【会場レポ】「フィン・ユールとデンマークの椅子」展が東京都美術館で開幕。実際に椅子に座れる特設コーナーも!

東京都美術館
会場風景

「家具の彫刻家」として知られるデンマークのデザイナー、フィン・ユールの作品を中心に、同国の家具デザインの歴史と変遷を紹介する企画展「フィン・ユールとデンマークの椅子」が、東京都美術館で2022年7月23日からスタートしました。

先立って行われた報道内覧会に参加してきましたので、会場の様子をレポートします。

あらゆる日常を支える「椅子」に焦点を当てた展覧会

会場風景

デザイン大国として知られる北欧の国・デンマークでは、「居心地がいい、楽しい時間」を意味するHygge(ヒュッゲ)の価値観がライフスタイルに根付き、家具デザインの面でもシンプルな心地よさが追求されてきました。

とりわけ1940年代から60年代にかけて、デンマークでは歴史に残る優れた家具が多数登場する黄金期を迎えました。フィン・ユール(1912-1989)は、そんな黄金期を代表するデザイナーの一人です。

彼の生み出す家具は身体に心地よくなじむばかりでなく、優美な曲線を特徴としたモダンなデザインと芸術品のごときディテールの美しさが際立っていて、その造形美は「彫刻のよう」と評されています。

会場風景
会場風景

「フィン・ユールとデンマークの椅子」展は、デンマークの椅子をメインとした家具デザインの歴史と変遷をバラエティに富んだ作例とともに辿りながら、巨匠フィン・ユールのデザインの魅力に迫るもの。

展示の最後には、実際にデンマーク・デザインの椅子を体験できる特設コーナーも用意されています。

なお、展示品の多くは、北海道東川町が所蔵する世界的にも名高い「織田コレクション」からの出展です。本展の学術協力者の一人であり、椅子研究者の織田憲嗣氏(東海大学名誉教授)が研究資料として長年にわたり収集してきた20世紀の家具・日用品のコレクションで、東京でまとめて紹介するのは本展が初の機会となるとか。

第1章「デンマークの椅子──そのデザインがはぐくまれた背景」

本展は第1章から第3章までの3章構成となっています。

第1章 展示風景

第1章「デンマークの椅子」は、ヨーロッパを席巻した合理主義・機能主義を掲げたモダニズム運動に、デンマークの若い建築家やデザイナーが触れるきっかけとなった1930年のストックホルム博覧会の紹介からスタートします。

伝統的な家具作りを継承しながら一般市民にデザインを開放するというデンマーク独自のモダニズム運動を主導し、伝統家具を研究・再構築する「リデザイン」の思想や人間工学に基づく方法論を提唱した「デンマークモダン家具デザインの父」と呼ばれるコーア・クリント(1888-1954)。

彼が初代教授をつとめた、デンマークの家具デザインの発展に最も影響したとされるデンマーク王立芸術アカデミー家具科の創設。

家具職人を効率よく育成し、技術の高さをアピールする展示会も頻繁に開催した家具職人組合の存在。

写真やポスター、出版物、映像などさまざまな資料とともに、世界中で愛されるデンマークの名作家具が生み出された背景を丁寧に振り返ります。

第1章 展示風景
第1章 展示風景

ここではコーア・クリントはもちろん、王立芸術アカデミー家具科の2代目教授となったオーレ・ヴァンシャー、一般庶民向けに余分な装飾を排した機能的な家具をデザインしたボーエ・モーエンセン、木材への深い造詣と抜群のクラフトマンシップで次々に名作家具を生んだハンス・J・ウェグナーなど、名デザイナーたちによるさまざまな椅子を一望できます。

ボーエ・モーエンセン《ハンティングチェア》1950年、織田コレクション(東川町)/幻の名作と言われたモーエンセンの代表作。

座・背・足というシンプルな基本構造からなる椅子ですが、なかにはテニスのラケットに張るガットを使用したヘルゲ・ヴェスタゴード・イェンゼンの《ラケット・チェア》や、アイスのコーンのような形をしたヴェルナー・パントンの《コーン・チェア》、折り紙で作られたようなグレーテ・ヤルクの《プライウッドチェア》など、やや奇抜なデザインのものもあって実にバラエティ豊か。

ただ、奇抜であっても華美な印象はなく、デンマーク・デザインに共通する落ち着いた雰囲気をまとっています。

ヘルゲ・ヴェスタゴード・イェンゼン《ラケット・チェア》1955年、織田コレクション(東川町)

