名以上の団体料金
※障がい者とその介護者1名は無料。入館の際に障がい者手帳などを要提示。
公式サイト https://artexhibition.jp/matsukata2019/

 

記事提供:ココシル上野


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【東京都美術館】「クリムト展 ウィーンと日本 1900」報道内覧会レポート

東京都美術館

グスタフ・クリムト  《ユディトⅠ》 1901年

 

2019年4月23日(火)から7月10日(水)の期間、『クリムト展 ウィーンと日本 1900』が東京都美術館にて開催されます。開幕に先立ち、4月22日にプレス内覧会がおこなわれましたので、その模様をお伝えいたします。

 

金箔を多用した華やかな装飾性。死とエロス、そして生命の連鎖をも感じさせる世紀末的な官能性。19世紀末ウィーンを代表する画家グスタフ・クリムト(1862-1918)の手がけた甘美な女性像や風景画は、今なお圧倒的な人気を誇っています。

没後100年を記念して開催される本展では、初期の自然主義的な作品から誰もが知る「黄金時代」の時代の様式、女性画や風景画まで、クリムトの油彩画では日本では過去最多の25点以上の作品が集結。さらに同時代に活躍した画家たちの作品、クリムトが影響を受けた日本の美術品なども合わせて紹介し、クリムトの画業の全貌に迫ります。

 

展示風景

展示の序盤では、劇場装飾に携わった修行時代の作品を紹介

 

初期は正統派の古典絵画を描いていたクリムト。男性像には伝統的な作風が見て取れる

 

多様な表情を研究するために制作された肖像画。好みの女性に似せて描いたとも

 

クリムトを語る上で欠かせないのは日本とのつながり。同時代の静物画にも東洋的異国趣味が表現されている

 

全長34メートルにもおよぶ代表作《ベートーヴェン・フリーズ》の原寸大複製の展示室

 

本展は全八章構成です。

Ⅰ クリムトとその家族
Ⅱ 修行時代と劇場装飾
Ⅲ 私生活
Ⅳ ウィーンと日本 1990
Ⅴ ウィーン分離派
Ⅵ 風景画
Ⅶ 肖像画
Ⅷ 生命の連環

 

クリムトは生前多くを語らず、「私について知りたいならば、私の絵を注意深く観察するべきです」と語っていました。
その言葉を裏付けるように、彼の絵から伝わってくるのはまさに「人生」そのもの。展示構成もクリムトの画業をその始めから辿るように構成されています。

クリムトといえば豪華絢爛な黄金様式ですが、その作風は試行錯誤の末に生まれたもの。クリムトは初期はアトリエ「芸術家カンパニー」の経営を通じて正統的な古典絵画を手がけていましたが、共同経営者だった弟が早世すると1897年に「ウィーン分離派」を設立。クリムトはその初代会長となり、アカデミックで保守的な作風を脱し、独自の世界観を開花させていったのです。

また、本展では移ろうクリムトの画風をつまびらかに紹介しますが、見逃せないのが第4章です。
クリムトは浮世絵や甲冑など、日本の美術品を好んで収集していましたが、《17歳のエミリーリエ・フレーゲ》など、その研究成果が現れた作品を展示。「日本とクリムト」という文脈でその絵画世界を読み解きます。

 

展示作品紹介

グスタフ・クリムト《ユディト Ⅰ》1901年

クリムトの代表作として知られる《ユディト Ⅰ》。

「この作品は、今日クリムトを有名な画家にしている全ての要素を備えている」と語ったのは、展示解説をしてくださったマークス・フェリンガー氏(ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館 学芸長)。

主題は旧約聖書外典の一場面。ユダヤの町ベトゥリアを包囲したホロフェルネスを、若い未亡人ユディトが誘惑し、その首を切り落としています。
様式化された構図、装飾的な文様、裸身を晒す未亡人のエロティシズム。そして何より初めて本物の金箔が使われ、まさに「黄金時代の幕開け」となった象徴的な作品です。

