江戸から学ぶ 第14回『江戸の富くじ興行』(令和3年度)

たくさんのお申込みありがとうございました。当落通知は11月上旬頃発送の予定です。

締切 令和3年10月24日(日)

<講演概要>
江戸文化を象徴的に示す富くじは、当時「富」や「富突」と呼ばれ、幕府の認可を得た寺社のみが一定期間助成事業として興行できるもので、江戸では谷中感応寺や浅草寺などが有名でした。今回は富くじのやり方や当選規定、歴史的推移、興行請負の実態などについて、具体的な資料をもとに紹介します。

日時 令和3年 11月21日(日)14:00開演(90分程度を予定)
会場 台東区民会館 9階 ホール(台東区花川戸2丁目6番5号 都立産業貿易センター台東館併設)

講師 滝口 正哉 氏(立教大学特任准教授)
早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。立正大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。博士(文学)。専門は近世都市史・文化史。著書に『千社札にみる江戸の社会』(同成社)、『江戸の社会と御免富』(岩田書院)、『江戸の祭礼と寺社文化』(同成社)。編著に『赤坂氷川神社の歴史と文化』(都市出版)。

<留意事項>
・新型コロナウイルス感染症拡大等の理由により、内容の変更や中止となる可能性があります。
・参加の際は、新型コロナウイルス感染症対策のため、必ずマスクを着用し、私語は控えるようお願いします。

 

 

 

 

 

江戸から学ぶ 番外編第2回『江戸の音を観る』奥浅草編(令和3年度)

たくさんのお申込みありがとうございました。

締切 令和3年9月5日(日)

<講演概要>
日時 令和3年10月3日(日)14:00開演(120分程度を予定)
会場 ミレニアムホール(台東区生涯学習センター・台東区西浅草3丁目25-16)

第一部「奥浅草における江戸文化の歩み」
〇概要
江戸時代、街道筋のこの地には、遊郭、芝居町、ちょっと変わった由来を持つ神社仏閣など個性的な場所が集まりました。なかでも遊廓は江戸の文化の一翼を担い、おもてなしの源泉でもありました。その歴史と生まれた文化が現在にどのように引き継がれたかをたどります。
〇講師:佐野 陽子 氏(慶應義塾大学名誉教授・嘉悦大学名誉学長)
慶應義塾大学経済学部1954年卒。同大学院を経て経済学博士。専攻は労働経済。慶應大学商学部教授。東京国際大学商学部教授。嘉悦大学学長を歴任。近年の著作に『ドバイのまちづくり』(慶應義塾大学出版会 2009)、『奥浅草 地図から消えた吉原と山谷』(共著 サノックス 2018)。台東区浅草田原町在住65年。

第二部「現在(いま)に息づく江戸の音」
〇概要
お祭、歌舞伎、落語などになくてはならない「囃子」を通して江戸文化のエッセンスを感じ、日本人の中に変わらず生き続けてきた江戸の響きを体感します。
〇出演:望月 太左衛 氏(重要無形文化財 長唄<総合認定>保持者)
東京藝術大学にて博士号(音楽)取得。伝統芸能教場・鼓樂庵代表。250 年前より続く歌舞伎囃子望月流宗家家元である父・十代目望月太左衛門に幼少より師事。台東区内「おはやしの会」はじめ国内及びアメリカ、ドイツ、オーストリア( 2019年台東区・ウィーン市第1区姉妹都市提携30周年記念事業参加)など海外における演奏、講演と普及活動に邁進している。

<留意事項>
・新型コロナウイルス感染症拡大等の理由により、内容の変更や中止となる可能性があります。
・参加の際は、新型コロナウイルス感染症対策のため、必ずマスクを着用し、私語は控えるようお願いします。

お知らせ

「江戸をたずねる」奥浅草ガイドツアー

「江戸の音を観る 奥浅草編」でとりあげる地域を、実際に巡るガイドツアーです。「江戸の音を観る 奥浅草編」とあわせてご参加いただくと、よりお楽しみいただけます。(イベントタイトルをクリックすると該当のページへ移行します)。

<概要>
<日時>
令和3年11月6日(土)
A班・13時00分開始/B班・13時30分開始
※班により集合時間が異なります。
※雨天決行(荒天時中止)
<講師>
待乳山聖天解説/平田 真純 氏(待乳山聖天本龍院住職)
ガイドツアー/日比谷 孟俊 氏(元慶應義塾大学教授・燈虹塾代表)
ガイドツアー/不破 利郎 氏(奥浅草観光協会専務理事・燈虹塾会員)

 

 

 

 

 

【上野の森美術館】「キングダム展 -信-」レポート 400点以上の直筆生原画でたどる信の歩み

上野の森美術館
キングダム展 展示風景 ©原泰久/集英社

原 泰久原作の漫画『キングダム』の展覧会「キングダム展 -信-」が、東京・上野にある上野の森美術館にて開催中です。*会期は2021年6月12日(土)から7月25日(日)まで。

作者全面監修のもと作り上げられた「キングダム展 -信-」

キングダム展 キービジュアル ©原泰久/集英社
第3章「馬陽防衛戦」展示風景 ©原泰久/集英社
第4章「王騎と龐煖」展示風景 ©原泰久/集英社
第8章「函谷関の戦い」展示風景 ©原泰久/集英社
第12章「人の本質は光」展示風景 ©原泰久/集英社

「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載中の大人気漫画『キングダム』は、春秋戦国時代の中国を舞台に、天下の大将軍を目指す元下僕の少年・信(しん)と、後に始皇帝となる秦の若き王・嬴政(えいせい)が中華統一を目指す物語です。

その『キングダム』の連載開始15周年を記念して企画されたのが今回の「キングダム展 -信-」。迫力ある作品世界に没入できる、過去最大規模の原画展です。

作者である原氏の全面監修のもと、主人公・信の歩みを再構成し、第1話「無名の少年」から第438話「雄飛の刻」までの出会い、戦い、別れのストーリーを400点以上の直筆原画と巨大グラフィックで追っていく内容になっています。

20点の描きおろし原画も!「キングダム展 -信-」の展示内容や会場の様子を紹介

本展は第0章~第13章+エンディングという構成でエリア分けされています。

第0章「無名の少年」展示風景 描きおろし原画とそれを元にしたグラフィック ©原泰久/集英社

信の物語の始まりを紹介する第0章「無名の少年」では、戦災孤児だった信と親友の漂(ひょう)が、天下の大将軍になる夢を語り合う様子や別れのシーンの原画が展示されています。本展には、本展のために描きおろされた原画が20点出展されていますが、そのうち約1/3がこの第0章に集中! 新たに美しく描き出された信と漂の過ごした日々……原氏の強いこだわりを感じさせます。

第2章「秦の怪鳥」展示風景 描きおろし原画 ©原泰久/集英社

第1章「蛇甘平原(だかんへいげん)の戦い」では、描きおろし原画をもとにしたグラフィックパノラマと合戦のBGMで、信の初めての戦場を臨場感たっぷりに再現。

続く第2章「秦の怪鳥」では、「蛇甘平原の戦い」で信が出会い、背中を追いかけることになる秦の大将軍・王騎(おうき)の巨大描きおろし原画(和紙パネル)が姿を見せます。サイズは高さ約3m、幅約1.5mと迫力満点!

原作第66話、王騎との初対面でその存在の大きさに「こ……こいつ… でかすぎて解からねェ!!!」と圧倒される信の姿が印象的なシーンですが、観覧者も信と同じ目線で王騎を見上げることができます。

第3章「馬陽防衛戦」展示風景 ©原泰久/集英社

王騎により「飛信隊」と名づけられた信の部隊の活躍にスポットを当てた第3章「馬陽防衛戦」では、激戦の末にわずかなスキをついて趙の敵将・馮忌(ふうき)を信が討ち取った屈指の名シーンを、立体的な造作で表現しているのが見どころ。

第4章「王騎と龐煖」展示風景 ©原泰久/集英社
第5章「受け継ぐ者」展示風景 描きおろし原画とそれを元にしたグラフィック 王騎の思いを受け継ぎ涙する信 ©原泰久/集英社

そして展示は、王騎と因縁の敵・龐煖(ほうけん)との死闘を追う第4章「王騎と龐煖」、王騎の最期のシーンを連続する原画だけでしっとりと見せる第5章「受け継ぐ者」、秦国で頭角を現しだした者たちを紹介する第6章「大将軍を目指す者たち」へと続いていきます。

第7章「山陽攻略戦」展示風景 信と魏の武将・輪虎との一騎打ち ©原泰久/集英社
第8章「函谷関の戦い」展示風景 ©原泰久/集英社
第8章「函谷関の戦い」展示風景 ©原泰久/集英社

第7章「山陽攻略戦」、第8章「函谷関(かんこくかん)の戦い」と、信の戦いの歩みは熾烈を極めていきます。特に魏・趙・韓・燕・楚の五か国が合従軍となり秦に侵攻し、多くの読者を絶望させた「函谷関の戦い」の展示は、15日の間に目まぐるしく変化する敵国ごとの戦局のハイライトがギュッとつまっていて非常に見ごたえあり!

