旧博物館動物園駅 一般公開記念インスタレーション『アナウサギを追いかけて』プレスツアー取材レポート

上野公園の向かい、東京国立博物館のわきにぽつんと佇むこちらの建物。
 

 
かつては東京帝室博物館(現・東京国立博物館)や恩賜上野動物園の最寄り駅として利用されてきた京成電鉄 旧博物館動物園駅です。
 
利用者の減少に伴い、1997年には営業を休止していましたが、2018年4月には景観上重要な歴史的価値を持つ建造物として、鉄道施設としては初めて「東京都選定歴史建造物」に選定されました。
 
これを機に改修工事が実施され、さらに東京藝術大学美術学部長であり、UENOYES※総合プロデューサーの日比野克彦氏がデザインした出入り口が新設されました。

※社会包摂をテーマにしたアートプロジェクト。文化を起点に人々の新たな社会参画を目的として、障害などの有無にかかわらず、子どもから大人まで、人種や国を超えたさまざまな人々とともに、年間を通して多彩なプログラムを展開し、上野から世界に向けて発信しています。

 
京成電鉄 旧博物館動物園駅駅舎の一部が一般公開されます。それにあわせ、駅舎内ではUENOYESのプロジェクトの一環である「歴史的文化資源活用プログラム」として期間限定のインスタレーション作品『アナウサギを追いかけて』が展示されます。
 
それに先立ち行われたプレスツアーに参加しましたので、その様子をお伝えします。


新設された扉を開けて、いざ中へ。

扉のデザインは日比野克彦氏によるもの

扉を開けると、そこには巨大なアナウサギが!

旧博物館動物園駅の改札が地下にあることから、本作では土を掘って巣穴をつくる習性を持つアナウサギをモチーフとしているそうです。

駅舎天井
多くの人に愛された当駅。駅舎の壁には現役当時の落書きが残されています。
旧博物館動物園駅公開記念入場券
アナウサギのお面をつけた案内人がわたしたちを地下へと誘います。
切符を切ってもらい、地下に降りていきます。
地下には「失われたものの再生」について書かれた本。観覧者も椅子に座ってページを繰ることができます。
3Dプリンタで再現された動物の頭蓋骨のユニークなディスプレイ。こちらにも触れることができます。
中央には駅舎が営業を停止した1997年に亡くなったジャイアントパンダのホァンホァンの頭蓋骨の実物が。そばに佇むのは国立科学博物館・動物研究部 支援研究員理学博士で、本作の技術協力の森健人さん。
ホァンホァンの頭蓋骨はレプリカも用意されているので、ぜひ触れてみてください。
トイレ表示の前に展示されているヒトの頭蓋骨のレプリカ。なんだかシュールです。
駅舎内に残る多くの落書きへのオマージュとして、地下につながるガラス戸にペンで落書きをすることができます。落書きがいっぱいになったらアーカイブ化する予定とのこと。
地下の改札、そしてホームへと続く階段。ここから先へは進むことができませんが、ガラス戸越しに当時の姿をしのぶことができます。

演出の羊屋白玉さんが上野についてのリサーチを基に書き下ろした物語を美術のサカタアキコさんが形にし、そして国立科学博物館・動物研究部 支援研究員理学博士森健人さんの技術協力によって実現した今回の展示。
 

左から演出の羊屋白玉さん、技術協力の森健人さん、美術のサカタアキコさん。

 
羊屋さんもサカタさんも、この駅舎は「アーティストにとってインスパイアされる空間」であると言います。
 
森さんは普段骨格標本を3Dスキャン・プリンタしたものを作成していますが、それを人の目に触れることができたらと考えていたときに羊屋さんから声がかかったそうです。旧博物館動物園駅が営業を休止したのは1997年のことでしたが、森さんの発案により、同年に亡くなったジャイアントパンダのホァンホァンの頭蓋骨の実物展示が叶いました。
 
こうして出来上がったインスタレーション作品『アナウサギを追いかけて』。扉を開けた瞬間から見るものを引き込んでしまう、独特の世界観が漂います。
 
入口のアナウサギや本、頭蓋骨のレプリカには実際に触れることができますし、ガラスには落書きをすることもできます。
 
旧博物館動物園駅を利用したことのある方でもない方でも、駅舎の歴史に思いをはせつつ作品を楽しめることでしょう。
 
2019年2月24日までの期間限定の展示となるので、この機会に旧博物館動物園駅に足を運んでみてはいかがでしょうか。
 

旧博物館動物園駅の公開と展示
「アナウサギを追いかけて」開催概要

 

会期 2018年11月23日(金・祝)~2019年2月24日(日)までの毎週金・土・日曜日
※12月28日~30日を除く計39日間

時間 11:00~16:00
※最終入場は15:30まで(定員制・混雑時は入れ替え制)

場所 旧博物館動物園駅 駅舎

入場料 無料

 
関連イベントも開催されます。詳しくは公式サイトでご確認ください。
 
記事提供:ココシル上野


 
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【東京都美術館】「ムンク展ー共鳴する魂の叫び」内覧会レポート

東京都美術館


 
東京都美術館では、2018年10月27日(土)~2019年1月20日(日)の期間、「ムンク展ー共鳴する魂の叫び」を開催しています。
 
開催に先立ち行われた報道内覧会に参加しましたので、その様子をお伝えします。


ムンクの「叫び」と言えば誰もが知る超有名絵画です。実は「叫び」は連作で複数描かれており、版画以外に4点が現存しています。
 
今回、日本初来日となるのはムンクの故郷・ノルウェーのオスロ市立ムンク美術館が所蔵するテンペラ・油彩画のもの。繊細な素材を用いていることから、ムンク美術館でも常設はされていません。
 
本作がムンク美術館外で展示されることは稀であり、本展は実物を日本で目にすることができる非常に貴重な機会となります。
 

エドヴァルド・ムンク《叫び》1910年? テンペラ・油彩、厚紙

 
しかし、ムンクの魅力は「叫び」だけではありません。
 
本展はオスロ市立ムンク美術館のコレクションを中心に、油彩画約60点、版画を合わせた約100点を展示するムンクの大回顧展となります。
 
以下でそのうち数点をご紹介します。
 

自画像に見るムンクの生涯

 
ムンクは生涯に80点以上に上る自画像を手掛けており、描かれた表情や背景が当時の心境を読み解くよすがとなっています。
 
 
画家として駆け出しのころの作品。端正な顔立ちに自信の溢れる表情を浮かべています。

エドヴァルド・ムンク《自画像》1882年 油彩、紙(厚紙に貼付)

 
 
このころ恋人とのトラブルやアルコール依存、放浪生活によって引き起こされた妄想症に悩まされていたムンク。
エドヴァルド・ムンク《地獄の自画像》1903年 油彩、カンヴァス

背景の地獄の炎やおどろおどろしい影に、当時のムンクの鬱憤が投影されているようです。
 
 
 
ムンクの人生のターニングポイントとなった年に描かれた1枚。
エドヴァルド・ムンク《青空を背にした自画像》1908年 油彩、カンヴァス

ムンクはこの年、神経衰弱のためにコペンハーゲンの診療所に数カ月入院します。その後にようやく長年に渡る欧州での放浪を終えることを決意し、翌年祖国ノルウェーに戻ります。明るい色彩が、その後の平穏な生活を予感させます。
 
 

豊かな内面描写

 
ムンクの作品の特徴として、大胆なストロークによる綿密な内面描写が挙げられます。
 
 
《メランコリー》と題された本作。

エドヴァルド・ムンク《メランコリー》1894年-96年 油彩、カンヴァス

人物の鬱々とした感情が、その表情にのみならず、背景にもにじみ出ているかのよう。
 
 
 
こちらは《叫び》と同じ構図を用いて制作されています。
エドヴァルド・ムンク《絶望》1894年 油彩、カンヴァス

《叫び》、《絶望》ともオスロのフィヨルドに沈む夕日を背景としていますが、《叫び》が背景と相互に呼応しているように見えるのとは対照に、本作の人物は絶望に深く沈み、周囲から隔絶しているようです。
 
 
 
背景にちらりと映る窓外の明るさとは対照的な暗い屋内。強い愛により男女間の輪郭は破壊され、ふたりは一体化します。
エドヴァルド・ムンク《接吻》1897年 油彩、カンヴァス

孤独や憂鬱、嫉妬といった負の感情を押し出した作品を多く描いているムンクですが、男女をモチーフとした作品も多数残しています。
 

特別解説

 
内覧会では、オスロ市立ムンク美術館で展覧会・コレクション部長を務めるヨン=オーヴェ・スタイハウグ氏による特別解説がありました。

ヨン=オーヴェ・スタイハウグ氏(ムンク美術館 展覧会およびコレクション部長)

