【東京都美術館】「The UKIYO-E 2020 ― 日本三大浮世絵コレクション」 内覧会レポート

東京都美術館


歌川国芳 「みかけハこハゐがとんだいゝ人だ」 日本浮世絵博物館 前期展示

 

2020年7月23日(木・祝)より、東京都美術館にて、「The UKIYO-E 2020 ― 日本三大浮世絵コレクション」が開催されています。(~9月22日(火・祝)まで) ※前期・後期で作品の入れ替えあり)

先日、この展覧会の報道内覧会がありました。
この記事では、展覧会について、みどころ、展覧会の構成と編集部注目作品などについて、紹介します。
それでは、ご覧ください!


「 The UKIYO-E 2020 ― 日本三大浮世絵コレクション」とは?

 

今回、東京都美術館で開催される、「The UKIYO-E 2020 ― 日本三大浮世絵コレクション」は、日本の三大浮世絵コレクションといっても過言ではない、太田記念美術館、日本浮世絵博物館、平木浮世絵財団に所蔵される浮世絵の名品が集結し、選りすぐりの約450点の浮世絵版画のすぐれた名品を前期・後期にわたり展示するものです。
江戸時代の庶民に愛好された、日本を代表する芸術の一ジャンル、浮世絵の魅力を存分に楽しむことができます。

「The UKIYO-E 2020 ― 日本三大浮世絵コレクション」のみどころ5つ

 

The UKIYO-E 2020 ― 日本三大浮世絵コレクション」のみどころは、5つあります。

 

3大浮世絵コレクションが一堂に集う史上初の展覧会です。

 

浮世絵の歴史を展観する約60名の絵師の代表作を一挙に公開します。

 

出品数の約450点のうち、重要文化財・重要美術品は100点以上展示します。

 

世界唯一の残存作など所蔵の逸品が目白押しです。

 

超有名作である、葛飾北斎「冨嶽三十六景」、歌川広重「東海道五拾三次」を通期で展示します。

 

 

 

各章の構成と編集部注目作品

 


第一章 初期浮世絵

 

初期浮世絵版画は、延宝期(1673~81)頃の墨一色の版による「墨摺絵」(すみずりえ)により、始まります。
のちに、墨摺絵に丹を中心に筆彩色を施した「丹絵」(たんえ)、丹に代わり紅を用いて、黄色、藍で彩色した「紅絵」(べにえ)、黒色部分に膠(にかわ)を混ぜ、光沢を出した「漆絵」などが作られました。

延享期(1744~48)頃になると、紅や緑の色版を重ねる版彩色が行われ、「紅摺絵」(べにずりえ)と名付けられ、多色摺の錦絵が生まれる土台を確立します。

第一章では、浮世絵初期の時代の絵師、菱川師宣、懐月堂派、奥村政信、鳥居清信・清倍などの作品を展示しています。

 

 

【編集部注目作品】

 

●菱川師宣 「若衆と娘」

浮世絵版画の創始、菱川師宣が描いた、衝立の脇で寄り添う男女を描いた作品です。
唐草のような枠の中に描かれている、シンプルな描線とその線の上に塗られた、黄色や赤の色彩が目を引きます。

菱川師宣 若衆と娘 平木浮世絵財団 前期展示

 

 

●懐月堂度繁 「立美人」

肉筆画を中心に描いた懐月堂派の中では、版画の制作数が最も多いといわれている懐月堂度繁の作品です。
着物の前褄(まえつま)を取って立つ女性を画面いっぱいに描いています。
凛として佇む女性の姿は、まさに立美人です。

懐月堂度繁 立美人 重要美術品 平木浮世絵財団 前期展示

 

 

●奥村利信 「お七と吉三」

浄瑠璃や歌舞伎に脚色された、お七と吉三郎の話を描いた作品です。
八百屋お七が恋文を吉三郎に手渡ししている様子をとらえています

お七役は、二代目三条勘太郎が、初代嵐喜世三郎の追善として演じたのが有名で、以降の上演では、お七役は、嵐喜世三郎の定紋を用いるようになりました。
本作品の吉三郎は、衣装に二代目中村七三郎の紋が見えますが、当時七三郎が吉三郎を演じた狂言は、見出せなかったとのことです。

奥村利信 お七と吉三 太田記念美術館 前期展示

 

 


第二章 錦絵の誕生

 

明和2年(1765)頃、多色摺の版画が誕生し、錦のように美しい江戸の絵という意味で「東錦絵」(あずまにしきえ)と称されました。

第二章では、錦絵創生の時代にもっとも活躍した、鈴木春信、磯田湖龍斎、一筆斎文調、勝川春章らの作品を展示しています。

 

【編集部注目作品】
 
 
●鈴木春信 「風流諷八景 鉢木の暮雪」
 
中国の山水画の伝統的画題、瀟湘八景(しょうしょう はっけい)にちなんだ作品です。
8つの謡曲と結び付けたうちの「鉢の木」の物語の一場面が描かれています。
箒で屋根に積もる雪を払い落としているだけの姿ですが、その姿は、上品で雰囲気があります。

鈴木春信 風流諷八景 鉢木の暮雪 太田記念美術館 前期展示

 
 
●勝川春章 「初代中村仲蔵の近江小藤太 三代目大谷広次の番場忠太」

中村座の「御誂染曽我雛形」(おあつらえぞめそがのひながた)の一場面、
初代中村仲蔵の近江小藤太と三代目大谷広次の番場忠太の二人が、闇仕合をする姿が描かれています。
鬼気迫る表情で演じる役者の熱が、肌感覚で伝わってきます。

勝川春章 初代中村仲蔵の近江小藤太 三代目大谷広次の番場忠太 日本浮世絵博物館 前期展示

 

 

第三章 美人画・役者絵の展開

 

天明期(1781~89)に入ると、鳥居清長が伸びやかな長身の美人画様式を生みだし、群像図を多く制作します。
寛政期(1789~1801)に入ると、喜多川歌麿が様々な階層の女性を描きます。
東洲斎写楽は、寛政6年(1794)5月からわずか1年たらずで、忽然と消えてしまった絵師ですが、国際的にも評価されていいます。

第三章では、鳥居清長、喜多川歌麿、東洲斎写楽、歌川豊国らの作品を展示しています。

 

【編集部注目作品】

●鳥居清長 「大川端夕涼み」

川辺で涼風を楽しむ女性たちを描いた作品です。
今回、40年ぶりの展示となります。

五月二十八日の川開きに始まる、江戸の夏。
左側の茶托を持つ茶屋娘、中央のうちわを持つ女性、右側の片足を乗せる女性たちが、夏を楽しむ視線の先には、なにが映るのでしょうか?

※隅田川の下流は、当時、大川として親しまれていました。

鳥居清長 大川端夕涼み 重要文化財 平木浮世絵財団 8月10日まで展示

 

 

●喜多川歌麿 「五人美人愛敬競 松葉屋喜瀬川」

五人美人愛敬競は、江戸で評判の美女を描いた全5図の揃物です。
目鼻立ちの整った、面長の江戸美人に思わず見とれてしまいます。
顎に手をのせる女性の手指のしなやかさも印象的です。

喜多川歌麿 「五人美人愛敬競 松葉屋喜瀬川」 太田記念美術館 前期展示

 

 

●東洲斎写楽 「三代目坂田半五郎の藤川水右衛門」

二代目坂田半五郎十三回忌追善の興行で、三代目坂田半五郎が藤川水右衛門を演じたシリーズのうちの1点です。
藤川水右衛門のへの字口、かっと見開く眼、血管の浮き出た腕は、まさに敵役にふさわしい出立ちです。

東洲斎写楽 三代目坂田半五郎の藤川水右衛門 太田記念美術館 前期展示

 

 

●歌川豊国 「三代目市川八百蔵の此下東吉」

寛政8年(1796)三代目市川八百蔵が演じた、「衹園祭礼信仰記」の此下東吉を描いたとされる作品。
衹園祭礼信仰記は、悪人松永大膳に立ち向かう此下東吉の活躍を描いた物語です。
この絵の三代目市川八百蔵の目力には、圧倒されます。
その目からは、ただならぬ意志が感じられます

歌川豊国 三代目市川八百蔵の此下東吉 日本浮世絵博物館 前期展示

 

 

 

第四章 多様化する表現

 

文化・文政期(1804~30)に入ると、大らかな雰囲気だった錦絵は、より緻密な描写となり、画面に描かれる情報量も増えていきます。

第四章では、菊川英山の美人画、歌川国貞(のちに歌川豊国を襲名)らの作品を展示しています。

 

【編集部注目作品】

 

●菊川英山 「東すがた源じ合  紅葉賀」


源氏かるたと女性の半身像を組み合わせた揃物の一つで、行灯の灯りで冊子を読む娘を描いた作品です。
紙面を照らそうと、首を傾けて熱心に冊子を読みふける女性の真剣な表情が印象に残ります。
本の赤と髪留めと和服の赤が、調和を保っているように感じられます。

菊川英山 「東すがた源じ合  紅葉賀」 日本浮世絵博物館 前期展示

 

 

●歌川国貞 「紅毛油画風 永代橋」

洋風表現で描いた風景画の揃物で、知られたものでは、「紅毛油画風」、「紅毛油画名所尽」という図がそれぞれ5図、計10図あります。
この作品は、隅田川で四番目に架けられた橋、永代橋を取り上げた作品です。
永代橋の前を優雅に屋形船が渡ろうとしています。

歌川国貞「紅毛油画風 永代橋」日本浮世絵博物館 前期展示

 

 

第五章 自然描写と物語の世界

 

天保初期(1830~33)頃に、葛飾北斎による浮世絵版画、「神奈川沖浪裏」を含む「冨嶽三十六景」シリーズが出版されます。
天保4~5年(1833~34)頃には、歌川広重の代表作、「東海道五拾三次之内」も制作されました。

第五章では、葛飾北斎、歌川広重、歌川国芳などの作品を展示しています。

 

 

【編集部注目作品】

 

 

●葛飾北斎 「冨嶽三十六景 凱風快晴」

嶽三十六景は、日本一の名峰富士を眺める場所を変えて、描いた作品です。
この作品の富士は、河口湖付近から富士の北側を捉えたといわれています。
全46図が制作され、世界に北斎の富士のイメージを広めることになりました。
赤い富士山が、鰯雲を突き抜け、そびえる様子に心が震えます。
全46図をすべて見て、比較したくなります。

葛飾北斎 「冨嶽三十六景  凱風快晴」 日本浮世絵博物館  前期展示 ※後期は他館所蔵の同作品が展示されます

 

●歌川広重 「東海道五拾三次之内 箱根 湖水図」

東海道五拾三次之内は、歌川広重の出世作で、代表作の揃物です。
全55図からなり、旅路の風景を叙情豊かに描き、季節や時間、天候により変化する情景を実在感をもって表現しています。

こちらの作品は、小田原宿と三島宿の間に位置し、険しい山道が東海道の難所の一つだった箱根宿を描いています。
黄色、茶色、青の山の色は、色彩豊かです。
手前を歩く、笠を被った大名行列を見ると、その険しい山道の様子がわかります。
遠くに見える富士山を見て、少しだけ心が休まったでしょうか?

