ギャラリーがひとつの “床の間” に変わる。 藝大アートプラザ企画展 THE ART OF TEA「茶の藝」展 開催

2026年6月20日(土) 〜7月19日(日) 上野・藝大アートプラザにて開催(入場無料)

小学館と東京藝術大学の協働事業として東京藝術大学美術学部構内(台東区・上野)で運営するギャラリー「藝大アートプラザ(https://artplaza.geidai.ac.jp/ )」。2026年6月20日(土) より企画展 THE ART OF TEA「茶の藝」展を開催します。
本展は、「茶の湯」に通底する美意識をテーマに、東京藝術大学に所属または出身のアーティスト18名(予定)による作品を展示・販売。平面・立体作品を織り交ぜた展示構成を通して、空間と作品、そして鑑賞者との関係性を体感いただけます。入場無料・撮影も可能です。

2026年6月20日(土) 開催
企画展 THE ART OF TEA「茶の藝」展

日本のアートの根底には、「茶の湯」の思想が確かに流れています。それは単なる作法や伝統文化ではなく、人と作品が出会うことの意味を問い直す、美の体系です。 私たちは、日本のアートは The Art of Tea であると考えます。では、茶の湯の思想とは何でしょうか。

藝大の前身である東京美術学校の初代校長、岡倉天心 は、『茶の本』のなかで、茶の湯を単なる嗜好や儀礼ではなく、芸術と人生を結びつける思想として捉えました。

第一に、床の間における絵画と立体の調和。
第二に、作品を独立した存在としてではなく、空間と響きあうものとして楽しむ視点。
第三に、作品と鑑賞者の相互作用。
第四に、茶碗に代表される工芸の技が織りなす小宇宙。

本企画展では、藝大アートプラザをひとつの「床の間」に見立て、平面作品5名、立体作品5名による展示をしつらえました。
あわせて、茶碗を中心に、茶の湯の技と思想を体現する作家の作品を展示します。そこには、「美は細部に宿る」という、日本独自の美意識が息づいています。日本ならではのアートの楽しみ方――

The Art of Tea を、ぜひご体感ください。

参加予定作家一覧
荒谷 翔 / 石川 将士 / 及川 春菜 / 柿坪 満実子 / 片岡 操 / 川上 椰乃子 / 城田 崚吾 / 高橋 梓 / 中津川 博之 / 馬場 隆志 / 濱野 佑樹 / futaba / 堀田 紅音 / 本間 賛 / 森 一朗 / 八木 叶夢 / 吉田 周平 / 渡邉 泰成

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企画展開催告知ページ
https://artplaza.geidai.ac.jp/column/31064/
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■ 企画展概要

企画展名:企画展 THE ART OF TEA「茶の藝」展
会場:藝大アートプラザ(東京都台東区上野公園12-8 東京藝術大学美術学部構内)
会期:2026年6月20日(土) 〜7月19日(日)
 ※6月19日(金)13時よりプレオープン
 ※展示入れ替えなし
入場料:無料
営業時間:10:00-18:00
定休日:月曜

※営業日時が変更になる場合がございます。最新情報は公式Webサイト・SNSをご確認ください


藝大アートプラザとは

トップアーティストを数多く輩出する、東京藝術大学(以下、藝大)の教職員、学生、卒業生の作品を展示販売するギャラリー「藝大アートプラザ」。藝大上野キャンパス構内において、一般の方々が、年間を通して自由に入場・見学することができる、貴重な場所のひとつです。小学館と藝大の協働事業として、2018年から運営をスタートしました。

現在は、1,2カ月ごとに異なるテーマの展示を開催。企画展には毎回10〜50名のアーティストが参加し、油画、日本画、彫刻、工芸、デザイン等、藝大ならではの多様な技法とアプローチで表現された作品が、一堂に会します。

2026年1月開催の企画展「藝大アートプラザ・アートアワード受賞者展 2026」展示風景
https://artplaza.geidai.ac.jp/column/29190/

 

店舗内には、器やアクセサリーなど生活に寄り添うアートを中心とした常設作品コーナー「LIFE WITH ART」を設置。藝大アーティストらが直接ドローイングを行った世界で一枚だけの「ドローイングTシャツ(通称ドロT)」も複数取り扱っています。藝大アートプラザは、入場無料。
写真撮影やSNSでのシェアも原則大歓迎。アートファンのみならず、どなたさまでも、気軽にアートに触れられる場所を目指しています。