「(連作《叫び》について)120年前には、ばかばかしい、醜い、品がない、という人すらいましたが、現在こうして世界中で注目を集めているのがとても興味深いと思います。《叫び》はムンクが非常に過激であると同時に、実験的な試みをしていたことを表しています。自身の経験に基づいた、不安や絶望といった感情を伝えるために、通常では使用されないような素材(パステルやテンペラ、鉛筆に厚紙)を用いて作成しています。」
 
「ムンクの多くの作品に共通して言えることですが、人物やその顔を通して、観ている者と対決しているような印象を与え、また一方では遠近法を通して観ている者を引き込むような要素も見られます。自分の感情をドラマチックに表しています」
 
また、イチオシの作品も教えてくださいました。
エドヴァルド・ムンク《赤い蔦》1898-1900年 油彩、カンヴァス

「(《叫び》と同室に展示されている)《赤い蔦》は、《叫び》と同じくらい強く、激しい感情を伝えています。素晴らしく、力強い作品です。」


ムンクの作品のみで構成されている、見ごたえたっぷりの「ムンク展ー共鳴する魂の叫び」は東京都美術館で2019年1月20日まで開催されています。
 
どっぷりとムンクの世界に浸ってみてはいかがでしょうか。
 
※作品はすべてオスロ市立ムンク美術館蔵 All Photographs ⓒMunchmuseet
 

展覧会概要

展覧会名 ムンク展ー共鳴する魂の叫び

会 期 2018年10月27日(土)~2019年1月20日(日)

休室日 月曜日(但し、11月26日、12月10日、24日、1月14日は開室) 、12月25日(火)、1月15日(火)【年末年始休館】12月31日(月)、1月1日(火・祝)

開室時間 午前9時30分~午後5時30分 ※金曜日、11月1日(木)、11月3日(土)は午後8時まで(入室は閉室の30分前まで)

会 場 東京都美術館 企画展示室
東京都台東区上野公園8-36

観覧料 一般:1600円、大学生・専門学生:1300円、高校生:800円
※12月は高校生無料
※11/21(水)、12/19(水)、1/16(水)はシルバーデーにより65歳以上の方は無料。当日は混雑が予想されます。

公式サイト https://munch2018.jp

記事提供:ココシル上野


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「旧東京音楽学校奏楽堂 リニューアルオープン記念式典」取材レポート

台東区立旧東京音楽学校奏楽堂

上野公園の片隅に佇む台東区立旧東京音楽学校奏楽堂。

当館は、明治23年に東京音楽学校(現・東京藝術大学音楽学部)の施設として建てられた「日本最古の洋式音楽ホール」です。後に東京藝術大学から台東区が譲り受け、昭和62年に現在の地に移築・復原、翌年に重要文化財の指定を受けます。

老朽化が進んでいたため、平成25年4月より休館し、建物の耐震補強及び保存修理のほか、舞台正面のパイプオルガンの修理が実施されました。

11月2日、約5年半にわたる休館を経て、旧奏楽堂がリニューアルオープンしました。

それにともない開催された記念式典の様子をお伝えします。


素晴らしい秋晴れのなか開催された落成式。開会前には、東京藝術大学音楽学部の学生の方々による演奏がありました。

多数の来賓が出席されました。 挨拶をする服部征夫・台東区長。

祝辞を述べる澤和樹・東京藝術大学長。

ご自身も東京藝術大学を卒業された澤学長は、旧奏楽堂の歴史の目撃者でもあります。

澤学長「私が在学時にはキャンパス内に奏楽堂がありましたが、老朽化が進み、300人が入るとその重みで1階のドアが開かなくなるほどでした。オルガンも音が出ませんでした。大学4年生の時に卒業試験をこの奏楽堂で受けましたが、それを最後に本堂は使用されなくなりました。

その後、明治村へ移築するといった話も出ましたが、上野に残したいという声が多く、台東区により1987年にここ上野公園に移築されました。その際に開催された記念公演にも私は参加しています。今回、また記念公演に参加することができて光栄です。」

来賓の方々によるテープカットにより、旧奏楽堂が落成しました。


落成したばかりの旧奏楽堂のホールにて、澤学長を中心とした弦楽アンサンブルのミニコンサートが開催されました。

曲目
・ワーグナー
『ニュルンベルクのマイスタージンガー』より第1幕への「前奏曲」
(オルガン独奏)
・J.S.バッハ
2つのヴァイオリンのための協奏曲 二短調 BWV1043
(第一ヴァイオリン 岡本誠司氏、第二ヴァイオリン 澤和樹氏)
・アルビノーニ
オルガンと弦楽のためのアダージョ ト短調
(ジャゾット編)

修理を経た舞台正面のパイプオルガンも、東京藝術大学大学院オルガン専攻を修了し、現在同大音楽学部オルガン専攻教授・主任をされている廣江理枝さんによって演奏されました。比較的小ぶりなオルガンながら、迫力のある音色が特徴です。

2曲目で第一バイオリンを務めた岡本誠司氏は、東京藝術大学の卒業生で、現在ベルリンで腕を磨いています。

ミニコンサートの最後には、旧奏楽堂でピアノを弾いたこともある瀧廉太郎氏作曲の「花」をアンコール演奏。歌詞に「春のうららの隅田川」とあるように、台東区とゆかりのある曲です。

「花」演奏の様子は以下の動画でご覧いただけます。


ミニコンサートののちには館内を見学することができました。

ミニコンサートが開催されたホール
舞台から見た客席
2階のコンサートホールにつづく階段
パイプオルガンの仕組みを再現した展示
1階玄関脇の瀧廉太郎像

5年半ぶりにリニューアルオープンした旧東京音楽学校奏楽堂。歴史的建造物としてだけではなく、生きた文化財として演奏会や音楽資料の展示を楽しむことができます。

11月2日から建物が公開されていますので、上野にお越しの際に覗いてみてはいかがでしょうか。

施設案内

 

公開日 日・火・水曜日(木・金・土曜日はホールの使用が無い場合)
公開時間 9:30~16:30(最終入場 16:00)
休館日 毎週月曜日(月曜日が祝休日にあたる場合は、その翌平日)
年末年始(12月29日~翌年1月3日)
特別整理期間

入館料一般300円(200円)
小・中・高校生100円(50円)
※()内は20名以上の団体料金
※障害者手帳、療育手帳、精神障害者福祉手帳、特定疾患医療受給者証をお持ちの方とその介護者の方は無料
※毎週日曜日は、台東区内在住・在学の小・中学生とその引率者の方は無料(第5日曜日を除く)

住所

台東区上野公園8-43

TEL

03-3824-1988

公式HP

http://www.taitocity.net/zaidan/sougakudou/

 


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【国立西洋美術館】「ルーベンス展-バロックの誕生」内覧会レポート

国立西洋美術館


2018年10月16日(火)~2019年1月20日(日)の期間、国立西洋美術館で 「ルーベンス展-バロックの誕生」が開催されます。10月15日に内覧会が開催されましたので、その様子をお伝えいたします。

 

17世紀バロック美術を代表する画家、ペーテル・パウル・ルーベンス(1577ー1640)。
動きの多い劇的な構図、華麗な色彩、豊満にして魅惑的な裸体表現。その作風に魅せられた人々によって「王の画家にして画家の王」と最高の賛辞を送られたルーベンスは、諸外国にまでその名を轟かせました。

ルーベンスが工房を構えて活動の拠点としたのは現在のベルギーの町アントウェルペンですが、画家として独立した直後の8年間、イタリアで過ごしていたことは日本ではあまり知られていません。ルーベンスはヴェネツィアやマントヴァ、特にローマでさまざまな表現を吸収して画風を確立させ、帰郷後にそれを発展させていったのです。

本展は、ルーベンスとイタリアの関わりに注目し、その創造の秘密を解き明かそうとする試みです。ルーベンスと古代美術、イタリアの芸術家たちの作品計71点を展示し、ルーベンスがイタリアの作品からいかに着想を得、そして与えたのかについて探ります。

 

第一章 ルーベンスの世界

 

本展覧会は7部構成。時系列ではなくテーマ別に作品を展示し、ルーベンスとイタリア、双方向の交流からその着想の源を探ります。序章となる本章では、彼の代表的な肖像画作品が展示され、イタリアの画風を貪欲に吸収したその技法の特徴や、家族への愛情あふれる眼差しを垣間見ることができます。

 

こちらは《クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像》という作品。最初の妻イザベラ・ブラントとの間に生まれた長女クララ・セレーナを描いたものです。背景や襟の部分などは大まかに捉えていますが、その表情は非常に丹念に描きこまれており、モデルの顔を真正面にとった構図も印象的です。
クララはこの時およそ5歳でしたが、その後12歳の若さで亡くなりました。ルーベンスはクララを愛し、彼女が亡くなった後も彼女の肖像画を何度も描いていたようです。

