【国立西洋美術館開館60周年記念】松方コレクション展 報道内覧会レポート

国立西洋美術館


2019年6月11日(火)から9月23日(月・祝)まで、東京上野の国立西洋美術館で、
「国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展」
が開催されています。

本展の報道内覧会が開催されましたので、今回は、そのレポートをお届けします。

 

松方コレクションとは?

フランク・ブラングィン <松方幸次郎の肖像> 1916年 国立西洋美術館蔵(松方幸次郎氏御遺族より寄贈)

国立西洋美術館のコレクションの礎(いしずえ)を築いた実業家、松方幸次郎(1866-1950)。
神戸の川崎造船所(現・川崎重工業株式会社)を率いた松方は、第一次世界大戦による船舶需要を背景に事業を拡大しながら、1916-1927年頃のロンドンやパリで大量の美術品を買い求めていました。当時の収集品はモネやゴーガン、ゴッホの絵画、ロダンの彫刻などの近代作品、中世の板絵やタペストリーまで約3000点。

「日本人のために美術館を作りたい」

そんな思いから収集された作品群が、松方コレクションです。

本展覧会は、松方コレクションの形成と散逸、国立西洋美術館が設立されるにいたる過程を、貴重な美術作品約160点や歴史資料でたどります。プロローグ~エピローグまでの全10章からなる道のりは、コレクションの収集に人生を賭けた松方の思いを私たちに伝えてくれることでしょう。

 

松方コレクションの見どころ

今回の展覧会の見どころは、大きく分けて3つあります。

1つ目は、フィンセント・ファン・ゴッホ『アルルの寝室』(1889年)をはじめ、世界各地に散逸した松方旧蔵の名作が集結して展示されていること。

2つ目は、松方がモネのアトリエで直接購入し、長い間行方知らずとなっていた大作、『睡蓮、柳の反映』(1916年)が修復後、初公開されること。

3つ目は、松方コレクションがロダン美術館の旧礼拝堂に保管されていた時代に、フランス人カメラマン、ピエール・シュモフにより撮影された365枚のガラス乾板の内の16点が歴史資料として初公開されることです。

 

展示会場

 

フィンセント・ファン・ゴッホ <<アルルの寝室>> 1889年 油彩、カンヴァス 57.5×74㎝ オルセー美術館、パリ

 

 

ロダン美術館保管時代に松方コレクションを写したガラス乾版(ピエール・シュモフ撮影) フランス文部省・建築文化財メディアテーク

 

 

『睡蓮、柳の反映』作品修復の苦労と今後の展望

クロード・モネ <睡蓮、柳の反映> 1916年 油彩、カンヴァス 199.3×424.4㎝(上部欠失) 国立西洋美術館、東京(松方幸次郎氏御遺族より寄贈)

3つの見どころの中で特に目を惹く作品は、クロード・モネの『睡蓮、柳の反映』
睡蓮の池の水面に柳の木が逆さまに映り込んでいる様子を、日本の屏風絵を連想させる装飾的な手法を使い表現した大変スケールの大きな作品です。修復前の状態が、これほど破損していた作品は珍しいとのこと。

国立西洋美術館研究員の邊牟木尚美氏は、「第二次世界大戦中、ナチスの捜索を逃れて、作品を農家に避難させていた際、上下逆さまに置いて保存していたのが原因では?」と推測されていました。

本作の場合、本来は3年から4年掛けて修復するところ、修復期間が1年と短いため、最低限の復元をするに留めたとのこと。大変大きな作品のため重量があり、作品を裏返すだけでも7人ほどの大人数が必要で一苦労だったそうです。

また、邊牟木氏は結びに「今後は、他のモネの睡蓮シリーズの比較検討をしながら、長期的にモネ作品の修復に努めていきたい」ともおっしゃっていました。

 

展示作品紹介

 

フィンセント・ファン・ゴッホ <ばら>

1889 年 油彩、カンヴァス 33×41.3㎝ 国立西洋美術館、東京

精神を病んだゴッホが、サン=レミ精神療養院で入院中に、近くに咲くばらを描いた作品。生命力ある活き活きとしたばらが、激しい筆使いで描かれています。

ばらの質感だけでなく、香りまでもが感じられるようです。

 

カミーユ・ピサロ <収穫>

1882年 膠テンペラ、カンヴァス 70.3×126㎝ 国立西洋美術館、東京(松方幸次郎氏御遺族より寄贈)

この作品は、膠(にかわ)テンペラという材料に挑戦し、従来の風景画家から人物画家へと移行した、ピサロの節目となった作品。今まで添景としてしか描かれていなかった人間が、前面に描かれるようになります。向こうの家まで見える、広々とした田園風景に心が奪われます。

風によって流れる麦の質感と作業をする人々の息遣いが聞こえてきそうです。

 

エドヴァルド・ムンク <雪の中の労働者たち>

1910年 油彩、カンヴァス 223.5×162㎝ 個人蔵、東京(国立西洋美術館に寄託)

晩年のムンクが描いた人物画です。雪深い過酷な状況で作業している労働者たち。前面には、スコップを肩に担いだり、雪に突き刺したりして、誇り高い表情でこちらを向く3人の男。その後ろには、黙々と作業する人々が生き生きと描かれています。

それぞれの姿に暗さはなく、むしろ、明るさすら感じられます。

 

シャルル=フランソワ・ドービニー <ヴィレールヴィルの海岸、日没>

1870年 油彩、カンヴァス 100×197㎝ 株式会社三井住友銀行、東京

バルビゾン派の風景画家ドービニーの晩年の作品。

大きな海に静かに流れる波の音と夕焼けの空。その風景と浜辺を歩く人々の姿が、印象的です。人々は小さくしか見えませんが、どんな表情をしているんだろう?仕事を終えて明るい顔をしているんだろうか?

想像力を掻き立てられます。


関東大震災や昭和金融恐慌によって散逸し、数奇な運命をたどってきた松方コレクション。
本展の展示作品のキャプションには、その作品がいつ、どこで購入されたのかが綿密に記されており、その流転の歴史を知ることができるように工夫されています。

数十年の歳月を経て結実した、「日本のための美術館を作りたい」という松方幸次郎の夢。
ぜひ会場に足を運んで、その想いの一端に触れてみてはいかがでしょうか?

 

 

開催概要

展覧会名 国立西洋美術館開館60周年記念「松方コレクション展」
会 期 2019年6月11日(火)〜9月23日(月・祝)
9:30~17:30(入館は閉館の30分前まで)
(ただし、会期中の金曜・土曜は21:00まで開館)
休館日 毎週月曜日、および7月16日(火)は休館。
※7月15日(月・祝)、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開館。
会場 国立西洋美術館(上野公園)
観覧料 一般1600円(1400円)、大学生1200円(1000円)、高校生800円(600円)
※中学生以下無料
※( )は、20名以上の団体料金
※障がい者とその介護者1名は無料。入館の際に障がい者手帳などを要提示。
公式サイト https://artexhibition.jp/matsukata2019/

 

記事提供:ココシル上野


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【東京都美術館】「クリムト展 ウィーンと日本 1900」報道内覧会レポート

東京都美術館

グスタフ・クリムト  《ユディトⅠ》 1901年

 

2019年4月23日(火)から7月10日(水)の期間、『クリムト展 ウィーンと日本 1900』が東京都美術館にて開催されます。開幕に先立ち、4月22日にプレス内覧会がおこなわれましたので、その模様をお伝えいたします。

 

金箔を多用した華やかな装飾性。死とエロス、そして生命の連鎖をも感じさせる世紀末的な官能性。19世紀末ウィーンを代表する画家グスタフ・クリムト(1862-1918)の手がけた甘美な女性像や風景画は、今なお圧倒的な人気を誇っています。

没後100年を記念して開催される本展では、初期の自然主義的な作品から誰もが知る「黄金時代」の時代の様式、女性画や風景画まで、クリムトの油彩画では日本では過去最多の25点以上の作品が集結。さらに同時代に活躍した画家たちの作品、クリムトが影響を受けた日本の美術品なども合わせて紹介し、クリムトの画業の全貌に迫ります。