第9章「大炎」展示風景 ©原泰久/集英社

秦と合従軍との戦いは第9章、第10章の展示までもつれ込みます。信にとって初めての戦場の指揮官だった大将軍・麃公(ひょうこう)の燃え盛る戦いの炎を赤い壁面で表現した第9章「大炎」も胸を熱くさせますが、うならされたのは最終局面、もう負けると後がない「蕞(さい)」での戦いを紹介する第10章「蕞の攻防」。

第10章「蕞の攻防」展示風景 ©原泰久/集英社

度重なる死闘で疲れ果て、麃公を失い、心まで折れかけていた信の姿が描かれた原画からフッと横を見ると、王であるにもかかわらず死地へ戦いにきた嬴政が信の目の前に現れるシーンが、壁一面のグラフィックで登場するのです。本当に嬴政が目の前にいるかのような存在感があり、暗闇に届いた一筋の光、信が受けた感動を体験できるニクい演出となっていました。

第11章~第12章は心を揺さぶる珠玉のアレンジ

第11章「呂不韋の問い」展示風景 ©原泰久/集英社

第10章まで基本的には時系列で原画が並べられてきましたが、展示終盤、第11章以降は本展だけのオリジナル展開となっています。

第11章「呂不韋(りょふい)の問い」から第12章「人の本質は光」にかけては、原作の第423話から第427話で描かれた、嬴政と覇権を争う秦の相国・呂不韋による中華統一の是非をめぐる問答がベースに。

戦争は紛れもない人の本質の表れであり、戦争はなくならないとする呂不韋の思想を「人の本質は―― 光だ」と強く否定する嬴政が、なぜその考えに至ったのかの経緯を広大な空間で紹介しています。

第12章「人の本質は光」展示風景 ©原泰久/集英社
第12章「人の本質は光」展示風景 ©原泰久/集英社

幼少期の嬴政を救った紫夏という女性、漂、王騎や麃公、そして名もなき者たち。これまで嬴政や信と出会い、支え、思いを託し、自分の中にある光を輝かせて死んでいったキャラクターたちの印象的なシーンが走馬灯のように出現し、原作読者の涙腺を揺さぶります。

原作で最高に盛り上がった名シーンの魅力を少しも損なうことなく、よりドラマティックになるようなアレンジが秀逸。この章が本展最大の見どころと言っていいかもしれません。

カラー原画や読み切りのネームも

最終章である第13章「雄飛の刻」は、第1話冒頭で描かれた、大将軍となった信の未来の姿をリメイクした描きおろしイラストなどを展示。過酷な運命を乗り越えてきた信と嬴政が新たな一歩を踏み出したところでストーリーの展示は終わります。

「エンディング」展示風景 「おまけ原画セレクション」には「『キングダム』といったらこれがなくちゃね」と感じるような名場面がずらり ©原泰久/集英社
「エンディング」展示風景 ©原泰久/集英社
「エンディング」展示風景 ©原泰久/集英社

本展の最後では、コアなファンが喜びそうな「エンディング」が観覧者を待ち構えます。各章に入りきらなかった名シーンを作者コメントとともに紹介する「おまけ原画セレクション」や、描きおろしの展示会キービジュアルを含むカラー原画、『キングダム』のプロトタイプともいえる読み切り「黄金の翼」のネーム、ラフスケッチなど、貴重なアイテムが並んでいました。


『キングダム』最大の魅力のひとつである臨場感あふれる戦闘シーンや、生命力に満ち満ちたキャラクターの表情など、生原画の書き込み具合を隅々まで堪能できる「キングダム展 -信-」。

見るというより”読んでいく”感覚で歩けるこの展覧会は、ライトなファンもコアなファンも変わらず信の物語を一から新鮮な気持ちで楽しめるはず。ぜひ足を運んでみてください。

展覧会オリジナルグッズの中では、騰(とう)将軍の”ファルファル”だけが印刷されたマスキングテープが異彩を放っていました。 ©原泰久/集英社

 

「キングダム展 -信-」概要

会期 2021年6月12日(土)~7月25日(日)
会場 上野の森美術館
開館時間 10:00~20:00 ※最終入館は閉館の1時間前まで
観覧料 全日日時指定制 詳細は公式サイトよりご確認ください。
https://kingdom-exhibit.com/ticket
主催 集英社、朝日新聞社
協賛 共同印刷、ローソンチケット
問い合わせ 050-5541-8600 (ハローダイヤル 全日9時~20時)
公式サイト https://kingdom-exhibit.com/

 

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特別展「イサム・ノグチ 発見の道」会場レポート (東京都美術館 ~2021/8/29まで開催)

東京都美術館
「あかり」インスタレーション

東京・上野の東京都美術館では、2021年4月24日から8月29日までの期間、特別展「イサム・ノグチ 発見の道」が開催中です。

「彫刻とは何か」を生涯にわたり模索するなかでイサム・ノグチが歩んだ「発見の道」を、約90件の作品でたどる本展。会場の様子や展示作品についてレポートします。

彫刻家、イサム・ノグチについて

舞台美術やプロダクトデザイン、ランドスケープ・デザインなど、さまざまな分野で類まれな才能を発揮した20世紀を代表する彫刻家、イサム・ノグチ(1904-1988)。

誰もが知る巨匠でありながら、彫刻の作品群を一見すればわかるように、ノグチは独自の彫刻哲学によって一つの形態や素材に固執することを良しとしませんでした。

拠点すらも一つではなく、ニューヨークと日本、ときにはイタリアを行き来しながら創作活動を続けたという、いろいろな意味で「安住しない」人物です。

父が日本人、母が米国人という自身のアイデンティティへの葛藤から生まれた寂しさや強烈な帰属願望を創作の糧にしていたノグチですが、その安住を避ける創作姿勢から表出した作品は驚くほど多様で、豊かな表情に彩られています。

「イサム・ノグチ 発見の道」と題された本展は、重要なインスピレーションを与え続けたという日本の伝統や文化の諸相をはじめ、集大成である晩年の石彫に至るまでにノグチが得た出会いを、90件あまりの多彩な作品を通して一望。ノグチが拓いた彫刻の可能性や芸術の境地を体感しようというものです。

展覧会名になった、イサム・ノグチ《発見の道》1983-1984年 安山岩 鹿児島県霧島アートの森蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

特別展「イサム・ノグチ 発見の道」会場の様子

第1章 展示風景 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
第2章 展示風景 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
第3章 展示風景 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

本展の会場は「彫刻と空間とは一体である」というノグチの思想に基づいた全3章の展示空間で構成されていますが、全体を眺めてまず気づくのは壁の少なさ。作品が広いフロアに点々と配置されていました。

いわゆる回遊式の展示ということで、感性の赴くままにノグチ作品の世界に没頭することができます。

また、一部をのぞき、作品をガラスケースに入れずに展示しているのも特徴です。

「公共の楽しみという目的がなければ彫刻の意味そのものに疑問が呈されてしまう」、「彫刻をなにか切り離された、神聖犯すべからざるものとしてみたことはない」(注1)

と語ったこともあるノグチ。ただの鑑賞物としてではなく、生活のなかにある彫刻の有用性にこだわった彼の作品は、本展のように人々と隔てのない形で展示されることでより生き生きと輝くのかもしれません。

第1章「彫刻の宇宙」

イサム・ノグチ《黒い太陽》1967-69年 スウェーデン産花崗岩 国立国際美術館蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
イサム・ノグチ《化身》1947年(鋳造1972年) ブロンズ イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵 (公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与) ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
イサム・ノグチ《ヴォイド》1971年(鋳造1980年) ブロンズ 和歌山県立近代美術館蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

