特別展「体感!日本の伝統芸能」会場レポート 日本が守り伝えてきた芸術を一堂に(東京国立博物館 表慶館で3月13日まで開催)

東京国立博物館

2022年1月7日(金)~3月13日(日)の期間、東京・上野の東京国立博物館 表慶館では、ユネスコ無形文化遺産 特別展「体感!日本の伝統芸能-歌舞伎・文楽・能楽・雅楽・組踊の世界-」が開催中です。

ユネスコ無形文化遺産に登録された5つの伝統芸能がもつ固有の美と「わざ」を味わう本展。新型コロナウイルス感染拡大防止のために中止となった2020年の内容を、一部リニューアルした内容になっています。

開催に先立って行われた報道内覧会に参加してきましたので、会場の様子をレポートします。

※会期中、一部作品の展示替えがありますのでご注意ください。
前期:1月7日(金)~2月13日(日)
後期:2月15日(火)~3月13日(日)

文楽の展示風景
能楽の展示風景
組踊の展示風景
雅楽の展示風景

華やかな「金門五山桐」の再現舞台が来館者をお出迎え

本展では、平安時代に大まかな形態が成立した最古の雅楽をはじめ、室町時代に大成した能楽、江戸時代初期にさかのぼる文楽(人形浄瑠璃)、歌舞伎、組踊といった、さまざまな歴史を経て現代に生き続ける日本の伝統芸能を通覧して楽しめる内容になっています。

具体的には、それぞれの芸能の舞台の一部を原寸大に近い大きさで再現。あわせて、実際に舞台で使用された衣裳や楽器、小道具、そして貴重な映像資料などを紹介しています。

石川五右衛門の扮装が鎮座する「金門五山桐」南禅寺山門の場の再現舞台

再現舞台のなかには、役者の視点から舞台空間を体感できるよう来館者が上れる仕様になっているものもあり、特に雰囲気を楽しめるのは会場に入ってすぐの歌舞伎「金門五山桐」の舞台。極彩色の寺院建築の上部には幾筋もの桜の吊り枝が下がり、豪華・豪快な石川五右衛門の立体展示が中央で存在感を示します。

賑やかに彩られた1室

舞台が置かれた1室全体が、桟敷で賑やかに見物している人々のグラフィックや提灯で江戸時代の芝居小屋のように彩られている点にも注目です。壁に展示されているのは歌舞伎役者を描いた錦絵。さらには、九代目市川團十郎と五代目尾上菊五郎が出演する日本最古の映画『紅葉狩』の上映も。

華やかな色彩感で祝祭気分を盛り上げる歌舞伎の精神を表現した空間で、来館者を一気に非日常の世界へ誘います。

「暫」の鎌倉権五郎景政の衣裳など見ごたえたっぷり!迫力の展示作品

衣裳「暫」鎌倉権五郎景政 松竹衣裳(株)蔵

本展で目を引いた展示作品をいくつか紹介していきます。

まずはこちら、歌舞伎十八番の一つ、「暫」の鎌倉権五郎景政の超人的な力強さを表現した衣裳。三升の紋を白く抜いた、大紋の袖の威容に驚きます! 横から見ると袖というより凧のよう。

スーパーマン・鎌倉権五郎景政の衣裳は規格外に派手、と記憶していましたが、実物を見ると本当に笑ってしまうくらい大げさ。何十キロあるのでしょうか……。こんなものを着て暴れまわれるのですから、それは強いに決まっていると問答無用で納得してしまう存在感です。

小道具「暫」鎌倉権五郎景政の太刀 藤浪小道具(株)蔵

横には景政の2Mを超える大太刀が置かれています。景政がこの大太刀を一振りするだけで、何人もの首を豪快に切り落とすシーンは「暫」でも最も印象的なシーンの一つですが、それも可能かもと思わせる迫力がありました。

鼉太鼓 国立劇場蔵

雅楽のエリアに展示されている鼉太鼓(だだいこ)にも圧倒されます。こちらのカラフルなオブジェはどんな大道具かしら? と説明文を読んだら、楽器ということで大変驚きました。正式な舞楽に用いられる巨大な締め太鼓で、本来は左方・右方一対ですが、国立劇場所蔵の鼉太鼓は一基の裏表に左右の装飾が施されています。

頂点には日輪と月輪、太鼓を囲むのは大きな火焔と五色の雲形、左右には昇竜と鳳凰の彫刻、太鼓の革には金箔で二つ巴と三つ巴。吉祥を示すさまざまな文様や色彩が用いられていて、5Mはありそうな巨躯とあいまって、なんだか見ているだけで拝みたくなるようなパワーを感じました。一体どんな音が鳴るのか気になります!