うつろな瞳でこちらを見るユディトの表情には怖気が走りますが、この頃、クリムトは二人の非摘出子ができたことで扶養義務を負うことになり、そうした私生活上の事情が作品に反映されているそうです(!)。

 

グスタフ・クリムト《オイゲニア・プリマフェージの肖像》1913、もしくは14年

クリムトの最も重要な支援者のひとりであり、裕福な銀行家の妻でもある女性の肖像画。
画面には色とりどりの花、そして右上の隅には磁器、もしくは七宝の置物から着想を得たと思われる幸運と長寿を象徴する鳳凰が描かれています。

注目すべきは背景の黄色の鮮やかさ。クリムトは後期の作品のほとんどに補色を取り入れており、本作においても背景の黄色とオイゲニアのドレスの色、そして花の装飾が対比的に表現されています。

 

グスタフ・クリムト《女の三世代》 1905年

第八章では「生命の連環」と題し、生殖から死に至るまでの生命と男女の関係という、クリムトの絵画世界において決定的な影響を及ぼしたテーマについて考察しています。

本作は、まさにそうしたテーマを直接的に扱った作品で、本展において公開されたクリムト作品の中でもひときわ謎めいた存在感を放っています。

 

眠る幼児と、花々に彩られ、生命力あふれる若い女性。その背後にうなだれた姿勢で嘆息する、老いた女性。
まさに「女の三世代」をひとつの画面で描き分けた大作で、一生を通じての各段階の女性の姿が象徴的に描写されています。
彼女たちを彩る三角、円、うずまきなどの装飾性の奇妙さも印象に残ります。

1911年から1913年の間にローマで本作品を見た日本画家・太田喜二郎は、本作には日本画の霞の表現や友禅の模様など、「日本画の趣向」が見られると指摘。クリムトの作品には構図、色の組み合わせ、そして模様に日本の独自性が感じられると語りました。この作品にも、日本画がウィーンに、そしてクリムト絵画に吹き込んだ命は脈々と受け継がれているようです。


グスタフ・クリムト《赤子(ゆりかご)》1905年

「全ての作品が、それが肖像画であれ風景画であれ共通しているのは、グスタフ・クリムトにとって絵画作品は装飾品であった、ということです。彼の風景画にしても、自然をそのまま捉える眼差しで描かれたものではありません。肖像画も同様にデコラティブなモノとして扱われる、これがクリムト絵画の特色のひとつです」

マークス・フェリンガー氏は展示解説の中でクリムト絵画における「装飾性」について強調し、同時に彼が19世紀ウィーン美術界の文脈において、「最も重要な存在」であると語りました。

 

数々の会場を順番に回ることで見えてくる、彼の思考の宇宙。そして生涯。
革新性とエロス、そして「黄金様式」をはじめとする多彩な表現を、ぜひ会場でお楽しみください。

 

開催概要

会期 2019年4月23日(火)〜 7月10日(水)
会場 東京都美術館 企画展示室
開室時間 午前9時30分~午後5時30分
※金曜日は午後8時まで(入室は閉室の30分前まで)
休室日 5月7日(火)、20日(月)、27日(月)、
6月3日(月)、17日(月)、7月1日(月)
問合せ ○公式サイト
https://klimt2019.jp/outline.html
○ハローダイヤル
03-5777-8600
観覧料  一般 1,600円 / 大学生・専門学校生 1,300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1,000

※中学生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※いずれも証明できるものをご持参ください

 

記事提供:ココシル上野


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【東京国立博物館 平成館】特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」内覧会レポート

東京国立博物館


東京国立博物館平成館では、2019年3月26日(火)~6月2日(日)の期間、特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」が開催されます。