 

展示風景

展示の序盤では、劇場装飾に携わった修行時代の作品を紹介

 

初期は正統派の古典絵画を描いていたクリムト。男性像には伝統的な作風が見て取れる

 

多様な表情を研究するために制作された肖像画。好みの女性に似せて描いたとも

 

クリムトを語る上で欠かせないのは日本とのつながり。同時代の静物画にも東洋的異国趣味が表現されている

 

全長34メートルにもおよぶ代表作《ベートーヴェン・フリーズ》の原寸大複製の展示室

 

本展は全八章構成です。

Ⅰ クリムトとその家族
Ⅱ 修行時代と劇場装飾
Ⅲ 私生活
Ⅳ ウィーンと日本 1990
Ⅴ ウィーン分離派
Ⅵ 風景画
Ⅶ 肖像画
Ⅷ 生命の連環

 

クリムトは生前多くを語らず、「私について知りたいならば、私の絵を注意深く観察するべきです」と語っていました。
その言葉を裏付けるように、彼の絵から伝わってくるのはまさに「人生」そのもの。展示構成もクリムトの画業をその始めから辿るように構成されています。

クリムトといえば豪華絢爛な黄金様式ですが、その作風は試行錯誤の末に生まれたもの。クリムトは初期はアトリエ「芸術家カンパニー」の経営を通じて正統的な古典絵画を手がけていましたが、共同経営者だった弟が早世すると1897年に「ウィーン分離派」を設立。クリムトはその初代会長となり、アカデミックで保守的な作風を脱し、独自の世界観を開花させていったのです。

また、本展では移ろうクリムトの画風をつまびらかに紹介しますが、見逃せないのが第4章です。
クリムトは浮世絵や甲冑など、日本の美術品を好んで収集していましたが、《17歳のエミリーリエ・フレーゲ》など、その研究成果が現れた作品を展示。「日本とクリムト」という文脈でその絵画世界を読み解きます。

 

展示作品紹介

グスタフ・クリムト《ユディト Ⅰ》1901年

クリムトの代表作として知られる《ユディト Ⅰ》。

「この作品は、今日クリムトを有名な画家にしている全ての要素を備えている」と語ったのは、展示解説をしてくださったマークス・フェリンガー氏(ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館 学芸長)。

主題は旧約聖書外典の一場面。ユダヤの町ベトゥリアを包囲したホロフェルネスを、若い未亡人ユディトが誘惑し、その首を切り落としています。
様式化された構図、装飾的な文様、裸身を晒す未亡人のエロティシズム。そして何より初めて本物の金箔が使われ、まさに「黄金時代の幕開け」となった象徴的な作品です。

うつろな瞳でこちらを見るユディトの表情には怖気が走りますが、この頃、クリムトは二人の非摘出子ができたことで扶養義務を負うことになり、そうした私生活上の事情が作品に反映されているそうです(!)。

 

グスタフ・クリムト《オイゲニア・プリマフェージの肖像》1913、もしくは14年

クリムトの最も重要な支援者のひとりであり、裕福な銀行家の妻でもある女性の肖像画。
画面には色とりどりの花、そして右上の隅には磁器、もしくは七宝の置物から着想を得たと思われる幸運と長寿を象徴する鳳凰が描かれています。

注目すべきは背景の黄色の鮮やかさ。クリムトは後期の作品のほとんどに補色を取り入れており、本作においても背景の黄色とオイゲニアのドレスの色、そして花の装飾が対比的に表現されています。

 

グスタフ・クリムト《女の三世代》 1905年

第八章では「生命の連環」と題し、生殖から死に至るまでの生命と男女の関係という、クリムトの絵画世界において決定的な影響を及ぼしたテーマについて考察しています。

本作は、まさにそうしたテーマを直接的に扱った作品で、本展において公開されたクリムト作品の中でもひときわ謎めいた存在感を放っています。

 

眠る幼児と、花々に彩られ、生命力あふれる若い女性。その背後にうなだれた姿勢で嘆息する、老いた女性。
まさに「女の三世代」をひとつの画面で描き分けた大作で、一生を通じての各段階の女性の姿が象徴的に描写されています。
彼女たちを彩る三角、円、うずまきなどの装飾性の奇妙さも印象に残ります。

1911年から1913年の間にローマで本作品を見た日本画家・太田喜二郎は、本作には日本画の霞の表現や友禅の模様など、「日本画の趣向」が見られると指摘。クリムトの作品には構図、色の組み合わせ、そして模様に日本の独自性が感じられると語りました。この作品にも、日本画がウィーンに、そしてクリムト絵画に吹き込んだ命は脈々と受け継がれているようです。


グスタフ・クリムト《赤子(ゆりかご)》1905年

「全ての作品が、それが肖像画であれ風景画であれ共通しているのは、グスタフ・クリムトにとって絵画作品は装飾品であった、ということです。彼の風景画にしても、自然をそのまま捉える眼差しで描かれたものではありません。肖像画も同様にデコラティブなモノとして扱われる、これがクリムト絵画の特色のひとつです」

マークス・フェリンガー氏は展示解説の中でクリムト絵画における「装飾性」について強調し、同時に彼が19世紀ウィーン美術界の文脈において、「最も重要な存在」であると語りました。

 

数々の会場を順番に回ることで見えてくる、彼の思考の宇宙。そして生涯。
革新性とエロス、そして「黄金様式」をはじめとする多彩な表現を、ぜひ会場でお楽しみください。

 

開催概要

会期 2019年4月23日(火)〜 7月10日(水)
会場 東京都美術館 企画展示室
開室時間 午前9時30分~午後5時30分
※金曜日は午後8時まで(入室は閉室の30分前まで)
休室日 5月7日(火)、20日(月)、27日(月)、
6月3日(月)、17日(月)、7月1日(月)
問合せ ○公式サイト
https://klimt2019.jp/outline.html
○ハローダイヤル
03-5777-8600
観覧料  一般 1,600円 / 大学生・専門学校生 1,300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1,000

※中学生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※いずれも証明できるものをご持参ください

 

記事提供:ココシル上野


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【東京国立博物館 平成館】特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」内覧会レポート

東京国立博物館


東京国立博物館平成館では、2019年3月26日(火)~6月2日(日)の期間、特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」が開催されます。

開催に先立ち行われたプレス向け内覧会に参加しましのたで、その様子をお伝えします。


東寺(教王護国寺)は、平安京遷都に伴い、王城鎮護の官寺として西寺とともに建立されました。唐で新しい仏教である密教を学んで帰国した弘法大師空海は、823年に嵯峨天皇より東寺を賜り、真言密教の根本道場としました。

空海は、「密教は奥深く、文章で表すことは困難である。かわりに図画をかりて悟らないものに開き示す」(『御請来目録(ごしょうらいもくろく)』)と語り、造形物を重視しました。このことから、密教美術にはすぐれた名品が数多く残っています。

本展では、空海にまつわる数々の名宝をはじめ、東寺に伝わる文化財の全貌を紹介しています。

後七日御修法(ごしちにちみしほ)

空海は、経典に従って修法(すほう)を行い効験を得るのが密教と述べています。様々な修法のなかで最も重要なのが、宮中に設けられた密教奏上である真言院(しんごんいん)で行われた後七日御修法です。

国家の安泰や天皇の健康が祈願され、明治以降は東寺で行われています。

どのような修法が行われているかは明らかにされませんが、本展覧会のために、儀式の際の道場内のしつらえの写真撮影が許可され、その様子が展覧会場に再現されています。貴重な儀式の様子を伺い知ることのできる貴重なチャンスです!