歌川広重 「東海道五拾三次之内  箱根  湖水図」 日本浮世絵博物館  前期展示

 
 
●歌川国芳 「みかけハこハゐがとんだいゝ人だ」

何人もの人間を集め、一人の人間の半身像を形作ったパズルのような趣向の戯画です。
その一人一人の顔や、体勢に、思わず笑ってしまいます。
怖い顔と、体のパーツの表情のギャップが面白いです。

歌川国芳 「みかけハこハゐがとんだいゝ人だ」 日本浮世絵博物館 前期展示

 

 

まとめ

 

「The UKIYO-E 2020 ― 日本三大浮世絵コレクション」について、紹介してきました。
日本三大浮世絵コレクションが、そろい踏みする史上初めての展覧会。

展覧会は、第一章から第五章まで、約60名の絵師たちが描いた作品が、前期・後期にわたり455点も登場する、ボリュームある内容となっています。
素晴らしい浮世絵の数々を鑑賞できるチャンスは、めったにないので、興味がある方は、東京都美術館へ是非とも、足を運んでください。

点数が多いので、まずは、自分のお目当ての絵師の作品を見てから、他の作品をじっくり見てもいいかもしれません。

 

※会場では、新型コロナウイルス対策として、検温の実施、手指の消毒のお願いをしております。
手指の消毒の徹底、マスク着用、密を避けるようソーシャルディスタンスを保って、ご鑑賞ください。

 

開催概要

 

■展覧会名: The UKIYO-E 2020 ― 日本三大浮世絵コレクション

■会期:   2020年7月23日(木・祝)~9月22日(火・祝)
前期:7月23日(木・祝)~8月23日(日) 後期:8月25日(火)~9月22日(火・祝)
(※前期・後期で作品は全て入れ替わります ※日時指定入場制)

■会場:          東京都美術館企画展示室

■開室時間: 9:30~17:30

■休室日:      8月17日(月)、8月24日(月)、9月7日(月)、9月14日(月)

観覧料 : 
※本展は日時指定入場制となりました。詳細は展覧会公式サイトへ(https://ukiyoe2020.exhn.jp)

※中学生以下および、身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料(日時指定券(無料)のお申し込みが必要です)
※いずれも証明できるものをご持参ください

展覧会公式サイト:https://ukiyoe2020.exhn.jp)

 

 

その他のレポートを見る

自由な表現者たちの魂が、胸に迫る。
【東京藝術大学美術館】「あるがままのアート -人知れず表現し続ける者たち-」内覧会レポート

東京藝術大学大学美術館

2020年7月23日(木・祝)から9月6日(日)まで、東京藝術大学美術館にて特別展「あるがままのアート -人知れず表現し続ける者たち-」が開催されています。先日、メディア向けの内覧会が開催されましたので、その様子をお伝えいたします。

人間味あふれる、「あるがまま」の作品たち

 

会場入口を彩る、小森谷章氏の作品。糸の塊が絡み合い、アメーバのような生命体を彷彿とさせる

 

展示会場風景

 

作家名の下にはQRコードが貼付されており、スマホ等で読むことで作品情報などを閲覧できる

 

林田嶺一氏はミュシャやロートレックなどのポスター作品とミニチュアなどのさまざまなマテリアルを組み合わせ、不可思議なイメージを作り出す

 

枯葉を折り紙のように折って製作された、渡邊義紘の作品。驚くべき手技の妙

 

井村ももか氏の制作した布製の丸いオブジェ。まるでパフォーマンのように「歌うように、踊るように」作り上げるという

 

当初はTシャツなど、身近なものに描いていたという福井誠。強烈な「目」のイメージが印象的

 

特別展「あるがままのアート -人知れず表現し続ける者たち-」で展示されているのは、いわゆる「プロフェッショナル」の作品ではありません。

ここに集うのは、世間からは「アウトサイダーアート」などとも呼ばれる、既存の芸術や教育、障害の有無などに左右されず、ただひたすらの独自の世界を追求し続けるアーティストたちの作品です。こうした、いわば「独学」のアーテイストたちの活動は20世紀初頭の美術界に大きな衝撃を与え、今日においてもその価値と重要性が強調され、広く社会に受け入れられています。

本展覧会ではNHK・Eテレで放送中のドキュメンタリー番組「no art,no life」と連携し、世界的に注目を集め続ける「あるがまま」のアートの世界を、近年国内外で注目を集めるアーティスト総勢25名、約200点の作品を通じて紹介しています。

 

展覧会初の試み!オンライン上で「ロボット鑑賞」

 

会場を自由に徘徊する自動運転ロボット

 

会場には「ロボット館長」も登場!

 

まさに「日本初」の試み。本展では東京藝術大学とNHKの独自企画として、インターネット経由で遠隔操作可能な自動運転ロボットを活用し、オンライン上のロボ鑑賞会を実現させています。内覧会ではそのお目見えが行われ、「ロボット館長」による展示作品解説も行われました。

ロボットは3Dセンサーを利用して周辺の環境を把握し、目的地に到達する最適なルートを探ってくれます。また、モニターを通じて来場者とコミュニケーションを自由に取ることも可能。来場者とロボットが並んで歩き、和気あいあいと鑑賞する姿を見て、「ああ、新しい時代がやってきたな・・・」と感慨もひとしおでした。

ロボ鑑賞会は予約制で、事前に希望日時を選んで登録し、配信されたURLにアクセスすることで当日鑑賞できるという流れのようです。詳しくはスペシャルコンテンツサイトをご覧ください。

 

出展作家紹介

 

魲万里絵(すずきまりえ)

 

高校時代に統合失調症を発症したという魲万里絵さん。現在は地元の会社と地域活動支援センターに通う傍ら、絵を描き続けているそうです。

ふくよかな女性の身体、ハサミ、性器・・・。彼女の絵画にはこれらのモチーフが反復して登場し、「呪術的」とも言えるほどの強烈な世界観を作り上げています。特にハサミは「描くと落ち着く」モチーフなのだとか。

初めの頃はチラシやポスターのような挿絵風の絵だったようですが、次第にマジックと紙というシンプルな道具を使い、自分自身の内面を曝け出すような絵を描くようになったそうです。

 

小久保憲満(こくぼのりみつ)

 

「この世界のすべてを自分でつくってみたい」

小久保憲満さんは、そうした強い思いで日々筆を取り、絵を描き続けています。会場に展示されている横幅10メートルにも及ぶ大作は17歳の時から描きはじめ、約5年の歳月を経て完成させたもの。

街を縦横に走る線路、ショッピングモール、遊園地・・・。キャンパスには俯瞰した街の風景が描かれていますが、小久保さんは記憶やインターネット検索などで集めた情報を集め、どこにも存在しない空想の街を作り上げました。まさに圧巻の一枚。

キャンパスの右から描き進めていったということで、左に進むほどにモチーフやタッチがまるでグラデーションのように徐々に変化していっているのがわかります。

 

川上健次(かわかみけんじ)

 

「自分にとって強烈な感情をもたらすものをモチーフにする」という川上健次氏。その作品は幼いころに自分をいじめていた男の子や、自責の念にかられながら置き去りにしてしまった猫など、その背後に密度の高い「物語」や「情念」を感じさせるものです。

会場内のモニターには作家自身の姿や創作の様子などがディスプレイされていますが、川上氏は大声で笑ったり泣いたり、まさに「天真爛漫」そのもの。その力強い筆遣いやタッチからは、純粋で野太いエネルギーが伝わってきます。

ときにスリリングで恐ろしい場面を描きながらも、作風はどこかほのぼの。もし岡本太郎が生きていたら、彼のことを絶賛していたのでは・・・そんな想像も浮かんできます。

 

 

開催概要

展覧会名 特別展「あるがままのアート -人知れず表現し続ける者たち-」
会期 2020年7月23日(木・祝)~9月6日(日)
開館時間 10:00~17:00(最終入場は16:30)
※7月30日(木)は12時からご観覧いただけます。
※日時予約制(予約サイトはこちら
休館日 ※休館日:月曜日
ただし、8月10日(月・祝)は開館、8月11日(火)休館
会場 東京藝術大学大学美術館(〒110-8714 東京都台東区上野公園12-8)
観覧料 入場無料
公式サイト https://www.nhk.or.jp/event/art2020/

 

その他のレポートを見る

 

【上野の森美術館】「なんでもない日ばんざい!」内覧会レポート~注目作品などを紹介~

上野の森美術館

野田 哲也「日記1979年8月10日」木版、シルクスクリーン、和紙 49.0×63.7cm 1979年 上野の森美術館

2020年7月23日(木・祝)より、上野の森美術館にて、上野の森美術館所蔵作品展「なんでもない日ばんざい!」が開催されています。(~8月30日(日)まで)
先日、この展覧会の報道内覧会がありました。
この記事では、展覧会について、展覧会の構成と編集部注目作品などについて、紹介します。
それでは、ご覧ください!


「なんでもない日ばんざい!」について

上野の森美術館では、1983年から今まで38回開催してきた上野の森美術館大賞展の受賞作品を多数所蔵しています。

今回の展覧会「なんでもない日ばんざい!」は、「なんでもない、どこにでもある日常」をテーマに、コロナ禍で、私たちの行動に様々な制限が強いられる中、こんな時期だからこそ見てみたいという作品を約80点展示します。
そのほか、同じく上野の森美術館の所蔵作品から、版画家・野田哲也が、家族や日常の日々を記録した〈日記〉シリーズの1970~80年代の作品約40点を前後期に分けて展示。また、秋山さやかが上野公園を題材に制作した作品も展示します。

「なんでもない日ばんざい!」公式サイト:http://www.ueno-mori.org/specials/2020/nandemonaihi/

 

展覧会の構成と編集部注目作品を紹介します。

 

展覧会は、5章から構成されており、作品の題材や視点が、徐々に日常の内側から外側、身近なものからより遠いものへとひろがっていくよう構成されています。

第1章「日常のなかに」

日常の「核(コア)ともいえる家や室内、身の回りの光景、自分自身やすぐそばにいる親しい人を描いた作品など、展覧会のテーマ、「なんでもない、どこにでもある日常」を感じる一番代表的なイメージ群です。

 

☆藤井 由隆 「花束」

 

まっすぐと、強いまなざしでこちらを見つめる女性。
その表情に、一瞬で引き込まれてしまいます。
ドレスや靴の鮮明なブルーが、女性の芯の強さを象徴しているように思えます。

藤井 由隆 「花束」油彩 F100  第35回 優秀賞 上野の森美術館

 

☆八嶋 洋平 「プラスチックガール」

 

壁にもたれかかる桃色の少女の人形。
深い悩みを抱えているように見えます。
よく見ると、壁には犬か猫を抱く男性の絵が描かれています。
実は、父親への愛情を求める気持ちを表しているのでしょうか?

八嶋 洋平 「プラスチックガール」 油彩 F100 第36回 絵画大賞 上野の森美術館

 

第2章「日常から絵画へ」

 

日常は、絵画の世界への入り口でもあります。
身近な日常に題材を得ているものを、そのまま描くのではなく、古今東西様々な絵画の様式や先達の手法を参考にしたり、あるいは独自のイマジネーションを発揮して様式化した絵画が、第2章にはそろいます。

 

☆原田 久万 「日本の行方 Ⅱ」

 

顔に布を被る男。
その足元は、粉々に崩れていきます。
日本の未来への憂いでしょうか?
「日本の行方」というタイトルにドキッとさせられます。

原田 久万 日本の行方 Ⅱ 油彩 F80  第10回 佳作賞 上野の森美術館

 

☆井上 猛 「きざし」

 

カタツムリの殻のようなものの中から飛び出す大きな魚と殻に吸い込まれるエビのような生き物。
水面は大きく渦を巻いています。
渦は、どんどん大きくなって、どこへ向かうのでしょうか?