常設コーナー「LIFE WITH ART」展示風景

 

ドローイングTシャツ 展示風景

 

2024年9月には公式オンラインショップ「うつわとTシャツの店」もオープン。藝大アーティストたちによる1点もののうつわやカトラリー、急須や茶碗などに加えて、オリジナルグッズも多数販売しています。

公式オンラインショップ「うつわとTシャツの店」
https://geidaiartplz.base.shop/

 

藝大アートプラザ基本情報

■ アクセス

最寄駅:JR上野駅(公園口)、鶯谷駅 下車徒歩約10分
東京メトロ千代田線・根津駅 下車徒歩約10分
東京メトロ日比谷線・上野駅 下車徒歩約15分
京成電鉄 京成上野駅 下車徒歩約15分
都営バス上26系統(亀戸〜上野公園)谷中バス停 下車徒歩約3分

※駐車場はございませんので、お車でのご来場はご遠慮ください

 

■ 公式SNSアカウント

Instagram:
https://www.instagram.com/geidai_art_plaza
X:
https://x.com/artplaza_geidai
Podcast(Spotify):
https://open.spotify.com/show/2FlkumYv9ScWy69UlBtqWy
Threads:
https://www.threads.net/@geidai_art_plaza

 

■ 2025年-2026年の展示

2025年1-3月企画展「藝大アートプラザ・アートアワード受賞者展 2025」
 https://artplaza.geidai.ac.jp/column/26551/
2025年3-5月 企画展「藝大動物園 Welcome to the art zoo!」
 https://artplaza.geidai.ac.jp/column/27319/
2025年5-7月 企画展「ドン・キホーテによろしく Chasing Windmills: Regards to Don Quixote」
 https://artplaza.geidai.ac.jp/column/27855/
2025年8-10月 企画展「藝大アートプラザ・アートアワード受賞者招待展」
 https://artplaza.geidai.ac.jp/column/27804/
2025年10-11月企画展「time after time〜時の軌跡〜」
 https://artplaza.geidai.ac.jp/column/28865/
2025年12-2026年1月企画展「Made in Art」
 https://artplaza.geidai.ac.jp/column/29525/
2026年1-3月企画展「藝大アートプラザ・アートアワード受賞者展」
 https://artplaza.geidai.ac.jp/column/30117/
 ※藝大アートプラザ アートアワード2026審査結果&講評 掲載記事
2026年3-5月企画展「Energy エネルギーってなんだろう?」協賛:大塚製薬株式会社
 https://artplaza.geidai.ac.jp/column/30991/

 

■ お問合せ

よくあるご質問はこちら
https://artplaza.geidai.ac.jp/qa/

 

【株式会社小学館】プレスリリースより


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特別展「超危険生物展 科学で挑む生き物の本気」来場者数30万人突破!好評につき夜間開館日の追加が決定!

国立科学博物館

国立科学博物館で開催中の特別展「超危険生物展 科学で挑む生き物の本気」は、閉幕まで残り1ヶ月を切る中、来場者数が30万人を突破し、下記日程で夜間開館日の追加実施を決定いたしました。

 

■ 夜間開館の追加実施について
対象日:5月30日(土)、31日(日)、6月6日(土)、7日(日)、13日(土)、14日(日)
開館時間:19時まで(最終入場 18時30分)
※常設展示は17時まで(最終入場 16時30分)

 

【日時予約制 実施のお知らせ】
特別展「超危険生物展」では、一部日程において日時予約制を導入しております。
■ 今後の日時予約制 実施日
対象日:5月30日(土)、31日(日)、 6月2日(火)〜14日(日)
詳細は展覧会公式HPをご確認ください。

※ゆっくりご鑑賞されたい方には、平日のご来場をおすすめしております。

 

【開催概要】
展覧会名 :特別展「超危険生物展 科学で挑む生き物の本気」
会期   :2026年3月14日(土)~6月14日(日)
開館時間 :9時~17時(入場は16時30分まで)
夜間開館 :5月30日(土)以降の毎週土曜・日曜日は19時まで開館(入場は18時30分まで)
     *常設展示は17時まで開館(入館は16時30分まで)
休館日  :月曜日 *但し6月8日(月)は開館
会場   :国立科学博物館(東京・上野公園)
料金(税込):一般・大学生2,300円  小・中・高校生600円
主催   :国立科学博物館、TBS、TBSグロウディア、朝日新聞社
協賛   :野崎印刷紙業、早稲田アカデミー
後援   :BS-TBS、TBSラジオ
お問合せ先:050-5541-8600(ハローダイヤル)、03-5814-9898(FAX)
展覧会公式サイト: https://chokikenseibutsuten.jp
公式X:@chokiken2026
公式Instagram:@chokiken2026
※会期、開館時間、休館日等は変更する場合があります。