 

第二章 過去の伝統

第二章では「過去の伝統」と題して、ルーベンスの作品のみならず、古代彫刻やルーベンスによるヴェネツィア派の模写などを紹介しています。

 

《セネカの死》はその題の通り、皇帝ネロへの陰謀の疑いをかけられて自殺を命じられた哲学者セネカの最後を描いた作品です。画中のセネカはルーブル美術館にある有名な古代彫刻を元にしており、ローマでこの彫刻を目にしたルーベンスは6点もの素描を残しています。ルーベンスによる古典学習の成果を示す好例といえるでしょう。

 

第三章 英雄としての聖人たち-宗教画とバロック

ルーベンスはイタリア滞在中、マントヴァやジェノヴァ、ローマのために宗教画を描きました。古代彫刻のような理想的な身体像を示したルーベンスの宗教画は若い世代を魅了し、カラヴァッジョ以降のローマにおける最大の革新を示したのです。

第三章では、彼が参考にした作品、影響を与えた作品とともにルーベンスの宗教画が展示されています。

 

ルーベンス晩年の大作《聖アンデレの殉教》が初来日。この作品はマドリードのサンタンドレス・デ・ロス・フラメンコス王立病院の礼拝堂に寄贈されたもので、鑑賞することも滅多に叶わない、大変貴重なものだそうです。

《聖アンデレの殉教》が描くのは、ヤコボス・デ・ウォラギネの『黄金伝説』に記述された聖アンデレの殉教場面。ローマ総督によって磔にされた聖アンデレは、彼を取り巻く2万人の群衆に教えを説きました。群衆は怒って総督に十字架から下ろすように脅しましたが、アンデレは生きたまま十字架から下りることを拒否し、そのまま祈りを唱えて昇天したということです。

一条の光が射す天上を仰ぐ聖アンデレ、暗い空からアンデレの元に飛んできた天使、口々に何か叫び、懇願する人物たち。非常に劇的で、躍動感のある迫真の描写が胸に迫ります。

 

第四章 神話の力1-ヘラクレスと男性ヌード

著名な彫刻である《ファルネーゼのヘラクレス》に魅了され、その造形を深く学び取ったルーベンス。そんな彼の想像力は、特に神話の世界を描く時、最も生き生きと発揮されました。この章では、ルーベンスとルーベンス以降のイタリア画家たちによる男性ヌードを多く展示しています。

 

第五章 神話の力2-ヴィーナスと女性ヌード

一方こちらの章では、ヴィーナスに象徴される理想の女性美を描いたヌードを特集。ヴィーナスを描く際にも古代彫刻に範をとったルーベンスでしたが、晩年はより現実的かつ豊穣さを象徴するような、ふくよかな女性を描くようになっていきました。

 

第六章 絵筆の熱狂

鮮やかな色彩と、それを画面に与える素早い筆使い。17世紀の美術理論家ベッローリは「絵筆の熱狂」という言葉でルーベンスの絵画を説明しました。第六章では、こうしたルーベンス芸術の性格が最もわかりやすい形で表現された戦いの場面などの絵画を取り上げ、その特徴に注目しています。

 

イタリア滞在中の1605年頃に描かれた《パエトンの墜落》。太陽神アポロの息子、パエトンが乗る太陽の戦車が最高神ユピテルの放った雷を受け、まさに墜落しそうになるその瞬間を捉えた絵画です。翻るマントや逆立つ馬のたてがみ、空に走る稲妻が画面全体の暴力的な躍動感を高めています。

 

第七章 寓意と寓意的説話

高い教養を持つ外交官として活躍し、成功を収めたルーベンス。ルーベンスはその教養と知識を生かし、しばしば象徴の組み合わせを駆使した寓意画を描きました。最終章では、寓意的な仕掛けが施されたルーベンスの神話主題を、古代彫刻とともに展示しています。

 

軍神マルスがウェスタ神殿の火を守る巫女レア・シルウィアを見初める場面を描いた《マルスとレア・シルウィア》。レア・シルウィアとマルスの間に生まれた双子が成長し、ローマの建設者ロムルスとレムスとなったことは有名ですね。

通常は水汲みに行ったレア・シルウィアが森の中でマルスに犯されるのに対し、本作の舞台は神殿となっているため、ルーベンスは伝統的な解釈に大胆な変更を施しています。しかし同時にルーベンスは、マントの裾を握るキューピッドやマルスの武具や足元の雲など、この神話に関する古代文献の記述を非常に几帳面に取り入れていることもうかがえます。


本展監修者アンナ・ロ・ビアンコ氏

「ルーベンスの作品には、彼の人となりが非常に良く反映されていると思います。寛大で、愛情にあふれていて、偉大である。そんな彼の姿が絵からもにじみ出てきていると感じます。ある伝記作家は彼のことを『マエストーゾ・ウマーノ(威厳がある人)であると同時に、人間味にあふれている』と表現しましたが、実際ルーベンスは家族や友人などに非常に深い愛情を注ぐ人でした」

そう語ってくださったのは、美術史家にして本展監修者のアンナ・ロ・ビアンコ氏。

「また、ルーベンスは『どちらの出身ですか?』と聞かれた時、『私は世界市民だ』と答えていたそうです。今でこそそうした言葉は使われるようになりましたが、17世紀の時点でルーベンスがそう考えていたということ。いかに彼が進んだ考えの持ち主で、友愛の素晴らしさを理解していかたが、この発言からもわかりますね。この展覧会では、そんな彼の人間性にもフォーカスして楽しんでいただけたらと思っています」

 

「画家の王」と呼ばれ、一時代を築いた巨匠の画業と人間性を、イタリアとの関わりの中で解き明かす。
「ルーベンス展-バロックの誕生」は、2019年1月20日(日)までの開催です。
この機会にぜひ、足を運んでみてはいかがでしょうか?

 

ミュージアムショップでは、『フランダースの犬』とコラボしたオリジナルグッズも販売

 

開催概要

展覧会名 ルーベンス展-バロックの誕生
会 期 2018年10月16日(火)~2019年1月20日(日)

9:30~17:30
毎週金・土曜日:9:30~20:00
(ただし11月17日は9:30~17:30)
※入館は閉館の30分前まで

休館日 月曜日(ただし12月24日、1月14日は開館)、2018年12月28日(金)~2019年1月1日(火)、1月15日(火)
会場 国立西洋美術館
観覧料 当日:一般1,600円、大学生1,200円、高校生800円
団体:一般1,400円、大学生1,000円、高校生600円
※団体料金は20名以上。
※中学生以下は無料。
※心身に障害のある方および付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)。
公式サイト http://www.tbs.co.jp/rubens2018/

 
記事提供:ココシル上野


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【上野の森美術館】「フェルメール展」内覧会レポート


 
オランダ絵画黄金時代の巨匠ヨハネス・フェルメール(1632-1675)。技巧を凝らした作風や、現存作がわずか35点ともいわれる希少性もあり、国内外で不動の人気を誇っています。
 
上野の森美術館にて2018年10月5日(金)~2019年2月3日(日)の期間開催されている「フェルメール展」は、彼の作品が9点来日するという、日本美術展史上最大のフェルメール展として大きな話題を呼んでいます(一部展示替えあり)。
 
開催に先立ち行われたプレス内覧会に参加してきましたので、その様子をお伝えいたします。
 


 

音声ガイド&小冊子無料提供

 
本展では入場者全員に無料で音声ガイドが提供されます。ガイドを務めるのは、本展のナビゲーターでもある女優の石原さとみさん。柔らかい声で、わたしたちを17世紀オランダ絵画の世界へと誘います。
 
また、こちらの小冊子も無料配布されますが、本展の展示作品全49点の解説が収録されています。


じっくりと絵画の背景を理解しながらの鑑賞が叶います。
 

17世紀オランダ絵画の傑作がずらり

 
本展は6章で構成されており、1章~5章はフェルメールと同時代のオランダの画家による絵画がテーマごとに展示されています。
 
静粛な宗教画から当時のオランダの市井の人々の日常を捕らえた風俗画まで、幅広いジャンルの作品が揃います。テーマはそれぞれですが、どの作品も対象物を細密に描き出しており、見入ってしまいます。
 
こちらに描かれているのは実在する建造物ではないそうですが、絵の前に立つと奥へ奥へと引き込まれていきそうです。

エマニュエル・デ・ウィッテ《ゴシック様式のプロテスタントの教会》1680-1685年頃 油彩・カンヴァス アムステルダム国立美術館

 
写真左の《本を読む老女》は老女の開いている本のページにも細かく文字が書き込まれており、内容を読み取ることさえできます。
左 ヘラルト・ダウ《本を読む老女》1631-1632頃 油彩・板 アムステルダム国立美術館、右 ユーディト・レイステル《陽気な酒飲み》1629年 油彩・カンヴァス アムステルダム国立美術館

