【国立西洋美術館】ハプスブルク展内覧会レポート

国立西洋美術館
マルティン・ファン・メイテンス(子)<<皇妃マリア・テレジアの肖像>>1745-50年頃 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館

 

2019年10月19日(土)~、東京上野の国立西洋美術館にて、
日本・オーストリア友好150周年記念「ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」が開催されています。(2020年1月26日まで)
先日、開催に先立ち、プレス向けの内覧会が実施されましたので、その様子をレポート致します。


ハプスブルク家について

 

ハプスブルク家は、ライン川上流域の豪族として台頭し、13世紀末にオーストリアに進出、勢力を拡大。
オーストリアとその周辺の多様な民族や領土を統治し、第一次世界大戦後(1918年)に終焉を迎えるまで、数百年に渡り広大な帝国を築き続けた、ヨーロッパ随一の名門一族です。
具体的には、神聖ローマ帝国の位を15世紀以降に独占、16-17世紀にハプスブルク家がオーストリア系とスペイン系に分裂した際、スペイン系が南アメリカ、アフリカ、アジアに領土を拡大すると、”日の沈まない帝国”となりました。
ナポレオン戦争をきっかけに起こった、神聖ローマ帝国の解体後には、のちのオーストリア帝国を統治。
この長きに渡る統治の間、豊かな財力と人脈を生かして、世界有数の美術品や装飾品、工芸品、武具、歴史的記念品などの宝物を所有していきました。
「ハプスブルク展」は、一族によって建造され、1891年に開館した、ウィーン美術史美術館の協力により、絵画を中心として、武具、工芸品、タペストリー、版画など約100点を紹介する展覧会です。

ハプスブルク展の構成

 

ハプスブルク展の構成は下記のようになっております。

第1章
ハプスブルク家のコレクションの始まり

第1章では、15世後半から16世紀にかけてのハプスブルク家の美術品などの本格的な収集が行われ始めた時代の絵画、甲冑、工芸品など12点のコレクションを紹介します。
この時代のハプスブルク家の注目は、マクシミリアン1世(1459-1519年)。
巧みな政略結婚を行い、領土を拡大したことで有名ですが、マクシミリアン自身も美術の中心地フランドル ブルゴーニュ公国の後継者マリーと結婚し、ハプスブルク家のコレクションを豊かにするきっかけを作りました。

 

第2章
ルドルフ2世とプラハの宮殿

第2章では、稀代のコレクターとして有名な神聖ローマ帝国ルドルフ2世(1853‐1612年)に注目し、そのコレクションを含む、タペストリー、甲冑、絵画、彫刻など30点を紹介します。
ルドルフは、統治のセンスはありませんでしたが、芸術、学問の造詣の深さは、人並外れており、ウィ-ンからプラハに1583年に宮廷を移すと、絵画、武具、小型彫刻や工芸品、自然物の標本、時計などの多彩なコレクションを所有しました。

 

第3章
第3章は、3つのセクションに分かれています。

第3章の1 スペイン・ハプスブルク家とレオポルト1世

第3章の1では、ハプスブルク家が、オーストリア系とスペイン系の2系統に分裂し、つかず離れずの関係を保っていた時代のツールとなった肖像画など7点のコレクションを紹介します。
この時代の中心は、スペイン国王のフェリペ4世(1602-1644年)です。
彼は、若くして即位し、芸術や文化に情熱的で、若きベラスケスを宮廷画家に採用し、厚遇しました。

第3章の2
フェルディナント・カールとティロルのコレクション

3章の2では、オーストリア大公の一人で、重要なコレクターだった、ハプスブルク家系に属したフェルディナント・カールのコレクションを含む絵画6点を紹介します。

 

第3章の3

第3章の3では、ハプスブルク家の最重要コレクターの一人、レオポルト・ヴィルヘルム(1614-1662年)のコレクションを含む絵画24点を紹介します。

 

第4章 18世紀におけるハプスブルク家と帝室ギャラリー

第4章では、激動の18世紀を生き抜いた、ハプスブルク家の人々を、肖像画を中心に15点のコレクションで紹介します。
この時代の注目は、マリア・テレジア(1717-1780年)。
彼女は天性の聡明さ、政治手腕を発揮し、国難を乗り切って民を導いた「女帝」です。
もう一人の注目は、マリアテレジアの末娘のマリー・アントワネット(1755-1793年)。のちのフランス国王ルイ16世と政略結婚しますが、フランス革命でギロチンの露と消えた悲劇の王妃です。
第4章は、これらの人々を中心に展開します。

 

第5章 フランツ・ヨーゼフ1世の長き治世とオーストリア=ハンガリー二重帝国の終焉

新聖ローマ帝国は、ナポレオン戦争をきっかけに解体し、1804年にはオーストリア帝国が誕生します。(1867年以降、オーストリア=ハンガリー二重帝国)
しかし、第一次世界大戦の敗戦により、オーストリア帝国が崩壊。それとともに、ハプスブルク家も終わりを迎えます。
第5章では、ハプスブルク家の実質的な最後の皇帝として、有終の美を飾ったフランツ・ヨーゼフ1世(1830-1916年)ゆかりの作品、6点を紹介します。

編集部注目の作品

 

青いドレスの王女マルガリータ・テレサ

マルガリータ・テレサ8歳の頃を描いた、ベラスケス最晩年の作品。
華やかなシルクの青いドレスを身に纏い、真っ直ぐな瞳でこちらを見るその姿は、8歳とは思えないほど、落ち着いています。
ベラスケスは、このほか、3歳と5歳のマルガリータ・テレサを描いています。

ディエゴ・ベラスケス《青いドレスの王女マルガリータ・テレサ》1659年 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館

皇妃マリア・テレジアの肖像

マリア・テレジアの治世初期に重用されたマルティン・ファン・メイテンス(子)によって描かれた、テレジアの肖像画。
作品からは、民を導いた「女帝」マリア・テレジアの自信にあふれた表情と、16人もの子供を設けたおおらかさが、感じられます。

マルティン・ファン・メイテンス(子)《皇妃マリア・テレジアの肖像》 1745-50年頃 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館

フランス王妃マリー・アントワネットの肖像

マリー・アントワネットにその腕を見込まれて、宮廷画家として重用された、マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブランの作品。
作品は、政略結婚でフランスに嫁いだ若きマリー・アントワネットを描いたものです。
華やかなサテン地のドレスを纏い、一輪のピンクのバラの花を持つ、マリー・アントワネットの姿は輝いていて、この作品からは、フランス革命で悲劇的な死を迎えることなど、想像すらできません。

マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブラン 《フランス王妃マリー・アントワネットの肖像》1778年 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館

薄い青のドレスの皇妃エリザベト

ハプスブルク家の最後の実質的皇帝フランツ・ヨーゼフ1世に見染められ、オーストリア帝国皇妃として嫁いだエリザト(=愛称シシィ)をヨーゼフ・ホラチェクが描いた、肖像画。その奔放な性格や美しい容姿、非業の死を遂げたことから、のちに神格化された彼女のオーラに吸い込まれそうです。
エリザベトが体系維持のために、日常的にコルセットを着用したり、食事制限を課していたという話は有名です。

ヨーゼフ・ホラチェク 《薄い青のドレスの皇妃エリザベト》1858年 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館

井戸端のレべカとエリエゼル

旧約聖書のイサクとリベカの結婚にまつわる一場面を描いた、オッターヴィオ・ヴァンニーニの代表作です。絵画の中央で、レべカが従者エリエゼルの椀に水を注いでいる姿の他、その背後のラクダや井戸端会議をする女性たちの姿も生き生きと描かれています。

オッターヴィオ・ヴァンニーニ 《井戸端のレべカとエリエゼル》 1626/27年頃 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館

聖母子

聖母マリアの膝の上で立ち上がる、幼児キリストを描いた作品。
バランスを取って立ち上がるキリストの手足の指の表情まで、繊細に描かれています。そして、キリストを支える聖母マリアの表情は、穏やかながら、今にも笑みがこぼれそうです。

カルロ・ドルチ 《聖母子》 1660ー70年頃 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館

神聖ローマ皇帝レオポルト1世(1640-1705)と皇妃マルガリータ・テレサ(1651-1673)の宮中晩餐会

神聖ローマ皇帝レオポルト1世(1640-1705)と皇妃マルガリータ・テレサ(1651-1673)の宮中晩餐会の祝賀期間中、重用された画家の一人、ヤン・トマスによって描かれた作品です。
晩餐会には、仮装パーティの衣装に身を包んだ人々が、左奥に座る皇帝夫妻との宴を思い思いに楽しんでいます。
耳を澄ますと、晩餐会の歓声が聞こえてきて、自分もその宴に参加しているような気分になります。