同章では、デンマークの家具デザイン黄金期の、驚くほど多様な思考と発想を感じることができるでしょう。

第2章「フィン・ユールの世界」

当時の家具デザイナーたちの多くは、コーア・クリントの門下生か家具工房の出身でした。

一方のフィン・ユールは美術史家を志望しながらも、父の勧めから建築を学ぶために1930年に王立芸術アカデミーに入学。建築事務所で建物の設計やインテリアデザインに携わりながら独学で家具デザインを学び、1937年、25歳のときに家具職人組合の展示会に初出品したという、異端の経歴の持ち主です。

第2章 展示風景

第2章「フィン・ユールの世界」は、そんな建築家、インテリアデザイナー、家具デザイナーであるフィン・ユールによる初期の建築ドローイングからスタートします。

1930年代後半、優れた家具職人ニールス・ヴォッターと組んでユニークなフォルムを探求した頃に生み出した、《イージーチェア No.45》《チーフテンチェア》《ペリカンチェア》など数々の代表作。

1942年にコペンハーゲン北部に建てられ、生涯の仕事場となった自邸(フィン・ユール邸)の設計。

国外で評価されるようになった1950年以降の仕事として、ニューヨークにある国際連合本部で手かげたインテリアデザインや、スウェーデン・スカンジナヴィア航空のオフィスや旅客機の客室デザインまで、フィン・ユールの幅広い活動の全貌を紹介しています。

(右)モーエンス・ヴォルテレン《コペンハーゲンチェア》1936年、織田コレクション(東川町)/ニールス・ヴォッターの製作。本作をきっかけにフィン・ユールはヴォッターと出会ったとされています。
フィン・ユール《イージーチェアNo.45》1945年、織田コレクション(東川町)
フィン・ユール《チーフテンチェア》1949年、織田コレクション(東川町)

「彫刻のよう」と評されるフィン・ユールの作品は、彫刻家ハンス(ジャン)・アルプなどの抽象彫刻のフォルムや内在する美学に大きな影響を受けているそう。

特に初期の作品は彫刻的なアプローチが顕著で、肘に沿う滑らかなアームや、ほっそりとシャープな脚部の流れるような曲線は、アルプの人体をモチーフにした彫刻のような、抽象化された身体を思わせます。

ハンス(ジャン)・アルプ《地中海群像》1941/65年、東京国立近代美術館/フィン・ユールが着想を得た彫刻や版画などの美術作品も展示。

「椅子は単なる日用品ではなく、それ自体がフォルムであり、空間である」というフィン・ユールの言葉のとおり、有機的なフォルムをもつ彼の椅子は、座って心地よいだけでなく、建築や美術、日用品と濃密に響き合いながら空間の調和を生み出す点が大きな魅力となっています。

フィン・ユール邸の家具やインテリア、映像資料

その魅力が顕著に表れているのが、フィン・ユール邸の関連展示。誰からも干渉されることなく自身の構想を具現化できる場所として、建物の設計だけでなく家具や日用品も自らデザインしたというこだわりの邸宅です。

ウィルヘルム・ルンストロームの絵画などの芸術作品も美しく配置され、緑豊かな森の景色と調和する邸宅の空間を紹介する映像資料からは、フィン・ユールのデザインに対する美学の一端を感じられるでしょう。

第3章「デンマーク・デザインを体験する」

第3章 展示風景

フィン・ユールは椅子に対して「そこに座る人がいなければ、椅子はただの物にすぎない。人が座ってはじめて、心地よい日用品となる」と考えていたそう。

そんなフィン・ユールを特集している本展ならではのコーナーとして、第3章「デンマーク・デザインを体験する」では、日常の道具であり、使う人の暮らしを見据えてデザインされている椅子本来の役割に立ち返っています。なんと、30種類以上のデンマークの椅子に実際に座ることができるのです!

第3章 展示風景
第3章 展示風景
第3章 展示風景

フィン・ユールはもちろん、第1章で目にしたデンマークの家具デザイン黄金期を支えたデザイナーたちの椅子がズラリ。社長席のような革張りの重厚な椅子もあれば、戸外制作にぴったりな折り畳みスツールもあります。

椅子に直に触れて、座りやすさや触り心地を確かめたり、座っている人の姿を観察してみたり。デザイナーたちがそれぞれ椅子をめぐる課題にどう向き合い、どう解決したのか。豊かな発想を体で味わうことができます。

