東京国立博物館
平安時代前期に成立し、さまざまな変化を遂げながら描き継がれてきた「やまと絵」。
東京国立博物館で開催される特別展「やまと絵-受け継がれる王朝の美-」は、常に革新的であり続けてきたやまと絵の系譜をたどる展覧会だ。
本記事では開催前日に行われた報道内覧会の様子をレポートする。
やまと絵とは?
特別展「やまと絵-受け継がれる王朝の美-」は、平安時代以降、連綿と描き継がれてきた「やまと絵」に焦点を当てた展覧会。
しかし、興味深いのは「やまと絵」の概念は時代によって大きく変化してきたという点です。
平安時代から鎌倉時代頃にかけては、中国的な主題を描く「唐絵」に対し、日本の風景や人物を描く作品を「やまと絵」と呼んでいましたが、それ以降は、水墨画など中国の新しい様式による絵画を「漢画」と呼ぶのに対し、前代までの伝統的なスタイルに基づく作品を「やまと絵」と呼びました。
つまり、つねに「やまと絵」は異国由来の絵画に対する対概念として存在していたのです。
本展では、王朝美の精華を受け継ぎながらも常にそのあり方を変化させてきた「やまと絵」を、特に平安時代から室町時代の優品を精選して紹介しています。
日本美術の「実物教科書」が目白押し!
本展は全6章構成。
序章 伝統と革新—やまと絵の変遷—
第1章 やまと絵の成立—平安時代—
第2章 やまと絵の新様—鎌倉時代—
第3章 やまと絵の成熟—南北朝・室町時代—
第4章 宮廷絵所の系譜
終章 やまと絵と四季—受け継がれる王朝の美—
唐絵や漢画といった外来美術の理念や技法との交渉を繰り返しながら、独自の発展を遂げてきたやまと絵の変遷を、各時代の特色とともに作品を通じて体感できる構成になっています。
これぞ日本美術の王道!ともいえる教科書的な作品、美術全集などでおなじみの作品が一堂に会するさまは壮観そのもの。
総件数245件の7割超が国宝、重要文化財で、会場には絵画のみならず、書跡や工芸作品など、やまと絵の美意識を支えた同時代の作品も数多く出品されています。
その中でも「本展一押し」の作品とされるのが、室町時代やまと絵屈指の優品として名高い重要文化財《浜松図屏風》(東京国立博物館蔵)。
まぶしく輝く浜辺の風景に多くの花木や草花、鳥の姿を重ね、画面右から左に移ろう季節が表わされており、大変にぎやかな印象を受ける大作です。古代・中世やまと絵のさまざまな要素を集約した「究極のやまと絵」とのこと。
実際に間近で観ると画面全体が鈍く光を放っているようにも見えるのですが、これは下地に雲母(きら。層状のケイ酸塩鉱物)を掃く室町時代やまと絵特有の技法によるものだそうです。後世の安土桃山時代のような金を前面に押し出した華やかさとは違う、まるで月夜の薄明りのような輝き・・・。どこか、日本人の奥ゆかしい美意識の一端が感じられます。
日本絵巻史上の最高傑作、「四大絵巻」が集う
また、数ある絵巻物のなかでも最高傑作として名高いのが平安時代末期に制作された「四大絵巻」。
本展では現存最古にして最高峰の王朝物語絵巻である《源氏物語絵巻》をはじめとして、《信貴山縁起絵巻》《伴大納言絵巻》、そして有名な《鳥獣戯画》(いずれも国宝)が一同に会します。
こちらは四大絵巻のひとつ国宝《鳥獣戯画》(京都・高山寺蔵)。2015年に東京国立博物館で開催された「鳥獣戯画展」の大変な混雑ぶりが記憶に強く残っていますが、そのユーモラスさと愛らしさから多くの人に親しまれてきた作品です。
四季の移ろい、月ごとの行事、花鳥・山水やさまざまな物語・・・やまと絵にはあらゆるテーマが描かれてきましたが、やはりこの《鳥獣戯画》に描かれた躍動感あふれる動物たちは、その中でも一際異彩を放っています。
本展は4つの展示期間(①10/11(水)~22(日) ➁10/24(火)~11/5(日) ③11/7(火)~19(日) ④11/21(火)~12/3(日))にしたがって展示替えを行いますが、10/11~22にはなんと30年ぶりに四大絵巻が集結。
このほかの期間にも、三大装飾経(久能寺経、平家納経、慈光寺経)や、やまと絵肖像画の大作として知られる神護寺三像(伝頼朝像、伝平重盛像、伝藤原光能像)(いずれもすべて国宝)といった古代・中世の名品が続々登場するなど、注目作品が目白押しです。
本展を担当した東京国立博物館 学芸研究部調査研究課 絵画・彫刻室長の土屋貴裕さんは
「半分以下の作品数でも展覧会が成立するほど多くの作品が集まった展覧会で、2週間ごとの展示替えにより、より多くの作品と出会えると思う。ぜひ何度も会場に足を運んでほしい」
と、来場者に向けて話されていました。
千年を超す歳月の中、脈々と受け継がれ、変化を遂げてきた「やまと絵」の世界。
ぜひ、直接会場に足を運んでご覧ください。
※それぞれの作品の展示期間は公式サイトの「出品目録」からご覧ください。
開催概要
会期 | 2023年10月11日(水)~12月3日(日) ※会期中一部作品の展示替えおよび巻替えあり |
会場 | 東京国立博物館 平成館(上野公園) |
開館時間 | 9時30分~17時00分 ※金曜・土曜は20時まで開館(総合文化展は17時閉館、ただし11月3日(金・祝)より、金曜・土曜は19時閉館) ※最終入場は閉館の60分前まで |
休館日 | 月曜日 ※ただし本展のみ11月27日(月)は開館 |
観覧料(税込) | 一般 2,100円 大学生 1,300円 高校生 900円※土・日・祝日のみ事前予約制(日時指定) ※混雑時は入場をお待ちいただく可能性があります。 ※中学生以下無料。ただし土・日・祝日は事前予約が必要です。入館の際には学生証をご提示ください。 ※障がい者とその介護者1名は無料。土・日・祝日も事前予約は不要。入館の際に障がい者手帳等をご提示ください。 ※本展観覧券で、ご観覧当日に限り総合文化展もご覧いただけます。 (注)詳細は展覧会公式サイトチケット情報のページでご確認ください |
主催 | 東京国立博物館、NHK、NHKプロモーション、読売新聞社 |
お問い合わせ | 050-5541-8600(ハローダイヤル) |
展覧会公式サイト | https://yamatoe2023.jp/ |
※記事の内容は取材時のものです。最新の情報と異なる場合がありますので、詳細は展覧会公式サイト等でご確認ください。また、本記事で取り上げた作品がすでに展示終了している可能性もあります。