井上 猛 「きざし」 油彩 S80  第8回 佳作賞 上野の森美術館

 

第3章「動物」

 

現代社会においての動物は、人間にとってどういう存在なのでしょう?
都市生活者にとっては、家で飼うペット、あるいは動物園などで囲われた状況の動物がいます。
第3章では、人々の感情を映し出す重要な存在として表現された動物などを紹介しています。

 

☆大村美玲 「間」

 

大きな樹と、その近くに佇む鳥。
神話的な樹が、まばゆい光を放っているようにも、鳥がクジャクのように羽を広げているようにも見えます。
薄明りの中で鑑賞すると、どのように見えるのかも見てみたい作品です。

大村美玲 「間」 日本画 S100  第37回 優秀賞 上野の森美術館

 

第4章「風景」

 

第4章は、第1章で紹介した室内などの手の届く範囲の風景よりももっと広い、遠い風景や俯瞰した風景が中心の展示となります。
都市の象徴である建造物から、水の流れや雲の動き、それら私たちの生活に欠かせない風景がここに描かれます。

 

☆呉 梨沙 「あさくさ」

 

誰もが知っている浅草の風景が、季節の移ろいを象徴する花とともに描かれています。
爽やかな色使いの中に、儚(はかな)さも存在しているように感じられます。

呉 梨沙 「あさくさ」油彩 F100 第29回 優秀賞

 


☆茂木 瑶(もてぎたまな)「星座ー窓からの風景ー」

 

窓の外に広がる夜景を描いた作品。
様々な光が交差して眩(まばゆ)い光を放ち、生き生きと語りかけてきます。
それぞれの光を見ていると、明るさが微妙に異なるので、不思議です。

茂木 瑶(もてぎたまな)「星座ー窓からの風景ー」油彩 S100 第32回 優秀賞

 

第5章「広がる想像」

 

実際の日常がいくら狭く、限られたものであっても、私たちは想像力を用い、物理的な制約を補うことができます。
第5章では、画家たちは絵画のなかで、異質なものどうしを結びつけ、異なる時空を導き入れ、目の前の現実よりはるかに広く深い世界を生み出そうと試みた作品を展示します。

 

☆青木萌 「覚醒する情動」

 

花瓶に植えられた花から蝶のような、別の生命のようなものが誕生しています。
ほとんどモノクロームの作品なのに、色彩を豊かに感じ取ることができるのは、気のせいでしょうか?
所々に配置された赤も、効果的です。

青木萌 「覚醒する情動」ミクストメディア F100 第33回 優秀賞

 

[特集展示] 野田哲也 版画 < 日記>シリーズ

 

☆野田 哲也「日記1979年8月10日」

 

野田哲也が、当時幼かった息子さんを題材にした作品。
歯抜けの口を大きく開けて、こちらを向く表情が、とてもユーモラスです。
よく見ると、顔の上に計算式が書いてあります。
この計算式が、作品を一段とポップな印象にしています。

野田 哲也「日記1979年8月10日」 木版、シルクスクリーン、 和紙 49.0×63.7cm 1979年 上野の森美術館

 

※特集展示は、展示替えがあります。

前期:7 月23 日( 木・祝)~8 月10 日( 月・祝)
後期:8 月12 日( 水)~8 月30 日( 日)

まとめ

 

上野の森美術館所蔵作品展「なんでもない日ばんざい!」について、お伝えしてきました。
展示されている”なんでもない、どこにでもある日常”をテーマにした作品群は、どれも気になるものばかりでした。
ここで紹介した作品以外にも、素晴らしい作品が展示されていますので、上野の森美術館へ行って、確かめてみませんか?

そして、作品に触れたあとは、なんでもない日々の大切さを噛みしめることでしょう。
美術館で作品を鑑賞すること、上野公園を散策すること、家族や友人と笑いあうこと。
なんでもないことが、こんなにもキラキラと輝いているということに。

 

※会場では、新型コロナウイルス対策として、検温の実施、手指の消毒の依頼をしております。
手指の消毒の徹底、マスク着用、密を避けるようソーシャルディスタンスを保って、ご鑑賞ください。

 

開催概要

 

タイトル :     上野の森美術館所蔵作品展 なんでもない日ばんざい!
会   場   :  上野の森美術館 〒110-0007 東京都台東区上野公園1-2
会   期 :    2020年7月23日(木・祝)-8月30日(日)
休   館    :   月曜日(ただし8月10日は開館)、8月11日(火)
時   間    :   午前10 時─午後5 時(入場は閉館30 分前まで)
主   催    :   日本美術協会 上野の森美術館、フジテレビジョン
後   援    :   フジサンケイグループ

 

 

チケット情報 

 

*この展覧会は日時予約制です

①10:00~10:59  ②11:00~11:59  ③12:00~12:59  ④13:00~13:59
⑤14:00~14:59  ⑥15:00~16:30

ご来館前にあらかじめ下記(e+ イープラス、ファミリーマート店舗)で日時指定券を購入のうえ
会場にお越し下さい。美術館内の混雑緩和のため、会期中は入場制限をさせていただきます。

 

ネット環境をお持ちでない方へ
日時指定の予約なく当日直接お越しになる方は【当日窓口】でお越しいただいた時間帯の空いている時間枠を照会いたします。
日時指定予約をされた方が優先となりますので、ご入場までお待ちいただく場合がございます。予めご了承ください。

※入替制ではございません。 ※指定時間内にご入場ください。

 

入場料: 一般1000 円、大学生500 円、高校生以下無料

※障がい者とその付き添いの方1名は無料、入館の際に障がい者手帳などをご提示ください。

 

販売期間

 

①2020 年7月10日(金)10時~
[7月23 日( 木・祝)~8 月10 日(月・祝) の期間のチケットを販売します。]

 

②2020 年7 月22 日( 水) 0 時~
[8 月12 日( 水)~8 月30 日( 日) まで の期間のチケットを販売します。]

 

販売場所  e+(イープラス) / QRチケット 【WEB 販売】 https://eplus.jp/ueno-mori/

【 コンビニ店頭販売】 ファミリーマート店内Famiポート

※ファミリーマート店頭購入方法 https://www.family.co.jp/services/famiport.html
※上野の森美術館窓口(開館日のみ)

 

・当館内で新型コロナウイルスの感染者が確認された場合、上野の森美術館ホームページにその情報を掲出いたします。
・会期等に変更等ある場合は上野の森美術館ホームページにてお知らせいたします。

 

 

※タイトルについて

「なんでもない日ばんざい!」は、もともとルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」に出てくる「誕生日じゃない日のプレゼント」(un-birthday present)という言葉に由来。ディズニーの「不思議の国のアリス」では、「お誕生日じゃない日のうた」のなかに「なんでもない日おめでとう!」(A Very Merry Unbirthday To You)という歌詞がある。

 

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【国立西洋美術館】「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」内覧会レポート

国立西洋美術館
フィンセント・ファン・ゴッホ 《ひまわり》 1888年

3月中旬に国立西洋美術館で「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」メディア向けの特別内覧会が開催されました。今回はその様子をお伝えいたします。

※開幕が延期となりました。開幕後も混雑対策のためチケットの販売方法や展示室への入場方法が変更となる場合がございます。
最新情報を展覧会公式サイト(https://artexhibition.jp/london2020/)で必ずご確認ください。

英国の誇る至宝、奇跡の初来日。

展示会場入口

 

展示風景

 

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 《34歳の自画像》 1640年

 

(画面手前)トマス・ゲインズバラ《シドンズ夫人》1785年

ロンドン中心部、トラファルガー広場に面して建つロンドン・ナショナル・ギャラリー西洋絵画に特化し、その世界屈指のコレクションは多くの来場者を魅了し続けています。多くのヨーロッパの美術館とは違い王室のコレクションを母体とせず、市民のために、市民の手で形成されたという点が大きな特徴。いわば、英国民による「アワ(私たちの)・コレクション」と言えるかもしれません。

しかし、これまで同ギャラリーはまとまった数の作品を貸し出すことには慎重で、英国外で所蔵作品展が開かれたことは一度もありませんでした

本展では、ロンドン・ナショナル・ギャラリーの所蔵する世界的傑作が奇跡の日本上陸。全作が「初来日」となるこの機会は、まさに歴史的な展覧会といえるでしょう。

さあ、西洋絵画の歴史をめぐる美の旅へ

第4章展示会場風景

 

(画面手前)ルカ・ジョルダーノ《ベラスケス礼賛》1692-1700年頃

 

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》 1829年

 

ポール・セザンヌ《プロヴァンスの丘》1839-1906年

 

日本初公開となるゴッホの4番目の《ひまわり》(1888年)

今回来日する作品は全61点。本展は全7章構成となっており、ルネサンスからポスト印象派にいたるまでの名品が一挙に公開されています。英国とヨーロッパ大陸の相互関係の歴史を紐解きながら西洋絵画史を俯瞰することができ、まさに教科書的に楽しめるので、西洋絵画初心者の人も、そのコレクションの質の高さから美術ファンの人も幅広く堪能できる展覧会になっています。

時代の幅もさることながら、ゴッホ、フェルメール、レンブラント、ターナー・・・絵画史に名を刻む画家たちの作品が一堂に会しているさまはまさに「美の殿堂」「西洋美術界のオールスター」。
特に第7章で展示されているゴッホの《ひまわり》は自らその出来を認め、サインを記したという特別な作品。会場の中で燦然とした輝きを放つ《ひまわり》の力強さを、ぜひ会場で直接ご鑑賞ください!

 

鑑賞時間や注意点などは?

鑑賞時間は、ひと通り観て回るだけなら一時間程度。それぞれの作品をじっくり鑑賞したいなら、もう少し見込んでおくと良いでしょう。
新型コロナウィルス感染症の影響で、人数制限や予約入場制などの対応があるかもしれませんが、そうなれば鑑賞スペースには余裕があるはず。
事前に公式サイトで美術館の対応をチェックしておきましょう。

展示作品紹介

ヨハネス・フェルメール
《ヴァージナルの前に座る若い女性》 1670-72年頃

時を超え、見る者を誘う少女の眼差し。

近年、日本における「フェルメール・ブーム」も記憶に新しい世界屈指の画家。本展で出品されているこちらの作品は、ヴァージナル(小型撥弦鍵盤楽器)の前に座り、こちらに眼差しを送る若い女性を描いたものです。大理石の床、美しく飾られたヴァージナル、金の額縁で飾られた絵画・・・その内装の豪華さから、それなりに高い身分の女性であることがうかがえます。

やはり目を引くのは「フェルメール・ブルー」とも呼ばれる鮮やかな発色の青色。そして背後の絵画に見られるような、入念に描き込みすぎない、自由闊達なタッチです。左下に置かれた弦楽器ヴィオラ・ダ・ガンバは、観ている私たちに「さあ、一緒に演奏しましょう」と語りかけているようにも思えます。

 

カナレット(本名:ジョヴァンニ・アントニオ・カナル)
《ヴェネツィア:大運河のレガッタ》1735年頃

描いたのは風景ではなく、市民たちの活況(ドラマ)。

カナレット(本名:ジョヴァンニ・アントニオ・カナル)は、18世紀の欧州における最も重要な景観(風景)画家として知られています。

この《ヴェネツィア:大運河のレガッタ》は画家の故郷ヴェネツィアの大運河でおこなわれるゴンドラ競漕の景観を描いた作品ですが、その並外れた描写力、そして瑞々しい大気と水の表現には驚かされます。画面中景には華やかなゴンドラ、そして画面の大部分を占める大運河の両側には大勢の観客が描かれ、まるで市民たちの歓声が聞こえてくるかのよう。