 

【展示概要】
2つのエリア、8つのラボで構成された 危険生物の秘密を解き明かす「危険生物研究所」!
あなたが知らない“脅威”が、ついに姿を現します。
特別展「超危険生物展」では、あらゆる“必殺技”を武器に生き抜く生き物たちの、 驚愕の生態を徹底的に解説します。会場には、思わず後ずさりするほどの迫力満点の展示が集結。全身骨格、剥製、実寸大模型、迫力満点の映像など、多角的な手法を駆使してご紹介します。

 

【TBSグロウディア】プレスリリースより


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【東京都美術館】「アンドリュー・ワイエス展」取材レポート。光と影、生と死、存在と不在をつなぐ「境界」のかたち

東京都美術館
《クリスティーナ・オルソン》1947年/テンペラ/マイロン・クニン・コレクション、ミネアポリス

20世紀アメリカの具象絵画を代表する国民的画家アンドリュー・ワイエス(1917-2009)を、「境界」というテーマから読み解く大規模な回顧展「東京都美術館開館100周年記念 アンドリュー・ワイエス展」が、東京都美術館で開催中です。会期は2026年7月5日(日)まで。

※本稿で紹介している作品はすべてアンドリュー・ワイエス作です。

「東京都美術館開館100周年記念 アンドリュー・ワイエス展」展示風景、東京都美術館、2026年

20世紀を通じて活躍したアンドリュー・ワイエスは、抽象表現主義やネオ・ダダ、ポップアートといった、同時代を席巻した前衛芸術から距離を置き、故郷ペンシルヴェニア州と夏を過ごしたメイン州を拠点に、生涯にわたり身近な人々や風景を精緻に描き続けました。

アンドリュー・ワイエス(1917-2009)

画風は写実的ですが、目に映る情景の単なる再現ではありません。そこに広がるのは、内省的なイメージを反映させた自叙伝的とも呼べる独自の絵画世界でありながら、誰もが抱く感情や記憶と響き合う普遍的な要素を内包しています。加えて、限られた土地と人間関係に繰り返し向き合ったことから、明確な物語が描写されずとも、画面には堆積された時間、そこに生きた人々の気配や記憶が確かに漂っている――。そうした静謐なドラマ性も、ワイエス作品独特の魅力となっています。

本展は、日本では17年ぶり、ワイエスの没後では初となる大規模な回顧展。初期から晩年までの時系列で作品を紹介する一般的な回顧展とは異なり、ワイエス作品に頻出する「窓」や「ドア」といった、より私的な世界との繋がりとして機能した「境界」の表現に焦点を当てた構成です。出展作品約100点のうち、10点以上が日本初公開となっています。

第1章「ワイエスという画家」は、寂寥感に満ちた野原を、スケッチブックを抱えて険しい表情で歩く20代の画家自身を描いた《自画像》(1945)から始まります。

《自画像》1945年/テンペラ/ナショナル・アカデミー・オブ・デザイン、ニューヨーク

ワイエスは1917年、芸術家一家の末子として生まれました。幼少期から虚弱で学校に通えず、ひとりで自宅近隣を散策してはスケッチを重ね、創造性を育む日々を送ります。10代後半から著名な挿絵画家の父、N.C.ワイエスのスタジオで本格的な指導を受け、才能を開花させていきます。偉大な父の影響のもとで苦悩しながら自らの表現を模索し続けた経験が、内省的な作風の礎となりました。

20歳になると、ニューヨークで開催した水彩画の初個展で全作品完売という成功を収めるなど、画家生活は順風満帆かに見えました。しかし、《自画像》が描かれた1945年、28歳の時に、乗り越えるべき壁であり精神的な支柱でもあった父と甥が踏切事故によって急逝。以後「すべてのものは移り変わる」という視座を得たワイエスは、根底に「世の無常」という死生観が潜む独自の絵画世界を深めていきます。