開催に先立ち行われたプレス向け内覧会に参加しましのたで、その様子をお伝えします。


東寺(教王護国寺)は、平安京遷都に伴い、王城鎮護の官寺として西寺とともに建立されました。唐で新しい仏教である密教を学んで帰国した弘法大師空海は、823年に嵯峨天皇より東寺を賜り、真言密教の根本道場としました。

空海は、「密教は奥深く、文章で表すことは困難である。かわりに図画をかりて悟らないものに開き示す」(『御請来目録(ごしょうらいもくろく)』)と語り、造形物を重視しました。このことから、密教美術にはすぐれた名品が数多く残っています。

本展では、空海にまつわる数々の名宝をはじめ、東寺に伝わる文化財の全貌を紹介しています。

後七日御修法(ごしちにちみしほ)

空海は、経典に従って修法(すほう)を行い効験を得るのが密教と述べています。様々な修法のなかで最も重要なのが、宮中に設けられた密教奏上である真言院(しんごんいん)で行われた後七日御修法です。

国家の安泰や天皇の健康が祈願され、明治以降は東寺で行われています。

どのような修法が行われているかは明らかにされませんが、本展覧会のために、儀式の際の道場内のしつらえの写真撮影が許可され、その様子が展覧会場に再現されています。貴重な儀式の様子を伺い知ることのできる貴重なチャンスです!

両界曼荼羅(りょうかいまんだら)

曼荼羅とは、仏教の経典の世界観を様々な方法で視覚的にわかりやすく表したもの。空海が重視していた「両界曼荼羅」は、『大日経(だいにちきょう)』と『金剛頂経(こんごうちょうぎょう)』という経典の世界をそれぞれ表した「胎蔵界曼荼羅」と「金剛界曼荼羅」を指します。両界曼荼羅は後七日御修法でも使用されます。

本展では期間中に3組の両界曼荼羅(計6つ)を入れ替えて展示します。

3月26日(火)~4月7日(日)に展示されるのがこちら。空海が中国から持ち帰った彩色曼荼羅(根本曼荼羅)の第二転写本であり、重要文化財に指定されています。

両界曼荼羅図(甲本) 胎蔵界 平安時代・建久2年(1191)東寺蔵 掲載期間3月26日~4月7日

曼荼羅は奥深い密教の教えを誰にでもわかるように示したもの。曼荼羅の配置図も一緒に展示されているので、大日如来を中心とした世界の解読にチャレンジしてみてください。

立体曼荼羅

東寺の講堂には、密教の根本経典である『金剛頂経』の世界観を立体的に表したとされる21体の仏像群が並びます。これらの立体曼荼羅は空海が構想したものです。本展にはこれらのうち、史上最多の出品となる15体が展示されています。

空海は「曼荼羅の仏は整然と森の木のように並び、赤や青さまざまな彩色が輝いている」と述べています。金剛界曼荼羅を意識した言葉と考えられています。その言葉のように、広い展示会場に15体の仏像が立ち並ぶ様子は圧巻です。

「仏像界一のイケメン」との呼び声高い帝釈天騎象像もじっくり拝観できます。

帝釈天騎象像 平安時代・承和6年(839)東寺蔵

 

VR作品『空海 祈りの形』

本展開催にあわせ、東京国立博物館地下1階にてVR作品『空海 祈りの形』を上映しています。

空海の入唐から行動建立目での軌跡をたどるほか、立体曼荼羅21体の仏像をVR技術で再現した映像を堪能できます。立体曼荼羅の中央に配置された高さ7メートルの「大日如来」が実物大で投影されるなど、迫力満点です。本展とあわせてぜひお楽しみください!