第3章 展示風景
第3章 展示風景

ここで紹介されている椅子と照明器具は、現在もデンマークの製造会社によって製作され続けているものばかりです。

「世界で最も幸福な国」として知られるデンマーク。
価値観やライフスタイルが絶えず変化する世界において、シンプルなデザインと機能性、そしてどのような空間にもなじむ普遍的な親しみやすさをもつデンマーク・デザインが世界中に根付いているという事実は、私たちが快適に生きるためのヒントになるのかもしれません。


あらゆる日常を支える椅子という身近な家具にあらためて光を当てる「フィン・ユールとデンマークの椅子」展の開催は、2022年10月9日まで。

ちなみに本展の開催に関しては、2012年の東京都美術館リニューアルのおり、中央棟の1階「佐藤慶太郎記念 アートラウンジ」にフィン・ユールをはじめとするデンマークの椅子やテーブルを設置し、休憩コーナーを新設したことがきっかけといいます。

佐藤慶太郎記念 アートラウンジ ©東京都美術館

来館者がゆったりとした時間を過ごせる居心地のよいスペースにするため設置したそうですが、東京都美術館の建築と北欧家具の親和性の高さもさることながら、空間の印象を一変させる家具の力にも驚かされたとか。

本展に足を運んだら、ぜひ「佐藤慶太郎記念 アートラウンジ」も覗いてみてください。

企画展「フィン・ユールとデンマークの椅子」概要

会期 2022年7月23日(土)~10月9日(日)
会場 東京都美術館 ギャラリーA・B・C
開館時間 9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)※金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
休館日 月曜日、9月20日(火)
※ただし、8月22日(月)、29日(月)、9月12日(月)、19日(月・祝)、26日(月)は開室
観覧料 一般 1,100円 / 大学生・専門学校生 700円 / 65歳以上 800円

※高校生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※そのほか、詳細は展覧会公式サイトをご確認ください。

主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館
展覧会公式サイト https://www.tobikan.jp/finnjuhl

※記事の内容は取材日(2022/7/22)時点のものです。最新の情報は公式サイト等でご確認ください。

 

記事提供:ココシル上野


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西洋美術の巨匠たちが紡ぐ、自然と人の物語。
【国立西洋美術館】「自然と人のダイアローグ」内覧会レポート (~9/11)

国立西洋美術館
左からクロード・モネ《舟遊び》(1887)、ゲルハルト・リヒター《雲》(1970)

約1年半の休館を経て本年に4月に再開館を果たした国立西洋美術館。

リニューアルオープン記念となる本展覧会は、開館100周年を迎えるドイツ・フォルクヴァング美術館との共同企画となる。

両館が誇る100点以上の名品を通じ、自然と人の対話から生まれた芸術の展開を辿るという試みだ。

今回は、開催前日に行われた報道内覧会の様子をお伝えする。

会場入口。移ろいゆく自然を表現したという色彩のグラデーションが美しい

本展「 国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホ、リヒターまで 」はドイツ・フォルクヴァング美術館の協力を得て開催される。

フォルクヴァング美術館はドイツ・ハーゲンの銀行員の家に生まれたカール・エルンスト・オストハウス(1874-1921)が19世紀から収集した美術品を核としているが、一方国立西洋美術館もまた松方幸次郎(1866-1950)が欧州で集めた西洋美術を基にした美術館である。

つまり、両館はほぼ同時代を生きた個人のコレクションを基にしているという点で共通している。
オストハウスは炭鉱地帯で知られる地元のルール地方の人々にコレクションを開放し、また松方幸次郎も「共楽美術館」を構想して庶民に西洋文化を楽しむ機会を提供した。

ふたりの実業家が抱いた志は長い時を経て、本展覧会において邂逅した、とも言えるだろう。

自然と人とが、対話によって響き合う

展示会場風景
手前はギュスターヴ・ドレ《松の木々》(1850)
ピエール=オーギュスト・ルノワール《オリーブの園》(左)《風景の中の三人》(右)。展示スペースに配された文章(右上)が趣を添える
右はカール・グスタフ・カールス《高き山々(カスパー・ダーヴィト・フリードリヒにもとづく模写》(1824頃)
中央はジャン=バティスト・カミーユ・コロー《ナポリの浜の思い出》(1870-1872)

本展のテーマは「自然と人」である。
2つの美術館のコレクションという枠で切り出したさまざまな風景や自然のモチーフが、全4章という構成の中で互いに響き合う。ゴッホ、シニャック、クールベ・・・それらの作品の描き手は紛れもない西洋美術たちの「巨匠」たちである。

