2019年6月11日(火)から9月23日(月・祝)まで、東京上野の国立西洋美術館で、
「国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展」
が開催されています。
本展の報道内覧会が開催されましたので、今回は、そのレポートをお届けします。
松方コレクションとは?
国立西洋美術館のコレクションの礎(いしずえ)を築いた実業家、松方幸次郎(1866-1950)。
神戸の川崎造船所(現・川崎重工業株式会社)を率いた松方は、第一次世界大戦による船舶需要を背景に事業を拡大しながら、1916-1927年頃のロンドンやパリで大量の美術品を買い求めていました。当時の収集品はモネやゴーガン、ゴッホの絵画、ロダンの彫刻などの近代作品、中世の板絵やタペストリーまで約3000点。
「日本人のために美術館を作りたい」
そんな思いから収集された作品群が、松方コレクションです。
本展覧会は、松方コレクションの形成と散逸、国立西洋美術館が設立されるにいたる過程を、貴重な美術作品約160点や歴史資料でたどります。プロローグ~エピローグまでの全10章からなる道のりは、コレクションの収集に人生を賭けた松方の思いを私たちに伝えてくれることでしょう。
松方コレクションの見どころ
今回の展覧会の見どころは、大きく分けて3つあります。
1つ目は、フィンセント・ファン・ゴッホ『アルルの寝室』(1889年)をはじめ、世界各地に散逸した松方旧蔵の名作が集結して展示されていること。
2つ目は、松方がモネのアトリエで直接購入し、長い間行方知らずとなっていた大作、『睡蓮、柳の反映』(1916年)が修復後、初公開されること。
3つ目は、松方コレクションがロダン美術館の旧礼拝堂に保管されていた時代に、フランス人カメラマン、ピエール・シュモフにより撮影された365枚のガラス乾板の内の16点が歴史資料として初公開されることです。
『睡蓮、柳の反映』作品修復の苦労と今後の展望
3つの見どころの中で特に目を惹く作品は、クロード・モネの『睡蓮、柳の反映』。
睡蓮の池の水面に柳の木が逆さまに映り込んでいる様子を、日本の屏風絵を連想させる装飾的な手法を使い表現した大変スケールの大きな作品です。修復前の状態が、これほど破損していた作品は珍しいとのこと。
国立西洋美術館研究員の邊牟木尚美氏は、「第二次世界大戦中、ナチスの捜索を逃れて、作品を農家に避難させていた際、上下逆さまに置いて保存していたのが原因では?」と推測されていました。
本作の場合、本来は3年から4年掛けて修復するところ、修復期間が1年と短いため、最低限の復元をするに留めたとのこと。大変大きな作品のため重量があり、作品を裏返すだけでも7人ほどの大人数が必要で一苦労だったそうです。
また、邊牟木氏は結びに「今後は、他のモネの睡蓮シリーズの比較検討をしながら、長期的にモネ作品の修復に努めていきたい」ともおっしゃっていました。
展示作品紹介
フィンセント・ファン・ゴッホ <ばら>
1889 年 油彩、カンヴァス 33×41.3㎝ 国立西洋美術館、東京
精神を病んだゴッホが、サン=レミ精神療養院で入院中に、近くに咲くばらを描いた作品。生命力ある活き活きとしたばらが、激しい筆使いで描かれています。
ばらの質感だけでなく、香りまでもが感じられるようです。
カミーユ・ピサロ <収穫>
1882年 膠テンペラ、カンヴァス 70.3×126㎝ 国立西洋美術館、東京(松方幸次郎氏御遺族より寄贈)
この作品は、膠(にかわ)テンペラという材料に挑戦し、従来の風景画家から人物画家へと移行した、ピサロの節目となった作品。今まで添景としてしか描かれていなかった人間が、前面に描かれるようになります。向こうの家まで見える、広々とした田園風景に心が奪われます。
風によって流れる麦の質感と作業をする人々の息遣いが聞こえてきそうです。
エドヴァルド・ムンク <雪の中の労働者たち>
1910年 油彩、カンヴァス 223.5×162㎝ 個人蔵、東京(国立西洋美術館に寄託)
晩年のムンクが描いた人物画です。雪深い過酷な状況で作業している労働者たち。前面には、スコップを肩に担いだり、雪に突き刺したりして、誇り高い表情でこちらを向く3人の男。その後ろには、黙々と作業する人々が生き生きと描かれています。
それぞれの姿に暗さはなく、むしろ、明るさすら感じられます。
シャルル=フランソワ・ドービニー <ヴィレールヴィルの海岸、日没>
1870年 油彩、カンヴァス 100×197㎝ 株式会社三井住友銀行、東京
バルビゾン派の風景画家ドービニーの晩年の作品。
大きな海に静かに流れる波の音と夕焼けの空。その風景と浜辺を歩く人々の姿が、印象的です。人々は小さくしか見えませんが、どんな表情をしているんだろう?仕事を終えて明るい顔をしているんだろうか?
想像力を掻き立てられます。
関東大震災や昭和金融恐慌によって散逸し、数奇な運命をたどってきた松方コレクション。
本展の展示作品のキャプションには、その作品がいつ、どこで購入されたのかが綿密に記されており、その流転の歴史を知ることができるように工夫されています。
数十年の歳月を経て結実した、「日本のための美術館を作りたい」という松方幸次郎の夢。
ぜひ会場に足を運んで、その想いの一端に触れてみてはいかがでしょうか?
開催概要
展覧会名 |
国立西洋美術館開館60周年記念「松方コレクション展」 |
会 期 |
2019年6月11日(火)〜9月23日(月・祝)
9:30~17:30(入館は閉館の30分前まで)
(ただし、会期中の金曜・土曜は21:00まで開館) |
休館日 |
毎週月曜日、および7月16日(火)は休館。
※7月15日(月・祝)、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開館。 |
会場 |
国立西洋美術館(上野公園) |
観覧料 |
一般1600円(1400円)、大学生1200円(1000円)、高校生800円(600円)
※中学生以下無料
※( )は、20名以上の団体料金
※障がい者とその介護者1名は無料。入館の際に障がい者手帳などを要提示。 |
公式サイト |
https://artexhibition.jp/matsukata2019/ |
記事提供:ココシル上野
その他のレポートを見る