上映案内
場所:東京国立博物館東洋館地下1F TNM&TOPPANミュージアムシアター
期間:2019年3月27日(水)~6月30日(日)
上映日時:水・木・金 (12:00、13:00、14:00、15:00、16:00)
土・日・祝・休日(11:00、12:00、13:00、14:00、15:00、16:00)
※特別展期間中[3/26(火)~6/2(日)]の金・土は17:00、18:00追加上映
※所要時間約35分、各回定員90名
鑑賞料金:高校生以上500円  中学生・小学生300円
未就学児、障がい者とその介護者1名無料
※特別展「国宝 東寺ー空海と仏教曼荼羅」チケット提示で100円引き
※総合文化展当日券(一般620円/大学生410円)とセット購入で一般1000円/大学生800円
※開演時間までにチケットをお買い求めください(当日券のみ)。
シアターWEBサイト:http://www.toppan-vr.jp/mt/

 

開催概要

 

展覧会名 特別展「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」
会 期 2019年3月26日(火) ~6月2日(日)
会場 東京国立博物館平成館
(台東区上野公園13-9)
開館時間 9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
※ただし、会期中の金曜・土曜は21:00まで
休館日 月曜日、5月7日(火)
※ただし4月1日(月)[東寺展会場のみ開館]、4月29日(月・祝)、5月6日(月・休)は開館
問合せ 03-5777-8600(ハローダイヤル)
観覧料 一般1600円(1400円/1300円)、大学生1200円(1000円/900円)、高校生900円(700円/600円)
※中学生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金
※障がい者とその介護者一名は無料。入館の際に障がい者手帳などを要提示。
公式サイト https://toji2019.jp/

記事提供:ココシル上野


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台東区立朝倉彫塑館
「独断で選んだイケメン★オシメン」
取材レポート

台東区立朝倉彫塑館

下町の雰囲気を色濃く残す、谷中銀座商店街から徒歩3分のところに位置する朝倉彫塑館。彫刻家の朝倉文夫(1883‐1964)のアトリエ兼住居だった建物を一般公開しています。朝倉の手による彫刻作品が鑑賞できるのはもちろんですが、朝倉自身が設計を手掛けた建物は国の有形文化財に登録(2001)されており、敷地全体が「旧朝倉文夫氏庭園」として国の名勝に指定(2008)されています。作品、建物、庭園が楽しめる朝倉彫塑館は、近年海外の観光客からも注目されています。

今回はそんな朝倉彫塑館で2019年3月8日(金)~6月5日(水)の期間に催されている企画展「独断で選んだイケメン★オシメン」を取材しましたので、その様子をお伝えします。


常設展示内の特集では、朝倉彫塑館が所蔵する作品のうち、職員の皆さんがイケメンだと思った作品を展示しています。

正面が職員から人気NO.1の《競技前》。顔が小さく、引き締まった筋肉質な身体つきが特徴

大きく窓を取り、自然光が降り注ぐアトリエ。コンクリート造ながらもどこか温かい雰囲気なのは曲線を多用しているから。影もやわらかくなるそうです。天井高は8.5mとのこと。

警察犬スター号をモデルにした作品もイケメンとして選出。人物だけではなく動物をモデルとした作品も実物を忠実に再現しており、細部に見入ってしまう。こちらは惜しくも選外となった《臥たるスター》

朝倉の代表作である《墓守》。墓守の老人の、飾り気のないありのままの姿をとらえた作品。人生経験がにじみ出たその表情がイケメン

アトリエから書斎へと続きます。

作り付けの本棚に収められた膨大な書籍の約半数は洋書です。洋書のほとんどは、朝倉の東京美術学校(現東京藝術大学)時代の恩師である岩村透の蔵書だったものでした。岩村の死後、朝倉はその蔵書が散逸しないよう、借金をしてまとめて引き取りました。朝倉は岩村を深く尊敬しており、彼から多くのことを学びました。

書斎内にもイケメン像を発見。《双葉山像》

《双狗協力》と題されたブックエンド

ここまではコンクリート造でしたが、住居に続く応接間からは木造になります。優れた美的感覚を持つ朝倉は、異なる複数の要素を調和させることを得意としていました。コンクリート造のアトリエと木造で数寄屋造の住居部分は違和感なく隣接しています。