ヤン・トマス《神聖ローマ皇帝レオポルト1世と皇妃マルガリータ・テレサの宮中晩餐会》1666年 油彩/カンヴァス ウィーン美術史美術館

まとめ

 

「日本・オーストリア友好150周年記念 ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」のプレス向け内覧会についてレポートしてきました。

会場には、ハプスブルク家の約100点にも及ぶ収集作品を1つも見逃すまいと、たくさんの方々が来場されていました。中には、1つの作品に数10分も費やして、その場から離れられずに熱心に鑑賞する方、マリーアントワネットを思わせるような衣装を着て来場される女性も見受けられました。

会場の作品は王家のコレクションだけに、全て華やか。
紹介した作品以外にも、絵画はもちろんのこと、武具、工芸品、タペストリー、版画など、数えきれないほどの展示物があります。

現在開催中の「日本・オーストリア友好150周年記念 ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」。
ぜひ、国立西洋美術館でその華やかな品々を確かめに来てください。

皆さん食い入るように作品を鑑賞していました。

 

開催概要

 

展覧会名 日本・オーストリア友好150周年記念 ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史
会期 2019年10月19日(土)-2020年1月26日(日)
会場 国立西洋美術館(東京・上野公園)
開館時間 9:30〜17:30(金・土曜日は20:00まで。11月30日[土]は17:30まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日 毎週月曜日(ただし11月4日(月・休)、1月13日(月・祝)は開館)、11月5日(火)、12月28日(土)~1月1日(水・祝)、1月14日(火)
観覧料  (当日) 一般 1,700円 大学生 1,100円 高校生 700円(前売・団体) 一般 1,400円 大学生 1,000円 高校生 600円
※団体料金は20名以上。
※中学生以下は無料。
※心身に障害のある方と付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)。
公式HP https://habsburg2019.jp/#/

 

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【国立科学博物館】スペシャルサポーターのビートたけしさんも登場!特別展「ミイラ 永遠の命を求めて」内覧会レポート

国立科学博物館


2019年11月2日(土)から2020年2月24日(月・祝)にかけて国立科学博物館で特別展「ミイラ  永遠の命を求めて」が開催されています。メディア向け内覧会に参加してきましたので、今回はその様子をお伝えします!

 

国内最大級!ミイラを「科学する」展覧会

世界各地から貴重なミイラが集う

 

約5200年前の子どものミイラを、精巧なCGとともに展示

 

ミイラを収める棺も見どころのひとつ。エジプトの神々が鮮やかな彩色で描かれている

 

ネコのミイラ。ネコはエジプトでは愛の女神バステトの化身であり、尊重されていた

 

オセアニアの「肖像頭蓋骨」。頭蓋に粘土や樹脂で肉付けを行い、生前の顔を再現

 

珍しい日本のミイラも展示。こちらは江戸時代の兄弟ミイラ

「怖い」「気持ち悪い」・・・。ミイラを見て、思わず顔をしかめてしまう人もいるかもしれません。
しかし、少なくともこの記事を読んでいる人の多くはミイラに対してある種の興味、好き嫌いを超えた、根源的な「好奇心」を抱いているのではないでしょうか?

なぜ、人はミイラをつくったのか?そこには、当時生きていた人々を取り巻く環境や死生観、宗教観との深い関わりがあります。

ミイラはその希少性から長らく学術的な関心が向けられることはありませんでしたが、昨今の科学技術によって引き出すことのできる情報が飛躍的に増え、あらためてミイラの再調査や保存方法の開発などが行われています。
本展覧会では、世界各地のミイラとその背景にあるさまざまな文化や死生観、そして科学的に明らかになったミイラの実像を解説。南米、エジプト、オセアニア、日本・・・世界各地から集まった43体のミイラを通じ、人類がもつ多様な死生観と身体観を紹介しています。

 

世界中のミイラが“カハク”に集う!

《腕を交差している男性のミイラ》エジプト、出土地詳細不明 紀元前410年-紀元前250年頃

生殖器を取り付けられたミイラ?!

ギルシャ人やローマ人が支配したグレコ・ローマン時代。エジプト古来の宗教が異端とされた後も、より簡易な方法でミイラづくりは続けられていたそうです。こちらは「新王国時代」以降の傾向である腕を交差させたポーズが特徴的な男性のミイラ。保存状態が良く、間近で見ると顔の表情にも生々しさが感じられます。

CTスキャンの調査によると、このミイラは35-40歳の男性。脳は鼻から取り除かれ、内臓は左脇腹を切開して取り出され、体内にはリネンやナトロンを入れた袋などが詰められています。特徴的なのはリネンでつくられた男性生殖器が取り付けられている点で、これはオシリス神の神話にもとづいており、再生や復活の観念に関係しているそうです。

 

《ウェーメリンゲン》オランダ ドレンテ州 ブールタング湿原   紀元前40年-後50年頃

日本初公開!謎に包まれた二人のミイラ

ヨーロッパの文化には遺体をミイラとして保存する風習はほとんどなく、発見されたミイラの大部分は「自然ミイラ」(人工的な加工を施さず、自然条件によって遺体がミイラになったもの)。こちらは1904年、オランダのブールタング湿原で発見された2体の湿地遺体です。

手を取り合っているようにも思える二人のミイラ。極限状態の中、二人で身を寄せ合ったまま亡くなったカップルなのかも・・・と想像が湧いてきますが、実は二人とも男性であることが判明。残念ながらDNAの保存状態が悪いため二人の関係の解明には至らなかったようで、今なお多くの謎に包まれています。

 

《本草学者のミイラ》日本  1832年頃

自らを「実験台」にした国学者

容貌、体型、皮膚の質感まで生前の生々しい面影をとどめる日本人のミイラ。この人物は江戸時代の本草学者(現代の博物学・薬学)で、自らの研究成果を確かめるために、自分の遺体を保存する方法を考案し、「後世に機会があれば掘り出してみよ」と言い伝えていたそうです。いわば、学問的な探究心から自らの意志でミイラになった(!)ということですね。

皮膚が赤茶けた色をしていますが、これは亡くなる直前に「柿の種子」を大量に摂取していた可能性が判明したため、柿の種子に含まれるタンニンの影響ではないかということ。果たして、彼はどんな方法で自分をミイラ化することに成功したのか?残念ながら、その具体的な方法については伝えられていません。

 

スペシャルサポーターのビートたけしさんも登場!

また、内覧会には本展のスペシャルサポーターであるビートたけしさんも登場。学芸員と一緒に展示会場を見学したたけしさんは

「ミイラになると言ってミイラになった人(本草学者のミイラ)を見て震え上がった。すごい精神世界だよ。相変わらず人間は『神の存在』とか言ってるけど、(死後の世界は)人間にとっては未知で、ないがしろにできないものなんだよね」

と、古の時代の手がかりを残すミイラの文化的価値について熱弁。さらに過去にミイラを燃やす時代があったことについて言及し、早めに文化遺産を大切にするような教育を普及させることの重要性について訴え、

「やっぱり子どもたちに見てほしいね。何かに興味を持って『もっと知りたい』と思うのは大切なこと。今の時代はGoogleなどの検索があるけど、実物を見るのはやはり写真とは違う。妙な歯車があるよ」

と、本展開催の意義について語ってくださいました。


最新科学によって明らかになったミイラの実像。ミイラは私たちに過去を生きた人間たちの文化や歴史、そしてさまざまな「想い」を伝えてくれる、いわば「過去からの旅人」です。

「ミイラ 永遠の命を求めて」は2020年2月24日(月・祝)までの開催。ぜひ会場に足を運んで、あらゆる時代、あらゆる地域から集まったミイラが語りかける言葉に、耳を傾けてみてください。

 

