【東京都美術館】「ゴッホ展——響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」会場レポート 信念のゴッホコレクター、珠玉のコレクションを辿る

東京都美術館
フィンセント・ファン・ゴッホ《夜のプロヴァンスの田舎道》1890年5月12-15日頃 クレラー=ミュラー美術館蔵

2021年9月18日(土)、東京・上野の東京都美術館で『ゴッホ展——響きあう魂 ヘレーネとフィンセント』が開幕しました。会期は12月12日(日)まで。

ファン・ゴッホ作品最大の個人収集家であるヘレーネ・クレラー=ミュラー(1869〜1939)のコレクションにスポットを当てた展覧会。《夜のプロヴァンスの田舎道》や《黄色い家(通り)》などの人気作が顔をそろえる会場の様子をレポートします。

展示風景
展示風景

ファン・ゴッホ人気の立役者 ヘレーネ・クレラー=ミュラー

世界中にファンをもち、ここ日本においても最も愛されている画家の一人であるフィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)。

27歳で画家を志し、37歳で生涯を終えるまでの10年間でおよそ2,000点もの作品を残したとされていますが、「生涯で数枚しか作品が売れなかった」という通説で知られるように生前は名声を得ることが叶いませんでした。

しかし、今や彼は近代美術の巨匠として位置づけられ、作品には数億、数十億の値がつけられるように。その背景には彼の作品の価値を認め、作品を保存し、後世に残そうと尽力した人々の情熱がありました。

フローリス・フェルステル《ヘレーネ・クレラー=ミュラーの肖像》1910年 クレラー=ミュラー美術館蔵

なかでも重要な役割を果たした立役者の一人が、この度の『ゴッホ展——響きあう魂 ヘレーネとフィンセント』でスポットを当てたヘレーネ・クレラー=ミュラーです。

夫アントンとともに、19~20世紀にかけてのフランスやオランダの芸術家の作品を中心に、11,000点を超える膨大なコレクションを築いたオランダ有数の資産家・ヘレーネ。彼女はファン・ゴッホの作品に深い人間性や精神性を感じ取り、ファン・ゴッホがまだ広く評価されていない20世紀初頭から90点を超える油彩画と約180点の素描・版画を収集しました。

本展は、ヘレーネが初代館長を務めたオランダのクレラー=ミュラー美術館(1938年開館)の貴重な美術コレクションから、ファン・ゴッホの初期から晩年までの画業をたどる選りすぐりの作品48点を紹介するものです。

フィンセント・ファン・ゴッホ《レモンの籠と瓶》1888年5月 クレラー=ミュラー美術館蔵
一部作品には、作品とヘレーネの関連エピソードが紹介されています。
フィンセント・ファン・ゴッホ《森のはずれ》1883年8-9月 クレラー=ミュラー美術館蔵
ヘレーネが初めて購入した記念すべきファン・ゴッホ作品。
フィンセント・ファン・ゴッホ《悲しむ老人(「永遠の門にて」)》1890年5月 クレラー=ミュラー美術館蔵
過去に制作した自作版画を元に描いた作品。ヘレーネはこの絵を、人間の苦しみを慰めの域にまで昇華した作品だと高く評価しました。

へレーネはファン・ゴッホを心の拠りどころにしていましたが、なぜそこまで惹かれたのか、ヘレーネ自身は明確な言葉を残していないとのこと。本展の担当学芸員である大橋さんは、「断言はできないが、ゴッホの芸術に非常に高い精神性を感じていたこと。また、牧師の息子として生まれたゴッホが聖職者への道を挫折してしまったことと、ヘレーネもキリスト教の文化になじめず苦しみを感じていたこと。そういった共通した背景が大きな理由ではないか」と話します。

さらに、本展にはファン・ゴッホ作品以外にも、ヘレーネが特に熱心に収集したミレー、ルノワール、スーラ、モンドリアンなど、19世紀半ばから1920年代にかけての近代西洋絵画20点があわせて出展されています。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《カフェにて》1877年頃 クレラー=ミュラー美術館蔵
ジョルジュ・スーラ《ポール=アン=ベッサンの日曜日》1888年 クレラー=ミュラー美術館蔵
オディロン・ルドン《キュクロプス》1914年頃 クレラー=ミュラー美術館蔵

写実主義から印象派、新印象派、象徴主義、そして抽象主義まで。目で見たありのままを描くレアリズムから人間の精神・感情に焦点を当てる方向へ、180度流行が変化した近代絵画の流れをたどるだけでなく、ファン・ゴッホ作品がまさにその転換の橋渡し的立ち位置にあることがわかる展示になっています。

これらヘレーネのコレクションからは、自らが得た感動を人々と分かち合うため、収集活動の早い段階から美術館の設立を生涯の使命にした彼女が、西洋美術の概略を見渡せるよう体系的にコレクションを築いたことが理解できるでしょう。

16年ぶりの来日!糸杉シリーズの傑作《夜のプロヴァンスの田舎道》

フィンセント・ファン・ゴッホ《夜のプロヴァンスの田舎道》1890年5月12-15日頃  クレラー=ミュラー美術館蔵

本展の見どころの一つは、実に16年ぶりの来日となる《夜のプロヴァンスの田舎道》。

ファン・ゴッホの代表作に連作〈ヒマワリ〉がありますが、南仏プロヴァンス地方の太陽が燦々と降り注ぐ風景のなかに立つ、糸杉の暗い緑の色調と美しさに魅了されたファン・ゴッホにとって、糸杉は「〈ヒマワリ〉のような作品にしたい」と熱中させるほど重要なモチーフでした。

緑の深い色調の表現に苦心しながら何十枚と描いた糸杉のなかでも、おそらく南仏滞在の最後に制作されたという《夜のプロヴァンスの田舎道》は傑作との呼び声が高いもの。

波紋のように大胆にうねる星月夜をバックに佇む糸杉は、まるで燃え上がる黒い炎のよう。ゴッホ自身は書簡で糸杉の形の美しさをエジプトのオベリスクのようだと例えていますが、自然への畏敬の念がにじみでるような、まさにオベリスクさながらの荘厳な存在感に圧倒されます。

劇的に変化する画風。私たちの知る「ファン・ゴッホ」に至るまで。

フィンセント・ファン・ゴッホ《白い帽子を被った女の顔》1884年11月-85年5月 クレラー=ミュラー美術館蔵

ファン・ゴッホ作品の特徴として「鮮やかな色彩」「うねり」「極端な厚塗り」などを挙げる人は多いと思いますが、これらの特徴はいずれも母国オランダからフランスに拠点を移して以降、画業の後期に生まれたもの。本展では、画風の変化の著しいファン・ゴッホの画業を時代順に沿って紹介しています。

ファン・ゴッホは1880年に画家として歩み始めてから5年間をオランダで過ごしました。初期は、灰色や茶色などのくすんだ色彩を用いて農民や漁民の生活や田舎の風景などを好んで描いた「ハーグ派」と呼ばれる画家たちや、農民画家として知られるジャン=フランソワ・ミレーの影響を受けながら素描の習熟を急ぎ、やがて油絵を制作します。

画業を通じて自然、なかでも無限や永遠の象徴であると考えた種まきから収穫の循環や、四季の移ろいに強い関心をもち続けました。展示からは、自然やその自然と密接に関わりながら農村で働く労働者の姿、彼らの貧しさのにじむ表情、悲しみや嘆きといった主題を細やかに拾い上げていたことがわかります。

フィンセント・ファン・ゴッホ《防水帽を被った漁師の顔》1883年1-2月 クレラー=ミュラー美術館蔵
モデル自身の苦難に満ちた生き様を反映したような顔を特に好んだとか。
フィンセント・ファン・ゴッホ《刈る人》1885年7-8月 クレラー=ミュラー美術館蔵
働く農民のなかでも、麦の収穫をする姿を繰り返し習作で扱っています。
フィンセント・ファン・ゴッホ《織機と織工》1884年6-7月 クレラー=ミュラー美術館蔵
農民だけでなく織工にも強い関心をもっていたそう。いわく「夢見るような、物思いに沈んだ感じの」織工の雰囲気が見事に表現されています。

1886年、フランスのパリに向かったファン・ゴッホは、そこで出会った印象派や新印象派、日本の浮世絵版画に衝撃を受け、画風が大きく変化しました。

これ以降の作品は色彩が豊かで、画面も明るくなっていきます。絵の具を混ぜずに小さなタッチを並べることで色の濁りを防ぐ筆触分割による点描技法も取り入れ始めた点にぜひ注目してください。

フィンセント・ファン・ゴッホ《青い花瓶の花》1887年6月頃 クレラー=ミュラー美術館蔵
オランダ時代には考えられない鮮やかな色彩。花瓶と花は印象派風、背景は新印象派の点描技法の影響が見られます。
フィンセント・ファン・ゴッホ《レストランの内部》1887年夏 クレラー=ミュラー美術館蔵
厳密ではないものの、こちらもスーラを彷彿とさせる新印象派の点描技法が試みられている作品。