両界曼荼羅(りょうかいまんだら)

曼荼羅とは、仏教の経典の世界観を様々な方法で視覚的にわかりやすく表したもの。空海が重視していた「両界曼荼羅」は、『大日経(だいにちきょう)』と『金剛頂経(こんごうちょうぎょう)』という経典の世界をそれぞれ表した「胎蔵界曼荼羅」と「金剛界曼荼羅」を指します。両界曼荼羅は後七日御修法でも使用されます。

本展では期間中に3組の両界曼荼羅(計6つ)を入れ替えて展示します。

3月26日(火)~4月7日(日)に展示されるのがこちら。空海が中国から持ち帰った彩色曼荼羅(根本曼荼羅)の第二転写本であり、重要文化財に指定されています。

両界曼荼羅図(甲本) 胎蔵界 平安時代・建久2年(1191)東寺蔵 掲載期間3月26日~4月7日

曼荼羅は奥深い密教の教えを誰にでもわかるように示したもの。曼荼羅の配置図も一緒に展示されているので、大日如来を中心とした世界の解読にチャレンジしてみてください。

立体曼荼羅

東寺の講堂には、密教の根本経典である『金剛頂経』の世界観を立体的に表したとされる21体の仏像群が並びます。これらの立体曼荼羅は空海が構想したものです。本展にはこれらのうち、史上最多の出品となる15体が展示されています。

空海は「曼荼羅の仏は整然と森の木のように並び、赤や青さまざまな彩色が輝いている」と述べています。金剛界曼荼羅を意識した言葉と考えられています。その言葉のように、広い展示会場に15体の仏像が立ち並ぶ様子は圧巻です。

「仏像界一のイケメン」との呼び声高い帝釈天騎象像もじっくり拝観できます。

帝釈天騎象像 平安時代・承和6年(839)東寺蔵

 

VR作品『空海 祈りの形』

本展開催にあわせ、東京国立博物館地下1階にてVR作品『空海 祈りの形』を上映しています。

空海の入唐から行動建立目での軌跡をたどるほか、立体曼荼羅21体の仏像をVR技術で再現した映像を堪能できます。立体曼荼羅の中央に配置された高さ7メートルの「大日如来」が実物大で投影されるなど、迫力満点です。本展とあわせてぜひお楽しみください!

上映案内
場所:東京国立博物館東洋館地下1F TNM&TOPPANミュージアムシアター
期間:2019年3月27日(水)~6月30日(日)
上映日時:水・木・金 (12:00、13:00、14:00、15:00、16:00)
土・日・祝・休日(11:00、12:00、13:00、14:00、15:00、16:00)
※特別展期間中[3/26(火)~6/2(日)]の金・土は17:00、18:00追加上映
※所要時間約35分、各回定員90名
鑑賞料金:高校生以上500円  中学生・小学生300円
未就学児、障がい者とその介護者1名無料
※特別展「国宝 東寺ー空海と仏教曼荼羅」チケット提示で100円引き
※総合文化展当日券(一般620円/大学生410円)とセット購入で一般1000円/大学生800円
※開演時間までにチケットをお買い求めください(当日券のみ)。
シアターWEBサイト:http://www.toppan-vr.jp/mt/

 

開催概要

 

展覧会名 特別展「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」
会 期 2019年3月26日(火) ~6月2日(日)
会場 東京国立博物館平成館
(台東区上野公園13-9)
開館時間 9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
※ただし、会期中の金曜・土曜は21:00まで
休館日 月曜日、5月7日(火)
※ただし4月1日(月)[東寺展会場のみ開館]、4月29日(月・祝)、5月6日(月・休)は開館
問合せ 03-5777-8600(ハローダイヤル)
観覧料 一般1600円(1400円/1300円)、大学生1200円(1000円/900円)、高校生900円(700円/600円)
※中学生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金
※障がい者とその介護者一名は無料。入館の際に障がい者手帳などを要提示。
公式サイト https://toji2019.jp/

記事提供:ココシル上野


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台東区立朝倉彫塑館
「独断で選んだイケメン★オシメン」
取材レポート

台東区立朝倉彫塑館

下町の雰囲気を色濃く残す、谷中銀座商店街から徒歩3分のところに位置する朝倉彫塑館。彫刻家の朝倉文夫(1883‐1964)のアトリエ兼住居だった建物を一般公開しています。朝倉の手による彫刻作品が鑑賞できるのはもちろんですが、朝倉自身が設計を手掛けた建物は国の有形文化財に登録(2001)されており、敷地全体が「旧朝倉文夫氏庭園」として国の名勝に指定(2008)されています。作品、建物、庭園が楽しめる朝倉彫塑館は、近年海外の観光客からも注目されています。

今回はそんな朝倉彫塑館で2019年3月8日(金)~6月5日(水)の期間に催されている企画展「独断で選んだイケメン★オシメン」を取材しましたので、その様子をお伝えします。


常設展示内の特集では、朝倉彫塑館が所蔵する作品のうち、職員の皆さんがイケメンだと思った作品を展示しています。

正面が職員から人気NO.1の《競技前》。顔が小さく、引き締まった筋肉質な身体つきが特徴

大きく窓を取り、自然光が降り注ぐアトリエ。コンクリート造ながらもどこか温かい雰囲気なのは曲線を多用しているから。影もやわらかくなるそうです。天井高は8.5mとのこと。

警察犬スター号をモデルにした作品もイケメンとして選出。人物だけではなく動物をモデルとした作品も実物を忠実に再現しており、細部に見入ってしまう。こちらは惜しくも選外となった《臥たるスター》

朝倉の代表作である《墓守》。墓守の老人の、飾り気のないありのままの姿をとらえた作品。人生経験がにじみ出たその表情がイケメン

アトリエから書斎へと続きます。

作り付けの本棚に収められた膨大な書籍の約半数は洋書です。洋書のほとんどは、朝倉の東京美術学校(現東京藝術大学)時代の恩師である岩村透の蔵書だったものでした。岩村の死後、朝倉はその蔵書が散逸しないよう、借金をしてまとめて引き取りました。朝倉は岩村を深く尊敬しており、彼から多くのことを学びました。

書斎内にもイケメン像を発見。《双葉山像》

《双狗協力》と題されたブックエンド

ここまではコンクリート造でしたが、住居に続く応接間からは木造になります。優れた美的感覚を持つ朝倉は、異なる複数の要素を調和させることを得意としていました。コンクリート造のアトリエと木造で数寄屋造の住居部分は違和感なく隣接しています。

漢書も多く所有。朝倉は暮らしのなかにも中国趣味を好んで取り入れた

木造部分で特筆すべきは回廊式の庭園です。全ての部屋から豊富な水を湛えた庭が見えるように設計されており、見る場所によって異なる景色を楽しめます。水の豊かな大分県出身の朝倉は、この庭園造りには特に力を入れたそうです。朝倉はこの住居で、季節の移ろいを肌で感じる生活を送っていたことでしょう。

アトリエは天井が高く空間が広い分、空調が効きにくく冬はとても冷えるため、朝倉は彫刻の制作を控えたという。寒い時期には庭園の見える自室で原稿を書いていた

2階へと続く階段。丸太や竹を多用して、丸みと直線を組み合わせたデザインが特徴的

2階から見たコンクリート建築(右)と木造の数寄屋造(左)の境目。異素材が見事に融合している

3階には「朝陽の間」という来賓を迎えるための日本間を設えています。神代杉の杉皮を裏張りした天井、砕いたメノウを塗り込んだ壁など贅沢な材料を用い、朝倉のこだわりが感じられる一室です。

床の間には段差が無く、壁は丸みを帯びたデザイン。煎茶趣味のしつらえや家具が全体をすっきりとまとめている。手前のテーブルは朝倉の設計によるもので、押し入れに入るほどの大きさまで分解することができる

コンクリート建築の屋上には庭園が。

朝倉はここを「朝倉彫塑塾」と命名し、多くの弟子を迎え入れています。その教育の一環として、屋上庭園で野菜を栽培し、弟子に土に触れて野菜が種から実になる過程をつぶさに観察する機会を与えていました。朝倉の作風は自然主義的写実と呼ばれますが、モデルを仔細に観察し、忠実に再現することに心を砕いていました。その技術はこうして自分の手で対象に触れて、感じるところから磨かれるものだという信念があったのでしょう。