開催概要

展覧会名 特別展「ミイラ 永遠の命を求めて」
会 期 2019年11月2日(土)から2020年2月24日(月・祝)
午前9時〜午後5時(金曜・土曜は午後8時まで)
11月3日(日・祝)午後8時まで
11月4日(月・休)午後6時まで
※入場は各閉館時刻の30分前まで
休館日 月曜日(月曜日が祝日の場合は火曜日)
および12月28日(土)〜1月1日(水・祝)
ただし2月17日(月)は開館
※開館時間や休館日等は変更になる場合があります。
会場 国立科学博物館
観覧料 一般・大学生  前売 1,500円  当日 1,700円
団体 前売 500円  当日600円
・未就学児は無料。障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名様は無料。
・本展では金曜・土曜限定ペア得ナイト券は販売いたしません。
・本券で本展を観覧された方は、同日に限り常設展(地球館・日本館)もご覧頂けます。
公式サイト http://www.tbs.co.jp/miira2019/

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第2回江戸まち たいとう芸楽祭~夏の陣~
ビートたけし~浅草を語る~体験レポート

浅草公会堂

 

8月18日(日)~10月26日(土)の期間、「第2回江戸まち たいとう芸楽祭~夏の陣~」が開催されています。このイベントは、豊かな人情、絆、進取の気性など、先人たちが育み、守り、現代へ継承してきた多彩な芸能・芸術文化を、肩肘張らずに楽しむことができるお祭りです。
10月15日には、「ビートたけし~浅草を語る~」が開催されました。
芸楽祭の実行委員会名誉顧問であるビートたけしさんが登場したこのイベント。
たけしさんは、何を語るのか?
今回、その様子を取材しましたので、ご覧ください。


今回のイベントは、第1部で漫才、お笑い、浪曲、落語、
第2部でたけしさんのトークショーと、2部構成となっています。

第1部トップバッターは、2017、2018年の2年連続でTHE MANZAI(ザマンザイ)たけし賞を受賞している流れ星(漫才)です。
客席に乱入したり、予想外の動きをする、ちゅうえいさんのギャグと瀧上 伸一郎(たきうえ しんいちろう)さんの落ち着いたツッコミで、お客さんのつかみは、OK。すっかり2人のペースに引き込まれてしまいました。

流れ星 ちゅうえいさん(左)、瀧上さん(右)

 

次に、2004年に大ブレイクした、ピン芸人ヒロシ(お笑い)の登場です。
伏し目がちに「ヒロシです・・・」と自虐ネタを繰り広げるヒロシさん。
悲しくもユーモラスなそのネタは、他の追随を許しません。
そのネタの一言一言に、会場は沸きあがります。

ヒロシさん

 

3番目は、玉川太福の浪曲です。
太福さんが舞台に上がると、会場からは、「だいふくー!」と大きな掛け声が。
浪曲の楽しみ方、盛り上がり方を、お客さんに分かりやすく説明したあと、現代風にアレンジした浪曲を披露。一体感のある笑いと拍手が会場を包み込みました。

玉川太福さん

 

最後に、古今亭菊之丞の落語です。
皮肉の効いた枕でお客さんの心を掴んだあと、古典落語「替り目」を披露。酔っ払いの男とその妻のとぼけた会話を洗練された話芸で聞かせます。菊之丞さんは、現在放送中の大河ドラマ「いだてん」で、たけしさんが演じる古今亭志ん生や他の出演俳優さんの落語指導もされています。

古今亭菊之丞さん

第2部

ついに、ビートたけしの登場です。
オープニングのMCの話では、たけしさんがテレビ番組の収録で、まだ会場に到着していないとのことで、トークショーの開催自体が危ぶまれていましたが、実はそれはネタ。初めから会場に来ていたたけしさん。
ご自身の子ども時代から慣れ親しみ、芸人になるきっかけとなった浅草。この地で出会った個性的な人たちについて、持ち前の毒舌を交え、元・付き人のアル北郷さんとともにテンポ良くしゃべり倒していきます。
たけしさんの止まらない毒舌に、お客さんが爆笑し続けていたのが印象的でした。

ビートたけしさん(左)、アル北郷さん(右)

 

エンディングは、たけしさんを交え、演者さんが舞台に集合。
そこでもたけしさんの毒舌は、止まりません。
お客さんも、演者さんも、たけしさんのテンポの良い語りに笑いっぱなしでした。

まとめ

 

第2回江戸まち たいとう芸楽祭~夏の陣~「ビートたけし~浅草を語る~」の体験レポートをお伝えしました。
テレビ画面では中々感じることができない、演者とお客さんの両方で作り出す舞台演芸ならではの笑いに、会場全体は一体感が生まれ、楽しい時間が流れていました。
第2回江戸まち たいとう芸楽祭の夏の陣は、10月26日(土)で終了しましたが、来年令和2年(2020年)1月~は、冬の陣が開催されます。
映画・芸能・演劇といった多種多様なイベントが目白押しの江戸まち たいとう芸楽祭。今後も目が離せません。

江戸まち たいとう芸楽祭概要

会期 2019年8月18日(日)~2020年2月15日(土)
会場 ○上野地区 上野恩賜公園噴水前広場・御徒町南口駅前広場ほか
○谷中地区 防災広場初音の森
○北部地区 山谷堀広場ほか
○南部地区 蔵前小学校
○浅草地区 東本願寺・浅草公会堂ほか
公式HP http://www.taitogeirakusai.com/

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【上野の森美術館】「ゴッホ展」内覧会レポート

上野の森美術館
(手前)フィンセント・ファン・ゴッホ 《夕暮れの松の木》 1889年12月 クレラー=ミュラー美術館

2019年10月11日(金)から2020年1月13日(月・祝)にかけて上野の森美術館で「ゴッホ展」が開催されています。開催に先立って行われたメディア向け内覧会に参加してきましたので、今回はその様子をお伝えします!

 

「ゴッホ」を誕生させた、ふたつの出会い

会場風景

 

(手前)ヨゼフ・イスラエルス 《縫い物をする若い女》 1880年頃 ハーグ美術館

 

作品とともにゴッホの遺した言葉を紹介

 

フィンセント・ファン・ゴッホ 《サン=レミ療養院の庭》 1889年5月 クレラー=ミュラー美術館

強烈な作風を確立し、激しく濃密に生きた画家、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-90)
37年という短い人生のうち、画家として生きたのはわずか10年間。なぜゴッホはその短い画業にも拘わらず、唯一無二の表現を獲得できたのか?
本展覧会ではその背景となったふたつの出会い、「ハーグ派」「印象派」とゴッホの関わりに焦点を当て、ゴッホの類まれな創造の秘密に迫る試みです。

本展では、ゴッホ作品に加え、マウフェやモネ、ルノワールなど、ハーグ派と印象派を代表する巨匠たちの作品を展示。ゴッホが独自の画風にたどり着くまでの過程をわかりやすく紹介しています。

 

「ハーグ派」の自然主義的な眼差し

 

(手前)アルベルト・ヌーハイス 《ドレンテの家の中》 1894年 ハーグ美術館

 

フィンセント・ファン・ゴッホ 《器と洋梨のある静物》 1885年 ユトレヒト美術館

展覧会の前半部では、駆け出しのゴッホを導いた「ハーグ派」に焦点を当てて作品を紹介。
ハーグ派については耳慣れない人も多いかもしれませんが、オランダ南西部の海浜の町ハーグに集まった画家たちのことで、その自然主義的な風景・風俗画はヨーロッパ近代絵画の先駆けとされています。

ミレーを敬愛していたゴッホは自然を舞台に平穏な日常を描写したハーグ派に共感し、その中心的な人物であるマウフェに教えを請い、交流しました。ゴッホの「農民画家」としての第一歩は、ここから始まったと言ってもよいでしょう。

 

「印象派」との出会い〜自由を求めて〜

クロード・モネ 《ロクブリュヌから見たモンテカルロ、エスキス》 1884年 モナコ王宮コレクション

展示会場では、ゴッホが遺した味わい深い言葉の数々が紹介されていますが、その中に
「あぁ、クロード・モネが風景を描くように人物を描かなければ」という一節があります。それほどゴッホはモネの絵画を深く敬慕し、印象派の躍動する色彩に魅せられていました。
それまでは暗い色彩で農民の日常や内面を描いていたゴッホでしたが、パリで印象派と出会うことで、明るい色彩や多様な筆致を身につけ、個性的なスタイルを切り開いていくことになるのです。

展覧会の後半では印象派の巨匠たちの作品をゴッホの絵画と比較して紹介し、その画業の軌跡をたどります。

 

約40点のゴッホ作品が集結!