1888年から移り住んだ南仏のアルルでは、明るい空の青と、燃えるように鮮やかな太陽の色としての黄色に魅せられ、青と黄色の補色の組み合わせで色彩効果の実験を熱心に繰り返しました。この辺りから、絵筆のタッチで対象の形を模倣するような彫刻的で肉厚の筆触により、多くの人が知る「ファン・ゴッホらしい」表現主義的な画風が出来上がっていく過程が見て取れます。

フィンセント・ファン・ゴッホ《夕暮れの刈り込まれた柳》1888年3月 クレラー=ミュラー美術館蔵
柳の青がアルルの太陽の光を際立させています。
フィンセント・ファン・ゴッホ《種まく人》1888年6月17-28日頃 クレラー=ミュラー美術館蔵
敬慕していたミレーの《種まく人》のオマージュ作品。強烈な補色の対比に挑戦しています。これでもかと厚く筆触が重ねられ、凹凸がより作品に迫力を出しています。
フィンセント・ファン・ゴッホ《サン=レミの療養院の庭》1889年 クレラー=ミュラー美術館蔵

1889年には病のためサン=レミの療養院へ入院しながらも、療養院の庭や周辺の田園風景、また糸杉やオリーブ畑などの典型的なプロヴァンスのモチーフに取り組み、「うねり」の表現を編み出し、《夜のプロヴァンスの田舎道》や有名な《星月夜》といった傑作を制作。そして1890年に終焉の地、北仏のオーヴェール=シュル=オワーズへ移り住んだ後も、村や周辺の美しい景色にインスピレーションを刺激されながら1日1点という驚異的なスピードで制作を続け、筆遣いについても新たな様式の可能性を模索していたようです。

新しい場所、新しい出会いから常に学びを繰り返し、誰に作品が理解されずとも人生をかけて筆を握り続けたファン・ゴッホ。ヘレーネのコレクションからは「私は絵の中で、音楽のように何か心慰めるものを表現したい」という彼の信念、その情熱をつぶさに目の当たりにすることができました。

フィンセント・ファン・ゴッホ《黄色い家(通り)》1888年9月 ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)蔵
《夜のプロヴァンスの田舎道》と同じく16年ぶりの来日。

なお、本展にはクレラー=ミュラー美術館所蔵の作品以外に、オランダにあるもう一つの偉大な美術館を紹介するものとして、ファン・ゴッホ美術館のコレクションから《黄色い家(通り)》など4点のファン・ゴッホ作品が出展されています。

これらの作品はファン・ゴッホを経済的にも精神的にも支えた弟テオの死後、その妻ヨーが、作品の散逸を防ぐために設立したフィンセント・ファン・ゴッホ財団が永久貸与しているもの。彼女もまた、ファン・ゴッホの芸術を世に広めるべく人生を捧げた一人でした。


展覧会『ゴッホ展——響きあう魂 ヘレーネとフィンセント』の開催は2021年12月12日(日)まで。

本展でぜひ、今日の我々が過去の芸術作品をさまざまに評価し、意見を交わし合えるのは、多くの人々が保存や継承に尽力したからこそだという事実に思いを寄せながら、ヘレーネの類まれなコレクションの魅力に浸ってみてください。

『ゴッホ展——響きあう魂 ヘレーネとフィンセント』開催概要

会期 2021年9月18日(土)~12月12日(日)
会場 東京都美術館 企画展示室
開室時間 9:30~17:30 (入室は閉室の30分前まで)
休室日 月曜日
※ただし11月8日(月)、11月22日(月)、11月29日(月)は開室
入場料 一般 2,000円、大学生・専門学校生 1,300円、65歳以上 1,200円
日時指定予約制です。
※高校生以下無料。(日時指定予約が必要)
その他、詳細はこちら⇒https://gogh-2021.jp/ticket.html
主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、東京新聞、TBS
お問い合わせ 050-5541-8600 (ハローダイヤル)
展覧会公式サイト https://gogh-2021.jp

 


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乃木坂の少女たちが、日本美術と共鳴する。【東京国立博物館 表慶館】「春夏秋冬/フォーシーズンズ 乃木坂46」(~11/28)内覧会レポート

東京国立博物館


今秋、東京国立博物館で実験的な展覧会が開催される。
「フォーシーズンズ」と題されたその展覧会では、四季折々の花々に託された日本人の伝統的な感性と、乃木坂46という現代のポップアイコンが融合を果たす。この刺激的なテーマに挑む7名の映像作家は乃木坂46を通じ、いかにして日本美術の本質を浮かび上がらせたのか。先行して開催された内覧会の様子をレポートし、その取り組みを紹介する。

乃木坂46が挑む「古典×現代」

展覧会入口。歴史ある表慶館の壁面に美麗な映像が投影されている
インスタレーションとともに伝統的な屏風絵や絵画が展示され、「古典×現代」という本展のテーマを表現する
尾形光琳らによる屏風絵など、日本絵画の精髄ともいえる名作が並ぶ。なお、本展覧会では複製を展示(東京国立博物館蔵)。

2021年9月4日(土)~2021年11月28日(日)まで、東京国立博物館 表慶館にて「春夏秋冬/フォーシーズンズ 乃木坂46」が開催中だ。

本展のテーマの中核をなすのは日本美術の「古典×現代」である。

「日本美術」というと、特に若い人などはどこか縁遠く感じてしまう人は多いのではないだろうか。しかし、そこに描かれた自然や季節、四季折々の花々は今も変わらずに存在しているもの。自然を愛し、自分にとって身近な方法で描写しようとするのは昔も今も変わらない。

国立博物館は、幅広い世代から絶大な支持を集める乃木坂46がそうした日本古来の美意識と若い人たちをつなぐ架け橋になるのではないかと考えた。なぜなら、乃木坂46こそ穏やかな日常や身のまわりの自然を「歌」を起点にしてビジュアルとして世に広げ、そこに希望を託す存在だからだ。

それぞれの作品にはモチーフとなる作品がある。こちらは『見返り美人図』を題材にしたインスタレーション
酒井抱一『夏秋草図屏風』の右隻と左隻に対応し、左右でパフォーマンスを行う山下美月と久保史緒里
スリットカーテン越しに投影される映像。ここで表現されているのは日本絵画の遠近表現である

本展では、季節の花が描かれた7点の日本美術(複製)を展示。その日本美術の「本質」ともいえる作品を7人の映像作家が独自に解釈し、大型インスタレーションとして展開している。

例えば齋藤飛鳥がパフォーマーを務める冒頭の『日本絵画の遠近表現』は狩野長信の『花下遊楽図屏風』をモチーフにした作品だが、ここで取り上げられ、再解釈されているのは同絵画に見られる遠近法である。

野外で行われる春の宴を幕越しに眺めているような体験を生じさせる『花下遊楽図屏風』の仕掛けを、スリットカーテン越しにレイヤー状に映像を投影するという手法で再現。映像作家の大久保拓朗氏による「古典の再解釈」といった位置づけの作品となっている。このように、展示作品において示されているのは日本美術を読み解くために必要なちょっとしたルール・コードなのである。

乃木坂46が表現する、「日常」という名の花

齋藤飛鳥による舞踏のパフォーマンス。溌溂としたムーブメントが作品の枠を超えた力を生み出す
怪異のような美しさを放つ乃木坂メンバーの遠藤さくら。作家とパフォーマーの相性によって無限の可能性が示される
『秘められた風景』の賀喜遥香。作家の意図を超えた感情の真実性を感じさせる
『時間のジオラマ化』という作品では秋元康氏の詞の世界も堪能できる

しかし、乃木坂の少女たちはこうした作り手側の意図を反映させるための存在にとどまらない。実際に作品を鑑賞してみると、彼女たちの存在は作家たちの思惑を超えた真実性を宿していると思える瞬間もある。それはまさに、インスタレーションという形式だからこそ実感できることなのかもしれない。

個人的に印象深かったのは『妖しい美』(池田一真作)における遠藤さくらである。私は乃木坂46に詳しいわけではないので、こんな妖艶な雰囲気を醸し出せるアイドルがいたのかと正直驚かされた。これは上村松園が六条御息所の生霊を描いた『焔』をモチーフにした作品だが、彼女の舞踏によって刻々と生じる衣装や髪の毛の動きは、まさに妖異そのものだ。

他にも、『秘められた風景』において賀喜遥香の醸し出す抒情性も素晴らしく、乃木坂メンバーひとりひとりの普段とは違った魅力を存分に楽しめるのも本展の魅力のひとつだろう。

 

本展の会期は2021年11月28日(日)まで。
乃木坂46というフィルターを通じて、伝統的な日本美術が今を生きる私たちとつながる瞬間。それはとても刺激的だ。
ぜひ、実際に会場で体験されることをおすすめしたい。