漢書も多く所有。朝倉は暮らしのなかにも中国趣味を好んで取り入れた

木造部分で特筆すべきは回廊式の庭園です。全ての部屋から豊富な水を湛えた庭が見えるように設計されており、見る場所によって異なる景色を楽しめます。水の豊かな大分県出身の朝倉は、この庭園造りには特に力を入れたそうです。朝倉はこの住居で、季節の移ろいを肌で感じる生活を送っていたことでしょう。

アトリエは天井が高く空間が広い分、空調が効きにくく冬はとても冷えるため、朝倉は彫刻の制作を控えたという。寒い時期には庭園の見える自室で原稿を書いていた

2階へと続く階段。丸太や竹を多用して、丸みと直線を組み合わせたデザインが特徴的

2階から見たコンクリート建築(右)と木造の数寄屋造(左)の境目。異素材が見事に融合している

3階には「朝陽の間」という来賓を迎えるための日本間を設えています。神代杉の杉皮を裏張りした天井、砕いたメノウを塗り込んだ壁など贅沢な材料を用い、朝倉のこだわりが感じられる一室です。

床の間には段差が無く、壁は丸みを帯びたデザイン。煎茶趣味のしつらえや家具が全体をすっきりとまとめている。手前のテーブルは朝倉の設計によるもので、押し入れに入るほどの大きさまで分解することができる

コンクリート建築の屋上には庭園が。

朝倉はここを「朝倉彫塑塾」と命名し、多くの弟子を迎え入れています。その教育の一環として、屋上庭園で野菜を栽培し、弟子に土に触れて野菜が種から実になる過程をつぶさに観察する機会を与えていました。朝倉の作風は自然主義的写実と呼ばれますが、モデルを仔細に観察し、忠実に再現することに心を砕いていました。その技術はこうして自分の手で対象に触れて、感じるところから磨かれるものだという信念があったのでしょう。

オリーブの木

現在、屋上庭園にはアガパンサスやバラなどが植えられており、季節ごとに来館者の目を楽しませています。また、一部に菜園が再現され、野菜が栽培されています。

東洋蘭を愛した朝倉は、2階に蘭の栽培のための温室を作りました。現在「蘭の間」には、猫の彫刻が展示されています。朝倉は猫が好きで、数々の猫をモチーフとした作品を残しています。


今回の企画展と同期間に、『台東鳥瞰』関連企画「齋藤陽道 写真展」も開催。

台東区が発行している文化芸術広報誌『台東鳥瞰』のために写真家・齋藤陽道氏が撮り下ろした朝倉彫塑館の作品5点が館内に展示されています。


朝倉彫塑館は庭園や建築も含めてすべてが朝倉の美意識のもとに生まれた作品と言えるでしょう。隅々にまで朝倉のこだわりが感じられ、見ごたえが十分でした。ユニークな企画展「独断で選んだイケメン★オシメン」『台東鳥瞰』関連企画「齋藤陽道 写真展」は2019年6月5日(水)まで開催されています。この機会にぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。

利用案内

開館時間 午前9時30分~午後4時30分 (入館は午後4時まで)
休館日 月・木曜日(祝休日と重なる場合は翌平日)
年末年始
展示替え等のため臨時休館することがございます
入館料 一般 500円(300円)
小・中・高校生 250円(150円)
※( )内は、20人以上の団体料金
※障害者手帳提示者及びその介護者は無料となります
※特定疾患医療受給者証提示者及びその介護者は無料となります
※毎週土曜日は台東区在住・在学の小、中学生とその引率者の入館料が無料です年間パスポート等のお得なサービスを 各種ご用意していますので、ぜひご利用ください
所在地 〒110-0001
台東区谷中7丁目18番10号
TEL:03-3821-4549
FAX:03-3821-5225
公式サイト http://www.taitocity.net/zaidan/asakura/