現在、新型コロナウィルス感染症の影響により制限のある生活を強いられているイタリア。この絵画に描かれているような、活気のある情景が戻る日を祈るばかりです。

 

ディエゴ・ベラスケス《マルタとマリアの家のキリスト》1618年頃

ニンニク、卵、オリーブオイル・・・庶民のリアルな台所事情。

台所と思われる質素な室内で、乳棒と乳鉢を手にした若い女性。彼女がちょっと不機嫌そうに見えるのは、せっかく自分がイエス様をもてなすための料理を作っているのに、妹のマリアが手伝いもせず、ずっとイエス様のお話を聞いているから。

この絵画は新約聖書「ルカによる福音書」に書かれた物語を下敷きにした作品で、若き日のベラスケスが故郷セビーリャで描いたもの。注目すべきは、最も重要であるはずのイエスとマリアの問答が画面隅に追いやられ、その代わりに圧倒的な質感と写実性をもって前景を描いていること。いわば、「宗教画のかたちを借りた風俗画」といえるかもしれません。

滑らかな光沢を放つ白身魚、テーブルのニンニクや卵の質感・・・ぜひ、「手前のテーブルの上の静物」に注目して鑑賞してみてください。

 

フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》1888年

世界中で愛される、ゴッホの代表作。

ゴッホは共同生活を送る予定の友人ポール・ゴーガンのために、1888年から花瓶に生けたひまわりの絵を4点描きました。ロンドン・ナショナル・ギャラリーの《ひまわり》はその4点目にあたり、ゴッホ自らがゴーガンの寝室を飾るにふさわしいと認め、サインをした2点のうち1点。つまりゴッホ自身の「お墨付き」というわけですね。

太陽へと向かい、黄金色に花を咲かせるひまわり。パリ時代に新印象派から学んだ技法、そして日本の浮世絵などから着想を得て、ゴッホは日常を超えた、内面世界のイメージのようなこの強烈なひまわりの図像を表現しました。

ゴッホの死後、なぜひまわりは世界中の人たちに愛されてきたのか。彼の作品に込められた「生命」の力を、ぜひご自身で体感してみてください。

開催概要

展覧会名 「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」
会 期 開幕日未定~2020年6月14日(日)
9:30~17:30
毎週金・土曜日:9:30~20:00
※入館は閉館の30分前まで
休館日 月曜日
会場 国立西洋美術館
観覧料 当日:一般1,700円、大学生1,100円、高校生700円
※開幕が延期となりました。開幕後も混雑対策のためチケットの販売方法や展示室への入場方法が変更となる場合がございます。
最新情報を展覧会公式サイト(https://artexhibition.jp/london2020/)で必ずご確認ください。
※中学生以下は無料。
※心身に障害のある方および付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)。
公式サイト https://artexhibition.jp/london2020/

 
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神田伯山(神田松之丞改め)、爆笑問題が登場!
「第2回江戸まち たいとう芸楽祭」
クロージングイベント体験レポート

浅草公会堂

 

2019年8月18日のオープニングイベント『ボヘミアン・ラプソディ』の野外上映からスタートした、「第2回 江戸まち たいとう芸楽祭」は、大盛況のまま、クロージングイベント『芸がさね・舞がさね』を迎えました。
今回、2月15日に行われた当イベントの模様を取材してきましたので、ご覧ください。


オープニングセレモニー

 

「第2回江戸まち たいとう芸楽祭」のクロージングイベントは、オープニングセレモニーとともに幕を開けました。
セレモニーは、渡邉寧久 江戸まちたいとう芸楽祭実行委員長、服部征夫 台東区長、石塚猛 台東区議会議長の挨拶に始まりました。
出演者によるフォトセッションの後、各プログラムが始まります。

(写真左から) 石塚猛 台東区議会議長、(1人挟んで)服部征夫台東区長、(1人挟んで)渡邉寧久 江戸まちたいとう芸楽祭実行委員長、浅草花やしき花振袖のみなさん、藤山大樹さん、AUN J クラッシック・オーケストラ

花振袖の舞 浅草花やしき花振袖

 

クロージングイベントは、
浅草花やしき花振袖のみなさんによる花振袖の舞で始まりました。
浅草花劇場を中心に活躍する9人の舞踊家さん達が、ハンカチ、傘、扇子を使って、舞台の上をしなやかに舞います。
その動きは、春風にそよぐ花びらのよう。

大和楽に合わせて、扇子を手に舞う花振袖たち。
色彩豊かな振袖。後ろ姿も華やかです。
舞の終わりに、大輪の花を咲かせました。

 

講談  神田伯山

 

今年、2月11日に真打ちに昇進した、神田松之丞改め6代目神田伯山の登場です。
様々なメディアで取り上げられ、今、最もチケットの取れない注目の講談師、神田伯山。忖度なしの物言いも魅力です。
「超満員と聞いていたのですが、所々席が空いております」
「『源平盛衰記 扇の的』を30分くらいやらなけりゃいけないと言われています。そんなに、やりたくない。。。」
などと言うと、会場は爆笑の渦に。
少し長めのマクラで、お客さんの心を掴んだあと、
「なんで、こんなにマクラをしゃべったかというと、本編が短いから!」と、また、笑いを誘い、本編へ。
よどみなく畳みかける伯山の講談の勢いと迫力に、会場のお客さんも、息つく暇もなく、どんどん引き込まれていきます。
テンポのいい語り口で講談は進み、さあ!という時に、
「なんとなんとー!お時間がー、きてしまいましたー!」
と、言ったかと思うと、間髪入れずに、
「しかし、私に明日は御座いません!この続きを申し上げてもよろしいでしょうかー?」と会場のお客さんを煽(あお)ると、
大きな拍手とともに、講談を再開します。
そして、最後まで畳みかけ、
「みなさんのご健康やご多幸を記念して、みなさんの的(まと)も大当たりとなりますように!」
と、締めくくり、会場は大きな拍手に包まれました。

6代目・神田伯山
源平盛衰記「扇の的」をテンポよく演じます。
物語は、熱を帯びたまま、佳境を迎え、終了。

 

手妻(和妻)  藤山大樹

 

次は、藤山新太郎を師に仰ぎ、国の無形文化財・手妻(和妻)を継承する数少ない手妻師の1人、藤山大樹さんの登場です。
海外でも手妻を披露して、世界中に日本の伝統文化を広めています。
『手妻』は、手を稲妻のように素早く動かすことから、手妻というのだそうです。

こより(細長く切った和紙をひも状にしたもの)で、きつく結び付けられた両手の親指を小刀で切る手妻。
何度刀を通しても、こよりは不思議と切れません。
七変化。一瞬で起こる鮮やかなお面の変化を通して、舞踊の所作を見せます。
こんな表情も。
最後にキメのポーズ!

 

和楽器演奏  AUN J クラッシック・オーケストラ

 

各楽器の第一線で活躍する邦楽家が集結したユニットAUN Jクラッシック・オーケストラの和楽器演奏です。
アンコール・ワットやモン・サン・ミッシェル等の世界遺産でも演奏をするなど、海外でも高い評価を得ています。


息がピッタリと合った6人の和楽器のアンサンブルが、会場を揺らします。
尺八の音色が、AUN J クラッシック・オーケストラのメロディラインを支えます。
まるでギターのような三味線の早引き
和太鼓のソロパート。お腹の底から湧き上がるようなリズムに、気持ちが高ぶります。

 

漫才 爆笑問題

 

クロージングイベント、そして「第2回江戸まちたいとう芸楽祭」の大トリを飾るのは、爆笑問題のお2人です。
地上波では放送できないような今話題の時事ネタを、毒舌を交えてバッサリ斬り、会場の笑いを誘っていました。

爆笑問題のお2人
旬な芸能界の話題を毒舌交じりにネタにします。
社会情勢もバッサリ。

フィナーレ

 

最後は、出演者による手ぬぐいまきで、締めくくりました。

手ぬぐいまきの様子。

大きな拍手とともに、「第2回江戸まち たいとう芸楽祭」のクロージングイベントは、幕を閉じました。

まとめ

 

「第2回江戸まちたいとう芸楽祭」クロージングイベントの体験レポートをお伝えしました。
今話題の演者たちが集合して、踊りや話芸、和楽器演奏などを展開した舞台は、まさにクロージングイベントに華を添えるにふさわしい内容だったのではないでしょうか?
約半年間、多彩な芸能・芸術文化をもって台東区を盛り上げてきた「第2回江戸まちたいとう芸楽祭」は、ここに幕を閉じました。

 

 

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【東京都美術館】『ハマスホイとデンマーク絵画』報道内覧会レポート

東京都美術館


(2020年3月26日(木)まで)上野の東京都美術館にて、『ハマスホイとデンマーク絵画』を開催しています。
開催に先立ち、先日報道内覧会がありましたので、その様子をレポート致します。


幸福の国/デンマーク

 
デンマークは、北ヨーロッパにある人口約581万人の立憲君主国です。
国名は、古ノルド語(=デーン人の土地)を意味するダンメルクから由来し、再生可能エネルギー先進国、高福祉国家としてもよく知られています。
国連の「世界幸福度ランキング」で何度も1位に輝くなど、近年、そのライフスタイルにも非常に注目が集まっています。
日本との関係では、2017年に外交関係樹立150周年を迎えました。
展覧会は、デンマーク出身のヴィルヘルム・ハマスホイ(1864-1916年)の作品の一部とその周辺の北欧芸術作品を紹介するものです。

「北欧のフェルメール」ハマスホイ

 

19世紀末のデンマーク絵画を代表する画家の1人、ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864-1916年)。
ハマスホイは、8歳の時に素描(そびょう)のレッスンを始めます。
そして、15歳でデンマークの首都・コペンハーゲンの王立美術アカデミーにて絵画を学んだあと、21歳の時に『妹アナの肖像画』(1885年)でデビューしました。
作風としては、初期の頃は風景画や肖像画を好んで描いていましたが、1890年代以降には室内画を多く描くようになっていきます。
1898年34歳の時に移り住んだ、コペンハーゲン旧市街のストランゲーゼ30番地。
そのアパートを描いた静かで穏やかな一連の作品が、デンマークの国内外で高い評価を得ます。
その作品は、バレエ・リュスのディアギレフやドイツの詩人リルケを魅了し、
「北欧のフェルメール」と呼ばれて注目されました。

ヴィルヘルム・ハマスホイ

みどころ

 

ハマスホイとデンマーク絵画展のみどころは4つです。

①ハマスホイ作品 約40点が集結します

日本初公開作品を含め、約40点のハマスホイ作品が東京都美術館に集結。
2008年の展覧会から10年余りの時を経て、「北欧のフェルメール」とも呼ばれるハマスホイ作品が再び来日します。
その特異な才能の一面をご堪能下さい。

②日本初の本格的デンマーク絵画展

北欧美術の中心地、コペンハーゲンで、19世紀前半に華開いたデンマーク絵画の「黄金期」。
その時代の純粋で素朴な作品から、印象派風の光の描写を取り入れたスケーイン派の美しい作品、特徴的な室内画を描く世紀末の首都で活躍した画家たちの作品まで、デンマーク絵画を本格的に紹介します。

③デンマーク文化「ヒュゲ」に触れる

ヒュゲ(=hygge)とは、「くつろいだ」「心地よい雰囲気」という意味を持つ、デンマーク人が非常に大切にしている価値観。
そのデンマーク人の価値観に触れることができるのも、今展覧会のみどころ。
19世紀末のデンマークの画家たちが描き出す作品には、北欧の美しい自然やそこで暮らす人々、落ち着いた空間でプライベートを過ごす家族など、ヒュゲが息づいています。
作中のヒュゲに触れることによって、「私たちが人生で本当に大切にしたいこと」に改めて気付かされるでしょう。

注目作品を紹介!