開催概要

会期 2021年9月4日(土)~2021年11月28日(日)
会場 東京国立博物館 表慶館
開館時間 9:30~17:00
金・土曜日は、9:30~20:00
(入館は閉館の60分前まで)
休館日 月曜日(ただし9月20日(月・祝)は開館)、9月21日(火)
観覧料 一般・大学生 1,800円
高校生 1,000円
中学生以下、障がい者とその介護者1名は無料。
※混雑緩和のため、本展は事前予約制(日時指定券)です。入場にあたって、すべてのお客様は日時指定券の予約が必要です。詳細は展覧会公式サイトでご確認ください。
主催 東京国立博物館、文化財活用センター、ソニー・ミュージックエンタテインメント、文化庁、日本芸術文化振興会
展覧会公式サイト https://nogizaka-fourseasons.jp

 

記事提供:ココシル上野


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【東京都美術館】コロナ禍だからこそ観てほしい展覧会、オンライン・ギャラリートーク公開

東京都美術館

コロナ禍だからこそ観ていただきたい企画展「Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる」(会期:2021年10月9日(土)まで)のオンライン・ギャラリートークを公開しました。

東京都美術館で開催中の企画展「Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる」(10月9日(土)まで)は、表現への飽くなき情熱によって、自らを取巻く「障壁」を、展望を可能にする「橋」へと変え得た5人のつくり手たち ― 東勝吉(絵画)、増山たづ子(写真)、シルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田(彫刻/絵画)、ズビニェク・セカル(彫刻/絵画)、ジョナス・メカス(写真/映像)ー をご紹介する展覧会です。

観覧された方からは「パワーを感じた」「目が釘づけ」「幸せになれた」「勇気をもらった」「癒された」「深く胸を打たれた」「心が浄化された」「こんなに豊かな時間を持てたことに心より感謝したい」など、数多くの感想をいただいています。

本展は、コロナ禍だからこそ、是非ご覧いただきたいのですが、県境をまたぐ移動の自粛が呼びかけられている現在、東京まで行きたくても行けない、という声も数多く頂戴しています。そこで、担当学芸員によるオンラインによるギャラリートークを公開しましたので、ぜひご覧ください。

 

Walls & Bridges展 ギャラリートーク(約15分)

 

 

◆図録のご紹介(通信販売あり)◆

出品作家の東勝吉、増山たづ子、シルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田、ズビニェク・セカル、ジョナス・メカスの5人は、いずれもまとまった作品集の入手が困難なつくり手たちです。デザイナーの松本孝一さんの自信作でもあるこの図録は、つくり手ごとに紙を変えたこだわりとチャーミングな佇まいが人気です。小さな本につまった作品の魅力をご堪能ください。
(B5変型、ハードカバー、全271頁)[販売価格 2,000円(税込)]

*通信販売も承ります(別途着払い送料がかかります)。
ご希望の方は、現金書留にて図録代金(1冊2,000円)を送付先のご住所、お名前を添えて下記までご送付ください。(図録お申込み宛先:〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36 東京都美術館 Walls & Bridges展 図録担当 03―3823-6921)

 

◆開催概要◆ ※事前予約不要ですが、混雑時に入場制限を行う場合がございます。

展覧会名:Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる
会期:2021年7月22日(木・祝)~10月9日(土)
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
休室日:月曜日(9月20日(月・祝)は開室)、9月21日(火)
会場:東京都美術館 ギャラリーA・B・C
観覧料:一般 800円 / 65歳以上 500円
・学生以下は無料
・83歳から絵筆を握った東勝吉にちなみ、80歳以上の方は無料
・外国籍の方は無料
・身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※いずれも証明できるものをご持参ください
・10月1日(金)は「都民の日」につき、どなたでも無料
・特別展「イサム・ノグチ 発見の道」「ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」のチケット(半券可)提示にて、一般料金より300円引き
・その他各種割引あり
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館
お問い合わせ:東京都美術館 03-3823-6921
特設ウェブサイト:https://www.tobikan.jp/wallsbridges

 

 

記事提供:ココシル上野


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【東京都美術館】〈上野〉の記録と記憶をたどる展覧会(観覧無料)

東京都美術館

「東京都コレクションでたどる〈上野〉の記録と記憶」
Tokyo Metropolitan Collection Exhibition-Records and Memories of Ueno
会期:2021年11月17日(水)~2022年1月6日(木)

上野恩賜公園内やその周辺に美術館・博物館・動物園が集まる文化的な地域として親しまれる一方、小売店や飲食店が密集するアメ横もその代名詞的存在である〈上野〉という土地。さまざまな歴史の舞台ともなったこの地には、過去から現在まで多種多様な人々が行き交い、ここを題材とする数多くの作品や記録が生み出されてきました。
本展では、東京都が所蔵する美術コレクションの中から、〈上野〉に関連する約60点の作品・資料を展示します。表現者たちをひきつけた〈上野〉の魅力を再発見いただき、かつてここであった出来事、そしてここに存在した人々のことを思うひとときをお過ごしください。美術館を後にするとき、それまでとは違う風景が、あなたの目の前に広がるかもしれません。

展覧会のみどころ
1 版画に記録され伝えられた近代の〈上野〉
戊辰戦争や明治期の内国勧業博覧会といった歴史的事件をとらえた浮世絵、織田一磨の石版画、恩地孝四郎、平塚運一、藤森静雄らによる創作版画など、版画というメディアを通して記録され伝えられた近代の〈上野〉の姿をたどっていただきます。

永島春暁 《上野公園風船之図》 1890年 東京都江戸東京博物館蔵
織田一磨 《東京風景 十四 上野広小路》 1916年 東京都江戸東京博物館蔵

2 さまざまな表現者によって記録され、描かれた戦前・戦後の〈上野〉
桑原甲子雄、濱谷浩、木村伊兵衛、林忠彦らが写した戦前・戦後の〈上野〉。終戦後、画家・佐藤照雄が描いた上野駅の地下道に眠る人々の姿。そのほか、戦前~戦時下の諜報活動を題材とする米田知子の写真作品等を通じ、消えつつある「戦争と〈上野〉」の記憶を見つめなおします。

桑原甲子雄 《下谷区上野駅(台東区)》 1936年 東京都写真美術館蔵
林忠彦 《引き揚げ(上野駅)》 1946年 東京都写真美術館蔵
米田知子 《東京都美術館(ゾルゲ/宮城)―『パラレル・ライフ:ゾルゲを中心とする国際諜報団密会場所』より》 2008年 東京都写真美術館蔵 Courtesy of ShugoArts

展覧会基本情報
展覧会名:東京都コレクションでたどる〈上野〉の記録と記憶
Tokyo Metropolitan Collection Exhibition-Records and Memories of Ueno
会期:2021年11月17日(水)~2022年1月6日(木)
会場:東京都美術館 ギャラリーB
休室日:2021年12月6日(月)、12月20日(月)~2022年1月3日(月)
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
観覧料:無料
主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館
連携:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都江戸東京博物館、東京都写真美術館、東京都現代美術館
展覧会ウェブサイト:https://www.tobikan.jp/exhibition/2021_collection.html
問い合わせ先:東京都美術館 03-3823-6921

同時開催:上野アーティストプロジェクト2021「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」
https://www.tobikan.jp/exhibition/2021_uenoartistproject.html

 

記事提供:ココシル上野


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『ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』東京都美術館にて2022年1月22日(土)~4月3日(日)開催決定!

東京都美術館


初期の傑作《窓辺で手紙を読む女》を修復後、所蔵館以外で世界初公開!!

本展の注目作品である17世紀のオランダ絵画の巨匠ヨハネス・フェルメールの《窓辺で手紙を読む女》は、窓から差し込む光の表現、室内で手紙を読む女性像など、フェルメールが自身のスタイルを確立したといわれる初期の傑作です。

本作品は、1979年のⅩ線調査で壁面にキューピッドの描かれた画中画が塗り潰されていることが判明し、長年、その絵はフェルメール自身が消したと考えられてきました。
しかし、2017年の調査により、フェルメール以外の人物により消されたことが新たに分かり、翌年から画中画の上塗り層を取り除く修復が開始されました。2019年5月には、キューピッドの画中画が部分的に現れた修復途中の作品が、記者発表にて公開されました。
本展では、この修復過程を紹介する資料とともに、大規模な修復プロジェクトによってキューピッドが完全に姿を現した《窓辺で手紙を読む女》の当初の姿を、所蔵館であるドレスデン国立古典絵画館のお披露目に次いで公開します。所蔵館以外では世界初公開となります。

また、ドレスデン国立古典絵画館が所蔵するレンブラント、メツー、ファン・ライスダールなど、17世紀オランダ絵画の黄金期を彩る珠玉の名品約70点もあわせてご紹介します。

 

■修復前


■修復中 ※2019年5月発表時点
徐々に現れるキューピッドの画中画


◆みどころ
●フェルメール《窓辺で手紙を読む女》を修復後、所蔵館以外で世界初公開!
隠されていたキューピッドの画中画が姿を現した本作を、所蔵館でのお披露目に次いで公開します。修復後の姿を公開するのは、所蔵館以外では世界初となります。