(手前)フィンセント・ファン・ゴッホ 《農婦の頭部》 1885年 スコットランド・ナショナル・ギャラリー

 

フィンセント・ファン・ゴッホ <薔薇> 1890年5月 ワシントン・ナショナル・ギャラリー

 

フィンセント・ファン・ゴッホ 《糸杉》 1889年6月 メトロポリタン美術館

本展で展示されるゴッホ作品は約40点。傑作《糸杉》《薔薇》をはじめ、初期から晩年まで、世界10ヶ国27ヶ所からゴッホの重要作が結集しています。

最後の展示室には、本展覧会の白眉とも言える《糸杉》を展示。ゴッホは「エジプトのオベリスクのように美しい」糸杉の美しい線と均衡、そして緑色の素晴らしさに魅せられ、サン=レミ療養院に入院してから数点の作品を描きました。ゴッホが疲れた精神の中に垣間見た、理想の「美」。圧倒的質感でせまる本作を、ぜひ会場で堪能してください。


フィンセント・ファン・ゴッホ <パイプと麦藁帽子の自画像> 1887年9-10月 ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)

《糸杉》に象徴されるような、強烈な色彩とうねるような筆致。その作風から「炎の画家」と呼ばれることもあるゴッホは、まさに自分自身を燃やし尽くすかのように、絵画に身を捧げました。

本展覧会はその「情熱」を伝えるとともに、彼のたどってきた画業の全体像を提示します。ハーグ派と印象派。それぞれの作品を通じて、より深くゴッホの世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。

 

 

ユニークな物販コーナーにも注目!こちらは人気イラストレーター・塩川いづみ氏によるオリジナルグッズ

 

ゴッホに扮したスヌーピーを使用したゴッホ展限定グッズも登場

 

開催概要

展覧会名
「ゴッホ展
会 期 2019年10月11日(金)~2020年1月13日(月・祝)
9:30〜17:00(金曜、土曜は20:00まで開館)
*最終入場はそれぞれ閉館30分前まで
休館日 12月31日(火)、1月1日(水・祝)
会場 上野の森美術館(東京都台東区上野公園1-2)
公式サイト go-go-gogh.jp

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第2回江戸まち たいとう芸楽祭~夏の陣~
オープニングイベント 取材レポート

上野恩賜公園竹の台広場(噴水広場)

昨年、好評を博した「江戸まち たいとう芸楽祭」が満を持して今年も開催。
粋・豊かな人情・進取の気性といった先人たちが守り、育み、現代へ継承されてきた多彩な芸能・芸術文化を老若男女だれもが肌で感じることができる情趣あふれる文化イベントです。

名誉顧問は前回に引き続きビートたけしさん。

8月18日のオープニングイベントを皮切りに、夏の陣が2019年8月18日~10月26日、冬の陣が2020年1月~2月15日にかけて開催の2部構成です。
そこで今回はオープニングイベントを取材しましたので、その模様をご覧ください。

マッハスピード豪速球&モンローズ

イベントの先陣を切ったのは、2019年1月に開催された「ビートたけし杯 漫才日本一」で、見事に優勝をさらったマッハスピード豪速球。10秒、30秒、1分のショートコントを披露しました。持ち味の毒舌と、要所要所に自らの知名度に関する自虐を交えたテンポの良いボケとツッコミ、そしてトークが会場から心地よい笑いを誘います。

マッハスピード豪速球

そんな彼らと、ビートたけし杯で競り合った準優勝のモンローズも次いで登場。現代的な脱力感あるボケと熱量全開のツッコミを持ち合わせた対照的な二人は、鉄板ネタ『弱小野球部の監督』を披露し、独自の笑いを魅せつけます。

モンローズ

こうして今年波に乗る若手芸人二組が会場を盛り上げ、「江戸まちたいとう芸楽祭~夏の陣~」の口火がきられました。

尺八演奏(き乃はち さん)

江戸時代から続く「琴古流」という尺八の流派を継承するき乃はちさんは、台東区根岸出身。4歳にして尺八をおもちゃ代わりに吹き始め、後に三橋貴風に師事。
2003年のソロデビュー後、舞台・歌舞伎・映画などの作曲活動にもその才能を発揮され、さらには全国の寺社仏閣において、奉納演奏を実施することをライフワークにもされているようです。
国外に目を向ければ、これまでロンドン、モスクワ、ウクライナ、カザフスタン、クリミア、ニュージーランド、北京、上海をはじめとした海外公演にも精力的で、まさに日本文化の発信者のお一人です。
今回は故郷台東区でその音色を響かせます。

き乃はち さん(左) 竹内純さん(右)

竹内純さんのヴァイオリン演奏もあって、一層会場は敬虔で神秘的なムードに包まれていきます。大人ばかりではなく、その音色は、物心ついたばかりの小さな子供たちの足をも止めさせる力を持っていました。伝統や格式を重んじる一方で、現代的な遊び心も忘れないそんな魅力ある演奏でした。

ニューヨーク発ダンスパフォーマンス(国際芸術文化交流 舞)

「国際芸術文化交流 舞」は、アメリカ・ブロードウェイでも活躍されている舞台女優・井本美穂さんを中心に、ダンスというエンターテイメントを通じて、地域に密着した体験型ワークショップや、国際文化交流にも力を発揮されているパフォーマンス集団です。

国際芸術文化交流 舞

特にシアターダンスを得意とし、今回は手話をダンスに取り入れることにも挑戦しました。そして、なんといっても今回のダンスの目玉は、この後上映される映画 『ボヘミアン・ラプソディ』にちなんだロックバンド QUEENの曲にのせたダンスパフォーマンス。躍動感あふれる力強いダンスに皆さん夢中です。曲調に併せて手拍子も沸き起こり、会場は盛り上がりをみせます。

手話を取り入れたダンスパフォーマンス

ROLLY & 村治 佳織(トークショー)

こよなくQUEENを敬愛するミュージシャンのROLLYさんと、たいとう観光大使としても活躍しているクラシックギタリストの村治 佳織さんが映画『ボヘミアン・ラプソディ』、そしてQUEENについて熱く語ってくれました。

村治佳織さん(左)・ROLLYさん(右)

特に印象的だったのはブライアン・メイがギターを演奏するときに、ピックではなくコインを使ってギターを弾いていたというエピソード。
日本でいう1円玉にあたるイギリスのシックスペンスコインと彼のピッキングセンスが相まって数々の曲が生まれたとか。
お二人のQUEEN愛トークは尽きません。
そして、今回はなんとお二人セレクトのQUEENメドレーのセッションも披露してくれました。

『ボヘミアン・ラプソディ』映画上映

昨年、日本だけでなく世界で一大ムーブメントを巻き起こし、第91回アカデミー賞最多4部門を受賞した映画『ボヘミアン・ラプソディ』。
本作が、これ以上ない最高級のサウンド設備で、上野恩賜公園に設営された野外大スクリーンで上映されました。
上映に併せて、会場に集まった多くの観覧者の視線が、上映機材を積んだトラックから投影される光の先に注がれました。

日も沈み、暑さはコンクリートの地面がため込んだ熱を残すのみだったはずが、応援上映もOKとなった会場では場面が進むにつれて、QUEENファンによる熱い声援と歌声によって再び熱気がたちこもりました。
その様子は映画館というよりもライブ会場さながら。
この日の上野はいつも以上に熱くなりました。


こうして始まった「第2回 江戸まち たいとう芸楽祭」では、今後続々と映画・芸能・演劇といった多種多様な文化イベントが開催されます。
ぜひ周囲の皆様をお誘いの上、地域に根付き育まれてきた大衆芸能と、年月をかけ洗練された格式や伝統を観て、聴いて、笑いに、会場へ足を運んでみてはいかがでしょうか。
詳しくは、下記公式ホームページをご覧ください。

江戸まち たいとう芸楽祭概要

会期 2019年8月18日(日)~2020年2月15日(土)
会場 ○上野地区 上野恩賜公園噴水前広場・御徒町南口駅前広場ほか
○谷中地区 防災広場初音の森
○北部地区 山谷堀広場ほか
○南部地区 蔵前小学校
○浅草地区 東本願寺・浅草公会堂ほか
公式HP http://www.taitogeirakusai.com/

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【東京藝術大学大学美術館】円山応挙から近代京都画壇へ~報道内覧会レポート~

東京藝術大学大学美術館

2019年8月3日(土)から東京上野の東京藝術大学大学美術館で、
「円山応挙から近代京都画壇へ」が開催されています。
(~9月29日(日)まで)