オリーブの木

現在、屋上庭園にはアガパンサスやバラなどが植えられており、季節ごとに来館者の目を楽しませています。また、一部に菜園が再現され、野菜が栽培されています。

東洋蘭を愛した朝倉は、2階に蘭の栽培のための温室を作りました。現在「蘭の間」には、猫の彫刻が展示されています。朝倉は猫が好きで、数々の猫をモチーフとした作品を残しています。


今回の企画展と同期間に、『台東鳥瞰』関連企画「齋藤陽道 写真展」も開催。

台東区が発行している文化芸術広報誌『台東鳥瞰』のために写真家・齋藤陽道氏が撮り下ろした朝倉彫塑館の作品5点が館内に展示されています。


朝倉彫塑館は庭園や建築も含めてすべてが朝倉の美意識のもとに生まれた作品と言えるでしょう。隅々にまで朝倉のこだわりが感じられ、見ごたえが十分でした。ユニークな企画展「独断で選んだイケメン★オシメン」『台東鳥瞰』関連企画「齋藤陽道 写真展」は2019年6月5日(水)まで開催されています。この機会にぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。

利用案内

開館時間 午前9時30分~午後4時30分 (入館は午後4時まで)
休館日 月・木曜日(祝休日と重なる場合は翌平日)
年末年始
展示替え等のため臨時休館することがございます
入館料 一般 500円(300円)
小・中・高校生 250円(150円)
※( )内は、20人以上の団体料金
※障害者手帳提示者及びその介護者は無料となります
※特定疾患医療受給者証提示者及びその介護者は無料となります
※毎週土曜日は台東区在住・在学の小、中学生とその引率者の入館料が無料です年間パスポート等のお得なサービスを 各種ご用意していますので、ぜひご利用ください
所在地 〒110-0001
台東区谷中7丁目18番10号
TEL:03-3821-4549
FAX:03-3821-5225
公式サイト http://www.taitocity.net/zaidan/asakura/

※ご入館の際は靴下をご用意ください


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【国立西洋美術館】国立西洋美術館開館60周年記念「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」内覧会レポート

国立西洋美術館

2019年2月19日(火)~2019年5月19日(日)の期間、国立西洋美術館で国立西洋美術館開館60周年記念「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」が開催されます。2月18日に内覧会が開催されましたので、その様子をお伝えいたします。

 

2016年にユネスコ世界文化遺産に登録された国立西洋美術館。この本館を設計したのが、20世紀建築の巨匠として知られるル・コルビュジエです。

建築、絵画、彫刻、詩・・・。多彩な活動を展開していた芸術家であるシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエの本名)は、第一世界大戦集結後の1918年末、機械文明の進歩に対応した「構築と総合」の芸術であるピュリスムの運動をはじめました。ピュリスムの創造、そして1920年代パリの美術界との交流から大きな糧を得て、ジャンヌレは近代建築の旗手「ル・コルビュジエ」へと生まれ変わります。

国立西洋美術館開館60周年を記念して開催される本展では、ル・コルビュジエがパリで新しい芸術運動をしていた若き日々の絵画に焦点を当て、彼が刺激を受けた同時代の作家ピカソ、ブラック、レジェらの美術作品約100点に、建築模型、出版物、映像など多数の資料をくわえて展示。ル・コルビュジエが世に出た時代の精神を、彼の建築物のなかで体感できる、大変貴重な機会となります。

 

展示風景

会場風景。展示会場二階から一階の19世紀ホールを見下ろす

 

2階展示室。高い天井と低い天井が組み合わされ、柱がリズミカルに並ぶ。連続窓から届く明るい光は、まるで自然光のよう

 

冒頭には友人のオザンファンと編集・発行していた雑誌『エスプリ・ヌーヴォー』の表紙が並んでいる

 

キュビスムの彫刻家など、ル・コルビュジエと親交のあった作家たちの作品が並び、建築空間と深く響きあう

 

ル・コルビュジエが設計した建築物の精密な模型を堪能できるのも醍醐味のひとつ。こちらは『ラ・ロシュ=ジャンヌレ邸』の1/30模型

 

ピュリスム運動を通じてル・コルビュジエと親交の深かったフェルナン・レジェの絵画。見たものを単純な面や線に置き換えるのがピュリスム絵画の特徴だ

 

展示構成は以下の通りです。

Ⅰ ピュリスムの誕生
Ⅱ キュビスムとの対峙
Ⅲ ピュリスムの頂点と終幕
Ⅳ ピュリスム以降のル・コルビュジエ

 

本展が開催されるのは国立西洋美術館の「19世紀ホール」から、二階の回廊状になった空間。これはル・コルビュジエが提唱した、建物が中心から外へらせん状に拡張する「無限成長美術館」というコンセプトに基づいています。

普段は常設展がおこなわれているこの空間ですが、「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」の開催にあたって壁の色は通常より明るく照らされ、まるで違う空間のように生まれ変わっていることに驚きました。

「光に満たされた空間。これが本来ル・コルビュジエが意図した展示空間でした。その中で、彼が活動した時代の画家たち、友人たちの作品、そしてル・コルビュジエの建築とが語り合う様子を体感できる。そこが通常の展覧会と大きく違う点だと思います」

そう説明してくださったのは、国立西洋美術館副館長・村上博哉氏。
絵や彫刻を鑑賞するだけでなく、ぜひ作品と建築との関係について思いをはせて、回廊をめぐってみてください。

 

展示作品紹介

シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ)《アンデパンダン展の大きな静物》1922年 ストックホルム近代美術館

「ありふれた現実の題材から構築的・普遍的な芸術を創造する」というピュリスムの理念を、最もモニュメンタルなかたちで実現した作品。

テーブルの上のギター、瓶、カラフなどを完全な立体として捉え、それを秩序のある空間として再構成している・・・と聞くとととても難解に思えますが、重要なのは「本物そっくりに書く」のではなく、物体を「単純な線や面に置き換えている」ということ。こうして描かれたピュリスム絵画から感じる立体感は、確かにル・コルビュジエの建築空間に通じるものなのでしょう。

 

同じ年に描かれたオザンファンの《瓶のある静物》(写真左)と対比してみると面白い。オザンファンもやはり垂直線と水平線を組み合わせて画面を構成していますが、ジャンヌレ(ル・コルビュジエ)の作品と比べるとどこか平面的な印象を与えます。ジャンヌレの作品はより立体的で、三次元の要素が強いように思えますね。

 

ル・コルビュジエ《灯台のそばの昼食》1928年 パリ、ル・コルビュジエ財団

1926年から毎年夏のヴァカンスを過ごしていたピケの自然豊かな環境。そのピケ滞在中のスケッチに基づく《灯台のそばの昼食》では、テーブルの上の静物と灯台のある湾の風景が意表をつくやり方で結びつけられています。

うねる曲線。暖かな色彩。ジャンヌレの以前のピュリスム絵画とはかなり趣が異なっていますね。1920年代の終わり頃、ル・コルビュジエは「幾何学的な秩序」の追求を目指し、静物を唯一の主題としていた彼の絵画に「風景」と「人物」を新たなモチーフとして付け加えました。彼が目指したのは「人間と自然の調和」。新しいテーマにともない、彼の作風も徐々に変化を遂げていったのです。

しかし、やはり「幾何学的秩序こそが人間と自然の本質である」という彼の信念は揺らぐことはなかったようです。

 

ル・コルビュジエ《サヴォワ邸》1928-31年(写真は1/100模型 2010年 大成建設株式会社)

1928-1931年にパリの郊外に建てられた邸宅、《サヴォワ邸》の模型。サヴォワ邸は横長の大きな窓やスロープなど、様々なアイディアが込められており、ピュリスムの精神を最もよく表現した建築と称されています。外観も、まるでジャンヌレのピュリスム絵画のよう。幾何学に根ざして普遍性を目指す彼の建築イメージがよく表現されています。