●修復プロジェクトの過程をご紹介
上塗りされた絵具層を慎重に取り除き、徐々に姿を現していくキューピッド。その修復の過程を、映像等でご紹介します。

●ドレスデン国立古典絵画館が誇る17世紀オランダ絵画コレクション
フェルメールだけでなく、レンブラント、メツー、ファン・ライスダールといった17世紀オランダを代表する画家たちの名品約70点を展示します。

 

【開催概要】
展覧会名:ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展
英語展覧会名:Johannes Vermeer and the Dutch Masters of the Golden Age from the collection of the Gemäldegalerie Alte Meister, Staatliche Kunstsammlungen Dresden
会場:東京都美術館 企画展示室(東京都台東区上野公園8-36)
会期:2022年1月22日(土)~4月3日(日)
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、産経新聞社、フジテレビジョン
特別協力:ソニー・ミュージックエンタテインメント

お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト:https://www.dresden-vermeer.jp
※休室日、開室時間、観覧料などは、決まり次第、展覧会公式ウェブサイト等でお知らせいたします。
※展示作品、会期等については、今後の諸事情により変更する場合がありますので、最新情報は展覧会公式ウェブサイト等でご確認ください。

巡回展:
【北海道展】北海道立近代美術館 2022年4月~6月 ※調整中
【大阪展】大阪市立美術館 2022年7月16日(土)〜9月25日(日)
【宮城展】会場、会期ともに調整中

 

記事提供:ココシル上野


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【国立科学博物館】「植物 地球を支える仲間たち」会場レポート 不思議と驚きがいっぱいの植物ワールド!

国立科学博物館

2021年7月10日(土)~9月20日(月・祝)の期間、東京・上野の国立科学博物館では特別展「植物 地球を支える仲間たち」が開催中です。

植物なのにアクティブだったり凶暴だったり、大きすぎたり小さすぎたり。不思議と驚きに満ちた、知られざる植物の世界を体感できる本展。会場の様子と見どころをレポートします。

個性派植物が目白押しの「植物 地球を支える仲間たち」

展示風景
展示風景
展示風景

本展は、最新の科学研究成果をもとに、地球上の生命にとってなくてはならない存在である植物の生き方、生存環境、形、進化などさまざまな観点から、原始から現代までの世界中の植物を紹介する大規模展覧会です。

標本、模型、映像、インスタレーションといった展示を見るだけではなく、音楽や匂いで聴覚や嗅覚も刺激されながら、200種類以上にのぼる植物たちの生態の面白さを総合的に学べる内容になっています。

規格外のスケールに驚愕!

本展の見どころの一つは、「○○○すぎる植物たち」と題されたエリアで来場者を待ち構える、大きすぎる植物たちの展示でしょう。

「ショクダイオオコンニャク」実物大模型

まず目を引くのが、インドネシア・スマトラ島の低地熱帯雨林に自生する、世界最大級の花序(花の集まり)をもつという「ショクダイオオコンニャク」の実物大模型です。高さが実に2.72Mと、若干ファンタジーの領域に入っています……! ギネス世界記録では3.1Mにも達するというから驚き。

開花すると38度ほどまで発熱し湯気を出すという不思議な生態で、その際に虫をおびき寄せるための臭いを蒸散させるそうですが、会場内にはなんと再現した臭いを嗅げるブースがありました。油断していた筆者が思わずのけ反ったその強烈な悪臭ぶりをぜひ体験してみてください。

「ラフレシア」実物大模型 京都府立植物園蔵

また、世界最大の花としておなじみの「ラフレシア」の姿も。展示されている実物大模型はスマトラ島に分布している「ラフレシア・アーノルディ」という種類で、直径は80CM。

「ラフレシア」と聞くと赤い花を思い浮かべる方がほとんどだと思いますが、葉や茎がどうなっているかは知っていますか? 実は「ラフレシア」属の仲間って、ぶどう科の木本つる植物に寄生して栄養分を吸収する寄生生物なので、花部分しか存在しないんですって。寄生している立場で世界一の花として有名になってしまう厚かましさ(?)が面白いですね。

「メキシコラクウショウ」の写真
「メキシコラクウショウ」の幹回りのスケールを再現したタペストリー

さらに、メキシコ・オアハカ州のトゥーレ村に現生する“トゥーレの樹”こと「メキシコラクウショウ」は根本周り57.9M、幹回り36.2Mで世界最太の樹としてギネス世界記録に認定されていますが、その幹回りの巨大さを、会場天井の空間をうまく活用してタペストリーで再現しているのも必見。にわかには信じがたい、笑ってしまうくらい規格外のスケール感をぜひ体感してください。

そのほか、大きすぎる翼をもつ種子「ハネフクベの種子」、大きすぎる果実「ジャックフルーツ」、大きすぎる松ぼっくり「コウルテリマツ」などなど、インパクトのある植物の実物が多数展示されていました。

太古の化石から遺伝子組み換え植物まで

クラドキシロン類「ヒロニア・エレガンス(葉)」 国立科学博物館蔵
リンボク類「レピドデンドロン・アクレアトゥム(幹表面)」 大阪市立自然史博物館蔵

植物の誕生から上陸、森の誕生、裸子植物・花の誕生と多様化……植物のダイナミックな進化の歴史を紹介するエリアでは、貴重な植物化石の数々が並びます。

復元イラストとともに、世界初公開となる最古の大型植物化石「クックソニア・バランデイ」や、10Mを超える大型の体を初めてつくった植物・クラドキシロン類の化石、石炭紀に巨大な湿地林の主要構成要素となったリンボク類の化石などが、人間が登場するはるか以前の地球がどのような姿をしていたのかを私たちに伝えます。

「青いキク」の樹脂標本 農研機構蔵
「光るトレニア」の樹脂標本 株式会社インプランタイノベーションズ蔵

一方、かつては自然界に存在せず、遺伝子組換え技術によって誕生した「青いバラ」や「青いキク」といった、現代の植物事情についても取り上げています。

「光る」という新しい形質の付与を目指して、海洋プランクトンの蛍光タンパク質の遺伝子を導入してつくられた「光るトレニア」が放つ黄緑色の蛍光の美しさを眺めていると、この技術がこの先どのように発展していくのかワクワクとさせられます。

本当は怖い植物たち

植物に対して「静か」「癒し」のイメージをもっている人々をヒヤッとさせる、狡猾な食虫植物や凶暴な果実も会場で存在感を放っています。

「ハエトリソウ」(約100倍拡大模型) 右側の葉の中には捕らわれた虫の姿が……

感覚毛へ30秒以内に2回刺激があると、葉を閉じて虫を逃がさないようにする「ハエトリソウ」や、粘着性のある消化液で虫を捕え半日で体の芯まで溶かす「モウセンゴケ」は、性質だけに留まらないそのフォルムの禍々しさを約100倍、約200倍の拡大模型で再現。

「ドロセア・アデラエ」など12種類の食虫植物が入れられた水槽

隣に置かれた水槽展示では、その多くが一見かわいらしく見える食虫植物が生きている状態でジオラマのようにぎゅっと詰め込まれています。この無法地帯に虫を放したらどうなってしまうのか……と想像せずにはいられません。

「ライオンゴロシの果実」の6倍拡大模型(左)と実物(右) 国立科学博物館蔵

フック状の先端部や、「かえし」と呼ばれるトゲで動物に付着して果実を散布させる植物の中でも“凶暴”な代表例として、口に付着して口が開かなくなり餓死してしまったライオンの逸話をもつ「ライオンゴロシ」や、忍者の道具で有名なマキビシにそっくりな「オニビシ」といった果実の実物展示も。

いずれも花自体は非常に美しいという、ギャップのある共通点をもつことも興味深いです。

楽しいエンタメ要素も!