 
これら2作品は対となっています。一方の作品で男性が書いた手紙を、もう一方の作品で女性が読んでいます。
左 ハブリエル・メツー《手紙を書く男》、右《手紙を読む女》 ともに1664-1666年頃 油彩・板 アイルランド・ナショナル・ギャラリー

 
ぱっと見は幸せな恋人たちのように思われますが、人物の仕草や作中画に込められた意味を知ると、2人の関係が浮かび上がってきます。音声ガイドや小冊子をたよりに読み解いてみてください。
 
また、本作はフェルメールの影響を顕著に表していることでも知られています。本作の背景となっている部屋や女性の黄色いジャケットなど、フェルメール作品との共通点を多々見出すことができます。
 

フェルメール・ルーム

 
第6章はフェルメールの作品のみが揃う「フェルメール・ルーム」で展開されています。
 
通常、欧米の主要美術館にそれぞれ所蔵されているフェルメールの作品を一度に観覧できるという贅沢な空間です。

 
 
なかでも注目作は、フェルメールの代表作のひとつとして知られる《牛乳を注ぐ女》。本展では至近距離でまじまじと鑑賞することができます。

《牛乳を注ぐ女》1658-1660年頃 油彩・カンヴァス アムステルダム国立美術館 ・解説をする千足伸行氏(本展日本側監修、成城大学名誉教授・広島県立美術館館長)

 
中央に立つ人物に注目しがちですが、細部に目を向けてみると、点描によって光の粒子を表していたり、壁の汚れやシミをひとつひとつ描いていたりと、フェルメールが子細に対象を観察し、いかにそれをカンヴァスの上で表すかに心を砕いていたかを見て取ることができます。
 
 
こちらの《ワイングラス》は日本初公開。
ヨハネス・フェルメール《ワイングラス》1661-1662年頃 油彩・カンヴァス ベルリン国立美術館

 
作中の壁にかかる絵やステンドグラスに描かれる女性像によって、男性による女性の誘惑を示唆し、女性に注意を促しているそう。
 
このように、この時代のオランダ絵画では、絵の中に道徳的な意味や訓戒を表したものが多々見られたそうです。
 

期間限定展示に注意

 
フェルメールの作品中、《赤い帽子の娘》は2018年10月5日~12月20日、《取り持ち女》は2019年1月9日~2月3日までの期間限定で展示されます。予めお目当ての作品をチェックして、お見逃しのないようご注意ください。
 
作中の暗い部屋のなかに差す光がまぶしいほどに感じられます。本作は他の作品と比較するとだいぶサイズが小さいのですが、赤とフェルメール・ブルーと呼ばれる青の色彩に目を引かれます。日本初公開。

ヨハネス・フェルメール《赤い帽子の娘》1665-1666年頃 油彩・板 ワシントン・ナショナル・ギャラリー National Gallery of Art, Washington, Andrew W. Mellon Collection, 1937.1.53 ※12月20日(木)まで展示

 
 
本展開催1カ月前に追加出展が決まった本作は、フェルメールの初期作のひとつであり、初めて手掛けた風俗画です。日本初公開。
ヨハネス・フェルメール《取り持ち女》 1656年 油彩・カンヴァス ドレスデン国立古典絵画館 bpk / Staatliche Kunstsammlungen Dresden / Herbert Boswank / distributed by AMF

 

おみやげにも注目

 
ドイツ生まれの玩具・プレイモービルが「牛乳をそそぐ女」を再現!

プレイモービル 1,800円(税込)

 
ミュージアムショップには、他にも本展ならではのアイテムが多数揃っていますので、隅々までチェックしてみてください。
 


多数の観覧客の来館が予想されていますが、本展では待ち時間緩和のため日時指定入場制を導入しています。日本美術展史上最大のフェルメール展、ぜひ足を運んでみてください。
 

展覧会概要

 

展覧会名 フェルメール展

会 期 2018年10月5日(金)~2019年2月3日(日)
※12月13日(木)は休館。

会場 上野の森美術館(東京都台東区上野公園1-2)

開館時間 9:30~20:30(入館は閉館30分前まで、開館・閉館時間が異なる日もあり)

日時指定入場制 待ち時間緩和を目的とし、入場時間を6つの時間帯に分けた前売日時指定券(当日日時指定券料金は+200円)での入場を原則としており、当日日時指定券は前売販売に余裕があった時間枠のみ販売。
一般2500円、大学・高校生1800円、中学・小学生1000円、未就学児は無料。

公式HP https://www.vermeer.jp/

インフォメーションダイアル 0570-008-035(9:00~20:00)

 
記事提供:ココシル上野
 
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【東京国立博物館】特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」内覧会レポート

重要文化財 如意輪観音菩薩坐像(六観音菩薩像のうち) 肥後定慶作 鎌倉時代・貞応3年(1224) 大報恩寺蔵

 
2018年10月2日(火)から12月9日(日)まで、東京国立博物館では、特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」が開催されています。10月1日に内覧会が開かれましたので、その様子をお伝えいたします。
 
鎌倉時代、1220年に義空(ぎくう)上人によって発願された真言宗智山派の古刹、大報恩寺。近くに京都を南北に縦断する千本通りがあることから「千本釈迦堂」の名で親しまれ、釈迦信仰の中心地として、貴族から庶民まで幅広い信仰を集めてきました。
応仁の乱をはじめとする幾多の戦火を免れたその本堂は国宝に指定されており、また、「おかめ」発祥の地として、縁結び、夫婦円満などの福徳があることでも知られています。
 
その本尊は、快慶の一番弟子である行快が制作した釈迦如来坐像。そして、その釈迦如来坐像に侍り立つのは、快慶最晩年の作である十大弟子立像です。
本展覧会では、これら大報恩寺に伝わる「慶派」の名品の数々がそろい踏み。運慶同世代の快慶、そして運慶次世代の名匠による鎌倉彫刻の豪華共演が実現します!

 

展示風景


 
本展の開催場所は東京国立博物館 平成館 特別第3・4室。同館の第1・2室では特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」(10/2〜12/9)が開催されており、ふたつの展覧会が同時に、隣接しておこなわれているということになります。現代的なアート作品が並ぶデュシャンの展示会場と異なり、こちらの会場は仏像が放つ静謐な雰囲気で満ちており、そのコントラストも興味深く思えます。
 

重要文化財 傅大士坐像および二童士立像 院隆作 室町時代・応永25年(1418) 大報恩寺蔵

 
北野経王堂図扇面 室町時代・16世紀

 
特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」は三部構成となっており、冒頭の「大報恩寺の歴史と寺宝-大報恩寺と北野経王堂」では大報恩寺に伝わる北野経王堂ゆかりの文化財、そして洛中(京都市内)最古の木造建築物として国宝に指定された本堂とその歴史が紹介されています。
 
北野経王堂とは、大報恩寺のほど近くに足利義満によって建てられた仏堂で、当時は洛中・洛外を含む京都市中最大の巨大建造物でした。経王堂では歴代の室町将軍が主導する「北野万部経会」がおこなわれるなど大変賑わいましたが、神仏分離の影響で解体され、収蔵されていた文化財や経などはあらためて大報恩寺へと移されました。
 
第一章では、平安時代の仏像を含む北野経王堂ゆかりの品々が展示され、在りし日の姿を今にそのまま伝えています。
 

 
(中央)重要文化財 舎利弗立像(十大弟子立像のうち) 快慶作 鎌倉時代・13世紀 大報恩寺蔵

 
続く「聖地の創出-釈迦信仰の隆盛」では、寺内で現在では別々に安置されている本尊「釈迦如来坐像」と「十大弟子立像」を同じ空間で展示。年に数回しか公開されない秘仏である釈迦如来坐像、そして十大弟子立像が10体そろって寺外で公開されるのは初めてです。
 
大報恩寺が建立された13世紀前半は、度重なる戦乱により「末法」(悟りを得られなくなる時代)の世相が強く感じられていました。義空上人は、この世に常住して説法する釈迦を造ることによって、末法の世を生きる人を救う場を生み出そうとしたのです。
 

 
重要文化財 十一面観音菩薩立像(六観音菩薩像のうち) 肥後定慶作 鎌倉時代・貞応3年(1224) 大報恩寺蔵

 
最後を飾る第三章「六観音菩薩像と肥後定慶」の中心となるのは、運慶一門の慶派仏師、肥後定慶作の「六観音菩薩像」。暗く、燃えるような真紅を背景に立ち並ぶ六観音の姿は、壮観のひとこと。六観音とは、地獄道や餓鬼道などの六道から人々を救い出してくれる仏さまです。
 