同章は《自画像》を含め、ワイエスが熱心に取り組んだ細密な「テンペラ画」を中心に構成されています。

《冬の野》1942年/テンペラ/ホイットニー美術館、ニューヨーク

卵黄と水で顔料を溶かし、薄い層を幾重にも塗り重ねていくテンペラは、油彩の普及以降、次第に主流から外れていった古典的な技法です。ワイエスは義兄であり父の弟子でもあった、ピーター・ハードから手ほどきを受けました。油彩のテラテラとした光沢を嫌ったワイエスにとって、ザラザラと乾いた質感を生み出すテンペラは、極めて緻密な描写を可能にする点とあわせて、理想的な表現媒体となります。自然のものだけを使って生まれるそのシックな色合いを、ワイエスは自分の住む土地の色としてこよなく愛しました。

水彩においても、水分を抑えたわずかな絵具で画面を擦るように塗り重ねる「ドライブラッシュ」の技法を用いて、まるで織物を織るように、草木や壁面の荒れた質感、風にさらされた空気までも生々しく表現しました。メランコリックな詩情をたたえた画面は、こうした技法によって支えられているといえるでしょう。

《鷹の木》1973年/ドライブラッシュ/成田ゴルフ倶楽部

《マザー・アーチーの教会》(1945)は、アフリカ系住民の心の拠り所であった教会を描いたテンペラ画です。建物は滅びの途上にありますが、開いた窓からは白い鳩が舞い込んでいます。本展のテーマ「境界」にもかかっている構図は、ただ失われていくだけではない、かすかな希望の気配を差し込んでいるようにも捉えられます。

《マザー・アーチーの教会》1945年/テンペラ/フィリップス・アカデミー附属アディソン・ギャラリー、アンドーヴァー

ワイエスの育った田舎村チャッズ・フォードには、アフリカ系コミュニティやドイツにルーツをもつ移民が暮らしていました。差別や偏見が根強かった時代にあっても、ワイエスはそうした人々と親しく交わり、モデルとして多く描いています。

第2章「光と影」は、ワイエスの特徴のひとつである、光と影の巧みな対比表現に焦点を当てています。

展示風景、左は《スプール・ベッド》1947年/水彩/ホイットニー美術館、ニューヨーク

ワイエス作品の多くは、光を強く感じさせる部分と、ほの暗さを帯びた部分とが共存しています。それは17世紀バロック絵画に見られるような劇的なスポットライト的演出ではなく、あくまで現実の光として違和感なく表されたものです。しかし、その対比はコントラストを強調する視覚的なテクニックにとどまらず、時に「窓」や「戸口」といった、両者を分け、また結ぶ働きをする境界を静かに浮かび上がらせています。

《鐘つきロープ》1951年/テンペラ/デラウェア美術館、ウィルミントン

そうした光と影の演出には、ワイエス自身の経験や感情が込められており、静謐なドラマを形づくる重要な要素でもありました。たとえば、《鐘つきロープ》(1951)や《冷却小屋》(1953)といった作例では、暗がりの向こうに差し込む光に外の世界への期待や解放への予感がにじんでいます。

《三月の嵐》1960年/ドライブラッシュ・水彩/デラウェア美術館、ウィルミントン

《洗濯物》(1961)では、ワイエスのスタジオの庭に干された洗濯物が風をはらみ、バスケットとともに明るい光に照らされています。対照的に、窓の内側は暗く沈んでいますが、よく見れば両者は断絶しているわけではなく、洗濯ロープでつながっています。そこには、有能なマネージャーとしての影の仕事と、家を支える主婦としての仕事を同時に担っていた妻ベッツィへの温かなまなざしが感じられます。

《洗濯物》1961年/水彩/カマー美術館、ジャクソンビル
《うたた寝》1963年/水彩/ファーンズワース美術館、ロックランド

また、ワイエスは先述した父の事故死と、その5年後に自身を襲った肺疾患からの臨死体験によって、「生と死」という人生で逃れられない命題と向き合い続けました。《うたた寝》(1963)では、納屋の扉の奥に広がる深い暗闇を背景に、日向ぼっこをする白い猫が配されています。猫は死を連想させる「眠り」の状態にありますが、眠っている場所は光と影の境界です。「生と死」が対立するものではなく、連続し、つながり合うものであるというワイエスの哲学の表れと捉えることもできるでしょう。