 

各章ごとの注目作品を紹介します。

 

第1章 日常礼賛―デンマーク絵画の黄金期 注目作品

 

『果物籠を持つ少女』

肖像画家であったハンス・ハンソンの息子コンスタンティーン・ハンスンの作品。
この作品は、後にハマスホイが所有することになったことでも有名で、晩年を過ごしたストランゲーゼ25番に飾られていたそうです。
作品全体が、抑えられた色調ながらも、強烈な光を放つのは、真っ直ぐとこちらを見つめる少女のまなざしの強さによるものでしょうか?

コンスタンティーン・ハンスン『果物籠を持つ少女』1827年頃 油彩/カンヴァス デンマーク国立美術館

 

『フレゼレゲ・ラフェンベア(旧姓ヘーイロプ)の肖像』

コペンハーゲンに生まれ、王立美術アカデミーで学んだヴィルヘルム・マーストランが、デンマークの著名な税官吏であったミケール・ラフェンベアの妻を描いた作品。
背筋を伸ばし、真っ直ぐこちらを見つめるラフェンベアの妻。
その上品な姿には、強さと優しさが入り混じっています。
窓の外に見えるサン・ピエトロ大聖堂も、この作品を格調高いものにしています。

ヴィルヘルム・マーストラン『フレゼレゲ・ラフェンベア(旧姓ヘーイロプ)の肖像』 1846年 油彩/カンヴァス デンマーク国立美術館

 

 

第2章 スケーイン派と北欧の光 注目作品

 

『ボートを漕ぎ出す漁師たち』

スケーイン派を代表する画家として有名なミケール・アンガの作品。
険しい表情でボートを押して、海に出ようとする救命胴衣姿の漁師たち。
何が起こっているのでしょう?
漁師たちとともに、それを見つめる人々の目線の先にある緊迫した状況。
波の激しさもどんどん増しています。
見ているこちらまでハラハラ・ドキドキする、緊張感のある作品です。

ミケール・アンガ『ボートを漕ぎ出す漁師たち』1881年 油彩/カンヴァス スケーイン美術館

 

『スケーインの北の野原で花を摘む少女と子供たち』

こちらも、ミケール・アンガの作品です。
漁師たちの緊迫した状況を描いた作品と打って変わって、
草原には、いつまでものんびりと続く緩やかな時間が流れています。
どこまでも続く大きな青い空の下で、花を摘む少女たちとそれを見守る母親。
衣服の青、ピンク、黄色、草花の緑を、大きな空が包み込んでいます。

ミケール・アンガ『スケーインの北の野原で花を摘む少女と子供たち』1887年 油彩/カンヴァス
スケーイン美術館

 

第3章 19世紀末のデンマーク絵画―国際化と室内画の隆盛 注目作品

 

『居間に射す陽光、画家の妻と子』

アンデルセン童話の挿絵画家であった、父のヴィルヘルム・ピーダスンを父に持つ、ヴィゴ・ピーダスンの作品。
自宅の居間で幼い娘をあやす、ヴィゴの妻イリサベトを描いた作品です。
娘をあやす妻の和やかな顔、ママ大好きの幼い娘の顔が、とても愛おしいです。
その様子を微笑みながら描くヴィゴの表情までもが、こちらに伝わってくるようです。

ヴィゴ・ピーダスン『居間に射す陽光、画家の妻と子』1888年 油彩/カンヴァス デンマーク国立美術館

 

『花咲く桃の木、アルル』

フランス、オランダ、ベルギーに滞在し、アルルでファン・ゴッホと親交を結んだことでも有名なクレスチャン・モアイェ=ピーダスンの作品。
ファン・ゴッホの『マウフェの思い出に』と非常に似た構図で描かれており、親交のあったゴッホの描いた位置から数メートル離れた場所で描かれたと考えられています。
桃の花の華やかな色彩に、引き込まれてしまいました。
少し近寄ると、桃の花の優しい香りが、ほのかに伝わってくるようです。

クレスチャン・モアイェ=ピーダスン『花咲く桃の木、アルル』1888年 油彩/カンヴァス ヒアシュプロング・コレクション

 

第4章 ヴィルヘルム・ハマスホイ―首都の静寂の中で 注目作品

 

『室内-陽光習作、ストランゲーゼ30番地』

ヴィルヘルム・ハマスホイがストランゲーゼ30番地の中庭に面した部屋を描いた作品です。
細長い格子窓から差し込む室内の光は、ゆらゆらと漂っているように見えます。
窓を開け放つと、まぶしいほどの外の世界が待っているのでは、と想像してしまいます。
この明るい外の世界と閉じられた暗い扉の対比も絶妙です。
どちらが現実でどちらが非現実なのでしょう。

ヴィルヘルム・ハマスホイ『室内-陽光習作、ストランゲーゼ30番地』1906年 油彩/カンヴァス  デーヴィズ・コレクション


『寝室』

ラーベクス・アリのヴィルヘルム・ハマスホイの寝室を描いた作品。
部屋に掛かる二つのカーテン。
ここから差し込む光は、とても柔らかです。
その光のせいで、窓の外を見つめる女性の横顔もどこか微笑んでいるように見えます。何を見つめているのでしょうか?
窓の中央に置かれた紫の壺が、この室内画を引き締まったものにしています。

ヴィルヘルム・ハマスホイ『寝室』1896年 油彩/カンヴァス ユーテボリ美術館

まとめ

 
『ハマスホイとデンマーク絵画』の報道内覧会についてレポートしてきました。
10年余りの時を経て再び日本に集まった、ハマスホイ作品とその他デンマーク絵画の数々、デンマークの価値観「ヒュゲ」。
展覧会で、これらデンマークの作品や文化に触れることによって、新たな視点や価値観を発見することになるでしょう。
今回の展覧会は、日本で初めてのデンマーク絵画が一斉に紹介される貴重な機会です。
ぜひとも、東京都美術館の「ハマスホイとデンマーク絵画」に足を運んでみてはいかがでしょうか?

会場では、たくさんの方が熱心に作品を鑑賞していました

開催概要

 

■会期: 2020年1月21日(火)~3月26日(木)
■会場: 東京都美術館企画展示室
■開室時間: 9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
■夜間開室: 金曜日、2月19日(水)、3月18日(水)は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
■休室日: 月曜日、2月25日(火)
※ただし、2月24日(月・休)、3月23日(月)は開室
■観覧料:
(当日券) 一般 1,600円/大学生・専門学校生 1,300円/高校生 800円/65歳以上 1,000円
(団体券) 一般 1,400円/大学生・専門学校生 1,100円/高校生 600円/65歳以上 800円

※団体割引の対象は20名以上
※中学生以下は無料
※3月20日(金・祝)~26日(木)は18歳以下(2001年4月2日以降生まれ)無料
※2月19日(水)、3月18日(水)はシルバーデーのため65歳以上は無料。
そのため混雑が予想されます。
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※いずれも証明できるものをご持参ください
■特設WEBサイト: https://artexhibition.jp/denmark2020/
問い合わせ先: TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)

 

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【東京国立博物館】日本書紀成立1300年 特別展 出雲と大和 報道内覧会レポート

東京国立博物館

オリンピックイヤーの今年・令和2年(2020)は、日本書紀が編纂されてから1300年の記念すべき年でもあります。
それを記念して、上野の東京国立博物館 平成館では、1月15日(水)~日本書紀成立1300年 特別展「出雲と大和」を開催しています。
(※前期展示 1月15日(水)~2月9日(日)  後期展示 2月11日(火・祝)~3月8(日) )
展覧会開催に先立ち、先日、報道内覧会がありましたので、その様子をレポートいたします。


特別展「出雲と大和」とは?

 

神代(かみよ)から持統天皇11年(697)までを記した日本最古の正史・日本書紀は、
舎人親王(とねりしんのう、676~735)が中心となり編纂し、
養老4年(720)に元正天皇(げんしょうてんのう)に奏上された全30巻からなる歴史書です。
日本書紀の冒頭にある国譲り神話では、出雲大社に鎮座するオオクニヌシは、
人間の能力を超えた世界「霊」の存在、大和の地においての天皇は、目に見える現実世界「顕」の存在です。
古代における「幽」と「顕」を象徴する島根県と奈良県、そして、東京国立博物館の3者共同で行われるのが、この特別展「出雲と大和」。
特別展では、出雲と大和の名品が一堂に集まり、古代日本の成立やその特質に迫ります。
※鎮座(=神霊が一定の場所に鎮まること)

みどころ

 

特別展「出雲と大和」のみどころは4つです。

① 出雲大社のご神宝が東京でご覧いただけます

古くから、出雲大社に伝わる手箱や甲冑などのご神宝をはじめとして、境内から出土した巨大柱、社殿を飾っていた絵画など、出雲大社の歴史を物語る作品をご覧いただけます。
特に、48メートルもする出雲大社本殿を支えたとされる「心御柱」(しんのみはしら)と「宇豆柱」(うづばしら)の2本の柱は、史上初公開!
出雲大社本殿の存在を裏付ける貴重な資料となります。

② 大量の出土青銅器 東京では、およそ20年ぶりの出品

国宝・荒神谷(こうじんだに)遺跡出土の青銅器(銅剣・銅鐸・銅矛)からの展示189点、国宝・加茂井岩倉遺跡出土銅矛から、30個を展示します。
これだけ大量の出土青銅器が東京に集まるのは、およそ20年ぶりです。

③ 出土数最多の三角緑神獣鏡の出品

黒塚(くろづか)古墳の被葬者を護り、鎮めた33面の三角緑神獣鏡。
1つの古墳から出土した数としては、全国で最多の三角緑神獣鏡の全点が出品されます。

④ 初公開!門外不出の仏像

1300年もの間、大和の地でひっそりと守り伝えられてきた最古級の石仏が寺の外で初公開されます。
僅かに残る彩色や鋭い掘り口など、細部に注目してください。

注目の展示物を紹介!