先日、本展の報道内覧会が開催されましたので、今回は、そのレポートをお届けします。

 


円山応挙について

 

円山応挙は、1733年(享保十八年)に現在の京都亀岡付近(丹波桑名郡穴太村)で農民の子として生まれました。
しかし、貧しい家庭環境のため生活は苦しく、幼いころから奉公に出されていたといいます。

その奉公先の一つ、尾張屋勘兵衛の店は浮絵、望遠鏡、のぞき眼鏡、人形などを扱う玩具商でした。
応挙はそこで眼鏡絵を描く機会を得たのを皮切りに、狩野派の流れをくむ石田幽汀(ゆうてい)に師事し、眼鏡絵を通して西洋画の技法である透視図法を習得することで、絵画の技術を磨いていきました。

名前も1766年(明和3年)から「応挙」と名乗るようになります。
そして、三井寺円満院門主の祐常と出会い、様々な注文を受ける中で、数々の名品を生み出し、画家として大成していきます。

この時期に生まれた様式が実物そのままの生を写す、写生画(スケッチ)。
当時の絵画の基本が、やまと絵か中国画だけであった時代に、応挙の写生画は簡単でわかりやすく、庶民に身近なものとして絵画を広めることになります。

そんな親しみやすく、古い伝統にとらわれない自由奔放な応挙の画風に魅せられ、全国から入門する門弟は数多く、1780年代には、円山派という一流派が形作られて工房を組織できる規模の流派になっていきます。

 

円山・四条派とは?

 

円山派と共に、与謝蕪村に学び、のちに応挙に師事した呉春を中心とした流派に”四条派”があります。

四条派は、呉春やその弟子たちが京都の四条通り周辺に住んでいたことから名づけられた画派。
呉春の写生的な画風が応挙の影響を受けていることから、円山派と四条派の二派は、関連する二大流派として、「円山・四条派」と呼ばれ、近世以降の京都の主流となり、近代京都画壇にも大きな影響を及ぼし、現代まで脈々と受け継がれています。

 

展覧会の見どころ

 

本展覧会は、応挙、呉春から近代へ至る系譜を追うことで、円山・四条派の全貌に迫り、日本美術史の中で重要な位置付けの京都画壇の様相の一端を明らかにするもので、大まかに4章構成となっています。
その展示数は、重要文化財8点、重要美術品2点を含む約100点で、これまでには無かった最大規模の展覧会となっています。

一番の注目は、丸山応挙最晩年の最高傑作と呼ばれる「大乗寺襖絵」の立体展示。

「大乗寺襖絵」は、そのスケール感は、息をのむほど。光により作品の墨の濃度に変化がみられます。様々な角度からご覧ください。

 

 

円山応挙『松に孔雀図』寛政7年作 重要文化財 兵庫・大乗寺所蔵 東京展のみ通期展示。

 

その他、応挙に関連する呉春を始め山本守礼、亀岡規礼と続く、「円山・四条派」の系統を踏む画家の襖絵、32面も紹介します。

 

呉春 『四季耕作図』 寛政7年(1795年)作 重要文化財 兵庫・大乗寺所蔵

 

(手前) 亀岡規礼『採蓮図』 江戸時代後期作 重要文化財  兵庫・大乗寺所蔵  
(奥) 山本守礼 『少年行図』江戸時代後期作 重要文化財 兵庫・大乗寺所蔵

 

また、東京展前期のみ、重要美術品「江口君図」が出品されるのも見どころの一つ。

円山応挙『江口君図』は、応挙の数少ない美人画の中でも優れた作品の一つ。
応挙の人物画は、しっかりした人体構図で描かれているのが特徴。
髪の上部から髪の毛が、ハラハラと落ちていく様子が自然に再現されています。

写真(左) 円山応挙『江口君図』寛政6年(1794年)作 重要美術品 静嘉堂文庫美術館所蔵※東京展の前期のみ展示。 写真(右)は、幸野 楳嶺 『洞房粧雨図』明治8年(1875年)作

 

新発見された作品「魚介尽くし」も東京展のみ展示されています。

写真左の『魚介尽くし』は、 円山・四条派の大半を占める、総勢28名の画家たちが1つの画面に魚介類を描いた合作。28人で描いているのに、一見すると一人の画家が描いているように調和がとれているところが面白い。
写真中央の『松虎図』は、 円山派の系統を踏む岸派の代表的な虎を描いた作品

(右)森寛斎他『魚介尽くし』 明治5~6年(1872-73年)作 個人蔵 ※東京展のみ通期展示 (中)岸駒 『松虎図』 江戸時代後期作公益財団法人角屋保存会所蔵 (右)幸野楳嶺 『敗荷鴛鴦図』 明治18年(1885年)頃作 敦賀市立博物館蔵

その他の作品

国井応文・望月玉泉 『花卉鳥獣図巻』

円山派の五代目・応文と望月派の四代目・玉泉によって描かれた画巻。光沢ある塗料で描かれた、孔雀の羽の薄青、濃い青、 緑がかった色は鮮やか。立体感を感じさせます。

国井応文・望月玉泉 『花卉鳥獣図巻』 江戸時代後期~明治時代作 京都国立博物館所蔵 

 

竹内栖鳳 『春暖』
長沢芦雪 『薔薇蝶狗子図』
応挙に影響を受けた2人の画家、栖鳳と芦雪。どちらの犬も、個性的で可愛らしいです。

(左)竹内栖鳳 『春暖』 昭和5年(1930年)作 愛知県美術館(木村定三コレクション)所蔵 (右)長沢芦雪 『薔薇蝶狗子図』寛政後期頃(1794‐99年)作 愛知県美術館(木村定三コレクション)所蔵

まとめ

円山・四条派は、どれが円山派か?どれが四条派か?という定義が曖昧で、専門家でも判断しきれないとのこと。
円山応挙の写生画に奇をてらったり個性を発揮する表現がないように、円山・四条派の変化も大きく目に見えるものはなく、なだらかです。
そのため、作品を鑑賞する際には、難しいことを考えずに、そのなだらかな変化やそれぞれの作風の違いを自然に楽しむことが、大切。

 

急速な変化と共に進化した江戸の文化に対して、京都独自の文化を育んできた円山・四条派。
東京藝術大学大学美術館で、円山・四条派の作品たちに触れてみては、いかがでしょうか?

 

開催概要

 

展覧会名 円山応挙から近代京都画壇へ
会期 前期:2019年8月3日(土) – 9月1日(日) 後期:2019年9月3日(火) – 9月29日(日) 前期後期で大展示替え!
※ただし、大乗寺襖絵は通期展示
午前10時 – 午後5時(入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日
※ ただし、月曜日が祝日または振替休日の場合は開館、翌日休館
会場 東京藝術大学大学美術館(上野公園) 本館 展示室1、2、3、4
観覧料 一般1,500円(1,200円)高校・大学生1,000円(700円)
※中学生以下無料
※( )は、20名以上の団体料金  ※ 団体観覧者20名につき1名の引率者は無料
※障がい者とその介護者1名は無料。入館の際に障がい者手帳などを要提示。お得なチケット情報
※詳細は公式サイトでご確認ください。
公式サイト https://okyokindai2019.exhibit.jp/

 

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【7.20(土)より東京都美術館にて開催】伊庭靖子展 まなざしのあわい 報道内覧会レポート

東京都美術館


2019年7月20日(土)から上野の東京都美術館で、「伊庭靖子展 まなざしのあわい」が開催されています。【10月9日(水)まで】
先日、本展の報道内覧会が開催されましたので、今回は、そのレポートをお届けします。


伊庭靖子展について

伊庭靖子さん

 

伊庭靖子は、画家としての自身の眼とモチーフのあわい(間)にある世界に魅せられ、触れたくなるような質感のモチーフやそれがまとう光を描くことで、そのものの景色を表現し続けてきました。
その創作スタイルは、自ら撮影した写真を元に制作するもので、2000
年代は、主に寝具や器をモチーフとしていました。
近年も、制作スタイルは変わっていませんが、接近していたモチーフとの距離が少しずつ広がっています。
風景への関心が徐々に高まり、周りの空間への視点が広がることにより、新たな展開を見せる伊庭作品。
今回の展覧会では、東京都美術館にて撮影した写真から描いた絵画をはじめ、版画、新たな試みとして映像作品が発表されています。