本像が持つ生々しい実在感は、末法の世に人々が仏さまに求めた切実な念や願いを感じさせてくれます。
 

展示作品紹介

 

重要文化財 千手観音菩薩立像 平安時代・10世紀 大報恩寺蔵


 
京都の中心地にありながら戦火をまぬがれた大報恩寺。そのために大報恩寺には周辺の古刹に収められていた文化財が多く集められました。その中でも、こちらは平安時代の名品「千手観音菩薩立像」。膝下の翻波式衣文と呼ばれる衣の表現は、平安時代前期に流行したもので、このことからも本作が大報恩寺建立以前のものであることがわかります。
 

重要文化財 釈迦如来坐像 行快作 鎌倉時代・13世紀 大報恩寺蔵


 
大報恩寺の秘仏本尊である釈迦如来坐像。像高は89.3センチ(約三尺)で、背面の下には「法眼行快」と朱書銘があり、行快が「法眼」という僧位にあった時に制作されたことを伝えています。
 
横にふっくらと張り出した頬、きりりと上がった目尻などに行快らしさがあらわれており、その力強い表情には、師である快慶の死後、自分の作風を模索し始めたことを感じさせます。
 

重要文化財 准胝観音菩薩立像(六観音菩薩像のうち) 肥後定慶作 鎌倉時代・貞応3年(1224) 大報恩寺蔵


 
六観音菩薩像の中では比較的作例が少ない准胝(じゅんでい)観音。慈悲の心を体現している女性像です。像内から発見された墨書銘に「肥後別当定慶」の署名があり、運慶次世代の実力派仏師、定慶作であることが明らかになりました。また、六観音にはいずれも針葉樹のカヤが用いられていますが、これは本来白檀で作られる「壇像」を意識しているためです。
 
結いあげた髪の毛の柔らかな質感や、空気をはらむ衣の描写など、非常に緻密な細部の表現には驚かされます。ぜひ会場に足を運んで、間近で定慶の彫技をご堪能ください!
 

 
光背や台座などが造像当初のまま残されているのも大きな特徴。特に光背(仏さまが発する光を具象化したもの)は脆いため破損しやすく、造像当初のものがここまで完全に残っているのは大変希少だということです。
 
また、六観音菩薩像は10月28日(日)までは光背付きの姿で、後期の10月30日(火)からは光背を取り外し、その後ろ姿を間近に鑑賞できます。なだらかな背中の曲線や、優美な背中の衣の文様など、普段とは違った角度から観音様の魅力を堪能できる機会ですね。


 

 
新しい時代の表現を切り開いた巨匠、運慶と快慶。大報恩寺が建立された1220年代は、その二人が相次いで表舞台を去り、行快、定慶ら次世代の仏師たちが活躍しはじめた時代でした。大報恩寺に残る珠玉の名作からは、そうした次世代の仏師たちの創作上の悩みや試行錯誤、さらに当時の人々の真剣な「祈りのかたち」を感じ取ることができます。
 
本展の会期は2018年10月2日(火)から12月9日(日)まで。
慶派の“スーパースター”たちが集う会場で、鎌倉時代の京都に思いをはせてみてはいかがでしょうか?
 

展覧会概要

展覧会名 特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」
会 期 2018年10月2日(火)~12月9日(日)
会場 東京国立博物館(台東区上野公園13-9) 平成館 特別第3・4室
開館時間 9:30~17:00
※金曜・土曜日、10月31日(水)、11月1日(木)は21:00まで
※入館は閉館の30分前まで
休館日 月曜日
※ただし10月8日(月・祝)は開館、10月9日(火)は休館
観覧料 一般  当日1400円 団体1200円
大学生 当日1000円 団体 800円
高校生 当日 800円 団体 600円
※中学生以下無料
※団体は20名以上
※障がい者とその介護者1名は無料(入館の際に障がい者手帳などを要提示)

TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)

展覧会公式サイト https://artexhibition.jp/kaikei-jokei2018/

記事提供:ココシル上野
 
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「UENOYES バルーン DAYS 2018」取材レポート


 
社会包括をイメージしたアートプロジェクト「UENOYES(ウエノイエス)」は、2018年9月28日(金)~30日(日)の3日間、上野恩賜公園を舞台に「UENOYES バルーン DAYS 2018(ウエノイエス バルーンデイズ)」を開催します。
 
「UENOYES」というタイトルの中には、「NO」と「YES」が含まれています。障害のあるなし、また子どもから大人まで、人種や国を超えた様々な人々の「NO」と「YES」すべてを包括していくという意味が込められています。「UENOYES」は年間を通して多彩なプログラムを展開して上野から世界に発信していくというプロジェクトですが、今回の「UENOYES バルーン DAYS 2018」はそのキックオフイベントとして開催されます。
 
初日の28日に実施された報道関係者向けのオープニングガイドツアーに参加しましたので、その様子をレポートいたします。
 



快晴のなかスタートしたガイドツアー。UENOYES総合プロデュ―サーの日比野克彦氏(写真右)がガイドとしてプログラムを紹介してくださいます。文化庁長官の宮田亮平氏(写真左)も参加されました。参加者はそれぞれ小型ラジオ、今回のイベントのモチーフであるバルーンを身に着けます。日比野氏によると、「バルーンはどこかに連れて行ってくれるという象徴であるとともに、バルーンをどこかに連れていくこともできる。そして、このイベントでバルーンを着けたもの同士がすれ違うことで、何か感じるものがあるはず」だそうです。
 

スタチュー写生会

スタチューを囲んでイーゼルに向かう人々。いつもの上野公園では見慣れない風景です。しかも、よく見ると、スタチューが動いています。路上パフォーマーが彫刻に模しています。

 
 
東京藝術大学の在校生や卒業生が講師として参加者にアドバイス。子どもを対象とした午前の部(10:00~12:00)は事前予約が必要ですが、午後の部(13:00~17:00)はどなたでも空いている席でスケッチに参加できます。
 
画用紙、コンテ、イーゼル、画板、椅子は無料で貸し出しをしているので、手ぶらで来てもふらっと立ち寄ることができます。

全身の耳になる、全身の目になる

広場に賑やかな音が響き渡ります。音のアーティスト西原尚氏と画家の藤田龍平氏によるパフォーマンス&ワークショップです。アーティストが目や耳に障害を持つ方と対話を重ね、事前に公募した参加者とともに目や耳、手足や体の使い方を見つめなおすワークショップを実施。バルーンデイズ期間中は、ワークショップの参加者とともにパフォーマンスを披露します。
 
手押し車を大人用に改造したもの。押すと音が出ます。

 
 
海外からきたご家族も興味津々。初めて訪れた上野を楽しんでいらっしゃるようでした。

 
 
こちらの楽器は東日本大震災の際に宮城県の南三陸町の役場で流されたスピーカーで作られています。

 
 
バルーンをつなげたスティックを掲げて公園中を走り、空に絵を描くというパフォーマンス。風の流れによって変化する風景。この瞬間にしか楽しめない絵画です。

FIVE LEGS Factory

広場の一角に設けられたこちらのテントの下では、なんと移動式の屋台が造られています。

 
そもそもFIVE LEGSとは、インドネシアの移動式屋台「KAKI LIMA(カキリマ)」から来ています。インドネシア語の「KAKI」は屋台、「LIMA」とは足という意味。屋台に付属する3つの支点と、それを引く人の足2本を足して、FIVE LEGS。異国の文化を上野という都市の日常として翻訳してゆくという試みのもと、北澤潤氏により3日がかりで「KAKI LIMA」が作成されます。最終日には完成したKAKI LIMAを引いて上野公園中を移動される予定です。

シング・パーク・ハルモニア

綺麗なハーモニーを奏でるのは佐藤公哉氏が率いるアーティストユニット・トーラスヴィレッジを中心とした、参加型合唱パフォーマンス。簡単なメロディーの繰り返しによってハーモニーが作られていきます。イベント当日はその場で配布される楽譜を見ながら、どなたでも飛び入りで参加することができます。

 
 
アーティストの方、事前ワークショップに参加された方がリードしてくださるので、メロディーを真似て口ずさむだけでパフォーマーの一員になることができます。特設ステージはなく、公園内の様々な場所で実施されるようです。どこかでハーモニーが聞こえたら、参加してみてはいかがでしょうか。

プラザ・ユー Plaza・U

少し汗ばむほどの快晴のなか、一歩木陰に足を踏み入れるとひんやりとしてとても気持ち良く感じられます。そんななか地面に寝そべっている方々がいらっしゃいました。

 
 