 

注目の展示物を章ごとに紹介します。

第1章 巨大本殿 出雲大社 注目展示

「心御柱」と「宇豆柱」

平成12年(2000年)に出雲大社境内の地下1・3メートルから出土した柱材です。
よく見ると、柱には抉れた(えぐれた)様な跡があります。
これは、伐採して現地から展示室に運ぶ際にできた縄かけの跡や表面を調整した手斧の跡です。
地元でも、なかなか並べて展示されることがないとのことなので、
貴重な機会ですよ。
両方の柱をあらゆる角度から眺めてみました。
実際に手に触れることはできませんが、ざらざらしていたり、つるつると艶があったりと、触る場所によって感覚が異なるのではないか、と感じました。

「心御柱」 島根県出雲市 出雲大社境内遺跡 鎌倉時代 宝治二年(一二四八) 島根・出雲大社
「宇豆柱」 島根県出雲市 出雲大社境内遺跡 鎌倉時代 宝治二年(一二四八)
島根・出雲大社(島根県立古代出雲歴史博物館保管)

 

実際の出雲大社境内の様子を再現するため、2本の柱が設置されています。
柱の間に立ち、手を大きく広げたり、見上げたりして、実際の感覚を確かめてみましょう。

 

第2章 出雲 古代祭祀の源流 注目展示

国宝 「銅剣」 島根県出雲市 荒神谷遺跡

昭和59年(1984年)に発掘調査で出土した銅剣です。
展示されている全ての銅剣は、同じような大きさで規格化されているように見えますが、よくみると茎(なかご)部に✖の刻印が打ち込まれています。
これは、制作から埋納までを一括して行った形跡と考えられ、山陰を中心に分布する他の銅剣にはみられない特徴です。
日本人の繊細なモノづくりの技術は、古代からあるのだと感じさせます。

国宝 「銅剣」 島根県出雲市 荒神谷遺跡 弥生時代 前二~前一世紀 文化庁(島根県立古代出雲歴史博物館保管)

 

国宝 「銅矛」 島根県出雲市 荒神谷遺跡

一括出土された本数として全国最多を誇る、荒神谷遺跡の16本の銅矛です。
1本1本を見比べて見ると、発見があります。
ガタガタした刃先や、比較的綺麗な形をした刃先、
錆びて色褪せたもの、黒褐色でつやつやとしたもの、
と個性的な銅矛が並びます。

国宝「銅矛」 島根県出雲市 荒神谷遺跡 弥生時代 前二~前一世紀 文化庁(島根県立古代出雲歴史博物館保管)


国宝 「銅鐸」 島根県出雲市 荒神谷遺跡

荒神谷遺跡から出土した銅鐸です。
多様な型のものが揃っているのですが、ほぼ同じサイズなのが特徴的です。
銅鐸には、末端に傷がついているところが多く、かなり使い込まれた形跡が残っています。
当時の人は、どのような思いで、この銅鐸を見つめていたのだろうか?と想像力を掻き立てられます。

国宝「銅矛」 島根県出雲市 荒神谷遺跡 弥生時代 前二~前一世紀 文化庁(島根県立古代出雲歴史博物館保管)

 

第3章 大和 王権誕生の地 注目展示

国宝 「七支刀」

石上神宮に伝わる宝剣であり、御神体(ごしんたい)に準ずる神宝です。
かつては、本殿内に奉安されていました。
横に枝が生えているような非常に珍しい型が特徴的で、
中央61文字の銘文が刻まれています。
表面には、この刀を持っていると百変を退けるとの記述、
裏面には、朝鮮半島百済の王室から倭王に献上されたという記述があります。
7つ鞘(さや)の太刀として、日本書紀にも記されているこの七支刀が展示されるのは、滅多にない貴重な機会です!

国宝 「七支刀」 古墳時代・4世紀 奈良・石上神宮蔵

 

・重要文化財 「画文帯神獣鏡」(がもんたいしんじゅうきょう)

中央に展示されている「画文帯神獣鏡」は、奈良県ホケノ山古墳から出土した銅鏡です。
外側には、日輪を従えた車、その車を曳く獣、騎仙(きせん)などを浮き彫り表現しています。
小さいながらも非常に存在感があります。

・重要文化財 「三角縁神獣鏡」(さんかくぶちしんじゅうきょう)

左右に展示されている「三角縁神獣鏡」は、島根県雲南市加茂町にあった神原神社古墳から出土した銅鏡です。
外側には、神仙や霊獣の模様が刻まれています。
33面がずらりと並ぶ様子は、壮観です。

(写真中央)重要文化財 「画文帯神獣鏡」(がもんたいしんじゅうきょう)
(写真右・左)重要文化財 「三角縁神獣鏡」(さんかくぶちしんじゅうきょう) ともに奈良県天理市 黒塚古墳 古墳時代三世紀 文化庁(奈良県立橿原考古学研究所保管

 

第4章 仏と政(まつりごと) 注目展示


・十一面観音菩薩立像(じゅういちめんかんのんぼさつりゅうぞう) 2体

写真中央に位置する、2体の十一面観音菩薩立像。
当時は、力の絶大な観音様を祈ることによって、国の繁栄や人々の安全な生活を願いました。
観音菩薩立像の前に立つと、なにか見えない力で守られているような気持ちになるから不思議です。

・(四天王像のうち) 国宝「広目天立像」(こうもくてんりゅうぞう)※左
・(四天王像のうち) 「多聞天立像」(たもんてんりゅうぞう)※右

四天王は、国の政(まつりごと)の象徴。
2体の仏像ともに、太い眉と大きな目鼻立ちが印象的です。
はじめ、仏像の威圧感に圧倒されてしまいましたが、しばらく見つめていると、いつまでもその場を離れたくない自分がいることに気づきました。

(写真左から) 四天王像のうち・国宝「広目天立像」(こうもくてんりゅうぞう) 奈良時代  八世紀 奈良・唐招提寺/重要文化財 「十一面観音菩薩立像」(じゅういちめんかんのんぼさつりゅうぞう) 奈良時代 八世紀 奈良・世尊寺/ 「十一面観音菩薩立像」(じゅういちめんかんのんぼさつりゅうぞう) 奈良時代 八世紀 奈良・金剛山寺(矢田寺)/ 【四天王像のうち】多聞天立像(たもんてんりゅうぞう) 奈良時代  八世紀 奈良・唐招提寺

まとめ

「日本書紀成立1300年 特別展 出雲と大和」の報道内覧会についてレポートしてきました。
出雲大社の歴史を物語る作品群、20年ぶりに出品される大量の出土青銅器、
33面の三角緑神獣鏡、仏像の数々。。
これらの展示物全てが刺激にあふれ、1度だけでは物足りず、何度も何度も見たくなる充実の内容でした。
内覧会は本当にたくさんの方々で溢れ返り、展示物を見るのに待たなければならないほど、熱を帯びていました。

東京国立博物館 平成館にて現在開催中の「日本書紀成立1300年 特別展 出雲と大和」。古代日本の成立の過程を体感し、日本書紀成立1300年の年を祝いに来てはいかがでしょうか?

 

開催概要

 

展覧会名 日本書紀成立1300年 特別展「出雲と大和」
会期 2020年1月15日(水)~3月8日(日)
前期展示 1月15日(水)~2月9日(日)
後期展示 2月11日(火・祝)~3月8(日)
会場 東京国立博物館 平成館(上野公園)
開館時間 9:30~17:00
(入館は閉館の30分前まで、会期中の金曜・土曜は21:00まで開館)
休館日 月曜日、2月25日(火)
(ただし2月24日(月・休)は開館)
観覧料 一般1,600円(1,400円/1,300円)
大学生1,200円(1,000円/900円)
高校生900円(700円/600円)
中学生以下無料
*( )内は前売り/20名以上の団体料金
*障がい者とその介護者一名は無料です。
入館の際に障がい者手帳などをご提示ください
東京国立博物館キャンパスメンバーズ会員の学生の方は、当日券を1,000円(200円割引)でお求めいただけます。正門チケット売場(窓口)にて、キャンパスメンバーズ会員の学生であることを申し出、学生証をご提示下さい。
「東京・ミュージアムぐるっとパス」で、当日券一般1,600円を1,500円(100円割引)でお求めいただけます。正門チケット売場(窓口)にてお申し出ください。
*本展観覧券で、会期中観覧日当日1回に限り、総合文化展(平常展)もご覧になれます。
お問合せ ハローダイヤル 03-5777-8600

受付時間:全日午前8時~午後10時
日本語、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語

公式HP https://izumo-yamato2020.jp/

 

 

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【国立科学博物館】「絵本でめぐる生命の旅」報道内覧会レポート

国立科学博物館

2019年12月17日(火)~2020年3月1日(日)まで、東京上野の国立科学博物館で「絵本でめぐる生命の旅」が開催されています。
先日、プレス向け報道内覧会がありましたので、その様子をレポート致します。
展覧会の見どころ、注目の展示物などを紹介しますので、ご覧ください!


企画展「絵本でめぐる生命の旅」とは?

 

約38億年前に地球上に出現したとされる、最初の生きものから現代まで続く、進化の過程。
その進化が途切れずに続いたことで、人やさまざまな生き物は存在し続けているといっても過言ではありません。
絵本には、そのような生き物の進化の過程に着目した、科学や自然を題材にした作品がたくさんあります。
「科学や自然を題材にした絵本と博物館の展示を組み合わせることで、自然科学への興味をもつきっかけや、いつもと異なる国立科学博物館の楽しみ方を提供したい」。そうして考えられたのが、この企画展。
紙芝居形式で、生命の起源をわかりやすく展示します。

企画展は、46億年前~36億年前の生命を知る旅から始まります。

みどころ

企画展のみどころを紹介します。

①国立科学博物館で新しい絵本の体験ができる!?

企画展では、7つの絵本から選んだ場面を、化石やはく製などの標本とともに展示した構成になっています。
絵本の世界に楽しく触れながら、標本とともに生命進化の歴史をたどることができます。

②魚からヒトへと続く進化を実感できる!

企画展では、魚類から私たちヒトへと続く約5億年間の生命進化の主な出来事を、特にわかりやすく解説しています。
私たちの遠い祖先から現在まで続く生命のつながり、私たちの体の中に残る進化を感じ取って下さい。

③もっと知りたい人は・・

この企画展をご覧になって、もっとくわしく、もっと広く知りたくなった方は、常設展へ足をのばしてみて下さい。
国立科学博物館で行っている調査・研究や、関連する常設展示を紹介するコーナーがありますよ。

④新しい絵本と出会えるかも!

企画展の入り口付近には、自然科学や生命の進化に関連する絵本を100冊以上集めた読書コーナーを設けています。
懐かしい絵本との再会、お気に入りの新しい絵本と出会えるかもしれません。
日本語以外の言語の絵本も用意されています。

企画展で使われている主な絵本

 

企画展では、下記の7つの作品が使われています。

①『せいめいのれきし』 バージニア・リー・バートン 文・絵、岩波書店
② 『ながいながい骨の旅』 松田素子 文、川上和生 絵、講談社
③ 『わたしはみんなのおばあちゃん はじめての進化のはなし』 ジョナサン・トゥイート 文、カレン・ルイス  絵、岩波書店
④ 『とりになった きょうりゅうのはなし 改訂版』 大島英太郎 作、福音館書店
⑤ 『ダーウィンの「種の起原」 はじめての進化論』 サビーナ・ラデヴァ 作・絵、岩波書店
⑥ 『いのちのひろがり』 中村桂子 文、松岡達英 絵、福音館書店
⑦ 『13800000000ねんきみのたび』 坂井治 作・絵、光文社

主な展示物を紹介

 

約5億800万年前(カンブリア紀中期)に生息した捕食性動物アノマロカリス。
奇妙なエビとの意味で学名を与えられたといいます。

アノマロカリス・カナデンシス 所蔵:国立科学博物館

 

約3億6000万年前に生息した、古代魚ユーステノプテロン類と推測される頭部化石。モロッコでお土産物にするために、ツルツルに磨かれているところを発見したジャイカ職員の方が、国立科学博物館に寄贈してくれたもの。
実際に、触れることができますよ。

ユーステノプテロン類? 所蔵:国立科学博物館

 

こちらが、ユーステノプテロンの全身です。

ユーステノプテロン 所蔵:国立科学博物館

 

約1億1500万~1億1800万年前に生息した、デイノニクス。
映画やアニメに度々登場しています。

デイノニクス 所蔵:国立科学博物館

 

約3000万年前に生息した、肉食哺乳類ヒエノドンの化石。
恐竜までの哺乳類は、お腹のところに肋骨があり、子供を抱きしめたいと思っても抱きしめてあげられませんでした。
その後、横隔膜ができて、呼吸の仕方が変わったことで、哺乳類は、我が子を抱きしめて、母乳を与えたりすることができるようになりました。

ヒエノドン 所蔵:国立科学博物館

 

700万年前~20万年前の生命は、手足の指が長くなり、他の生き物と異なる動きをするものが出てきます。
手足で枝を掴んで、樹上生活をしたり、鳴き声でお互いにコミュニケーションを取ることもできるようになります。
それが、現在のわたしたち、人間の祖先です。

 

ダーウィンのビーグル号をイメージしたという絵本コーナー。
企画展を見終わった後には、この読書コーナーで、自然科学や生命の進化に関連する、お気に入りの絵本を探してみましょう。
企画展で取り上げた7冊の絵本もご覧になれます。

 

まとめ

国立科学博物館にて現在開催されている、企画展「絵本でめぐる生命の旅」の報道内覧会についてお伝えしてきました。
約38億年前から現代まで続く、生き物の歴史。
私たち人間は、当たり前のように生きているように思えますが、実は、この何十億年と続く歴史の過程があってこその生命だと、改めて気づかされます。
国立科学博物館へ、ご家族やご友人と絵本でめぐる生命の旅に出かけてみませんか?