2009年の個展、「伊庭靖子――まばゆさの在処――」(神奈川県立近代美術館)以来、10年ぶりの美術館での開催となる「伊庭靖子展 まなざしのあわい」。
本展覧会は、近作・新作を中心に、新たな展開に至る前の作品も併せて展示することにより、伊庭靖子の10年の変化とともに、変わらない関心の核に迫ります。

 

展覧会のみどころ

展覧会の見どころは、3つです。

①10年ぶりとなる個展で、東京の美術館では、はじめての開催

国内外の主要な美術館に多く収蔵されている伊庭作品。
その人気は、美術館だけでなく、多くのコレクターにも愛されています。
今回の展覧会は、個人の邸宅で大切に保管されている、たくさんの所蔵者にご協力いただき、近作・新作につながる2004年からの作品を展示します。
普段は、中々見ることができないコレクターお気に入りの作品が目白押しです。

②新作中心の展覧会

今回の展覧会は、開催が決定した、2016年春から、3年余りの時間を掛け準備を行い、絵画、版画、映像といった新作を中心に展示しています。
東京都美術館で撮影した写真から描いた絵画は、伊庭のレンズと手を通して生まれ変わり、美術館を設計した前川國男の建築に新たな命を吹き込みました。

③映像作品に初挑戦

絵画に軸を置き、制作活動を広げてきた伊庭は、今回初めての映像作品に挑戦しています。
光に満ちた静謐(せいひつ)な空間を描く絵画から発展し、大気、光、雰囲気などの人間の目と見る物の対象との間にある様々なものを意識させる映像作品となっています。

 

展示作品紹介

 

Untitled 2018-02 油彩、カンヴァス  作家蔵(協力:MA2 Gallery)

この作品は、東京都美術館で撮影した写真から描かれています。
アクリルボックスにモチーフを入れて制作。
透明なアクリルボックスに反射して映り込む周りの景色と対象物の光が何重にも重なり合って、独特の世界を生み出しています。

 

 

Untitled 2006-07 油彩 カンヴァス 個人蔵

クッションを両手でギュッと抱きしめた後に出来る皺(しわ)の質感。
そこに暮らす人の生活の温もりも感じ取れるように思えます。
作品の前に佇むと、光を帯びて、作品が浮かび上がってくるような錯覚を覚えるから不思議です。

 

 

Untitled 2015‐01 油彩 カンヴァス 作家蔵(協力:MA2 Gallery)

ガラスの透明感、つや、器から伸びた影が、繊細に表現されています。
背景の淡い桜色が、対象物を際立たせています。

 

 

depth #2019 映像インスタレーション ランダム・ドット・ステレオグラム(交差視)/Random dot stereogram(Cross-eyed viewing)

伊庭の新作映像作品の内の一つ。
左右の目の視差を利用し、立体的に物を見る方法を使いスクリーンを見ると、ある画像が現れます。
人によって、日によっても見え方が変わってくるというから面白いです。
実際に目で見て感じ取ってください。

 


まとめ

 

「それぞれの作品を目で見て、体でも感じながら、ご自身の過去の思い出を呼び覚ましてもらいたい」と話す伊庭靖子さん。

目に見える対象物から目に見えないものの存在感を感じ取る。
それが伊庭作品の鑑賞の仕方です。

対象物とそれがまとう光を描くスタイルを取りながらも、絵画だけではなく、映像などの新しい視覚表現に挑戦し続け、変化する伊庭靖子。
本展覧会に、是非足を運んでみてはいかがでしょうか?

 

 

開催概要

展覧会名 「伊庭康子展 まなざしのあわい」
会期  2019年7月20日(土)~10月9日(水)
会場 東京都美術館 ギャラリーA・B・C
休室日  月曜日、8月13日(火)、9月17日(火)、9月24日(火)
※ただし、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開室
開室時間
9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(いずれも入室は閉室の30分前まで)
※ただし、7月26日(金)、8月2日(金)、9日(金)、16日(金)、23日(金)、30日(金)は9:30~21:00
観覧料 当日券 | 一般 800円 / 大学生・専門学校生 400円 / 65歳以上 500
団体券 | 一般 600
※団体割引の対象は20名以上
※高校生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※8月21日(水)、9月18日(水)は「シルバーデー」により、9月16日(月・祝)は「敬老の日」により、65歳以上の方は無料
※8月17日(土)、18日(日)、9月21日(土)、22日(日)は「家族ふれあいの日」により、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住、2名まで)は、一般料金の半額
※いずれも証明できるものをご持参ください
※10月1日(火)は「都民の日」により、どなたでも無料[サマーナイトミュージアム割引]
7月26日(金)、8月2日(金)、9日(金)、16日(金)、23日(金)、30日(金)の17:00~21:00は、一般600円、大学生・専門学校生無料(証明できるものをお持ちください)

[相互割引]本展会場入口で下記展覧会の観覧券(半券可)をご提示の方は、一般当日料金が割引になります(いずれも1枚につき1名1回限り、他の割引との併用はできません)

・特別展「コートールド美術館展 魅惑の印象派
一般当日料金から300円引き。本展の観覧券(半券可)を当館内のチケットカウンターでご提示の方は、「コートールド美術館展 魅惑の印象派」の当日券が100円引き
・東京都庭園美術館「1933年の室内装飾 朝香宮邸をめぐる建築素材と人びと
一般当日料金から200円引き。本展の観覧券(半券可)を、東京都庭園美術館の正門横の券売所でご提示の方は、「1933年の室内装飾 朝香宮邸をめぐる建築素材と人びと」の一般料金が180円引き・東京都現代美術館「あそびのじかん」展
一般当日料金から200円引き。本展の観覧券(半券可)を、東京都現代美術館のチケットカウンターでご提示の方は、「あそびのじかん」展の一般料金が120円引き

家族ふれあいの日
(https://www.tobikan.jp/guide/hospitality.html#anchor1)

シルバーデー
( https://www.tobikan.jp/guide/hospitality.html#anchor2)

都内教育機関 観覧料免除申請
(https://www.tobikan.jp/learn/exemption.html)

パパママデー
(https://www.tobikan.jp/guide/nurseryservice.html)

特設WEBサイト https://www.tobikan.jp/yasukoiba

※その他イベント情報は、特設WEBサイトにてご確認頂けます。

 

記事提供:ココシル上野


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【台東区立書道博物館企画展】漢字かんじのなりたちー古代文字こだいもじ世界せかい取材しゅざいレポート

台東区立書道博物館

現在、東京台東区の書道博物館しょどうはくぶつかんにて、漢字かんじのなりたちー古代文字こだいもじ世界展せかいてんが開かれています。(~9月23日〔月・祝]まで)
今回、書道博物館しょどうはくぶつかんにお邪魔じゃまして、お話をうかがってきましたので、展示会てんじかいの様子と共にお送りします。

漢字かんじなりてんとは?

令和元年の今年は、現存げんぞんする最古さいこ漢字かんじといわれる、「甲骨文字」こうこつもじが発見されてから、120年目に当たる年です。
本展覧会は、その最古の漢字「甲骨文字」こうこつもじや、書家しょかであり、洋画家ようがかである中村不折なかむらふせつのコレクションの中から、しん始皇帝しこうていにより定められた文字、青銅器せいどうきに記された文字、「三国志」さんごくし登場とうじょうする人物の書などを、お子様向けに分かりやすく解説かいせつしたものです。

展示てんじ内容ないよう

書道博物館の1Fの第一展示フロアには、大きく2つのコーナーがあります。
1つ目は、「漢字のご先祖ごせんぞさま」というコーナー。
このコーナーでは、中国の殷時代いんじだいの漢字のご先祖様がいろいろな動物で形作った漢字のはじまりとなったものから、わかりやすく漢字の歴史を学ぶことができます。
もう1つは、古代中国こだいちゅうごく世界せかいというコーナーがあります。

(左)ひつじ (甲骨文字第一期こうこつもじだいいっき/亀腹甲)きふくこう (右)とら (甲骨文字第一期こうこつもじだいいっき/ 牛肩甲骨)ぎゅうけんこうこつ
とり(甲骨文字第一期こうこつもじだいいっき)/亀腹甲)きふくこう
武氏祠石闕画像銘ぶししせっけつがぞうめい

2Fの展示てんじフロアには、漢字が発明はつめいされた伝説やでんせついろいろな占いうらな青銅器せいどうき春秋戦国時代しゅんじゅうせんごくじだいしんの時代に書かれた文字のコーナーがあります。