インスタレーション展示「光合成FACTORY」
「光合成FACTORY」プレイの様子

会場内には、子どもが楽しめる参加型インスタレーション展示も設置されています。

光合成のメカニズムを学習できるスマートフォン向けブラウザゲーム「光合成FACTORY」は、プレイヤーが光合成工場の工場長となり、3個のミッションをクリアしていくという内容。会場ではそのミッション1を、最大4人までのプレイヤーとともに体を使って体験することができます。(スマートフォン用ゲームはこちらから⇒https://kougousei-factory.com

ほかのプレイヤーと協力しながら、光エネルギーのもと(光子)をどれだけ集められるか。操作は腕を動かすだけの単純なものですが、やってみると自然とほかのプレイヤーと競争のようになってくるので、大人だけでもなかなかの盛り上がりに。

「花の遺伝子ABC」の歌詞も展示
右は花のC遺伝子の変異によって生まれた「ツバキ(園芸品種) 八重」樹脂標本 国立科学博物館蔵

楽しく学べるといえば、会場内では組み合わせ次第で花の形が決まるという3種の遺伝子「A遺伝子」「B遺伝子」「C遺伝子」についての解説がありますが、関連して「花の遺伝子ABC」というオリジナル曲が流れています。3種の遺伝子の働きを覚えるための歌ですが、ちょっと奇妙な歌詞とメロディがクセになってしまうかも。


特設ショップ
特設ショップ

なお、本展の特設ショップでは「ラフレシア」をはじめとするクセのある植物のクッションやポーチをはじめ、人気クリエイター4組が「植物」をテーマに描き下ろしたデザインを使用した展覧会限定のオリジナルグッズ、人気トレーディングカードゲーム『デュエル・マスターズ』とのコラボ製品などが販売中。欲しい方はぜひお早めに足を運んでみてください。

 

特別展「植物展 地球を支える仲間たち」開催概要

会期 2021年7月10日(土)~9月20日(月・祝)
※会期等は変更になる場合があります。
最新情報は公式サイトよりご確認ください。
会場 国立科学博物館
開館時間 9時~17時(入場は16時30分まで)
休館日 7月12日(月)、9月6日(月)
入場料 一般・大学生 :1,900円(税込)
小・中・高校生:600円(税込)
※オンラインによる事前予約(日時指定)必須です。
主催 国立科学博物館、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社
展覧会公式サイト https://plants.exhibit.jp

 

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【東京国立博物館】特別展「聖徳太子と法隆寺」レポート
脈々と受け継がれる、日本人の祈りの「かたち」。

東京国立博物館
四天王立像 広目天/多聞天 飛鳥時代・7世紀 奈良・法隆寺蔵

2021年7月13日(火)~9月5日(日)まで、東京国立博物館 平成館で 聖徳太子1400年遠忌記念 特別展「聖徳太子と法隆寺」が開催されています。公開前日にメディア向けの特別内覧会が開催されましたので、今回はその様子をお伝えいたします。

法隆寺1400年の祈りの美、そのすべてがここに。

会場に足を踏み入れると如意輪観音菩薩半跏像(法隆寺蔵)がお出迎え
展示風景。全五章構成となっており、第一会場・第二会場に分かれる
画面右の天寿国繍帳(中宮寺蔵)をはじめ、名刹の至宝が集う
行信僧都坐像(法隆寺蔵)。奈良時代肖像彫刻の傑作のひとつ
画面手間に展示されているのは伎楽面。伎楽は推古天皇の時代に伝来し、聖徳太子がこれを少年たちに習わせたと言う
聖徳太子を偲ぶ聖霊会で使用される「舎利御輿」(法隆寺蔵)

「和を以て貴しとなす」「耳がとても良くて何人もの話を一気に聞き分けられた」

日本史にそれほど詳しくなくても、日本人なら誰もがその逸話を知る「聖徳太子」。私たちが教科書で出会う「最初の偉人」とも言うべき存在でもあり、昔から日本国民の信仰の対象として尊崇されてきました。

本年、令和三(2021)年は聖徳太子(574-622)の1400年遠忌。この節目の年に開催される特別展「聖徳太子と法隆寺」は、法隆寺において護り伝えられてきた寺宝を中心に太子の肖像や遺品と伝わる宝物、また飛鳥時代以来の貴重な文化財を出展し、太子その人と太子信仰の世界に迫ります。

聖徳太子と法隆寺

教科書でおなじみの聖徳太子二王子像(東京国立博物館蔵)
子どもらしい愛らしさが感じられる「聖徳太子立像(二歳像)」(法隆寺蔵)
聖徳太子が推古天皇に「勝鬘経」を講じる様子を描いた「聖徳太子勝鬘経講讃図」(東京国立博物館蔵)

聖徳太子とは、推古天皇の時代に蘇我入鹿とともに政治を補佐し、仏教による国造りを推し進めた人物。

聖徳太子の業績といえば、当時の大帝国だった隋に「日出る処の天子、書を、日没する処の天子に致す。恙なきや」の書を届けさせたエピソードが有名ですね。この「日出る処の天子~」の一節はそのまま山岸涼子氏のマンガ『日出処の天子』のタイトルにも使われています。

その聖徳太子が607年に建立したのが、現存する世界最古の木造建築物である法隆寺です。
670年に火災に見舞われますが、8世紀初めまでに金堂・五重塔を中心とする西院伽藍を再建。金堂内には飛鳥時代の諸仏が安置されているほか、739年頃に建てられた夢殿を中心とする東院伽藍は太子信仰の中心となりました。

会場には東京国立博物館所蔵の作品のみならず、法隆寺から聖徳太子ゆかりの寺宝が多数出品され、彫刻・絵画・工芸・染織など幅広く仏教芸術の名品を堪能できる構成になっています。

展示作品紹介

《国宝 薬師如来坐像》 飛鳥時代・7世紀 奈良・法隆寺蔵

その謎は、人々を魅了する。古代仏像彫刻の大傑作。

金堂東の間の本尊で、口もとに微笑ほほえみを浮かべた神秘的な顔立ちや線的な衣文表現など、飛鳥時代の様式美を示す名品と称えられる作品。光背背面の銘文によれば607年に造立したとありますが、623年に完成した金堂中の間の釈迦三尊像に比べると鋳造技術などが進歩しているため、実際の制作年代は623年以降と考えられています。

頬や首、手などに円みを帯びた柔らかさが感じられ、仏師の卓越した技量が感じられます。飛鳥時代を代表する仏像のひとつに挙げられますが、制作年代のみならず銘文や台座など、まだまだ多くの謎が残されているそうです。

 

《伝橘夫人念持仏厨子》 飛鳥時代7-8世紀 奈良・法隆寺蔵

麗しき白鳳芸術の最高峰。

やわらかな微笑みが印象的な阿弥陀三尊像。精緻な出来栄えとともに、その指先や衣にみられる流麗な曲線はひときわ美しく、白鳳の時期に生み出された金銅仏中においても随一の傑作とされています。その阿弥陀三尊像を安置する、須弥座を備えた天蓋付きの厨子も当初のもの。まさに、古代の礼拝空間を今に伝えてくれている作品です。

 

《七星文銅大刀》 飛鳥時代7世紀 奈良・法隆寺蔵(旧法隆寺献納宝物)

刀剣ファンのみなさまはこちらをどうぞ。

刀剣好きの筆者が注目したのがこちら。刀身に北斗七星を表したという美しい銅製の刀剣です。大阪・四天王寺蔵の「七星剣」など北斗七星をモチーフにした意匠の刀剣は他にもありますが、古代中国において北斗七星が敵を破る強い力を宿していたと信じられていたことから、こうした剣が作られるようになったそうです。

刀身には漆を塗って金箔を押していたそうで、今なお随所に金色が残っています。当時は一体どれほど壮麗な姿をした刀剣だったのかと思わず胸が熱くなりますが、私だけでしょうか・・・。

 


 

展覧会グッズ販売コーナー
般若心経を「絵」で表した「絵心経手拭いたおる」

トーハクといえば物販の充実ぶりでも有名。
Tシャツや図録といった定番商品のほかにも、聖徳太子の愛犬「雪丸」グッズや「絵心経手拭いたおる」など、トーハクの商魂(?)が爆発したユニークなグッズが並んでいます。

また、同じく東京国立博物館の東洋館では2021年7月14日(水)〜 10月10日(日)までミュージアムシアター「法隆寺 国宝 金堂-聖徳太子のこころ」を上映。現地では入ることができない奈良・法隆寺の金堂内のすべてがバーチャルリアリティによって再現され、本尊の仏像や壁画を間近で体験することができます!
詳しくはこちらのミュージアムシアター公式サイトをご覧ください。

 

開催概要

展覧会名 聖徳太子1400年遠忌記念 特別展「聖徳太子と法隆寺」
会 期 2021年7月13日(火)~9月5日(日)
前期:2021年7月13日(火)~8月9日(月・休)
後期:2021年8月11日(水)~9月5日(日)
開館時間 9:30~17:00
休館日 月曜日
※ただし、8月9日(月・休)は開館し、8月10日(火)は本展のみ休館
入場料 一般 2,200円
大学生 1,400円
高校生 1,000円
※混雑緩和のため、本展は事前予約制(日時指定券)です。入場にあたって、すべてのお客様は日時指定券の予約が必要です。「前売日時指定券」、「当日券」の詳細は展覧会公式サイトでご確認ください。
会場 東京国立博物館 平成館(上野公園)
公式サイト https://tsumugu.yomiuri.co.jp/horyuji2021/index.html

 

 

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【東京国立博物館】特別展「国宝 聖林寺十一面観音 ―三輪山信仰のみほとけ」レポート 東京で初公開!360度で楽しむ十一面観音のお姿

東京国立博物館
展示風景 国宝《十一面観音菩薩立像》奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

2021年6月22日(火)~9月12日(日)の期間、東京・上野の東京国立博物館にて特別展「国宝 聖林寺十一面観音 ―三輪山信仰のみほとけ」が開催中です。

その類まれな美しさで日本彫刻の最高傑作ともいわれる国宝《十一面観音菩薩立像》が、史上初めて奈良県外で展示されることで注目を集める本展。プレス内覧会に参加してきましたので、会場の様子をレポートします。

大神神社ゆかりの仏像が約150年ぶりに再会!