展示内容について、本展の担当研究員・陳岡めぐみ氏(国立西洋美術館 主任研究員)は、「本展は年代順ではなく、自然というものに繰り返しバリエーションを加えていくような構成とした」と語る。

例えば第1章「空を流れる時間」では絶えず移ろいゆく自然の諸相を示し、第2章「〈彼方〉への旅」では作家自身の五感と結びついた目に見えぬ心象風景を展観。続く第3章「光の建築」では秩序や法則など自然における永続的な要素を抽出し、最終章「天と地のあいだ、循環する時間」では自然の永続的なサイクルと人間の生命をリンクさせたような作品を見出すことができる。

「空」の表現から始まる自然への眼差しは、会場で歩みを進めることで私たち自身の精神の深層へと降り立ち、やがて光や宇宙の表現へと縦横無尽に変化していく。それはまるで、自然そのものをめぐる壮大な旅路のようだ。

100点を超える作品で
ヨーロッパにおける自然表現を紹介

フィンセント・ファン・ゴッホ《刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑)》(1889)

本展では、ドイツ・ロマン主義から印象派、ポスト印象派、20世紀絵画まで、100点を超える作品によりヨーロッパの自然表現を紹介している。
ゴッホをはじめ、マネ、モネ、セザンヌ、ゴーガン、シニャック、ノルデ、ホドラー、エルンストなど、西洋絵画の巨匠たちの競演による多彩な自然をめぐる表現を堪能できるほか、両館それぞれが所蔵する同じ画家の作品を見比べることができるのもポイントだ。

そうした作品群の中でも白眉と言えるのが、フィンセント・ファン・ゴッホが晩年に取り組んだ風景画《刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑)》だ。晩年、精神を病んで療養中だったゴッホが「自然という偉大な書物の語る死のイメージ」を描出したという代表的な風景画の一作で、今回が初来日となる。

展示風景より、左からギュスターヴ・クールベ《波》(1870)と《波》(1870頃)

第二章で展示されるギュスターヴ・クールベの《波》もまた、単なる客観的事象を越えた、峻厳な自然の実相を私たちに示してくれる。
フランスの山岳地帯に育ったクールベにとって、長いあいだ未知の世界であった海。彼は1860年代後半から、この雄大なモチーフに本格的に取り組むようになったという。黒い青緑色をした海と灰色がかった茜色の空という色彩対比、さらに絵筆とペインティングナイフによる質感の描き分け・・・簡潔な構図でありながら作家のすぐれた技量がうかがえる作品だ。

展示風景より、左からクロード・モネ《睡蓮、柳の反映》《睡蓮》(いずれも1916)

最終章において圧倒的な存在感を放つのが、クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》《睡蓮》、さらにドイツの女性写真家エンネ・ビアマンが一輪の睡蓮を撮影した写真が同時展示された空間である。

近年フランスで発見され、修復作業を経て2019年に初公開されたモネの《睡蓮、柳の反映》(1916)と有名な《睡蓮》が同空間で響き合い、私たちの心に不思議な感慨を呼び起こす。ここに示された自然の数々は非常に近接した、ミクロの視点によるものであり、壮大な「空」の展示から始まったこの旅路が終盤に差し掛かったことを感じさせる。

陳岡氏が「作品が出発点となった」と語る本展は、あくまで個々の作品が主役であるには違いないが、壁面には同時代を生きた詩人や芸術家たちの言葉が散りばめられ、さらに展示空間の各所にも冒険的な仕掛けを施したという。
展覧会のオープニングに際して陳岡氏は

「作品それぞれが対話をし合うような構成を心がけました。作品、テキスト、空間。全体の響き合いの中で展覧会を味わっていただければと思います」

と、本展の見どころについて総括した。
ぜひ、会場に足を運んで自然と人の響き合いを肌で感じていただければと思う。

 

開催概要

会期 2022年6月4日(土)~9月11日(日)
会場 国立西洋美術館
開館時間 9:30〜17:30
毎週金・土曜日は9:30〜20:00
※入館は閉館の30分前まで
休館日 月曜日、7月19日(火) (ただし、7月18日(月・祝)、8月15日(月)は開館)
観覧料 一般2,000円、大学生1,200円、高校生800円
混雑緩和のため、本展覧会は日時指定を導入いたします。
チケットの詳細・購入方法は、 展覧会公式サイトのチケット情報をご確認ください。
※中学生以下は無料。
※心身に障害のある方および付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)。
展覧会公式サイト https://nature2022.jp/

 

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