第1章「彫刻の宇宙」フロアにあるのは、星のように散りばめられた1940年代から最晩年の80年代の多様な作品。

角度を変えるとまるで凹凸がうごめいているように錯覚する《黒い太陽》や、無限の時空間を想起させる《ヴォイド》など注目作品は多いですが、最大の見どころはやはり、展示室の中心で存在感を放つ150灯の「あかり」による大規模インスタレーションでしょう。

「あかり」インスタレーション

ノグチが1951年に岐阜提灯と出会ってから制作がスタートした、太陽や月の光に見立てた「あかり」。一定の素材や形態に固執することを避けたノグチには珍しく、30年以上かけて200を超すバリエーションを作り続けた、ライフワークとも呼ぶべき特別なシリーズです。

ノグチは「あかり」を単なる照明器具ではなく、和紙を通した光そのものを彫刻とする「光の彫刻」であり、「暮らしにクオリティを与え、いかなる世界も光で満たすもの」(注2)と考えていました。

従来の彫刻の概念を拡張し、「彫刻とは何か」を問い続けたノグチが至った一つの完成形です。

ゆっくりと明滅を繰り返す「あかり」のインスタレーションの下には通路が設けられ、そのなかを歩くことが可能。分け隔てなく世界を照らす柔らかな光に、優しく包まれるような心地よさを覚えました。

第2章「かろみの世界」

イサム・ノグチ《坐禅》1982-83年 溶融亜鉛メッキ鋼板 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

第2章では、日本文化の在り様に内包される「軽さ」の要素を作品に取り入れようとしたノグチが挑んだ「かろみ(軽み)」の世界を体感できます。

《坐禅》をはじめ、折り紙や切り紙から得た着想をもとに制作された金属板の彫刻は、一枚のアルミニウム板を折り曲げたものや、鋼鉄板を切断して組み合わせたものとさまざまですが、受ける印象はまさに紙さながらの軽やかさ。

平面的でありながらボリュームや奥行きが存在する、ノグチの目指したという「彫刻の重さと物質性の否定」を体現しています。

イサム・ノグチ《リス》1988年 ブロンズ 香川県立ミュージアム蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
ノグチがこの世を去る最晩年に制作された《リス》は、丸みを帯びた耳と尾がかわいらしい。
《プレイスカルプチェア》2021年 鋼鉄 茨城放送蔵

遊園地の建設プランをもっていたノグチは大型遊具の制作にも着手していて、そのうちの一つが、フロアでひと際目を引く遊具彫刻《プレイスカルプチュア》。波のようにうねるパイプを輪にしたような特徴的なフォルムは、子ども心をくすぐる躍動感と弾むような軽やかさに満ちています。

「あかり」インスタレーション
第1章に続き、こちらにも型違いの「あかり」が登場。「明かり(light)」=「軽い(light)」ということで、ノグチの「かろみの世界」を体験するうえでは欠かせない存在。
フリーフォームソファ、フリーフォームオットマン
展示室の片隅ではノグチがデザインしたソファも設置され、自由に座ることが可能。すっとした軽やかな佇まいでなかなかの座り心地でした。

第3章「石の庭」

イサム・ノグチ《無題》1987年 安山岩 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵 (公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与) ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

香川県牟礼町には、ノグチの野外アトリエと住居をそのまま美術館にした「イサム・ノグチ庭園美術館」がありますが、第3章「石の庭」フロアでは、同館に残る石彫作品を特別展示。牟礼以外でまとめて展示されるのは、1999年の同館開館以来、本展が初となるそうです!

牟礼の豊かな自然の下、石工・和泉正敏の助けを借りて石の本質と向き合い、あらゆるものが照応しあうアトリエで自らの感覚と世界をつなげることで「石の声」を聞くようになったというノグチ。

ありのままの石の姿を残しながら必要最小限の手だけ加えていくというまったく新しい表現方法で、ノグチの集大成とも呼ばれる石彫作品群を制作していきました。

イサム・ノグチ《ねじれた柱》1982-84年 玄武岩 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵 (公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与) ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

約3メートル、本展で最も大きな彫刻である《ねじれた柱》は、巨石本来のエッセンスを巧みに生かしながら大胆な削りを入れた大作。不思議なバランスで保たれた威容に圧倒されます。

イサム・ノグチ《フロアーロック(床石)》1984年 玄武岩 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵(公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与)  ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713

2つの岩を多角的に直線で削った《フロアーロック(床石)》は、研磨された石肌と地肌のコントラストや刃文のように浮かんだ模様に鋭さのある作品。突きつめられた造形美には、作品に向き合ったノグチの気迫がそのまま宿っているかのようでした。


彫刻を「ただ見つめるだけでなく完全に経験すべきなにか」(注3)としてとらえていたイサム・ノグチの作品の世界。ぜひ本展に足を運んで、<ノグチ空間>を全身で体験してみてください。

 

<特別展「イサム・ノグチ 発見の道」概要> ※日時指定予約推奨

会期 2021年4月24日(土)~8月29日(日)
会場 東京都美術館 企画展示室
開館時間 9:30~17:30 (入室は閉室の30分前まで)
休室日 月曜日 (ただし、7月26日、8月2日、8月9日は開室予定)
観覧料 【日時指定予約推奨】
一般 1,900円、大学生・専門学校生 1,300円、65歳以上 1,100円

・高校生以下無料
・身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添の方(1名まで)は無料。
※高校生、大学生、専門学校生、65歳以上の方、各種お手帳をお持ちの方は証明できるものの持参が必須。
詳しくはこちらから⇒https://isamunoguchi.exhibit.jp/ticket.html

主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション、文化庁、独立行政法人日本芸術文化振興会
問い合わせ 03-5777-8600 (ハローダイヤル)
公式ページ https://isamunoguchi.exhibit.jp/

(注1) イサム・ノグチ/北代美和子訳『イサム・ノグチ エッセイ』、みすず書房、2018年、P23、P96
(注2) ドウス昌代『イサム・ノグチ 宿命の越境者』、講談社、2000年、P318
(注3) イサム・ノグチ/北代美和子訳『イサム・ノグチ エッセイ』、みすず書房、2018年、P197

参考文献:
「『イサム・ノグチ 発見の道』公式図録」(朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション)
ドウス昌代『イサム・ノグチ 宿命の越境者』(講談社)
北代美和子訳『イサム・ノグチ エッセイ』(みすず書房)

 

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【東京国立博物館】特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」会場レポート|鳥獣戯画の世界をまるっと楽しむ!全巻・全場面を展覧会史上初の一挙公開

東京国立博物館

 

(2021年6月1日追記)【再開のお知らせ】
特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」は緊急事態宣言に伴う東京都の要請を受けて示された文化庁の方針により休館していましたが、6月1日より再開、また会期が6月20日(日)まで延長されることになりました。
最新の情報については、本展覧会の公式サイトをご確認ください。

https://chojugiga2020.exhibit.jp/

 

2021年4月13日から5月30日まで、東京・上野にある東京国立博物館で特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」が開催中です。

擬人化した動物や人々の営みが生き生きと描かれた、時代を越えて人々の心をとらえ続ける日本絵画史屈指の名作《鳥獣戯画》。その全4巻・全場面を一挙公開という展覧会史上初の試みで話題を集める本展を取材しましたので、展示内容や見どころをレポートします。

※会期は前期(4月13日~5月9日)と後期(5月11日~30日)に分かれます。本記事において写真付きで紹介する作品に関しては、下部の情報欄に期間表記がないものはすべて全期展示です。

意外と知らない? 謎多き《鳥獣戯画》の世界

《源氏物語絵巻》《伴大納言絵巻》《信貴山縁起》と並んで日本四大絵巻の一つとして数えられ、京都の古寺・高山寺が守り伝えてきた国宝《鳥獣戯画》。

日本絵画のなかでも抜群の知名度を誇りますが、《鳥獣戯画》が別名《鳥獣人物戯画》とも呼ばれ、動物だけでなく人物も描かれていることや、制作にかかわった絵師が一人ではないと推定されていることなど、全体像を把握している人は意外に少ないのではないでしょうか。