本展でひときわスペースが広く取られているのは、3章「ニューイングランドの家――オルソン・ハウス」です。

《オルソンの家》1939年/水彩/丸沼芸術の森

毎年夏になると、アメリカの原風景が残るニューイングランド地方のメイン州クッシングで過ごしていたワイエス。本章冒頭に展示されている《オルソンの家》(1939)は、のちに妻となるベッツィに連れられ、同地に暮らすオルソン姉弟宅を初訪問した直後に描かれた水彩画です。丘の上に孤独にたたずみ、増改築によって変則的な形になった建物に一目で魅了されたワイエスは、以降30年にわたり、同家の2階をスタジオとして使い、夥しい数の作品を制作しました。

《表戸の階段に座るアルヴァロ》1942年/水彩/丸沼芸術の森
展示風景、左から《屋根窓》《三階の寝室》いずれも1947年/水彩/丸沼芸術の森
《海からの風》習作/1947年/水彩/丸沼芸術の森

ワイエスにとって鉛筆素描は、「対象との間に起こる私の強い感情を表現する」ものであり、衝動をぶつけるように素早く描きつけることが常でした。一方でオルソン・ハウスに関しては、遠からず滅び去る未来を見据えたのでしょうか。まるで肖像画を仕上げるかのように、窓や羽目板の一枚一枚まで対象を丹念に捉え、その相貌を克明に記録するような素描を残しています。

《ニュー・イングランド》習作/1960年/鉛筆/丸沼芸術の森

ワイエスの心を捉えたのは建物だけではありません。進行性の病気によって脚が不自由になりながらも気高い独立心を持っていた姉クリスティーナと、彼女を支えるために好きな海での漁を辞め、農作業に従事した忍耐強い弟アルヴァロの人間性にも強く惹かれたのです。とりわけ、恵まれた家庭に育った自身にはない精神的な強さを備えたクリスティーナに深い敬意を抱き、名作《クリスティーナの世界》(ニューヨーク近代美術館蔵、本展未出品)をはじめとする数々の作品のミューズとしました。

台所仕事を終えたクリスティーナが、午後の日差しの差し込む裏口の踏み段に腰掛けている様子を捉えた《クリスティーナ・オルソン》(1947)も代表的な肖像画です。ワイエスが「傷ついたカモメを思い起こさせた」と語った彼女の姿もまた、内と外の境界に位置しています。

《クリスティーナ・オルソン》1947年/テンペラ/マイロン・クニン・コレクション、ミネアポリス

不自由な身体ゆえに容易には外へ出られないクリスティーナは、どちらかといえば暗い室内の世界に属する存在かもしれません。しかし彼女は、開かれた戸口から陽光に満ちた外の世界に視線を投げており、画面の外から吹き込む風は彼女の髪をなびかせ、画面に生命感を与えています。ここでは境界が、何かを分断するものではなく、内と外の交流を生み出す通路として表現されているのです。隣には、習作である「風で髪が揺れていない状態」の素描も展示されており、風の表現がいかにワイエスにとって重要な要素だったかを伝えています。

《穀物袋》1961年/水彩/丸沼芸術の森

メイン州は最初期に入植された土地であり、19世紀初頭にさかのぼる古い家に住んでいたオルソン姉弟の父もまた、スウェーデンからの移民でした。ワイエスは姉弟の慎ましくもたくましい生活から、アメリカという国の基盤を作った人々の姿を思い浮かべていたのかもしれません。このように、星条旗やニューヨークの摩天楼といった分かりやすいシンボルではなく、歴史に連なる原風景や、そこに暮らす寡黙な人々の尊厳に深く寄り添ったことで、ワイエスは「アメリカを描く画家」として、国民から支持されるようになったのです。

《オルソン家の終焉》1969年/テンペラ/クリーブランド美術館

アルヴァロは1967年12月に、後を追うようにクリスティーナも1968年1月に亡くなります。翌年の夏、ワイエスは無人となった家を訪れ、《オルソン家の終焉》(1969)を手がけました。描かれているのは、クリスティーナの台所仕事を想起させる煙突や、かつてアルヴァロが漁をしていた入り江、そして自由に空を飛ぶ一羽の小さなツバメの姿です。併置された習作と見比べると、本作では「窓枠」という画面の手前側と向こう側を隔てる境界が取り払われており、すでにこの世を去った姉弟との交流を、なお続けようとするワイエスの深い思慕の念がうかがえます。

ワイエスは、オルソン姉弟やペンシルヴェニア州の隣人であった元軍人のカール・カーナー、カーナーの介護を行っていたヘルガ・テストーフなど、同じ対象を長年にわたり描き続けたことで知られています。第4章「まなざしのひろがり」では、身近な風景の中から「カチッとスイッチが入る瞬間」を探し続けた画家の姿勢とともに、人物にとどまらないモチーフの広がりに着目しています。

