【東京都美術館】「クリムト展 ウィーンと日本 1900」報道内覧会レポート

東京都美術館

グスタフ・クリムト  《ユディトⅠ》 1901年

 

2019年4月23日(火)から7月10日(水)の期間、『クリムト展 ウィーンと日本 1900』が東京都美術館にて開催されます。開幕に先立ち、4月22日にプレス内覧会がおこなわれましたので、その模様をお伝えいたします。

 

金箔を多用した華やかな装飾性。死とエロス、そして生命の連鎖をも感じさせる世紀末的な官能性。19世紀末ウィーンを代表する画家グスタフ・クリムト(1862-1918)の手がけた甘美な女性像や風景画は、今なお圧倒的な人気を誇っています。

没後100年を記念して開催される本展では、初期の自然主義的な作品から誰もが知る「黄金時代」の時代の様式、女性画や風景画まで、クリムトの油彩画では日本では過去最多の25点以上の作品が集結。さらに同時代に活躍した画家たちの作品、クリムトが影響を受けた日本の美術品なども合わせて紹介し、クリムトの画業の全貌に迫ります。

 

展示風景

展示の序盤では、劇場装飾に携わった修行時代の作品を紹介

 

初期は正統派の古典絵画を描いていたクリムト。男性像には伝統的な作風が見て取れる

 

多様な表情を研究するために制作された肖像画。好みの女性に似せて描いたとも

 

クリムトを語る上で欠かせないのは日本とのつながり。同時代の静物画にも東洋的異国趣味が表現されている

 

全長34メートルにもおよぶ代表作《ベートーヴェン・フリーズ》の原寸大複製の展示室

 

本展は全八章構成です。

Ⅰ クリムトとその家族
Ⅱ 修行時代と劇場装飾
Ⅲ 私生活
Ⅳ ウィーンと日本 1990
Ⅴ ウィーン分離派
Ⅵ 風景画
Ⅶ 肖像画
Ⅷ 生命の連環

 

クリムトは生前多くを語らず、「私について知りたいならば、私の絵を注意深く観察するべきです」と語っていました。
その言葉を裏付けるように、彼の絵から伝わってくるのはまさに「人生」そのもの。展示構成もクリムトの画業をその始めから辿るように構成されています。

クリムトといえば豪華絢爛な黄金様式ですが、その作風は試行錯誤の末に生まれたもの。クリムトは初期はアトリエ「芸術家カンパニー」の経営を通じて正統的な古典絵画を手がけていましたが、共同経営者だった弟が早世すると1897年に「ウィーン分離派」を設立。クリムトはその初代会長となり、アカデミックで保守的な作風を脱し、独自の世界観を開花させていったのです。

また、本展では移ろうクリムトの画風をつまびらかに紹介しますが、見逃せないのが第4章です。
クリムトは浮世絵や甲冑など、日本の美術品を好んで収集していましたが、《17歳のエミリーリエ・フレーゲ》など、その研究成果が現れた作品を展示。「日本とクリムト」という文脈でその絵画世界を読み解きます。

 

展示作品紹介

グスタフ・クリムト《ユディト Ⅰ》1901年

クリムトの代表作として知られる《ユディト Ⅰ》。

「この作品は、今日クリムトを有名な画家にしている全ての要素を備えている」と語ったのは、展示解説をしてくださったマークス・フェリンガー氏(ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館 学芸長)。

主題は旧約聖書外典の一場面。ユダヤの町ベトゥリアを包囲したホロフェルネスを、若い未亡人ユディトが誘惑し、その首を切り落としています。
様式化された構図、装飾的な文様、裸身を晒す未亡人のエロティシズム。そして何より初めて本物の金箔が使われ、まさに「黄金時代の幕開け」となった象徴的な作品です。

うつろな瞳でこちらを見るユディトの表情には怖気が走りますが、この頃、クリムトは二人の非摘出子ができたことで扶養義務を負うことになり、そうした私生活上の事情が作品に反映されているそうです(!)。

 

グスタフ・クリムト《オイゲニア・プリマフェージの肖像》1913、もしくは14年

クリムトの最も重要な支援者のひとりであり、裕福な銀行家の妻でもある女性の肖像画。
画面には色とりどりの花、そして右上の隅には磁器、もしくは七宝の置物から着想を得たと思われる幸運と長寿を象徴する鳳凰が描かれています。

注目すべきは背景の黄色の鮮やかさ。クリムトは後期の作品のほとんどに補色を取り入れており、本作においても背景の黄色とオイゲニアのドレスの色、そして花の装飾が対比的に表現されています。

 

グスタフ・クリムト《女の三世代》 1905年

第八章では「生命の連環」と題し、生殖から死に至るまでの生命と男女の関係という、クリムトの絵画世界において決定的な影響を及ぼしたテーマについて考察しています。

本作は、まさにそうしたテーマを直接的に扱った作品で、本展において公開されたクリムト作品の中でもひときわ謎めいた存在感を放っています。

 

眠る幼児と、花々に彩られ、生命力あふれる若い女性。その背後にうなだれた姿勢で嘆息する、老いた女性。
まさに「女の三世代」をひとつの画面で描き分けた大作で、一生を通じての各段階の女性の姿が象徴的に描写されています。
彼女たちを彩る三角、円、うずまきなどの装飾性の奇妙さも印象に残ります。

1911年から1913年の間にローマで本作品を見た日本画家・太田喜二郎は、本作には日本画の霞の表現や友禅の模様など、「日本画の趣向」が見られると指摘。クリムトの作品には構図、色の組み合わせ、そして模様に日本の独自性が感じられると語りました。この作品にも、日本画がウィーンに、そしてクリムト絵画に吹き込んだ命は脈々と受け継がれているようです。


グスタフ・クリムト《赤子(ゆりかご)》1905年

「全ての作品が、それが肖像画であれ風景画であれ共通しているのは、グスタフ・クリムトにとって絵画作品は装飾品であった、ということです。彼の風景画にしても、自然をそのまま捉える眼差しで描かれたものではありません。肖像画も同様にデコラティブなモノとして扱われる、これがクリムト絵画の特色のひとつです」

マークス・フェリンガー氏は展示解説の中でクリムト絵画における「装飾性」について強調し、同時に彼が19世紀ウィーン美術界の文脈において、「最も重要な存在」であると語りました。

 

数々の会場を順番に回ることで見えてくる、彼の思考の宇宙。そして生涯。
革新性とエロス、そして「黄金様式」をはじめとする多彩な表現を、ぜひ会場でお楽しみください。

 

開催概要

会期 2019年4月23日(火)〜 7月10日(水)
会場 東京都美術館 企画展示室
開室時間 午前9時30分~午後5時30分
※金曜日は午後8時まで(入室は閉室の30分前まで)
休室日 5月7日(火)、20日(月)、27日(月)、
6月3日(月)、17日(月)、7月1日(月)
問合せ ○公式サイト
https://klimt2019.jp/outline.html
○ハローダイヤル
03-5777-8600
観覧料  一般 1,600円 / 大学生・専門学校生 1,300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1,000

※中学生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※いずれも証明できるものをご持参ください

 

記事提供:ココシル上野


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