国宝《鳥獣戯画 甲巻》(部分) 平安時代 京都・高山寺蔵 / 私たちがよく目にする擬人化された動物たちは《鳥獣戯画》のほんの一部の登場人物(動物?)なのです。

今から800年ほど前、平安時代の終わり~鎌倉時代の初め頃にかけて段階的に描かれたとされる本作ですが、実は作者、制作目的、高山寺への収蔵経緯など、詳しい背景のほとんどが未だ明らかになっていないミステリアスな作品です。

 全4巻の巻ごとに関連性があるといえばあるが、最初からシリーズものとして構想されたわけではなさそう……。

一般的な絵巻に記されている詞書(ことばがき)と呼ばれる文字情報が一切なく、共通したテーマがあるのかさえわからない……。

というように、一度目にすれば忘れないタイムレスな絵のセンスと比較して、その他の情報はどこまでもぼんやりと実体を見せない作品といえます。

作品を読み解くには真摯に作品そのものと向き合うしかありませんが。その底の知れなさが研究者たちの探求心をかき立て、私たちを惹きつける要素となっているのは間違いないでしょう。

本展は、そんな謎多き《鳥獣戯画》の世界を一望できるまたとないチャンスです。

特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」の
会場の様子と展示内容

エントランスには《鳥獣戯画》のイラストを動かしたムービーも。
会場のいたるところに動物たちがいて和みます。
会場風景
会場風景

2つの会場の空間を贅沢に使った本展は、3章仕立てで構成されています。ここからは各章それぞれの展示内容を紹介します。

【第1章】国宝 鳥獣戯画のすべて

国宝《鳥獣戯画 甲巻》(部分) 平安時代 京都・高山寺蔵 / 蛙・兎・猿をはじめ、11種類の動物たちの多くが擬人化され生き生きと描かれています。
国宝《鳥獣戯画 乙巻》(部分) 平安時代 京都・高山寺蔵 / 16種類の実在・空想動物が登場する動物図鑑のような乙巻。甲巻と違って動物が擬人化されていません。
国宝《鳥獣戯画 丙巻》(部分) 平安~鎌倉時代 京都・高山寺蔵 / 丙巻は前半が賭け事や勝負事を楽しむ人々の様子を描いた人物戯画、後半が祭りや蹴鞠を楽しむ動物たちの様子を描いた動物戯画で構成されています。人物の表情の巧みな書き分けが秀逸。
国宝《鳥獣戯画 丁巻》(部分) 鎌倉時代 京都・高山寺蔵 / 丁巻は人物主体で、ほかの3巻に比べて線描が太く、おおらかな筆致が特徴。甲巻や丙巻のモチーフを踏まえた画面が多く、巻をまたいだ見比べが楽しい巻です。

甲・乙・丙・丁の全4巻、合わせて約44メートル(!)にもなる全場面を、会期を通じて一挙展示するという取り組みが目玉の第1章。会期中に巻き替えが実施されていたこれまでの展覧会では叶わなかった、筆運びや表現の差異など各巻の横断的な見比べができるのがファンにとってはたまらないポイントでしょう。

また、第1章では動く歩道を設置して《鳥獣戯画》を鑑賞してもらおうという前代未聞の挑戦も見逃せません。

動く歩道は甲巻の前に設置されています。

一番人気があるだろう甲巻の前に設置したのは新型コロナウイルス感染症対策を視野に入れたものかと思いますが、人と押し合うこともなく、とてもゆっくりとした動きなので「速すぎて見られなかった!」といった不都合もなく……。誰もが最前列でじっくり作品に向き合うことができる画期的な設備だと感じました。

そもそも絵巻は右から左へ、広げて、巻き上げて、また広げてという動的な鑑賞方法で楽しむもの。この試みは、自ら絵巻を紐解いているかのように感じてほしい、という主催側の粋な計らいともとれます。

【第2章】鳥獣戯画の断簡と模本――失われた場面の復原

第2章では、部分的に欠落した絵巻の一画面を掛け軸にした断簡や、原本で失われた画面を写し留めている模本が展示されています。

実は、現在まで伝わっている《鳥獣戯画》の原本にはいくつか画面の欠けがあり、現状の甲巻は錯簡(画面の順序が入れ替わること)の指摘もあるそうです。そこで本展では原本・断簡・模本を国内外から集結。かつて存在した「鳥獣戯画のすべて」を俯瞰しようと試みています。

重要文化財《鳥獣戯画断簡 (東博本)》(部分) 平安時代 東京国立博物館蔵

たとえば《鳥獣戯画断簡(東博本)》の左側、蛙が持つ蓮の傘の下辺りに黒い点々が見えますが、これは現状の甲巻の第16紙に描かれた萩の花とつながるため、この断簡がもともと第16紙の前に位置していたことが判明しています。

《鳥獣戯画模本(長尾家旧蔵本)》(部分) 伝土佐光信筆 室町時代 アメリカ、ホノルル美術館蔵 前後期で展示替えあり / ユーモアたっぷりの高跳びシーン。

画面の内容が現状の甲巻第11紙以降に相当する《鳥獣戯画模本(長尾家旧蔵本)》は、甲巻が錯簡となる以前の状態を写しているとのこと。さらに、高跳びをする兎と猿といった現状では確認できない画面も留めているなど、かつての甲巻を知るために非常に役立つ資料となっています。

断簡や模本の情報をもとに、かつての甲巻の姿をわかりやすく紹介する参考展示も。

このようにさまざまなヒントをかき集めて、謎を解くように全貌を明らかにしていく行為に胸がときめくという方も多いのでは。ここから第1章の原本に戻ってみれば、1回目の鑑賞時とは違った楽しみ方ができそうです。

【第3章】明恵上人と高山寺

奈良時代の創建とされ、学僧・明恵(みょうえ)上人によって鎌倉時代に再興された京都の高山寺は、《鳥獣戯画》のほかにも多くの文化財が伝わっています。

第3章では、28年ぶりの寺外展示となる重要文化財《明恵上人坐像》や、生涯にわたって明恵上人が記した夢の記録《夢記》、明恵上人の和歌をまとめた《明恵上人歌集》など、多くの人々に慕われた明恵上人の人柄がうかがえる高山寺ゆかりの美術品が展示されています。

重要文化財《明恵上人坐像》鎌倉時代 京都・高山寺蔵
重要文化財《明恵上人坐像》鎌倉時代 京都・高山寺蔵 / 生き写しのような等身木像。求道のために切断した右耳も再現されています。厳しさと優しさが共存するような眼差しが印象的。
重要文化財《夢記》明恵筆 1220年 京都・高山寺蔵 前期展示 / 見た夢の内容を約40年にわたり、飾らない言葉や絵で書き残したという明恵上人直筆の書。中世の宗教者の生の感情を知ることができる貴重な存在です。
重要文化財《子犬》鎌倉時代 京都・高山寺蔵 / 展示の最後で来館者を見送ってくれる、首をかしげる仕草がかわいい子犬の像は必見。明恵上人が手元に置いて愛玩したと伝えられています。

ゆかりの品々を見ていくにつれ、明恵上人にどこか親しみやすさを覚えていきます。どうやら明恵上人の存命中は《鳥獣戯画》は別の場所で保管されていたそうですが、小動物や草木にも愛情を注いだと伝わる明恵上人が礎を築いた高山寺だからこそ、《鳥獣戯画》が大切に守られてきたのだろうと想像がふくらみました。

見れば見るほど面白い!《鳥獣戯画》4巻の見比べ

先述のように、全巻全場面展示ならではの楽しみ方といえば横断的な見比べです。面白いものをいくつか取り上げます。

国宝《鳥獣戯画 甲巻》(部分) 平安時代 京都・高山寺蔵
国宝《鳥獣戯画 丁巻》(部分) 鎌倉時代 京都・高山寺蔵

甲巻と丁巻の法会の場面です。甲巻で描かれた泣く猿や扇を持つ兎などが、丁巻では同じような恰好や動作をする人間として配置され、動物たちでパロディしたモチーフをさらに人間でパロディするという、非常に面白い構図になっています。

国宝《鳥獣戯画 甲巻》(部分) 平安時代 京都・高山寺蔵
国宝《鳥獣戯画 丙巻》(部分) 平安~鎌倉時代 京都・高山寺蔵

動物戯画は甲巻と丙巻後半に描かれていますが、甲巻の動物が烏帽子をかぶっているのに対し、丙巻の動物は帽子に見立てた葉っぱをかぶっています。

同じ擬人化の手法を用いながら、甲巻の動物はより人間らしく振舞い、丙巻の動物はやや動物らしさが残っていることにどんな意図があるのでしょうか? 謎は深まるばかりです。