サヴォワ邸の設計が始まった1928年は、ル・コルビュジエにとっては「転機」の年であったかもしれません。ひとつは、ピュリスム時代には抑圧されていた女性や風景のイメージを絵画に取り入れるようになったこと。もうひとつは、絵画作品にも本名の「ジャンヌレ」ではなく、「ル・コルビュジエ」と署名するようになったこと。サヴォワ邸はまさに近代建築の先駆けであり、ル・コルビュジエにとっては記念碑的な作品であったともいえるのではないでしょうか。


「彼は国立西洋美術館の設計を通じて、この美術館が近代の精神を普及するための拠点になってほしいと願っていました。彼が考える『近代』は、明晰で力強く、ポジティブなもの。そしてその根底には幾何学があります。彼の建築と絵画作品が響きあうこの空間で、ぜひそれを感じてみてください」

展示解説を担当した国立西洋美術館の村上氏は、そのように語ってくださいました。

 

世界遺産建築の中で堪能する「ル・コルビュジエの原点」。
ぜひ一度、足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

開催概要

展覧会名 国立西洋美術館開館60周年記念「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」
会 期 2019年2月19日(火) ~ 5月19日(日)
9:30~17:30
毎週金・土曜日:9:30~20:00
※入館は閉館の30分前まで
休館日 月曜日(ただし3月25日、4月29日、5月6日は開館)、5月7日(火)
会場 国立西洋美術館
観覧料 当日:一般1,600円、大学生1,200円、高校生800円
団体:一般1,400円、大学生1,000円、高校生600円
※団体料金は20名以上。
※中学生以下は無料。
※心身に障害のある方および付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)。
公式サイト https://www.lecorbusier2019.jp

 
記事提供:ココシル上野


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【東京都美術館】特別展「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」報道内覧会レポート

東京都美術館

曽我蕭白《雪山童子図》明和元年(1764)頃 三重・継松寺

 

2019年2月9日(土)から4月7日(日)の期間、『奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド』が東京都美術館にて開催されます。開幕に先立ち、2月8日にプレス内覧会がおこなわれましたので、その模様をお伝えいたします。

 

日本美術における「奇想」という言葉をご存じでしょうか?

1970年に出版された、辻惟雄氏による日本美術史論の著作『奇想の系譜』では、江戸時代の画家、岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢芦雪、歌川国芳の作品と伝記を、「奇想」というキーワードを通して論じました。辻氏はこの著作によって、それまで流派やジャンルで語られることが多かった日本美術の世界に、エキセントリック、グロテスク、幻想的といった新たな視点をもたらしたのです。

本展では、『奇想の系譜』で取り上げられた画家たちにくわえて白隠慧鶴鈴木其一を取り上げ、昨今爆発的な人気を博している伊藤若冲ら日本美術界のスーパースター8名の傑作が集結。私たち現代人の目を通して、江戸絵画の奇想天外な発想、その新たな魅力を紹介します。

 

展示風景

会場入口。曽我蕭白の描く独創的な仙人図が奇想の世界へと誘う

 

本展は画家ごとに章立てされており、トップバッターを飾る若冲の章では代表作《象と鯨図屏風》(寛政9(1797)年 滋賀・MIHO MUSEUM)をなんと冒頭に展示。その大胆な展示構成に驚かされる

 

曽我蕭白は『奇想の系譜』が生み出されるキッカケにもなった画家。《唐獅子図》(明和元(1764)年 三重・朝田寺 展示期間:2/9~3/10)では、その奔放な筆使いに目を奪われる

 

本展で取り上げる「奇想の画家」たちの活躍年代

 

エンターテイナー的な遊び心に満ちた長沢芦雪。こちらの《猛虎図》は米国・エツコ&ジョー・プライスコレクションから来日を果たした作品

 

岩佐又兵衛《豊国祭礼図屏風》(愛知・徳川美術館 展示期間:2/9~2/24)。展示空間の広さを生かし、多くの屏風や襖絵が展観されているのも特徴

 

中にはこんな「奇想」の作品も・・・。狩野山雪《武家相撲絵巻》(公益財団法人 日本相撲協会相撲博物館)より。人って、ここまで飛ぶものでしょうか(※画面替えあり)

 

今回新たに「奇想の系譜」に加えられた白隠慧鶴は、そのユーモラスで軽妙な作風が特徴。強烈な赤と黒のコントラストが印象的な《達磨図》(大分・萬壽寺)は白隠の代表作として最もよく知られたもの

 

本展は全八章構成。

幻想の博物誌 伊藤若冲
醒めたグロテスク 曽我蕭白
京のエンターテイナー 長沢芦雪
執念のドラマ 岩佐又兵衛
狩野派きっての知性派 狩野山雪
奇想の起爆剤 白隠慧鶴
江戸琳派の鬼才 鈴木其一
幕末浮世絵七変化 歌川国芳

 

冒頭に日本美術界の「スーパースター」伊藤若冲を配するという構成も大胆ですが、本展を監修した明治学院大学教授・山下裕二氏は
「奇想の画家は若冲だけではありません。そのことを知っていただきたかった」
と語ります。

「奇想」というテーマを横糸に展開される展示作品の数々は、まさに「江戸のアヴァンギャルド」。琳派、狩野派、浮世絵、といった縦割りの発想の展覧会ではこれほどの「奇想」の絵画を目にすることはできません。

また今回、本展で「初公開」となる作品も満を持して登場。これまでの「奇想」ファンも、新たに「奇想」に触れる一般の方も満足できる内容になっています。

 

展示作品紹介

伊藤若冲 《梔子雄鶏図》個人蔵

本展の調査過程で発見された作品。貴重な初公開作品です。

とにかく若冲といえば「鶏」。若冲は庭に鶏を飼ってその生態を凝視していたと伝えられており、頻繁に画題に鶏を取り上げました。鶏に梔子(くちなし)、という組み合わせは他に類例がないようですが、若冲の庭にはきっとこうした梔子が植えられていたのでしょうか。

 

《旭日雄鶏図》米国・エツコ&ジョー・プライスコレクション

こちらの《旭日雄鶏図》における威風堂々とした作風や細部の描き込みに比べると、《梔子雄鶏図》はどこか控えめで、淡白な印象を受けますね。落款の書体などからも、《梔子雄鶏図》は30歳代の希少な初期作と見なされているようです。

 

曽我蕭白《雪山童子図》 明和元(1764)年頃 三重・継松寺

釈迦の生前のエピソードを物語る『本生譚』の一場面を絵画にしたもの。

釈迦が悪鬼の姿に身を変えた帝釈天から「お前が俺に自分の身を食わすなら、経典の下二句を教えてやろう」と試され、樹上からまさに身を投げようとしています。

画面の青色と赤と橙の強烈なコントラスト、そして釈迦の聖性と悪鬼の卑俗さの対比も面白い。蕭白は感画に学び中国の聖人や仙人といった伝統的な故事を多く描いていますが、その独創性と狂気に満ちた激烈な表現で知られていました。

 

歌川国芳 《みかけハこハゐが とんだいゝ人だ》 弘化4(1847)年頃 個人蔵

一見したところ男性の上半身を描いた肖像画ですが、近づいて見てみると・・・「ええっ?」という奇想の絵画。

本図はさまざまな異国の島を巡った鎌倉時代の武士、朝比奈三郎義秀を描いたものですが、その顔は裸の男性たちの寄せ集めで作られています。まさに「東洋のアルチンボルド」といえるかもしれません。

朝比奈が巡った島々の中には「小人島」なるものもあったということですが、彼を作り上げている男性たちはその小人たち、ということなのでしょうか。絵には「大勢の人が寄ってたかって尊い人をこしらえた。とかく人のことは人にしてもらわねばいい人にならぬ」と教訓めいた言葉が添えられており、見れば見るほど謎が深まる一枚です。


長沢芦雪《龍図襖》島根・西光寺

現代人をも凌駕する革新性、独創性。しかし、本展で紹介された「奇想の画家」たちが1970年の時点では誰一人として教科書に載っておらず、「その他大勢」の画家に過ぎなかったという事実には驚かされます。

 

「異端」「異形」の画家たちが切り開いた、新たな日本絵画への道。
教科書は置いて、彼らと出会う旅に出かけよう。
その時あなたは、今よりももっと日本絵画のことが好きになっているかもしれません。