今回の企画展の監修を務めた、国立科学博物館標本資料センターコレクションディレクターの真鍋真さん。生命の歴史について、楽しく解説していただきました。

 

開催概要

企画展「絵本でめぐる生命の旅」
開催期間:2019年12月17日(火)~2020年3月1日(日)
開催場所:日本館1階 企画展示室、中央ホール
開館時間:午前9時~午後5時
*金曜・土曜日は午後8時まで。
*入館は各閉館時刻の30分前まで
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は火曜日)および12月28日(土)~1月1日(水・祝)、ただし2月17日(月)は開館
入館料:一般・大学生:630円(団体510円)
高校生以下・65歳以上:無料
*常設展示入館料のみでご覧いただけます。
主催:国立科学博物館
公式HP: https://www.kahaku.go.jp/

 

 

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【東京都美術館】『子どもへのまなざし』+松本力『記しを憶う』報道内覧会レポート

東京都美術館


母と子の物語 A Mother and Child’s Story 2013

 

2019年11月16日(土)~2020年1月5日(日)まで、上野の東京都美術館にて、上野アーティストプロジェクト2019「子どもへのまなざし」と松本力「記しを憶う」が同時開催されています。
先日、これらの展覧会の合同報道内覧会がありましたので、その様子をレポート致します。
それぞれの展覧会のみどころ、構成、注目作品を取り上げていますので、ご覧頂ければ幸いです。

 


「子どもへのまなざし」とは?

 

東京都美術館は、数多くの公募団体の作品発表の場として親しまれ、「公募展のふるさと」と呼ばれています。
2017年からは、毎年テーマを決めて公募団体で活躍する現代作家を紹介する「上野アーティストプロジェクト」シリーズを展開。
第3弾となる今年は、「子どもへのまなざし」をテーマに開催します。
現在、美術公募団体に所属する若手からベテランまでの6名の作家の作品を通じ、描かれた子どもに仮託される多層的なイメージを紹介。

 

構成と注目作品

 

「子どもへのまなざし」は、大きく分けて3章から構成されています。

 

第1章 愛される存在

第1章では、愛される存在をテーマに、新生加奈(日本美術院)と大久保綾子(一陽会)の作品を紹介します。

 

・新生加奈 SHINJO Kana

女性をモチーフに、温かな色彩を用い、やわらかなタッチの繊細な人物像を描き出す新生加奈。
今回展示される作品は、世の中の汚れを知らない純真な少女像、心の奥底の大事な部分に触れるような温かな母子像です。
子どもたちや母子の存在を通じて、命の尊さ、美しさ、愛おしさを描きたいと語る新生は、作品を描くことにより、自分自身が子どもの頃に周りから受けた優しさを再認識するといいます。

 

(新生さんコメント)

宇宙のように広がる少女の内面を表現したいと思い、作品を描いています」。

 

母と子の物語 A Mother and Child’s Story 2013

 

 

・大久保綾子 OKUBO Ayako

一貫して母子像を描き続ける作家、大久保綾子。
今回展示される作品は、動き回る子供の躍動感、母子の一体感を感じさせる母子像です。
大らかでどっしりとした母親は、守るべき存在である赤ん坊やエネルギー溢れる子供たちを大地のようにやさしく包み込みます。

 

(大久保さんコメント)

「いのちを紡ぐ」というテーマで、ここ10年くらいは作品を作っています。
周りを飛び回る子供たちを通して、生命のエネルギーのようなものを表現できたらと思います」。

 

生命(いのち)-海の音 Life₋Sound of the Sea 2002

 

 

 

第2章 成長と葛藤

第2章では、成長と葛藤をテーマに、志田翼(独立美術協会)と豊澤めぐみ(新制作協会)の作品を紹介します。

 

・志田翼 SHIDA Tsubasa

高校で教鞭をとりながら、現代の中学生や高校生をモチーフに描き続ける志田翼。
今回展示される作品は、大人が創り出す社会に葛藤を抱きながら攻撃的な内面をのぞかせる純粋な子どもたちや社会に反発する自身の内面を描いた自画像です。
現代の青年期を迎える子どもたちが直面するリアルな状況をあぶり出します。

 

(志田さんコメント)

「子どもの様々な心理を自分なりに絵画で表現し、いろいろな人たちと繋がりたいと思っています」。

 

まと Target  2012

 

・豊澤めぐみ TOYOSAWA Megumi

作品の中に自分を投影した女子高生を描き続ける、豊澤めぐみ。
豊澤が描くのは、自身が思春期の頃に抱えていた、自分を否定したい気持ち、周囲からの影響で揺れ続ける感情です。
若者の心のとげとげしい痛みを表現し、見ている者に若い頃感じたであろう、過去の様々な感情を呼び起こします。

 

(豊澤さんコメント)

「自分の作品を型にはめてマンネリ化していた時期があったんですが、そのマンネリを打破するために一回リセットして、新たな気持ちで作品を描きました。様々な素材を用いたり、工夫をして作品を作っていますので、そちらもお楽しみください」。

 

 

君が嫌い I Hate You  2017

 

 

第3章 生命のつながり

第3章では、生命のつながりをテーマに、山本靖久(主体美術協会)と木原正徳(二紀会)の作品を紹介します。

 

・山本靖久 YAMAMOTO Yasuhisa

物質と情報にまみれ、自然を破壊しようとする現代の私たちですが、自然との共生なくして人間は生きられません。
そんな現代へのアンチテーゼとして作品を描き続ける、山本靖久。
今回展示される作品は、豊かな自然の中で穏やかな時を過ごす子どもたちや家族を中心とした人間の交響です。
作品に触れることで、人間が持つ生命の根源的な記憶に共感するはずです。

 

(山本さんコメント)

「私は、豊かさをテーマに一貫して作品を描いています。今回、子どもへのまなざしというテーマを頂きまして、そのテーマに沿った新作も作りましたので、ご覧ください」。

 

木精-菩提樹の木の下で Spirit of the Tree-Under the Linden Tree  2019

 

・木原正徳 KIHARA Masanori

移り変わる自然と、豊かな量感を持つ人間本来の性質が絡み合う世界を描き続ける木原正徳。
今回展示される作品は、自然と人間が境界を隔てることなく共存し、生命が循環する世界。
独特な色彩感覚とリズム感を用いて、艶やかで透明感のある画面を生み出し、見ている者に本当の豊かさを問いかけます。

 

(木原さんコメント)

「私は、子供を直接的に描いているわけではありませんが、色彩の豊かさを通して、命を託したいと思い作品を制作しています。『人のかたち野のかたち―地に還る』という作品は、2年前に亡くなった父の弔いの作品です。
父が亡くなり、息子夫婦に子どもが宿っていたのですが、作品を通して、生命が大地に還り、新たな生命が生まれるということを、象徴的にかなり意識して描いた作品となっています」。

 

人のかたち野のかたち―地に還る-  Form of the Human,Form of the Field-Return to the Earth- 2017

 

 

同時開催 松本力『記しを憶う』-東京都写真美術館コレクションを中心に

 

「子どもへのまなざし」との連動企画として、松本力 『記しを憶う』(しるしをおもう)も同時開催しています。

 

・松本力(まつもとちから)

 

松本力(1967~)は、絵かき・アニメーション作家として、国内外で活躍している作家です。
トレースしないで、1コマずつドローイングを描き、透過光を加えてビデオ撮影した映像作品を制作。
映像のインスタレーションとして、立体作品、音声によるライブパフォーマンス、手製の映像装置を用いた独自のワークショップを学校や美術館、滞在する各地域で開催しています。

今回の展示は、東京都写真美術館で所蔵する作品を新たなインスタレーションと共にご覧いただけるものです。

 

構成と展示作品

 

展示の構成と展示作品を紹介します。

 

■6面インスタレーションアニメーション作品

 

会場には、6面のインスタレーションアニメがスクリーンに映し出されます。
1つ1つ、独立した作品で6作品が上映。

6作品は、以下のタイトルです。

①オワリ山の一日

②エレクトリック・スノー

③フォローミ―/美と出会う/まなざし

④カームウォーム

⑤山をわたる歌声

⑥山へ

 

(作品について)

オワリ山の一日から山への物語を、繋がりを持ちながら展開しています。
会場の真ん中には、ピラミッド型の見晴らし台が。
この見晴らし台に登り、山越しにオワリ山の一日の映像を見て、視点が変わる、視界が変わるということを意識してもらうように作られています。

 

 

 

会場に設けられた見晴らし台

 

 

6面のインスタレーション作品の原画やトーテムポール型の複数の映像も流されています。

 

 

 

映像作品 SA YONA RAも上映されています。
この作品は、松本さんの亡くなられたお父様が、1ページだけ書き残したままの未完の絵本の続きを描いたものが元となった映像。
作品の中に描かれているキャラクターは、オバケとも何ともわからない得体のしれない存在がモチーフになっています。

 

 

 

SAYONARAの楽曲のヴァージョン違いの映像をヘッドホンで鑑賞できるように映画館型の装置も設置されています。
ご自由にご鑑賞ください。

 

 

 

まとめ

 

『子どもへのまなざし』+松本力『記しを憶う』報道内覧会レポートをお伝えしてきました。

『子どもへのまなざし』では、自分にも当てはまる子ども時代の記憶、思春期の辛くとも輝いていた日々、生命の根源的な問いかけ、などに触れることができました。
松本力『記しを憶う』では、子ども時代の懐かしい日々に、少し寂しいような、切ないような気持ちになる自分を確認できました。
この2つの展示会を通して、自分の過去の記憶と未来への希望を探しに来てみませんか?