国宝《鳥獣戯画 乙巻》(部分) 平安時代 京都・高山寺蔵
国宝《鳥獣戯画 乙巻》(部分) 平安時代 京都・高山寺蔵

前半が日本動物、後半が異国動物・空想上の動物とモチーフが異なる乙巻は、筆致の微妙な違いも興味深いところ。

異国動物・空想上の動物はやや慎重でかっちりとした筆運びになっていますが、これは絵師の違いによるものではなく、絵師が手本を参考にしながら描いたためと考えられています。知らない動物を間違って表現しないよう、お手本に忠実に描いた結果というわけですね。

国宝《鳥獣戯画 丁巻》(部分) 鎌倉時代 京都・高山寺蔵

巻や画面をまたいだ見比べではありませんが、ぜひ確認してほしいのがこちら。一見すると稚拙な技量の絵師が書いたと思われがちな丁巻ですが、画面左で振り返っている公家風の男の顔を見ると、右で騒いでいる男たちと比較して非常にわかりやすく“上手い”ことが伝わるはず。

丁巻のおおらかな画風は、確かな技量をもった絵師があえてそのように描いていることが理解できるポイントなので必見です。

終わりに

ミュージアムショップ
会場限定オリジナルグッズもたくさん。

ミュージアムショップでは、《鳥獣戯画》に登場する動物たちをあしらったTシャツやマスキングテープなどかわいいアイテムが目白押しですが、やはり一番の注目アイテムは、ほぼ原寸大の全巻全場面やさまざまな論考を収めた公式図録でしょう。400ページ越えの大大大ボリュームでまさに決定版という趣なので、ファンの皆さんはこの機を逃さないようチェックしてくださいね。

ちなみに、本展の音声ガイドナビゲーターは人気声優の山寺宏一さんと恒松あゆみさんが担当しています。軽妙な語り口で、子どもでも楽しく聴けるような平易な言葉で解説されていますので、鑑賞のお供にぜひ。


墨による単色の線描でありながら、実に豊かな表現で私たちの心をつかんで離さない《鳥獣戯画》の世界。本展に足を運び、自分なりに作品を読み解いて“謎解き”に挑戦してみるのも一興かもしれません。

 

特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」概要 

※本展は事前予約制です。オンラインでの日時指定券の予約が必要です。詳細は展覧会公式サイトをご確認ください。また、国宝《鳥獣戯画 甲巻》は動く歩道でご覧いただけます。

会期 2021年4月13日(火)~5月30日(日)
(2021年6月1日追記)会期が6月20日(日)まで延長されました。最新の情報については、本展覧会の公式サイトをご確認ください。※会期中、一部作品の展示替え、および場面替えがありますが、国宝《鳥獣戯画》4巻は会期を通じ、場面替えなしで全場面を展示します。
会場 東京国立博物館 平成館
開館時間 午前9時~午後7時(最終入場は午後6時)
(2021年6月1日追記)会期延長を受け、開館時間が午前8時30分~午後8時(最終入場は午後7時)に変更されました。
※ただし、6月14日(月)は午後1時~午後8時開館
休館日 月曜休館 ※ただし5月3日(月・祝)は開館
観覧料 一般 2,000円、大学・専門学校生 1,200円、高校生 900円

※中学生以下、障がい者とその介護者1名は無料ですが、「日時指定券」の予約や学生証、障がい者手帳等の提示が必要です。詳細はこちらからご確認ください。
https://chojugiga2020.exhibit.jp/ticket.html

主催 東京国立博物館、高山寺、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社
協賛 鹿島建設、損保ジャパン、凸版印刷、三井物産
公式ページ https://chojugiga2020.exhibit.jp/

参考資料:「特別展『国宝 鳥獣戯画のすべて』図録」

 

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国立科学博物館「大地のハンター展」会場レポート|大迫力の巨大ワニや貴重な二ホンカワウソも。好奇心が刺激される標本が大集合

国立科学博物館

 

東京・上野にある国立科学博物館では、2021年3月9日から6月13日までの期間、特別展「大地のハンター展 ~陸の上にも4億年~」(以下「大地のハンター展」)が開催中です。

開催に先立って行われた報道内覧会に参加してきましたので、会場の様子や展示内容についてご紹介します。

ワクワクがつまった「大地のハンター展」会場

本展は、陸に上がってから約4億年の間に多様化した生物の「捕食」活動に注目。
獲物を捕えて食べる、陸上のハンター(捕食者)たちの生態やハンティングテクニックの広がりを、国立科学博物館が誇る貴重な標本コレクションを中心とした300点以上の標本展示で追っていく展覧会となっています。

すでに絶滅したものから現生のものまで。ハンターたちの標本は、哺乳類に爬虫類、両生類、鳥類、昆虫類など多彩な顔ぶれが「太古のハンター」、「大地に生きるハンター」、「ハンティングの技術」、「フォーエバー・大地のハンター」の4章構成で並べられていました。

「ライオン」「トラ」「ハヤブサ」などおなじみのハンターだけでなく、毒を使ったり寄生したり、あの手この手の策を弄する知られざるハンターたちが数多く紹介されているので、大人も子どもも知的好奇心が満たされること間違いなし! です。

「水辺のハンター」エリア展示風景
「森・密林のハンター」エリア。美麗な剥製標本がところ狭しと展示されています。
20種類を超える世界中のフクロウの標本。これだけの数のフクロウを一度に見られる機会はなかなかないのでは。
遠目には細長いタワシに見えますが、モグラです。地中を移動するモグラは目ではなく、アイマー器官という触覚装置で獲物が出す振動を感知して探索するのだとか。
「卵しか食べない」、「カタツムリやナメクジしか食べない」など、ヘビの偏食ハンターぶりを紹介するマニアックなエリア。
毒で獲物をゾンビのようにして操るハチや、ほかのクモが捕えた獲物を盗み食いするクモなど、さまざまな狩りのテクニックをもつトンボ・ハチ・クモが特集されたエリア。手のひらより大きい「タランチュラ(オオツチグモの一種)」など少し人を選ぶような標本もありますが、好きな方はたまらないかも?
通路の一角では研究者の皆さんの「推しハンター」がすてきなイラスト付きで紹介されていました。このほか多数ある解説パネルを読むと、「アリとシロアリってまったく違う昆虫だったんだ」「え、日本にもサソリっているの!?」そんな学びもあったので、できれば読み飛ばさず一読推奨です。

人気漫画『BEASTARS(ビースターズ)』とコラボレーション!

(C)板垣巴留(秋田書店)2017
(C)板垣巴留(秋田書店)2017

擬人化された動物たちの群像劇を描いた板垣巴留先生の人気漫画『BEASTARS(ビースターズ)』(秋田書店『週刊少年チャンピオン』刊)とコラボしているのも本展の魅力の一つ。レゴシやルイなど漫画のキャラクターたちが会場のあちこちで見どころを紹介してくれます。

複製原画の展示 (C)板垣巴留(秋田書店)2017

複製原画が多数展示されているコーナーもありましたので、ファンの方はぜひお見逃しなく。ただ、設置場所が通路だったため、混んでいるときはあまり長く立ち止まらないよう注意が必要かなと感じました。ミュージアムショップでは、本展描き下ろしのイラストが使用された限定グッズも販売されています。

ちなみに、本展の音声ガイドナビゲーターは人気声優の梶裕貴さんが担当されています。漫画ファン、声優ファンの方はより一層楽しめるかもしれません。

「大地のハンター展」展示品をピックアップ紹介

300点を超える展示品のなかから注目してほしいもの、面白いものをいくつかピックアップして紹介していきます。

◆デイノスクス

「デイノスクス 生体復元モデル」国立科学博物館蔵
同上

展示品は大きさもさまざまですが、超巨大なものでいうと、なんといっても入り口そばで来館者を出迎えてくれる、白亜紀に生息していたワニ「デイノスクス」の実物大生体復元モデルが圧巻!