 

若冲の鶏や蕭白の鬼など、「奇想」のキャラクターたちをあしらったオリジナルグッズも充実

 

開催概要

会期 2019年2月9日(土)~4月7日(日)
会場 東京都美術館 企画展示室
開室時間 9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
休室日 月曜日、2月12日(火)
※ただし、2月11日(月・祝)、4月1日(月)は開室
問合せ ○公式サイト
https://kisou2019.jp
○ハローダイヤル
03-5777-8600
観覧料  一般 1,600円 / 大学生・専門学校生 1,300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1,000

※中学生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※いずれも証明できるものをご持参ください

記事提供:ココシル上野


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江戸まち たいとう芸楽祭 クロージングイベント 取材レポート

台東区立浅草公会堂


 
2018年8月に開幕して以来、様々なイベントを通して江戸時代から伝わる伝統芸能をはじめ、多彩な芸能・伝統文化を発信してきた「江戸まち たいとう芸楽祭」。2019年2月16日(土)にクロージングイベントが開催されました。
 
クロージングイベントのテーマは~江戸から東京へ『今に生きる江戸の賑わい』~。第一部・第二部に分けられ、台東区が誇る幅広いジャンルの芸能が一堂に集い披露されました。今回、第一部を取材してきましたのでその様子をお伝えします。
 

浅草六区の賑わい

第一部の開会に先駆けて、エンターテイメントの聖地として知られる「浅草六区」にてクロージングイベント出演者のお披露目がありました。
 
浅草演芸ホールの前に現れたのは、江戸時代に消防団として誕生した「火消し」の伝統を後世に伝えるために結成された、一般社団法人江戸消防記念会の第五区。迫力ある江戸の鳶木遣り纏振りを実演しました。
 

鳶木遣り

 
纏振り

 
次に現れたのは艶やかな花魁です。扮するは大衆演劇俳優の竜小太郎さん。浅草六区通りからクロージングイベント会場・浅草公会堂までの花魁道中は多くの通行人の目を楽しませました。
 

 

 

クロージングイベント第一部

スターの手型顕彰式
大衆芸能のメッカである台東区は、大衆芸能の振興に貢献した芸能人の功績をたたえてその業績を後世に伝えるため、1979年(昭和54年)から手型とサインを浅草公会堂前の「スターの広場」に設置しています。今年、手型が設置される6名の方の顕彰式が行われました。
 

元宝塚男役トップスターで女優の天海祐希さん「私は台東区出身なのですが、子どものころから親しんできたこの地に手型を置いていただけるとは、感慨無量でございます。母も大変喜んでおり、親孝行ができました。台東区に活気がみなぎるよう、ますます頑張っていきたいと思います。」
 

歌手・大月みやこさん「歌手活動をはじめて55年を迎えましたが、今が一番幸せです。今回スターの手型にお選びいただいて、また明日から日本の素敵な歌謡曲を皆様にお届けするにあたってファイトをいただいたように思います。歌を聴いてくださるみなさんのおかげです。ありがとうございました。」
 

歌舞伎俳優・中村勘九郎さん「いままでスターの手型を残されてきた偉大な先輩方の中に入ることができ、とても嬉しく思います。その先輩方のなかには祖父2人、父、叔母も含まれています。この浅草公会堂は若手歌舞伎役者の登竜門と言われる新春浅草歌舞伎が行われています。私も18歳の時から長年に渡りこの場所で出演させていただきました。これからも浅草の人々を愛し、また愛されるようないい役者になりたいと思います。」
 

勘九郎さんの弟・中村七之助さん「私も16歳のときからこの浅草公会堂でお世話になってきました。今日はこんなにたくさんのお客様がいらっしゃいますが、私の最初の公演では5人ほどしかお客様がいらっしゃいませんでした。この地で一からたたき上げられ、このようにスターの手型にお選びいただき、大変うれしく思います。」
 

タレントの東貴博さんも選出されましたが、顕彰会への出席が叶わず、弟でタレントの東朋宏さんが代理で出席されて貴博さんからのコメントを読み上げられました。「私の父、東八郎も今から38年前に手型を残しています。当時中学生だった私にとって尊敬してやまなかった父を、さらに偉大に感じた記憶がございます。父は49歳の時に手型を残しましたが、私も現在49歳。同じ年で手型を残すことができました。これからもこの名誉に恥じぬよう精進してまいります。」
 
 

女優の多岐川裕美さんも残念ながら顕彰式を欠席され、所属されている事務所の常務取締役がコメントを代読されました。「平成最後に手型に選んでいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。芸能生活も46年目に入りましたので、今回お選びいただいたことを励みに新たな気持で精進してまいります。」
 
 
歌舞伎 舞踊『舌出し三番叟』
江戸歌舞伎の祖である中村勘三郎の伝統を継ぐ、中村勘九郎さんが三番叟を、七之助さんが千歳を演じられました。三番叟のコミカルな動きに会場がなごみました。


 
江戸太神楽
太神楽の起源は平安時代で神社に伝わる「散楽」だそう。江戸時代に曲芸として発展し人気を博しました。翁家和助さん、小花さんが傘回し等を披露し、巧みな技に観客は大いに沸き上がります。


 
ひとり語り『十三夜』
薄暗い舞台上に表れたのは朗読家の熊澤南水さん。しっとりと、時には激しく、樋口一葉の『十三夜』を語ります。樋口一葉は台東区竜泉を舞台に名作『たけくらべ』を書くなど、この地にゆかりのある作家です。

 
講談『新門辰五郎』
江戸から明治・大正時代にかけ、庶民の娯楽の代表であった講談。神田紅さんによって、江戸で町火消として活躍した新門辰五郎の生涯が語られました。本作は初演とのこと。その軽妙でありつつ臨場感あふれる語り口に聴衆は魅了され、講談の世界に引き込まれました。

 
フィナーレ 江戸芸かっぽれ
「かっぽれ」とは大阪の住吉神社で五穀豊穣を願って奉納された「住吉踊り」をもととして、その後願人坊主によって全国に広まり、江戸時代にこの名で呼ばれるようになった踊りです。櫻川入舟社中による「かっぽれ」の掛け声に合わせた舞で会場は盛り上がりました。


 


約半年の期間、芸能・伝統文化をもって台東区を盛り上げてきた「江戸まち たいとう芸楽祭」がここに幕を閉じました。クロージングイベントでも、ジャンルに囚われぬ多彩な演目を観客に提供し、誰もが参加できる「肩の力を抜いて楽しめるお祭り」として大成功を収めました。
 


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江戸まちたいとう芸楽祭 “たけしが認めた若手芸人「ビートたけし杯 漫才日本一」” 取材レポート

浅草東洋館


 
江戸まちたいとう芸楽祭では、1月28日に“たけしが認めた若手芸人「ビートたけし杯 漫才日本一」”を開催しました。同祭実行委員会名誉顧問のビートたけしさんが見守る中で白熱した、大会の様子をお伝えします。


 
舞台はビートたけしさんが修業を積んだ浅草東洋館(旧浅草フランス座)。各芸能プロダクション・漫才協会・東洋館などからエントリーした芸歴10年以下の若手漫才コンビ31組の中から、たけしさんをはじめとした江戸まちたいとう芸楽祭実行委員会による事前の映像審査を通過した10組が本選に出場しました。
 
審査員は127名の観客と放送作家の高田文夫さん、漫才コンビのナイツのお二人。宮藤官九郎さんと服部征夫・台東区長が見届け人を務められます。事前販売された観覧チケットは即日完売となり、今回の大会の様子はYouTubeで生配信されました。
 

放送作家の高田文夫さん

 
見届け人の宮藤官九郎さん

 
肝心のたけしさんの会場到着が遅れるなか、T.Nゴン所属のアル北郷さんと〆さばアタルさんの進行によって大会がスタート!漫才を披露する順番はくじで決められました。
 
くじ引きも盛り上がりを見せるなか、乱入してきたのはたけしさん!会場は大いに沸きあがりましたが、大先輩の登場に出場者の顔は引き締まり、客席にまでその緊張感がひしひしと伝わってきました。
 