※ご入館の際は靴下をご用意ください


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【国立西洋美術館】国立西洋美術館開館60周年記念「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」内覧会レポート

国立西洋美術館

2019年2月19日(火)~2019年5月19日(日)の期間、国立西洋美術館で国立西洋美術館開館60周年記念「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」が開催されます。2月18日に内覧会が開催されましたので、その様子をお伝えいたします。

 

2016年にユネスコ世界文化遺産に登録された国立西洋美術館。この本館を設計したのが、20世紀建築の巨匠として知られるル・コルビュジエです。

建築、絵画、彫刻、詩・・・。多彩な活動を展開していた芸術家であるシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエの本名)は、第一世界大戦集結後の1918年末、機械文明の進歩に対応した「構築と総合」の芸術であるピュリスムの運動をはじめました。ピュリスムの創造、そして1920年代パリの美術界との交流から大きな糧を得て、ジャンヌレは近代建築の旗手「ル・コルビュジエ」へと生まれ変わります。

国立西洋美術館開館60周年を記念して開催される本展では、ル・コルビュジエがパリで新しい芸術運動をしていた若き日々の絵画に焦点を当て、彼が刺激を受けた同時代の作家ピカソ、ブラック、レジェらの美術作品約100点に、建築模型、出版物、映像など多数の資料をくわえて展示。ル・コルビュジエが世に出た時代の精神を、彼の建築物のなかで体感できる、大変貴重な機会となります。

 

展示風景

会場風景。展示会場二階から一階の19世紀ホールを見下ろす

 

2階展示室。高い天井と低い天井が組み合わされ、柱がリズミカルに並ぶ。連続窓から届く明るい光は、まるで自然光のよう

 

冒頭には友人のオザンファンと編集・発行していた雑誌『エスプリ・ヌーヴォー』の表紙が並んでいる

 

キュビスムの彫刻家など、ル・コルビュジエと親交のあった作家たちの作品が並び、建築空間と深く響きあう

 

ル・コルビュジエが設計した建築物の精密な模型を堪能できるのも醍醐味のひとつ。こちらは『ラ・ロシュ=ジャンヌレ邸』の1/30模型

 

ピュリスム運動を通じてル・コルビュジエと親交の深かったフェルナン・レジェの絵画。見たものを単純な面や線に置き換えるのがピュリスム絵画の特徴だ

 

展示構成は以下の通りです。

Ⅰ ピュリスムの誕生
Ⅱ キュビスムとの対峙
Ⅲ ピュリスムの頂点と終幕
Ⅳ ピュリスム以降のル・コルビュジエ

 

本展が開催されるのは国立西洋美術館の「19世紀ホール」から、二階の回廊状になった空間。これはル・コルビュジエが提唱した、建物が中心から外へらせん状に拡張する「無限成長美術館」というコンセプトに基づいています。

普段は常設展がおこなわれているこの空間ですが、「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」の開催にあたって壁の色は通常より明るく照らされ、まるで違う空間のように生まれ変わっていることに驚きました。

「光に満たされた空間。これが本来ル・コルビュジエが意図した展示空間でした。その中で、彼が活動した時代の画家たち、友人たちの作品、そしてル・コルビュジエの建築とが語り合う様子を体感できる。そこが通常の展覧会と大きく違う点だと思います」

そう説明してくださったのは、国立西洋美術館副館長・村上博哉氏。
絵や彫刻を鑑賞するだけでなく、ぜひ作品と建築との関係について思いをはせて、回廊をめぐってみてください。

 

展示作品紹介

シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ)《アンデパンダン展の大きな静物》1922年 ストックホルム近代美術館