最新の研究結果をもとに国立科学博物館の研究員による監修で制作されたもので、本展が初公開となるそうです。太古のハンターというとまず恐竜が思い浮かぶかもしれませんが、この「デイノスクス」は、なんとティラノサウルス科の恐竜も捕食していた(!)といわれるワニ。
全長は12mにも及んだとされていて、復元モデルは上半身のみですが目の前に立つとかなり迫力がありました。こんなのが水中から出てきたら気絶してしまいそう……。

◆芽殖孤虫

「芽殖孤虫」プレパラート標本・液浸標本 国立科学博物館蔵

極小サイズの標本としては、”沈黙のハンター”と評されていた寄生虫「芽殖孤虫(がしょくこちゅう)」が挙げられます。ヒトが感染すると、皮下のできものからだんだんとすべての臓器組織に侵入されてしまうそうです。これまで発見された十数例のうち半分以上が死亡例で、感染経路や生態がいまだ謎というのが怖いところ。1cmあるかないかのサイズ感ですが、デイノスクスとは違った意味での凄みがあるハンターでした。

◆ミツバヤツメ

「ミツバヤツメ」国立科学博物館蔵

「太古のハンター」エリアでひと際目を引いたのが、こちらの「ミツバヤツメ」頭部生体模型。RPGゲームに出てきそうなモンスター然としていて、端的に言って怖すぎます!
現在まで生き残っている顎がない脊椎動物の例で、クジラなどの表面に吸い付いて、血液や体液を吸って生活しているのだとか。今でこそ脊椎動物のほとんどは顎をもっていますが、こうした顎のない脊椎動物は古生代には多様に存在したそうです。「ミツバヤツメ」は貴重な生き残りということですね。

◆ワニガメ

「ワニガメ」国立科学博物館蔵

ハンティングの最も基本的な戦略は「待ち伏せ」ですが、なかにはただ待つだけでなく、疑似餌を用いて獲物を積極的に誘い込む、ルアーリングという技術を身につけたハンターたちもいます。

甲長が80cm、体重が80kg以上に達するというアメリカ大陸最大の淡水生のカメ「ワニガメ」は、川底に潜んで口を開け、ミミズそっくりなピンク色の舌を動かして魚を引きつけるそう。全体的に渋い色味で周囲の景色に溶け込みやすい一方で、舌だけが非常に目立つという、まさにルアーリング特化型として完成された姿に進化の歴史を感じました。

◆ササゴイ

「ササゴイ」国立科学博物館蔵

こちらもルアーリングを得意とする「ササゴイ」という鳥です。「ワニガメ」と違うのは、自らの体ではなく別の生物を利用する点。おとりの昆虫を水面に浮かべて、それに寄ってきた魚を捕えるそうです。まるで釣りのようで面白いですね! 体力をいたずらに消耗しない頭脳派ハンターたちの技の一部は動画でも鑑賞できました。

◆ベルツノガエル

「ベルツノガエル」国立科学博物館蔵

愛らしい見た目の標本も紹介していきます。
こちらは「ベルツノガエル」という、南米大陸に分布する最大で全長16cmほどに達するカエル。非常に丸っこい体型が特徴で、ペットとしても人気があるようです。つぶらな瞳と、ほよよんとした体からちょこっと覗く前足がなんとも言えずかわいいですね。待ち伏せ型ですが、口に入ればカエルや昆虫だけでなく、小型の鳥類や哺乳類まで食べてしまうということで、のんびりした見た目に反してかなり貪欲なハンターといえそうです。

◆チスイガラパゴスフィンチ

「チスイガラパゴスフィンチ」国立科学博物館蔵

ガラパゴス諸島のダーウィン島とウォルフ島のみに分布する鳥「チスイガラパゴスフィンチ」。「かわいい鳥がいるな」と近寄って説明を読んでみたところ、鳥のなかで唯一、血液を常食する鳥であるということで、吸血鳥なんて存在がこの世にいるのかと驚きました。「カツオドリ」という鳥の腰をクチバシで突いて流れ出た血を飲むそうで、かわいい顔をしてなかなか恐ろしいハンターぶりです……。ほかにもサボテンの花密や種子、昆虫なども食べると紹介されており、なぜ血液を食べるようになったのか不思議ですね。

◆ニホンカワウソ

「ニホンカワウソ」国立科学博物館蔵

本展では、ヒトもハンターとして紹介されています。ときには生態系のバランスを崩し、ときには多くの野生動物を絶滅の危機に陥れる“残念なハンター”として……。

ヒトの活動によって生息域を広げたハンターとして「アライグマ」や「フイリマングース」が、絶滅してしまったハンターの例として「ニホンカワウソ」や「ニホンオオカミ」の骨格標本が展示されています。「生態系のパズルは1ピースが欠落しただけで、回復するのに長大な時間を要する」というエピローグの言葉の重みをかみしめながらの鑑賞となりました。

「ニホンカワウソ」は乱獲や開発によって数を減らし、1979年の高知県の記録を最後に絶滅してしまったといわれています。こちらは、学名の基準として指定されたという非常に貴重なタイプ標本とのこと。

ミュージアムショップではオリジナルグッズを多数用意!

ミュージアムショップ
どの子を買って帰ろうか悩んでしまうラインナップ。
謎のスイーツ(?)の姿も……。

展示を見終わると、最後に特設ミュージアムショップがお目見え。ニホンカワウソのぬいぐるみやマスキングテープ、『BEASTARS』デザインのシーチングトートなど、本展オリジナルグッズをはじめとするアイテムが多数販売されていました。

「大地のハンター展」公式図録は、会場でもオンラインストアでも購入可。なかを読むと「おしえて!かわだセンセイ」という子ども向けのQ&Aコーナーもあるなど、本展の副読本として内容も充実していますので、気になった方は忘れずにチェックしてくださいね。

※オンラインストアはこちらから⇒ https://daichi-exhn.shop/


特別展「大地のハンター展 ~陸の上にも4億年~」の開催は6月13日(日)まで。ハンターたちの個性や魅力に触れながら、自然のすばらしさや環境保全の大切さを学ぶ本展に、ぜひ足を運んでみてください。

 

特別展「大地のハンター展 ~陸の上にも4億年~」開催概要>

会期 2021年3月9日(火)~ 6月13日(日)
会場 国立科学博物館 地球館
開館時間 9時~17時 ※入場は閉館時刻の30分前まで
休館日 月曜日
※3月29日(月)、4月26日(月)、5月3日(月・祝)・24日(月)・31日(月)、6月7日(月)は開館
入場料 一般・大学生2000円、小中高校生600円

※入場にはオンラインによる事前予約(日時指定)が必要です。詳細はこちらから⇒ http://daichi.exhn.jp/ticket/
※未就学児は無料。
※障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料。
※本展を観覧された方は、同日に限り常設展(地球館・日本館)もご覧いただけます。

主催 国立科学博物館、日本経済新聞社、BSテレビ東京
公式ページ http://daichi.exhn.jp/

記事提供:ココシル上野

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6,台東区役所,https://www.city.taito.lg.jp/

障害の有無にかかわらず文化・芸術活動を楽しめるように、区内の障害者施設や文化・芸術活動団体と協力して、障害者が参加しやすい文化・芸術イベントの開催や障害への理解を深める活動を行います。

【内覧会レポート】独創的な色彩に魅了される木版画の世界。「没後70年 吉田博展」が東京都美術館で開催中

東京都美術館

 

2021年1月26日より、東京・上野にある東京都美術館で特別展「没後70年 吉田博展」が開催中です。(会期は3月28日まで)

「絵の鬼」と評されるほどの研鑽を経て会得した高い描写力で、明治から昭和にかけて風景画の第一人者として活躍した画家、吉田博(1876-1950年)。

水彩・油彩画で才能を発揮しながら、画業後期には西洋の写実的画風と日本の伝統的な版画技術を合わせ、全く新しい木版画の世界を開拓。イギリスのダイアナ妃や精神科医フロイトをはじめ、世界の人々から愛されました。

本記事では、吉田博の初期から晩年までの木版画を中心に、約200点の作品を集めた「没後70年 吉田博展」の展示内容や見どころを紹介します。

展示風景
《瀬戸内海集 光る海》1926年 / 故ダイアナ妃の執務室に飾られていたことで知られる一作。
《上野公園》1938年 / 東京都美術館のある上野公園が題材となった作品。

※会期は前期(1月26日~2月28日)・後期(3月2日~3月28日)に分かれ、一部展示作品の入れ替えがあります。本記事で取り上げるのは前期期間中に鑑賞できる作品です。
※画像に期間表記のない作品は全期間展示です。