路上生活経験者からなるダンスグループ「新人Hソケリッサ!」の皆さんです。率いるのはアーティストのアオキ裕キ氏。アオキ氏は2001年、NY留学中にテロと遭遇して以来、「今を生きる身体から生まれる踊り」を追求。日々生きるということに真剣に向き合う路上生活経験者と接触し、ともに肉体表現作品を作り上げていきます。2ヶ月半に渡る噴水前広場での公開稽古を経て、バルーンデイズ中に新作パフォーマンスを披露します。今回はたまたまリラックスしているところを見学させていただきましたが、パフォーマンスでは切れのあるダンスを見せてくださるそうです。
 

東北と上野を結ぶ 星屑屋台

スペイン出身のアーティストであるホセ・マリア・シシリア氏は2011年の東日本大震災発生から今日に至るまで、東北で被災者の方々とアートを通した交流を続けてこられました。

 
 
この「星屑屋台」はシシリア氏の東北での活動を紹介し、その活動に携わった人々や震災を経験した人々とともに震災や作品について語り、また出会いの場を創出するという目的で作られました。紙粘土で3.11のイメージで和菓子を作ったり、被災地の和菓子職人が作った和菓子を提供したりといった活動が行われます。
 
また、上野公園近辺に位置する国立国会図書館国際子ども図書館では、シシリア氏の作品の展覧会「アクシデントという名の国」が2019年2月24日(日)まで開催されます。
 
シシリア氏は近年、音を分析して二次元、三次元に形象化する作品を多く発表していますが、本展では東日本大震災の際の津波の音の轟音を基に制作された作品や、宮城県三陸町で住民に警報を発し続け亡くなった遠藤未希さんの声や、その死から発想した連作「数千年にわたる遠藤未希への想い」などを紹介しています。

きき耳ラジオ

美術家の小山田徹氏がゲストとともに公園内を散歩し、「防災」をテーマに地域の防災や食などに関するトークを展開するプログラム。参加者もラジオを身に着け、園内を一緒に散歩しながら語り合います。

 
 
上野公園は憩いの場として日々多くの人々を惹きつけていますが、敷地内には貯水タンクを有しており、災害時には避難所となります。本プログラムは、避難所としての視点から上野公園を見つめなおし、何が起きるのか、どのように生き延びるのかを語り合あうきっかけを与えてくれるものとなります。


上記でご紹介したプログラムのほかにも、気軽にアート体験に参加できる企画が充実しています。アートを楽しみながらも、震災について、また人とのつながりについて、何らかの気づきが得られるのではないでしょうか。
 

UENOYES バルーン DAYS 2018概要

 

会期 2018年9月28日(金)~30日(日)

時間 10:00~17:00

会場 上野恩賜公園竹の台広場(噴水広場)国立国会図書館国際子ども図書館

参加費 無料

公式ウェブサイト https://uenoyes.ueno-bunka.jp/


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「江戸まち たいとう芸楽祭 」 オープニングイベント 取材しました

上野恩賜公園竹の台広場(噴水広場)

大衆芸能の発祥地・台東区。本区ではこれまでに先人によって培われてきた芸能・文化のさらなる発展を願い、2018年8月4日(土)から2019年2月16日(土)にかけ、「江戸まち たいとう芸楽祭」を開催します。
 
名誉顧問はこの台東の地で芸を磨いてきたビートたけしさん。
 
夏の陣・冬の陣と大きく二部に分けて様々なプログラムを通し、「肩の力を抜いて楽しめる芸能」を発信していきます。
 
今回、その芸楽祭の開催を祝して8月4日(土)に行われたオープニングイベントを取材しましたので、その様子をお届けします。

美聖&プッチャリンfeat.車寅一郎

16時に始まった本イベント。まだ日が高く、気温は34度ありましたがステージ周辺に人が集まってきます。
 
まず賑やかに登場したのは、「美聖&プッチャリンfeat.車寅一郎」。2011年より「美聖&プッチャリン☆浅草流し」として活動していますが、本日は寅さんのモノマネをする車寅一郎さんと共演しました。

 
艶やかな着物が目を引く、浅草出身のシンガーソングライター美聖(みきよ)さん。

力強く美空ひばりさんの「お祭りマンボ」やオリジナルソング「日本・茶チャチャ」を歌いあげます。「日本・茶チャチャ」は日本の応援歌。海外の方にも日本の良さを伝えたいという想いを込めて作られた曲です。お客さんの手拍子で会場が盛り上がります。
 
 
車寅一郎さん。映画から飛び出してきたかのように、寅さんそっくりです。

 
 
「大きな木になりたい」という曲に合わせてパントマイムを演じるプッチャリンさん。ユーモラスでありながらどこか哀愁を誘う表情で情感たっぷりに演じます。

 
 

「昭和歌謡で巡る東京観光 唄声バスツアー」唄声ガイドさん

次に登壇したのは、日ごろ「観光名所を巡りながら、その土地にちなんだ昭和の名曲を全員で大合唱」するという新感覚のツアーを提供するガイドさんたち。本日は特別にステージで歌謡曲ライブを披露してくれました。

 
 
この季節にぴったりなキャンディーズの「暑中お見舞い申し上げます」や、誰もが知る坂本九さんの名曲「上を向いて歩こう」などの郷愁を感じるメドレー。マイクを向けられたお客さんも一緒に歌います。

 
 
西城秀樹さんの「YOUNG MAN(Y.M.C.A)」では、みんなが音楽に合わせて体を動かし会場が一体となりました。

 
 

ピヨピヨレボリューション

このころだいぶ日が落ちて涼しさを感じられるようになりました。ステージ前で足を止める方がさらに増え始めます。
 
ピヨピヨレボリューションは、「まるで音楽ライブを観ているかのようなノリで物語を楽しむことができる」歌とダンスとお芝居を組み合わせたパワフルなライブstyle演劇を体現する劇団。

 
 
本日は「即興ライブstyleエチュード」と称し、その場でお客さんから募ったキーワードをもとにお芝居を作り上げるという試みに挑戦しました。観ているこちらも一体どのようなストーリーになるのかドキドキします。本当に音楽ライブであるかのように、お客さんを巻き込んで展開してゆくお芝居でした。

 

​浅草安来節 大和家一座

安来節とはどじょうすくいでおなじみの島根県の民謡ですが、大正時代に浅草と大阪で大ブームになりました。その浅草でのブームを担ったのがこの大和家の初代八千代でした。

 
 
現在どじょうすくいというと、男踊りを思い浮かべる方が多いかと思われますが、実はより歴史の長い女踊り。

 
 
細い筒の中に小銭の入った「銭太鼓」の演奏も披露。太鼓が宙に舞うたびにシャンシャンという涼し気な音が響きます。

 
 
そしておなじみ男踊り。お客さんのなかには海外からの観光客も目立ちましたが、興味深げに鑑賞していました。

 
 

服部征夫区長、河野純之佐議長挨拶

台東区長と台東区議会議長から、区を代表して挨拶がありました。
 
着流しで登場の服部征夫台東区長は「今年は江戸から東京に改称して150年。江戸ルネサンス元年として、様々な試みをもって粋で人情豊かな台東区ならではの文化を国内外に広く伝えたい」と語ります。

 
 
河野純之佐台東区議会議長からは「台東区は大衆芸能・文化の発祥地。今までに多くの芸能人・文化人がこの地で誕生しました。文化の中心地としてのさらなる発展のため、今回芸楽祭を開催しました。上野だけでなく浅草、谷中など台東区全体で盛り上げていきたい」とのお話がありました。

 
 

スペシャルゲスト登壇(岸本加世子さん、アル北郷さん)

いよいよ待ちに待ったスペシャルゲストの登場です。
 
本日イベントの最後に上映が予定される、芸楽祭名誉顧問・北野武監督の映画『菊次郎の夏』。
 
本作にちなんだゲストということで作品中で菊次郎の妻を演じた女優の岸本加世子さんと、長年ビートたけしさんの付き人を務めるアル北郷さんのお二人が登場しました。区長・区議会議長とともに記念撮影です。

『菊次郎の夏』は母親と離れ離れになった少年とビートたけしさん演ずる中年男の菊次郎が、一緒に母親探しの旅に出るロードムービーです。台東区・浅草がその旅の出発地ということもあり、今回オープニングイベントでの上映が決定されました。
 
バックミュージックとして、本作のメインテーマである久石譲さん作曲の『Summer』が流れるなか対談が進められました。夜のとばりが下りるころ、ひっそりと流れるノスタルジックな旋律が映画上映に向けて雰囲気を盛り上げます。
 
本作の公開は1999年ということもあり、主に前年ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した『HANA-BI』と比較して語られました。

 
 
岸本さんは「『HANA-BI』はバイオレンスな表現が多くてたけしさんの怖い面が出ているけれど、『菊次郎の夏』はたけしさんの優しい部分、弱い部分が見られる」と語ります。
 