本展の主役である国宝《十一面観音菩薩立像》は奈良県桜井市の聖林寺が所蔵するものですが、江戸時代までは聖林寺ではなく、同市内の大神(おおみわ)神社に安置されていたことをご存じですか?

日本古来の自然信仰を現代まで伝える、三輪山を御神体とする大神神社。奈良時代には仏教伝来により神仏習合が進み、大神神社の境内に大神寺(鎌倉時代に大御輪寺に改称)が造られ、多くの仏像がまつられるようになりました。

しかし、明治政府の神仏分離令により廃仏毀釈の波が起こると、大御輪寺が廃寺に。仏像も聖林寺など親交の深かった近隣の寺院へ移すことを余儀なくされます。

本展は、国宝《十一面観音菩薩立像》をはじめ、国宝《地蔵菩薩立像》(法隆寺蔵)、《日光菩薩立像》《月光菩薩立像》(どちらも正暦寺蔵)など、かつて大御輪寺でまつられていた仏像を約150年ぶりに再会させる形で一堂に展示。
あわせて、大神神社の自然信仰や古代の祭祀を物語る資料や三輪山禁足地の出土品などを紹介するものです。

展示風景 《三輪山絵図》室町時代・16世紀 奈良・大神神社蔵 ※8月1日までの展示
展示風景 重要文化財《朱漆金銅装楯》鎌倉時代・嘉元3年(1305年) 奈良・大神神社蔵

360度さまざまな角度で堪能する十一面観音

展示風景 国宝《十一面観音菩薩立像》奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

国宝《十一面観音菩薩立像》は、清廉な雰囲気の会場で中央に落ち着きます。立像の背後には大神神社の三ツ鳥居を再現。鳥居から続くのは本殿ではなく三輪山という、大神神社における自然信仰の形をビジュアルで伝えています。

国宝《十一面観音菩薩立像》(部分) 奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

十一面観音は、名前のとおり11の顔をもちます。
インドにおいてすべての方向を意味する「10」という数字に本体の面を合わせて11面、とするものもありますが、日本では本体の面+11面という形が一般的とのこと。国宝《十一面観音菩薩立像》も後者です。

あらゆる方向を見渡す頭頂部の11面には個性があり、正面の3面が穏やかな表情の「菩薩面」。像から見て左側(正面向かって右側)3面が怒ったような表情の「瞋怒(しんぬ)面」。像から見て右側(正面向かって左側)3面が牙を出した「牙上出(げじょうしゅつ)面」。後ろの1面が大きく笑った「大笑面」。そして中央の「頂上仏面」となっています。

国宝《十一面観音菩薩立像》(部分) 奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

現在の国宝《十一面観音菩薩立像》は3面が失われています。そのため、残念ながら「大笑面」だけは確認することが叶いませんが、前後左右どこからでも鑑賞できるような会場配置なので、現存する面はすべて肉眼で楽しめるのがうれしいポイント。

国宝《十一面観音菩薩立像》(部分) 奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

日本に現存する近世以前の仏像はほとんどが木造ですが、奈良時代・8世紀後半ごろには乾漆造りという技法が制作に用いられていました。本像も、木心のうえに木屎漆(こくそうるし)と呼ばれる漆と木粉の練り物で成型する「木心乾漆造り」でつくられたうちのひとつです。

削るのではなく漆を盛り上げてつくるため、写実的表現に適しているとされる木屎漆。本像では風をはらんだかのような天衣の襞のゆったりとしたカーブ、肉取りの張り、眼球の存在を感じさせる瞼の起伏や髪筋の整然としたさまなど、木屎漆ならではの表現が見どころです。

国宝《十一面観音菩薩立像》奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

側面から見ると、8等身のすらりとしたプロポーション、胸の厚み、重心の置き方などがよくわかります。厳かな面差しの頭をやや前に出した姿勢は、人々の姿をしっかり捉えようとするかのよう。

国宝《十一面観音菩薩立像》奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

後姿は珠玉の美しさで、背中のなまめかしさももちろんですが、特に腰から足にかけて衣の曲線がうっとりするほど優美なさまは必見。ところどころ剥げた金箔と地のつややかな黒色の対比が、かえって雰囲気のある陰影をつくり出しています。

国宝《十一面観音菩薩立像》(部分) 奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

細部に目をこらせば、宝瓶を握る左手、下ろされた右手の指のたおやかなことにも目を奪われました。蓮の花をモチーフにした台座には天平美術らしい華やかさも。「日本美術の最高傑作」という評はけして誇張表現ではないと実感させられます。

国宝《十一面観音菩薩立像 光背残欠》奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵

また、神仏の後光を視覚的に表現した光背(こうはい)も別途展示されています。現在では軸部分を残して多くが失われていますが、もとは3重の圏帯と唐草文を透かし彫りする光背だったのではと推測されているそう。在りし日の華麗さが偲ばれます。

そのほかの展示作品を紹介

国宝《地蔵菩薩立像》平安時代・9世紀 奈良・法隆寺蔵

かつて大御輪寺で十一面観音の隣に配されていたという国宝《地蔵菩薩立像》は、両手の手先以外をすべて一本の木材から彫り出した仏像です。太づくりの体躯は、まさに一本の木がそこにそびえ立っているかのような、ずしりとした実在感に満ちています。

左が《月光菩薩立像》右が《日光菩薩立像》どちらも平安時代・10~11世紀 奈良・正暦寺蔵

《日光菩薩立像》と《月光菩薩立像》は一見そっくりな姿ですが、実は材質や構造技法、作風が異なり、本来一具ではなかったらしいというのが面白いところ。大ぶりな目鼻立ちをしているのが日光菩薩、面長でおだやかな表情を浮かべ、顎付近がスッキリしているように見えるのが月光菩薩です。

展示風景 《山ノ神遺跡出土品》奈良県桜井市 山ノ神遺跡出土 古墳時代・5~6世紀 東京国立博物館蔵など

本展には三輪山禁足地や山ノ神遺跡で出土したものも展示されていますが、その多くは何らかの祭祀に使われた道具をかたどった模造品なのだとか。なかでも目を引くのは、酒造りにかかわる器物をかたどった石製品や土製品。
大神神社の祭神である大物主大神がお酒の神様であると前提を置くと、出土品の存在から、現在まで残る大神神社の酒造信仰が古墳時代までさかのぼりえることが見て取れ、興味深いものでした。

「日本美術のとびら」入り口
「日本美術のとびら」巨大スクリーンの一部

特別展「国宝 聖林寺十一面観音 ―三輪山信仰のみほとけ」の開催は2021年9月12日(日)まで。

なお、本展の開幕と同時に、東京国立博物館の本館特別3室に新しく「日本美術のとびら」という常設の体験展示も公開されました。日本美術の歴史を学べる巨大スクリーンの前で手を動かすと、表示された日本美術のポップアップが回転したり、ページをめくったりとインタラクティブな体験ができるほか、高精細複製品の《風神雷神図屛風》や《夏秋草図屛風》といった名品も鑑賞できます。

事前予約が必要ですが、特別展の観覧料でそのまま入れますので、ぜひ一緒に巡ってみてはいかがでしょう。

 

特別展「国宝 聖林寺十一面観音 ―三輪山信仰のみほとけ」概要
※本展は事前予約制(日時指定券)です。詳細は展覧会公式サイトよりご確認ください。

会期 2021年6月22日(火)~9月12日(日)
会場 東京国立博物館 本館特別5室
開館時間 午前9時30分~午後5時
休館日 月曜日(ただし、8月9日は開館)
観覧料 前売日時指定券 一般1,400円、大学生700円、高校生400円、中学生以下無料

そのほか、詳細は展覧会公式サイトから⇒https://tsumugu.yomiuri.co.jp/shorinji2020/tickets.html

主催 東京国立博物館、読売新聞社、文化庁、日本芸術文化振興会
展覧会公式サイト https://tsumugu.yomiuri.co.jp/shorinji2020/

 

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【上野の森美術館】「キングダム展 -信-」レポート 400点以上の直筆生原画でたどる信の歩み

上野の森美術館
キングダム展 展示風景 ©原泰久/集英社

原 泰久原作の漫画『キングダム』の展覧会「キングダム展 -信-」が、東京・上野にある上野の森美術館にて開催中です。*会期は2021年6月12日(土)から7月25日(日)まで。

作者全面監修のもと作り上げられた「キングダム展 -信-」

キングダム展 キービジュアル ©原泰久/集英社
第3章「馬陽防衛戦」展示風景 ©原泰久/集英社
第4章「王騎と龐煖」展示風景 ©原泰久/集英社
第8章「函谷関の戦い」展示風景 ©原泰久/集英社
第12章「人の本質は光」展示風景 ©原泰久/集英社