世界を魅了した吉田博の木版画

吉田博

「自然の中に自らを没し、仙骨(=仙人の境地)になりきることで初めて真の自然が描ける」という信念をもっていた吉田博は、徹底的な現場主義で、若き日から自然に飛び込み、風景写生に没頭し厳しく技術を磨いていきました。

1899年、23歳の博は、そのころ多くの日本人画家が留学したフランスではなく、アメリカをチャレンジの場所に選び、自分の絵を持てるだけ持って旅立ちます。日本人らしい抒情的なニュアンスを内包した博の作品は、アメリカの人々の心を魅了。現地で開いた個展で次々に大成功を収めました。

 

水彩・油彩画の分野で名を馳せた博が、本格的に木版画を手掛けるようになったのは、40代も半ばを過ぎてからのこと。1923年、3度目の渡米において現地の人々が、油彩よりもむしろ、玉石混交の木版画をこぞって求めている姿を目の当たりにしたことがきっかけとされています。

帰国後、博はすぐに木版画の制作を開始。その際、伝統的な浮世絵版画の技術に、西洋の写実描写を融合させることを着想します。色分けや構図も、伝統にとらわれないさまざまな工夫を施しました。

そして、特大版の版画への挑戦や、ときに100回近くにおよんだ摺り重ね、同じ版木を用い色を変えて異なる時間の光や大気の様子を表現する「別摺」など、次々に独創的な木版画の世界を広げ、国内外で称賛されました。

《陽明門》1937年 / 浮世絵の平均的な摺り数は10回程度とされるところ、96回という驚異的な数の摺り重ねによって制作されたもの。建築物の複雑な構造や古びが見事に表現されています。
《溪流》1928年 / 縦54.5×横82.8㎝。サイズが大きくなればなるほどズレが生じやすくなるという理由で制作が困難な特大版の作品にも、果敢に取り組んでいます。

「博が木版画で追究したのは、水彩や油彩の繊細な色彩表現を版画で実現することだったのではないでしょうか」と話してくださったのは、東京都美術館の学芸員である小林さん。

博は、自身も彫りや摺りの技を身につけ徹底的に研究したうえで、専属の彫師や摺師を雇い、作業をすべて監修しました。ときに自ら彫りや摺りを担当することもあったとか。自身を指揮者や建築家に例え、「どこまでやれば完成なのか、本人にしかわからない」といわれるほどの複雑な工程でも、完璧を求め一切の妥協をしなかったそう。

《日本アルプス十二題 劔山の朝》1926年 / 名シリーズ「日本アルプス十二題」のなかでも傑作と名高い一作。朝日に赤く色づいた山並みと、夜闇が残る野営地との対比。精緻な摺りによる色彩のグラデーションにより夜明けの瞬間が表現されています。

小林さんはこう続けます。「確かな画力をもった洋画家・吉田博だからこそ表現することのできた光や大気の様子、彼ならではの細やかな色相のニュアンスに注目していただければ」

展覧会を案内してくださった学芸員の小林さん

世界各地の風景を描いた木版画が一堂に。「没後70年 吉田博展」の展示構成

展示風景

本展は、プロローグ~第1章から11章~エピローグまで、おおまかな年代に沿ってテーマごとに吉田博作品を紹介する展示構成となっています。

各章は、アメリカやヨーロッパの風景、富士山や日本の山岳、日本各地の風景、インドと東南アジア、また朝鮮や旧満州の風景など、多様なテーマで構成されています。作品数が多いので、余裕をもった観覧時間を確保しておくといいでしょう。

主な出展作品は木版画ですが、プロローグでは木版画を手掛けるまでの博の歩みを振り返る意味で、代表的な油彩画や水彩画も鑑賞することができます。

《雲井桜》1899年頃 水彩、紙 福岡県立美術館 展示期間:1月26日~ 2月28日
《渓流》1910年 油彩・カンバス 福井市美術館

資料として写生帖も展示されています。必ずしも写生の構図どおりに木版画が制作されたわけではなかったようですが、博の目と絵心をとらえたものが何だったのか、その一端を垣間見られます。

資料といえば、木版画の版木が出展されていることにも注目。展示されている《冨士拾景 朝日》の主版(輪郭線を表すための版木)と色版を、完成作と見比べてみることで、彫りや摺りの難しさをより率直に理解することができました。

写生帖 / 鉛筆と水彩により各地の風景が描き留められていて、「早描きの天才」ぶりが伝わってきます。
(左)《冨士拾景 朝日 色版》(右)《冨士拾景 朝日 主版》1926年

さらに映像展示もあり、一つは木版画の制作工程を紹介する映像、もう一つは博の生涯を簡潔に紹介する映像です。特に後者は講談調のナレーションが入っているので、とてもわかりやすく楽しめました。

映像展示

注目作品と見どころをピックアップ紹介

吉田博は、日本に生きる洋画家として、世界に対抗しうるオリジナルな「絵」とは何かを模索し続けました。その熟考の末にたどりついた答えこそが木版画だったのです。見どころは数え切れませんが、ここでは筆者が特にすばらしいと感じたポイントをピックアップして紹介します。

見どころ① 登山家ならではの視点で描かれた山岳風景

《欧州シリーズ ユングフラウ山》1925年
《米国シリーズ グランドキャニオン》1925年
《冨士拾景 御来光》1928年

自然を愛した博は、毎年夏になると山に籠って写生に明け暮れるほど、とりわけ山に強い関心をもっていました。本格的な登山により眺めた風景を多く作品に残していることから、「山の画家」「山岳画家」と呼ばれています。

山の頂きまで登り、天候が千変万化する山岳に対峙しながら、自分が求める一瞬のために納得いくまで何日でも野営していたそう。そうして写しとった雄大な山岳風景は、博の作品の中でも最上の見どころの一つ。

中でも《冨士拾景 御来光》のように、山頂から雲海を見下ろす構図は山岳画家の面目躍如といっていいでしょう。絶妙な切れ間が生まれた流れ雲と、奥から上り始める太陽が完璧なタイミングで写しとられ、その明媚なさまは筆舌に尽くしがたいほど。何者も侵しがたい静寂に包まれた山の姿がそこにあります。

見どころ② 時間の変化を色彩で巧みに表現した「別摺」の作品

(左)《欧州シリーズ スフィンクス 夜》(右)《欧州シリーズ スフィンクス》1925年
《瀬戸内海集 帆船》シリーズ6作
《瀬戸内海集 帆船 朝》1926年
《瀬戸内海集 帆船 午後》1926年

博は、同じ版木を使って異なる色の作品をつくる「別摺」の技法を用い、「朝」と「夜」など、時間の経過で移ろいゆく視界の変化を表現しました。

例えば、博の代表作の一つである《瀬戸内海集 帆船》シリーズでは、「別摺」によって「朝」「午前」「午後」「霧」「夕」「夜」と、異なる瞬間の同じ光景が描かれ、光や大気の違いが色彩で表情豊かに描写されています。

「ただ色を変えただけでしょう?」と思うなかれ。「午前」の帆船の帆だけには、遊び心なのかうっすらと模様が加えられています。「夕」の後方に描かれた船のシルエットは「午後」にはなかったもの。「夜」には帆船の中と背景に光が灯され……などなど、比べれば比べるほどディティールに細かな差異が見つかり、飽きることがありません。

ひときわ美しいのは「朝」。朝日が逆光となり、帆船の輪郭が赤く色づき、海原と空との境がグラデーションによって曖昧にされていることで幻想的な雰囲気に。柔らかな印象を受ける太陽の輝きをよく観察すると、同心円状に細かく色が白抜きされているのがわかります。

このように、「別摺」であっても一つひとつ惜しみない手間がかけられている点にも、ぜひ注目してみてください。

見どころ③ さまざまな光の描写

《東京拾二題 神樂坂通 雨後の夜》1929年
《印度と東南アジア フワテプールシクリ》1931年

展示作品を鑑賞していると、博が光の描写にも並々ならぬ情熱を注いでいることが伝わってきますが、皓々たる月や提灯の灯りなど、闇の中に優しく落とされる光の情趣はなんとも言い難い魅力があります。

特に存在感を放つのは、沈む寸前の夕日から届くような黄金色の光。

《印度と東南アジア フワテプールシクリ》に見られる、イスラム建築のアラベスクからにじみ出る金の光は、異国の空気を余さず伝えています。

この乱反射を表現するために淡い同系色が何度も摺り重ねられたそうですが、もはやどのように版を重ねたのか見当もつかず、博は魔法が使えたと言われたら信じられそうなほど。輪郭線が抑えられているためか、言葉を失うような美しさと相まって、どこか宙に浮いたような、この世のものではない世界を覗いたような印象を見る者に抱かせます。