順番決めのくじ引きに乱入するビートたけしさん

 
たけしさんからは、ここ浅草東洋館で今回の大会が開催される意義についてお話がありました。
 
たけしさん「いまは“お笑い”というと関西というイメージがありますが、もともとアメリカで生まれた“踊りの合間にお笑いを披露する”というショービジネスの文化をそのままに持ってきたのがこの東洋館を始めとした関東の劇場でした。今大会ではみなさんに関東のお笑いを存分に楽しんでもらって、一番ウケたやつが賞をもっていけばいい。」
 
くじ引きの結果に従い、漫才の大会では比較的長い4分という持ち時間で各組が渾身のネタを披露。
 
ブラットピーク(プロダクション人力舎所属)

 
がじゅまる(浅井企画所属)

 
ヤマメ(グレープカンパニー所属)

 
ザ・パーフェクト(サンミュージックプロダクション所属)

 
いい塩梅(ソニー・ミュージックアーティスツ所属)

 
マッハスピード豪速球(無所属)

 
キープランニング(ノーリーズン所属)

 
モンローズ(サンミュージックプロダクション所属)

 
ゆかりてるみ(SMA NEET Project所属)

 
オッパショ石(ケイダッシュステージ所属)

 
各組の漫才が終わったところで客席から投票を募ります。審査員の意見と照らし合わせて準優勝組、優勝組が選ばれますがたけしさんいわく観客と審査員の間で意見が一致しており、上位は僅差で選ばれたそう。
 
高田さんから準優勝組の発表です。高田さんがマイクの前でコンビ名の書かれた紙を大きく広げたので、発表前に後ろにいた出場者に結果が知られてしまうというハプニングがありましたが・・・
 

 
「弱小野球部の監督」のネタを披露したモンローズが準優勝に選ばれました。モンローズにはトロフィーが授与されました。
 

 
モンローズ「偉大なたけしさんのお名前を冠した、第一回の大会で賞を貰えて光栄です。これを胸にこれからもがんばっていきたいです。」
 
そしていよいよたけしさんの口から優勝組の発表です。優勝は・・・
 
 
マッハスピード豪速球!自転車撤去のネタで会場を沸かせました。
 

 
喜びを爆発させるお二人。
 

 
じつは昨年までオフィス北野に所属していたマッハスピード豪速球。当時、たけしさんに挨拶をした際に「漫才師か?」と聞かれ「コントです」と答えたところ、そっぽを向かれてしまった経験から漫才を志すようになったそう。
 
マッハスピード豪速球「こうして(漫才を始めるきっかけとなった)たけしさんにようやく漫才を見せることができ、優勝できてとても光栄です!」
 

 
優勝したマッハスピード豪速球には、賞金の30万円のほか、副賞として「浅草東洋館一日エレベーターボーイ券」、「芸楽祭レギュラーメンバー権」が授与されました。そして、たけしさんからの粋なサプライズで、「東京スポーツ映画大賞」と同時開催の「ビートたけしのエンターテインメント賞」の演芸新人賞に選出すると発表されました。
 
大いに盛り上がった「たけし杯」にたけしさんも大満足。「関東でも漫才ブームがくればいいと思って服部台東区長に助けてもらい、今回の大会を開くことができました。こうしてうまい優勝者も出たし、これからも続けていきたいです。」と語られました。
 
観客と審査員の間に垣根を設けず、みんなを一番笑わせた漫才コンビが頂点に立った「たけし杯」。大衆文化発祥の地・台東区であるからこそ実現した大会ではないでしょうか。
 
江戸まちたいとう芸楽祭は2019年2月16日(土)のクロージングイベント(第2部にはマッハスピード豪速球が出演)まで台東区で多彩な芸能・芸術イベントを発信していきます。ぜひご参加ください。
 
オフィシャル動画はこちら(YouTube)
 
江戸まちたいとう芸楽祭公式サイトはこちら


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台東区立一葉記念館 特別展「下谷龍泉寺町(ものがたりのまち)の樋口一葉」取材レポート

台東区立一葉記念館


 
下谷龍泉寺町にある台東区立一葉記念館は、明治時代の女流作家・樋口一葉がかつて荒物・駄菓子屋を開いたゆかりの地にあります。
 
一葉はこの地で過ごした約10カ月の間に名作『たけくらべ』の構想を得たとされています。
 
今年は一葉が下谷龍泉寺町に転居して125年。
 
これを記念して、一葉記念館では2018年11月10日(土)~2019年1月27日(日)の期間、下谷龍泉寺町転居125年記念特別展「下谷龍泉寺町(ものがたりのまち)の樋口一葉」が開催されています。
 
特別展を取材してきましたので、その様子をお伝えします。


展示室は2つに分かれており、第一展示室では「巻きの一」で下谷龍泉寺町に来る前の一葉の生活を、「巻きの弐」でこの地での一葉の生活を紹介しています。
 

第一展示室

 
巻きの一 下谷龍泉寺町へ
 
17歳で父を亡くした一葉は、一家の大黒柱として母と妹の生活を担っていました。
 
小説を発表して稿料を得ていたものの、生活が立ち行かなくなり、新たに商売を始めるべく下谷龍泉寺町に越してきます。
 
展示品の借用書や書簡が一葉の当時の生活が厳しかったことを物語っています。また、当時の下谷龍泉寺町の写真はほとんど残されていないため、絵画でその様子を伺い知ることができます。
 

 
 
樋口家の女3人で営む荒物・駄菓子屋には近隣に住むこどもや吉原遊郭で働く人々が訪れますが、一葉はそうした交流を通して人々を観察し、「社会の片隅で生きる人々の声なき声をすくいあげる」というその後の小説のテーマが形成されていくことになります。
 
荒物・駄菓子屋の模型。店頭には草鞋や石鹸、蝋燭が並ぶ

 
一葉の名作『たけくらべ』は下町の少年少女の淡い恋を取り上げたもので、下谷龍泉寺町近辺が舞台となっており、作品に千束稲荷神社や鷲神社が登場します。 
 
 
巻きの弐 現実と志のはざまで
 
当地での一葉の生活を紹介しています。
 
母と妹と。一葉18歳のころの写真。

 
一葉は、野々宮起久子という女性と下谷龍泉寺町在住時に深く交流をしていました。一葉から野々宮さんに宛てた直筆の手紙が展示されています。達筆です。
 
野々宮起久子宛書簡 明治26年(1893)9月28日付 樋口夏子(一葉)

 
一葉は当地に越してくる以前、「萩の舎」という歌塾にて和歌や古典文学を学んでおり、そこで書の素養も身につけました。
 
一葉が亡くなるまで使用していた文机のレプリカも展示されています。象牙がはめ込んである豪華なもので、父親から買い与えられたものだそう。
 

幼少期の裕福な暮らしがしのばれます。文机の実物は目黒区の日本近代文学館に保管されています。


第二展示室では、下谷龍泉寺町での生活が『たけくらべ』にどのように影響したのか、7つのファクターに焦点を当て解き明かしています。
 

第二展示室

 
 
一葉は当初、小説家ではなく和歌の先生を志望していました。
 
「萩の舎」発会写真 明治24年(1891)2月

一葉が和歌を学んだ「萩の舎」には名家の令嬢が多く通っていました。その中で爵位を持たない一葉には時に苦労もあったと考えられています。ある時など一葉はつぎはぎだらけの着物を着用して「萩の舎」を訪れました。
 
その着物のレプリカが展示されています。上から羽織を着ればつぎはぎが見えないよう、一葉の妹・くにさんが苦心して縫い上げたものだそう。
 

 
一葉は下谷龍泉寺町での約10カ月の生活ののち、店をたたみ本郷丸山福山町に転居します。
 
そして、そこで死去するまでの14カ月の間に『たけくらべ』を含む多くの作品を書き上げます。この期間は「奇跡の14カ月」と呼ばれています。
 
生活のために下谷龍泉寺町へとやってきた一葉ですが、当地で出会った人々との交流からその後の執筆生活の糧となるインスピレーションを得ました。
 
今回の特別展示によって一葉の創作熱がどのように刺激されたのかが明らかとなることでしょう。
 
 