東京都美術館でお待ちしております。

 

開催概要

 

上野アーティストプロジェクト2019『子どもへのまなざし』

■会期:2019年11月16日(土)~2020年1月5日(日)
■会場:東京都美術館 ギャラリーA・C
■開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
■夜間開室:
金曜日、11月30日(土)、
12月7日(土)は9:30~20:00
(入室は閉室の30分前まで)
■休室日:11月18日(月)、12月2日(月)、
16日(月)、26日(木)~2020年1月3日(金)
■観覧料:当日券:一般 500円 / 65歳以上 300円 団体券:一般 400円
※団体割引の対象は20名以上
※学生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※いずれも証明できるものをご持参ください
※同時期開催の「コートールド美術館展 魅惑の印象派」
のチケット(半券可)提示にて入場無料
■主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館
■問い合わせ先:東京都美術館 交流係
TEL:03-3823-6921(代表)
■イベント情報: 東京都美術館HP『子どもへのまなざし』のページにてご確認ください。
https://www.tobikan.jp/exhibition/2019_uenoartistproject.html

 

松本力『記しを憶う』-東京都写真美術館コレクションを中心に

■会期:2019年11月16日(土)~2020年1月5日(日)
■会場:東京都美術館 ギャラリーB
■開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
■夜間開室:金曜日、11月30日(土)、
12月7日(土)は9:30~20:00
(入室は閉室の30分前まで)
■休室日:11月18日(月)、12月2日(月)、
16日(月)、26日(木)~2020年1月3日(金)
■観覧料: 無料
■主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団、東京都美術館
■問い合わせ先: 東京都美術館 交流係 TEL:03-3823-6921(代表)
■イベント情報: 東京都美術館HP 松本力『記しを憶う』
のページにてご確認ください。
https://www.tobikan.jp/exhibition/2019_collection.html

 

 
記事提供:ココシル上野


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【国立西洋美術館】ハプスブルク展内覧会レポート

国立西洋美術館
マルティン・ファン・メイテンス(子)<<皇妃マリア・テレジアの肖像>>1745-50年頃 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館

 

2019年10月19日(土)~、東京上野の国立西洋美術館にて、
日本・オーストリア友好150周年記念「ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」が開催されています。(2020年1月26日まで)
先日、開催に先立ち、プレス向けの内覧会が実施されましたので、その様子をレポート致します。


ハプスブルク家について

 

ハプスブルク家は、ライン川上流域の豪族として台頭し、13世紀末にオーストリアに進出、勢力を拡大。
オーストリアとその周辺の多様な民族や領土を統治し、第一次世界大戦後(1918年)に終焉を迎えるまで、数百年に渡り広大な帝国を築き続けた、ヨーロッパ随一の名門一族です。
具体的には、神聖ローマ帝国の位を15世紀以降に独占、16-17世紀にハプスブルク家がオーストリア系とスペイン系に分裂した際、スペイン系が南アメリカ、アフリカ、アジアに領土を拡大すると、”日の沈まない帝国”となりました。
ナポレオン戦争をきっかけに起こった、神聖ローマ帝国の解体後には、のちのオーストリア帝国を統治。
この長きに渡る統治の間、豊かな財力と人脈を生かして、世界有数の美術品や装飾品、工芸品、武具、歴史的記念品などの宝物を所有していきました。
「ハプスブルク展」は、一族によって建造され、1891年に開館した、ウィーン美術史美術館の協力により、絵画を中心として、武具、工芸品、タペストリー、版画など約100点を紹介する展覧会です。

ハプスブルク展の構成

 

ハプスブルク展の構成は下記のようになっております。

第1章
ハプスブルク家のコレクションの始まり

第1章では、15世後半から16世紀にかけてのハプスブルク家の美術品などの本格的な収集が行われ始めた時代の絵画、甲冑、工芸品など12点のコレクションを紹介します。
この時代のハプスブルク家の注目は、マクシミリアン1世(1459-1519年)。
巧みな政略結婚を行い、領土を拡大したことで有名ですが、マクシミリアン自身も美術の中心地フランドル ブルゴーニュ公国の後継者マリーと結婚し、ハプスブルク家のコレクションを豊かにするきっかけを作りました。

 

第2章
ルドルフ2世とプラハの宮殿

第2章では、稀代のコレクターとして有名な神聖ローマ帝国ルドルフ2世(1853‐1612年)に注目し、そのコレクションを含む、タペストリー、甲冑、絵画、彫刻など30点を紹介します。
ルドルフは、統治のセンスはありませんでしたが、芸術、学問の造詣の深さは、人並外れており、ウィ-ンからプラハに1583年に宮廷を移すと、絵画、武具、小型彫刻や工芸品、自然物の標本、時計などの多彩なコレクションを所有しました。

 

第3章
第3章は、3つのセクションに分かれています。

第3章の1 スペイン・ハプスブルク家とレオポルト1世

第3章の1では、ハプスブルク家が、オーストリア系とスペイン系の2系統に分裂し、つかず離れずの関係を保っていた時代のツールとなった肖像画など7点のコレクションを紹介します。
この時代の中心は、スペイン国王のフェリペ4世(1602-1644年)です。
彼は、若くして即位し、芸術や文化に情熱的で、若きベラスケスを宮廷画家に採用し、厚遇しました。

第3章の2
フェルディナント・カールとティロルのコレクション

3章の2では、オーストリア大公の一人で、重要なコレクターだった、ハプスブルク家系に属したフェルディナント・カールのコレクションを含む絵画6点を紹介します。

 

第3章の3

第3章の3では、ハプスブルク家の最重要コレクターの一人、レオポルト・ヴィルヘルム(1614-1662年)のコレクションを含む絵画24点を紹介します。

 

第4章 18世紀におけるハプスブルク家と帝室ギャラリー

第4章では、激動の18世紀を生き抜いた、ハプスブルク家の人々を、肖像画を中心に15点のコレクションで紹介します。
この時代の注目は、マリア・テレジア(1717-1780年)。
彼女は天性の聡明さ、政治手腕を発揮し、国難を乗り切って民を導いた「女帝」です。
もう一人の注目は、マリアテレジアの末娘のマリー・アントワネット(1755-1793年)。のちのフランス国王ルイ16世と政略結婚しますが、フランス革命でギロチンの露と消えた悲劇の王妃です。
第4章は、これらの人々を中心に展開します。

 

第5章 フランツ・ヨーゼフ1世の長き治世とオーストリア=ハンガリー二重帝国の終焉

新聖ローマ帝国は、ナポレオン戦争をきっかけに解体し、1804年にはオーストリア帝国が誕生します。(1867年以降、オーストリア=ハンガリー二重帝国)
しかし、第一次世界大戦の敗戦により、オーストリア帝国が崩壊。それとともに、ハプスブルク家も終わりを迎えます。
第5章では、ハプスブルク家の実質的な最後の皇帝として、有終の美を飾ったフランツ・ヨーゼフ1世(1830-1916年)ゆかりの作品、6点を紹介します。

編集部注目の作品

 

青いドレスの王女マルガリータ・テレサ

マルガリータ・テレサ8歳の頃を描いた、ベラスケス最晩年の作品。
華やかなシルクの青いドレスを身に纏い、真っ直ぐな瞳でこちらを見るその姿は、8歳とは思えないほど、落ち着いています。
ベラスケスは、このほか、3歳と5歳のマルガリータ・テレサを描いています。

ディエゴ・ベラスケス《青いドレスの王女マルガリータ・テレサ》1659年 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館

皇妃マリア・テレジアの肖像

マリア・テレジアの治世初期に重用されたマルティン・ファン・メイテンス(子)によって描かれた、テレジアの肖像画。
作品からは、民を導いた「女帝」マリア・テレジアの自信にあふれた表情と、16人もの子供を設けたおおらかさが、感じられます。

マルティン・ファン・メイテンス(子)《皇妃マリア・テレジアの肖像》 1745-50年頃 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館

フランス王妃マリー・アントワネットの肖像

マリー・アントワネットにその腕を見込まれて、宮廷画家として重用された、マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブランの作品。
作品は、政略結婚でフランスに嫁いだ若きマリー・アントワネットを描いたものです。
華やかなサテン地のドレスを纏い、一輪のピンクのバラの花を持つ、マリー・アントワネットの姿は輝いていて、この作品からは、フランス革命で悲劇的な死を迎えることなど、想像すらできません。

マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブラン 《フランス王妃マリー・アントワネットの肖像》1778年 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館

薄い青のドレスの皇妃エリザベト

ハプスブルク家の最後の実質的皇帝フランツ・ヨーゼフ1世に見染められ、オーストリア帝国皇妃として嫁いだエリザト(=愛称シシィ)をヨーゼフ・ホラチェクが描いた、肖像画。その奔放な性格や美しい容姿、非業の死を遂げたことから、のちに神格化された彼女のオーラに吸い込まれそうです。
エリザベトが体系維持のために、日常的にコルセットを着用したり、食事制限を課していたという話は有名です。

ヨーゼフ・ホラチェク 《薄い青のドレスの皇妃エリザベト》1858年 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館

井戸端のレべカとエリエゼル

旧約聖書のイサクとリベカの結婚にまつわる一場面を描いた、オッターヴィオ・ヴァンニーニの代表作です。絵画の中央で、レべカが従者エリエゼルの椀に水を注いでいる姿の他、その背後のラクダや井戸端会議をする女性たちの姿も生き生きと描かれています。

オッターヴィオ・ヴァンニーニ 《井戸端のレべカとエリエゼル》 1626/27年頃 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館

聖母子

聖母マリアの膝の上で立ち上がる、幼児キリストを描いた作品。
バランスを取って立ち上がるキリストの手足の指の表情まで、繊細に描かれています。そして、キリストを支える聖母マリアの表情は、穏やかながら、今にも笑みがこぼれそうです。

カルロ・ドルチ 《聖母子》 1660ー70年頃 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館

神聖ローマ皇帝レオポルト1世(1640-1705)と皇妃マルガリータ・テレサ(1651-1673)の宮中晩餐会

神聖ローマ皇帝レオポルト1世(1640-1705)と皇妃マルガリータ・テレサ(1651-1673)の宮中晩餐会の祝賀期間中、重用された画家の一人、ヤン・トマスによって描かれた作品です。
晩餐会には、仮装パーティの衣装に身を包んだ人々が、左奥に座る皇帝夫妻との宴を思い思いに楽しんでいます。
耳を澄ますと、晩餐会の歓声が聞こえてきて、自分もその宴に参加しているような気分になります。

ヤン・トマス《神聖ローマ皇帝レオポルト1世と皇妃マルガリータ・テレサの宮中晩餐会》1666年 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館

まとめ

 

「日本・オーストリア友好150周年記念 ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」のプレス向け内覧会についてレポートしてきました。

会場には、ハプスブルク家の約100点にも及ぶ収集作品を1つも見逃すまいと、たくさんの方々が来場されていました。中には、1つの作品に数10分も費やして、その場から離れられずに熱心に鑑賞する方、マリーアントワネットを思わせるような衣装を着て来場される女性も見受けられました。

会場の作品は王家のコレクションだけに、全て華やか。
紹介した作品以外にも、絵画はもちろんのこと、武具、工芸品、タペストリー、版画など、数えきれないほどの展示物があります。

現在開催中の「日本・オーストリア友好150周年記念 ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」。
ぜひ、国立西洋美術館でその華やかな品々を確かめに来てください。

皆さん食い入るように作品を鑑賞していました。

 

開催概要

 

展覧会名 日本・オーストリア友好150周年記念 ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史
会期 2019年10月19日(土)-2020年1月26日(日)
会場 国立西洋美術館(東京・上野公園)
開館時間 9:30〜17:30(金・土曜日は20:00まで。11月30日[土]は17:30まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日 毎週月曜日(ただし11月4日(月・休)、1月13日(月・祝)は開館)、11月5日(火)、12月28日(土)~1月1日(水・祝)、1月14日(火)
観覧料  (当日) 一般 1,700円 大学生 1,100円 高校生 700円(前売・団体) 一般 1,400円 大学生 1,000円 高校生 600円
※団体料金は20名以上。
※中学生以下は無料。
※心身に障害のある方と付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)。
公式HP https://habsburg2019.jp/#/

 

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