「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載中の大人気漫画『キングダム』は、春秋戦国時代の中国を舞台に、天下の大将軍を目指す元下僕の少年・信(しん)と、後に始皇帝となる秦の若き王・嬴政(えいせい)が中華統一を目指す物語です。

その『キングダム』の連載開始15周年を記念して企画されたのが今回の「キングダム展 -信-」。迫力ある作品世界に没入できる、過去最大規模の原画展です。

作者である原氏の全面監修のもと、主人公・信の歩みを再構成し、第1話「無名の少年」から第438話「雄飛の刻」までの出会い、戦い、別れのストーリーを400点以上の直筆原画と巨大グラフィックで追っていく内容になっています。

20点の描きおろし原画も!「キングダム展 -信-」の展示内容や会場の様子を紹介

本展は第0章~第13章+エンディングという構成でエリア分けされています。

第0章「無名の少年」展示風景 描きおろし原画とそれを元にしたグラフィック ©原泰久/集英社

信の物語の始まりを紹介する第0章「無名の少年」では、戦災孤児だった信と親友の漂(ひょう)が、天下の大将軍になる夢を語り合う様子や別れのシーンの原画が展示されています。本展には、本展のために描きおろされた原画が20点出展されていますが、そのうち約1/3がこの第0章に集中! 新たに美しく描き出された信と漂の過ごした日々……原氏の強いこだわりを感じさせます。

第2章「秦の怪鳥」展示風景 描きおろし原画 ©原泰久/集英社

第1章「蛇甘平原(だかんへいげん)の戦い」では、描きおろし原画をもとにしたグラフィックパノラマと合戦のBGMで、信の初めての戦場を臨場感たっぷりに再現。

続く第2章「秦の怪鳥」では、「蛇甘平原の戦い」で信が出会い、背中を追いかけることになる秦の大将軍・王騎(おうき)の巨大描きおろし原画(和紙パネル)が姿を見せます。サイズは高さ約3m、幅約1.5mと迫力満点!

原作第66話、王騎との初対面でその存在の大きさに「こ……こいつ… でかすぎて解からねェ!!!」と圧倒される信の姿が印象的なシーンですが、観覧者も信と同じ目線で王騎を見上げることができます。

第3章「馬陽防衛戦」展示風景 ©原泰久/集英社

王騎により「飛信隊」と名づけられた信の部隊の活躍にスポットを当てた第3章「馬陽防衛戦」では、激戦の末にわずかなスキをついて趙の敵将・馮忌(ふうき)を信が討ち取った屈指の名シーンを、立体的な造作で表現しているのが見どころ。

第4章「王騎と龐煖」展示風景 ©原泰久/集英社
第5章「受け継ぐ者」展示風景 描きおろし原画とそれを元にしたグラフィック 王騎の思いを受け継ぎ涙する信 ©原泰久/集英社

そして展示は、王騎と因縁の敵・龐煖(ほうけん)との死闘を追う第4章「王騎と龐煖」、王騎の最期のシーンを連続する原画だけでしっとりと見せる第5章「受け継ぐ者」、秦国で頭角を現しだした者たちを紹介する第6章「大将軍を目指す者たち」へと続いていきます。

第7章「山陽攻略戦」展示風景 信と魏の武将・輪虎との一騎打ち ©原泰久/集英社
第8章「函谷関の戦い」展示風景 ©原泰久/集英社
第8章「函谷関の戦い」展示風景 ©原泰久/集英社

第7章「山陽攻略戦」、第8章「函谷関(かんこくかん)の戦い」と、信の戦いの歩みは熾烈を極めていきます。特に魏・趙・韓・燕・楚の五か国が合従軍となり秦に侵攻し、多くの読者を絶望させた「函谷関の戦い」の展示は、15日の間に目まぐるしく変化する敵国ごとの戦局のハイライトがギュッとつまっていて非常に見ごたえあり!

第9章「大炎」展示風景 ©原泰久/集英社

秦と合従軍との戦いは第9章、第10章の展示までもつれ込みます。信にとって初めての戦場の指揮官だった大将軍・麃公(ひょうこう)の燃え盛る戦いの炎を赤い壁面で表現した第9章「大炎」も胸を熱くさせますが、うならされたのは最終局面、もう負けると後がない「蕞(さい)」での戦いを紹介する第10章「蕞の攻防」。

第10章「蕞の攻防」展示風景 ©原泰久/集英社

度重なる死闘で疲れ果て、麃公を失い、心まで折れかけていた信の姿が描かれた原画からフッと横を見ると、王であるにもかかわらず死地へ戦いにきた嬴政が信の目の前に現れるシーンが、壁一面のグラフィックで登場するのです。本当に嬴政が目の前にいるかのような存在感があり、暗闇に届いた一筋の光、信が受けた感動を体験できるニクい演出となっていました。

第11章~第12章は心を揺さぶる珠玉のアレンジ

第11章「呂不韋の問い」展示風景 ©原泰久/集英社

第10章まで基本的には時系列で原画が並べられてきましたが、展示終盤、第11章以降は本展だけのオリジナル展開となっています。

第11章「呂不韋(りょふい)の問い」から第12章「人の本質は光」にかけては、原作の第423話から第427話で描かれた、嬴政と覇権を争う秦の相国・呂不韋による中華統一の是非をめぐる問答がベースに。

戦争は紛れもない人の本質の表れであり、戦争はなくならないとする呂不韋の思想を「人の本質は―― 光だ」と強く否定する嬴政が、なぜその考えに至ったのかの経緯を広大な空間で紹介しています。

第12章「人の本質は光」展示風景 ©原泰久/集英社
第12章「人の本質は光」展示風景 ©原泰久/集英社

幼少期の嬴政を救った紫夏という女性、漂、王騎や麃公、そして名もなき者たち。これまで嬴政や信と出会い、支え、思いを託し、自分の中にある光を輝かせて死んでいったキャラクターたちの印象的なシーンが走馬灯のように出現し、原作読者の涙腺を揺さぶります。

原作で最高に盛り上がった名シーンの魅力を少しも損なうことなく、よりドラマティックになるようなアレンジが秀逸。この章が本展最大の見どころと言っていいかもしれません。

カラー原画や読み切りのネームも

最終章である第13章「雄飛の刻」は、第1話冒頭で描かれた、大将軍となった信の未来の姿をリメイクした描きおろしイラストなどを展示。過酷な運命を乗り越えてきた信と嬴政が新たな一歩を踏み出したところでストーリーの展示は終わります。

「エンディング」展示風景 「おまけ原画セレクション」には「『キングダム』といったらこれがなくちゃね」と感じるような名場面がずらり ©原泰久/集英社
「エンディング」展示風景 ©原泰久/集英社
「エンディング」展示風景 ©原泰久/集英社

本展の最後では、コアなファンが喜びそうな「エンディング」が観覧者を待ち構えます。各章に入りきらなかった名シーンを作者コメントとともに紹介する「おまけ原画セレクション」や、描きおろしの展示会キービジュアルを含むカラー原画、『キングダム』のプロトタイプともいえる読み切り「黄金の翼」のネーム、ラフスケッチなど、貴重なアイテムが並んでいました。


『キングダム』最大の魅力のひとつである臨場感あふれる戦闘シーンや、生命力に満ち満ちたキャラクターの表情など、生原画の書き込み具合を隅々まで堪能できる「キングダム展 -信-」。

見るというより”読んでいく”感覚で歩けるこの展覧会は、ライトなファンもコアなファンも変わらず信の物語を一から新鮮な気持ちで楽しめるはず。ぜひ足を運んでみてください。

展覧会オリジナルグッズの中では、騰(とう)将軍の”ファルファル”だけが印刷されたマスキングテープが異彩を放っていました。 ©原泰久/集英社

 

「キングダム展 -信-」概要

会期 2021年6月12日(土)~7月25日(日)
会場 上野の森美術館
開館時間 10:00~20:00 ※最終入館は閉館の1時間前まで
観覧料 全日日時指定制 詳細は公式サイトよりご確認ください。
https://kingdom-exhibit.com/ticket
主催 集英社、朝日新聞社
協賛 共同印刷、ローソンチケット
問い合わせ 050-5541-8600 (ハローダイヤル 全日9時~20時)
公式サイト https://kingdom-exhibit.com/

 

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特別展「イサム・ノグチ 発見の道」会場レポート (東京都美術館 ~2021/8/29まで開催)

東京都美術館
「あかり」インスタレーション

東京・上野の東京都美術館では、2021年4月24日から8月29日までの期間、特別展「イサム・ノグチ 発見の道」が開催中です。

「彫刻とは何か」を生涯にわたり模索するなかでイサム・ノグチが歩んだ「発見の道」を、約90件の作品でたどる本展。会場の様子や展示作品についてレポートします。

彫刻家、イサム・ノグチについて

舞台美術やプロダクトデザイン、ランドスケープ・デザインなど、さまざまな分野で類まれな才能を発揮した20世紀を代表する彫刻家、イサム・ノグチ(1904-1988)。