常設展では、主に一葉亡き後の作品を紹介しています。
 
一葉の生前、作品は雑誌に掲載されており、小説等の単行本は販売されていませんでした。
 
一葉の最後の著作であり、生前に発表された唯一の単行本がこちらの『日用百科全書第12編 通俗書簡文』。一葉の筆による手紙の例文集です。
 

左・『日用百科全書第12編 通俗書簡文』明治29年(1896)5月25日 博文館
右・『日用百科全書第4編 家政案内』明治28年(1895)8月20日 博文館

 
一葉の妹・くにさんは一葉の死後も作品の保存に熱心でした。戦時下でも一葉の作品の原稿や短冊を持って疎開されたそうです。
 
現在わたしたちがこうして一葉の原稿等を目にすることができるのは、くにさんに負うところが大きいのです。
 
そのくにさんが雑誌「婦人世界」に「賃仕事までした我が姉一葉の面影」というエッセイを寄稿しています。
 
「婦人世界」第6巻第8号 明治44年(1911)7月1日 東京實業之日本社

近親者から見た等身大の一葉の姿をいまに伝える、大変貴重な資料となっています。
 
 
1984年に蜷川幸雄氏の演出によって舞台化された一葉原作の「にごり江」。舞台美術を担当された朝倉摂さん自らが手掛けた舞台模型が展示されています。
 
「にごり江」舞台模型 1984年(昭和59年)制作:朝倉摂

 


特別展では一葉の『たけくらべ』創作の土台となった下谷龍泉寺町での生活が包括的に紹介されているので、観覧後はより一層興味深く作品に接することができるように思いました。
 
 

記念館向かいの一葉記念公園に建つ「一葉女史たけくらべ記念碑」

 
下谷龍泉寺町転居125年記念特別展「下谷龍泉寺町(ものがたりのまち)の樋口一葉」は2019年1月27日まで開催されています。記念館にお越しの際は、周辺を散策して『たけくらべ』の世界に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
 

展覧会概要

 

展覧会名 下谷龍泉寺町転居125年記念特別展「下谷龍泉寺町(ものがたりのまち)の樋口一葉」

会期 2018年11月10日(土)~2019年1月27日(日)

会場 台東区立一葉記念館(台東区竜泉3-18-4)
第1・2展示室

開館時間 9:00~16:30(入館は16:00まで)

休館日 毎週月曜日(祝休日と重なる場合は、翌平日)、年末年始 12/29~1/3

入館料 個人/大人 300円、小・中・高校生 100円
団体/大人 200円、小・中・高校生  50円 
※団体は20名以上
※障がい者手帳および特定疾患医療受給者証をお持ちの方とその介助の方は無料です。
※毎週土曜日は、台東区内在住・在学の小・中学生とその引率者の入館料が無料です。

TEL 03-3873-0004

公式HP http://www.taitocity.net/zaidan/ichiyo/


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旧博物館動物園駅 一般公開記念インスタレーション『アナウサギを追いかけて』プレスツアー取材レポート

上野公園の向かい、東京国立博物館のわきにぽつんと佇むこちらの建物。
 

 
かつては東京帝室博物館(現・東京国立博物館)や恩賜上野動物園の最寄り駅として利用されてきた京成電鉄 旧博物館動物園駅です。
 
利用者の減少に伴い、1997年には営業を休止していましたが、2018年4月には景観上重要な歴史的価値を持つ建造物として、鉄道施設としては初めて「東京都選定歴史建造物」に選定されました。
 
これを機に改修工事が実施され、さらに東京藝術大学美術学部長であり、UENOYES※総合プロデューサーの日比野克彦氏がデザインした出入り口が新設されました。

※社会包摂をテーマにしたアートプロジェクト。文化を起点に人々の新たな社会参画を目的として、障害などの有無にかかわらず、子どもから大人まで、人種や国を超えたさまざまな人々とともに、年間を通して多彩なプログラムを展開し、上野から世界に向けて発信しています。

 
京成電鉄 旧博物館動物園駅駅舎の一部が一般公開されます。それにあわせ、駅舎内ではUENOYESのプロジェクトの一環である「歴史的文化資源活用プログラム」として期間限定のインスタレーション作品『アナウサギを追いかけて』が展示されます。
 
それに先立ち行われたプレスツアーに参加しましたので、その様子をお伝えします。


新設された扉を開けて、いざ中へ。

扉のデザインは日比野克彦氏によるもの

扉を開けると、そこには巨大なアナウサギが!

旧博物館動物園駅の改札が地下にあることから、本作では土を掘って巣穴をつくる習性を持つアナウサギをモチーフとしているそうです。

駅舎天井
多くの人に愛された当駅。駅舎の壁には現役当時の落書きが残されています。
旧博物館動物園駅公開記念入場券
アナウサギのお面をつけた案内人がわたしたちを地下へと誘います。
切符を切ってもらい、地下に降りていきます。
地下には「失われたものの再生」について書かれた本。観覧者も椅子に座ってページを繰ることができます。
3Dプリンタで再現された動物の頭蓋骨のユニークなディスプレイ。こちらにも触れることができます。
中央には駅舎が営業を停止した1997年に亡くなったジャイアントパンダのホァンホァンの頭蓋骨の実物が。そばに佇むのは国立科学博物館・動物研究部 支援研究員理学博士で、本作の技術協力の森健人さん。
ホァンホァンの頭蓋骨はレプリカも用意されているので、ぜひ触れてみてください。
トイレ表示の前に展示されているヒトの頭蓋骨のレプリカ。なんだかシュールです。
駅舎内に残る多くの落書きへのオマージュとして、地下につながるガラス戸にペンで落書きをすることができます。落書きがいっぱいになったらアーカイブ化する予定とのこと。
地下の改札、そしてホームへと続く階段。ここから先へは進むことができませんが、ガラス戸越しに当時の姿をしのぶことができます。

演出の羊屋白玉さんが上野についてのリサーチを基に書き下ろした物語を美術のサカタアキコさんが形にし、そして国立科学博物館・動物研究部 支援研究員理学博士森健人さんの技術協力によって実現した今回の展示。
 

左から演出の羊屋白玉さん、技術協力の森健人さん、美術のサカタアキコさん。

 
羊屋さんもサカタさんも、この駅舎は「アーティストにとってインスパイアされる空間」であると言います。
 
森さんは普段骨格標本を3Dスキャン・プリンタしたものを作成していますが、それを人の目に触れることができたらと考えていたときに羊屋さんから声がかかったそうです。旧博物館動物園駅が営業を休止したのは1997年のことでしたが、森さんの発案により、同年に亡くなったジャイアントパンダのホァンホァンの頭蓋骨の実物展示が叶いました。
 
こうして出来上がったインスタレーション作品『アナウサギを追いかけて』。扉を開けた瞬間から見るものを引き込んでしまう、独特の世界観が漂います。
 
入口のアナウサギや本、頭蓋骨のレプリカには実際に触れることができますし、ガラスには落書きをすることもできます。
 
旧博物館動物園駅を利用したことのある方でもない方でも、駅舎の歴史に思いをはせつつ作品を楽しめることでしょう。
 
2019年2月24日までの期間限定の展示となるので、この機会に旧博物館動物園駅に足を運んでみてはいかがでしょうか。
 

旧博物館動物園駅の公開と展示
「アナウサギを追いかけて」開催概要

 

会期 2018年11月23日(金・祝)~2019年2月24日(日)までの毎週金・土・日曜日
※12月28日~30日を除く計39日間

時間 11:00~16:00
※最終入場は15:30まで(定員制・混雑時は入れ替え制)

場所 旧博物館動物園駅 駅舎

入場料 無料

 
関連イベントも開催されます。詳しくは公式サイトでご確認ください。
 
記事提供:ココシル上野


 
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