衣裳や小道具の繊細な美しさに魅了される

(左)衣裳「藤娘」藤の精 松竹衣裳(株)蔵 前期展示 / (右)衣裳「京鹿子娘道成寺」白拍子花子 松竹衣裳(株)蔵 前期展示

本展の醍醐味はやはり、劇場の客席からでは分からない衣裳や小道具のデザインを細部まで間近で鑑賞できること。

「銘苅子」の天女の衣裳・天冠・小道具(柄杓) 国立劇場おきなわ蔵

目が覚めるように鮮やかだったのは、羽衣伝説を題材にした組踊「銘苅子(めかるしー)」の天女の立体展示。

関東在住の筆者は、沖縄の芸能である組踊にはあまり触れる機会がなかったため、天女が着ている紅型(びんがた)衣裳「黄色地鳳凰立波文様」に描かれた荒れ狂う波の独特な形が新鮮に映ります。多色摺りの華麗な色彩感が特徴の紅型は、沖縄特有の模様染めとのこと。

虹のような輝きを表現しているかのような飛衣(羽衣)を羽織った姿は、きっと動けば展示の何倍も優美に見えるのでしょう。本展を通覧するなかで、本土の芸能と比べたときの組踊の色彩感覚、特に赤色の取り入れ方の違いが興味深く感じられました。

(左)能装束 黒地紋尽模様縫箔 国立能楽堂蔵 / (右)能面(般若) 国立能楽堂蔵

能楽のエリアでは役ごとに面(おもて)、装束、小道具を組み合わせた出で立ちを紹介していますが、特に鬼女の出で立ちには引き込まれるものがあります。

嫉妬と恨みから鬼となって女性の面である「般若」は目から下が怒り、目から上が深い悲しみという二面性を表現していることでおなじみ。幽玄と現世の境に立つ存在としての神秘性だけでなく、図らずも鬼になってしまったやるせなさや、情に翻弄された切なさなど、絡み合うたくさんの感情が伝わる造形をあらためて堪能しました。

そんな鬼女の役専用の装束というのが「黒地紋尽模様縫箔」。刺繍や金・銀箔でさまざまな文様を散りばめ、上品ですが遊び心のあるデザインです。桜や梅、菊などをモチーフにしたそれぞれの文様はかわいらしい色合いなので、なぜこれが鬼女専用に? と疑問も浮かびますが……。

家紋などもそうですが、こういった小さな文様一つをとっても、四季や花鳥風月といった自然と関わり、自然を生活に取り入れて共生してきた日本人ならではの美意識を感じずにはいられません。

文楽人形「義経千本桜」静御前 小道具 鼓 国立文楽劇場蔵
「文七」「玉藻前・双面」などの首(かしら)

文楽のエリアでは、「義経千本桜」静御前をはじめ、人間サイズと比較しても劣らない華美な浄瑠璃人形の装束が見ごたえありますが、人形の首(かしら)の展示も面白いです。

それぞれの首には「性根」という根本の性格を表した造形がなされているそうで、たとえば内面に苦悩をにじませ、悲劇の主人公などに使われる「文七」や、素朴で愚かなほど実直な役に使われる「又平」などが紹介されていました。

説明文を読まなくても「こういう役で使われるんだろうな」とだいたいの人物像がわかるから感心します。なんでもないことのように思えて、実はそれってすごいことではないでしょうか。現代にいたるまでに洗練に洗練を重ね、過不足なく仕上がった造形美をぜひじっくり鑑賞してほしいです。

ユネスコ無形文化遺産 特別展「体感!日本の伝統芸能-歌舞伎・文楽・能楽・雅楽・組踊の世界-」概要

会期 2022年1月7日(金)~3月13日(日)
※会期中、一部作品の展示替えあり
会場 東京国立博物館 表慶館
開館時間  9:30~17:00
休館日 月曜日
観覧料 一般 1,500円、大学生 1,000円、高校生 600円
※事前予約(日時指定券)推奨
※中学生以下、障がい者とその介護者一名は無料
その他、詳細は公式サイトよりご確認ください。
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/dentou2022/tickets.html
主催 文化庁、日本芸術文化振興会、東京国立博物館、読売新聞社
お問い合わせ 050-5541-8600 (ハローダイヤル)
展覧会公式サイト https://tsumugu.yomiuri.co.jp/dentou2022/

 

記事提供:ココシル上野


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