浅草はたけしさんが芸人としての一歩を踏み出した地であり、たけし映画で浅草が舞台となっているものはこの1本のみ。「菊次郎」はたけしさんの実の父の名前ですし、岸本さん演じる菊次郎の妻にはたけしさんの実の母・さきさんを彷彿とさせるところがあるそう。そのようなエピソードから、本作はたけしさんにとって思い入れの深い作品なのではないかと感じました。
 
その他数々の裏話によりお客さんの作品への期待が最高潮に達したところで、上映開始です。広々とした屋外で夜風に当たりながら映画を堪能して、本日のイベントは終了です。


8月4日(土)よりスタートした江戸まちたいとう芸楽祭は台東区各地で芸能・映画・演劇の分野で様々なプログラムが開催されます。無料で参加できるものがほとんどですので、気軽に覗いてみてはいかがでしょうか。詳しくは、下記公式ホームページをご覧ください。
 

江戸まち たいとう芸楽祭概要

会 期 2018年8月4日(土)~2019年2月16日(土)

会場 ○上野地区 上野恩賜公園 噴水前・御徒町南口駅前広場・上野ストアハウス ほか
○谷中地区 防災広場「初音の森」ほか
○北部地区 山谷堀広場・奥浅草界隈 ほか
○南部地区 浅草橋区民館 ほか
○浅草地区 浅草公会堂浅草九劇・木馬亭・雷5656会館 ときわホール ほか

公式HP http://www.taitogeirakusai.com/

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【東京都美術館】「BENTO おべんとう展-食べる・集う・つながるデザイン」内覧会レポート

東京都美術館

2018年7月21日(土)から10月8日(月・祝)まで、東京都美術館で「BENTO おべんとう展-食べる・集う・つながるデザイン」が開催されています。7月20日に報道内覧会に参加しましたので、今回はその内容についてレポートいたします!

私たちが普段口にしている「おべんとう」。あなたは、いつもどんな気持ちで食べていますか。
いつも一緒におべんとうを食べる仲間と談笑しながら?それとも、作ってくれた人のことを想像しながら?

行楽弁当から毎日の昼ごはんまで、「おべんとう」は私たちの生活に深く根付いています。誰かが作ってくれたお弁当は人から人へと手渡された「贈り物」であり、人と人とのつながりを深めるソーシャル・ツールとして、古来から重要な役割を果たしてきました。
 

《あゆみ食堂のお弁当》2017年
料理:大塩あゆ美、写真:平野太呂

「おべんとうを作る人」は栄養バランスと全体の色彩、配置を考えてお弁当箱に食材を詰めていきます。これって、本当に食べてくれる人のことを考えなければできないことですよね。そこには、食べる人と作る人の間の物語がある。つまり、おべんとうは「食べること」をめぐるコミュニケーション・ツールでもあるのです。
 
本展覧会は、日本独自の文化である「おべんとう」をコミュニケーション・デザインの側面から捉え直すという試みです。会場には遊び心のあるユニークなお弁当や、現代アーティストの参加型の作品が展示され、おべんとうの魅力を全身で体験し、その新たな視点を得られる空間となっています。

歌って踊れる「おべんとう」?!

展覧会は、「発酵デザイナー」の小倉ヒラクさん制作の楽しい新作アニメーション作品<おべんとうDAYS>から始まります。「ゆる系」のほんわかした絵柄に口ずさみやすいメロディと歌詞、振り付けで、歌って踊ると自然におべんとうのことがわかるという作品。
 

気さくに来場者に接する小倉氏。地下のギャラリーにも小倉氏の作品が展示されている

「言えないきもちが、かくし味だよ。こだわろう、思いのまま」

<おべんとうDAYS>はゆかいなキャラクターたちはもちろん、豊かな四季の情景と、シンプルなようで深く読み解ける歌詞が印象的です。踊る、歌う。身体を使ったムーブメントが開く新しい「おべんとう体験」。ぜひ、会場で一緒に口ずさんでみてください!

「おべんとう」が生み出す、楽しいコミュニケーション

広々とした地下ギャラリー。「コミュンケーション」を核に制作された作品が展示されている

 
お弁当を食べる人々の姿を写した阿部了氏の作品《ひるけ》

 
大塩あゆ美氏によるプロジェクト《あゆみ食堂のお弁当》の展示

地下ギャラリーでは、おべんとうが生み出すコミュニケーションに注目したアーティストたちの作品が多数展示されています。

読者からの「誰々に、こんなお弁当を作ってあげたい」というお便りに応えて大塩あゆ美氏がお弁当を作り、読者にレシピとお弁当を届けるという《あゆみ食堂のお弁当》では、実際に制作されたお弁当を平野太呂氏が撮影した写真を展示。
 
また、阿部了氏の作品《ひるけ》は、色々な人がお弁当を黙々と食べている姿を写したもの。「どんな人が作ったのだろう?」「今、どんな気持ちなのだろう?」写真を見ているだけで、想像力を掻き立てられます。
 

森内康博氏によって撮影されたワークショップのドキュメンタリー映像

 
お弁当箱を開けると参加した中学生たちの映像が流れる

 
小山田徹氏(とお嬢ちゃん)によるユニークな《お父ちゃん弁当》

 
「おべんとうルーレット」。誰に、何をテーマにしてお弁当を作るか決めてくれる。テーマが決まったら、お弁当のアイディアを書き出してみよう

お弁当を起点に自分と自分の身の周りの世界との関係についてじっくり考えることのできる展示も紹介。

小山田徹氏の作品は、長女がお弁当を考案して描き、父である小山田氏がその絵を元にお弁当を作るという日々の営みを紹介する《お父ちゃん弁当》。中には大人ではとても作ろうとは思えないようなアイディアのお弁当もあり、小山田氏は一体どんな気持ちでこの「無茶ぶり」に向き合ったのだろうと考えると、とても楽しいです(笑)。会場の一角にはルーレットでテーマと贈る相手を決めてお弁当作りにトライしてみるというコーナーもあります。

森内康博氏は、中学生が親の手を借りずに自分でお弁当を作る様子を子供たち自身がドキュメンタリー映像にするワークショップを開催。そのプロジェクトを映像作品として展示しています。テーブルの上のお弁当箱を開けると、箱の中に参加した中学生たちの映像が流れるというユニークな演出も。

「おべんとう」を再発見。参加体験型《intangible bento》

地下に広がるマライエ・フォーゲルサング氏による参加型展示。小屋のような10のセクションがある

 
会場の各所で「精霊フォン」をかざすと精霊たちの声が聞こえてくる。大人用と子供用に分かれているので家族連れで楽しめる

 
精霊さんになるフォーゲンルサング氏。作者が一番楽しんでいるような気が・・・

 
未来の食肉産業に貢献することが期待されている「骨植物」

食べることをデザインする「イーティング・デザイナー」であるマライエ・フォーゲルサング氏。彼女の展示はおべんとうの「触ることや見ることができない」側面を《intangible bento》の展示で生き生きとした物語として表現し、私たちをその中に誘います。

私たちの慣れ親しんだおべんとうを、普段とは違う視点で捉える作品を通じて、来場者自身がよくみて考え、おべんとうを再発見することができるような空間です。

本展示を監修したイーティング・デザイナーのマライエ・フォーゲルサング氏。もともとはオランダのプロダクト・デザイナー

会場では、「精霊フォン」を使って精霊たちの声を聞くことができます。彼らが語りかけてくるのは、目に見えない思い出や生産者との物語、そしてバイオプラスティックのお弁当箱や昆虫食など、おべんとうの「未来の可能性」です。

お弁当は作る人から食べる人であるだけではなく、今を生きている私たちから「未来のあなた」への贈り物なのかもしれません。

FRAGMENTS PASSAGE – おすそわけ横丁

おすそわけ横丁の入り口。まるで東南アジアのバーザールのような雰囲気が漂う

 
横丁にはたくさんの人に頂いた「おすそわけ」が並ぶ。これは・・・兜?

 
バザールに集まる「おすそわけ」を使ったワークショップ

誰かとおべんとうを食べる時の楽しみは、「おかず交換」。そういう人も多いでしょう。北澤潤氏はこの「おすそわけ」の要素に着目し、美術館の中にその気持ちや文化を考える《おすそわけ横丁》を作り上げました。

まるで東南アジアの伝統市場の風景を彷彿とさせるこの通りには、持ち寄ったものを自由におすそわけし合う空間が広がっています。家からものを持ち寄ったり、広場で敷物を広げたり。会場の一角では、横丁に集まった「おすそわけ」を使ったワークショップも行われていました。そこには、誰かに何かを「教える」といった空気はありません。あくまでこれも「おすそわけ」なので、みなさんとても自由でくつろいだ雰囲気で取り組まれていました。

この《おすそわけ横丁》は、日々おこなわれる「おすそわけ」によって変化する展示だと言えるでしょう。あなただったら、何をおすそわけしますか?してもらいますか?
 