見どころ④ 水面の倒影

《山中湖》1929年
《東京拾二題 亀井戸》1927年

海をはじめ、川、池、湖、水たまりと、博の木版画にはさまざまな種類の水辺が登場します。それらの水面には風景や建物が映り込み、中には水面に映った景色があってはじめて構図が完成するような作品があるところも見どころです。

筆者が唸ったのは、《山中湖》の見事な逆さ富士や、《東京拾二題 亀井戸》に見られる太鼓橋の実体と池の影とのシンメトリー。

後者は一見すると、満開を迎えた藤の花房に目が行きがちですが、視線を下にずらしてみれば、藤よりもよほどこだわっていたのでは、と感じるほどリアルに描かれた橋の投影に刮目するでしょう。太鼓橋が影と織りなす構図が奇妙なぐらいに美しいこと。真偽はどうあれ「博はこれこそ絵に写しとりたかったのだ」と腑に落ちるようでした。博の美意識の在りようがいかなるものか、想像が膨らむ作品です。

 


博の木版画の美しさに圧倒された後は、展覧会グッズのチェックも忘れずに。
額絵ポスターやポストカードといった定番アイテムはもちろん、トートバッグ、A5ノートブック、チケットファイル、マスクケース、風呂敷、塗り絵セット、変わり種としてはチョコかりんとうなど、吉田博作品の魅力を生かした本展覧会オリジナルのグッズも用意されていました。

図録とグッズの一部はオンラインショップでも購入可能で、展覧会に足を運べないという方は公式図録(税込2,200円)で博の世界に浸るのもおすすめです。

<オンラインショップ https://www.mainichi.store/categories/3121995

展覧会グッズ売り場
A5ノートブックには《上野公園》デザインのものも。観覧記念にピッタリかもしれません。

なお、2月9日からは、本展で展示される吉田博の版画作品と、東京国立博物館所蔵の吉田博の油絵作品《精華》、そして吉田博と同時代の芸術家である黒田清輝の作品を常設展示している黒田記念館の作品について紹介する、無料の音声解説プログラムが配信されるとのこと。スマートフォン、タブレット、PCで聴くことができ、会場でも自宅でも、二人の芸術の足跡をたどる旅が楽しめます。

<詳細はこちら https://www.tobikan.jp/information/20210126_1.html

東京都美術館「没後70年 吉田博展」の開催は2021年3月28日まで。
年々人気が高まる吉田博の大規模展覧会を、ぜひ見逃さないようにしてください。

 


「没後70年 吉田博展」

会期 2021年1月26日(火)~3月28日(日)
※会期中、一部展示替えがあります。
会場 東京都美術館 企画展示室
開室時間 午前9時30分〜午後5時30分(入室は午後5時まで)
休室日 毎週月曜日
観覧料 一般 1,600円、大学・専門学校生 1,300円、高校生 800円、65歳以上 1,000円
※中学生以下は無料(証明できるものを持参)
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料(証明できるものを持参)
主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、毎日新聞社、日本経済新聞社
共催 トヨタ自動車、ニューカラー写真印刷
公式ページ https://yoshida-exhn.jp

その他のレポートを見る

【国立科学博物館】企画展「メタセコイア -生きている化石は語る」 開催のお知らせ ≪2021年1月26日㈫~4月4日㈰まで≫

国立科学博物館
「メタセコイア ー生きている化石は語る」ポスター

 

独立行政法人 国立科学博物館(館長:林 良博)は、2021年1月26日(火)から2021年 4月4日(日)までの期間、企画展「メタセコイア -生きている化石は語る」を開催いたします。
【詳細URL: https://www.kahaku.go.jp/event/2021/01metasequoia/ 】

 

  • 企画展「メタセコイア -生きている化石は語る」開催概要

「生きている化石」と呼ばれるヒノキ科の針葉樹メタセコイアが三木茂博士(1901 年~1974 年)によって命名されてから 2021 年で80年を迎えます。
本展では、メタセコイアの発見や保護をめぐる研究者たちの努力を紹介するとともに、植物と地球環境の変化の関わりを解説します。また、その保護活動の紹介を通じて、現代の私たち人類が直面する環境問題などの課題にも向き合います。

メタセコイア樹幹化石 写真提供:筑波大学生命環境系

 

メタセコイア化石 所蔵:国立科学博物館

【会   場】国立科学博物館 日本館1階 企画展示室(東京都台東区上野公園 7-20)

【会   期】2021(令和 3)年1月26日(火)~4月4日(日)

【開館時間】午前9時~午後5時

【休 館 日】毎週月曜日(ただし、3月29日(月)は開館)
※会期等は変更となることがあります。

【観覧料金】常設展示入館料のみでご覧いただけます。
(一般・大学生:税込630円、高校生以下および 65歳以上無料)

【入館方法】新型コロナウイルス感染拡大防止の対策を実施しています。
※入館にあたっては、当館ホームページでの事前予約が必要です。
※入館前に検温、体調等の確認をし、発熱等がある場合は入館をお断りします。
※入館方法の詳細等については、当館ホームページの予約サイトをご覧ください。
https://www.kahaku.go.jp/news/2020/reservation/index.html

【主  催】国立科学博物館

【協  力】アキシマエンシス(昭島市教育福祉総合センター)、一般財団法人日本緑化センター、大阪市立自然史博物館、大阪市立大学理学部附属植物園、神奈川県立生命の星・地球博物館、宮内庁、滋賀県立琵琶湖博物館、筑波大学生命環境系、東京大学大学院理学系研究科附属植物園、福井県立恐竜博物館、福島県立博物館

【詳細URL】https://www.kahaku.go.jp/event/2021/01metasequoia/

 

  • 展示内容

■メタセコイアってどんな植物?
メタセコイアは校庭や並木道など身近なところで見られる落葉樹です。その特徴やなぜ「生きている化石」と呼ばれるのかを紹介します。

メタセコイアの木

■世界が驚いたメタセコイアの発見
三木博士が名付けた化石のメタセコイアと、その後発見された現生種。2つの「発見」にまつわる物語を紹介します。

三木茂博士 写真提供:大阪市立自然史博物館

■メタセコイアが生きた時代とは?-日本の化石産地から-
東京と近畿で発見されたメタセコイアの化石林研究の成果をもとに、数百万年前の環境やそこに暮らした動植物を紹介します。

古琵琶湖周辺の景観図 画:ブライアン・ウィリアム 所蔵:滋賀県立琵琶湖博物館

■メタセコイアはなぜ日本から絶滅した?
北極圏にまで広がっていたメタセコイアがなぜアジアの一部地域だけに残り、日本から姿を消してしまったのか、そのミステリーに迫ります。

国内最古のメタセコイア化石 所蔵:福島県立博物館

■メタセコイアの現在・未来
現生種発見のあと、研究者たちの努力でメタセコイアは再び世界に広がりました。自生地や日本での保全活動を紹介します。

メタセコイア自生地(中国・湖北省) 写真提供:塚腰実、厚井聡

■メタセコイアから何を学ぶ?
絶滅をのがれたメタセコイアは、いま再び環境問題に直面しています。「生きている化石」を通じて、私たちは何を学んだらよいのでしょうか?

三木博士が研究したメタセコイア標本 所蔵:大阪市立自然史博物館

 

  • 国立科学博物館

※現在、入館には事前予約が必要です。ご来館前に必ず公式ホームページをご覧ください。
【開館時間】9:00 ~17:00
【休 館 日】毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は火曜日)
【入 館 料】 一般・大学生 税込630円、高校生(高等専門学校生含む)以下および65歳以上 無料
【所 在 地】〒110-8718 東京都台東区上野公園 7-20
【問い合わせ】050-5541-8600(ハローダイヤル)
【公式ホームページ】https://www.kahaku.go.jp/

 

記事提供:ココシル上野


その他の展覧会情報を見る

 

4,上野の森美術館,https://www.ueno-mori.org/

台東区内の障害のある方が制作した絵画・書道等の作品を公募、展示する「森の中の展覧会」を開催。また、若手作家を講師に、区内の障害者施設を訪問し、「自己表現」や「オリジナリティ」を主題とした内容の絵画教室を行っています。