誰もが知る巨匠でありながら、彫刻の作品群を一見すればわかるように、ノグチは独自の彫刻哲学によって一つの形態や素材に固執することを良しとしませんでした。

拠点すらも一つではなく、ニューヨークと日本、ときにはイタリアを行き来しながら創作活動を続けたという、いろいろな意味で「安住しない」人物です。

父が日本人、母が米国人という自身のアイデンティティへの葛藤から生まれた寂しさや強烈な帰属願望を創作の糧にしていたノグチですが、その安住を避ける創作姿勢から表出した作品は驚くほど多様で、豊かな表情に彩られています。

「イサム・ノグチ 発見の道」と題された本展は、重要なインスピレーションを与え続けたという日本の伝統や文化の諸相をはじめ、集大成である晩年の石彫に至るまでにノグチが得た出会いを、90件あまりの多彩な作品を通して一望。ノグチが拓いた彫刻の可能性や芸術の境地を体感しようというものです。

展覧会名になった、イサム・ノグチ《発見の道》1983-1984年 安山岩 鹿児島県霧島アートの森蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

特別展「イサム・ノグチ 発見の道」会場の様子

第1章 展示風景 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
第2章 展示風景 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
第3章 展示風景 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

本展の会場は「彫刻と空間とは一体である」というノグチの思想に基づいた全3章の展示空間で構成されていますが、全体を眺めてまず気づくのは壁の少なさ。作品が広いフロアに点々と配置されていました。

いわゆる回遊式の展示ということで、感性の赴くままにノグチ作品の世界に没頭することができます。

また、一部をのぞき、作品をガラスケースに入れずに展示しているのも特徴です。

「公共の楽しみという目的がなければ彫刻の意味そのものに疑問が呈されてしまう」、「彫刻をなにか切り離された、神聖犯すべからざるものとしてみたことはない」(注1)

と語ったこともあるノグチ。ただの鑑賞物としてではなく、生活のなかにある彫刻の有用性にこだわった彼の作品は、本展のように人々と隔てのない形で展示されることでより生き生きと輝くのかもしれません。

第1章「彫刻の宇宙」

イサム・ノグチ《黒い太陽》1967-69年 スウェーデン産花崗岩 国立国際美術館蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
イサム・ノグチ《化身》1947年(鋳造1972年) ブロンズ イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵 (公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与) ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
イサム・ノグチ《ヴォイド》1971年(鋳造1980年) ブロンズ 和歌山県立近代美術館蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

第1章「彫刻の宇宙」フロアにあるのは、星のように散りばめられた1940年代から最晩年の80年代の多様な作品。

角度を変えるとまるで凹凸がうごめいているように錯覚する《黒い太陽》や、無限の時空間を想起させる《ヴォイド》など注目作品は多いですが、最大の見どころはやはり、展示室の中心で存在感を放つ150灯の「あかり」による大規模インスタレーションでしょう。

「あかり」インスタレーション

ノグチが1951年に岐阜提灯と出会ってから制作がスタートした、太陽や月の光に見立てた「あかり」。一定の素材や形態に固執することを避けたノグチには珍しく、30年以上かけて200を超すバリエーションを作り続けた、ライフワークとも呼ぶべき特別なシリーズです。

ノグチは「あかり」を単なる照明器具ではなく、和紙を通した光そのものを彫刻とする「光の彫刻」であり、「暮らしにクオリティを与え、いかなる世界も光で満たすもの」(注2)と考えていました。

従来の彫刻の概念を拡張し、「彫刻とは何か」を問い続けたノグチが至った一つの完成形です。

ゆっくりと明滅を繰り返す「あかり」のインスタレーションの下には通路が設けられ、そのなかを歩くことが可能。分け隔てなく世界を照らす柔らかな光に、優しく包まれるような心地よさを覚えました。

第2章「かろみの世界」

イサム・ノグチ《坐禅》1982-83年 溶融亜鉛メッキ鋼板 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

第2章では、日本文化の在り様に内包される「軽さ」の要素を作品に取り入れようとしたノグチが挑んだ「かろみ(軽み)」の世界を体感できます。

《坐禅》をはじめ、折り紙や切り紙から得た着想をもとに制作された金属板の彫刻は、一枚のアルミニウム板を折り曲げたものや、鋼鉄板を切断して組み合わせたものとさまざまですが、受ける印象はまさに紙さながらの軽やかさ。

平面的でありながらボリュームや奥行きが存在する、ノグチの目指したという「彫刻の重さと物質性の否定」を体現しています。

イサム・ノグチ《リス》1988年 ブロンズ 香川県立ミュージアム蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
ノグチがこの世を去る最晩年に制作された《リス》は、丸みを帯びた耳と尾がかわいらしい。
《プレイスカルプチェア》2021年 鋼鉄 茨城放送蔵

遊園地の建設プランをもっていたノグチは大型遊具の制作にも着手していて、そのうちの一つが、フロアでひと際目を引く遊具彫刻《プレイスカルプチュア》。波のようにうねるパイプを輪にしたような特徴的なフォルムは、子ども心をくすぐる躍動感と弾むような軽やかさに満ちています。

「あかり」インスタレーション
第1章に続き、こちらにも型違いの「あかり」が登場。「明かり(light)」=「軽い(light)」ということで、ノグチの「かろみの世界」を体験するうえでは欠かせない存在。
フリーフォームソファ、フリーフォームオットマン
展示室の片隅ではノグチがデザインしたソファも設置され、自由に座ることが可能。すっとした軽やかな佇まいでなかなかの座り心地でした。

第3章「石の庭」

イサム・ノグチ《無題》1987年 安山岩 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵 (公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与) ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

香川県牟礼町には、ノグチの野外アトリエと住居をそのまま美術館にした「イサム・ノグチ庭園美術館」がありますが、第3章「石の庭」フロアでは、同館に残る石彫作品を特別展示。牟礼以外でまとめて展示されるのは、1999年の同館開館以来、本展が初となるそうです!

牟礼の豊かな自然の下、石工・和泉正敏の助けを借りて石の本質と向き合い、あらゆるものが照応しあうアトリエで自らの感覚と世界をつなげることで「石の声」を聞くようになったというノグチ。

ありのままの石の姿を残しながら必要最小限の手だけ加えていくというまったく新しい表現方法で、ノグチの集大成とも呼ばれる石彫作品群を制作していきました。

イサム・ノグチ《ねじれた柱》1982-84年 玄武岩 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵 (公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与) ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

約3メートル、本展で最も大きな彫刻である《ねじれた柱》は、巨石本来のエッセンスを巧みに生かしながら大胆な削りを入れた大作。不思議なバランスで保たれた威容に圧倒されます。

イサム・ノグチ《フロアーロック(床石)》1984年 玄武岩 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵(公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与)  ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

2つの岩を多角的に直線で削った《フロアーロック(床石)》は、研磨された石肌と地肌のコントラストや刃文のように浮かんだ模様に鋭さのある作品。突きつめられた造形美には、作品に向き合ったノグチの気迫がそのまま宿っているかのようでした。


彫刻を「ただ見つめるだけでなく完全に経験すべきなにか」(注3)としてとらえていたイサム・ノグチの作品の世界。ぜひ本展に足を運んで、<ノグチ空間>を全身で体験してみてください。

 

<特別展「イサム・ノグチ 発見の道」概要> ※日時指定予約推奨

会期 2021年4月24日(土)~8月29日(日)
会場 東京都美術館 企画展示室
開館時間 9:30~17:30 (入室は閉室の30分前まで)
休室日 月曜日 (ただし、7月26日、8月2日、8月9日は開室予定)
観覧料 【日時指定予約推奨】
一般 1,900円、大学生・専門学校生 1,300円、65歳以上 1,100円

・高校生以下無料
・身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添の方(1名まで)は無料。
※高校生、大学生、専門学校生、65歳以上の方、各種お手帳をお持ちの方は証明できるものの持参が必須。
詳しくはこちらから⇒https://isamunoguchi.exhibit.jp/ticket.html

主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション、文化庁、独立行政法人日本芸術文化振興会
問い合わせ 03-5777-8600 (ハローダイヤル)
公式ページ https://isamunoguchi.exhibit.jp/

(注1) イサム・ノグチ/北代美和子訳『イサム・ノグチ エッセイ』、みすず書房、2018年、P23、P96
(注2) ドウス昌代『イサム・ノグチ 宿命の越境者』、講談社、2000年、P318
(注3) イサム・ノグチ/北代美和子訳『イサム・ノグチ エッセイ』、みすず書房、2018年、P197

参考文献:
「『イサム・ノグチ 発見の道』公式図録」(朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション)
ドウス昌代『イサム・ノグチ 宿命の越境者』(講談社)
北代美和子訳『イサム・ノグチ エッセイ』(みすず書房)

 

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