蒼頡書そうけつしょ 蒼頡そうけつ(古代) (~むかしばなし漢字はつめい伝説より~) 
タタリはないでしょうか?殷時代いんじだい・前13世紀 (~いろいろな占いコーナーより)

また、2Fには、中国しんの時代の文字を展示した特別展示室とくべつてんじしつ中村不折記念室なかむらふせつきねんしつも併設しています。中村不折記念室なかむらふせつきねんしつには、中国かんの時代の文字やリトル三国志さんごくしコーナーとして、現存する中で一番古い「三国志」さんごくし写本しゃほん三国時代さんごくじだいの文字が展示てんじされています。
(※写本しゃほんとは、手書きで書き写した文書のことです。)

この記念室には、もう1つ、中村不折なかむらふせつ親交しんこうのあった俳人はいじん正岡子規まさおかしきにまつわる展示もあります。

あの諸葛 亮 孔明しょかつりょうこうめい唯一ゆいいつの書といわれている 玄莫帖げんばくじょう 諸葛亮 しょかつりょう(181~234)筆/三国時代さんごくじだい(しょく)・3世紀
重要文化財じゅうようぶんかざい三国志さんごくし呉志ごし第二十残巻だいにじゅうざんかん 8/4までしか見られない貴重なきちょう展示品てんじひんです。
正岡子規像まさおかきしぞう中村不折なかむらふせつ筆/明治~昭和時代・20世紀

それぞれのコーナーで漢字かんじ歴史れきしたのしくまなぶことができます。

■見どころについてお聞きしました。

展示会の見どころについて、書道博物館主任研究員しょどうはくぶつかんしゅにんけんきゅういん中村信宏なかむらのぶひろさんにお話をうかがいました。

お子さんにどういうところを楽しんでもらいたいですか?

漢字の成り立ちを示すなま資料しりょうを見ていただきたいですね。
3500年もいきながらえた生命力せいめいりょくのありそうな資料しりょうの中の漢字の線を、写真なんかじゃなく、実際じっさいに目でみることに大きな価値かちがあると思います。

その中でも一番に見ていただきたいのは、動物の文字です。
かたどったのは、「その姿なのか?」、「顔なのか?」「どうやって、かたどったのか?」それだけで文字のとらえ方が全然違ってきます!

また、こんな小さな小さな博物館はくぶつかんで、漢字の成り立ちの歴史れきし一望いちぼうできるというのは、非常ひじょうに強みですね。
お子さんを連れて来られるご両親りょうしんも楽しめる展示となっていますので、夏休みに親子でいらしてください。

中村さんが一番お気に入りの展示物はなんですか?

史頌?ししょうきですね。こんなにきれいな状態で、文字が見られる青銅器せいどうきは珍しいです。
この青銅器せいどうきは今回のみの展示なので、貴重きちょう機会きかいです。

■さいごに

「小学生の方の目線で展示物を紹介したので、展示物の説明にそうルビをる作業は、大変でした。」と楽しそうに話す、書道博物館主任研究員しょどうはくぶつかんしゅにんけんきゅういんの中村さん。
その面白おもしろくて、ためになる説明は、漢字をもっとみじかに、楽しくお子さんに伝えたいというおもいであふれていました。
そのような中村さんのお話を聞きに、ご家族かぞくで書道博物館に来てみませんか?

展示物に書かれている、こんな楽しい文章も魅力みりょくです。 ~むかしばなし漢字かんじはつめい伝説のコーナーより~

 

会期 開催中(~9月23日(月曜日・祝日)まで)
開館時間 午前9時30分~午後4時30分(入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日(月曜が祝日・休日の場合は翌平日)
ただし、8月12日(月・祝休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開館。
8月13日(火)、9月17日(火)は休館。
入館料

一般・大学生:500円(300円)、高・中・小学生:250円(150円)※( )内は20名以上の団体料金。

※毎週土曜日は台東区在住・在学の小、中学生とその引率者の観覧料が無料です。
※障害者手帳または特定疾患医療受給者証をお持ちの方、及びその介護者は無料です。

公式HP http://www.taitocity.net/zaidan/shodou/

 

※8月4日(日)には、キッズセミナー「かんじのひみつ」というガイドツアーとワークショップも予定しています。

■キッズセミナー「かんじのひみつ」
お子さまのためのガイドツアーとワークショップ

(事前申込制)

日時 2019年8月4日(日)
11:00~
定員 会場が手狭なため、事前申込制で各回20名程度となります。
応募人数により、開始時間を調整させて頂く場合があります。ご了承下さい。
申込方法 往復はがきの「往信用裏面」に、郵便番号・住所・氏名(ふりがな)・電話番号・年齢・希望日時を、「返信用表面」に郵便番号・住所・氏名を明記して下記までお申込下さい。1通のはがきで1名・1回の申込となります。聴講無料。ただし当日の観覧料が必要です。
申込先 〒110-0003 台東区根岸2-10-4
台東区立書道博物館 キッズセミナー係
締切 2019年7月26日(金)必着

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【東京国立博物館】特別展「三国志」内覧会レポート

東京国立博物館

関羽像 明時代・15〜16世紀 新郷市博物館

 

2019年7月9日(火)から9月16日(月・祝)まで、東京国立博物館では
特別展「三国志」が開催されています。
メディア向け内覧会が開かれましたので、今回はその様子をお伝えいたします。

漫画、人形劇、ゲーム・・・幅広い分野で取り上げられ、多彩な展開を見せる「三国志」。その出発点は中国の正史『三国志』や『三国志演義』で、長い歴史の中で民衆に愛され続け、日本における人気にはいまだ陰りが見えません。関羽、趙雲、呂布・・・スケールの大きな武将たちの生き様に胸を熱くした人たちも多いのではないでしょうか。

本展の合言葉は「リアル三国志」。資料が少なく、その実態の多くが謎に包まれた三国時代について、選りすぐりの文物と最新の研究成果をまじえてその実像に迫り、これまでの三国志を超えた考古学ならではの新たな三国志の構築を目指すものです。

 

三国志とは?

『関羽・張飛像』張玉亭作 清時代・19世紀 天津博物館

前後400年あまり続いた漢王朝。しかし外戚や宦官が実験を握ることによって腐敗し、黄巾の乱(184年)が勃発するなど社会秩序は混乱をきたすようになっていきました。動乱の収拾をはかるべく漢王朝は有力諸侯の力を頼みとし、この求めに応じて曹操、劉備、孫堅らが挙兵。やがて彼らは魏・蜀・呉を打ち立て、ここに天下三分の形勢が定まることになります。

「三国志」は彼らが活躍した三国時代をもとにした物語。現在、世間に流布している三国志の物語は、その骨子の多くを後世に書かれた読み物『三国志演義』をもとにしています。

 

あの名場面が甦る!伝説の中の英傑たち

展示冒頭ではおなじみの名場面を描いた絵画・壁画などを紹介

 

『三国志演義』の一場面(『三国故事図』 天津博物館蔵)。何の場面かわかる人は相当な三国志通

 

『趙雲像』清時代・17〜18世紀 毫州市博物館

展示会場の冒頭では、私たちになじみ深い「三国志」の物語を題材にした作品を展示。幼い頃から脳裏に焼き付けてきた英傑たちの姿が蘇ります。この特別展「三国志」は三国志初心者の方にもぜひ見て欲しい展覧会なのですが、やはりこういう楽しみ方はマニアの特権ですね。

上の『趙雲像』は戦場に取り残された主君の息子を助けようと、単騎で敵陣の中を駆けた趙雲のエピソードを題材にしたもの。「三国志」必至の名場面です。本作は建物の装飾の一部と考えられており、彫刻も簡素ですが、赤子を抱えながら馬に鞭打つ姿が生き生きと表現されています。

 

横山三輝『三国志』の原画を展示

 

人形劇『三国志』で使用された、川本喜八郎氏の人形

 

ゲーム内で登場した張飛の武器「蛇矛(じゃぼう)」。蛇矛自体は実在したが、三国時代に存在したのかは不明

会場では、「リアル」な出土品と並び、横山光輝による漫画『三国志』の原画や、川本喜八郎のNHK『人形劇 三国志』で実際に使用された人形を展示。さらに大人気ゲームシリーズ『三国無双』のキャラクターたちも参戦し、本展を彩ります。ディープな三国志ファンはもちろん、さまざまなメディアを入り口に興味を持った三国志初心者の方でもわかりやすく楽しめます。

 