「ありふれた現実の題材から構築的・普遍的な芸術を創造する」というピュリスムの理念を、最もモニュメンタルなかたちで実現した作品。

テーブルの上のギター、瓶、カラフなどを完全な立体として捉え、それを秩序のある空間として再構成している・・・と聞くとととても難解に思えますが、重要なのは「本物そっくりに書く」のではなく、物体を「単純な線や面に置き換えている」ということ。こうして描かれたピュリスム絵画から感じる立体感は、確かにル・コルビュジエの建築空間に通じるものなのでしょう。

 

同じ年に描かれたオザンファンの《瓶のある静物》(写真左)と対比してみると面白い。オザンファンもやはり垂直線と水平線を組み合わせて画面を構成していますが、ジャンヌレ(ル・コルビュジエ)の作品と比べるとどこか平面的な印象を与えます。ジャンヌレの作品はより立体的で、三次元の要素が強いように思えますね。

 

ル・コルビュジエ《灯台のそばの昼食》1928年 パリ、ル・コルビュジエ財団

1926年から毎年夏のヴァカンスを過ごしていたピケの自然豊かな環境。そのピケ滞在中のスケッチに基づく《灯台のそばの昼食》では、テーブルの上の静物と灯台のある湾の風景が意表をつくやり方で結びつけられています。

うねる曲線。暖かな色彩。ジャンヌレの以前のピュリスム絵画とはかなり趣が異なっていますね。1920年代の終わり頃、ル・コルビュジエは「幾何学的な秩序」の追求を目指し、静物を唯一の主題としていた彼の絵画に「風景」と「人物」を新たなモチーフとして付け加えました。彼が目指したのは「人間と自然の調和」。新しいテーマにともない、彼の作風も徐々に変化を遂げていったのです。

しかし、やはり「幾何学的秩序こそが人間と自然の本質である」という彼の信念は揺らぐことはなかったようです。

 

ル・コルビュジエ《サヴォワ邸》1928-31年(写真は1/100模型 2010年 大成建設株式会社)

1928-1931年にパリの郊外に建てられた邸宅、《サヴォワ邸》の模型。サヴォワ邸は横長の大きな窓やスロープなど、様々なアイディアが込められており、ピュリスムの精神を最もよく表現した建築と称されています。外観も、まるでジャンヌレのピュリスム絵画のよう。幾何学に根ざして普遍性を目指す彼の建築イメージがよく表現されています。

サヴォワ邸の設計が始まった1928年は、ル・コルビュジエにとっては「転機」の年であったかもしれません。ひとつは、ピュリスム時代には抑圧されていた女性や風景のイメージを絵画に取り入れるようになったこと。もうひとつは、絵画作品にも本名の「ジャンヌレ」ではなく、「ル・コルビュジエ」と署名するようになったこと。サヴォワ邸はまさに近代建築の先駆けであり、ル・コルビュジエにとっては記念碑的な作品であったともいえるのではないでしょうか。


「彼は国立西洋美術館の設計を通じて、この美術館が近代の精神を普及するための拠点になってほしいと願っていました。彼が考える『近代』は、明晰で力強く、ポジティブなもの。そしてその根底には幾何学があります。彼の建築と絵画作品が響きあうこの空間で、ぜひそれを感じてみてください」

展示解説を担当した国立西洋美術館の村上氏は、そのように語ってくださいました。

 

世界遺産建築の中で堪能する「ル・コルビュジエの原点」。
ぜひ一度、足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

開催概要

展覧会名 国立西洋美術館開館60周年記念「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」
会 期 2019年2月19日(火) ~ 5月19日(日)
9:30~17:30
毎週金・土曜日:9:30~20:00
※入館は閉館の30分前まで
休館日 月曜日(ただし3月25日、4月29日、5月6日は開館)、5月7日(火)
会場 国立西洋美術館
観覧料 当日:一般1,600円、大学生1,200円、高校生800円
団体:一般1,400円、大学生1,000円、高校生600円
※団体料金は20名以上。
※中学生以下は無料。
※心身に障害のある方および付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)。
公式サイト https://www.lecorbusier2019.jp

 
記事提供:ココシル上野


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