展示風景、左から《乗船の一行》1982年/テンペラ/フィルブルック美術館、タルサ《ハイ・スツール》1985年/水彩/医療法人社団 景翠会

同章では《乗船の一行》(1982)、《ハイ・スツール》(1985)、《島のポーチ》(1999)など、椅子をモチーフとした作品が特に目を引きます。《モデルの椅子》(1982)に描かれているのは、アン・コールという女性が休憩していた白い椅子と衣服。そのほうがアンという人物をよく表せると考えられたため、モデル不在の画面が選ばれました。ここでの椅子は、存在と不在を交差させる役割を果たしているといえるでしょう。ワイエスは本作のように、あえて人物を画面から退けることで、かえってその人の気配や内面を浮かび上がらせる表現をしばしば用いました。

《モデルの椅子》1982年/水彩/ユニマットグループ
《美しき休息》1991年/ドライブラッシュ・水彩/ユニマットグループ

《灯台》(1983)は、メイン州サザン・アイランドの灯台での情景を描いた一作。開かれたドアの手前にベッツィの愛犬ノームが行儀よく座っており、奥の階段を上れば外の世界が広がっていることが予感されます。灯台の光は、航海を続ける船乗りたちの生を繋ぎとめるもの。ノームは、主に変わってその命綱を守る灯台守の役割を果たそうとしているかのようです。

展示風景、右は《灯台》1983年/テンペラ/ユニマットグループ

終章「境界あるいは窓」では、窓を中心とした境界のモチーフに立ち返り、ワイエスの絵画に通底する思想をあらためて掘り下げています。

《ゼラニウム》(1960)は、オルソン・ハウスの窓越しに室内にいるクリスティーナを捉えています。ただし、クリスティーナの人影は指摘されなければ気づかないほど存在感が薄く、彼女が好んだという赤いゼラニウム一輪が存在を暗示しています。奥の窓からは陽光が差し込み、《クリスティーナ・オルソン》と同様、彼女の世界が閉ざされてはおらず、明るい外の世界とつながっていることを伝えています。

《ゼラニウム》1960年/ドライブラッシュ・水彩/ファーンズワース美術館、ロックランド

一見すると抽象画のような《薄氷》(1969)は、ワイエスの自宅付近の水路に沈んだ枯葉を、薄く張った氷越しに見下ろした構図の作品です。前年にクリスティーナを亡くし、深い喪失感を抱えていた時期の作例であり、ワイエス自身、沈んだ無数の枯葉が自身の経験やこれまで出会った人々を表していると語っています。そうした文脈を踏まえるなら、この薄い氷の向こう側を「死の世界」として捉えることもできるでしょう。

《薄氷》1969年/テンペラ/株式会社三井住友銀行

しかし、画面をよく見ると、水の流れを示す小さな気泡が描かれており、そこが完全に静止した死の領域ではないことに気づきます。さらに、氷の上に一枚だけせり出した葉が氷面に影を落としている様子は、生と死が対立ではなく連続しているのだという、ワイエスの死生観を雄弁に物語っています。

《ヒトデ》1986年/水彩/フィルブルック美術館、タルサ

常に喪失の気配を漂わせながらも、窓から差し込む光や、境界を越えてゆく鳥の姿に、かすかな希望がにじむワイエスの絵画。彼の「うつろいの美学」は、日本人の美意識にも深く響きます。没後初の大規模回顧展となる本展は、その静謐なドラマ性をあらためて見つめ直す機会となるでしょう。

「東京都美術館開館100周年記念 アンドリュー・ワイエス展」概要

会場 東京都美術館
会期 2026年4月28日(火)~7月5日(日)
開室時間 9:30~17:30
※金曜日は20:00まで
※入室は閉室の30分前まで
休室日 月曜日、6月29日(月)は開室
観覧料 一般 2,300円、大学・専門学校生 1,300円、65歳以上1,600円、18歳以下・高校生以下は無料
※詳細は公式ページでご確認ください。
主催 東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、東京新聞、フジテレビジョン
お問い合わせ (ハローダイヤル)050-5541-8600
展覧会公式サイト https://wyeth2026.jp/

※記事の内容は取材時点のものです。最新情報は展覧会公式サイト等でご確認ください。


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