会場には、世界のさまざまなお弁当箱を紹介するコーナーも

他にも会場では江戸時代に宴の場で使われた美しくユニークな形のお弁当箱や、世界のさまざまなお弁当箱を紹介。私たちの文化の中の「食べること」への工夫やデザインに注目し、「お弁当を食べる」という行為を通して起こる人と人とのコミュニケーションについて考えます。
 
また、8月20日には休館日の月曜日に「キッズ・デー」を開催。楽しい参加型プログラムで親子でゆったり楽しめるほか、会期中は東京都交響楽団とのコラボレーション企画の音楽会や作家によるワークショップもおこなわれます。

見て、聞いて、触れて楽しい「BENTO おべんとう展-食べる・集う・つながるデザイン」。
会場には素敵な「おもてなし」と遊び心があふれています。
みんなが大好きなおべんとうを通じて、あなたの大切な人とのつながりを感じてみてはいかがでしょうか?
 

開催概要

展覧会名 「BENTO おべんとう展-食べる・集う・つながるデザイン」
会 期 2018年7月21日(土)- 10月8日(月・祝)
9:30から17:30まで(入室は閉室の30分前まで)
※ただし7月27日(金)、8月3日(金)、10日(金)、17日(金)、24日(金)、31日(金)はサマーナイトミュージアムにより21:00まで
休室日 月曜日、9月18日(火)、25日(火) ※ただし、8月13日(月)、9月17日(月・祝)、24日(月・休)、10月1日(月)、8日(月・祝)は開室
会場 東京都美術館 ギャラリーA・B・C
観覧料 一般 800円 / 大学生・専門学校生 400円 / 65歳以上 500
団体(20名以上) 600円 / 高校生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※いずれも証明できるものをご持参ください
※10月1日(月)は「都民の日」により、どなたでも無料
公式サイト http://bento.tobikan.jp/

 

情報提供:ココシル上野
https://home.ueno.kokosil.net/ja/
 
その他のレポートを見る:https://www.culture.city.taito.lg.jp/ja/reports

【国立科学博物館】特別展「昆虫」内覧会レポート

国立科学博物館

2018年7月13日(金)から10月8日(月・祝)にかけて国立科学博物館で特別展「昆虫」が開催されています。メディア向け内覧会に参加してきましたので、さっそく展示の様子をお伝えします!

夏といえば、青い空、麦わら帽子、そして昆虫採集!
ということで、今回のカハク(科博)の特別展のテーマはストレートに「昆虫」です。

本展覧会は、国立科学博物館が意外にも(?)「昆虫」をテーマに開催する初めての大型特別展。その起源は4億8000万年前と言われ、私たち人類よりもはるかに長い歴史を持つ昆虫は、さまざまな環境に適応しながら、他の生物に比べて著しい多様化を遂げてきました。その種は、現在名付けられているだけでもなんと約100万種。

その仕組みや能力、生態について、標本やCG、体験型展示などを通して国立科学博物館ならではの知見を紹介する「昆虫」展は、家族で見て回るもよし、カップルで「キモい」と言って盛り上がるもよし。

一足先にその見どころをご紹介いたします!


ド迫力の巨大昆虫模型

大人気のクワガタ。黒光りする胴体とシャープなフォルムがカッコイイ

 

夏にプンプン飛び回る蚊もこの通り、巨大模型に。その姿は長年、過酷な環境の中で生き抜いてきた証でもある

 

こちらはニホンミツバチ。緻密な体毛の再現に驚かされる

会場に足を踏み入れると、まず度肝を抜かれるのが全長2メートルの巨大模型。クワガタ、オオムラサキ、ニホンミツバチ・・・。監修者が「触覚の節の数や足の長さまで完全に再現した」と語る入魂の作です。
普段特に注目することもない昆虫の身体ですが、あらためて巨大なスケールの模型で見ると、その複雑さ、多様性に驚かされ、その不思議さを実感させられます。

数万点の昆虫と「標本回廊」

色彩、形態ともにバリエーション豊かな昆虫標本の数々

 

樹脂に貼り着き、琥珀の中に閉じ込められた昆虫

 

世界最大の蝶、アレクサンドラトリバネアゲハと他種の比較

 

約5万点のコレクションが並ぶ壮大な「標本回廊」

また、今回の展覧会で非常に充実しているのが昆虫の標本です。古くから、多種多様な形と色彩で多くの人を魅了してきた昆虫たち。会場にはとても見尽くせないほどの標本が展示されているため、きっと誰もが「初めて見る」昆虫と出会えるはず。

特に、壁面がさまざまな研究機関・研究者・愛好者たちのコレクションで埋め尽くされた第5章は圧巻の一言。こうしたコレクションは昆虫研究の基盤となりますが、研究者によって収集の方針が異なり、ひとりで数万体、あるいは数十万体という巨大なコレクションを作り上げた人もいるそうです。

どうしてこうなった?美しい昆虫たち、ざんねんな昆虫たち

腹面から見ると巨大な「目」を持つアキレスモルフォ。蛾ではなく蝶だが、そもそも両者の境界はあいまいだという

 

捕食者に食べられないように有毒の蝶の擬態をしたツマグロヒョウモン

 

どうしてこうなった?どこかユニークな姿をした世界最大級の昆虫「メガスティック」。最長のものは624mm

 

「美しい昆虫」コーナー。その色彩の輝きはまるで宝石のよう

本展では、昆虫の生態の多様性を、食べる、住む、たたかう、といったキーワードに沿って紹介し、昆虫が生き抜くために獲得したさまざまな生態を見ることができます。そのユニークな形態の数々は見ていて興味が尽きず、「どうしてこうなった?」と好奇心を刺激されます。

ぜひ、あなただけの「お気に入り」の昆虫を探してみてください!

恐怖!「Gの部屋」

会場の片隅に何やら怪しげな一角が・・・

 

「生きた」マダカスカルゴキブリの展示

会場の中で特に異彩を放つのが「G」のコーナー。嫌悪する人があまりに多いばかりに「G」というコードネームを与えられてしまったこの昆虫ですが、本来はカマキリの系統に近く、決して人間に害をなす存在ではありません。

というわけでガラス越しにじっくりと見物。一心不乱に「もぐもぐもぐ・・・」とエサを食べているその姿に、不覚にも「かわいい」と感じてしまいました。ではなぜ、私たちはこんなにもGが嫌いなのか?それはやはり、私たちの発達した衛生観念や、幼い頃からの「刷り込み」が大きいのでしょう。Gが嫌いで仕方がない人にこそ、このコーナーはお勧めです!

とにかく圧巻の昆虫ワールド

広々とした展示空間。会場は5つのチャプターに分かれている

 

やっぱり男の子の一番人気はカブトムシ

 

アリと他の昆虫の共生を、4コマ漫画で楽しく紹介

 

直感的に昆虫ワールドを体感できるインスタレーションも

 

1984年に日本で発見されたヤンバルテナガコガネの紹介

その他にも、いずもり・よう氏作による4コマ漫画、360度画像を回転させて小さな昆虫を観察できる3D昆虫、世界に一点だけのヤンバルテナガコガネの「ホロタイプ標本」を展示するコーナーなど、会場の随所には魅力あふれる展示がいっぱいです。
さらに会場には「正しい昆虫採取」を学べるコーナーもあるので、お子さんの夏休みの宿題にもうってつけですね。

 

昆虫が大好きな人も、ちょっと苦手な人も。
この夏、未知とロマンにあふれた「昆虫ワールド」を体験してみてはいかがでしょうか?

開催概要

展覧会名 特別展「昆虫」
会 期 2018年7月13日(金)- 10月8日(月・祝)
午前9時 – 午後5時(入館は各閉館時刻の30分前まで)
※金曜・土曜日は午後8時まで、8月12日(日)〜16日(木)、19日(日)は午後6時まで
※会館時間や休館日については変更する可能性があります
休館日 7月17日(火)、9月3日(月)、9月10日(月)、9月18日(月)、9月25日(月)
会場 国立科学博物館
観覧料 一般・大学生  1600円
小・中・高校生 600円※ 金曜・土曜限定ペア得ナイト券は2名1組2,000円(午後5時以降2名同時入場限定、男女問わず、当日会場販売のみ)
※ 未就学時は無料
※ 障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名様は無料
公式サイト http://www.konchuten.jp/

記事提供:ココシル上野
https://home.ueno.kokosil.net/
 
その他のレポートを見る:https://www.culture.city.taito.lg.jp/ja/reports