いざ、「リアル三国志」へ

矢が飛び交う戦場を再現した第3章の展示室

 

使用された矢は実に千本以上

 

矢を打ち出す「弩(ど)」。いわゆるクロスボウ

「三国志」といえば、やはり合戦の魅力を抜きにしては語れません。ということで第三章では漢から三国の武器を展示し、「戦場のリアル」を私たちに伝えてくれます。

会場に足を踏み入れると、まるで戦場を矢が飛び交っているような装飾が施されており、まるで気分は赤壁の戦い?!
使用された矢の総数はなんと千本以上。船体に突き刺さっているさまがリアルです。当時の主要な武器は剣、刀、槍(矛)、弓矢ですが、中でも柄に弓を取り付け引き金を引いて発射する弩(ど)は殺傷力が強く、重要な役割を果たしました。

 

 

原寸大で再現された「曹操高陵」

本展の特徴のひとつは、迫力ある展示空間。第五章では魏の曹操が葬られた「曹操高陵(そうそうこうりょう)」を会場内に原寸大で再現。神秘的な墓内の空間を体感できます。

曹操高陵は2008年から2009年にかけて河南省安陽市で発掘されたもので、当初は西高穴二号墓と名付けられていましたが、場所が古記録における曹操高陵の所在地と一致していること、さらに副葬品に曹操を指す「魏武王」と記した石碑があったことから曹操高陵であることが確実になりました。

 

儀仗俑 後漢時代・2〜3世紀 甘粛省博物館

 

『金製獣文帯金具』後漢時代・2世紀 寿県博物館

 

『五層穀倉楼』1973年 焦作市博物館

 

蜀の大墓で使用された『虎型棺座』(三国時代・三世紀 南京市博物総館)。

このほか、本展では中国から来日する最新の考古発掘成果約160点を展示。最新の学術成果とともに、いまだ知られざる「三国志」の実像に迫ります。


三国志の舞台となったのは、184年の黄巾の乱から280年の西晋王朝による統一までの時期。そのわずか百年ほどの物語が、こうして時代を超え、国を超え、語り継がれているのは不思議です。

 

本展の開催期間は2019年7月9日(火)から9月16日(月・祝)まで。
誰もが知っているようで、誰もが知らない三国志の「リアル」。
初心者のあなたも、三国志ファンのあなたも、ぜひ会場に足を運んでみてください!

 

個人的にぜひ覗いて欲しいのが物販コーナー。横山光輝「三国志」からゲーム「三国無双」など、おなじみのキャラクターたちが勢ぞろい

 

開催概要

展覧会名 日中文化交流協定締結40周年記念 特別展「三国志」
会 期 2019年7月9日(火)~9月16日(月・祝)
午前9時30分~午後5時 ※金・土曜は午後9時まで (入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜、7月16日(火) ※ただし7月15日、8月12日、9月16日は開館
会場 東京国立博物館平成館(上野公園)
観覧料 一般1,600円(1,300円)、大学生1,200円(900円)、高校生900円(600円)
中学生以下無料
※ ( )内は20名以上の団体料金
※ 障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名様は無料
公式サイト https://sangokushi2019.exhibit.jp/

 

記事提供:ココシル上野


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【国立西洋美術館】モダン・ウーマン 報道内覧会レポート

国立西洋美術館


2019年6月18日(火)から9月23日(月・祝)まで、東京上野の国立西洋美術館で、「日本・フィンランド外交関係樹立100周年記念 モダン・ウーマンーフィンランド美術を彩った女性芸術家たち」が開催されています。

本展の報道内覧会が開催されましたので、今回は、そのレポートをお届けします。

 

モダンウーマン展とは?

モダン・ウーマン展は、日本とフィンランドの外交関係樹立100周年を記念して開催される、独立前後のフィンランドを生き、同国の近代美術に大きな革新をもたらした7人の女性芸術家に焦点を当てた、日本初の展覧会です。

展示作品は、絵画、彫刻、素描、版画など約90点。
近年世界的に注目されるヘレン・シャルフベック他、19世紀末から20世紀初頭に活躍した5人の画家の作品や、パリでオーギュスト・ロダンに師事した2人の彫刻家の作品が展示されています。

 

フィンランドにおける女性芸術家の歴史


(写真)ヘレン・シャルフベック

19世紀後半から20世紀初頭のフィンランド。
この時期のフィンランドは、ロシアからの独立運動や1917年に誕生する新しい国家の形成と歩調を合わせるように、社会における女性の立場や役割に大変革が起こりました。

19世紀半ばに設立されたフィンランドで最初の美術学校でも、創立当初から男女平等の美術教育を推奨するという、当時のヨーロッパでは珍しい教育方針が取られていました。そのため、この時代の女性たちは、留学のチャンスや奨学金の支援を受け、国際的な環境で研鑽(けんさん)を積みながら芸術家としてのキャリアを切り開くことができたのです。

 

展示作品紹介

マリア・ヴィーク<教会にて>
1884年 油彩、カンヴァス 56.0×46.5㎝


真っ直ぐとした視線で、祈る少女。
その迷いのない純粋な瞳に、思わず目を背けてしまいそうになります。

 

ヘレン・シャルフベック<占い師(黄色いドレスの女性)>
1926年 油彩、カンヴァス 65.5×51.0㎝

全体的に淡い色彩が特徴的な作品です。
黄色いドレスの占い師は凛(りん)としています。

 

エレン・テスレフ<フィンランドの春>
1942年 油彩、カンヴァス 70.0×54.5㎝

春の訪れに気分が高揚した少女の姿が、色彩豊かに描かれています。

 

(作品右)
シーグリッド・ショーマン<自画像>
年記無し 油彩、カンヴァス 41.0×32.5㎝

(作品左)
シーグリッド・ショーマン<エリサベツ・ヴォルッフ>
1940年 油彩、カンヴァス 42.0×33.5㎝

これらの作品は、はっきりとした人物の特徴が把握できない肖像画に思えますが、
よく鑑賞するにつれて、豊かな表情が浮かびあがってくるように感じられるから不思議です。

 

(作品右)
エルガ・セーセマン<通り>
1945年 油彩、カンヴァス 73.5×54.0㎝

(作品左)
エルガ・セーセマン<カフェにて>
1945年 油彩、厚紙 73.0×49.5㎝

右側の作品には、荒廃した通りの風景が描かれています。
少し寂し気ですが、右側を歩く人の哀愁を帯びた後ろ姿と共に、映画のワンシーンを連想させます。

対して、左側の作品。
新しいファッションに身を包んだ女性には、フィンランドの新しい時代を生き抜いていく決意が感じられます。

 

シーグリッド・アフ・フォルセルス<青春>
1880年代 ブロンズ 42.0×43.0×26.0㎝

端正な顔立ちの女性。
その希望に満ちた表情には、未来の不安など微塵も感じさせません。

 

 まとめ

社会における女性の立場や役割を切り開きながらキャリアを積んでいったフィンランドの女性芸術家たち。彼女たちの作品から、フィンランドの文化だけでなく、男女平等や女性の社会進出という礎(いしずえ)を感じ取ることもできます。会場は、そんな芸術家たちの作品を食い入るように見つめる人たちの熱気で、あふれていました。

あなたも本展覧会に足を運んで、その熱気を是非、体感してみてはいかがでしょうか?

 

開催概要

展覧会名 日本・フィンランド外交関係樹立100周年記念 モダン・ウーマン-フィンランド美術を彩った女性芸術家たち
会 期 2019年6月18日(火)〜9月23日(月・祝)
9:30~17:30(入館は閉館の30分前まで)
(ただし、会期中の金曜・土曜は21:00まで開館)
休館日 毎週月曜日、および7月16日(火)は休館。
※7月15日(月・祝)、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開館。
会場 国立西洋美術館(上野公園)
観覧料 一般500円(400円)、大学生250円(200円)
※高校生以下及び18歳未満、65歳以状上は無料(入館の際に学生証または年齢の確認できるものをご提示ください)。
※( )は、20名以上の団体料金
※障がい者とその介護者1名は無料。入館の際に障がい者手帳などを要提示。毎週金・土曜日の夜間開館時(17:00-21:00)、および毎月第2・第4土曜日は、本展および常設展は観覧無料。*「国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展」(6月11日ー9月23日)観覧当日に限り、同展観覧券で本展をご覧いただけます。
公式サイト https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2019modernwoman.html

 

記事提供:ココシル上野


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